特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第07章 -平和な工芸都市フーリエタマナ編-

†第7章† -06話-[聖女をも篭絡する男]

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「新しい神託をお伝え致します。
 《世界の守護者はその姿を失い、新たな種族が死に逝くだろう。
 平和を欺き、破滅の浸食は止めどなく広がる。
 されどその者、精霊の救い手現れ、芽を摘み同胞を守るだろう》」
「・・・それのどこで俺だと判断したんですかね?」

 新しい神託の内容を語る聖女クレシーダ。
 話を聞いてからすぐさま考察を開始する。

 世界の守護者は四神もしくは浮遊精霊かと思う・・・、
 その後に続く新たな種族が死に逝くってのは浮遊精霊の加護が失せて、
 人種が死にやすくなるという事だと仮定できる。
 次が、気づかぬうちに世界は死に向かって加速する意味合い。
 ただし、やはり最後が微妙に解釈が定めづらいと思えた。

「この神託を受けてすぐの時期にポルタフォールの事件を知りまして、
 対応に当たったのがアルカンシェ姫殿下ご一行と現地人だとも伺いました。
 しかし、調べを進める私が特に気になったのは、
 姫殿下の側に付いていた男性。そう、貴男です水無月さん」
「何故、俺を気にされたのでしょうか?」
「件《くだん》の事件を解決に導いたのは、
 冒険者や町民だけで無く精霊の協力も大きかったそうなのですが、
 その話を集めると決まって姫殿下の側近の男性の情報がついて回りました。
 水源の精霊、水路の壁を形成した土精、水を共に操った水精、
 町を走り回る子猫の精霊、宮廷魔導士セリア=シルフェイド様、魔法ギルドのカティナ様。
 調べた限りあの事件の現場には6人の精霊が関与していて、
 その全てにおいて水無月さんの陰がありました」

 よく調べ上げていることは理解させられた。
 あの町で俺の存在を知っている人は確かに大勢いるが、
 名前を知っているのはスィーネと現町長のイセト氏、
 あとはギルマスのミミカさんだけであるからして、
 名前がバレるようなヘマはしていなかったはずだ。

 事実、俺がギルドで身分を明かさなかった場合、
 事件の3日目の内容はなんやかんやあって解決したって伝えられ、
 俺の名前は出てくる事はない。
 その場でノイが大通りの壁を生成し、
 アクアとスィーネと俺が水を操った事や、
 空を飛んで亜空間の水を発見した立役者のセリア先生とカティナの名前まで漏れているのはどういうことだろうか?

「あ、アルカンシェ姫殿下の配下に男性は貴男だけという事も調べ済みですよ♪」
「はぁ・・・、
 精霊が関わる事件ということで聖女さまの視界に入ったことは理解しました。
 ですが、その事件だけでは俺の詳しいことまでは把握できないはずですが?」
「はい、各方面に使いを出しましたが誰も知らぬ存ぜぬの対応で、
 私が水無月さんの名を知るのは、
 興味を抱いた私が姫殿下関連で以前の事件を調べたときでした」
「・・・キュクロプスですか?」
「正解です。
 一応その前にもアクアポッツォに立ち寄ったらしい情報で調べた際に、
 町長の息子がマスターさんとアクアちゃん、
 クーデルカちゃんという3人と友達になったという話を聞きました。
 まぁ、マスターさん呼びやアクアちゃんとクーデルカちゃんの姿から精霊使いであると仮定はこの時点で出来ていましたが」

 まぁ・・・まぁまぁまぁ。
 アクアポッツォの町長ベイカー氏の息子は確か・・・ライラスくん(10)だったな。
 町を案内として歩いた事もあるし、
 確かに娘たちが友達になっていたのは事実だ。
 おそらく、ベイカー氏から他言するなと注意を受けてはいても、
 子供同士で話しているうちに零してしまった情報が大人にも少々伝わったとかかな?
 流石に子供の口に蓋は出来ないと思っているから、
 精霊の名前くらいは問題ないと判断した。

 続きを促す空気を発しながら黙っている俺の様子を察し、
 聖女は一旦口を開き掛けるが、少し迷った表情をしてから意を決して再び口を開いた。

「・・・ところでぇ・・話は変わりますが、水無月さん。
 貴男はずいぶんと姫殿下と仲が良いようですが、
 実際どのような関係なのですか?」
「ん~?なんだぁ、急に下世話な話かぁ?
 お嬢さんはおいくつでしたかな?」
「クレアで結構ですよ。
 私は今年で9歳になりました!」

 聞くのは2度目となる質問。途端に年相応の表情になる聖女。
 9歳って事は・・・いまが元の世界の12月と考えれば小学4年生かな?
 管理局の白い悪魔と同い年とは期待が出来るな!(2度目)
 座る椅子が同じでも身長に差があるため、
 自然と上目遣いをしている点もグッドだ!

 俺の中の聖女に対して最低限の礼節はこの時点で崩壊していた。
 そもそも年下の上司ってのは有り得ても、
 社会に出て自然と身についていく社会常識は俺には身についていないのだ。
 俺が社会に20歳で出て御年38歳の男とする。
 女で上司の26歳が相手でも俺の対応は上司に対する礼儀を弁えたものになるだろう。
 俺には向上心や野心がないから、その上司♀に対しても対抗意識を燃やすことは無い。

 しかし、俺はまだ20歳前半で尚且つ聖女は偉さの認識が出来ないし、
 お歳は9歳だという見るからに幼女だ。
 仮にクレアがガチガチに聖女という態度を守るのであれば、
 こちらも相応の態度を保てると思うけど、
 いまこの段階で年相応の軟化を見てしまえば、
 俺のなけなしの礼節など紙切れのようにどこかに飛んでいってしまっても仕方ないだろ?

「アルカンシェ姫・・・、はぁ・・アルシェは妹みたいな存在だ。
 クレアがどんな勘繰りをしているかは知らんが・・・、
 ほれ、お口をお開け、飴ちゃんだぞ。
 アスペラルダの皆から託された姫様だし守るべき対象であり、
 俺を助けてくれる頼れる仲間だな。
 兄として慕ってくれるのも甘えてくるのも可愛いんだけどなぁ」
「あ~ん・・。
 水無月さんは精霊やお仲間以外にも優しいんですね、よっと・・」

 会話をしながら影から飴が入った袋を取り出して、
 そのうちのひとつを摘まみ上げてクレアの開ける大口に放り込む。
 ころころと口の中で飴玉を転がしながら椅子から降りて、
 とっとこ近寄ってくる。

「あの、不躾なんですけど・・膝に乗ってもいいですか?」
「ん?俺は別に慣れてるからかまわないんだけど・・・、
 えっと、いいんですか?」

 そう、俺はアクアを筆頭に甘えたがりの精霊やアルシェ、
 それに旅の途中で会う動物や獣人のメイフェルも甘えてくる始末だ。
 ただ抱いてるだけで満足する奴なら特に問題はないんだけど、
 流石に神聖教国の聖女様を抱っこするのは、
 問題かなぁ~と思い、脇に控えるシスター2人に確認を取る。

「・・・5分だけであれば」
「5分・・・」

 しょんぼりするクレア。
 内心ですごい葛藤をしているシスターAの表情がすごい。

「・・・10分でどうでしょうか、姉さん」
「・・・そうですね、妹の提案を受け入れます。
 クレア様の所持を10分許可致します」
「ありがとう!トーニャ!
 で、では水無月さんお願いします!」
「あ、はい。じゃあ、持ち上げるぞ」

 トロピカルヤッホー状態のクレアは万歳の体勢で待つ姿を眼前に捉えながらも、
 俺の頭はシスターズの会話内容に突っ込みを入れたかった。
 お前ら姉妹かよ!とか所持って物扱いかよ!とか、
 まるでロボットのような会話を繰り広げる側仕えの2人、
 その表情筋の動かない様子もメリーと同じで無表情キャラかよ!
 と口に出すのを我慢してクレアを抱き上げる。

 念のため確認だけしておくか・・。

「貴女方もクレアもステータスを見させてもらえないか?」
「かまいませんけど、何故ですか?」
「身内として扱うならその証拠を見ておかないとな」
「???まぁ、いいか。貴女たちもいいですか?」
「かまいません、どうぞ」
「ご覧になってください、《ステータス》」

 そして中空に展開される3つのステータス。

()は武具補正値、[]は称号補正値。
 名前   :クレシーダ=ソレイユ=ハルメトリ Lev.15
 所持金  :5.000.000G
 ステータス:STR 8   (+01)[+09] =STR 18
       INT 25   (+05)[+14] =INT 44
       VIT 10   (+01)[+29] =VIT 40
       MEN 28   (+05)[+14] =MEN 47
       DEX 4   (+01)[+09] =DEX 14
       AGI 6   (+01)[+09] =AGI 16
       GEM 0

 《ランク1》レイブリアの眠る丘:ダンジョン踏破率62%

 ◆称号◆
 ソレイユ神の加護 [ALL+9 光属性消費MP-5]
 ユレイアルドの聖女[VIT+20]
 光浮遊精霊と仲良し[INT+5 MEN+5]

 †ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー†
 ■装備■
 棍棒  :いやしの杖 ◇入手経路:献上品
 希少度 :超レア
 要求  :STR/10 INT/30 MEN/30
 特殊効果:HP自動回復+1/MP自動回復+1
 ステ増減:INT+1/MEN+1

 兜   :聖女のフード ◇入手経路:支給品
 希少度 :超レア
 要求  :INT/6
 ステ増減:INT+3

 鎧   :聖女の法衣 ◇入手経路:支給品
 希少度 :レア
 要求  :MEN/6
 ステ増減:MEN+3

 装飾品 :大地の女神 入手経路:献上品
 希少度 :レア
 要求  :なし
 特殊効果:自分ノックバック補正+3/武器防御力補正+8/魔法防御力補正+8
 ステ増減:ALL+1


 * * * * *
 名前   :トーニャ=クルルクス Lev.68
 所持金  :53.330G
 ステータス:STR 60    (+03)[+07] =STR 70
       INT 23   (+00)[+06] =INT 29
       VIT 49   (+03)[+07] =VIT 59
       MEN 36   (+03)[+02] =MEN 41
       DEX 36   (+00)[+07] =DEX 43
       AGI 36   (+00)[+12] =AGI 48
       GEM 0

 《ランク1》レイブリアの眠る丘:ダンジョン踏破率100%
 《ランク2》ホレイスター大湿地:ダンジョン踏破率100%
 《ランク3》神聖教国中級試験場:ダンジョン踏破率100%
 《ランク4》砲角獣の根城   :ダンジョン踏破率100%
 《ランク5》竜の墓場ネリア宝地:ダンジョン踏破率100%
 《ランク6》ガルーダの嵐巣  :ダンジョン踏破率70%

 ◆称号◆
 聖女の剣   [ALL+2 光属性消費MP-1]
 アナザー・ワン[STR+5 VIT+5 DEX+5 AGI+5]
 ギャンブラー [INT+4 AGI+5]

 †ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー†
 ■装備■
 両手剣 :アンドゥリル ◇入手経路:支給品
 希少度 :超レア
 要求  :STR/50 VIT/35 MEN/30
 特殊効果:武器攻撃力補正+10
 ステ増減:STR+3/VIT+3/MEN+3

 兜   :ウィンプル ◇入手経路:支給品
 希少度 :普通
 要求  :なし

 鎧   :修道服 ◇入手経路:支給品
 希少度 :普通
 要求  :なし

 装飾品 :守りの指輪 入手経路:支給品
 希少度 :プチレア
 要求  :なし
 特殊効果:武器防御力補正+15/魔法防御力補正+15


 * * * * *
 名前   :サーニャ=クルルクス Lev.66
 所持金  :53.330G
 ステータス:STR 60    (+03)[+07] =STR 70
       INT 23   (+03)[+02] =INT 28
       VIT 40   (+03)[+12] =VIT 55
       MEN 36   (+03)[+02] =MEN 41
       DEX 36   (+03)[+07] =DEX 46
       AGI 36   (+03)[+07] =AGI 46
       GEM 3

 《ランク1》レイブリアの眠る丘:ダンジョン踏破率100%
 《ランク2》ホレイスター大湿地:ダンジョン踏破率100%
 《ランク3》神聖教国中級試験場:ダンジョン踏破率100%
 《ランク4》砲角獣の根城   :ダンジョン踏破率100%
 《ランク5》竜の墓場ネリア宝地:ダンジョン踏破率100%
 《ランク6》ガルーダの嵐巣  :ダンジョン踏破率70%

 ◆称号◆
 聖女の剣   [ALL+2 光属性消費MP-1]
 アナザー・ワン[STR+5 VIT+5 DEX+5 AGI+5]
 姉LOVE  [VIT+5]

 †ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー†
 ■装備■
 両手剣 :サンクトゥス ◇入手経路:支給品
 希少度 :超レア
 要求  :STR/42 VIT/28 MEN/36 DEX/30
 特殊効果:武器攻撃力補正+10
 ステ増減:ALL+3

 兜   :ウィンプル ◇入手経路:支給品
 希少度 :普通
 要求  :なし

 鎧   :修道服 ◇入手経路:支給品
 希少度 :普通
 要求  :なし

 装飾品 :守りの指輪 入手経路:支給品
 希少度 :プチレア
 要求  :なし
 特殊効果:武器防御力補正+15/魔法防御力補正+15


 * * * * *
 ざっと見た感じMPも0ではなくちゃんとゲージは満タンで、
 彼女たちの身分明かす称号もしっかりと確認が取れたので、
 ひとまずは味方ということで納得することができた。

 メイフェルのように顎のすぐ下に頭が来る程度の大きさをしていた聖女を膝に抱え、
 椅子に座り直す。
 なんかアルシェたちの方向から視線を感じるけど、
 いまは気にせずにリラックスをして胸元の彼女との会話に集中する。

「・・・私は、精霊が好きなんです。
 元々私は教国にある孤児院で生活をしていたのですが、
 ある日先代の聖女からその任を受け継ぎこの地位に就きました。
 なんで私なのかはわかりませんでしたが、
 先代が受け取った神託が決定打となったそうです」
「聖女は世襲制とかじゃないのか・・・。
 で?精霊が何で好きなんだ?」
「孤児院では私と同じ歳の子供たちが多くいたのですが、
 大聖堂に引き取られてからは聖女としての教養を仕込まれる日々。
 部屋に戻っても同年代の子供は大聖堂内では見ないんです。
 なので、自然と愚痴が言える相手は私に纏ってくれている光浮遊精霊だけだったんです」
「・・・まだ9歳なら友達の大切さを教える段階を抜けてないんじゃ無いか?」

 ぽつぽつと話し始めたクレアの独りぼっち語りを聞いた俺は、
 その場にいる神聖教国のシスターに問いかけた。
 これではクレアがかわいそうだ。

「いえ、私たちもいきなり聖女の任に就かれたクレシーダ様を心配して、
 週に1度ある日曜学院に以前と同じく通えるよう手配を致しました。
 しかし、周囲の反応が・・・、
 聖女様となったクレシーダ様にどう接するのが正しいのか掴めなかったようで・・・」
「逆に孤立したのか」
「はい、いままで普通に話をしていたみんなに混ざろうと頑張ったのですが、
 どうにもお話がうまく出来なくて・・・」

 子供ってのは感情のコントロールがへたくそだ。
 だからこそ、友達や他人の線引きが明確に現れてしまい、
 扱いに困ると傷つけるつもりはなくとも何も喋ることが出来ないってことはままある。
 しかし、その子供たちは教国の聖女という立場を、
 他の国の者たちよりも明確な上位者と認識しているんだろう。

 それだけ国にとって聖女という立場は大きい。
 生まれから上位者の立場に立つアルシェとは、
 覚悟のレベルが違いすぎるのも問題だな。

「対応が下手くそすぎませんか、教国?
 いままでの聖女はクレアくらいの子じゃなかったんですか?」
「平均的には20歳を超えてから選ばれることも多く、
 一番低くても14歳でした」
「しかし、クレシーダ様は6歳で選ばれてしまったので・・・。
 それほどに心労があったとは気づかず、申し訳ありませんでした」
「い、いえ。大変でしたしある種の寂しさはありましたけど、
 大聖堂の皆様は優しく接してくれましたし、
 ご飯もお腹いっぱい食べられたのはすごく嬉しかったですよ」
「「ありがとうございます」」

 交互に話して説明をするシスターズ。
 6歳で聖女に任命されて現在9歳って事は、聖女歴3年なのか。
 まだまだペーペーなのに、
 いきなり重い神託を受けていろいろと聖女として考えてしまったことだろう。

 そう思うと、自然にクレアの頭へと手を動かして撫で始めていた。

「よく頑張ったな。偉かったぞクレア」
「あ・・・えへへ。ありがとうございます\\\」

 後から聞いた話だが、
 クレアの聖女という地位は神聖教国の長である教皇と差の無い地位なのだという。
 ならば、その下にいる部下たちはクレアを褒めたりするにしても、
 いちいち仰々しく称えて頭を撫でるなんて行為をしてこなかったのだと思う。

「なんだか私たちよりもクレシーダ様が懐いていますね、姉さん」
「そうね、妹。
 これからもクレシーダ様の身辺を守る者として、
 もっとコミュニケーションを取らなければなりませんね。
 という事で、水無月様。何かアドバイスを・・・」
「笑ってください。
 そんな無表情では楽しい雰囲気が台無しだ」
「ですが、水無月様もそこまで笑みを零しておられないようですが?」
「俺は何故か子供と動物と年寄りに好かれる体質なんです。
 貴女方は努力をしなければならないんです」
「「ぐぬぬ・・・」」

 才能と言えばそうなのだろうが、
 親からは外面が良いとしょっちゅう言われたものだ。
 子供も動物も何故か俺に興味をもって近寄ってくるのは、
 いつもの事だし適当に抱き上げていれば大人しくなるのも知っている。

 具体的な話もしないまま、
 クレアがだらしない表情で俺に体を預け始めたので黙って頭を撫でていたが、
 その撫でる手にざらつく何かが触れた。

「・・・?土が付いてる・・?
 クレア、外で遊んでからこっちに来たのか?」
「そんなわけないじゃないですかっ!
 移動してくる途中で勇者様の魔法が切れた事がありますから、
 おそらくそのときに付いたんだと思います。
 幸い2人が守ってくれたので怪我事態はしていませんが・・・、
 どうしました?」
「・・・メリー!ギルドマスターを呼んでこい!
 フーリエタマナから王都までをカバーした地図も一緒にな!」
「かしこまりましたっ!すぐ呼んで参りますっ!」

 頭に付いていた土から雑談のつもりで何気なく聞いた質問。
 そのクレアの回答を聞いた俺の頭の中では、
 すぐさまその原因足るものが何なのか予想が付いてしまった。
 だからこそ、この後の動きの為にも急ぎ確認をする必要性を見いだした。

 掛け出していくメリーを見送ると、
 アルシェたちと勇者一行が俺たちの元に近づいて来るのが見えた。

「血相を変えてどうしたんですか、お兄さん?」
「勇者一行の中に精霊使いは居たか?」
「まだその話までは伺っていませんが・・、
 如何ですか勇者様?精霊と契約を交わされていますか?」
「くぁwせdrftgyふじこlp」

 何を言っているのか相変わらずわからないが、
 首を振るジェスチャーをしている事から、
 契約者はひとりもいないのだろう。
 目線を胸元と側に控える2人にも向けるが、
 3人とも首を振って否定する。

「お待たせ致しました!ご主人様!」
「はぁはぁ、どうかされましたか?」
「地図をこちらに広げてもらえますか?」
「は、はい。こちらが言われた周辺地図になります」

 テーブルの上に広げられた地図は俺の指示通りに2つの町をカバーしていたけれど、
 少々周囲の情報も含まれてしまい、
 簡略化された情報しか地図には載っていなかった。

 視線をアルシェに向ける。

「聖女がこっちに移動する途中で移動魔法が切れた地点があったらしい」
「なるほど、そういうことですね。
 勇者様、移動魔法が切れたのはこの地図言えばどの辺かお分かりになりますか?」
「くぁwせdrftgyふじこlp?
 くぁwせ?くぁwせdrftgyふじこlp・・・」

 察しの良いアルシェと話を聞いたうちのメンバーの表情が変わる。
 アルシェから聞かれた勇者は背後に立つ仲間たちと相談をしつつ、
 指で何度か位置を話し合い、
 ついに地図上の一点を指さした。

「ギルドマスター、ここの地点は王都からどのくらい離れているか分かりますか?」
「この位置ですと・・・7キロって所でしょうか?」
「ってことは・・・こうだな。
 この範囲が効果領域と見ておくべきだ」

 手を出す俺にクーがペンを差し出してくるのを受け取り、
 地図に向けてペンを走らせる。
 さきの地点から王都をグルッと一周させる円を記入して、
 俺たちの仕事の範囲を仲間に示す。

「この範囲に何があるんですか?」
「オベリスクがある。
 ギルドマスターなら知っているでしょう?」
「はい、聞き及んでおります・・いるはずなのですが・・・、
 申し訳ありません。
 その単語の事を考えようとすると霧が掛かったように・・・」
「いえ結構です、正常な反応ですから」
「横から失礼。
 オベリスクとは何のことなのか説明してもらってもいいか?」

 話の間にわざわざ挙手をして礼儀正しく質問をしてくるのは、
 俺たちが目指す王都の兄王子であった。

「えっと・・・」
「ラフィート王子殿下です、ご主人様」
「では、ラフィート王子。その質問にお答え致します。
 貴方方勇者が旅立たれた後、
 勇者だけに世界の命運を任せるわけにはいかないと、
 アルシェ様と共に俺たちは旅をしながら、
 聖女様の神託の内容を調査していました・・・」

 そこからは破滅の呪いに始まり、
 魔神族や精霊使い、オベリスクについての説明を兄王子だけではなく、
 勇者と勇者の仲間たち、
 そしてクレアたちにも同時に説明をした。

「では、あの現象はそのオベリスクの範囲内に入ったことが原因なのか?」
「えぇ、他にないとは言いませんが、
 現状その可能性が一番高いですし、ある意味予想通りですからね。
 王都へ侵入する前にオベリスクを先に処理しておかないと、
 まともな戦闘を俺たちはさせてもらえません」
「何故その情報を世界中に公開していないんだっ!」
「公開したらどうなるとお思いか?
 魔神族に警戒させないように調べを進めているいま、
 水面下で動く彼らを刺激することに繋がり、
 最悪戦争が開始されてしまいますよ?」
「すでに私たちで分かっている手の内だけでも、
 対処を間違えれば死傷者は簡単に出てしまう状況です。
 敵は魔王だけでは無いと分かった上で、
 敵の正体が判明していない今の状態で公開するのは自殺行為となんら変わりありません。
 それとも戦闘も出来ない臣民に死ねと仰せですか?」
「・・・くっ!」

 くっ!じゃねぇんだよタコが。
 少しは冷静に頭を回せよクソ王子。

「くぁwせdrftgyふじこlp」
「なんだって?」
「俺も精霊と契約した方がいいという事は分かった。
 でも、どうすればいいのかわからないんだ、だそうです」

 短いくぁwせdrftgyふじこlpだけで、
 その長文を言っていたのか・・・。
 俺に聞こえるのは勇者の母国語で、
 アルシェたちには翻訳された内容が聞こえているんだろうな・・。

「勇者なんだから専用の精霊の1人や2人いるんじゃないですか?」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「えっとね・・・」

 勇者も勇者で俺の言葉が理解できない状況らしく、
 仲間に翻訳をしてもらっている有り様だ。
 これすげぇ端から見るとアホっぽくないか?

「いないそうです。そもそも精霊を見たのは今日が初めてだそうで・・・」
「加護は?」
「何もないそうです」
「こういう場合は、アニマが契約するのが筋じゃ無いのか?」
『なんでそうなるん、です!
 もう宗八とワタクシァ一心同体、です!』

 そこまでじゃないな。
 鼻でアニマを笑い飛ばし、
 落ち着いて勇者の事を考えてみる。
 勇者と言えば特別な装備や能力、
 そして仲間もなんかすげぇ強い奴が集まるチート軍団の長だ。
 今もすでに仲間は4人揃っているらしく、
 勇者を入れて5人とクレアたち3人を含む8人でフーリエタマナに来たらしい。

「仲間が実は精霊とか」
「全員人間です、ご主人様」
「すでに契約済みとか」
『加護もなく契約もないのは確認済みです、お父さま』

 なんか他にあるかなぁ。
 勇者の特別なところねぇ・・・。
 あ・・!

「アニマ、精霊が武具になることはあるか?」
『ワタクシが生きていた頃にはそんな精霊はいませんでしたが、
 時もずいぶんと流れていますし、
 そんな精霊が居てもおかしくはないと思う、です!』
「水無月さんの言ってるのって、
 もしかしてエクスカリバーですか?」
「正解だ、クレア」

 ゲームやアニメに登場する武器にもいろんな物が存在し、
 強力な物ほど実は生き物でしたって話もある。
 にやりと笑い、正解したクレアの頭へ再び手を伸ばす俺と、
 照れるクレアを、
 アクアとアルシェがすごい形相で睨んでいるのを俺は気づいていなかった。
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