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第10章 -青龍の住む島、龍の巣編Ⅰ-

†第10章† -09話-[青龍の巣、中心部への突入]

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「手筈通りにさっさと破壊するぞ。
 フロスト・ドラゴンは意識を保っている事も考慮して、
 近づく必要があればメグイヌオールの名前を使って言い訳しながら接近しろよ」
「言い訳って・・・途端に低レベルな作戦に思えてきましたよ、隊長」
「簡単な作戦ならいいじゃないか。
 おら、行くぞマリエル!ニルも頼むな!」
『任せて下さいましー!
 魔力供給がいっぱいありますからガンガン使って護りますわー!』

 目に見える形で魔力の層を上げては下げてアピールするニルを撫で、
 一旦分かれることとなる後方陣営に目を向ける。

「メグイヌオールは戦闘が起こったときに参加出来ないだろうから、
 ここで終わるまで待機でいいのか?」
『行ったところで的になるだけなら、
 せめてお前達の魔力を肩代わりすることに集中する』

 先の話をしている間にも魔力の回復が行われた関係で、
 余裕が生まれ始めているらしい。
 龍は何をするにも魔力を使う為、
 小さく変化させた体を動かさずに首だけを動かして肯定を示す。

 次にメリーとクー、そしてポシェントだ。

「アルシェとアクアの魔法鉄板ペアだけど、
 不測の事態ってのはどこにでも有る話だ。
 俺の指示が無い限りは三人が護衛として動け」
『「かしこまりました」』
『了解した。戦闘になれば前に出よう』

 ここまで戦闘を見れていないので不安なところはあるけれど、
 名高きポセイドンの位階であれば予想よりも高い戦闘力を有してくれていることだろう。
 メリーとクーも休日の間に新しい魔法と戦力を訓練していたし、
 そう簡単には死ぬことは無いはずだ。

 この場にいる他の者への指示出しが終わり、
 最後にアルシェとアクアに視線を戻す。
 だが、ここで何をいう必要があるだろうか?
 やることは変わらないのだ。

「行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
『すぐに追いつくからねぇ~!』


 * * * * *
「《滅・紅蓮衝ぐれんしょうっ!!》」

 龍の巣へ突入してから長く少し左曲がりの通路を魔力縮地まりょくしゅくちで駆け抜ける。
 元は岩山であるとメグイヌオールから聞いてはいたものの、
 ドラゴンたちが住みやすいようにと氷山へと姿を変えている為、
 岩肌に触れても氷点下の冷たさが返ってくる始末だ。

 しかも順路通りに通っているつもりでも、
 ブルー・ドラゴンが抵抗した証として残る氷の壁がそこかしこの壁をブチ抜き、
 通路を塞いでしまっている為、
 都度融かしては殴って破壊をしなければならない。

「ノイ、大丈夫か?」
『問題は無いです。
 マスターの機転で龍から魔力を回収する手は最高ですね。
 これだけ魔力の無駄遣いをしても次から次へと回復していくですよ!』

 そりゃよござんしたね。
 でも無尽蔵じゃないし技を使えば使うほどメグイヌオールも消耗しちゃうから、
 早めにオベリスクの破壊を済ませてしまいたいんだよなぁ。
 ちなみに反対の右曲がりの方向へはマリエルとニルが進んでいるので、
 いずれは合流することとなるだろう。

 しかし、無駄遣いというがなノイさんや。
 魔力を犠牲にしないとオベリスクの中では消耗していくだけになるんだから、
 その言い様はどうなのかね?

『マスター、突っ込むならちゃんと口にしたらどうです?
 心の中で言ってもシンクロ中なのですから丸わかりです』
「わかるように言ってるんだよ。
 っと・・・そろそろか?消耗が強くなってきた」

 そう呟いた瞬間通路の奥、視界の端からオベリスクが映り込む。
 だが、続けてその奥からメグイヌオールよりも大きな個体で、
 背中からは飛べそうも無い翼の生えた龍が横たわり、
 その体からはオベリスクを2本生やしていた。

「直刺しとはやるじゃないかっ!そう来るかっ!」
『あんな物を体に入れるなんて・・うぅ。
 治療はともかくさっさと砕いてしまうですっ!』

 自分の体にオベリスクが侵入することを想像したのか、
 有りもしない気持ちの悪さで身を震わせてフロスト・ドラゴンの解放に奮起するノイ。
 そりゃ弱点ともなるオベリスクが体に入るなんて地獄以外の何物でも無いと思うからな、
 シンクロしていれば尚更気持ちは理解できる。

 しかし、俺はここで言い訳タイムを選ぶぜ!

「メグイヌオールから案内されて来ました!
 意識があるなら抵抗せずにそのままで居て下さい!
 私たちは敵ではありません!」
『動くと敵と見なしてぶん殴りますです!』

 この水無月宗八みなづきそうはち、相手が弱っていても状況が状況なので容赦はせぬ!

「ぜぇあああああああ!」

 バキンと一発まずは手前の一本目を破壊。
 これにより一段階軽くなった重圧に合わせてノイが魔力の層を抑えつつ、
 同時に地面に一旦足を落ち着ける為に立ち止まる。

 魔力縮地まりょくしゅくちの速さでは流石に龍の動向に対応出来ないからな、
 大口を開けて待たれでもすればそのまま腹に収まる未来が容易に想像出来るくらいだ。

「意識はありますかっ!?」
『・・・聞こえておる。
 メグイヌオールと口にしておったがそれは真か?』

 先の呼び声には反応を示さなかったフロスト・ドラゴンだが、
 近づいてから再度の呼び掛けには片目だけを開いて答えてくれた。
 というより、もう片方の目は勇者の剣くさかべに似た氷の破片が刺さって潰れているようで見ていて痛々しい。

『アイス・ドラゴンのたかが1体の名前を敵が知っていると思うですかっ!?』
『精霊?いや、人にも見えるな・・・。
 まぁいいか、ひとまず我を解放せしめる事が可能なのだな?』
「可能ですから動かないで下さいよ!」
『この黒い柱の所為かピクリとしか動けぬから安心せよ』

 ピクリと動けるだけですごいと思います。
 動かぬフロスト・ドラゴンから返事を受け、
 すぐさま足裏に魔力を集めて破裂させてオベリスクに向けて飛び出す。
「動いたらマジでぶん殴りますからねっ!」
『多少痛むでしょうが、我慢して下さいですっ!』

 再三の勧告だけは保険として叫ばせてもらう。

「ぜりゃああああああ!!」
『・・・んぐぅぅぅぅぅ・・・・・っ!』

 バキンと一発、体に刺さった一本目を破壊。
 とはいえ痛くないように破壊するなぞ、
 今の俺たちにそんな余裕はないので遠慮無しに破壊をさせてもらった際に、
 フロスト・ドラゴンからは苦痛に耐える唸り声が聞こえてきた。

 そりゃ皮膚は鱗に覆われて防御力が高いのかもしれないけれど、
 オベリスクはその皮膚を貫通して肉に食い込んでいる。
 それを俺たちが殴りつけた時に、
 固定のされていないオベリスクがかき混ぜられるような形で肉を抉り返した為だろう。

 っていうかよく貫通したよな・・・。
 龍の魔法生物特性がそれだったのかな?

『二本目!行くですよ!』
「歯を食いしばってください!
 あと、動けるようになったからって襲わないで下さいね!」
其方そなた、ちとクドいぞっ!!
 敵が誰かはわかっておるから早く動けるようにせいっ!!』

 再四となるお願いについにキレ申されたフロスト・ドラゴンの咆哮を合図に、
 中空にて再び魔力縮地まりょくしゅくちで自分たちを弾き飛ばし、
 二本目の刺さったオベリスクへと突進する。

「おらああああああ!!」
『っっっ・・・・・!!!』

 拳の打ち込みではなくラリアットで破壊した影響だろうか・・・。
 フロスト・ドラゴンは先ほどよりも痛みが酷かったのか、
 唸り声も獣らしさのある「GURRRRR・・・」って感じだった。
 急ぎとはいえ少々手荒にしすぎただろうか?

 俺は地面へとライディングを無事に終えると周囲を見回して目当ての魔石を探す。
 おっ!尻尾の下敷きになってるけど、
 それなりの大きさで割れてない魔石発見っと・・・。

「《|アイシクルエッジ》セット:魔石」

 オベリスクの影響も完全になくなった通路で俺の足下が一瞬で凍り付き、
 すぐに砕けては魔力に変換され手にする魔石へと吸収されていく。
 魔力を多めにしたので中級魔法と同等の増幅がこれで見込めるはずだ。

「フロスト・ドラゴン。
 失った魔力を回復させる手段がありますので、
 これを口に含んで頂けますか」
『助けて貰ったことには礼を言うが、
 得体の知れぬ魔力を我が体に警戒もなく入れるような下手は打たぬ』
「魔力枯渇状態で死にかけのアイス・ドラゴン達は、
 これで命を繋いでいましたけどね・・・。
 不要と言うなら無理強いはしません。
 とりあえず、敵の姿を見たのであればどんな容姿だったか教えて貰えませんか?」

 つい聞き流してしまいそうな程度の言葉ではあったが、
 確かにこのフロスト・ドラゴンは敵が誰かわかっていると吐いていた。
 容姿によっては知っている魔神族か分かり、
 いざ戦闘になっても多少作戦を立ててから戦闘に突入することが出来る。

『・・・容姿はフード付きの外套を着ていた為はっきりはわからぬ。
 ただ、言葉を交わした際に顔を見る機会はあった。
 あれは・・・エルフ族に見えたな』
『エルフ族? この辺境に普通のエルフが来るとは思えないです。
 だったらマスター達が懸念している魔神族です?』

 フード付きの外套という容姿は以前から目撃されている魔神族と一致する。
 まぁ、シュティーナだけは何故か白い魔女っぽい格好をしていたけどな・・・。

「顔だけでの判断であれば、
 整っていて耳が尖っていたという事ですか?」
『さよう・・・だが、
 顔は色白く髪も水色であったことからヴァンヤール族かとも思うたが、
 あの瞳は何かに支配されているような、
 それでいてたがが外れたような印象を与えた』
『ヴァンヤール族をボクは知らないですけど・・・』
「ヴァンヤール族は海のエルフと呼ばれている。
 俺も以前に関所で見かけたくらいだししっかりと覚えているわけじゃない。
 では、ヴァンヤール族に近いエルフ種と思われたのですね」
『肯定』

 顔だけの情報ではあるが、
 今まで名前と容姿を多少見たことのある魔神族から検索すると、
 イキりのナユタ、滅消めっしょうのマティアスは男だから除外。
 苛刻かこくのシュティーナは容姿からして違うし、
 隷霊れいれいのマグニはメリーの聞いた声の感じから違って欲しいと願わざるを得ない。
 というわけで、新しい魔神族の可能性が高い・・か・・。

『質問は以上か?
 我はブルー・ドラゴンフリューアネイシアの元へ急ぎ行かねばならない』

 そう言うとフロスト・ドラゴンは、
 巨体を持ち上げながらこの場を去ろうという意思を示した。
 急ぎたい気持ちはこちらも同じではあるが、
 死地に行くなら持っている情報は全て吐き出してから死んで欲しい。

「ちょっと待って下さい。
 魔神族はまだいるのですか?」
『奴の臭いがまだ巣にこびり付いて居る。
 間違いなくブルー・ドラゴンフリューアネイシアの元で竜玉りゅうぎょくの出現を待っているのだろう』

 また新しい情報が出てきた。
 別に俺は頭が良いわけでは無いんだから、
 もっとスマートな展開でズバッと敵を倒すだけというわけにはいかないものなのか・・・。

「その竜玉りゅうぎょくとは何ですか?
 一度は負けた貴方が手負いでブルー・ドラゴンの元へ行ってどうするのですか?」
竜玉りゅうぎょくは我々の至宝。
 代々のブルー・ドラゴンが受け継ぎし力の源だ。
 我がフロスト・ドラゴン、それだけでブルー・ドラゴンフリューアネイシアの元へ行くに足る理由となる』
『頭が固い騎士みたいな龍です・・・』

 苛ついて来た頭を押さえつけ冷静を装って質問を重ねると、
 フロスト・ドラゴンは急いでいると言いつつも回答をくれる。
 竜玉りゅうぎょくって俺たちの世界の物ってどんな役割をしていただろう?
 少なくともこの世界では、
 ブルー・ドラゴンが護ってきた力の結晶みたいなものって認識で良いのか?
 二つ目についてはノイが俺の感想と同じ事を溢しているからそれについては触れないでおこう。

 他に聞いておきたい事を脳細胞をフル稼働して考えている途中、
 反対回りをさせていたニルからの念話が入ってきた。


 * * * * *
『(そうはちー、こっちでオベリスクを3本破壊しましたわー!)』
「(こっちも3本破壊した。
 ってことは丁度内部の外周を6本でカバーしてたのか・・・。
 今はフロスト・ドラゴンから情報を引き出しているところだ)」
『(こっちもフロスト・ドラゴンと接触しましたわー!
 でも、オベリスクの影響が無くなった途端に、
 礼も言わずに中心に向かって走って行っちゃいましたわー!)』

 だから敵が居るなら居るでいいんだけどさっ!
 負けたお前達が負傷した状態で現場に行ったところで好転はしないだろうがっ!
 自分が関わらないことであれば、
 その感情論で動く事に関しては何も言うつもりはないが、
 現状はドラゴンが負けた事実しか俺たちはまともに受け取れていないんだ。

 フロスト・ドラゴンに直接オベリスクが刺さっていたことから、
 上位存在のブルー・ドラゴンに刺さっていない訳が無いし、
 であればオベリスクの効果でまともに戦わせてもらえる訳が無い。

「貴方の片割れがブルー・ドラゴンの元へ向かった様です」
『彼奴も無事であったか・・・。
 では我も遅れるわけには行かぬでな。
 さらばだ、人と精霊よ』

 そう言うとフロスト・ドラゴンは体を光らせて、
 メグイヌオールと同じく体を小さくしてからのっしのっしと移動を開始し、
 通路の向こうへと消えていった。
 まぁパワー系に見えるあの巨体よりは、
 小さい体の方が移動はしやすくなるもんな・・・。
 どうしよ・・・。

「(こっちのフロスト・ドラゴンも向かったわ)」

 通路向こうから何かを破壊するような爆音が聞こえるけれど、
 おそらく通路を塞いでいる氷壁を強行突破しながら突き進んで居られるのだろう。

『(どうしますのー?)』
「(魔神族はまだ居るっぽいから、
 一旦全員で合流しておきたいところだな。
 俺とノイは先行するからお前達はアルシェ達と合流して内部を進め)」
『(かしこまりーですわー!)』

 さて、これでマリエルとニルが安全に戦場までアルシェ達をエスコートしてくれる。
 ブルー・ドラゴンがどれほど特別な龍なのかは不明だが、
 上位龍を抑えるにはオベリスクを適当に建てるだけではなく、
 直接突き刺すのが有効な手段のようだ。
 ってか、フロスト・ドラゴンも効果は無くなったとはいえ、
 オベリスクの破片が体に刺さったまま行っちゃったけど本当に大丈夫なんだろうか・・・。

『ボク達だけで行くです?』
「どっちかと言うとフロスト・ドラゴンとの戦闘に介入して、
 オベリスクを破壊して戦場を整える事が目的だけどな。
 急がないとアルシェ達が追いついちまう・・・」
『今回の魔神族は初顔合わせなんですよね?』
「おそらくだけどな。
 隷霊れいれいのマグニの分御霊わけみたまの可能性もあるけど、
 勇者の剣くさかべに似た氷塊が目に刺さっていたから次の奴は氷使いってところかな・・・」

 力が強力な分魔神族はそれぞれがひとつの属性しか所持していないように思え、
 マグニは闇、シェティーナは時空、ナユタが雷、マティアスは無と仮定出来る。
 ただし、それが本人の能力かアーティファクトかまではちょいと情報が足りないけどな。

「とりあえずフロスト・ドラゴンの気配に紛れて中心に近づこう。
 簡易隠遁ミスディレクションで気配を抑えて静かに急ぐぞ」
『ボクの以外の魔法はお任せするですよ』
魔力縮地まりょくしゅくちは使わず足で駆けるから体重の増減は任せるぞ」
『お任せあれです』


 * * * * *
 しばらく前から戦闘が始まったと思しき地響きがズズゥゥン・・・ズズゥゥン・・・と地面と壁から伝わり、ビリビリ・・・と衝撃音も反響し始めた。

 俺たちが風の制御と闇の制御で足音と気配を消して氷で出来た通路を駆け抜けている途中。
 通路を再び塞いでいる氷の壁に遭遇したのだが、
 どうやらフロスト・ドラゴンはこの壁を破壊せずに近道することを選択したらしい。

「だからって巣の壁をブチ抜くか?」
『ブルー・ドラゴンのブレスですでに穴は空いている訳ですし、
 多少穴が広がっても大して変わらないんじゃないです?』

 通路は確かにそこで行き止まりとなってしまったが、
 その横には大きめの荒い作りの穴がぽっかりと空いていた。
 龍の膂力で無理矢理こじ開けたのがわかる大きさで開いた穴は、
 多分空けた後にまた小さくなって通り抜けたんだろうなと想像に難くなかった。

「そんでそのまま中心まで抜いていったのか・・・。
 通路が右往左往するからって無茶をするなぁ」
『それだけ竜玉りゅうぎょくとやらとブルー・ドラゴンが大事なのですかね』

 俺たちが通るだけなら十分すぎるほどに広がる新しい通路を覗き込むと、
 向こうからは戦闘が既に始まっている様子がチラチラと視界に映る。
 龍の咆哮とも言える鳴き声と何かがぶつかり合い、
 何かが崩れるような音も混ざって聞こえてくる始末だ。

『どうするですか、マスター?』
「行くに決まってるだろ。
 このまま中心部に突入するぞ」

 どうやら中心となるブルー・ドラゴンが鎮座する場所は、
 広い空間となっており天井はなくとも吹雪が届かない構造になっているらしい。
 まるで火山口みたいではあるが、
 もしかしたらこの島って休火山だったりするのかな??

 まぁ空が広がっているなら、
 マリエル達の活躍の場が整っている事の表れであるわけだから、
 魔神族の対応次第では活躍する機会もあるだろう。

 聞こえる戦闘音がだんだんと大きくなるのを聞きながら、
 ついに俺たちは最後の壁へと辿り着き背中を預ける形で一度落ち着ける。
 コソリと覗き込むと、
 部屋の中央部にはフロスト・ドラゴンのさらに1.5倍ほどの大きさを持つ、
 おそらくブルー・ドラゴンが6本のオベリスクで串刺しとなって、
 地面に転がっている様子が・・・って!6本!?
 6本ってことは・・・6本ってこと!?

『6本ってことは6重ってことです。
 真顔で内心騒がしく出来るって相当器用だと思うですよ?』

 そこは放っておいてくれノイちゃん。
 もしかしたら体の向こう側にも刺さっている可能性はあるので、
 もっと重い効果エリアとなっているかもしれない。
 であれば尚更俺とノイの二人でせめて3本までは実験済みなので破壊をして数を減らさなければマリエルを投入することはしづらい。

 そして、俺が送り出したフロスト・ドラゴンともう一体の・・・、
 マリエル達の方から来たであろう両フロスト・ドラゴンが戦う相手は、
 どこからどう見ても魚の姿をしている。

 ただし、大きさはフロスト・ドラゴンに負けず劣らずであるし、
 ぬるりと動き大きく横長に潰れたジンベイザメを彷彿とさせる奇異な個体は、
 地面に潜って体当たりを繰り返しているようだ。
 しかし、潜る行為が物理的に砂に潜るような物では無く、
 魔法のように地面の下の空間を泳いでいるように思えた。
 フロスト・ドラゴンも片目だけでなく片腕をいつの間にか失ってしまっている。

 さらにもう一匹の魚は、
 相棒とは正反対の高機動タイプのようで、
 鎧のような体で広い空間を縦横無尽に動き回り突進を繰り返している。
 その威力は弱ったフロスト・ドラゴンにも受け止めきれるものではなく、
 そちらも鱗はひび割れ血が噴き出しており、
 脇腹に到ってはべっこりと不自然な凹みを見せている。

「あれ、どういう生き物かわかるか?」
『空中を泳いだり地面の中を泳いだり、
 あんな大きさの魚の知識なんてボクが持っているわけないですよ』

 それもそうか・・・。
 ノイは水産業の少ない土の国出身だし、
 里から出る機会なんて誘拐の時くらいしかなかっただろうからな。
 他に魔神族の姿はないかと広場の中を見回すと、
 ブルー・ドラゴンの上に座り込んで黄昏れている様子で佇む少女?がいるのを遠目で確認した。

「あれが氷使いの魔神族?」
『マスターのイメージで見た他の魔神族に比べると幼い印象です』

 確かに遠目ながら見た目で言えばアルシェと同い年くらいの幼さを感じるな。
 とりあえず念話で視界で得られた情報は流すために、
 意識をアクアとクーとニルの三人に集中する。

「(敵の情報と状況を伝えるぞ)」
『(あいさ~)』
『(お願いします)』
『(マリエル達に伝えますわー!)』

 俺の呼び掛けにそれぞれが返事をしてわちゃわちゃしてるけど、
 念話に負担はないので同時念話でそのまま話を続ける。

「(俺とノイが進んだ方向に進むと、
 途中で氷の壁で塞がっていて行き止まりに行き着くんだが、
 横の壁を龍が破壊して中心に向かう道が出来ているからそこから来い)」
『(あい)』
「(ブルー・ドラゴンのいるところは大広間になっていて、
 ブルー・ドラゴンはオベリスクが6本刺さって転がされている。
 敵勢力は魔神族と思われる少女が1人と、
 空中を泳ぐ巨大魚が二匹。
 地面に潜って襲いかかるタイプと鎧みたいな体で突進するタイプ。
 どちらも現在はフロスト・ドラゴンと交戦中。劣勢。)」
『(介入に悩む状況ですね・・・)』
「(お前達が来る前にオベリスクの数は俺とノイが減らす。
 その後は俺達とアルシェ達で魔神族と相対。
 天井が大きく抜けているからマリエルとニルには、
 鎧魚の方を相手して引き離せ。
 地面に潜るタイプはメリー達とポシェントに抑えさせる)」
『(お任せですわー!)』

 鎧魚は大広間の高い天井でも不自由なく回遊しているから、
 どこまで高くまで自由なのかはわからないが、
 マリエルとニルのペアが[限定解除リミットリリース]すれば、
 完封できる可能性すらあり得る。

 地面に潜るタイプは奇襲からのひと囓りがメイン攻撃に見える。
 潜った後は気配を探れないから本当に潜っている訳では無く、
 別空間を泳いでいるっぽいけど・・・それについても気配を追えないから、
 明らかに通常の魔法などの類いでは無い。
 かといって俺が対応するわけにはいかないので、
 冷静に分析できて空間にも精通するメリーとクーを当てて、
 攻撃力に期待できるポシェントを据えれば上手く回りそうだ。

 最後に魔神族の対応に俺+ノイが前衛として、
 アルシェ+アクアが後衛として抑え込み、
 いまのところは勝てるとも思えないから撤退を勝利条件と設定しておこう。
 前情報も氷使い(予想)でしかないうえに、
 あの二匹の魚もどういう関係なのかも不明だから、
 基本的には探り探りの戦闘となってしまうけれど、
 防御に適したノイとコンビネーションで言えば鉄板のアルシェとアクアが一緒なのだ。

 そう簡単にやられもしない俺たちを相手に、
 あの魔神族がどの程度手札を見せてくれるかにも因っていくけど、
 魔神族を相手にする際のセオリーなどが学べれば今後の対応にも進展が見えてくるという物。

 その後はほとんど臨機応変の簡単な作戦だけを説明し、
 落ち着いて気配を殺しながら中心まで来ることを重ねて伝えた。

『(アルに伝えるね~、ノイはますたーの事お願いね~)』
『(メグイヌオールの魔力が切れない限りは護れる自身はあるですよ)』
『(ポシェント様の戦闘スタイルなどしっかりと確認しておきます)』
『(倒した魚で最後に鍋パーティーですわー!)』

 最後の1人がおかしな事を言っているけど気にしない。
 シリアスにならないのはいつものことだし。

「(クーだけは念のために俺ともシンクロを頼む。
 手の内が分からない状態でオベリスクの破壊を優先する関係で無茶をしなきゃならん)」
『(置換などでの回避ですね、かしこまりました)』

 クーとのシンクロが繋がり、
 ノイを纏う俺の体からじんわりと漆黒のオーラが漏れ始めた矢先・・。

『GAAAAAAAAAAAAッ!!!』

 龍の咆哮が先ほどよりも近くで聞こえると同時に、
 俺達が隠れている穴の反対側の壁が破壊され、
 中からフロスト・ドラゴンの一匹が吹き飛ばされ通路まで出てきてしまった。
 一瞬フロスト・ドラゴンの眼が俺たちへと向けられたが、
 すぐに現在交戦中の敵へと視線を戻すと、
 吹き飛ばされたコイツを追って来た鎧魚がゆるりと姿を現した。

 俺が一般人のままであればここで生唾のひとつも飲み込んでしまったのだろうが、
 もう俺は立派な異世界の戦士の1人になっているようだ。

 ゲームでしか見たことの無いリードシクティスにしか見えないのに、
 機敏な動きを見せていたこの魚が姿を現した瞬間。
 体は自然と死角となる真下へと素早く移動を開始し、
 状況的にもこれ以上この場に隠れ続けることも出来ない為、
 予定よりも早い展開となってしまうが、
 俺とノイは自然の垣根を乗り越えて大広間への突入を開始したのだった。
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隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

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