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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -06話-[魔神族と新種瘴気モンスター]

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「高けぇな、おい」
「高いですねぇ」

 紅い夜による幻惑攻撃を打破する為に空へと上がった俺とマリエルだったが、
 出発してから未だに月には到着していなかった。

 幸い早朝という事もあり空気も澄んで雲一つ無い空になっていたので、
 月の位置が正確に視認できる。
 だからこそ、月がとても高い高度にあることがわかるのだ。

「ここまで高いと支援は期待出来ないですね」
『マスターとマリエルが居れば大抵のことはなんとかなると思うですよ。
 それよりも範囲を見るです』
「うっわ、うちだけじゃ無いんだぁ・・・」

 雲がなければ周囲を見渡すのも容易い。
 マリエルとノイの会話に耳を貸しつつ俺も地上を見渡してみると、
 アスペラルダだけではなく他2国も綺麗に紅い夜の範囲に含まれていた。
 どれだけのアーティファクトを使えばこんなことになる?
 人間だけがモンスターに見えるなんて、
 魔族か魔神族専用としかどう言い繕っても受け取れない。

 いや、魔族も人間だったか。
 なら魔神族が造ったかとっておきか・・・。

「うわっぷ!風、つよっ!」
「ジェット気流かっ!そんな高度まで進んでも届かないとかふざけてんのかっ!?」

 どんどんと月を目指して上昇を進める俺達は、
 ついにそれほどの高度まで進んだことに驚愕する。
 ということは一番の懸念事項は・・・。

「ノイ!大丈夫か!?」
『魔力を厚着すればなんとかなるです。
 龍の巣を経験していなかったら危なかったですけどね・・・』

 無事なら良い。
 ジェット気流の高度まで上昇してきたという事は、
 気温もそれなりに低くなっているはずだ。
 最悪マイナスに突入しているかもしれないけれど、
 水精系の加護持ちである俺に生憎寒さなぞ微塵も感じないので失念していた。

 確実に視界に映る月は大きくなっている。
 すなわち近づいているのにまだ届いていない。
 今がおそらく対流圏の上層。
 これ以上は成層圏だったような気がする。
 つまりは今の高度が一番寒く、これ以降は徐々に気温が高くなる。

「もっと上がるぞ!」
「了解!」

 ノイの為にもさっさと上昇してしまおう。

 そろそろ妨害も懸念する必要がある。

「ニル、マリエルに磁界を発生させてくれ」
『かしこまりー』

 俺の指示でニルはのんびりとした言葉とは裏腹に素早くマリエル達に磁界を発生させる。
 この磁力の結界の効果は・・・。

「へぇ、俺の対策なんて考えていたんだなぁっ!」

「隊長っ!」

 来やがったっ・・。

 突然、目の前に現れた、二人組。
 一人はナユタ。こいつは知っている。
 その後ろに奴の背に手を添えている女。こいつは新顔だ。

 バチバチッ!

「さよならだっ!」

「ぐっ!!」

 囮としてわざと磁界を展開していなかった俺に向けて、
 こいつは急接近するために[アポーツ]をしてきてくれたのだ。

 そして、俺に吸い寄せられたコイツの手が俺の体に着地して、
 そのままポルタフォールで行った雷攻撃を・・・。

 バン!

 炸裂音は一回。

 一度目の炸裂で体中に走った雷は想像を絶する威力だった。
 この一撃はアニマの率いる無精の鎧は当然通り抜け、
 俺の体に直接ダメージを与えてきた。

 体中から白い煙が漏れる。

「隊長ぉぉぉぉっ!」

 雷で体が伸びきっていても視線は意地でも向ける。
 あぁ、嗜虐的な顔だなぁ、おい・・・。
 マリエル、騒ぐな・・・。

 まだ、次がある・・・。





 バン!バン!





 続けて二連続の炸裂。

「・・っ!」

 ゴプッ・・・・。

 俺と纏うニルの魔法抵抗力で原型は留めている。
 しかし、
 沸騰した血で血管は破裂し、
 肉も臓物も黒焦げだ・・・。

 意識もかなり怪しい。
 現実か・・・夢か・・・夢現だ・・・。

 単純にしてシンプル。
 基礎からして強すぎる。

 これが俺が魔神族から受けた、
 初直撃の感想だった。


 * * * * *
 本当に一瞬の出来事だった。
 さっきまで暢気に高いねとか風が強いねって話をしてて、
 思い出したように隊長がニルちゃんに指示を出して・・・。

 体の中心から球状に広がる磁界を肌で感じながら広がるのを待った。

 そしたら、声が聞こえた。

 ここに居るはずの無い第3者の声が・・・。

 自分では警戒を怠ったとは思っていなかった。
 でも、隊長はいつも気にして、口にしてくれていた。

「俺が近くに居るときは気が抜けている。
 もっと居ても居なくても同じクオリティを出せるように集中しろ」

 いつも口を酸っぱくして言ってくれていた。
 だから・・・。
 もしかしたら、私がちゃんと集中できていれば気付けたのかな?

「隊長っ!」

 声は隊長のいる辺りから聞こえたからすぐに顔を向けた。
 そしたらさ。二人知らない人が居た。
 殺気も隊長だけに向けているのか、こちらには一切その気配が感じ取れなかった。

 バン!

 近くでびっくりするくらいの炸裂音が聞こえた。

 隊長の体から白い煙が昇っている。
 体も手足の先まで伸びきって硬直している。
 一瞬で理解した。
 これ、龍の巣で会ったあいつの仲間だって・・・。

「隊長ぉぉぉぉっ!」

 相手は隊長のお腹に手を当てているだけなのに。
 私の胸中は荒れ狂っていた。
 焦っていた。

 だって、いつもどれだけ大変でも笑って戦場を潜り抜けて、
 まともに被弾したところを見たこともないあの隊長が・・・。

 煙を体から出して無防備な姿を晒しているんだもん。

 私の声が聞こえたのだろう。
 隊長は魔神族に向けていた視線を私に一瞬送ってきた。
 何?何を伝えたいの?

 多分、隊長は一回落ちる。
 戦場を離脱する。
 そうしたら私とノイちゃんの二人で魔神族を二人相手にしなきゃいけない。

 無理だ。
 絶対に。
 無理・・・。





 バン!バン!





「・・っ!」

 ゴプッ・・・・。

 容赦のない魔神族は、続けて二回同じ攻撃を隊長に加えた。
 隊長の口から血が零れる。
 普通は無精の鎧のおかげで致命傷を受けることは無いのに、だ。

 煙を吹いていた時点で気づいてた。
 あの一瞬で行われる攻撃が無精の鎧を抜けるほどの威力を持つ脅威なんだって。

 どうしよ・・・。
 どうしよぉ・・・・。
 このままじゃ隊長が死んじゃうっ!
 でも、でも私一人じゃどうしようもないっ。
 戦うにも逃げるにも、勝ち目が無い・・・。

 混乱した頭でいくら考えても答えは絶望しか出てこない。
 どうしよ・・・。
 どうしよぅ・・・・。

『マリエル』

 その時、声が聞こえた。
 聞き覚えのある声。落ち着いた声。
 混乱した頭が一瞬で切り離される。

 声は肩から聞こえてきた。
 隊長から預かった彼の契約精霊ノイちゃんだ。

『マリエル、落ち着いて聞け。
 俺は死んでない。でも、この場はもう戦えない。
 だから、お前が戦え!』

 ノイちゃんの口調がいつもと違う。
 それは彼女と隊長が念話で会話し、それを伝えているから。
 この言葉は魔神族の手からやっと離れ、
 空から落ちていく隊長からの言葉なんだ・・・。

『勇者と一緒に足止めをしろ』

 一人でなんて無理ですっ!
 と、言いたいところで続いた言葉に目を見開く。

 勇者?

 私の疑問は一瞬で霧散した。
 己が手から離れた隊長に向けて、魔神族は、雷を表面に発する大槌をどこからとも無く持ち出して振り下ろす。

 あの三回の炸裂だけでも肉体が原型を留めているのも不思議なレベルなのに、
 魔神族は容赦なく片手でその大槌を操った。

 私の位置は確かに近い。
 それでも迷い無く素早く選択して容赦の無い攻撃を続ける魔神族に対し、
 私は初っぱなから混乱し体が動いていなかった。
 準備もなしに0から急に動けるように体は出来ていない。

 間に合わないっ!!

 キイイィィィィィィンンンッ!!!

 目は閉じていなかった。
 心は叫んでいた。
 体は動かなかった。

 でも、隊長は生きていた。



 勇者が来たから・・・。



 何故か?
 何故、この人がここに居るのか?
 何故この人も気配無くいきなり現れたのか?
 見た目は化け物だったけど、聖剣で勇者だと判断できた。

 大槌と聖剣が鍔迫り合いを起こすうちの隊長は体の向きを変えて地上に落ちていく。
 その姿を私以外にも見つめる存在が居た。

 羽の生えた天使みたいな見た目の女。
 でも、気配はおぞましい魔神族だと警鐘を発している。

「(お前が、戦えっ!!)」

 そのフレーズがリフレインした瞬間、体は、動いていた。

「追わせないっ!!」

 女は私の蹴りを片手で受け止めた。
 でも私の攻撃は風を纏う[極地嵐脚ストームインパクト]。
 ダメージには繋がっていなくてもノックバックが発動して、
 後を追う動きを見せていた羽女はようやく私に視線を向けた。

「勇者様!共闘と参りましょう!」
「彼はいいのかいっ!?」
「生きてはいます!今は倒せはせずとも足止めが必要との事です!」
「わかった!一緒に戦おう!」

 空を駆けて戦えるのは三人のみ。
 ここで足止めをしなければもっと酷い状態になるかもしれない。
 まぁどう転ぼうとも隊長が戻ってきてくれないと優位な形勢は作れないんだろうけど!

「マリエル=ネシンフラ!隊長の代わりにお相手致します!」


 * * * * *
 お兄さんとマリエルが空で対応を始めた頃。
 フォレストトーレ城下町内に存在する瘴気の海から超大型と言って差し支えないモンスターが姿を現した。

「なんですか、あれ・・・見たこともないですね」
『上半身は猫っぽいけど下半身は山羊で背中に頭も乗っかってるよ~?』
「ついでに言えば尻尾は蛇で出来ているみたい。
 アインスさん!変なのが出ました!」

 テルナローレが言っていた瘴気を練って造られたと思しきモンスター3体は、
 それぞれ兵士、私たち、冒険者の元へと綺麗に分かれた。
 大きさ的にはどれも遜色なく強さは変わらないのかもしれないけれど、
 どれも見た目が単純な造りをしていなかった。

〔確認は進めていますが、まず今伝えられる情報は、
 3体のモンスターは未確認の個体という点だけです。
 他二国も同じく未確認大型モンスターです!〕

 ギルドは世界中に存在していてほぼ全てのモンスターのライブラリーを所持しているとされている。
 そのギルドのアスペラルダ本店ギルマスであるアインスさんが言うなら未知のモンスターで間違いないのであろう。

「GYAOOOOOOOOOOOO!!!!!!」

 あちらは殺る気満々のようですね。
 仕方が無い、やってやるしかない。
 お兄さんの加護が私たちにあらんことを!

「全員展開!ギルドでも未確認の判定が出ました!
 様子見をして行動や攻撃内容の把握に努めてください!」
〔〔了解!〕〕

 ひとまず見た目から情報を得てみましょう。
 上半身が猫に見える件から言えば、
 大型の猫科モンスターでスピードタイプではなくパワータイプ。

 下半身と背中の山羊頭については、
 本体が様子見なのか距離を測るように慎重な行動をしている間も山羊頭は常に直近の人間に視線は固定されている。
 下半身も前足同様に筋肉質で体を支えるには十分なように見受けられますね。

 最後に尻尾の蛇ですが、
 これは如何なのでしょうか?
 普通の尻尾とは異なってこちらも山羊頭同様に意思があるように見えます。
 それも後方確認担当のように・・・。
 あと、時々口から液体が零れては地面で煙を上げていますね。
 あの液体は強力な毒なのでは無いでしょうか?

「総員に報告。
 正面の猫頭、背中の山羊頭、尻尾の蛇頭はそれぞれが独立した思考と行動を起こす可能性を視野に入れて行動を行ってください」
〔了解。本当なら全方向見えてるって事かよ・・・〕
〔了解。意思や視覚共有の確認を行います〕

 私の不透明な指示にセーバーもゼノウも落ち着いて行動してくれる。
 殲滅などであれば私からもっと指示を出すことが優先となりますが、
 今回のような未確認の敵を相手にするのであれば現場のコンビネーションを利用するのが一番です。

「メリーとクーちゃんは先に取り巻きを潰して2PTが動きやすいよう考慮を」
〔かしこまりました。掃除を行います〕
「リッカ、隙を見つけたら1度でいいので斬り付けなさい」
〔かしこまりました〕
「ポシェントは山羊頭に注目しておいて頂戴」
〔了解〕

 さて、とりあえず指示としては及第点でしょうか?
 取り巻きの掃除に、調査戦闘が2PT。
 少し離れた視点での様子見が熟練2人。
 今の指示で一番重要なのはリッカだ。

 本当に視界を3つの頭で共有していた場合隙はほとんどない。
 その無い隙を作る為にゼノウとセーバーの2PTが対応して出来た短い隙に鋭い一撃を加えられるのはリッカだけ。
 その一撃であのモンスターの出自の一部が明らかになる。

「『竜玉りゅうぎょく!』」

 う~ん。せっかく頂いた杖だけど今は邪魔ね。
 杖は腰のホルスターに納めて両手を空ける。

「これでいけそう?アクアちゃん」
『(あい!)』

 とりあえず遠距離で攻撃して様子見をしてみましょうか・・・。
 敵の巨体に合わせてこちらも水球の大きさを調整する。
 このくらいかしら?これ以上大きくすると見えなくなっちゃうしね。

「『《カノン!!》』」

 撃ち放たれた水球はゼノウ達の攪乱でこちらの動きに気付いていなかった猫の顔に勢いよく当たった。
 猫と言っても怖い顔が歪むと後方に吹き飛んでいく。

「《ハイドロセイントウォーター!》」
『シューーーーートッ!』

 続けざまに両脇に設置していたアイシクルアンカーから聖水セイントウォーターを放水する。
 相手が瘴気モンスターで尚且つあんな大きさなら肉体を破壊して体内に潜む禍津核まがつかくを壊すのが一番手っ取り早い。

 魔力を込める勢い強まりモンスターは頭からびしょびしょになりながらも、
 体勢を立て直して放水から逃れる。

「リッカ!」
虚鞘抜刀こしょうばっとう一式!《森羅しんら!》〕

 ヒィィィ・・ンッ!

 本来なら走り寄って斬り付ければいい。
 しかし、リッカは一番簡単なソレが出来ない。
 だから極大剣でも届かない遠距離からの攻撃を敢行した。

 甲高い音は斬られた事もわからないほどに鋭利な技の証拠。
 飛ぶ斬撃。
 それも抜刀術とは、リッカの病気もなるほど。深刻ですね。
 今回生き残れたら本格的にテコ入れをしないと彼女の未来は明るくないかもしれません。

「GYAAAAAッ!!」

 斬り付けたのは首元。大きな斬り傷にモンスターが戦慄く。
 私も指を動かしてアイスランスを発生させて反対の首元を突いた。

「堅い・・・。リッカの攻撃力でこれですか?」
〔最大値の攻撃ではありませんが、
 それでもランク10は下らないのではないかと思われます〕
「ランク10以上のモンスター?
 さっそくお兄さんの予想を超えてきましたね・・・」

 今し方付いた傷もすぐに修復してしまった。
 その様子から相手が禍津核まがつかくモンスターであると再認識する。
 では、最大威力で攻撃しましょうか、アクアちゃん。
 あい~!

「『《蒼天そうてんに広がる星々ほしぼしよ、魔力の奉納ほうのうを持って我は願う。》』」

 大魔法アルスマグナではないので祝詞は短いですが、
 それでも個人で使う魔法としては異常な威力ですよ。
 これで死んでくださると幸いです。

 手を振るう。
 奉納される魔力は大きな雪の結晶へと換わり、私の周りを漂う。
 合計4つ。
 アンカーも含めれば射手は七人といった所でしょうか。

「全員、全力ノックバック攻撃!」

 私の号令にクランメンバー各位が風の主体とした攻撃を次々と行う。
 風の魔法、風の矢、風を纏わせた短剣、嵐を纏わせた大剣。
 それぞれが小さいノックバックでも重なれば如何な巨体といえど堪らなかったらしい。

 仲間と禍津核まがつかく瘴気モンスターとの距離が大きく開いた。
 結晶とアンカーも十分に魔力の集約が出来ている。
 準備完了だよぉ~!




「『《アブソリュート・ブレイカー!!!》』」




 翳す手から渦巻く冷気は魔力砲となり撃ち放たれ、
 4つの雪の結晶、2つのアイシクルアンカーからも細身ながら同じく魔力砲が放たれた。
 各魔力砲の終着地は当然、敵大型モンスター。

 着弾はノックバックで浮いた体勢だった為、側面。
 同時にその周囲は急激な寒冷に見舞われ大地は凍り漬けに。
 そして直撃していない大地が凍り漬けになるほどの威力なら、
 直撃しているモンスターは凍った端から砕け、崩れていく。

『流石はあの方のご息女だな』
「素晴らしい威力です、アルシェ様。
 我々は影響の少ない距離まで近づきましょう」
「何故だ?」

 賞賛しているのはポシェント。
 周囲のメンバーも声には出していない物の目を見張っている。
 その中でもメリーだけが賞賛しつつも次の行動を起こそうとしてセーバーから質問されていた。

禍津核まがつかくは魔法だけでは破壊出来ません。
 ご主人様の一閃ですら凍てついておりませんでしたので」
『そうだったな・・・』
「なるほど。それなら確かに修復する前に潰す必要があるか」
「面倒だな。矢では壊せないのか?」
「壊すことは可能ですが、削るだけに終わる可能性もあります」

 かつてセリア=シルフェイドがアスペラルダにてキュクロプスを相手に既に試している。
 元から硬度は高い。
 弓は遠距離に秀でているものの威力は破壊するに値出来ない。
 確実を取るなら前に出る必要がある。

 半身が凍り漬けとなり身動きの制限がされた
 しばらく待てば崩れた体から禍津核まがつかくが露出する。

「大きい・・・」

 明らかに数人分の精霊が閉じ込められる規模。
 でも、おかしい。
 何がとはいえないけれど、
 私と一緒になっているアクアちゃんが、精霊がおかしいと訴えている。

「何がおかしいの・・・?」

 魔法反応~!
 あのモンスターが発生源だよ~!

 雷が集まる。
 背中の山羊が魔法を使っているようですね。

「ポシェント、無理をさせますが頼みます」
『承知』

 魔力砲射を止める。
 今露出している禍津核まがつかくさえ砕くことが出来れば何かが見えるだろう。
 ポシェントに指示を出したのは、
 凍てついた大地でも十全に動け攻撃力も申し分ないから。

 駆け出すポシェントを見送る。
 あの雷魔法は止められないから、
 先に核を壊して魔法の生成を崩したい所。

『《水霊瀑布槍メイルシュトローム!》』

 氷の上を滑っていくポシェントは、いつもの必殺技を選択する。
 槍は構えたまま、水の槍も周囲に浮かぶ。
 集まった雷も形を成してどういう意図の魔法なのかが見えてきた。

「雷の刃?お兄さんの氷鮫の刃ブレイドシャークに似ていますね」

 刃の方向から自分に向けてな~い?
 ポシェントを行かせる前から発動してたし~。
 そもそもポシェントに向いてないよ~?

 確かにアクアちゃんの言うとおりなんですよねぇ~。
 核防衛の為とはいえあの規模の魔法では確実に自分を切り裂くことになります。
 瘴気の鎧が剥がされていることを計算に入れずに発動させた・・・という考えは甘すぎますかね。

 滑っていったポシェントの足下が砕け足が止まった。
 攻撃の準備が完了したのだ。

『おおぉぉぉぉぉ!!!!』
「GYAOOOOO!!」

 槍を突き出し核が破壊される、その瞬間。
 いままで動きを制限されていると思われたモンスターが急に動きを見せた。
 露出した核の周囲の肉が急激に盛り上がって肉体を覆う氷を砕き、
 凍結していない半身で無理矢理地面を蹴り上げて打点をズラしてきた。

〔クソっ!皆、申し訳ない。核の破壊に失敗した〕
「二の矢!遠距離で欠片でも削ります!《アイシクルアンカー!》」

 槍の貫通力を持ってしても横に動く上位対象を相手に貫くのは容易ではないでしょう。
 私が放射を止めていなければ砕けていたのでしょうが、
 そうすると今度はポシェントが攻撃出来ませんでしたし全く上手くいきませんね。

〔《フレイムアロー:強弓!》〕
〔《ライトニングアロー!》〕

 モエアのスキル[強弓]付与のフライムアローが核を守ろうと盛り上がる肉を蹴散らし、
 トワインのライトニングアローの貫通力と私のアイシクルアンカーの攻撃力。
 この射撃を持って核の破壊を狙う。

「シュート!」

 先行する矢は役割を果たした。

〔やっりぃ!〕
〔堅い・・・〕

 肉は焼け焦げ脆くなったところへ雷の矢が到達して核を削る。
 以前のセリア先生の時よりも攻撃力のある矢なのにヒビすら入らないのかぁ・・・。

 続けて核への攻撃を目指す私のアイシクルアンカーだけれど。
 こちらは直撃直前に敵が用意していた雷の刃で防がれてしまった。
 でも、予想通りやっぱり自分の体も切断して上半身と下半身に分かれてしまう。

「一旦、様子見をします。
 何か今まで相手をした禍津核まがつかくモンスターと違う気がします!
 メリー、クーちゃん。何かわかりますか?」

 モンスターは直ぐさま修復に精霊の力を集中させたのか、
 異常な速度で欠損を修復していく。
 遠くから見ている私よりも近距離で戦うメリー達の方が何か感じ取っているかもしれません。

〔私は禍津核まがつかくとの戦闘経験はほとんどありませんが、
 クーデルカ様は各種効率がおかしいのではと〕
「どうおかしいと感じていますか?」
〔今の異常回復や魔法に思考力。
 核ひとつで賄うには少々現実味がないとの事です。
 それに今まで見たことの無い容姿が気がかりです〕

 確かに見た目に引っかかりは感じていました。
 魔物にしろモンスターにしろ複数が組み合わさるような姿は初めて見ました。
 瘴気モンスターにしろ、
 犬はフェンリル系統。木はトレント系統。石はゴーレムやガーゴイル系統。
 かならず系統としては元となる素材色が強く出る。

 なのに、この大型モンスターは何だろう。
 素材は猫?それとも山羊?蛇?

〔しばらく我々だけで様子を見る時間を設けて曝いた方が良いでしょう〕
「わかりました、一旦周辺の戦況確認も行います。
 そちらの指揮系統をゼノウに委任します」
〔了解しました〕

 様子見と伝えているからゼノウの指揮で無理なく情報を引き出してくれる事でしょう。
 3PT分の指揮は大変ですけど、彼なら視野も広いし大丈夫ですよね。

 さて、他の戦場の情報を確認しましょうか。
 遠目からだとどれも大型モンスターと戦闘しているみたいですね。
 片や翼を持った四足歩行の鳥?それから大猿ベースの虎?蛇?
 何であろうと出てきた大型モンスターはどれも異形と表現するしかない姿です。

「アインスさん、情報をいたただきtっ・・!?」
〔はい、アルカンシェ様。どちらの情報でしょうか?〕

 アインスさんへ連絡を取り始めた最中。
 アクアちゃんがソレに気が付いた。
 と、同時に空から強い光が発せられ目を瞑る。

 咄嗟に見上げた一瞬では何も見えなかった。
 けれど、今、空にはお兄さんとマリエルがいる。
 そしてアクアちゃんが何かに気付いて空を見上げたのだ。

 続けて二回。合計三回の発光が空の高高度で発せられた。
 胸騒ぎがする。
 何かが起こった。良くないことが起こった。

「でも、何が起こったの・・・?」

 パパが・・・落ちた・・・。

 アクアちゃんの呆然とした声が聞こえた。
 普段が明るい事もあって、なおさら暗さを引き立てる声だった。

「パパって事は・・・お兄さんっ!?落ちた!?なんでっ!?」

 わかんないけど・・・、パパ、弱ってる・・・。

「死んではなさそうで、安心しましたけど・・・。
 魔神族が出てきた可能性が高いですね・・・」

 こういう時こそ冷静になりましょう。
 とりあえず生きているのなら、お兄さんですもの。
 大丈夫と信じましょう。

 じゃあ次にさっきの発光。
 一瞬だけの光ってことは光属性か雷属性かしら?
 風の国って事でイメージが引っ張られるのもあるけれど、
 やっぱり一度姿を現している点からして怪しいのは・・・。

 魔神族のナユタ、でしたか。
 彼は[アポーツ]と[アスポーツ]、雷の攻撃をしてくるはず。
 戦闘の気配はなくいきなりお兄さんは落とされた。
 ということは、おそらくアポーツを使った奇襲に遭ったのでしょう。

「はっ!マリエルっ!
 お兄さんが落ちたなら今一人じゃないっ!
 ニルちゃんもお兄さんと落ちたでしょうからアポーツ対策が・・・」

 ・・・うんう、大丈夫みたい~。
 ニルの位置が行ったり来たりしてるっぽいから、
 ますたーとは別れて召喚サモンを挟みながら合流しようとしてるんだと思う~。

 かなり綱渡りな方法ですね。
 そうなるとそもそもお兄さんがマリエルに磁界を優先したからって事かしら?
 磁界をニルちゃんが発動していて制御範囲から外れるとアポーツから守り切れない。
 だから風精霊纏エレメンタライズを解いて合流させようと指示を出した。
 ってところかしら・・・。

 現在はニルちゃんが狙われるタイミングだけ召喚サモンで引っ張って、
 徐々に互いの距離を詰めているのでしょうね。
 時間を稼ぎながらでなんとかなっているならこちらも信じるしかありませんか・・・。

「はぁ。どちらにしろ地上からの支援は出来ませんからね。
 すみません、アインスさん放置してしまって。
 兵士達が相手をしている敵情報をください」
〔あ、はい。すぐに用意致します〕
「それと今聞いた話は他言無用ですからね」
〔わかりました、胸に留めておきます。
 それと私も無事を信じていますから〕
「ありがとうございます」

 ついでに連絡しておきましょうか。

 ピリリリリリリリ、ピリリリリリリポロン♪

〔アルシェ?何かありましたか?〕
「今からお兄さんがそちらに見えると思います。
 出来る限りでいいので協力してあげてください、クレア」

 連絡先はユレイアルド神聖教国の聖女クレシーダ。
 生きているなら自力で全回復は出来るお兄さんですが、
 それはデメリットもある[文字魔法ワードマジック]だ。
 自分が落ち、マリエルが魔神族と継続戦闘をしている現状でそんな選択をするとは思えない。

 なら、クレアに賭けると思う。

〔え!?何かあったんですかっ!?〕
「わかりませんが重傷の可能性があります。
 確認なのですが、至急で行う再生魔法はありますか?」
〔あるにはありますが、
 私の魔力かもしくは対象の魔力を大量に使って自己治癒力を活性化させるのです。
 基本的に重傷者相手では魔力不足になるので行っておりませんよ?〕
「魔力消費でいいならいくらでもお兄さんは使いますから、
 再び戦闘が出来るように対応をお願いします」
〔わかりました。水無月みなづきさんが来たらすぐに治療を施せるよう準備をしておきます〕
「ありがとうね、クレア」

 根回しはこれでいいでしょう。
 死んじゃ嫌ですからね、お兄さん・・・。
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