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閑話休題 -フォレストトーレ奪還戦争までの1か月-

閑話休題 -31話-[土の国アーグエングリンとの対談]

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『ふむ、協力が出来るのはここまでじゃな・・・。
 各ダンジョンの管理もあるからのぉ』
「いえ、協力に感謝します。
 フォレストトーレに近ければあちらへ、
 ここに来てくだされば移動は俺の魔法でしますので」
『話を聞くにあまり私達も前線に出ない方がいいんだけどねぇ。
 魔神族の餌食にはなりたくないわ』

 話し合いの結果。
 各陣営に1人づつ闇精霊を配置することで魔神族の1人、
 苛刻かこくのシュティーナの出現にいち早く反応する為。
 別に戦力として前線に出てくれという訳では無い。
 ただ、指揮をする者の側でシュティーナ以外にも何か魔法的な気づきがあれば忠告してくれとお願いしている。

 クーは前線に行く可能性が高いので、
 アスペラルダ陣営にも1人派遣してもらうことになる。
 もちろんクロエの言うとおり魔神族の働きによっては、
 禍津核まがつかくに取り込まれる危険性はあるものの、
 どうしても必要な派遣なのだ。
 まぁ指揮官の側であれば守りは一番堅いとも期待はしている。

『アネゴ、とりあえずは話を預かるのですよね?』
『そうデスネェ・・・。
 アニキとクーのお願いは早めに叶えたいところではあるデスケドォ、
 あちしは幹部の1人でしかないデスカラァ。
 代表に話を通してみて駄目であれば、
 あちしのチームで管理しているアーティファクトだけでも提供するデスカラァ!』
「ありがとう、カティナ。
 でも無理はしなくてもいいからな、立場もあるだろうし」

 前にフォレストトーレでゼノウ達のリーダーを診断した時は医療機器を持ってきていた。
 アーティファクトと呼ばれる物はダンジョンの奥地などで発見される。
 その大体はどうやって使うのかわからない。
 もしくは武器とはっきりと分かるが野菜すら切れないナマクラだったりするらしい。
 そんな謎が多い為、結局魔法ギルドに集められる事になるが、
 そっちでも研究をしてもわからない物も多くあるらしい。

「では、俺達はこれでお暇致します。
 お時間を割いて頂きありがとうございました」
『いや何、爺孝行の出来ん奴の顔も久々に見れたし、
 世界の変化を如実に理解出来る良い機会であったわ。
 そっちのメリーと言ったか。
 お主も今度はクーと一緒に顔を見せるといい』
「ありがとうございます。またの機会には必ず」
『クロエ様も申し訳ありませんがよろしくお願いします』
『久しぶりの外は嫌なんだけどね。
 クーとそのマスターのお願いだし爺様の命令でもあるからね。
 ダンジョンの役割もあるし私だけになるけど協力はするわよ』

 そうだ、割と重要な事を確認するのを忘れていた。

「すみません、アルカトラズ様。
 いまクーの使う影倉庫シャドーインベントリの中は時間の流れが外に比べると遅くて、
 大体3時間ほどゆっくり進んでいるようなのです」
『ふむ、亜空間を開いているのだから時空の影響も出たわけじゃな』

 いまは自分達の強化も進めなければならないのにとにかく他にやることが多くて時間も無い。
 俺達だけで無く戦力は整えなければならないのに教える時間もない。

「それでもっと時間の流れをゆっくり・・・、
 そうですね・・・外で1時間流れると中では1日ほど経つ程度まで伸ばせますか?」

 そう!精神と時の部屋だ!
 あれはもっと長い時間を利用出来る空間だけど、
 確かミスター○ポだか神様が作るだかの代物だったはず。
 たかが人間と精霊にはそこまでは無理でも近い物は欲しい。

『時間の流れが遅い空間のぉ。
 わかっていると思うが精霊は表の闇が得意で人間が裏の時空が得意じゃ。
 クーも時空の訓練を頑張ったから少し時間の流れが遅くなったというのは理解出来る。
 しかし1日で1時間の効率を出すには正直、
 上位闇精霊でなければ難しかろう』

 今回は力を借りたけど、
 ずっと俺達に協力させて派遣し続けさせる事は出来ない。
 クロエもクロワさんもカティナも役割があるのだ。
 解決するにはクーがさらに時空の扱いに慣れるか、
 俺自身がそういう魔法を創り出すしかないか。

『魔法陣の出現は必須じゃな。
 組み上げについては影倉庫シャドーインベントリを基準にすれば良い。
 改変は必要じゃから暇を見つけてクーを寄越すと良い。力になってやろう』
「感謝致します、アルカトラズ様」

 やったぜ!
 時間も2週間程度しかないし、
 出来ればこのままやってくれないかなぁ・・・。

「不躾ですが、本日はお時間ありますでしょうか?」
『・・・そこまで切迫しているのか?』
「俺だけではなく全体的にやることも多くて・・・。
 予想では瘴気モンスターのランクも3か4になっていますが、
 ほぼ無限の戦力に対して人間の戦力は20万もありませんから」
『あいわかった。
 今夜は21時以降なら空いておる』
「ありがとうございます」
『ありがとうございます。
 では、お父さまお爺さま。今夜仕事が終わり次第こちらへ移りますね』
「私もご一緒してよろしいでしょうか?」
『かまわんよ』


 ゲートは俺が開ける必要がある。
 これも権利を持たせる方法を模索しないといけないな。
 せめてクーとメリーには使えるようにしたい。
 今は俺の魔力に反応しないと鍵を開けられないからなぁ・・・。


 * * * * *
「ずいぶん時間が掛かりましたね」
「孫に会う事が楽しみのご老人がいるからな。
 ちょっと予想外の事も起こったし悪かった」
「謝る必要はありませんけど、
 土の国の兵士達もあまりのんびりしていられないでしょうから・・・。
 こちらも既に移動を開始していますし」

 戦場に到着して設営する期間も必要になる。
 うちも土の国もその辺は一緒だな。
 こっちの都合もあるけどかなりギリギリの顔合わせになってしまった。

『申し訳ありません、アルシェ様』
「いえいえ、クーちゃんが謝ることじゃないわ。
 人と違って王族が効かず精霊の王でもある相手なのだからこの程度の前後は仕方ないわ。
 メリーも気にしないでね」
「ありがとうございます、アルシェ様。
 本日は夜に再度アルカトラズ様の元へ向かう事となりましたので、
 私たちはこれで仕事に復帰いたします」
「わかったわ」
「『失礼致します』」

 メイド'sがお辞儀をして去って行く。
 残るは俺とアルシェとマリエルだ。
 精霊達はそれぞれが再び上位個体の元へ修行に行っている。
 アクアは今回はボジャ様の元へ、
 ノイは土精の里へ、
 ニルはセリア先生と話し合っているわけだ。

「一緒にいく将軍は?」
「それは私と」
「私だ・・・」

 そんな声にアルシェの背後へ視線を移すと、
 そこには攻撃と防御の要であるアセンスィア卿とフィリップ卿。

「お二人は他国でも名が知れています。
 話し合いには持って来いの名声もあり戦術の視野も広いですから」
「なるほど」
「この話し合いが終わったら、
 我々もフォレストトーレへ移動して先行部隊に追いつかなければならないけどな」
「急ごう・・・」
「副将は連れて行かないのですか?」
「姫様と護衛に4人も付いている・・・不要だ」

 まぁそれもそうか。
 一応ギルドを通して資料は渡っているだろうけど、
 詳しい戦力とか作戦の順序とか話はいろいろと重ねないとな。
 信頼の出来る副将は現地のフォレストトーレの準備に回しているということか。

「隊長、精霊は連れて行かないんですか?」
「必要になれば召喚サモン出来るし時間ギリギリまでは修行させたい」
「りょーかいでーす」
「《解錠アンロック》:エーゲダリス」

 城に広がる大きなゲート。
 その向こう側は森の風景が見えていた。

「エーゲダリスのどこに繋がっているのですか?」
「街の近くにある小さな林の中ですね。
 他は大樹ばかりなのでゲートを開いたら位置が分かりづらいので」
「わかりました。
 念の為、私たちが先行致します。
 水無月みなづき殿は殿しんがりをお願い致します」
「わかりました」

 そういうとフィリップ卿は躊躇いなくゲートの向こうへと足を踏み出し、
 続いてアセンスィア卿が、そしてアルシェも通り過ぎていく。

「・・・」クルッ

 あぁそうだ。次はお前だマリエル。
 頷くとマリエルもゲートを超えていった。

「アスペラルダに比べると空気が乾燥してるなぁ」
「話をする時は制御力で加湿した方がいいですね。
 あの遠くに見えるのがエーゲダリスですか?」
「そうそう、アレだ」

 エーゲダリスの位置はフォレストトーレ廃都を中心に据えると西にある。
 他の隣街だと南にフーリエタマナがある。
 東にまっすぐ行けばいずれはユレイアルド神聖教国にたどり着ける。
 北は火の国だな。

「どこで待ち合わせを・・・?」
「ギルドで落ち合う事にしています。
 あちらもこちらも他国で会う訳ですから、
 町長の家を気軽に借りるわけにはいきませんからね」
「なるほどな・・・」

 アセンスィア卿も卿は口数が多い方だ。
 独特の間があるけど口べただし俺達は全員その辺を理解している。
 土の国も指揮官と護衛が数名と聞いている。
 本隊は皆アスペラルダと同じように先行しているので、
 話し合いが終わったら俺が連れていくことになっている。

「教国と違って伝手もありませんし、
 私が中心となって話を進めますよ?」
「わかった。
 両将軍は作戦の流れは伺っていますか?」
「もちろんです。
 ただ少々現実味のないというか、
 理解を超えた部分があるので部下の一部は不安がっております」
「姫様と水無月みなづきを信じるのも我々の仕事だ・・・。
 やるのだと考えて行動するのみだ・・・」

 確かに汎用魔法しか広まっていない異世界だ。
 効果を変えるベクトル改変は理解出来ても精霊魔法も知らない人の方が多い。
 じゃあ魔法陣が目に見える魔法だったり、
 それこそ都市全域に届かせる攻撃魔法なんて想像も出来ないのは俺こそ理解出来る。

「出来ないと戦闘が始まりませんからね」

 魔法を無効化するオベリスクに囲まれているフォレストトーレを攻めるには、
 周囲のそれらを事前に破壊する必要がある。
 汎用魔法はまず無効化される為、魔法使いは役に立たない。
 壊すには人間の打撃か高濃度の魔法のどちらかになる。

 俺達はブルー・ドラゴンフリューネ達の協力の下、
 広範囲攻撃魔法を創り上げたので、
 アスペラルダ方面だけで無くユレイアルド神聖教国と土の国の計三方面のオベリスク群を破壊する必要がある。

「参りましょう、アルカンシェ様」
「えぇ、行きましょうか」


 * * * * *
「お初にお目に掛かります、アルカンシェ姫殿下ひめでんか
 私は土の国[アーグエングリン]の将軍、タラスク=ファグスと申します。
 今回の大戦では大将軍として全体の指揮を勤めます」
「紹介ありがとう。
 改めてアルカンシェ=シヴァ=アスペラルダです。
 こちらが私の直属の部下で水無月みなづき宗八そうはち
 マリエル=ネシンフラ。
 そして将軍職のトーカンツェ=フィリップ卿、バイカル=アセンスィア卿です」

 アルシェの紹介に会釈を全員が示す。
 あちらのメンバーも紹介が終わるのを見越したタイミングでギルド職員がお茶を持ってきてくれた。

「マリエル」
「はい。失礼します姫様」

 毒味だ。
 俺の指示にマリエルはすぐに動き出し臭いと味から即効性の毒はないと判断した。
 魔神族やどこぞから湧いた敵が毒を盛る可能性も考えれば、
 身内以外からの食事と飲み物はマリエルを犠牲に確かめなければならない。
 ここにメリーが居ればメリーの仕事だが。

「問題ないです」
「ありがとう、マリエル。
 さて、どこから始めましょうか。
 資料はギルドから回していると思いますが全体で目を通していただけていますか?」
「はっ、将軍と副将軍は全員把握しております。
 また、参謀も同じく把握しております」
「では知りたい分を教えてください」
「敵の規模が初めに話を受けた時期に比べると倍以上になっておりました。
 これはどうしてでしょうか?」

 敵は約30万との計算でアスペラルダ王と教皇の両名からアーグエングリンに依頼した。
 だが、監視者からの報告から徐々に濃度が上がっていたので、
 これはギルド経由で色々と調べた結果判明した。

「まず住人が陥落当時にどの程度居たのはは不明な為、
 周辺の媒体を得た瘴気モンスターも加味して約30万と伝えました。
 が、瘴気を利用しているのは魔神族と自称する強大な敵です。
 最悪を考えた結果、人間1人から3種類の瘴気モンスターが発生します。
 肉体はグール系、影がシャドー系、魂がスピリット系となります」

 瘴気の濃度によるがこれらは全部ランク3~4と予想されている。
 魔神族の影響によってはこの限りではないとも思っているけどな。

「そして周囲の植物や岩に生き物ももちろんですが、
 問題は地面に染みこんでいるであろう事です」
「地面ですか?」
「我々人間の領土に瘴気は発生したことがありません。
 ですので確定の話ではなく想定になりますが、
 2ヶ月の間にオベリスクで囲まれ本来広がる予定の瘴気が一カ所で熟成すれば、
 地面の下にも浸食しているのでは、と」
「・・・その場合は土系統の瘴気モンスターが産まれると。
 ですが媒体を破壊すれば土や岩系統以外は継続して出現しなくなるのでは?」

 植物やグール等は倒せば媒体も原型を止めず破壊出来るので問題ない。
 しかし土は決まった形が無い集合体だし岩も細かくなればそれに応じたモンスターになるだろうし、
 すり潰しても最終的には土系のモンスターに行き着いてきりが無い。

「瘴気も少数とはいえ浄化出来る手段があるとも伺っておりますよ」
「浄化が間に合わないのです。人数も手数も足りていない。
 何より媒体が無くなれば次に出てくるのは禍津核まがつかく瘴気モンスターです。
 これが出てはランク3~4などではなく6~8となるでしょう」
「その禍津核まがつかくというのも我々は詳しく把握はできておりません。
 どのような物なのでしょうか?」
禍津核まがつかくは魔神族が使用するモンスター召喚の媒体です。
 今までは浮遊精霊ふゆうせいれいを捉えて、
 命の続く限り力を吸い出しながら暴れるモンスターを生み出していましたが、
 フォレストトーレでは瘴気も混ぜて生み出すことで瘴気の鎧も付与され凶暴性も上がることになりました」

 禍津核まがつかく浮遊精霊ふゆうせいれいは、
 囚われた浮遊精霊ふゆうせいれいの数でモンスターランクが決まっていた。
 倒すには魔力が尽きて浮遊精霊ふゆうせいれいを見殺しにするか、
 肉体を破壊して核となる禍津核まがつかくを破壊するかの二択。
 そこに瘴気も追加したことで、
 瘴気の鎧に守られて肉体破壊がやるづらくなった。
 冒険者の体を守る浮遊精霊ふゆうせいれいの鎧と同じ効果なので、
 その護りを超える攻撃力で破壊は可能。
 もしくは瘴気モンスター全体に言えることだが光魔法で瘴気の鎧をはぎ取ればいい。

「なるほど、理解しました。
 光属性の武器は少数ながら確保はしております」
「扱いに関しては宗八そうはちに指導させますので、
 魔法も使える兵士を選出しておいてください」
「わかりました」

 話はそれからも続いた。
 土の国[アーグエングリン]は守りに重きを置く兵士が多いらしい。
 だからメインは重歩兵で固められていて動きは遅いが、
 確実に敵を減らして行くことが出来るとの事。
 それに獣人の兵士もちらほら居た。
 流石は隣接している領土なだけはある。
 魔法が使えなくても人間よりも機敏に動く重歩兵とか相手にしたくはない。

「我々の国は魔法をあまり重要視しておりません。
 鎧の効果が高ければ汎用魔法は大して聞きませんし、
 上級魔法を使う人間もほとんど居ませんから」
「確かに中級までの威力であればそちらの装備を抜くのは難しいでしょうね。
 ですけど、魔法は攻撃だけでは無く魔法での防御も検討しておいた方がいいと思いますよ」
「アドバイスは素直にありがたいです。
 しかし、我々はアルカンシェ姫の様に魔法をそれほど知りません。
 扱える人間がいるのかもわからない始末ですから」

 クルリ。
 おや、可愛いマイシスターが俺を振り返って見つめてくる。

「闇精霊はいざという時用に配置はしますが、
 防御ともなれば役割が違います」
「ご協力いただけない?」
「話してみなければわかりません」
「お願いね、宗八そうはち

 クルリ。
 前に向き直ったアルシェの顔を見つめるは、
 内容がわからないので不安そうな困惑した顔のアーグエングリンの方々。

「アルカンシェ様、どういう話だったのでしょうか?」
「申し訳ありません。
 先日決まった話なのですが、周辺警戒や要人待避、
 空間監視などの役割をする為に三カ国の陣営に闇精霊を1人ずつ配置させていただきます」
「精霊ですか・・・?それはまぁ・・すごいですね」
「ですが、闇精霊は戦闘に不向きなので防御に関してはお役に立てない様子。
 ですのでやはり土精霊に力を借りることが出来ないか交渉してみます」
「精霊の里を把握しているのですか!?」
「知り合えた精霊達の居場所を知っているだけですよ」

 多くは語れない。
 棲み分けは必要だし勝手に伝える事が出来ない情報でもあるからだ。
 いくら防御力に自信があっても、
 壁でも出して威力軽減させることは重要だ。
 土精霊も闇精霊と同じように1人ずつ駆り出してくれないかなぁ。

「(ノイ)」
『(マスター?どうしたです?)』
「(人間の守りに魔法も加えたいという話になっている。
 この後俺もそっちに顔を出して事情をティターン様に話そうとは思っているが、
 ノイの方からも話してみてくれるか?
 3人出してくれると助かる)」
『(相手を考えれば必要とはボクも思うですよ。
 魔神族の話も踏まえてティターン様に聞いてみるです)』
「(あんがと)」

 念話でノイに根回しもしておいた。
 丁度ノイが分御霊わけみたまティターン様の里で修行中で良かった。

「そういえば、冒険者の指揮はどなたがされるのですか?
 アスペラルダとフォレストトーレの冒険者は首都のギルドマスターがする事になっていますけど」

 これはアインスさんとパーシバルさんの両名の事だ。

「クランで参加を募集したので多くは各クランの参謀に任せますが、
 全体の動きに関しては我々も同じく首都のギルドマスターにお願いしました」
「あぁ、例のセリアンスロープの・・・」
「流石、ご存じでしたか。
 冒険者としても優秀ですし元から人に指示を出したり全体を見る目がいいので」
「いずれ渡りは付けたいと思っていましたので。
 あちらから来てくださるのであれば助かりましたね、宗八そうはち
「良かったですね、アルシェ様」

 例のハイドディアのギルマスか。
 運が良いというか良すぎて何か落とし穴を警戒してしまうな。

『(マスター)』
「(早かったな。どうだった?)」
『(協力は約束してくれましたが、
 すぐに手助け出来るのはパラディウム様とネルレント様だそうです。
 後は会う時間を割かなくていいとのことです)』
「(判断が早くて助かるな。
 じゃあ大戦1週間前には迎えに行くと伝えておいてくれ。
 ノイにはその間何度か行き来してもらうと思う)」
『(どうせギリギリまで修行ですしいいですよ。
 じゃあ伝えておくです)』

 ノイが上手く交渉してくれたおかげですんなりまとまった。
 まぁ元からティターン様は協力的だったから、
 助けてくれるとは思っていたけどな。

「失礼しますアルシェ様。
 土精霊の協力はいただけるようですが、
 2名までしか間に合わせられそうに無いとのことです」
「2名ならアーグエングリンとユレイアルドでいいかしらね」
「アスペラルダかユレイアルドかは話し合われた方がいいです。
 戦力は教国が上ですので必要かどうか判断が付きません」
「わかりました。聖女と話してみます」

 彼らとの対話の間に隙を見て話しかけた。
 配置については個人戦力が強力な教国かなぁ。
 でも、広範囲攻撃をされたらアナザー・ワンは自分を守れるけど、
 たぶん他の奴が死ぬ可能性が出てくる。
 うちにも欲しいけど、
 うちにはノイ以外にも魔法で防御はいくらでも取れるからな。

「申し訳ありません、先ほどの続きですが土精の協力を得られたそうです」
「い、いつ確認されたのですか?
 そちらの・・・水無月みなづき君・・・そうか君か」

 ふふふ、気づいてしまったか。

「改めまして、アルシェ様の護衛隊長、クラン[七精の門エレメンツゲート]リーダー、
 アスペラルダが有する精霊使いの水無月宗八みなづきそうはちと申します。
 以後お見知りおきを」
「精霊を連れていないので気づくのが遅れたな。
 いやはや、どうやって連絡を取っているのかな?」
「念話です。契約精霊と心で話をすることが出来ます。
 丁度ティターン様の元へ帰らせているタイミングだったので聞いてもらいました」

 他国の奴が自国が奉っている四神が一人、
 ティターン様と繋がりがあると知ればどう思うだろうか。
 嫉妬するだろうか。
 無礼だと怒るだろうか。
 悔しくて泣き出すだろうか。

 彼は目を見開きはしたが取り乱さなかった。

「それは・・・羨ましいやら恐れ多いやらだね。
 精霊使いの噂は多少届いてはいたのだけどね、
 実際は何を行って実績を立てているのかはわからなかった。
 敵の情報だけがどんどん届く状況に国も困惑をしていたんだよ」
「こそこそ隠れて動いておりましたし情報規制も布いてましたので。
 私に繋がる糸は残さないようにしておりました。
 敵に各個撃破されては困りますから」
「それも王から伺っていた。
 それにしては情報が出なさすぎだったよ。
 王も破滅を危険視していない時期に諜報人員の話を聞いたらしく、
 勝手にすればいいと投げやりに許可をしたからね」

 アルシェはアーグエングリン王がどんな考えだったかわかっていたかのように静かだ。
 まぁ破滅の呪いを考えればそんなもんか。
 もっと世界の事に必死になろうよ!とも言えんよな。

「話を戻しますね。
 土精の協力で広範囲防衛や逃げるときの時間稼ぎも出来ることになります。
 少なくとも死傷者は出にくくなりますね」
「感謝致します、アルカンシェ姫。
 こちらは合流する為にどのような動きをすればよろしいでしょうか?」
「1週間程度後にアーグエングリンの陣営へ私がお連れします」
「わかりました」

 こんな感じで終始細かな穴抜けした情報や、
 資料だけでは伝え切れていない補完をして土の国との摺り合わせは終わった。
 もっと早くにやれればよかったんだけど、
 まぁ人生うまくいかないもんだよな。

 夕方前か。どうしようかなぁ。
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