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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -13話-[再振り分け]

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「当初の予定と変更して、
 マリエルとニル、そしてセリア先生に[風珠]を作ってもらいます」
水無月みなづき君からマリエルに変更するのですわね。
 貴方はどうするのですか?』

 メルケルス討伐の為に仲間の前で変更点を伝えていた。
 最後の変更点として伝えたのは、役割変更の件だった。

「瘴気の浄化とレイスの殲滅に集中します。
 メリオの光魔法も積極的に使いますが、メインは瘴気の浄化と魔神族の相手を俺達が行う予定です」
「お兄さん、フリューネ様は連れて行ってくださいよ?」
「空の瘴気モンスターは全員俺達に吸い寄せられるだろうからな。
 流石に連れて行くけど・・・」

 ブルー・ドラゴンフリューネの取り扱いに頭を悩ます。
 アルシェの言う通り戦力として連れて行くとして、
 マリエルとセリア先生の護衛にどう配置すべきだろう。

 おそらく俺と勇者の二人でナユタの相手をしつつ、
 時々メルケルスの妨害をすることになる。
 マリエル達とセリア先生は渦の両端に陣取って貰い、
 風珠かざだまで上がってきた瘴気を吸い込んで集まった所を浄化するのだ。

 次の流れは魔神族が風珠かざだまの意味に気付いて二人の妨害に入る。
 それを俺と勇者が防衛する。
 その間はずっと瘴気モンスターも相手取ることとなるからフリューネの重要性は半端ない。

「あの範囲だと数㎞は離れてるんだよなぁ」

 遠目にも映る瘴気の渦は城下町の瘴気を全て吸い上げるつもりなのか、
 かなりの広範囲の渦を形成している。
 渦が小さければ城下町の瘴気を一部吸い込んで竜巻へと昇華するだろう事は予想出来る。

 ここまで想像出来れば、
 おそらく渦の上まで昇がってしまえば広範囲に瘴気を捲き散らすつもりだろう。
 そうなると知らぬ所で瘴気が成長し、
 人間領の各地に瘴気モンスターが発生して混乱が広がる。
 さらに対応が遅れれば分布も急速に成長するだろうし。

 あ~、面倒くさい。

フロスト・ドラゴンエルレイニアを飛ばすことって出来ないかな?」
「飛ぶには龍玉りゅうぎょくが必要なのではありませんか?」

 つまりはブルー・ドラゴンに進化する必要があるという事だ。
 フロスト・ドラゴンに龍玉りゅうぎょくを与えるとブルー・ドラゴンへと進化する。
 フリューネがエルに渡したとしても、
 戦力に変化が無いのでは意味が無い。

「アクアの竜玉りゅうぎょくの飲み込ませてみるか?」
「試したこともありませんし、何よりお兄さんの戦力が落ちてしまいますよ?」
『アクアは嫌だなぁ~』

 現在、魔神族に有効な高濃度一閃を使用するには[お魚さんソード]が必要になる。
 しかし、それはアクアのオプションである竜玉りゅうぎょくを変化させた装備の為、
 エルに渡してしまうと龍の魔石を使った一閃が使用不可能になってしまう。

 ってか、そもそも竜玉りゅうぎょく龍玉りゅうぎょくと同じ効果が望めるのかという問題もある。

「ねぇ、隊長。
 近接なら私たちの十八番だしさ、護衛は付けなくても良いんじゃない?」
「心配は心配ですが今回はマリエルに賛成です。
 人手が足りないのは今に始まったことではありませんし、
 近接戦闘の苦手なセリア先生に群がられては作戦が立ち行きません」『申し訳ないのですが、
 あの数を相手に私だけでは最終的に押し切られかねませんわね』

 悩める俺にマリエルの進言が刺さる。
 続くアルシェとセリア先生の援護射撃もあり、
 俺も覚悟を決めた。

「俺も極力お前を守るが、無理はせずに回避に専念してもいいからな」
「はい、わかりました」

 瘴気は空気と違って重いし閉じ込めるのは今回が初めての試みとなる。
 風珠かざだまでどこまで吸収出来るのか。
 内部に押さえ込むにはどれほどの制御力を要求されるのか。

 なでなで。

「隊長。あまり無遠慮に女の子の頭を撫でない方がいいですよ?」
「身内と年下の懐いてる奴だけにしかしてないよ」

 勇者とフリューネと力を合わせて臨機応変に、
 瘴気モンスターと魔神族から二人を守りつつ浄化を進めないといけない。

「セリア先生、アレはまだ来ていませんか?」
『ですわね。注意は参加国に回しておりますわ』
「お兄さん、セリア先生。アレって何の話ですか?」

 俺がアルシェの天幕に入室した時には、
 マリエルは既にセリア先生から回収されておりベッドにて安らかな寝息をしていた。
 その際にセリア先生から1つの報告を受けていた。

 マリエルと戦場を遠目に見つめる白い生き物の集団がいたらしい。

「聖獣ですか?」
「陸の聖獣[ヤマノサチ]。
 生態は妖精に近く、人の姿を取ることも出来るが分類上は魔物。
 特にヤバいのは魔物の頂点に君臨する一族である為、
 戦闘能力は個々でもSランク冒険者のクランでも壊滅させられる強さ。
 そして、妖精との一番の違いは頭が悪いということだ」
『テリトリーから出て来てまで様子を見ておりましたわ。
 興味は持っている様子ですけれど、
 もし乱入されるようなことがあれば人間の方が被害は大きくなりますわね』

 当初はヤマノサチのテリトリーからはかなり離れているので乱入はないと考えていた。
 しかし、魔物も被害を受ける瘴気の影響に敏感になっていたらしく、
 決定打としてマリエルがテリトリー近くに飛来するというイベントを切っ掛けに、
 テリトリーから出て来てまで様子を伺っているのだ。

 今はフォレストトーレを囲む形で3国を配置している。
 つまりヤマノサチが襲来すれば背後から襲われ、
 人間側は右往左往するわ、混乱に乗じて瘴気モンスターも勢いづく事となる。

「対策は・・・取れないですよね・・・」
『流石にヤマノサチを相手に出来る戦力が余っているわけではありませんわ。
 本当に来ない事を祈る他ありませんわね』

 テリトリーの位置はアスペラルダとユレイアルド神聖教国の間付近にある。
 寄ってきた場合はどちらかの国に被害が出る計算になるので、
 出来ればアナザー・ワンがいるユレイアルド神聖教国へ向かって欲しいと願わずには居られない。

「一応アスペラルダに現れた場合は道を開けて誘導して瘴気モンスターと当てる予定だ。
 ってか、見境無く暴れるからそれしか方法が無い」
「無計画に等しいですね。
 でも、それしか方法がないというのは理解しました。
 ともかく、私たちは私たちの仕事に集中しましょう」
「あぁ」
「はい!」
『その意気ですわ』

 空のメンバーの動きは決まった。
 次は地上のメンバーの動きに話は移行する。

「アルシェとアクア、メリーとクーはそれぞれが別PTとして行動しよう。
 大物以外であれば何とでもなるだろう?」
「討伐数で言えばメリーが一番だと思いますよ。
 ですが、別PTとは?」

 ユニゾンが出来るのは今の所3人のみで、
 特にアクアとクーはニルよりも加階かかいが進んでいて出力も桁違いだ。
 重火力のアクア組とオールラウンダーのクー組。

「ユニゾンの扱いはこの戦場で把握しただろう?
 はっきり言って、七精の門エレメンツゲートのメンバーを固めていても過剰戦力で無駄が多い」
「だから別働隊として動け、と・・・?
 選出はいかがしますか?」
「本当ならメリー専用の部隊を付けたかったけど調整が間に合わなかったからな。
 アルシェはフランザ、モエア、ディテウスを剣士としてPTを組もう。
 最後にPT外にフロスト・ドラゴンエルレイニアも連れて行け」
「ディテウスですか?少し不安がありますが・・・」

 まぁ、なんでも出来るから剣士としてもそれなりに使える。
 しかし、それなりはそれなりだ。
 ここでセーバーの名を挙げていればアルシェも納得していたことだろう。
 そういう不安を絡んでいるという話だ。

「ディテウスの配置については、あいつを育てる意味合いもある。
 若くて経験不足で器用貧乏な奴だからこそ、
 アルシェとアクアのサポートを受けてキツイ位置で頑張ってもらいたい」
「そういう事なら。
 大物が出た際は退かせて高火力で叩きますよ?
 ディテウスが抜かれると後方の私たちに被害が出ますし」

 アルシェの方がディテウスよりも若いんだけどな。
 でも、修羅場の差が如実に出ている。
 前衛に関しては訓練でもそこまで絡むことがなく、
 逆に魔法使いや弓使いのメンバーとは仲良くしている事も起因して、
 アルシェの中ではディテウスの評価は低いらしい。

「それでいいよ。
 次にメリーとクーのPTメンバーは、
 ゼノウ、ライナー、ノルキアで組もう」
「ゼノウ以外は高機動とは言いがたいですが、
 チームワーク重視という訳ですね・・・、わかりました。
 残るメンバーのセーバー、ポシェント、リッカ、トワイン、アネスはどのような運用を?」
「今のうちに寝ておいてもらおう。
 もう昼も過ぎて夜の事も考えなきゃならん。
 マリエルのユニゾンが扱える時間も残り20時間くらい、か?」
「いえ、隊長。19時間になりました」

 そう、2日目の昼を過ぎているのだ。
 そろそろ夜の事を考え始めないといけないのに、
 魔神族がおもいっきり動いている以上無視は出来ない。

 マリエルが戦力としていつも以上に期待出来るのは残り19時間。
 朝の10時くらいまでしかこの強さで運用出来ないなら、
 こちらとしても急がざるを得ない。
 出来れば魔神族の2人は退かせたい。

 奴らが居なくなれば隷霊れいれいのマグニ、
 そして最後に出てくるであろう[ハルカナムの守護者しゅごしゃ]。
 それらの対処に落ち着いて当たれる、はず・・・。

 あぁ、今日も徹夜か・・・。

「瘴気モンスターのほとんどは近い生き物を目指す。
 つまり俺達が囮となって障害は少なくなるこのタイミングで夜になる前に壁まで極力寄ってくれ」
「わかりました。他2国にも伝えておきます」

 これで地上はアルシェとメリー、
 それにギルマス達が上手く回してくれるだろう。
 俺は視線をアルシェから外して、
 俺に群がっている娘達に向ける。

「お前達も頑張ってくれよ」

 クーとフラムとベルの3人は居ないけれど、
 アクア、ノイ、ニル、アニマの4人を順繰り撫でて声を掛ける。

『あい!ますたーも気をつけてね~』
『マスターはボクが守るです!』
『ニルなりに頑張りますわー!』
『もう落ちてはダメですからね』

 さぁ、何度目の仕切り直しかな。
 次は魔神族が相手だとわかっての出陣だし、気合いを入れないとな。


 * * * * *
「というわけで、3PTに分かれて睡眠を回すことになりました」
「俺達が睡眠を取るよりもアルカンシェ様が取られるべきじゃないんですかね?」

 私がお兄さんの指示を伝えると、
 セーバーが代表して疑問点を伝えてきた。

「仮眠は取っていますし、
 何よりここからの戦闘が山場の一つであることに変わりありません。
 状況がどう変わるかにもよりますが、
 一旦はお兄さんの指示で行きましょう。
 正直言うと魔神族相手に正しい行動というものがわかりませんから・・・。
 それに夜までに壁へと寄せたいのです。
 遊撃としての機動力が必要になります」
「そこまでの話だと納得せざるを得ませんね」
「心配してくれてありがとう、セーバー」

 真なる加護も持ち、契約精霊もいるセーバーは、
 私たちの[ユニゾン]を用いた戦闘力と自分の差を最も理解している存在だ。
 だからこそ、力不足を懸念しての進言であることは理解している。
 でも、こちらも全体を前へ進める為の遊撃という役割が含まれる為、
 どうしてもセーバー達では不足していた。

「了解しました。
 交代の予定時間は決めていますか?
 それに移動時間を考えるとほとんど寝られないのでは?」
「天幕に戻らなければ睡眠時間を確保することは可能です」
「お疲れ様。メリー、クーちゃん」
『く~♪』

 セーバーの疑問は当然でした。
 前線の押し上げと同時に天幕も少しずつ前に進んでいましたが、
 人に比べればその移動は遅々としたもの。
 すでに数キロの距離が産まれて移動も時間が掛かるのに寝る時間はあるのか、と。

 その答えを持っているメリーとクーちゃんが合流したのは絶妙なタイミングだった。

『クーの影の中で寝れば問題ありません。
 たっぷり寝る時間を確保することも可能ですよ』
『それは何故だ?』
「ポシェントも戻りましたね。これで全員合流出来ました」

 七精の門エレメンツゲートメンバーのほとんどは合流済みでしたが、
 メリー達とポシェントだけは少し遅れての合流となっていた。
 そのポシェントは話を途中から聞いていたらしく、
 寝る時間の確保について確認をしてきた。

『クーの影の中は時間の流れを操作する事が出来ます。
 食べ物を入れる場合はゆっくりと、今回のように時間を確保したい場合は早くすればいいのです』
『それは凄いな』
「どのくらいの効率なんだ?」
『1時間で15分稼げます。
 暗くなるまで5時間程度と考えれば6時間は寝られます。
 お父様は1時間で24時間の効率まで極めたいそうですが・・・』

 お兄さんの言う効率が実現すれば、
 戦闘訓練や制御力訓練の時間の確保だけではなく、
 今回のような総力戦の際にほぼ全員で戦うことが可能になりますからね。

「今でも十分凄いと思うけどな・・・。
 じゃあ時間もありませんし我々は睡眠へと移ります」
「影の中に非常食と寝袋を用意しておりますので、そちらをご利用ください」
「影にはセーバー、ポシェント、リッカ、トワイン、アネスの5名が入ってください。
 その後の休憩は状況次第で私たちが休むことになります」
「『了解!』」

 指名した5人がクーちゃんの広げた影へと入っていく姿を見送り、
 改めて私とメリーにPTを分けた。

「大丈夫ですか、姫様?」
「仮眠は取っているもの、大丈夫よメリー。
 支援はクーちゃんの十八番だし、基本の遊撃はメリーのPTに任せるわね」
「わかりました。
 アルシェ様も前進はされる際はお気を付けください」

 私よりもお姉さんのメリーが膝を折って目線を下げてきた。
 流石にメリーに取っては不慣れな戦闘がずっと続いているからか、
 いつもの見慣れている顔も疲れが見える。

「あっ・・・姫様?」

 疲れていながらも、慣れない戦場を駆けながらも。
 尚も私を心配してくれる大事な従者の頭を私は抱きしめた。

「クーちゃんと一緒だとしても本格的な戦闘は2回目だものね。
 ごめんね、メリー。
 でも、今はメリーも立派な役割を任せられるくらい強くてお兄さんも信頼して命令をくださっている事、わかってね」
「もちろん。姫様からもご主人様からも光栄な信頼をいただけて、
 クーデルカ様の協力の下で役割も果たせて、私は幸せ者です」

 謝る私とは別に、
 疲れていてもその瞳は言葉と同じく輝きに満ちているのがわかる。
 あぁ、本当に嬉しいんだなって。
 ごめんないは違うんだなって、理解した。

 だから改めて私は言葉を重ねた。

「ありがとう、メリー。ありがとうね」

 本職はメイドなのに。
 アナザー・ワンのような訓練を受けていないのに。
 それでもずっと私たちの行動に着いてきて、
 いつも私たちに力を尽くしてきてくれたメリー。

 お兄さんやクーちゃんとの訓練がやっと実を結んで、
 今、また戦場に駆り出されてしまう。
 ずっと私は怖いよ。
 メリーが死んじゃうんじゃないかって。
 物心付いた頃から側にいたメリーが居なくなっちゃうんじゃないかって。

 メリーはいつもこんな気持ちを抱いていたのかな?
 聞きたいけど、聞けないね。
 がんばろうね。メリー。


 * * * * *
「先ほど振りです、水無月さん」
「応、さっきは悪かったな。
 せっかく魔力回復出来る状態になったってのに」

 勇者メリオと俺が分かれて行動を始めて、
 俺は魔神族を追って城下町へ降りたのだがメリオはクー達と合流して魔力配給魔法[魔力接続ビータイリンク]を掛けてもらいに地上に降りていた。
 しかし、実際はレイスの群れを前に俺は手出しが出来ずにそのまま帰還。

 メリオにも連絡をいれて再び合流の手筈となって、今、約束の合流を果たした。

「いえ、事情を聞いて納得しましたので。
 俺もいざ目の前にすれば躊躇して時間を無駄にしていたと思います。
 こっちからすれば良い判断を素早く出来て凄いなって・・・」
「撤退は褒めて貰えると助かるが、
 今回は運良く?ラフィート王子殿下が戦場へ来られていたから再攻勢の判断も早かったんだ。
 ユレイアルド神聖教国も同じ動きになるんだよな?」
「はい、夜までに全力で壁に近寄る予定です。
 土の国も同じく対応予定ですが、
 拳聖けんせいだけではなかなか進めない可能性があります」

 戦力不足はアスペラルダもアーグエングリンもどっこいだろう。
 あっちは地道に前進が出来る安定感があるから夜も光精が明かりさえ確保すればちゃんと進んでくれる。

 どちらかと言えば俺達空組の方が失敗すれば、
 確実にこの戦争は負ける可能性が極めて高くなる。

「アーグエングリンは大丈夫だろう。
 改めて作戦と人選の紹介をするが、
 マリエルとニル、風精セリア先生が舞い上がる瘴気をかき集めてくれる。
 それを俺達はレイスの処理をしながら浄化する必要がある」
「集める魔法ってどういうものなんですか?」
『直径2mほどの風の檻を創りまして、
 正確には瘴気も含む周囲の空気を吸い込んで圧縮するのですわ』

 メリオの質問には最適な人選、セリア先生が嬉々として答えた。
 マリエル達もすでに[ユニゾン]をしており、
 どんなものかを見せる為にズグンッ!と両手と腰のリボンに空気を吸い込んで見せる。

「あ、それ魔神族と戦ってる時にやってたね。
 そういう原理のブーストだったんだね」
「これは狭い範囲の空気を一瞬で吸い込んでいますけど、
 使用する[風珠かざだま]は広範囲を継続して吸い込みます。
 あまり近寄り過ぎると体勢を崩す可能性がある威力ですから気をつけてくださいね」
「わ、わかった・・・」
『圧縮には限界がありますから、
 浄化を行う度に魔法をかけ直す必要がありますわ。
 適度に風珠かざだまへ浄化攻撃を行ってくださいな』

 俺は開発の段階でどういうものかを知っているけど、
 初耳のメリオはちょっと不安なのか返事と共に唾も飲み込んでいる。

「マリエルとニルは自衛の戦闘も行う予定だが、
 セリア先生は近接に弱い為フリューネが護衛に付くことになっている。
 もちろん、第一の護衛の役割は俺とメリオにあるからな」
『よろしくね~』
「了解です!よろしくおねがいします!
 それにしてもそちらの龍って偉い方なんですよね?
 凄い水無月みなづきさんに懐いているように見えるんですけど・・・」

 ゴロゴロゴロと喉を鳴らしながら、
 俺に頭をすり寄せる小さくなったフリューネを見ればそりゃそう思うだろうな。
 ってか、お前はいつまで小さくなってんだ。
 早く大きくなってメリオを別の意味でビビらせてやってくれよ。

「偉いけど魔法生物だからオベリスクを使う魔神族は天敵なんだ。
 守ってやる事を条件に協力者になってるだけだから懐いているとは違うと思う」
『僕は宗八そうはち好きだよぉ~』
「お前は黙っててくれ、ややこしくなる」
『え~、久しぶりなのに酷いよぉ~』

 尚もぐりぐりと胸元に頭を擦りつけるフリューネの堅い頭をため息交じりに撫でると、
 ゴロゴロ音も大きくなった。
 もうコイツ、デカイ猫だろ。

「メリオ、というよりはエクスには常にフィールド魔法を使いっぱなしにしてもらいたい」
「エクスからは瘴気に効果的だから効率良くしましょうと相談されていましたから、
 以前よりも範囲も広くなっています。
 問題はありません!」
「無理はしない程度でいいから極力広く持続させて欲しい。
 もちろん制御力を回せなくなるほど危なければ切ってくれて良いからな。
 誰が落ちても厳しいことには変わりないんだ」
「わかりました」

 もう、目的のポイントに近付いてきている。
 レイスの群れを見てマリエルもセリア先生も絶望的な光景に息を飲む。
 合計30万近いレイス系列の瘴気モンスターが黒紫こくしのオーラと赤い目でこちらに手を伸ばして蠢いているのを見れば。
 まぁ、誰でも絶句する。

『死んだ後でも弄ばれるのは哀れだね』
「だから俺達が相手をするんだよ。
 フリューネは空を飛んでくる奴を相手にしてくれ」
『同族で殺し合うの?』
「同族だから殺さなきゃならんのよ」
『人間は複雑だね』

 先ほどまでとは打って変わった様子なのはフリューネも同じだった。
 別に人間を上下で見ている訳でもなく元より興味を抱くような感慨もない。
 存在の差がそれだけある龍の長が、
 瘴気に囚われ瘴気モンスターへと変貌を遂げた人間を見下ろして哀れんでいた。

「じゃあ、隊長。勇者様、よろしくおねがいしますね」
『私達はそれぞれの持ち場へと移動致しますわ』
「無理をしないように!」
「お気を付けて!」
「はい!」
『わかっていますわ!』

 マリエルとニル、セリア先生の3人は所定の位置へと出発した。
 高度的には地上15m~20mといったラインが3人の仕事場となる。
 俺達はレイスのいる高度の8m~10m付近で戦う予定だ。

「セリア先生を頼んだぞ、フリューネ」
『そっちこそ、魔神族の相手をしっかり熟してよねぇ~』

 最後にひと撫でしたフリューネは、
 俺から離れると光を纏ってセリア先生の後を追って羽ばたく。
 頭から光が尻尾へと剥がれていけば、
 その下から出てくるのは本来のブルー・ドラゴンフリューアネイシアの姿だ。

 フリューネを見送ると自然と俺とメリオは視線を絡ませた。
 ここからはまた共闘をしなきゃならん。
 互いにフォローは難しいだろうが、
 とりあえず互いの邪魔にならないように頑張ろうや!

「さあ!俺達も始めるとしようか、ノイ」
『油断せずに行くですよ!』
「俺達も負けていられないなっ!エクス!」
『魔力は十全です。減れば回復するので全力で対処に当たりましょう!』

 俺達はそれぞれの相棒へと声を掛ける。
 相棒もそれぞれに気合いを入れた声を返す。

 瘴気の浄化とレイスの討伐ならびに魂の解放。
 これがメインの目的となるが、
 俺達はそれとは別に事を成す心積もりで居た。

 目標は、ナユタを殺す事だ。
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