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第10章 -青龍の住む島、龍の巣編Ⅰ-

†第10章† -04話-[氷塊のオベリスク]

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「俺とメリーの制御力はほぼクーの転移に集中させる。
 クーはその他にも外殻を頼む!」
『〔かしこまりました!〕』

 クーの役目はノイが撃ち抜くジュエルの外殻を補強し、
 破壊できる威力の温存と海による射速の減衰を少なくする為に、
 転移にて初速を保てるよう転移をさせる事。
 その制御力のサポートに魔法が不得手なメリーと足りない制御力を俺の二人で後押しする。

「アクアとアルシェはセーバー達の護りと支配域の制御に集中。
 海の中に弾を通す程度のトンネルを作ってくれ!」
『あい!』〔はい!〕

 もっとも魔力の削られが激しいアクアには申し訳ないが、
 水の扱いが出来る唯一の存在の為に無理をさせる必要がある。
 海底が見えない俺たちの視界となる為に近距離にてセーバーと共に潜るアクアと、
 離れた地点にいるアルシェの協力のもと、
 海の中に弾丸を通すだけの道筋を繕ってもらうことも不可欠だ。

「ノイはジュエルの発射と硬化に集中。
 シンクロは諸事情によって出来ないけど、
 弾のサポートがあまり出来ない分硬化は出来る限り頼むな」
『状況的にはサブマスターが居ないボクだと足りない可能性があるですよね?
 足を引っ張らないようにガチガチにしてやりますです!』

 何やら納得をしているのか悔しくてやけくそなのかわからないテンションだな。
 アクアの竜玉りゅうぎょくを用いたカノン以外で言えば、
 ノイの砲撃が一番頑丈で威力も頼りになるので、
 そこまで気負う必要もないんだけど・・・。
 そんな気持ちを込めて頭を撫でてみると、
 頬が少しだけプクッと膨れたような気がする。

「ニルはソニックのベクトルを加速に偏らせて効果時間を短くしてくれ。
 転移もあれば一瞬でオベリスクまで届くはずだ。
 マリエルは外殻を作る為に足りないニルの制御力を補う役割だけど、
 強制的に集中させられるような感覚になるから身を委ねるように力を向いておけ。
 ただし、護衛としての役割もその場でやるんだぞ!」
『あいさーですわー!』
〔ちょっ!隊長!私だけ無茶苦茶言わないでくださいよ!
 結局どうすればいいんですかっ!〕

 ノイの重力制御との合わせ技でニルが施すベクトルソニックは、
 テストもすでに行い済みで効果は実証されている。
 ただ加速時間が短いと転移後の着弾と同時に効果切れで超威力が失せてしまうから、
 その辺は俺の意図を掬ってニルが調整してくれるだろう。
 ただ、極端な制御は制御力を結構食う為、
 マリエルの力も使わせてもらって外殻の3層を担当してもらう運びとする。

「力を抜いてニルに身を委ねつつ、
 アルシェの護衛として周囲への警戒も怠らず、
 何かしらが起これば身を挺して守れば良いんだよ」
〔無茶!そんな器用な事出来ませんからぁ~!〕
「じゃあ、さっさと破壊するぞ!」
〔話を聞いてー!〕
「セット!」

 魔法の効果時間も短く短期決戦にて一撃で成功させる為にも、
 役1名を除いて俺の一声に従って意識を切り替えて構えを取る。
 掛け声と共に俺も手を翳してアクアとの繋がりから、
 おおよその位置とシンクロによる視界の支援を受けて撃ち込む場所を確定する。

 そして一息に発令は下された。

「てぇ-!!」
『《ソニック!》』
『《転移ジャンプ!》』
『シュート!!』
『(うぉりゃーーーー!!!)』

 それぞれの詠唱だったりトリガーだったり掛け声はほぼ同時であった。
 まずニルのソニックが発動されて、
 ノイが用意している大型クリスタルに初速極振りのソニックが纏うと、
 翠雷すいらいの鎧を着込んだような風が吹き荒れ、
 通常であれば明らかにやり過ぎな様相を呈している。

 次に瞬間遅れで発動したのはクーの時空魔法。
 翠雷すいらいの魔力を纏ったクリスタルの真正面の空間が歪み始め、
 小さな歪みは一気に広がり綺麗な円を描いて俺のゲートのように向こうが見える状態で固定された。

 そしてノイが発射の掛け声を上げれば、
 側に浮かんでいたジュエルは、
 ソニックの超加速によって一瞬でその姿を転移の歪みの向こうへと消し、
 向こうではアクアがわざわざ念話で気合いの入った咆哮を上げながら、
 海の中に形成したトンネルを視認出来ない勢いでオベリスクに迫る。

 瞬間、破壊。
 距離にして約600mでうち400mはクーの転移で短縮し、
 海のトンネルが200mをアクアとアルシェに頑張ってもらって作らせた。
 その600mは音速に程近い速度で射出されたジュエルによって一瞬で縮められ、
 その勢いのままオベリスクは破壊された。

「うおっ!」
『(ますたー!やったよぉ~!
 ちょっとやり過ぎだったみたいだけど~)』

 そりゃなんとなくわかってる。
 海の上に張られた氷にいるのにオベリスクを破壊した後、
 海の底にジュエルが突き刺さった衝撃で地響きを感じているからな。

「喜ぶのは後!アクア、索敵!」
『(あ~い! 《竜玉りゅうぎょくソナー!》)』

 アクアに次の指示を出した後は、
 直ぐさまエリアルジャンプでセーバー達が沈んで行った場所を目指して飛んでいく。

 オプションとはいえ竜玉りゅうぎょくの気軽さ加減が天元突破している今日この頃。
 アクアはニルに教わった振動の知識からソナーを編みだし、
 魔法として組み上げてしまった。
 見させてもらった限りでは俺のゲーム知識からもイメージの参考にしたらしく、
 竜玉りゅうぎょくを中心に輪が広がっていくエフェクトで、
 実際は竜玉りゅうぎょくを中心に球状の索敵をしている。

『(近くには居ないけどね~、
 もっと遠くからこっちに向かってる個体が・・・23?)』
「わかった、先にセーバー達を地上に上げてくれ」
『(あいさ~!)』


 * * * * *
 俺たちが到着した頃には、
 セーバーPTは全員氷上に移動してきており、
 アクアもすぐ側で海を見つめていた。

「おう、お疲れさん。
 同行させてもらって助かった、今後の参考にさせてもらう」
「色んな状況を想定して行動できる魔法は作っておくべきだし、
 今回のように魔法向きではどうしようもない状況だと魔力量に任せて場を整えることも必要になる」

 実際魔法が戦法の中心にある精霊使いとしては、
 魔法を封じられるとかなりの手札を失うことになってしまうが、
 うちの精霊までに成長するだけで魔力のゴリ押しでどうにか出来るようになる。
 セーバーの契約精霊であるリュースィであれば尚のこと、
 手札さえ用意出来れば今回の俺たちよりもスマートに対処出来る可能性は十分にあるのだ。

『がんばりましょう~、セーバー』
「そうだな。宗八そうはちの戦力を考えると、
 ディテウスの件ももっと真剣に検討すべきかもしれないな・・・」
「ニルの手札なら参考になるだろうから聞いてもいいし、
 セリア先生も近いうちにアスペラルダに戻るからそっちに相談するでも良いぞ」
「リュースィの魔法を増やすのも急務だけど、
 俺たちは無精の魔法を扱えるようになるのも同時進行だからな。
 なかなか宗八そうはちの考える戦力として換算するには時間は掛かるぞ」
「初動の目を増やす目的と次策のオベリスク破壊まで出来るんだ。
 それにここまで付き合わせているし十分に力にはなってもらっている。
 以降はセーバーだけでなくPTメンバーがどうしたいかによるだろ」

 戦闘面でも戦力換算は今でも出来るし、
 冒険者経験も長く、レベルは上、精霊使いでもあるセーバーは、
 今のままでも頼りになる。
 もちろんゼノウ達も加護がない彼らなりに努力を重ねている事も知っているからこそフォレストトーレや龍の巣にも同行させたのだし。

 足りない戦力にガッカリするよりも、
 出来る戦力をどう運用するかが大事なのだ。
 攻めの戦闘はメリオ達に任せて、俺たちは守りの戦闘をメインに据えているのも理にかなう運用だろう。

「魔法剣関連は今のところ俺たちしか満足に扱う事が出来ていない。
 魔法を武器に込めるという技術がいままでなかったらしいからだ。
 もし、覚えて戦力の一助にしたいのなら、アスペラルダに来ると良い」
「・・・あれは魔法の扱いについて学ばなければ扱いが難しいんじゃないのか?」
「そりゃ難しいさ。
 ゼノウ達にも教えているけど思った以上に難航していてな、
 どっちかと言えば上手くいきそうなのは魔法の知識のあるフランザとトワインの方だし」

 無精経由で俺たちの複合魔法を扱えるようになってきているフランザは、
 アルシェの教育もしっかりと知識として積み上げており、
 フォレストトーレで俺が使用した[ヴァーンレイド]の強化型魔法の[ブレイズレイド]も使えるようになっている。

 トワインも魔法弓を積極的に鍛えて、
 俺が城に帰る度に訓練に付き合わされるのだ。
 ゼノウとライナーは魔法兵の教導陣からの勉強に苦戦していると聞いている。

「つまり、俺たちもそこからってことだな・・・」
「そういうことだな。
 どうも魔法の捉え方が俺と違うみたいで、
 アルシェですら使えるようになるまでに苦労したからな。
 とりあえず、海の奴はどんなかは知らんがこの場は任せる」
「あいよ。手間を取らせたな、リーダー」
「以後はこちらでなんとか対処致します、クランリーダー。
 オベリスクの破壊はお任せください」

 セーバー、ノルキアの言葉に了承を見て、
 直ぐさまゲートを設置してアルシェ達の元へ開通させる。

「迫ってる奴が海から出てこないなら無視していてもいいから」
「了解」

 オベリスクは存在した。
 海の中には確認は出来ていないが魔力の薄まった影響下において普通の生物はいない。
 ならば可能性として一番高いのは禍津核まがつかくモンスターだから、
 もし地上にあがったとしても龍の相手は難しいと考えるかもしれない。
 であるなら、戦闘発生はないわけなのだから気にするだけ無駄にな
 る。

 セーバー達にはオベリスクに集中してもらう為の指示出しだけを行い、
 俺たちはさっさとその場を離れてアルシェ達との合流を果たした。


 * * * * *
 宗八そうはちがセーバーPTの元で対応中の同時刻--

「どうするよ、ゼノウ・・・」
「どうするも何も、正確な位置をまず認識できないとどうしようもない」
「方向は間違いないのよ・・・でもね・・・」
「この状況じゃどこかってのがわからないのよね」

 別行動を指示されオベリスク、もしくは異常を捜索中であったゼノウPTは、
 セーバーPT同様にオベリスクの効果範囲内足を踏み入れていた。

 視線は当然見渡す限りの氷原。
 しかし、セーバー達と状況は足場から違い、
 こちらは海面では無く陸が大きく伸びた地形であった為、
 オベリスクが陸上に打ち込まれていることに間違いは無い。
 どちらにしろゼノウ達がセーバーPTの理不尽な状況を知るよしはないのだが・・・。

「いや、悩むだけ時間の無駄だ。
 どっちにしろクランリーダーと姫様の迷惑になるなら早めに連絡をしてみよう」
「そうですね・・・そうしましょう」
「毎度これだと正直、俺情けなくなっちまうよ。
 出会ったときは下に考えてたんだぞ?」
「見る目が無かったのは確かだと思うわよ。
 その後からおんぶに抱っこ・・・私たちも努力を重ねてはいるけれど、
 彼らはそこもレベルが違うから仕方ないわ」

 ゼノウとフランザが早々に宗八そうはち達への相談を決めるなか、
 その背後では最近自信喪失気味なライナーの言葉に、
 トワインが慰めでは無く現実的な返しで追いつくにはまだ、
 まだまだ、まだまだまだ足りないという事を伝える。

「《コール》水無月宗八みなづきそうはち

 ピリリリリ・・ピリリリリ・・
 ゼノウが揺蕩う唄ウィルフラタにて宗八そうはちへ連絡を取り始めると、
 PT全員が雑談をピタリと止めて繋がる様子を見守る。
 しかし・・・。

「・・・拒否された」
「え? どういう事かしら」
「おそらくだが、
 セーバー達の方で何かあったか、宗八そうはち達の居る中央で何かあったかだが」
「中央で何かあったなら拒否すらしないのではない?」
「それもそうね。次、姫様にコールしてみましょうよゼノウ」
「そうだな。《コール》アルカンシェ様」

 ピリリリリ・・ピリリリrポロン♪
〔はい、どうしましたか?〕

 予想したとおり中央での問題では無くセーバー達の方で起こった問題に、
 宗八そうはちだけが対処の為に動いたらしい。
 マリエルは宗八そうはちも認める護衛であるし、
 メリーも侍従というには動きが良すぎるからな。
 この二人は姫様と共に中央に残されているだろう。

 そう考えたゼノウはすぐに状況打破の為の相談を行う。

「オベリスクの効果範囲を発見しましたが、
 オベリスクの姿を発見に至らず、
 大まかな方向しか判断が出来ない状態です」
〔・・・メリー地図を〕

 あちらで俺たちがいる場所の判断をするようだ。
 現在は中央もセーバー達もおそらく氷の上にいるだろうから、
 何か小さなヒントにする為に必要な事なのかもしれない。

〔氷の上にいますか?〕
「いえ、現在は陸地に移っています。
 もちろん島の中心に向かっているわけではありません」
〔なるほど、ではオベリスクは地上にありそうですね。
 大まかということは少量の魔力消費でしか判断していないのでしょう?〕
「そ・・・うらしいです」

 姫様の発言に魔法知識の薄い俺は担当をするフランザへ視線を向けると、
 揺蕩う唄ウィルフラタでモニタをしていた彼女が頷く。

〔・・・周囲の情報をください。
 オベリスクの他に目に入るものはありますか?〕
「氷の塊がそこらにあります。
 山のように中心から続いている物もあります」
〔わかりました。
 フランザ、ブレイズレイドをペルクと共に撃ってオベリスクの方向を示させなさい〕
「わかりました」

 炎系初級魔法である[ヴァーンレイド]の強化版、[ブレイズレイド]。
 宗八そうはちは一人で使用できると聞いているが、
 我々はヴァーンレイドを使えても風の制御は出来ない。
 しかし今は無精の精霊がそれぞれに居て、
 分担をすれば複合魔法も可能となっている。

 フランザは姫様の指示に素直に従う。
 城では師のように姫様によく付き従っている姿を見かけていたし、
 魔法使いとしてフランザは姫様を尊敬しているのが遠目にもわかった。

 その彼女が今、
 氷塊の一部へ向けて初動の魔法を唱える。

「お願いね、ペルク」
『ムイ!わかった!』

「《ヴァーンレイド》」

 翳す手のひらから火の玉が一つ発生し、
 その火が無精ペルクの送風に手伝ってもらい炎となり始める。
 フランザは大きくなる炎とそれに伴って増える送風量に合わせて、
 火の勢いが負けないように魔力をヴァーンレイドへと注いでいく。

「何度か見たけどよ・・・。
 魔法についての知識が増えたから分かるけど、
 この魔法って威力はデカいけど効率悪くないか?」

 確かにライナーが言うとおり、
 まずヴァーンレイドから時間を掛けてブレイズレイドへと昇華させる必要がある為、
 手順にしても宗八そうはちレベルでなければ戦術として組むには難しい部類だ。
 魔力の消費も汎用中級魔法よりも大きいと聞く。

 その答えはトワインが横から教えてくれた。

「ブレイズレイドは火属性と風属性を合わせる事で発動できる、
 今までの常識にない魔法よ。
 同時発動って観点からも普通は出来ないしやらない。
 無精のお陰でどうにかなっているいて魔力の負担くらいでいいなら効率はまだ良い方よ」

 さらに言えば汎用中級魔法であるフレアーヴォムは、
 そこまで遠くに投げられない範囲魔法だが、
 ブレイズレイドは元がヴァーンレイドなので遠くまで届かせることが出来る上に、
 着弾時に爆発もするので攻撃範囲も悪くないとのことだ。

 トワインからのブレイズレイド講座を聴いている間に、
 フランザのヴァーンレイドは明らかに通常の熱量と大きさを逸していた。

「みんな、撃つわよ!」
「頼む」

 他二人も頷きでフランザに返事を返すと、
 フランザは振り返っていた顔を目標とする方向へと向き直り。

「『《ブレイズレイド!!》』」

 契約精霊のペルクと声を合わせて、
 フランザは自ら進化させた炎の塊を氷塊に向けて撃ち放ったのだった。


 * * * * *
『あっち』
「あっちですね。
 ありがとう、ペルク」

 ブレイズレイドは今まで先ほど下調べの為にフランザが撃っていた魔法とは異なり、
 ずいぶんと奥まで進んだのが見て取れた。
 素人目に見ていてもどう違いが出るのかはわからなかったが、
 ペルクは魔力の消失から正確な方向を割り出したらしい。

「姫様。方向の割り出しは成功しましたが、
 氷塊に届いたところで魔法が消えてしまったので、
 氷塊自体にはあまり影響は出ていません」
〔方向がわかったのであればその方向へ進みなさい。
 おそらくオベリスクはその氷塊の中にあります〕
「中ですか?どうやって入れたんですか?」
〔入れたのでは無く地面に刺さった後にこの地の吹雪で表面が徐々に凍った結果です。
 魔神族がそこまで考えてかはわかりませんけれどね。
 氷塊の破壊は先の[ブレイズレイド]の魔力量を上げた物と、
 トワインの[バーストアロー]で対処してください〕

 トワインの魔法弓についてはある程度知っているが、
 オベリスクに対して有効かと言われると首を傾げてしまう。
 なぜなら弓はおろか矢ですら属性持ちではないし、
 魔法の矢に炎はない。
 これは無精が使える魔法の制限が無精王アニマの契約者である宗八そうはちと、
 彼の契約精霊の使える魔法のみという縛りがあるからだ。
 そして宗八そうはちには火精霊がいないので火矢の魔法が創られていない。

「バーストアローはヴァーンレイドを矢に込めて撃つ技だけど、
 ブレイズレイドの射速に比べるとずいぶんと差が出てしまうはず・・・。
 なるほど、そういうことですか」
「どういうことだ?」
「俺たちにも分かるように説明してくれよ」

 フランザと同じく姫様との会話をモニタしていたトワインも、
 俺とは別方向ではあったが指示の意味について悩んだ言葉を漏らす。
 だがすぐに回答にたどり着いたらしい。

「城でオベリスク講座を受けた際にアインスさんが言っていたでしょう?
 オベリスクは近い魔力から優先して消失させるから、
 他の範囲内の魔力の消失速度はガクッと落ちるのよ。
 だから私の矢が魔力を消失されている間に、
 魔力量を上げたフランザのブレイズレイドが氷塊にきちんと当たるってこと」
「なるほど、しかしそれならバーストアローである意味はあるのか?」
〔もしかしてトワインの説明でも聞いたのですか?
 射速が早いので込める魔力を限界まで調整すれば、
 ちゃんと爆破まで出来るでしょう?
 囮程度と考えているなら足りないと伝えて頂戴〕

 流石は姫様だ。頭の回転が速くてこちらの状況も当ててこられる。

「トワイン、バーストアローは囮では無く魔力限界で撃てば爆発するだろうと・・」
「くっ、流石は姫様・・・。
 宗八そうはちの妹を名乗るだけあって厳しい事を指示されるわ・・・」

 そこは血の繋がりがないのだから同意しかねるぞ。
 しかし、となるとフランザの魔法はバーストアローの囮がなくとも氷塊を融かせるとお考えってことになる。
 視線をフランザに向けると既にその意図は通じていたらしく、
 瞳を閉じて精神統一をしている最中であった。
 制御を誤るとその場で爆発することもあり、
 手のひらに立つペルクと共に集中状態に入っている。

「ご指示ありがとうございます。
 ひとまず対応をして露出すれば我々で破壊しようと思います」
〔はい、がんばってください。
 また迷ったときは遠慮無く連絡をしてください〕

 姫様とのコールはポロン♪という音を残して呆気なく終了した。
 会話をモニタしていたメンバーにも終わりは伝わり、
 フランザとトワインの両名がオベリスクの効果範囲ギリギリに立ちオベリスクのあろう位置を見つめていた。

「二人とも頼む」
「OKよ!任せて頂戴!」
「トワインが撃った後に続けて撃ちます。
 タイミングは伝えるわね」
「タイミングは10秒前には伝えてくれるとありがたいわ」

 頷き合う二人の背中を男二人で見守る。
 適材適所であると分かってはいる。
 氷からオベリスクが露出した後が俺たち男組の仕事だと。
 しかし、宗八そうはちのクランに参加したからには魔法の技術は必須事項で、
 勉強の中身を理解できても実際に扱う上での技術が追いつかない。

 その点この二人は早々に突破口を見い出し、
 フランザは魔法使いとしてアルカンシェ姫の後を追い、
 トワインは変則的な宗八そうはちの魔法剣を取り込み始めた。
 今後も宗八そうはち関係で動くのであれば、
 俺もライナーも魔法剣、もしくはそれに類する技術を持つべきだろうな。

「《ヴァーンレイド!》
 ペルク、大きくしすぎないでね。
 私の魔力を多めに込める必要があるそうだから、
 耐えられない熱量だと無駄になっちゃう」
『ムイ!』
「《ヴァーンレイド!》セット:弓矢!」

 フランザの翳す手の先に再び火の玉が発生し、
 同時に腕の上に移動していた無精のペルクが風を送り始める。
 その隣ではトワインがタイミング云々を言っていたのにもう魔法を矢に込め始めていた。

「おい、トワイン!まだ早いんじゃ無いのか!?」
「ライナーは本当に馬鹿ねっ!
 ぶっつけ本番で出来るほど私たちが完璧なわけないでしょっ!?
 さっきのフランザの感じだと一射は試し撃ちが出来るのよっ!」

 そんな事を言っている間に矢に赤い魔力が込もりきった。
 トワインが握るのは弓と矢が一本で、
 その矢のやじり部分が高熱で熱されたように真っ赤に燃え上がっている様子から、
 すでに魔力が満タンになっているのが分かる。

 宗八そうはちが使用する魔法剣に比べると矢は人工物であり、
 精霊石の欠片の含有量は少ない。
 故に込めた端から魔力が限界に達するのだと以前トワインが言っていたのをゼノウは思い出していた。

 トワインが弓に赤い矢を番えて弦を引く。
 クランリーダーとはまた違った頼もしさに軽い嫉妬も覚えながらも見守るなか、
 トワインが第一射を撃ち放つ。

 ヒュッ!
 と音だけを置き去りにして飛んでいった赤い矢は、
 錯覚のように赤い軌跡を目に焼き付けながら目の前の氷塊へと向かっていく。
 射速も速いことから少ない魔力量でも全てを失うこと無く氷塊まで達し、
 直撃した氷塊でバーストアローは炸裂した。

 バアアアァァァアアアン!!

「思ったよりも大きい爆発じゃねぇか!」
「爆発自体は元のものから半分くらいまで減っているわよ。
 セルの支援があってギリギリ届くといったところねぇ。
 まだ上げられるかしら?」
『ムイ!だいじょうぶ!』

 どうやらさっきの一射は、
 いつの間にやらトワインの肩に乗っていた無精セルレインがソニックを掛けていたみたいだ。
 氷塊の溶けた範囲は直径1m程度。

「トワイン!10秒前!」
「了解よ、フランザ! 《ヴァーンレイド!》セット:弓矢!」

 初めて出会った頃の無精達は俺たちを警戒していたというのに、
 今となっては協力しあって魔法の使用を出来るまでになっている。
 もちろん俺とライナーも・・・頑張って話しかけたりはしているんだが、
 どうしても魔法的な繋がりが薄い所為か、
 まだどこかぎこちなさもある。
 あと、無精は子供だからなぁ・・・苦手だ・・・。

 フランザのヴァーンレイドは、
 先ほどのブレイズレイドよりも少し小さいくらいの塊であったが、
 込められた魔力量は全く違うということが、
 なけなしの精霊使いとしての俺が感じ取っている。

 陽炎もひどい。
 ここが陸地で本当に良かったと今更ながらに実感している。
 そしてついに・・・、氷塊を溶かす時がやって来た。

「『《ブレイズ・・・》』」
「『《バーストアロー!!》』」
「『・・・レイド!!!』」

 トワインが選択したのは、
 フランザのブレイズレイドの発射ギリギリに撃ち放ち、
 多少なりともオベリスクの影響を減らそうとしている。
 威力で言えばブレイズレイドさえ氷塊に当たればあの魔法は爆発を起こし、
 その着弾地点に炎が残りそのまま周囲を燃やし続ける性質を持つ。
 そうなればオベリスクの影響で火が消えるまでの間に周囲の氷を十分溶かすことは可能だろう。

 ヒュッ!
 トワインのバーストアローは寸分違わず同じ場所に直撃したが、
 勢いが落ち始めてから当たった先ほどとは違い、
 速度も落ちること無く突き刺さった赤い矢は、
 やはりもっと大きく氷塊に穴を開ける爆発を起こす。

 続けて氷塊に迫るは大本命のブレイズレイド。
 射速はそこまで速くはないものの、
 矢に遅れること3秒ほどで着弾。大爆発。

 途端に視界は赤い光と熱波に包まれ、
 目を開けたままではいられない状態となってしまう。
 そのまま待つこと十数秒・・・、
 熱気が収まり瞳が焼けない程度に熱波が届かなくなるのを確認してからそれぞれが瞼を開くと、
 氷塊の溶けたほんの一部にオベリスクの黒い表面が在り在りと見えており、
 すぐ隣にブレイズレイドの炎が燃え続けている状況が広がっていた。
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