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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -10話-[紅の終わり、変わる戦況]

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『魔神族をギリギリまで引きつけますよっ!メリオ!』

「りょ、了解っ!!」

 と、エクスに答えたは良いものの。
 押さえ込むのも一苦労な相手にどう対応するべきか。

 青い煌めきの魔力砲はもう目と鼻の先まで来ている。
 引きつけるにしても数秒。
 その数秒を持たせて、さらに魔力砲にぶつけるってのは・・・。

「俺に出来る自信が無い」
『巻き込めれば御の字と考えましょう。
 あれだけの高濃度魔力砲ならダメージも見込めますから』

 なら少しは気が楽になる。

「片刃に魔力を集中させて攻勢に出る!」
『わかりました。
 メリオは直前で逃げられるように魔法の準備をしておいてくださいね』
「了解!」

 加速。

「押し上げて」

 羽女はボソっと口を動かすと、背中の羽は大きく羽ばたき。
 羽ばたき事態はゆっくりなのに、ひとつ動けばその都度加速が増していく。

 彼女も彼女で真下から迫る魔力砲の危険度を感じ取ったのだろうか。
 だが、ここで逃がしては勇者の名が廃る。
 せめて今相手をしている者がどういう者達なのかを理解させるには、
 やはり魔力砲を利用するのが一番なんだろう。

「逃がさないよっ!」
「君も・・・しつこい・・・ね」

 回り込む。斬り付ける。
 躱される。なぎ払う。
 受け止められる。突き刺す。

「はあっ!」

「逆巻いて」

 くるくるくるくる回転する独楽のように。

 息をも付かぬ連撃を。

 したいけど、今の俺の精一杯はこんなものか。

 それでも。

「っ!!」

「とど・・・かない・・・よ?」

 今まで感じたことのないくらいに。

 戦闘に集中しているのがわかる。

 刃は届いていないが、足止めは出来ている。

 敵の防御はすべて風を使ってのものだから、
 金属同士がぶつかり合うような音もしない。

 それが集中の妨げにならない。

「っ!っ!はあああっ!」

「ん・・・んっ・・・・しつこい・・・」

 このままいけるっ!

『メリオッ!!避けてっ!』

 エクスの声に我に返る。
 怖気は急に降って沸いた。

 正面にいる羽女じゃない。
 俺の・・・横にいる何かがその原因だ・・・。

 防御の姿勢で振り向くとデカイ雷の鎚でぶん殴られた。
 攻撃をしてきた対象の顔を見る間もなく凄まじい衝撃で撃ち抜かれた瞬間。
 俺の集中、いや興奮状態は完全に冷め上がった。

「がっ!あああああああああああああっ!!!」

「メルケルスッ!」

「ナユタ・・・」

 温度差の感じる声は急激に遠ざかって行く。
 吹き飛ばされた先から強い魔力を感じる。

『魔法を発動させてっ!』
「《ヘリオス・ルラ・トレイン!》」


 * * * * *
 マリエル-!

「なに?どったの??」

 ソウハチとノイ姉様のアレがまた来ますわよぉ-!

「あの人はぁぁーーー!?どうして私の戦場ばかり狙うのよぉー!!
 勇者の位置は・・・あ”!」

 もうちょっと動き回っているかと思っていたけど、
 ほとんど最初の位置から変わってないじゃんっ!?
 というか逆に斜線上に入っちゃってるしっ!!

 撃ちましたわー!!



「勇者っ!!!避けてくださいっっ!!!!!」

「っ!?メルケルスっ!!!」



 私のかけ声と時を同じく、
 ナユタも相方へと注意を向けた。

 メルケルス。
 それがあの羽女の名前なんだろう。

「《アポーツ!》」

 片手をメルケルスの方向へと伸ばすナユタ。
 その必死な表情から、仲間意識は存在している事が見受けられる、が。

「クソッ!!」

 敵対勢力に感情移入していては戦う事なんて出来ないし、
 こっちが流されて戦闘をやめてもあっちもやめる訳ではない。

 私の磁界の檻に囚われているナユタのアポーツは失敗した。
 その悔しそうに歪んだ顔は私に向けられ、
 怒りのまま腕を引き絞って突っ込んできた。

「お前ええええええ!!!」

 磁界範囲内から離れるよりも私を倒す方が早いという考えに至ったらしい。

「大振り、風の動き、こっちの身体能力の向上。
 全部合わせて今までの戦闘で使用した攻撃ならなんとでもなる!」

「《雷神舞踏らいじんぶとう!》」

「え”!?」

 まるで私たちみたいな変身を遂げたナユタの身体は、
 一瞬のうちに煌々と黄色く輝く雷に包まれた。
 包まれたというか雷そのものの化身になった。
 そんな印象を受けると同時に戦闘力が爆上がりして突っ込んできた。

 この速度は・・・見えないっ!!

「ふっ!!」

「んぐっ!」

 流石に何をされたのかはわかった。

 普通に殴られた。

 今までの戦闘から絡め手は使って来ない。

 馬鹿で直情的で、敵ながら真っ直ぐな相手だ。

 だからこそ、正面を。腕を交差させて防いだのに・・・。

「あああああああああああああぁぁぁぁ~~~っ!!」

 それだけで私たちの視界は瞬く間に過ぎ去っていった。

 これ、あれだ。

 アスポーツを使われた。

「うっ!がっ!んぎっ!かはっ!」

 すごい衝撃が背中から全身に突き抜け続ける。

 背中や腕、足。視界はやがて森の中に突入する。

 全身に太くて逞しく堅い大木がぶつかる度に悲鳴が漏れる。

 声にもなっていない喘ぎしか出せない。

 ズゥゥゥン!!!!!!!!!!!!

「っっっっっっっ!!!!?」

 今まで受けたことの無い衝撃を伴って、
 身体が地面にめり込んでようやく止まった私の身体。

 意識が・・飛びそう・・・。

『マリエル-!大丈夫ですのー!?』

 私の中に居て無事だったニルが分離をして、
 私の顔をのぞき込みながら心配をしてくれる。

 大丈夫じゃないっ!
 っていうかここ、どこ・・・?
 少なくとも戦場じゃない。かなり離れたところに飛ばされたと思う。

「こほっこほっ。ニル・・・隊長に・・伝えて」
『かしこまりーですわー!!』

 ニルを返事を聞き届ける前に、
 私は、意識を手放した。


 * * * * *
『(ソウハチー!マリエルが飛ばされちゃいましたわー!
 今意識も失っちゃいましたわよー!どうすればいいのですわー!!)』

 ちっ、流石に魔神族は巻き込めなかったか。
 舌打ちを内心で行いながら、
 ニルからの念話でマリエルの状況報告を受ける。

「(安全確保、周辺警戒と地理の確認。
 せめて木の上とか高所に避難できれば良いけど、
 ニル一人だけだと動かせないだろ)」
『(ですわねー!
 動物の気配はしますけれど瘴気モンスターは沸いていませんわー!
 ひとまず様子見をしますけど戦闘にはしばらく参加出来ませんわ-!)』
「(わかった。何かあればすぐ連絡しろよ)」
『(かしこまりーですわー!)』

 今度はマリエルがやられたか。
 死んでなければとりあえずは良い。
 確かメリオも一緒に戦っていたはずだけど、
 あっちの状況を知る術がないからなぁ・・・。

 俺達の高濃度魔力砲ドルオーラは見事に空を彩り、
 魔神族の妨害を受けることなく月に到着した。

 月は幻では無く確かに存在していたらしい。

「月が・・・崩れていく・・・」

 クレアがクルルクス姉弟を引き連れて俺の横に並び言葉をポツリと零す。
 視線は空を見上げたまま。
 正確には表面から芯まで凍てついた挙げ句に砕けてバラバラになっていく月を見つめながらだ。

「魔力の供給が止まったか?」

 まぁ、魔力じゃ無く瘴気なんだろうけど、
 ややこしいからもう魔力でいいや。

『そうですね、空気が変わったです』

 とはいえ、原因と思われた月を破壊した。
 なのに魔力の流れが止まっただけで紅い夜が明けるまでには至っていない。

 さて、どうしたものか。

 ピリリリリリリリ、ピリリリリリリリ・・・

[セリア=シルフェイドから連絡が来ています][YES/NO]

 次の指針を考えて指を顎に添えたところでタイミング良く連絡が入った。
 相手はセリア先生。
 このタイミングという事は紅い夜に関しての事だと思われる。
 情報をいただけるならご鞭撻願いたい。

 YES。

「はい、水無月みなづきです」
〔お疲れ様です水無月みなづき君。
 空の閃光、こちらでも見えていましたよ。お見事でしたわ〕

 あんなド派手な砲撃だもんな。
 そりゃ今の戦場ならどこでも見えるか。

「ありがとうございます。
 ただ、月を破壊して力の流れは止まったみたいなんですけど、
 紅い夜が終わらないんです」
〔なら、じきに夜は明けますわ。
 こちらもアルシェ様の指示で地上を調査していまして、
 規模から考えても発動する為の中継器があるのではと思い見つけています〕
「おぉ!流石!」
〔最後の判断はちゃんとカティナを呼び出して行いましたわ。
 中継器の魔道具は数はありましたけれど、
 紅い夜を維持するには足りない程度に減らしましたの。
 カティナも研究材料にいくつか持って帰ってしまいましたわ〕

 あいつも研究馬鹿だな。
 今後に使われる機会があっても
 次はもっとスマートに解除出来るようになるなら問題でもなんでもない。

「わかりました。
 なら俺はもう一度空に上がろうかと思います。
 必要なら魔神族ともう1戦するかもしれません」
〔わかりましたわ。
 私はこのままアルシェ様の元へ戻ろうかと思いますが、
 何かご注文はあるかしら?〕
「あー、そちらから見えたかわかりませんが、
 砲撃を撃った際にマリエルがアスポーツで外に飛ばされたそうです。
 ニルの位置はわかるんですけど迎えに行く事って出来ますかね?」
〔そうですか、マリエルとニルが・・・。
 肉眼では確認できていませんけれど、
 方角だけ教えていただければ許可をいただけ次第動きますわ〕
「助かります。
 ニルの意識はあるんですけど、マリエルは意識を失っている模様です」
〔わかりましたわ。
 まだ2日目ですからね、気をつけてくださいな〕

 そう言い残してセリア先生はポロン♪と切電された。
 俺っていつも誰かに気をつけろと注意されているのは何でだろうな。

『普通の事をしないからです。
 ニルの方はセリア先生が動かれるのであれば安心出来るです』
「だな。
 勇者のこともあるし、俺達はまた上がろう」
『はい』

 憂いも無くなり俺は駆け出す。

「今度こそ、じゃあな。クレア」
「あ、はい!いってらっしゃい!」

 俺はアスペラルダの人間だから送り出しの言葉としてはおかしいけど、
 ありがたく背中で受取片手をあげて返事をする。

 いってきます。

 心の中でした返事を最後に、
 俺達は空へと自身を魔力縮地まりょくしゅくちではじき飛ばした。


 * * * * *
 高度を順調に順調に昇げていく途中から、
 空に4つの点を見つけていた。

 3つはめちゃくちゃ遠いし、
 位置的には魔神族であろうことは間違いない。

 手前にいるのは・・・メリオか。

『精霊使い・・・』
水無月みなづきさん、無事だったんですね」

 厳しい表情で3人の動向を見つめていたのだろう。
 エクスの言葉に振り返った顔は張り詰めていたが、
 俺を認めるとすぐに破顔した。

 そんなに好感度高かったかな?
 今までメリオと関わった時って「やったね!バッチリ好印象!!」じゃなくて、
 どちらかと言えば「あ~もう、わたしのバカバカ!印象サイアクだよ~」だったはず。

 もしかして:ドM?

「マリエルの状況は把握している。生きてはいるよ」
「そうですか・・・」

 安堵した息を吐き出したメリオは再び視線を魔神族へと戻した。
 が、エクスは剣の姿なのでわからなかったが、
 俺から視線を外していなかったらしい。

『精霊使い、貴方ずいぶんと様変わりしていますね』
「?」
「精霊から見ればそう思うんだろうな。
 スキルが肉体の治療とともに本領を発揮したといったところかな」
『そうですね。人間でもない、精霊でもない。
 その端境の存在を目にする事があるとは。
 長生きしてみるものですね』

 エクスが何が言いたいのかわからんな。
 見たことのないものを見て興味を持ったのか?

 雑談は終わったとみて、メリオは状況の説明に口を開いた。

「2人だった魔神族は、
 魔力砲撃のあとに1人増えて3人になってしまいました。
 不意を突かれたとはいえ本気のナユタを相手取れない以上、
 観察に留めていました」
「1人でも荷が重いからな」

 それに増えた魔神族も問題だ。

 苛刻かこくのシュティーナ。
 時空を操り方々で出会う機会がある魔神族。
 これで3回目か。魔神族の中では顔見知りだな。

「新顔の魔神族の情報をくれ」
「はい、名前はメルケルス。
 風を操る魔神族でエクスの刃でも届かない程に防御力が高いです。
 それにナユタは彼女を守ろうとする意思を持っている様子でした」

 龍の巣でシュティーナが言ってた2人組って奴か。
 それに風を操る能力とは、
 予想が当たっていると確定してもいいのかな?

 魔神族は1人1属性の原則が本当に存在するなら、
 魔神族の数は表7属性の裏6属性の計13体。

 ってことは・・・。
 水属性:不明
 氷属性:氷垢ひょうくのステルシャトー
 火属性:不明
 幻属性:不明
 風属性:メルケルス
 雷属性:イキりのナユタ
 土属性:不明
 重力属性:不明
 闇属性:隷霊れいれいのマグニ
 時空属性:苛刻かこくのシュティーナ
 光属性:不明
 反射属性:不明
 無属性:滅消めっしょうのマティアス(候補)

 約半分が出て来たって事であり、
 もう半分は俺達に関わらない場所で活動して破滅の準備を進めていると考えるべきだな。

 おそらく魔族領。

「メリオ」
「何ですか?」
「この戦争を生き残ったら、
 俺は魔族領の調査に乗り出すぞ」
「魔族領?何故ですか?
 水無月みなづきさんは魔王に用は無いと思っていましたけど」

 とりあえず情報は集める事になるだろうけれど、
 魔王自体に用があるわけでは無い。
 あくまで俺の仕事は破滅の調査にあり、
 その破滅関連で魔王も出てくれば対応するに過ぎない。

「魔族領で魔神族がおそらく7体動いている可能性がある。
「え”!?」
「アスペラルダは簡易精霊使いを量産して各地に派遣を始めているし、
 他の国も似た政策をしてもらうことになると思うが、
 魔族領は人間と戦争状態だから魔神族云々を伝えても無駄に終わるだろう。
 だから、俺みたいな諜報を行う人間が行かなきゃならん」
「生き残れたら、ですね・・・」

 まぁ、そうなんだけどね。
 1人でも相手をするのに手こずる魔神族が3体。
 相手を出来るのは俺と盾が半壊した勇者メリオ。

「メリオ、その盾で戦えるのか?」
浮遊精霊ふゆうせいれいが多かったお陰で腕まで持ってはいかれませんでしたが、
 もう捌くのは厳しいですね・・・」
『メリオ、戦法を変えましょう。私が大剣になります』
「ふぅ、わかったよ。エクス」

 聖剣は生きた武器だ。
 元が精霊だからモードチェンジが可能になっており、
 短剣から極大剣までなんでもござれらしい。
 ただ、燃費が相応になるとも聞いているから、
 基本的には取り回しが慣れている片手剣がメインになっているのだろう。

『《モード:大剣エスカリボルグ》』
「っ!?!?」

 なん・・・だと!?
 確かに大剣タイプのエクスカリバーとなれば浮かぶ名前はその名称だったけれど、
 撲殺天使よろしくバットになったりしないだろうなっ!
 仮にも勇者なんだぞっ!?

 そんな俺の心配をよそに、
 エクスカリバーは光に包まれるとその身を一回り大きく成長させた。
 光がはじけ飛んで大剣モードでの姿を現せば、
 正統変化をした装飾のある大剣へと変わっていた。

「お待たせしました」
「お、応・・・」

 ある種の予想だにしないドキドキイベントを終えたメリオは、
 真剣な表情で俺へと声を掛けてきた。
 コイツはあのアニメを見ていないのだろうか。

『マスター、頭を切り換えるです。
 リラックスが過ぎていますですから、緊張感をあげてください』
「はいはい、すんませんね。ちゃんとやりますよ」

 過度な緊張は身体の硬直を生み、戦闘に影響を及ぼすが、
 逆に過度なリラックスも気抜けを呼び、おもわぬ失態をかます要因となる。

 すぅぅ・・・ふぅ・・・。
 元の世界では舞台なんかも囓っていた所為か、
 緊張感のコントロールはお手の物だ。
 瞳を閉じて緊張感を20%で固定、息を吐きながらゆっくりと瞳を開けば戦闘準備は完了だ。

「待たせた、こっちも完了だ」
「じゃあ、行きましょうか」

 頷き勇者の上昇速度に合わせてこちらも自身を弾いていく。
 今の状態なら全力の魔力縮地まりょくしゅくちでも早々足が砕けるような事にはならないのはここまでくる道中で実験済みだ。
 しかし、勇者の具足型アーティファクトの速度では置いていく事になるし、
 それはそれで俺がピンチになるだけなので一緒に上昇していく事とする。

 上がっていく途中から、
 魔神族もこちらに視線を移しているのに何も仕掛けて来ず、
 俺達が同じ高度に来るまで待ちの姿勢を保っている。

 まぁどちらかと言えば先頭に立つシュティーナに、
 前に出たいナユタが押さえつけられているだけのように見えなくも無い。
 なんだかんだで上下関係があるらしいところも、魔神族は本当に謎な集団だ。


 * * * * *
 無事に魔神族の待つ高度まで戻ってきた俺達は、
 ひとまず睨み合いから始めることとした。

 羽女メルケルスは無表情でぼーっとしている上に、
 そもそもこちらに興味すら持っていない様子。

 ナユタは俺の顔をずっと殺意を込めて睨んでいる事からも、
 何故生きているのか?って思っていそう。

 シュティーナは微笑みを称えた顔で俺を見つめている。
 また会ったわね、イクダニムっていつもの顔だ。
 俺は会いたくなかったよ。何考えてるのか読めないからな。

「やあ、シュティーナ。龍の島振りだな」
「ごきげんよう、イクダニム。
 ナユタからは殺したと聞いたのだけれど、生きてまた会えて嬉しいわ」
「再会ついでに新顔の魔神族の紹介もしてくれると嬉しいのだが?」
「あら、名乗りもしていないとは思っていなかったわ。
 ナユタ、メルケルス、ちゃんと名乗ってから殺すように言っていたでしょう?早くなさい」

 ぶすっとした表情のナユタがすぐに名乗りを上げなかったからか、
 メルケルスが前に一歩出て来て名乗りをあげる。

「どうも・・・[叢風むらかぜのメルケルス]・・・です。
 以後、お見知りおき・・・を」

 頭を下げたりはしない。
 眠そうな瞳でこちらを見ながら名乗りはするが、
 焦点は俺達に定まってはいない。
 彼女にとって俺達は風景と変わらない価値らしい。

「ナユタ」
「わかってるよっ!やればいいんだろっ!
 前にも名乗ったけど、俺はナユタ、[霹靂へきれきのナユタ]。
 メルケルスを守るのが役目だ」
「守る?魔神族が?」
「あっちはあっちの事情があるんだろうさ。
 シュティーナ!メルケルスは氷垢ひょうくのステルシャトーと同類か?」
「まぁ、そうなるわね。
 とりあえず、そちらの情報は伝え済みだし自己紹介の時間は終わり・・・。
 さぁ、ここからどうしたいかしら?」

 帰ってくれ。
 そう言って本当に消えてくれるならどんなに良いか。

「いずれ、お前達の用意したこの紅い夜は解除される。
 魔神族の目的が何なのか知らないが、
 俺達がそれを阻ませてもらおう!」

 おぉ、勇者っぽい。
 心のなかで拍手する。
 構えも様になっている様子からも以前会ってからずいぶん鍛えられたらしい。

「ナメた口を聞くんじゃねぇぞ!雑魚勇者!
 本来後衛のメルケルスを相手にして遊ばれてただけの分際でっ!」

 おい。

「ナユタ。貴方ずいぶんとベラベラと情報を漏らしていますけれど、
 今までも余計なことを口走っていたのではありませんこと?」

 ですよね。

「え”!?いや、そ、そんな事はねぇよ。
 俺だって分別くらい着くっての・・・」
「まぁ、いいわ。
 勇者は殺る気のようだし、メルケルスは本来の役目を果たしに行きなさい」
「わかっ・・・た」
「あ、おい!待てっ!!っ!」

 シュティーナの指示を受けるとメルケルスは廃都へと降りていく。
 その行動に勇者が追う動きを見せた時には、
 ナユタの視線は俺からメリオへと切り替わっていた。

「今までは戯れていただけだって理解しているのか、勇者?
 ここからは本気で潰すぞ」
「そういうこと。
 貴方たちのような妨害者から守るのが彼の役目。
 そして、私はそのサポートで出て来たって訳ね」

 シュティーナの言葉が冗談にしろ本気にしろ、
 今は優先すべきはメルケルスの妨害だろう。
 本来のと言っていたから、
 もしかしたら隷霊れいれいのマグニすら囮の可能性がある。

 もしくは同時進行・・・かもな。

「すみません、水無月みなづきさん。
 俺はどちらの相手をするべきでしょうか?」
「ナユタは俺がやる。
 注意を引きつければメリオに攻撃は向かないだろうし、
 おそらくシュティーナの方が格は上だが遊んでいる節があるから殺されない可能性が高い」
「なるほど。敵の意識誘導と情けに賭ける、と」
「勇者としては不服か?」
「いえ、それがベストならそうするべきです。
 プライドだけで生きていられるほど楽な相手ではないことは理解しているつもりです」

 メリオの承諾も得た所で、
 今後の流れに考えを巡らせる。

 魔神族の目的が2つあったとしても、
 当初の目的である隷霊れいれいのマグニを討伐することでのフォレストトーレ解放は必須だ。
 そして、残るメルケルスの対応を俺がするのが現状考えうる最も適切な対処だと思う。
 つまり、コイツらにどちらかが負けるような事があれば、
 魔神族の目的はかならず達成されてしまう。

 メルケルスはまだ行動に移っていない為、
 行動からの推測もままならない状態。

 なら、俺に出来るのはナユタを討伐して、
 その後の状況次第でシュティーナの相手を代わるかメルケルスを追うかの選択をするのみ。

「健闘を祈る」
「お互い様です」
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