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第11章 -休日のユレイアルド神聖教国-
†第11章† -06話-[仕事押し付けられんやないかいっ!!]
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『ねぇますたー、他の人たちは気にしなくていいの~?』
「大事なのは教皇とクレアとアルシェの3人だし、
あそこが急に慌ただしくなって守りに入ったら全員嫌でも気が付くさ」
それにこの熱気はまだチャージ中だろうにかなり周囲に影響を与える。
地面を覆っていたクーの[反転世界]は交代した事で全て解除し、
そのコーティングが無くなった[《凍河の息吹》]で凍てつきもあの熱量で融解してしまっている。
熱に強い俺たちですらちょっと暑いなぁと思うのに、
観客席に座る彼らが何も感じないわけがない。
『あ、逃げ始めたね~』
「避難を始めたと言いなさい。
とりあえず、こっちはいつでも止める用意があるけれど、
彼らの避難が終わるのをギリギリまで待とうか。
お二人もあっちに避難した方がいいですよ?」
アクアの言い方を窘めた俺が次に声を掛けた先は、
審判としてこの場に残り続けているアナザー・ワンのクレチアさんとリッカだ。
「お言葉は嬉しいのですが、
今回は正式な審判を仰せつかっているので離れるつもりはありません」
「ク、クレチア様と同意見です!」
会場の端に居るとはいえあの熱気はかなり危険だ。
それにこれからの対応を考えると退場していただかないと俺たちも心置きなく対処出来ない。
「《闇縛り》」
離れすぎで影の支配範囲外だったため、
数歩彼女達に近づき身動きを止める魔法を発動させる。
二人の影からはもちろん視覚的に女性から嫌がられる黒い手が体を登っていく。
「わわわっ!な、何をするのですかっ!水無月様!」
「こんなことをしては失格になってしまいますよ(棒)」
「ク、クレチア様!何故に棒読みなのですか!?
それに腕を掴まれては抵抗が出来ませんっ!」
「失格で結構です。
邪魔なので教皇の元へ行っててください」
俺たちの所行に慌てるリッカ=二階堂が、
黒い手の進行を防ごうと振るおうとした腕をガッチリ掴み邪魔をするクレチアさん。
その棒読みとニヤケ面は何をするのか予測済みなのでしょう?
以前に見せたこともあるしそれは良いとしても、
初見のリッカにはちゃんと説明してあげた方が良いと思いますよ?
「あーっ!か、影に!影に体が沈んでいきます!
クレチア様!て、手を離してください!」
「あーれー(棒)」
恐慌状態で影に落ちていくリッカとは対照的に、
棒読みでそれっぽい台詞だけを口にはしつつも手を振るう余裕で沈んでいくクレチアさん。
ひどい寸劇を見た。
「(クー、審判二人を影に落とした)」
『(確認済みです。すぐに引き上げますね)』
流石はうちのしっかり者の次女だ。
『避難終わったっぽい~?』
「そうだな、終わったように見える。
だけどあっちも準備完了のようだ」
比較的素早い避難だったと思ったけれど、
出入り口の大きさなどの影響で時間が掛かったらしい。
そのおかげもあり、
振り返った先の勇者は地面から離れ空中に移動して、
見た目だけでいえばかなり格好良い状態になっていた。
彼の真上で構築されていた巨大光球も少しだけ縮まっていて、
威力が底上げされているのだと想像が出来る。
「エクスが一緒に居てこの状況ってのが想像出来ないんだけど。
理性があるならたかが模擬戦でここまでの技を出すかね?」
『なんでだろうね~。
終わったら話を聞いてみないとねぇ~』
「《くぁwせdrftgyふじこlp!!》」
「《来よ》《氷竜一閃!》」
熱を纏う光球が勇者の手から放たれると、
視界はその光球に占領され眩さに目も眩む。
感じ取れていた熱量も合わせて急激に上がり、
水竜の鱗で覆われたアクアが『んん~!熱い~!』とすぐに音を上げる声が聞こえてくる。
しかし、それはすぐに収まった。
理由は明確。
勇者魔法の[ブレイズ・リュミエール]とやらの熱量よりも、
俺たちが放った対魔神族仕様の一閃の方が強力だった、ただそれだけである。
被害を抑える為に撃ち放つ方向は斜め上方へ位置取りを調整したおかげか、
会場そのものへのダメージは再び銀世界の誘われるだけに留まったようにも見える。
「おっと、危ねぇ!」
光球の着弾を防ぎアルシェ達の身柄を守ることにも成功した事までは確認し、
視線を上空に居た勇者に向けると丁度落下をし始める姿を捉えたため慌てて真下でキャッチした。
『カチコチだね~。
ステルシャトーは直接受けてもこんなになってなかったよぉ~?』
「凍結の状態異常だな。
あれはアイツの属性のおかげじゃないのか?
逆に高濃度の翠雷無双突が当たれば麻痺にはなると思う」
『なるほど~』
おそらくアーティファクトが勇者の意思を、
凍結によって受け取れなくなったから落下したんだと思うけど。
直接は当てていないけれどすぐ近くを通過しただけでこれなら、
フォレストトーレでの戦い方も気をつけないと周りを巻き込む事になるな。
でもダメージが通るのはこれだけだし、
周りを気にしていたら戦いにすらならないよなぁ・・?
『(お父さま、外の様子は如何でしょうか?
出ても問題が無ければ魔法を解除致します)』
「(出ても大丈夫だ。
周囲は凍り付けになっているけど、
勇者は凍結状態で沈黙しているしこれ以上は何も起こらない)」
『(かしこまりました)』
クーの連絡を受けたのでこれからあいつらも出てくるだろう。
アクアとの水精霊纏を解除しつつ、
視線をアルシェ達の元へと向けると会場だけでなくかなりの広範囲で銀世界となっている教国に驚愕する面々。
『もしかしてさ~魔石使わなくても良かった~?』
「かもしれないな。
でも過ぎた話だし、もしも力負けした場合を考えると強気にやって正解だったさ」
「メリオッ!」
「水無月さん!メリオは無事!?」
会場の出入り口が氷で塞がれていたのを砕いて出てきたのは、
勇者PTの騎士マクラインと魔法使いミリエステの二名。
勇者が勝っていればこんな氷で覆われた世界にはなっていないだろうから、
状況をみて慌てて回収に来たんだと思われる。
「生きてはいますが、凍結の状態異常になっています。
エクスも反応がありませんからおそらく同じ状態なのかと」
「わかりました、ありがとうございます」
「凍結なら少し待てば解除されるわね」
「こちらも確認したいのですが、
模擬戦であそこまで攻撃性も高く周囲への影響もある魔法を使ったり、
扱い切れてもいないアーティファクトを持ち込んだのですか?」
「えっと、それはですね・・・」
勇者の様子に安堵する二人に、
現状に到る原因を作った勇者の所行について聞いてみると難しい顔をして黙ってしまう。
「あー、そうですね・・・。
メリオは・・・その・・・・」
歯切れが悪いな。
騎士の方は言い倦ねてゴニョゴニョ言っているけど、
魔法使いの方は真剣な顔つきで少し考え込んで居る。
その魔法使いが意を決したように瞳を俺に向けてきた。
「はっきりと言ってしまえば劣等感だと思います」
「劣等感?誰に対して?」
「貴方です、水無月さん。
メリオは貴方に出会うまでの約1年を通してそれなりに努力をして強くなりました。
エクスカリバーを手にした時は、
特に特別な力はないけれど勇者の聖剣だからという理由で渡され、
ずっと使ってきましたが変化はなく、
ようやく貴方と出会ったことでエクス様と巡り会えたわけです」
「精霊使いじゃないとわからない事だったと思いますよ?
あのときは思いついただけで確信があるわけでもありませんでしたし」
「それでも、です。
そしてフォレストトーレでの救出作戦の作戦立案は貴方と姫様。
メリオはただの陽動でしたよね?
別に攻めている訳では無く適材適所であった事も私たちは理解しています。
決定打は魔神族の襲来だと思いますが・・・」
ここまでの話を聞けば確かに劣等感を抱いてもおかしくは無いように思う。
歳も俺より下だし突然召喚をした姫様と一緒に現れて自分並みに活躍する姿を見れば、
否が応にも意識はしてしまうだろう。
魔神族の件は俺の責任じゃ無いけどな。
「メリオはあの時一度死にました。
聖女クレア様のおかげで生き返ることは出来ましたが、
死んでいる間に見た光景と見逃された水無月殿の功績などから特に意識していたのです」
「シュティーナは何を考えているかわからないし、
マティアスは単純に強い奴と戦いたいっぽい。
どっちも勇者であるメリオが倒すべきと俺は考えているが?」
「確かに水無月殿は、
そのスタンスで破滅に関しての調査を進めていると伺っています。
しかしその行動力や知識、
そして決断力などメリオがいまいち持てなかった素質を貴方は持っておられる」
それは絶対勇者に言うなよ?
心折れちゃうからな?
「水無月さんに指示されていた通り、
書物を読みあさりアーティファクトを探す合間にアナザー・ワンと訓練し、
メリオは以前よりもこのひと月でずいぶん強くなりました。
それが自信にも繋がりしばらくは持ち直していたのです、ですが・・・」
「水無月殿は龍を従えて再びメリオの前に現れてしまった・・・」
「龍を連れる理由は報告書で伝えていたでしょう?
別に戦力に数える為に連れているわけでもないし、
彼らも俺の力になるために着いてきたわけではありませんよ?」
「それでも、ですよ・・・。
メリオの目から見れば、貴方が勇者に映るようなのです」
「私たちはもちろんメリオが勇者であると思っているわ。
でも、メリオの中の私たちはすでに勇者像を貴方に投影している」
なんというか、若いなぁ。
考え方の違いなんだろうけど、
俺は元よりこの世界への現れ方が召喚ではなかったし、
別段勇者が良かったと思うほど救世へのモチベーションもなかった。
だからせめて勇者が魔王を倒すまでの間、
クレアが予言した破滅について調べておこうと思って行動を開始したに過ぎない。
精霊も力不足を補う為だし、
破滅やオベリスクを追えば魔神族と当たるのも自然の事だ。
そして無駄死にもしたくないので短期間で強くなる努力をした。
頭もフル稼働させて魔法も精霊と共に創り出した。
ただ、覚悟が足りていないだけにしか俺には見えない。
「それは勇者が悪い。
俺は勇者じゃ無いし、エクスカリバーとも契約していない。
聖剣と契約して正式な勇者になったのは他でもないメリオなのに、
自分を信じ切れず努力も中途半端だからと考えられないのか?」
「水無月殿とメリオの明確な違いはその心の有り様です。
貴方はいつも達観したような諦観したような、
折れず常に一定の緊張感の持って居られる。
しかしメリオはそれを持ち合わせてはいません」
「19歳の若者にそれは無理を言っているでしょう」
「水無月さんも20歳前後と聞いているわ。
あ・・・そうか、ここで無意識に比べてしまっていたのね」
顔を合わせるのは2度目とはいえ、
勇者PTはこれで大丈夫なのか?
勇者は心が折れて劣等感から模擬戦で無茶をしたし、
おそらくエクスは止めてくれたと思うが、
それも振り切っていると考えると信頼関係が危うい。
さらに仲間が深層意識で本当に俺と勇者を比べているのであれば、
繊細な心を持つ青年がなんとなく感じ取ってしまう事も理解出来る。
勇者に選ばれたと聞いたときに喜んでいたと聞けば、
純粋な青年なのだとわかる。
つまり原因は、
1.(異世界人だとバラしてすらいない)俺
2.仲間
3.魔神族かな?
最後に到ってはなんか勇者より意識されてるっぽいだけだが・・・。
「とりあえず勇者暴走の原因はわかりましたが、
俺は勇者の周りを今後もウロチョロする予定ですが、
前回や今回のように直接関わろうとはあまり考えていません。
2つ目の原因である仲間の深層意識についてはもっと彼を信頼することで解決するでしょう?」
「信頼はしています」
「しているつもりなんですよ。
貴方達も俺じゃなくてアルシェやマリエルに同じような劣等感を抱いている。
少なくとも意識はしていると俺は思います。
勇者の仕事は魔王討伐ですが、
それを実行するにしても破滅はかならず介入してきますから、
勇者PT全員が俺たちを意識しないようにしなければ解決はないと思います」
「「・・・・・」」
俺の言い分に言葉を失う二人。
言い過ぎたとは思わんよ?
お互いを励まし支えて進むのが王道でしょうに、
何故か疑心暗鬼になって勝手にガタガタな勇者一行などに構っている暇はない。
こちとらフォレストトーレを解決した後は、
土の国を回って獣人族の領域まで行きたいと考えているんだ。
その後は魔族領の調査もしたいから火の国にも入る必要もあるかもしれないし、
当初の1年程度でぇ~という甘い考えは捨ててスケジューリングも始めている。
『ますたー、やっと解除が始まったよ~』
「やっとか・・・、高濃度魔力の扱いにもっと慣れないとな」
肩車状態のアクアが魔法を解除したのは、
戦闘が終わって水精霊纏を解いてからだ。
ようやく足下の氷がペリペリと地面から剥がれ魔力へと還元していく。
凍てついた範囲はそれなりに広大だし、
数時間は解除に掛かると思われる。
「ともかく、ひと月後のフォレストトーレまでは共闘することになります。
俺たちはアスペラルダ王国側として、
貴方たちはユレイアルド神聖教国側として守るべき者の為に戦う。
それを意識して今後は行動するようにしてください」
「わかった。そちらを意識しないよう努力もするし、
勇者を支えられるくらいの自信も身につけられるよう訓練も怠らない」
「むしろ倒すべき敵と思うくらいが丁度いいのかしらね?」
騎士は頭が固いのか鼻で笑いそうになることを抜かすが、
魔法使いの方はボコボコに言われた事で逆に心が晴れたらしく凄い事を言い始める始末だ。
「俺は俺のしたいように行動しています。
必要だからしている行動ですので邪魔をすれば敵として処理しますから、
もしも俺の動きに介入するのでしたらその心積もりの覚悟を持って居た方がいいと思いますよ」
「本当に食わないわね・・・、マクライン!
もうここに用はないでしょう?メリオも回収したし撤収しましょう」
「お、応。では、水無月殿」
「あ、時間を見つけてエクスに俺たちの元へ来るように伝えてください。
精霊使いの先輩として少し話を伺いたい」
「必ず伝えます。失礼します」
そう言うと、凍り付けのメリオを抱えたまま二人はあっけなく会場から去って行った。
発破を掛けたりなぞ俺の仕事ではないというのに・・・。
とはいえ誰の仕事かと聞かれればわからないんだけどさ・・・。
「あ、雪?」
「いえ、霰ですよクレア。
教皇様も危ないので屋根のあるところに避難してください」
話に集中していたので気が付いていなかったが、
いつの間にやら雲の彼方へ消えた氷竜一閃の影響で雪が降り始めていたらしい。
勇者PTが退場した入り口とは別のところから雪の降る光景が見えたのか駆け出して来たクレアを窘めるアルシェ。
おっと、雪が降っていたのは確かに間違えはないのだが、
粒が徐々に大きくなって体にぶつかる感触もし始めている。
「こりゃ解除が間に合わないな」
『ますたー、アクア達も避難しよ~よ~』
「はいはい。でも、この後に控えていた龍のブレスを受ける催しは延期だろうなぁ」
何事も計画通りに行かないのが人生よのぉ。
俺の異世界巡りのスケジュールだってどこまで計画通りに進むかもわからないし、
何が起こっても対処出来る力は持ちたいところだね。
* * * * *
結局その日は氷が全て剥がれ魔力に還元するまでに数時間を用し、
その旨を説明すると教皇と共に窓の外に降り続ける霰を見つめていたクレアは笑いながら「じゃあ続きは明日にしましょう」と言ってくれた。
コンコン。
「サーニャです」
『はい、何用でしょうか?』
というわけで暇になった午後からは、
当然先日の続きとして図書館に籠もって読書をひたすらに続けていたところ、
サーニャの訪問をクーデルカが受ける。
「報告だけですので扉前から失礼します。
メリオ様が先ほど目を覚ましたとの事です。
それと夕食の前にエクス様が時間を設けたいと仰せです」
「エクス様?何故エクス様だけが私たちに接触を?」
「あー、メリオの仲間にエクスと話がしたいって伝えてたんだ。
思ったよりも早い行動だったな。場は任せて良いのか?」
「もちろんです」
「じゃあ、用意が出来たら呼んでくれ」
「かしこまりました」
扉の前からサーニャの気配が遠ざかるのを確認すると、
俺は再び手元にある本へと意識を落と・・・。
「お兄さん、待って」
落とそうとしたところで可愛い妹が顔を無理矢理自分に向かせる。
「何かなアルシェ?」
「何かなじゃないです。
さっきのエクス様との件を私は聞いていませんよ?」
「んー、勇者との模擬戦が終わってすぐに、
凍り付けの勇者を回収するため仲間が二人来たんだよ。
そいつらに精霊サイドから話を聞くために調整してくれってお願いをしたんだ」
そういえば雪だの霰だの一通り騒ぎが終わった後は、
教皇とクレアと離して図書館に籠もったのだが、
俺は組み手の疲れもあって少しだけ仮眠を取ってすっかり忘れていたのだ。
「話をするといっても今日の勇者の暴走を見て、
もしかして信頼関係を上手く構築出来ていないんじゃないかって懸念が出てさ」
「確かにあの魔法をエクス様が止めていれば別の形で決着が着いたはずですね」
「まぁ、勇者PTがこのままでいいのかって事を聞くだけだよ。
余計なお節介はしたくないんだけど、
使えなくなるのだけは避けたいからな」
「何かそのお仲間から聞いたのですか?」
「言わないよ」
「む~」
む~って何だよ可愛いなおい。
その後は特にアルシェからの詰問はなく、
教国の本を読みあさってメモ帳に必要そうな単語や情報を書き込んでいく作業に没頭した。
必要そうなのはとりあえず戦力を増やすことだし、
伝説の~とか隠された~とか財宝を~は確実に残し、
メモで予想を立てた内容から地図にポイントを書き込む。
一応、武器か防具かの記載も探してはいるけれど、
何故かしっかりと記録が残っていない。
再びサーニャが呼びに来た時には、
地図上に10カ所も何かが埋まっている可能性がある場所が書き込まれていた。
「情報の整理が得意なのですか?
姫様や護衛や幼い精霊だからと少し見誤っていたようでございます・・・」
「逆にこれだけの情報を見逃していたお前らの無能っぷりに俺たちは驚きだよ」
「まぁ、確かに見落としすぎな感は否めませんね。
もう少し精査が得意な人物に任せた方が良いかと思います」
「ご進言ありがとうございます。
アルカンシェ姫のお言葉はかならず教皇様にお伝え致しますので」
当然今回勇者が見つけてきたアーティファクトの隠し場所を除いてこの数なのだから、
何に力を入れて1ヶ月を過ごしたのか本当に聞きたいところ・・・、
なんだが所詮他国の護衛隊長の言葉を信じて100%の投資は出来ませんよとアルシェに言われて仕方ないよなと考え直した。
「お兄さんだけで行くのですか?」
「いや、アクアも連れて行こうと思う。
なんだかんだで精霊使いになってからの付き合いだし長女だし」
『アクアもエクスに話聞きたいしいいよ~』
「わかりました。
私たちは夕飯の時間まで図書室に籠もったままで待機します」
「かしこまりました。
では、水無月様は着いてきてください」
「アルシェ、行ってくる。
マリエルは護衛頼むぞ」
「行ってらっしゃい、お兄さん」
「はーい。隊長もお気をつけを~」
今後の状況整理の為にエクスから聞き取り調査をするだけの予定なのに、
お気を付けも何もないっての・・・。
マリエルの適当な見送りに心の中で突っ込みを入れつつサーニャの案内に従って神殿内を歩き始める。
廊下の外はすでに夜の帳も降りていた・・・。
「大事なのは教皇とクレアとアルシェの3人だし、
あそこが急に慌ただしくなって守りに入ったら全員嫌でも気が付くさ」
それにこの熱気はまだチャージ中だろうにかなり周囲に影響を与える。
地面を覆っていたクーの[反転世界]は交代した事で全て解除し、
そのコーティングが無くなった[《凍河の息吹》]で凍てつきもあの熱量で融解してしまっている。
熱に強い俺たちですらちょっと暑いなぁと思うのに、
観客席に座る彼らが何も感じないわけがない。
『あ、逃げ始めたね~』
「避難を始めたと言いなさい。
とりあえず、こっちはいつでも止める用意があるけれど、
彼らの避難が終わるのをギリギリまで待とうか。
お二人もあっちに避難した方がいいですよ?」
アクアの言い方を窘めた俺が次に声を掛けた先は、
審判としてこの場に残り続けているアナザー・ワンのクレチアさんとリッカだ。
「お言葉は嬉しいのですが、
今回は正式な審判を仰せつかっているので離れるつもりはありません」
「ク、クレチア様と同意見です!」
会場の端に居るとはいえあの熱気はかなり危険だ。
それにこれからの対応を考えると退場していただかないと俺たちも心置きなく対処出来ない。
「《闇縛り》」
離れすぎで影の支配範囲外だったため、
数歩彼女達に近づき身動きを止める魔法を発動させる。
二人の影からはもちろん視覚的に女性から嫌がられる黒い手が体を登っていく。
「わわわっ!な、何をするのですかっ!水無月様!」
「こんなことをしては失格になってしまいますよ(棒)」
「ク、クレチア様!何故に棒読みなのですか!?
それに腕を掴まれては抵抗が出来ませんっ!」
「失格で結構です。
邪魔なので教皇の元へ行っててください」
俺たちの所行に慌てるリッカ=二階堂が、
黒い手の進行を防ごうと振るおうとした腕をガッチリ掴み邪魔をするクレチアさん。
その棒読みとニヤケ面は何をするのか予測済みなのでしょう?
以前に見せたこともあるしそれは良いとしても、
初見のリッカにはちゃんと説明してあげた方が良いと思いますよ?
「あーっ!か、影に!影に体が沈んでいきます!
クレチア様!て、手を離してください!」
「あーれー(棒)」
恐慌状態で影に落ちていくリッカとは対照的に、
棒読みでそれっぽい台詞だけを口にはしつつも手を振るう余裕で沈んでいくクレチアさん。
ひどい寸劇を見た。
「(クー、審判二人を影に落とした)」
『(確認済みです。すぐに引き上げますね)』
流石はうちのしっかり者の次女だ。
『避難終わったっぽい~?』
「そうだな、終わったように見える。
だけどあっちも準備完了のようだ」
比較的素早い避難だったと思ったけれど、
出入り口の大きさなどの影響で時間が掛かったらしい。
そのおかげもあり、
振り返った先の勇者は地面から離れ空中に移動して、
見た目だけでいえばかなり格好良い状態になっていた。
彼の真上で構築されていた巨大光球も少しだけ縮まっていて、
威力が底上げされているのだと想像が出来る。
「エクスが一緒に居てこの状況ってのが想像出来ないんだけど。
理性があるならたかが模擬戦でここまでの技を出すかね?」
『なんでだろうね~。
終わったら話を聞いてみないとねぇ~』
「《くぁwせdrftgyふじこlp!!》」
「《来よ》《氷竜一閃!》」
熱を纏う光球が勇者の手から放たれると、
視界はその光球に占領され眩さに目も眩む。
感じ取れていた熱量も合わせて急激に上がり、
水竜の鱗で覆われたアクアが『んん~!熱い~!』とすぐに音を上げる声が聞こえてくる。
しかし、それはすぐに収まった。
理由は明確。
勇者魔法の[ブレイズ・リュミエール]とやらの熱量よりも、
俺たちが放った対魔神族仕様の一閃の方が強力だった、ただそれだけである。
被害を抑える為に撃ち放つ方向は斜め上方へ位置取りを調整したおかげか、
会場そのものへのダメージは再び銀世界の誘われるだけに留まったようにも見える。
「おっと、危ねぇ!」
光球の着弾を防ぎアルシェ達の身柄を守ることにも成功した事までは確認し、
視線を上空に居た勇者に向けると丁度落下をし始める姿を捉えたため慌てて真下でキャッチした。
『カチコチだね~。
ステルシャトーは直接受けてもこんなになってなかったよぉ~?』
「凍結の状態異常だな。
あれはアイツの属性のおかげじゃないのか?
逆に高濃度の翠雷無双突が当たれば麻痺にはなると思う」
『なるほど~』
おそらくアーティファクトが勇者の意思を、
凍結によって受け取れなくなったから落下したんだと思うけど。
直接は当てていないけれどすぐ近くを通過しただけでこれなら、
フォレストトーレでの戦い方も気をつけないと周りを巻き込む事になるな。
でもダメージが通るのはこれだけだし、
周りを気にしていたら戦いにすらならないよなぁ・・?
『(お父さま、外の様子は如何でしょうか?
出ても問題が無ければ魔法を解除致します)』
「(出ても大丈夫だ。
周囲は凍り付けになっているけど、
勇者は凍結状態で沈黙しているしこれ以上は何も起こらない)」
『(かしこまりました)』
クーの連絡を受けたのでこれからあいつらも出てくるだろう。
アクアとの水精霊纏を解除しつつ、
視線をアルシェ達の元へと向けると会場だけでなくかなりの広範囲で銀世界となっている教国に驚愕する面々。
『もしかしてさ~魔石使わなくても良かった~?』
「かもしれないな。
でも過ぎた話だし、もしも力負けした場合を考えると強気にやって正解だったさ」
「メリオッ!」
「水無月さん!メリオは無事!?」
会場の出入り口が氷で塞がれていたのを砕いて出てきたのは、
勇者PTの騎士マクラインと魔法使いミリエステの二名。
勇者が勝っていればこんな氷で覆われた世界にはなっていないだろうから、
状況をみて慌てて回収に来たんだと思われる。
「生きてはいますが、凍結の状態異常になっています。
エクスも反応がありませんからおそらく同じ状態なのかと」
「わかりました、ありがとうございます」
「凍結なら少し待てば解除されるわね」
「こちらも確認したいのですが、
模擬戦であそこまで攻撃性も高く周囲への影響もある魔法を使ったり、
扱い切れてもいないアーティファクトを持ち込んだのですか?」
「えっと、それはですね・・・」
勇者の様子に安堵する二人に、
現状に到る原因を作った勇者の所行について聞いてみると難しい顔をして黙ってしまう。
「あー、そうですね・・・。
メリオは・・・その・・・・」
歯切れが悪いな。
騎士の方は言い倦ねてゴニョゴニョ言っているけど、
魔法使いの方は真剣な顔つきで少し考え込んで居る。
その魔法使いが意を決したように瞳を俺に向けてきた。
「はっきりと言ってしまえば劣等感だと思います」
「劣等感?誰に対して?」
「貴方です、水無月さん。
メリオは貴方に出会うまでの約1年を通してそれなりに努力をして強くなりました。
エクスカリバーを手にした時は、
特に特別な力はないけれど勇者の聖剣だからという理由で渡され、
ずっと使ってきましたが変化はなく、
ようやく貴方と出会ったことでエクス様と巡り会えたわけです」
「精霊使いじゃないとわからない事だったと思いますよ?
あのときは思いついただけで確信があるわけでもありませんでしたし」
「それでも、です。
そしてフォレストトーレでの救出作戦の作戦立案は貴方と姫様。
メリオはただの陽動でしたよね?
別に攻めている訳では無く適材適所であった事も私たちは理解しています。
決定打は魔神族の襲来だと思いますが・・・」
ここまでの話を聞けば確かに劣等感を抱いてもおかしくは無いように思う。
歳も俺より下だし突然召喚をした姫様と一緒に現れて自分並みに活躍する姿を見れば、
否が応にも意識はしてしまうだろう。
魔神族の件は俺の責任じゃ無いけどな。
「メリオはあの時一度死にました。
聖女クレア様のおかげで生き返ることは出来ましたが、
死んでいる間に見た光景と見逃された水無月殿の功績などから特に意識していたのです」
「シュティーナは何を考えているかわからないし、
マティアスは単純に強い奴と戦いたいっぽい。
どっちも勇者であるメリオが倒すべきと俺は考えているが?」
「確かに水無月殿は、
そのスタンスで破滅に関しての調査を進めていると伺っています。
しかしその行動力や知識、
そして決断力などメリオがいまいち持てなかった素質を貴方は持っておられる」
それは絶対勇者に言うなよ?
心折れちゃうからな?
「水無月さんに指示されていた通り、
書物を読みあさりアーティファクトを探す合間にアナザー・ワンと訓練し、
メリオは以前よりもこのひと月でずいぶん強くなりました。
それが自信にも繋がりしばらくは持ち直していたのです、ですが・・・」
「水無月殿は龍を従えて再びメリオの前に現れてしまった・・・」
「龍を連れる理由は報告書で伝えていたでしょう?
別に戦力に数える為に連れているわけでもないし、
彼らも俺の力になるために着いてきたわけではありませんよ?」
「それでも、ですよ・・・。
メリオの目から見れば、貴方が勇者に映るようなのです」
「私たちはもちろんメリオが勇者であると思っているわ。
でも、メリオの中の私たちはすでに勇者像を貴方に投影している」
なんというか、若いなぁ。
考え方の違いなんだろうけど、
俺は元よりこの世界への現れ方が召喚ではなかったし、
別段勇者が良かったと思うほど救世へのモチベーションもなかった。
だからせめて勇者が魔王を倒すまでの間、
クレアが予言した破滅について調べておこうと思って行動を開始したに過ぎない。
精霊も力不足を補う為だし、
破滅やオベリスクを追えば魔神族と当たるのも自然の事だ。
そして無駄死にもしたくないので短期間で強くなる努力をした。
頭もフル稼働させて魔法も精霊と共に創り出した。
ただ、覚悟が足りていないだけにしか俺には見えない。
「それは勇者が悪い。
俺は勇者じゃ無いし、エクスカリバーとも契約していない。
聖剣と契約して正式な勇者になったのは他でもないメリオなのに、
自分を信じ切れず努力も中途半端だからと考えられないのか?」
「水無月殿とメリオの明確な違いはその心の有り様です。
貴方はいつも達観したような諦観したような、
折れず常に一定の緊張感の持って居られる。
しかしメリオはそれを持ち合わせてはいません」
「19歳の若者にそれは無理を言っているでしょう」
「水無月さんも20歳前後と聞いているわ。
あ・・・そうか、ここで無意識に比べてしまっていたのね」
顔を合わせるのは2度目とはいえ、
勇者PTはこれで大丈夫なのか?
勇者は心が折れて劣等感から模擬戦で無茶をしたし、
おそらくエクスは止めてくれたと思うが、
それも振り切っていると考えると信頼関係が危うい。
さらに仲間が深層意識で本当に俺と勇者を比べているのであれば、
繊細な心を持つ青年がなんとなく感じ取ってしまう事も理解出来る。
勇者に選ばれたと聞いたときに喜んでいたと聞けば、
純粋な青年なのだとわかる。
つまり原因は、
1.(異世界人だとバラしてすらいない)俺
2.仲間
3.魔神族かな?
最後に到ってはなんか勇者より意識されてるっぽいだけだが・・・。
「とりあえず勇者暴走の原因はわかりましたが、
俺は勇者の周りを今後もウロチョロする予定ですが、
前回や今回のように直接関わろうとはあまり考えていません。
2つ目の原因である仲間の深層意識についてはもっと彼を信頼することで解決するでしょう?」
「信頼はしています」
「しているつもりなんですよ。
貴方達も俺じゃなくてアルシェやマリエルに同じような劣等感を抱いている。
少なくとも意識はしていると俺は思います。
勇者の仕事は魔王討伐ですが、
それを実行するにしても破滅はかならず介入してきますから、
勇者PT全員が俺たちを意識しないようにしなければ解決はないと思います」
「「・・・・・」」
俺の言い分に言葉を失う二人。
言い過ぎたとは思わんよ?
お互いを励まし支えて進むのが王道でしょうに、
何故か疑心暗鬼になって勝手にガタガタな勇者一行などに構っている暇はない。
こちとらフォレストトーレを解決した後は、
土の国を回って獣人族の領域まで行きたいと考えているんだ。
その後は魔族領の調査もしたいから火の国にも入る必要もあるかもしれないし、
当初の1年程度でぇ~という甘い考えは捨ててスケジューリングも始めている。
『ますたー、やっと解除が始まったよ~』
「やっとか・・・、高濃度魔力の扱いにもっと慣れないとな」
肩車状態のアクアが魔法を解除したのは、
戦闘が終わって水精霊纏を解いてからだ。
ようやく足下の氷がペリペリと地面から剥がれ魔力へと還元していく。
凍てついた範囲はそれなりに広大だし、
数時間は解除に掛かると思われる。
「ともかく、ひと月後のフォレストトーレまでは共闘することになります。
俺たちはアスペラルダ王国側として、
貴方たちはユレイアルド神聖教国側として守るべき者の為に戦う。
それを意識して今後は行動するようにしてください」
「わかった。そちらを意識しないよう努力もするし、
勇者を支えられるくらいの自信も身につけられるよう訓練も怠らない」
「むしろ倒すべき敵と思うくらいが丁度いいのかしらね?」
騎士は頭が固いのか鼻で笑いそうになることを抜かすが、
魔法使いの方はボコボコに言われた事で逆に心が晴れたらしく凄い事を言い始める始末だ。
「俺は俺のしたいように行動しています。
必要だからしている行動ですので邪魔をすれば敵として処理しますから、
もしも俺の動きに介入するのでしたらその心積もりの覚悟を持って居た方がいいと思いますよ」
「本当に食わないわね・・・、マクライン!
もうここに用はないでしょう?メリオも回収したし撤収しましょう」
「お、応。では、水無月殿」
「あ、時間を見つけてエクスに俺たちの元へ来るように伝えてください。
精霊使いの先輩として少し話を伺いたい」
「必ず伝えます。失礼します」
そう言うと、凍り付けのメリオを抱えたまま二人はあっけなく会場から去って行った。
発破を掛けたりなぞ俺の仕事ではないというのに・・・。
とはいえ誰の仕事かと聞かれればわからないんだけどさ・・・。
「あ、雪?」
「いえ、霰ですよクレア。
教皇様も危ないので屋根のあるところに避難してください」
話に集中していたので気が付いていなかったが、
いつの間にやら雲の彼方へ消えた氷竜一閃の影響で雪が降り始めていたらしい。
勇者PTが退場した入り口とは別のところから雪の降る光景が見えたのか駆け出して来たクレアを窘めるアルシェ。
おっと、雪が降っていたのは確かに間違えはないのだが、
粒が徐々に大きくなって体にぶつかる感触もし始めている。
「こりゃ解除が間に合わないな」
『ますたー、アクア達も避難しよ~よ~』
「はいはい。でも、この後に控えていた龍のブレスを受ける催しは延期だろうなぁ」
何事も計画通りに行かないのが人生よのぉ。
俺の異世界巡りのスケジュールだってどこまで計画通りに進むかもわからないし、
何が起こっても対処出来る力は持ちたいところだね。
* * * * *
結局その日は氷が全て剥がれ魔力に還元するまでに数時間を用し、
その旨を説明すると教皇と共に窓の外に降り続ける霰を見つめていたクレアは笑いながら「じゃあ続きは明日にしましょう」と言ってくれた。
コンコン。
「サーニャです」
『はい、何用でしょうか?』
というわけで暇になった午後からは、
当然先日の続きとして図書館に籠もって読書をひたすらに続けていたところ、
サーニャの訪問をクーデルカが受ける。
「報告だけですので扉前から失礼します。
メリオ様が先ほど目を覚ましたとの事です。
それと夕食の前にエクス様が時間を設けたいと仰せです」
「エクス様?何故エクス様だけが私たちに接触を?」
「あー、メリオの仲間にエクスと話がしたいって伝えてたんだ。
思ったよりも早い行動だったな。場は任せて良いのか?」
「もちろんです」
「じゃあ、用意が出来たら呼んでくれ」
「かしこまりました」
扉の前からサーニャの気配が遠ざかるのを確認すると、
俺は再び手元にある本へと意識を落と・・・。
「お兄さん、待って」
落とそうとしたところで可愛い妹が顔を無理矢理自分に向かせる。
「何かなアルシェ?」
「何かなじゃないです。
さっきのエクス様との件を私は聞いていませんよ?」
「んー、勇者との模擬戦が終わってすぐに、
凍り付けの勇者を回収するため仲間が二人来たんだよ。
そいつらに精霊サイドから話を聞くために調整してくれってお願いをしたんだ」
そういえば雪だの霰だの一通り騒ぎが終わった後は、
教皇とクレアと離して図書館に籠もったのだが、
俺は組み手の疲れもあって少しだけ仮眠を取ってすっかり忘れていたのだ。
「話をするといっても今日の勇者の暴走を見て、
もしかして信頼関係を上手く構築出来ていないんじゃないかって懸念が出てさ」
「確かにあの魔法をエクス様が止めていれば別の形で決着が着いたはずですね」
「まぁ、勇者PTがこのままでいいのかって事を聞くだけだよ。
余計なお節介はしたくないんだけど、
使えなくなるのだけは避けたいからな」
「何かそのお仲間から聞いたのですか?」
「言わないよ」
「む~」
む~って何だよ可愛いなおい。
その後は特にアルシェからの詰問はなく、
教国の本を読みあさってメモ帳に必要そうな単語や情報を書き込んでいく作業に没頭した。
必要そうなのはとりあえず戦力を増やすことだし、
伝説の~とか隠された~とか財宝を~は確実に残し、
メモで予想を立てた内容から地図にポイントを書き込む。
一応、武器か防具かの記載も探してはいるけれど、
何故かしっかりと記録が残っていない。
再びサーニャが呼びに来た時には、
地図上に10カ所も何かが埋まっている可能性がある場所が書き込まれていた。
「情報の整理が得意なのですか?
姫様や護衛や幼い精霊だからと少し見誤っていたようでございます・・・」
「逆にこれだけの情報を見逃していたお前らの無能っぷりに俺たちは驚きだよ」
「まぁ、確かに見落としすぎな感は否めませんね。
もう少し精査が得意な人物に任せた方が良いかと思います」
「ご進言ありがとうございます。
アルカンシェ姫のお言葉はかならず教皇様にお伝え致しますので」
当然今回勇者が見つけてきたアーティファクトの隠し場所を除いてこの数なのだから、
何に力を入れて1ヶ月を過ごしたのか本当に聞きたいところ・・・、
なんだが所詮他国の護衛隊長の言葉を信じて100%の投資は出来ませんよとアルシェに言われて仕方ないよなと考え直した。
「お兄さんだけで行くのですか?」
「いや、アクアも連れて行こうと思う。
なんだかんだで精霊使いになってからの付き合いだし長女だし」
『アクアもエクスに話聞きたいしいいよ~』
「わかりました。
私たちは夕飯の時間まで図書室に籠もったままで待機します」
「かしこまりました。
では、水無月様は着いてきてください」
「アルシェ、行ってくる。
マリエルは護衛頼むぞ」
「行ってらっしゃい、お兄さん」
「はーい。隊長もお気をつけを~」
今後の状況整理の為にエクスから聞き取り調査をするだけの予定なのに、
お気を付けも何もないっての・・・。
マリエルの適当な見送りに心の中で突っ込みを入れつつサーニャの案内に従って神殿内を歩き始める。
廊下の外はすでに夜の帳も降りていた・・・。
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