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第08章 -瘴気の海に沈んだ王都フォレストトーレ編-
†第8章† -06話-[聖女のお仕事]
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宗八と分かれ屋根伝いに移動をしながら町の中を確認すると、
外よりもさらに濃度の高い瘴気が地面に溜まっており、
生唾を飲み込んでしまう。
外に漏れ出ている瘴気ですらクーデルカは不快感を示していたので、
あんな物の中に着地する気にはさらさらならなかった。
「勇者様の光魔法が少し羨ましいですね」
『あれもクーには合わないので勘弁です』
「それもそうでしたね。
さて、どうやって侵入しましょうか・・、
空気孔はおそらく幾本かあるこの筒なのでしょうけれど・・・」
『とりあえず中を調べてみます。影踏索敵』
周囲の影になっている場所を誰かが乗っていたり踏んだりとすると反応が返ってくる索敵魔法。
今回の利用は敵の動きを把握するためではなく、
安全に侵入するための位置確認の為の使用であった。
『ありました・・・、
以前にお父さまからイメージを頂いていたギルドマスターのお部屋です。
それに机から動かない小柄な人も・・おそらくこちらが・・』
「ギルドマスターのパーシバル様の可能性が高いですね。
では、勇者様到着までの間に場の準備を整えましょうか」
『そうしましょう。潜ります!影転移』
その魔法はアスペラルダにあるダンジョン[死霊王の呼び声]にて、
相対したブラックスケルトンを操る闇精王のアルカトラズが使っていた魔法で、
自身の影に潜り、
周囲にある影から再び浮上する闇魔法のなかでは比較的初歩的な魔法である。
クーデルカであれば短距離転移を使えば、
壁抜けも出来るのだが、
抜けた先に何があるのか正確に把握していないと、
壁の中でしたでは洒落にならない大事故になってしまう事と、
消費MPが少ない為今回は影転移を使う事にした。
2人して影の中に沈んでいき、
次に視界が回復した時には見知らぬ、
しかし見たことのある部屋の中であった。
直ぐさま机に突っ伏している人物へ駆け寄り安否を確認する為、
主人から伝えられていた脈拍なるものを計るべく腕を素早く握る。
「誰・・だ・・・」
生存確認は本人からの弱々しい声音を持って確認することが出来た。
メリーは腕から手を離し、
小さな身体に相応しい小さな顔を上げさせる。
「魔力欠乏の症状が出ています。
マナポーションが尽きてしまっているようですね」
『こちらを』
見事な連携で影からマナポーションを引っ張り出すクー。
すでにこの場はオベリスクの影響を抜けているので、
意識を保っている状態ならばマナポーションを与えるだけで指揮系統の回復が見込める為だ。
「ギルドマスターのパーシバル様ですね。
私は貴女方を助けに来た者です。
さぁ、飲む力があるのでしたらこのマナポーションをお飲みください。
もしも飲む力が無いのであれば非常に遺憾ではありますが、
私が口移しにて・・・」
「・・っ!ゴクゴクゴクゴクゴクゴク・・プッハァー!!
俺の初めてを奪われて堪るかってぇーの!」
『意外にまだまだ元気でしたね』
「それでぇ、お前達は誰の差し金で来たって?」
小さい身体の持ち主はマナポーションを一気飲みすると、
大変アルシェ様には見せられない淑女とはほど遠い座り方をしてから、
私共に話しかけてきました。
とはいえ、時間も惜しいためさっさと吐露してしまいますが。
「私たちはアスペラルダから来ました」
「・・・アインスの差し金かよ。
来るなって言ったのになんでお前ら来てんだよ」
『別件で旅をしている間に王都の異常に感づいたからですね。
その調査が目的でここまで来ましたが、
救出も出来そうなのでついでに・・と』
「うっわ、めずらっしぃ~!
闇精じゃんかっ!お前闇精だろっ?」
『話を聞いているのですか(怒』
現実離れしたような地獄絵図の王都にて、
こんな軽い態度を取るこの場の長に対して、
ピキピキと来るクーデルカ。
外でも中でもこの者とその他大勢を助ける為に必死に戦っているお父さまや姉妹の事を想うと怒りがこみ上げてきたのだった。
「・・・いや、すまん。ちょっと予想外過ぎてテンパっただけだ。
マナポーションも尽きて次々と衰弱死していく中だったもんでな、
そんな奇跡みたいなタイミングで救援が来るとは思ってなかったんだ・・・。
で?何人で来たんだ?」
「21人です」
「はっ!?国として救援に来たんじゃ無いのかよっ!?」
『ですから先ほども申し上げたとおり、
本来は調査だけの予定で王都を目指していましたが、
救出も今しないと間に合わないとお父さまが判断したんですっ!』
「お父さまのくだりは聞いてないんだけどっ!?」
「とにかく、少数の救出作戦なのでふざけている余裕がありません。
現在の生存している人へ説明と20人1組のグループを急ぎ作ってください。
もう、10分もすればご主人様と勇者様が近くに到着致しますので、
それまでに準備を整えておきたいのです」
「それを先に言えよっ!
じゃあこんなところで問答してる暇はないなっ!
さっさと指揮系統を回復させるから、
マナポーションももうちょい恵んでくれ!」
箱ごとポンとくれてやるクーの嫌がらせを、
屁でも無いかのように軽々と持ち上げて掛けていくチビッ娘。
「彼女はドワーフだそうですよ」
『失念していました。
詳しい話は救出後の方がいいでしょうか?』
「そうですね。
姫様もご主人様も落ち着いて聞きたいでしょうし、
パーシバル様の指揮回復が済み次第他の避難場所を聞いてみましょう」
『わかりました』
* * * * *
「意外と早かったな。
じゃあ、他は予想通り雑貨屋と町長邸か・・・」
他にも市民センターとか役所があれば候補に挙がっていたが、
この世界ではその2つもギルドに統合している。
雑貨屋と町長邸の印のついた地図を影経由で受け取ながら、
メリーからの経過報告を受ける。
〔人数も思ったよりも多く避難しており、
まだ準備は整っていませんので、
ご主人様が到着するのが早いかと思われます〕
「結局何人避難していたんだ?」
〔結論から言いますと3000人がこちらに避難しておりました〕
「それは今も生きている数か?」
〔残念ながら避難時が7000人収容し、
徐々に減って最後に確認した際に3000人だったので・・・〕
「・・・わかった。
他の場所に期待しよう・・・、
さっきの2つもマナポーションや食料の備蓄がいくらかはあるって事だよな?」
〔はい。しかしながら、
人数のほどはどちらもギルドほどの余裕は無いので・・〕
「避難できる人数はもっと少ないか・・・」
約60万の人口の生き残りが3000以下とは、
俺の予想も甘すぎた。
ギルドは地下もあるし3階までの高さと部屋数もあったため、
7000人の収容も出来たが、
避難生活からしばらくすると、
地下と1階に避難している人々が次々と衰弱死していく事で、
岩で強化した壁からうっすらと瘴気が漏れ込んでいたことが判明したらしい。
外壁も同じく壁の厚さによって漏れ方にも遅れが出るが、
いずれにしろ瘴気が壁を侵して少しずつ決壊していった結果が衰弱死を早めてしまったのだ。
改めて瘴気とオベリスクのコンボが短時間でこれほど多くの命を奪ってしまう現実に、
一瞬足の力が抜けそうになった。
知人が居ないとはいえ、
もっと早くに王都を目指していればという後悔に足先から血の気が引いていく感覚がした。
『そうはち、出来る事をするのですわー』
『ですね。宗八が分不相応な責任を背負う必要はない、です!
宗八は気づいて救えた、元の世界の住人は気づいていなかった。
今は少しでも救えた事を誇りなさい』
「・・・ありがとう、2人共」
精霊2人の言葉で少し落ち着きを取り戻した俺はゆっくりと深呼吸をして、
感情のコントロールを計る。
そうだ、まだ避難場所はあるんだから希望を捨ててはいかなかった。
勇者もまだまだ救出をしたがっているし、
うまくコントロールをして撤退するラインを間違えないようにしないとな・・・。
別件も出来れば調べておきたいし・・・。
『(お待たせしました、お父さま。
反転世界も展開済みですので、
大きく見積もっても2時間程度で終わるかと思われます)』
「(わかった。
こっちもほぼ指定のポイントに到着したから始めちゃっていいぞ)」
『(かしこまりました)』
結局何人が生き残っているのかという情報をわざと抜いて準備完了だけを伝えてきたクー。
全く気の利く娘に育ったものだと口角が自然と上がってしまう。
次にお役目が回ってくる子にも念のため連絡を入れておこうと、
耳に手を当ててコールを掛ける。
「クレア、聞こえるか?」
〔あ、はい!聞こえています、水無月さん〕
「メリーから連絡は来たか?」
〔はい、つい先ほどコールを貰いまして・・あっ、影の向こうから人が・・・〕
「あー、救出が始まったな。
おそらく2時間ほどでギルド内の生存者は全員救出出来る。
結構キツイと思うが頑張ってくれ」
〔はい、こっちは任せてください!〕
* * * * *
「水無月様ですか?」
「えぇ、2時間くらい脱出が続く予定の様です」
「そうですか。
ハルカナムとフーリエタマナからも支援者が来ているとはいえ、
出入り口はそこまで広くないですし、
素早く診断して必要な処置を致しましょう」
「ですね。
歩ける方も一応いらっしゃる様ですし・・・」
最後衛に敷かれたクレアとサーニャを中心とした治療と救援部隊。
いままでは救出が始まったあとの流れや指示、
他にも状況を仮定したセオリーを、
協力する為に宗八の作ったゲート向こうからやってきた冒険者及びギルド職員に指導も施し準備を整えていた。
聞けばハルカナムも現在問題を抱えていて、
王都の一大事といえどもあまり人を割く事が出来ないとギルド職員から聞いていたし、
フーリエタマナも緊急クエストを他国の大手ギルドマスターから発行され、
何が何だかわからないまま冒険者を手配し、
サポートの為に職員もゲートを通ってきていた。
それでも救出作戦が始まるまでには、
不謹慎ながらかなりの時間を要した為、
説明をする時間とゲート向こうの主要人物たちに全面協力の理解を得ることが出来たといえる。
「自分で歩ける方はこちらへ進んでください!」
「ここは安全です!」
「落ち着いて進んでください!焦る必要はありません!」
周囲で教えた通りの言葉を使い、
影を通って現れた人々に声を掛けていく冒険者を見やりながらも、
意識を取り戻せていない人や、
避難する途中で足に怪我を負ってしまって自力では歩くことも出来ない人を集めてもらう。
「すまんが、ここの指揮を執っているのは誰だい?」
ふと聞こえた声に振り向いてみると、
誘導を担当していた冒険者に小さな身体をした女の子が、
男勝りな言葉で問いかけていた。
「指揮とまでは言えませんが、
救護の指示を出していたのはあちらのシスターと隣の女の子です」
ギルドの職員たちはこちらに来る前から、
聖女と勇者が協力して救出に取り組んでいるという情報を持っていたが、
冒険者には秘匿されていて、
クレアも聖女ではなくお手伝いの女の子程度の認識に留まっていた。
しかし、冒険者の先の差す指を追っていく女の子の瞳が自分を捉えた時、
その女の子はの表情は驚愕という言葉を体現したようにわかりやすく映し、
その後すぐに先ほどまでの幼さの残る顔へとスッと戻ると、
冒険者に感謝を告げてこちらへと近づいてくる。
よくよく見ればギルドの職員のようだ。
「この度は助けていただきありがとうございます。
ギルドフォレストトーレ支店ギルドマスターとして感謝申しあげます」
「えええええええー!?ギルドマスターさんですかっ!?
お、お、お・・・おいくつで?」
「あ、申し訳ございません。
私は妖精のドワーフ族なので見た目と年齢は人間とは違いますので」
「あぁ、そういうことですか。
では、貴女がパーシバルさんですね」
「私をご存じなのですか?」
意図して身分を明かしていないのだろうと察したのか、
パーシバルは自分よりもさらに幼い見た目の聖女へと感謝を告げる。
実際、あの環境は人間よりも魔法生物に近い自分の方に苦しみを与え、
内部魔力を徐々に徐々に削り取っていった。
ギルドには貯蔵があるのでマナポーションを避難民に分け与えつつも、
ギルドマスターとして職務を全うする為、
申し訳ないと思いつつもマナポーションを服用していた。
しかし、突如身体を締めつけ重たい空気が緩和され、
その後にメリーとクーなるメイドと闇精霊が現れ救出に来たと宣(のたま)った時は、
ついに終わりが来たとも思ったものだが、
このままよりも酷いことはないだろうと無理矢理言い聞かせて遮二無二にここまで状況確認の為に先行してきたのだった。
「聖女様がいらっしゃるとは思いませんでしたが、
先のメイドと闇精霊も聖女様の従者でしょうか?」
「いえ、メリーさんとクーデルカちゃんは、
あちらの大きな氷の上にいらっしゃるアルカンシェ姫殿下の従者ですよ。
私たちはあくまで協力をしている立場で、
正確には姫様とそのお兄さんの作戦です」
「アルカンシェ姫殿下?
あの方はアスペラルダの・・・、
だからメイドはアスペラルダからと・・・」
クレアの指の先には確かに高台のように迫り上がった氷の上に、
女の子が魔法を使って居るように見える。
何故、アスペラルダの姫君がこんなところに居るのか・・・。
おそらくはアインス関連であろうことは分かるのだが、
だからと言って他国の問題に姫様がわざわざ少数で現れるだろうか?
そんな疑問を頭に浮かべるパーシバルへ、
クレアの隣で静かに話の行く先を伺っていたサーニャが割り込みを掛けた。
「申し訳ありません、パーシバル様。
聖女様は治療の大役がございますので・・」
「あ、すみませんお手を止めてしまって。
ひとまず私も全力にて協力させていただきますのでご指示をお願いします」
言葉少なに伝えられた現状に謝罪をし、
自分もそのような問答をしている暇はないと我に返ったパーシバルは、
横を通り過ぎていくクレアへと指示を仰ぎ、
治療支援部隊へと加わった。
* * * * *
「リュースィ!」
『はぁ~い、魔法を掛け直しますわ~。《ソニック~!》』
オベリスク破壊を予定通りの範囲を行い、
撤退を宗八とトーニャに支援して貰い、
進行方向に1体だけいる奇行種や新たに沸いた瘴気モンスターを挑発しつつ、
トレインを敢行しながら後衛のアルシェ達と合流を果たしたセーバー達。
残った2頭の馬で駆け戻るセーバー達は、
オベリスクの影響を受けなくなっていたため、
アルシェと密にコールでやり取りをして戻るタイミングもアルシェの指示で調整をしていた。
アルシェも彼らが戻ることで防衛がしやすくなると理解はしつつも、
こちらはこちらで王都から駆け抜けてくる瘴気モンスターの処理もしている。
その為、対処中に合流してしまうと許容オーバーで最悪、
防衛ラインが瓦解してしまう事を懸念した。
事実、マリエルにもサーニャにもゼノウ達にも同時通話で調整を行い、
ギリギリ馬が潰れる前に合流するというシビアなタイミングを見極めて成功させた。
「そりゃあああああ!!」
オベリスク破壊作業中は大鎚を装備していたが、
合流後の戦闘では従来の戦闘方法である両手剣を使用して、
黒紫のオーラを纏う瘴気モンスターをバッタバッタと素早く斬っていく。
『《ウインドブラスト~!》』
ただし、今まで戦ったことのあるモンスターや魔物と違って、
瘴気モンスターは瘴気を纏う状態だと浮遊精霊の鎧と似た効果で、
殺すよりは倒す戦闘になってしまう。
現に今も普段ならば胸に大きな傷を負って絶命するであろう斬り込みであったにも関わらず、
モンスターは斬られた衝撃でノックバックする程度に留まってしまう。
その追撃として相棒のリュースィが魔法を撃ち込み、
このモンスターのHPは0となった。
ここからはこの作戦が始まってから知った事実なのだが、
倒した瘴気モンスターは通常のダンジョンモンスターのように煙のように消える。
しかし、その場に僅かな瘴気を残していき、
これを放置すれば徐々に周辺の環境を汚染していき、
現在の王都のような瘴気スポットを点々と作ってしまうことが判明した。
この後処理には宗八か勇者とエクスによる浄化が必要となる。
その事も含め、宗八は時間を掛けたくないと改めて考えを新たに、
救出作戦の現場で戦っている。
「まぁ、後から消せるとは言ってもな・・・、
ここまで間断なく次々と沸くし、戦闘範囲も広げるわけにもいかないって条件。
しかも、少人数でよく持ってるよな」
「他国のお姫さんだけど、
ちょっと意外な才能だよな!」
仲間も言外に言うように、
この後方の護衛集団をまとめ上げているのは、
宗八と共に行動しているアスペラルダの姫様だ。
リュースィと契約したあの日に話は聞いていたが、
てっきり護られるだけのお姫様だと思っていただけに、
仲間も意外だと口にする気持ちは理解できる。
この状況を保っているのは言うまでも無く姫様とアクアーリィという宗八の契約精霊の力が大きい。
魔法は万能ではなく射程限界も普通は60mほど、
命中率も相当な練度が無ければはっきり言ってお荷物になりかねないのに、
あの2人のコンビは200m以上先にいる敵に向けて魔法を射出し、
その上でしっかりと撃ち抜いている。
さらに、その遠距離攻撃とは別に前衛と接敵した敵に対し、
地面を走る氷の刃で支援も行う離れ業を指示をこなしながら平行して行っている。
「マルチタスクってやつでしたか?
本来は各国の将軍参謀が必要とされるスキルをあの歳の少女が使いこなしているっていうのは・・ハハッ、
恐ろしいですね」
「才能もあるのでしょうけれどね・・・。
この作戦が始まってから側で見ていた私からすれば、
実戦経験が豊富・・・もしくは、そういう事態を想定した訓練を何度も何度も繰り返し繰り返し行ってきた努力の結果だと思うわ」
「それに同い年と聞いているあの前衛の少女も。
妖精種だってことで外周班に同行許可を水無月さんが却下した時も、
我が儘言わずに受け入れる大人な面も、
あの戦闘力もレベルを考えればあり得ない機敏さと破壊力ですわ」
確かに剣にしろ手甲にしろ近接戦闘になるため、
敵の次の動きや攻撃タイミングを考えながら肉薄する必要がある。
そんな俺たち前衛の戦闘は基本は初期ステータスが前衛向きになる男が行うものという風潮がある。
なのだが、彼女は少女でしかも宗八たちのPTの前衛を務めており、
その動きはいままで見てきた前衛職たちとは異なり、
初見の攻撃も避けるかしっかりと防ぎ、
尚且つその動きの流れで攻撃も仕掛けるわ、
飛び上がったかと思えば蹴り技で敵を地面に叩き付けるわと、
性別、レベル、経験、戦闘力、威力の全てが自分の持つ常識では計れない存在であると認識するに値する働きをしていた。
「おおかた宗八が何かやらしていると思うけどな・・・。
あの歳でこれってのは少々目に余るが・・・、
あいつらのやろうとしていることを考えても、
宗八の用心深さを考慮すればまだ足りないのかもしれないぞ・・・」
「そんなのに関わっちゃって良かったのかよ?」
「関わっちゃったもんは仕方ないだろ?」
挑発的な声を掛けてくる仲間に、
これまた挑発的な言葉と表情で返すセーバー。
「まぁ、頑張る若者を応援するのも年上の仕事ですし」
「あんな若い子達に任せっきりというのも何か違うでしょ?」
「勇者も聖女も協力しているみたいだし、
約束された成功があるようなものなら乗るべきだわ」
「打算的だな、おい・・」
『私も~お友達が増えて嬉しいですわ~。
出来れば彼女たちの頑張りに助力したくなる気持ちがありますわ~』
次々と肯定を表す回答が仲間から返ってくるなか、
最後に契約精霊のリュースィが皆の真に迫る言葉を口にした。
そう・・・。
頑張っている彼ら彼女達を手伝ってやろうかなと、
手助けしてやりたいと思う気持ちがあるからこそ、
わざわざ呼び出しに応じて王都くんだりまで出向いてきてしまったのだ。
「結局、あいつらの人望が勝つのかよ」
「年下の特権ですね」
先ほどまでの雑談とは違う鋭い眼光をしつつ前に出る仲間の視線を追えば、
また少し負傷しているらしい瘴気モンスターの群れがこちらに駆け寄ってきている姿が映る。
さて、もうひとふんばり頑張る若者の手伝いと行きますかっ!
外よりもさらに濃度の高い瘴気が地面に溜まっており、
生唾を飲み込んでしまう。
外に漏れ出ている瘴気ですらクーデルカは不快感を示していたので、
あんな物の中に着地する気にはさらさらならなかった。
「勇者様の光魔法が少し羨ましいですね」
『あれもクーには合わないので勘弁です』
「それもそうでしたね。
さて、どうやって侵入しましょうか・・、
空気孔はおそらく幾本かあるこの筒なのでしょうけれど・・・」
『とりあえず中を調べてみます。影踏索敵』
周囲の影になっている場所を誰かが乗っていたり踏んだりとすると反応が返ってくる索敵魔法。
今回の利用は敵の動きを把握するためではなく、
安全に侵入するための位置確認の為の使用であった。
『ありました・・・、
以前にお父さまからイメージを頂いていたギルドマスターのお部屋です。
それに机から動かない小柄な人も・・おそらくこちらが・・』
「ギルドマスターのパーシバル様の可能性が高いですね。
では、勇者様到着までの間に場の準備を整えましょうか」
『そうしましょう。潜ります!影転移』
その魔法はアスペラルダにあるダンジョン[死霊王の呼び声]にて、
相対したブラックスケルトンを操る闇精王のアルカトラズが使っていた魔法で、
自身の影に潜り、
周囲にある影から再び浮上する闇魔法のなかでは比較的初歩的な魔法である。
クーデルカであれば短距離転移を使えば、
壁抜けも出来るのだが、
抜けた先に何があるのか正確に把握していないと、
壁の中でしたでは洒落にならない大事故になってしまう事と、
消費MPが少ない為今回は影転移を使う事にした。
2人して影の中に沈んでいき、
次に視界が回復した時には見知らぬ、
しかし見たことのある部屋の中であった。
直ぐさま机に突っ伏している人物へ駆け寄り安否を確認する為、
主人から伝えられていた脈拍なるものを計るべく腕を素早く握る。
「誰・・だ・・・」
生存確認は本人からの弱々しい声音を持って確認することが出来た。
メリーは腕から手を離し、
小さな身体に相応しい小さな顔を上げさせる。
「魔力欠乏の症状が出ています。
マナポーションが尽きてしまっているようですね」
『こちらを』
見事な連携で影からマナポーションを引っ張り出すクー。
すでにこの場はオベリスクの影響を抜けているので、
意識を保っている状態ならばマナポーションを与えるだけで指揮系統の回復が見込める為だ。
「ギルドマスターのパーシバル様ですね。
私は貴女方を助けに来た者です。
さぁ、飲む力があるのでしたらこのマナポーションをお飲みください。
もしも飲む力が無いのであれば非常に遺憾ではありますが、
私が口移しにて・・・」
「・・っ!ゴクゴクゴクゴクゴクゴク・・プッハァー!!
俺の初めてを奪われて堪るかってぇーの!」
『意外にまだまだ元気でしたね』
「それでぇ、お前達は誰の差し金で来たって?」
小さい身体の持ち主はマナポーションを一気飲みすると、
大変アルシェ様には見せられない淑女とはほど遠い座り方をしてから、
私共に話しかけてきました。
とはいえ、時間も惜しいためさっさと吐露してしまいますが。
「私たちはアスペラルダから来ました」
「・・・アインスの差し金かよ。
来るなって言ったのになんでお前ら来てんだよ」
『別件で旅をしている間に王都の異常に感づいたからですね。
その調査が目的でここまで来ましたが、
救出も出来そうなのでついでに・・と』
「うっわ、めずらっしぃ~!
闇精じゃんかっ!お前闇精だろっ?」
『話を聞いているのですか(怒』
現実離れしたような地獄絵図の王都にて、
こんな軽い態度を取るこの場の長に対して、
ピキピキと来るクーデルカ。
外でも中でもこの者とその他大勢を助ける為に必死に戦っているお父さまや姉妹の事を想うと怒りがこみ上げてきたのだった。
「・・・いや、すまん。ちょっと予想外過ぎてテンパっただけだ。
マナポーションも尽きて次々と衰弱死していく中だったもんでな、
そんな奇跡みたいなタイミングで救援が来るとは思ってなかったんだ・・・。
で?何人で来たんだ?」
「21人です」
「はっ!?国として救援に来たんじゃ無いのかよっ!?」
『ですから先ほども申し上げたとおり、
本来は調査だけの予定で王都を目指していましたが、
救出も今しないと間に合わないとお父さまが判断したんですっ!』
「お父さまのくだりは聞いてないんだけどっ!?」
「とにかく、少数の救出作戦なのでふざけている余裕がありません。
現在の生存している人へ説明と20人1組のグループを急ぎ作ってください。
もう、10分もすればご主人様と勇者様が近くに到着致しますので、
それまでに準備を整えておきたいのです」
「それを先に言えよっ!
じゃあこんなところで問答してる暇はないなっ!
さっさと指揮系統を回復させるから、
マナポーションももうちょい恵んでくれ!」
箱ごとポンとくれてやるクーの嫌がらせを、
屁でも無いかのように軽々と持ち上げて掛けていくチビッ娘。
「彼女はドワーフだそうですよ」
『失念していました。
詳しい話は救出後の方がいいでしょうか?』
「そうですね。
姫様もご主人様も落ち着いて聞きたいでしょうし、
パーシバル様の指揮回復が済み次第他の避難場所を聞いてみましょう」
『わかりました』
* * * * *
「意外と早かったな。
じゃあ、他は予想通り雑貨屋と町長邸か・・・」
他にも市民センターとか役所があれば候補に挙がっていたが、
この世界ではその2つもギルドに統合している。
雑貨屋と町長邸の印のついた地図を影経由で受け取ながら、
メリーからの経過報告を受ける。
〔人数も思ったよりも多く避難しており、
まだ準備は整っていませんので、
ご主人様が到着するのが早いかと思われます〕
「結局何人避難していたんだ?」
〔結論から言いますと3000人がこちらに避難しておりました〕
「それは今も生きている数か?」
〔残念ながら避難時が7000人収容し、
徐々に減って最後に確認した際に3000人だったので・・・〕
「・・・わかった。
他の場所に期待しよう・・・、
さっきの2つもマナポーションや食料の備蓄がいくらかはあるって事だよな?」
〔はい。しかしながら、
人数のほどはどちらもギルドほどの余裕は無いので・・〕
「避難できる人数はもっと少ないか・・・」
約60万の人口の生き残りが3000以下とは、
俺の予想も甘すぎた。
ギルドは地下もあるし3階までの高さと部屋数もあったため、
7000人の収容も出来たが、
避難生活からしばらくすると、
地下と1階に避難している人々が次々と衰弱死していく事で、
岩で強化した壁からうっすらと瘴気が漏れ込んでいたことが判明したらしい。
外壁も同じく壁の厚さによって漏れ方にも遅れが出るが、
いずれにしろ瘴気が壁を侵して少しずつ決壊していった結果が衰弱死を早めてしまったのだ。
改めて瘴気とオベリスクのコンボが短時間でこれほど多くの命を奪ってしまう現実に、
一瞬足の力が抜けそうになった。
知人が居ないとはいえ、
もっと早くに王都を目指していればという後悔に足先から血の気が引いていく感覚がした。
『そうはち、出来る事をするのですわー』
『ですね。宗八が分不相応な責任を背負う必要はない、です!
宗八は気づいて救えた、元の世界の住人は気づいていなかった。
今は少しでも救えた事を誇りなさい』
「・・・ありがとう、2人共」
精霊2人の言葉で少し落ち着きを取り戻した俺はゆっくりと深呼吸をして、
感情のコントロールを計る。
そうだ、まだ避難場所はあるんだから希望を捨ててはいかなかった。
勇者もまだまだ救出をしたがっているし、
うまくコントロールをして撤退するラインを間違えないようにしないとな・・・。
別件も出来れば調べておきたいし・・・。
『(お待たせしました、お父さま。
反転世界も展開済みですので、
大きく見積もっても2時間程度で終わるかと思われます)』
「(わかった。
こっちもほぼ指定のポイントに到着したから始めちゃっていいぞ)」
『(かしこまりました)』
結局何人が生き残っているのかという情報をわざと抜いて準備完了だけを伝えてきたクー。
全く気の利く娘に育ったものだと口角が自然と上がってしまう。
次にお役目が回ってくる子にも念のため連絡を入れておこうと、
耳に手を当ててコールを掛ける。
「クレア、聞こえるか?」
〔あ、はい!聞こえています、水無月さん〕
「メリーから連絡は来たか?」
〔はい、つい先ほどコールを貰いまして・・あっ、影の向こうから人が・・・〕
「あー、救出が始まったな。
おそらく2時間ほどでギルド内の生存者は全員救出出来る。
結構キツイと思うが頑張ってくれ」
〔はい、こっちは任せてください!〕
* * * * *
「水無月様ですか?」
「えぇ、2時間くらい脱出が続く予定の様です」
「そうですか。
ハルカナムとフーリエタマナからも支援者が来ているとはいえ、
出入り口はそこまで広くないですし、
素早く診断して必要な処置を致しましょう」
「ですね。
歩ける方も一応いらっしゃる様ですし・・・」
最後衛に敷かれたクレアとサーニャを中心とした治療と救援部隊。
いままでは救出が始まったあとの流れや指示、
他にも状況を仮定したセオリーを、
協力する為に宗八の作ったゲート向こうからやってきた冒険者及びギルド職員に指導も施し準備を整えていた。
聞けばハルカナムも現在問題を抱えていて、
王都の一大事といえどもあまり人を割く事が出来ないとギルド職員から聞いていたし、
フーリエタマナも緊急クエストを他国の大手ギルドマスターから発行され、
何が何だかわからないまま冒険者を手配し、
サポートの為に職員もゲートを通ってきていた。
それでも救出作戦が始まるまでには、
不謹慎ながらかなりの時間を要した為、
説明をする時間とゲート向こうの主要人物たちに全面協力の理解を得ることが出来たといえる。
「自分で歩ける方はこちらへ進んでください!」
「ここは安全です!」
「落ち着いて進んでください!焦る必要はありません!」
周囲で教えた通りの言葉を使い、
影を通って現れた人々に声を掛けていく冒険者を見やりながらも、
意識を取り戻せていない人や、
避難する途中で足に怪我を負ってしまって自力では歩くことも出来ない人を集めてもらう。
「すまんが、ここの指揮を執っているのは誰だい?」
ふと聞こえた声に振り向いてみると、
誘導を担当していた冒険者に小さな身体をした女の子が、
男勝りな言葉で問いかけていた。
「指揮とまでは言えませんが、
救護の指示を出していたのはあちらのシスターと隣の女の子です」
ギルドの職員たちはこちらに来る前から、
聖女と勇者が協力して救出に取り組んでいるという情報を持っていたが、
冒険者には秘匿されていて、
クレアも聖女ではなくお手伝いの女の子程度の認識に留まっていた。
しかし、冒険者の先の差す指を追っていく女の子の瞳が自分を捉えた時、
その女の子はの表情は驚愕という言葉を体現したようにわかりやすく映し、
その後すぐに先ほどまでの幼さの残る顔へとスッと戻ると、
冒険者に感謝を告げてこちらへと近づいてくる。
よくよく見ればギルドの職員のようだ。
「この度は助けていただきありがとうございます。
ギルドフォレストトーレ支店ギルドマスターとして感謝申しあげます」
「えええええええー!?ギルドマスターさんですかっ!?
お、お、お・・・おいくつで?」
「あ、申し訳ございません。
私は妖精のドワーフ族なので見た目と年齢は人間とは違いますので」
「あぁ、そういうことですか。
では、貴女がパーシバルさんですね」
「私をご存じなのですか?」
意図して身分を明かしていないのだろうと察したのか、
パーシバルは自分よりもさらに幼い見た目の聖女へと感謝を告げる。
実際、あの環境は人間よりも魔法生物に近い自分の方に苦しみを与え、
内部魔力を徐々に徐々に削り取っていった。
ギルドには貯蔵があるのでマナポーションを避難民に分け与えつつも、
ギルドマスターとして職務を全うする為、
申し訳ないと思いつつもマナポーションを服用していた。
しかし、突如身体を締めつけ重たい空気が緩和され、
その後にメリーとクーなるメイドと闇精霊が現れ救出に来たと宣(のたま)った時は、
ついに終わりが来たとも思ったものだが、
このままよりも酷いことはないだろうと無理矢理言い聞かせて遮二無二にここまで状況確認の為に先行してきたのだった。
「聖女様がいらっしゃるとは思いませんでしたが、
先のメイドと闇精霊も聖女様の従者でしょうか?」
「いえ、メリーさんとクーデルカちゃんは、
あちらの大きな氷の上にいらっしゃるアルカンシェ姫殿下の従者ですよ。
私たちはあくまで協力をしている立場で、
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「アルカンシェ姫殿下?
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だからメイドはアスペラルダからと・・・」
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女の子が魔法を使って居るように見える。
何故、アスペラルダの姫君がこんなところに居るのか・・・。
おそらくはアインス関連であろうことは分かるのだが、
だからと言って他国の問題に姫様がわざわざ少数で現れるだろうか?
そんな疑問を頭に浮かべるパーシバルへ、
クレアの隣で静かに話の行く先を伺っていたサーニャが割り込みを掛けた。
「申し訳ありません、パーシバル様。
聖女様は治療の大役がございますので・・」
「あ、すみませんお手を止めてしまって。
ひとまず私も全力にて協力させていただきますのでご指示をお願いします」
言葉少なに伝えられた現状に謝罪をし、
自分もそのような問答をしている暇はないと我に返ったパーシバルは、
横を通り過ぎていくクレアへと指示を仰ぎ、
治療支援部隊へと加わった。
* * * * *
「リュースィ!」
『はぁ~い、魔法を掛け直しますわ~。《ソニック~!》』
オベリスク破壊を予定通りの範囲を行い、
撤退を宗八とトーニャに支援して貰い、
進行方向に1体だけいる奇行種や新たに沸いた瘴気モンスターを挑発しつつ、
トレインを敢行しながら後衛のアルシェ達と合流を果たしたセーバー達。
残った2頭の馬で駆け戻るセーバー達は、
オベリスクの影響を受けなくなっていたため、
アルシェと密にコールでやり取りをして戻るタイミングもアルシェの指示で調整をしていた。
アルシェも彼らが戻ることで防衛がしやすくなると理解はしつつも、
こちらはこちらで王都から駆け抜けてくる瘴気モンスターの処理もしている。
その為、対処中に合流してしまうと許容オーバーで最悪、
防衛ラインが瓦解してしまう事を懸念した。
事実、マリエルにもサーニャにもゼノウ達にも同時通話で調整を行い、
ギリギリ馬が潰れる前に合流するというシビアなタイミングを見極めて成功させた。
「そりゃあああああ!!」
オベリスク破壊作業中は大鎚を装備していたが、
合流後の戦闘では従来の戦闘方法である両手剣を使用して、
黒紫のオーラを纏う瘴気モンスターをバッタバッタと素早く斬っていく。
『《ウインドブラスト~!》』
ただし、今まで戦ったことのあるモンスターや魔物と違って、
瘴気モンスターは瘴気を纏う状態だと浮遊精霊の鎧と似た効果で、
殺すよりは倒す戦闘になってしまう。
現に今も普段ならば胸に大きな傷を負って絶命するであろう斬り込みであったにも関わらず、
モンスターは斬られた衝撃でノックバックする程度に留まってしまう。
その追撃として相棒のリュースィが魔法を撃ち込み、
このモンスターのHPは0となった。
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倒した瘴気モンスターは通常のダンジョンモンスターのように煙のように消える。
しかし、その場に僅かな瘴気を残していき、
これを放置すれば徐々に周辺の環境を汚染していき、
現在の王都のような瘴気スポットを点々と作ってしまうことが判明した。
この後処理には宗八か勇者とエクスによる浄化が必要となる。
その事も含め、宗八は時間を掛けたくないと改めて考えを新たに、
救出作戦の現場で戦っている。
「まぁ、後から消せるとは言ってもな・・・、
ここまで間断なく次々と沸くし、戦闘範囲も広げるわけにもいかないって条件。
しかも、少人数でよく持ってるよな」
「他国のお姫さんだけど、
ちょっと意外な才能だよな!」
仲間も言外に言うように、
この後方の護衛集団をまとめ上げているのは、
宗八と共に行動しているアスペラルダの姫様だ。
リュースィと契約したあの日に話は聞いていたが、
てっきり護られるだけのお姫様だと思っていただけに、
仲間も意外だと口にする気持ちは理解できる。
この状況を保っているのは言うまでも無く姫様とアクアーリィという宗八の契約精霊の力が大きい。
魔法は万能ではなく射程限界も普通は60mほど、
命中率も相当な練度が無ければはっきり言ってお荷物になりかねないのに、
あの2人のコンビは200m以上先にいる敵に向けて魔法を射出し、
その上でしっかりと撃ち抜いている。
さらに、その遠距離攻撃とは別に前衛と接敵した敵に対し、
地面を走る氷の刃で支援も行う離れ業を指示をこなしながら平行して行っている。
「マルチタスクってやつでしたか?
本来は各国の将軍参謀が必要とされるスキルをあの歳の少女が使いこなしているっていうのは・・ハハッ、
恐ろしいですね」
「才能もあるのでしょうけれどね・・・。
この作戦が始まってから側で見ていた私からすれば、
実戦経験が豊富・・・もしくは、そういう事態を想定した訓練を何度も何度も繰り返し繰り返し行ってきた努力の結果だと思うわ」
「それに同い年と聞いているあの前衛の少女も。
妖精種だってことで外周班に同行許可を水無月さんが却下した時も、
我が儘言わずに受け入れる大人な面も、
あの戦闘力もレベルを考えればあり得ない機敏さと破壊力ですわ」
確かに剣にしろ手甲にしろ近接戦闘になるため、
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なのだが、彼女は少女でしかも宗八たちのPTの前衛を務めており、
その動きはいままで見てきた前衛職たちとは異なり、
初見の攻撃も避けるかしっかりと防ぎ、
尚且つその動きの流れで攻撃も仕掛けるわ、
飛び上がったかと思えば蹴り技で敵を地面に叩き付けるわと、
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「おおかた宗八が何かやらしていると思うけどな・・・。
あの歳でこれってのは少々目に余るが・・・、
あいつらのやろうとしていることを考えても、
宗八の用心深さを考慮すればまだ足りないのかもしれないぞ・・・」
「そんなのに関わっちゃって良かったのかよ?」
「関わっちゃったもんは仕方ないだろ?」
挑発的な声を掛けてくる仲間に、
これまた挑発的な言葉と表情で返すセーバー。
「まぁ、頑張る若者を応援するのも年上の仕事ですし」
「あんな若い子達に任せっきりというのも何か違うでしょ?」
「勇者も聖女も協力しているみたいだし、
約束された成功があるようなものなら乗るべきだわ」
「打算的だな、おい・・」
『私も~お友達が増えて嬉しいですわ~。
出来れば彼女たちの頑張りに助力したくなる気持ちがありますわ~』
次々と肯定を表す回答が仲間から返ってくるなか、
最後に契約精霊のリュースィが皆の真に迫る言葉を口にした。
そう・・・。
頑張っている彼ら彼女達を手伝ってやろうかなと、
手助けしてやりたいと思う気持ちがあるからこそ、
わざわざ呼び出しに応じて王都くんだりまで出向いてきてしまったのだ。
「結局、あいつらの人望が勝つのかよ」
「年下の特権ですね」
先ほどまでの雑談とは違う鋭い眼光をしつつ前に出る仲間の視線を追えば、
また少し負傷しているらしい瘴気モンスターの群れがこちらに駆け寄ってきている姿が映る。
さて、もうひとふんばり頑張る若者の手伝いと行きますかっ!
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