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第07章 -平和な工芸都市フーリエタマナ編-
†第7章† -04話-[精霊使い量産化計画-訓練編-]
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「お待たせしました」
「いえ、私もいま着いたばかりですから・・」
『お待ちしておりました、お父さま』
『ますたー、まってたよ~!』
『ですわー!』
アニマに呼ばれて向かった先には、
別口で呼び出されたトワインがすでに到着していた。
そう、今回はずっと気がかりだったトワインの戦闘面について、
何か策を嵩じようと思い、こうして精霊の協力の下トワインを呼んだのだ。
「それで今日は何をさせたいのかしら?」
「ではさっそく、いつも使われる弓を出してください。
合図を出したらあちらに用意している的を撃って下さい」
「???わかりました。
構えはせず弓の用意だけですね」
説明の間で俺が指を差す方向には一本の大木があり、
その中心にはクーの制御で影が特定の形を取っていて、
黒い縁取りの円とその中心部分には真っ黒な円が出来上がっていた。
「いいですよ」
「・・・始めっ!」
「っ!」
ピンと張り詰める空気のなか、構えて3秒程度の間を置いてから射るトワイン。
その手から放たれた矢は風斬音を発生させながら遠ざかっていき、
1秒程度で目標の黒丸の円内に突き刺さった。
俺に弓術の知識ははっきりと言って無い。
アニメで部活の弓道を見たことはあるし、
動画で実際の弓道も見たことはある。
しかし、その程度のおぼろげな構えから射って構えを解いて息を吐く。
はっきりとわかるのは某艦隊これくしょんがアニメ化に際し、
片足立ち構えの加賀が雑誌に掲載された姿よりはちゃんと弓兵の姿だとわかる程度。
「・・・いかがですか?」
「・・・アクア、スナイプモード」
『《氷纏》シフト:狙撃も~ど!』
俺たちがいる現在位置から的までの距離はおよそ70M。
勝手なイメージだが、
弓道というよりはアーチェリーに近い射程距離なんじゃないだろうか?
トワインの矢はきっかり真ん中ではなく少しだけズレて刺さっていた。
トワインの主武器の名前は[コンポジットボウ]。
複合弓の名の通り、
当然射程距離も弓道よりはアーチェリーに近しく、
異世界のステータス補正も含めるとそれ以上の射程範囲になることだろう。
俺の声を合図にアクアが遠距離戦用の氷纏を展開する。
片目にはモノクル型ウォーターレンズ、
頭の上には長さ15CMほどの捻れた勇者の剣が3本。
ドレスアーマーも普段の装飾とは異なり、
軽装の胸当て程度に留まっている。
「・・・始めっ!」
『《っ!ふぉいやー!》』
一拍の間を置いてアクアは銃の形に指を折った右手を跳ね上げると、
頭上の3発のうち右手に一番近い勇者の剣が目標に向けて射出され、
見事にトワインの矢が刺さったところと同じ範囲内に突き刺さる。
1発を撃つと残りの2発が移動を開始して、
開いた左のスペースに追加で新しい勇者の剣が精製されていた。
「・・お見事ですね」
「ありがとうございます」
肉眼でこの距離が見えているのか、
的に命中するとほぼ同時に賞賛の声を上げるトワインに驚かされる。
天性の才能なのかな?
「それで、今のアクアちゃんの魔法を見せて何を伝えたいんですか?」
「簡潔に言うと、
弓での攻撃は魔法で代替が可能になってしまいます。
なので、無精と契約しているからこその独自性を持って頂きたいと考えています」
「いえ、魔法に関してはアクアちゃんだからこそ可能になっているのだと、
魔法に詳しくない私にもわかります。
ちなみに独自性とはどういったものを指しているのでしょうか?」
「アクア」
『あ~い!ぱっちん!』
問われた俺のイメージする独自性をトワインに伝える為に、
アクアに追加で指示を出すと、
カスッと音を立てる鳴らない指ぱっちんを敢行。
口でぱっちんと言って誤魔化した矢先に、
的に刺さった勇者の剣が小規模の爆発を起こし、
的となった大樹を一定範囲凍り漬けにした。
「あれをしろと?
単純な疑問なんですけど、私にあれが可能なのかしら?」
「セルレインを召喚する時に魔力を核に込めたでしょう?
その技術をさらに発展させれば可能です。
今アクアが使用した魔法を説明すると・・・」
俺が開発した魔法剣という戦技は、
武器に魔法を込めるという大前提が必要になる。
核には魔力を込めてもらったが、
核を武器にして魔力を魔法に変えれば魔法剣が完成する。
今回は核を勇者の剣の魔法に、
アイシクルエッジの魔法を込める事で遠距離攻撃に追加効果を持たせたものだ。
では、俺たちがトワインに求めている技術は何かというと・・・。
「属性魔法を矢に込めて撃つ・・・ですか?」
「えぇ、それと出来れば弓自体に魔法で追加武装が出来るようになって欲しいですね」
「追加武装?宗八が使う[武器加階]みたいなものですか?」
「その前身となった魔法ですね」
お手本を見せる為にインベントリからアイスピックを取り出して、
詠唱を開始する。
「《アイシクルエッジ》セット:アイスピック。《流水加速》《アイシクルエッジ》追加武装、セット:アイスピック」
こうして一気に詠唱すると長くて無駄が多いと感じる。
いまであればさらに強力になって、
頭のセットまで済ませたら武器加階の詠唱で完成する事を考えれば、
俺の魔法技術もずいぶんと進歩したものだと感慨深くもなる。
無駄に長い詠唱の末に完成したアイスピックの姿は、
水剣の剣身に氷の刃がくっついただけの逆V字に見える剣であった。
「こんな感じですけど、
弓に属性武器はないと聞いていますから、
頭のセットをエンチャント魔法の[エンハンスアクア]に変えて使用すれば上手くいくと思ってます」
『お父さまの理論は弓に段々の刃をいくつも分けて追加武装するものです。
それであれば引いてしなる弓の動きにも対応できるかと』
「・・・宗八、単刀直入に聞きますが。
貴方方は私たちにかかずらわる時間はないのではありませんか?」
魔法を用いた説明の合間に投げかけられた問い。
トワインの瞳には真剣な光が宿っており、
出来うる限り仲間として答えなければと俺の心を動かした。
「確かに俺たちは急いで王都に着きたいし調査を進めたい。
それは事実であり、不必要な事に首を突っ込んでいる余裕はありません」
足下に掛け寄ってきていたクーを抱き上げて、
肩口にぶら下がっているアクアの頭を撫でつつ口を動かす。
ニルも一旦訓練が止まると空気を読んで、
勝手に近場に広がる花畑へと遊びに出かけて行くのを目端に捉えた。
「俺たちの旅のスローガン・・・、
旅の理念として[火のない所に煙は立たぬ]ってのがある。
言葉の意味は情報があれば原因があるって感じなんですが、
これは出会いや人生に置き換えることも出来るんです」
「置き換え?」
「えぇ。例えばアクアは俺と出会わなければ普通の精霊として成長するはずだったし、
マリエルも子供の頃にアルシェと出会わなければ、
この旅に着いてくる事にはならなかっただろうと思います。
この場合出会いは情報・・つまりは煙と同じなんです」
IFや世界線と言えばわかりやすいだろうか。
どの世界でも同じだと思っているんだが、
きっかけや分岐点に気が付くか気が付かないかで人生は大きく左右される。
それは情報を多く受信が出来る世界であれば尚更だろう。
ガキの頃にTVで戦闘機が飛んでいるシーンを見て航空自衛隊を目指したり、
ラジオで聞いた音楽に惚れて作曲家を夢見たりと、
いろんな[煙]が存在している。
それは欠片。
自分が自分に対して提示する手札、道。
どんな人生を送るか、どんな夢を見るか、どんな人と出会うか・・・、
そういう色んな煙の中から選んで人生の分岐点を自分で選ぶ。
運命と呼ばれるそれらの中でアクアの煙と俺の煙は合流を果たした、
いまは火となって共に生きている。
「そしてゼノウやライナー、トワインにフランザの4人に対して、
俺が手出しする意味はバタフライエフェクトにあります」
「バタフライエフェクト?それはなんですか?」
「1匹の蝶が飛び立った。
その蝶はその後蜘蛛の巣に引っかかり食べられてしまった。
その原因は蝶が飛び立ったからか?それとも蜘蛛がその場に巣を作ったからか?
色んな原因があるけれど、各々の行動がその後に影響を及ぼすって意味です」
俺の説明をゆっくりとかみ砕いて自分で理解できるように努力をする。
そんな空気がトワインから伝わってくる。
これはアルシェと同じ聡明な人物の特徴のひとつと言えるのかも知れないな。
理解できないからと投げ出さず、
自分の力にしようと努力するその姿は本当に眩しい。
「その現象には理解が出来ます。
それでも・・・」
「俺たちには貴女方を仲間にするという手札と仲間にしない手札があった。
基本は身内以外の戦力として現地の冒険者や精霊と協力をしてきたが、
フォレストトーレ王都は状況が不鮮明なうえに仲間の目処もなく、
最低のスタートからゴールに向かう事だって考えられた。
そんな状況下で危険な旅に同行したいという馬鹿共が追ってきたんだ。
これを・・・俺は運命だと思ったよ・・・、
あれほど危険だから大人しくしておけ、命の保証は出来ないと釘を刺しておいたのにだ」
「それは・・申し訳なく思っています。
マリーブパリアでは本音で話して下さったことに感謝もしていますが、
やはり仲間の・・・ペルクの命は私たちにとっても軽くはありませんでしたから」
「わかりますよ・・・大事な人が逝ってしまう悲しみは理解できます。
だから俺は守れる範囲の人しか親しくしないし、
近寄らせないように生きてきましたから・・・」
元の世界での俺はオタクではあったが別に引きこもりではなかった。
俺が何かしたら死ななかったかも・・なんて逆上せ上がることはないけれど、
その人と親しければ親しいほどに、
俺の心はどんどんと冷え込んでいった。
いつの頃からだろうか。
友達と喜び合うことが出来なくなったのは・・・、
人に合わせて作り笑いを浮かべるようになったのは・・・、
親しくなってしまった人と距離を置くようになったのは・・・。
そして・・冷めた客観的な視線で自分の滑稽さを眺めるようになったのは・・・。
「宗八?どうしました?」
「いえ、以前人から壁があると言われたのを思い出しただけです。
近寄りがたい部分を感じるって」
「あ、それはわかります。
どこか張り詰めた緊張感が近寄りづらさを醸していますから」
さいですか・・。すみませんね・・。
「ともかく、今回は状況が状況なので事態を有利に運ぶ為、
危険を分散させる囮として、
純粋な戦力として貴女方を頼る事にしました。
仲間にすると決めた以上は簡単に死なないように鍛える義務があるでしょう?
仮にも俺は・・・みんなのリーダーなんだから・・・」
「それで体力作りに隠密、戦闘面の強化を考えて下さっているんですね。
じゃあ、私の弓は宗八にとってはどんなものですか?」
「ゴミですね。戦場で撃たれたとしても何の影響もない塵と同義です」
「はっきり言い過ぎです・・・」
「言った方が時間の無駄を省けますから。
いまのまま俺が撃たれたとしても見て避けるのも余裕ですし、
斬り払う技術もあります。
何よりも風の制御で矢の軌道を変えれば何もしなくても当たりません」
「はぁ・・・わかりました。
クランリーダーの方針ですからね、
頑張って王都に着くまでにはある程度使える戦力になれるよう頑張ります」
「こちらも技術的な疑問でも精霊関係の相談でも乗りますから、
改めてよろしくおねがいします、トワイン」
* * * * *
一方、着地訓練を一通り終えたアルシェは、
同じ魔法使い職のフランザとの組み手を始めようとしていた。
「基本の打ち方や蹴り方は訓練通りで問題ありません。
攻撃の順序は覚えていますか?」
「はい、大丈夫です」
「では、遠慮無く打ち込んで来て下さい」
「行きます!」
宗八は生来の事なかれ主義な為、
殴り合いの喧嘩はおろか、空手やボクシングなどといった格闘技を習うこともなかった。
例え殴り合いの喧嘩に発展したとしても、
捌きと防御、逃げの一択で自分から積極的に攻撃することはなかった。
どちらかといえば、
相手が諦めるまで時間を使い、
息を荒げていく様を楽しむタイプであった。
「はっ!はっ!せいっ!」
フランザの拳を手の平や手首で軌道を反らし、
肘鉄は側面から叩いて弾く。
蹴りは基本的に上半身の攻撃よりも威力が高いので、
捌くのも容易ではない。
なので第一候補は回避であるが、
レベルによっては回避が間に合わないということも懸念して第二候補の防御もしっかりと訓練をする。
アルシェからの攻撃はないとはいえ、
足りないステータスに足りない筋肉、
体幹に至ってもまだまだ実践には投入できない脆さだが、
それでも一撃一撃を大事に集中して打ち込むように言い含めている為、
フランザはスタミナを無駄に減らしながらも丹田に力を入れて攻撃を仕掛けてくる。
「行きます!」
「どうぞ!っ・・・!」
それでも避けて捌いて防御するだけでは、
フランザが殴る感触にいつまで経っても慣れることが出来ない。
アルシェも攻撃がHITしても一定の痛みに耐えて次の行動に移す訓練をする為、
合間合間にわざとHITさせている。
今し方最後の予定調和で、
アルシェに攻撃がHITして体が開いたところを右肩と左胸下に手を添えて一息に突き飛ばす。
2人の距離が開いた時点でフランザが攻撃役の約束組手は終了した。
「次は交代しましょう、フランザさん。
順序は覚えていますか?」
「はい、姫様。
しっかりと復習して覚えてきました」
「では、同じものを全部で5回行います。
徐々にスピードを上げていきますから今度は防御と回避に集中してください」
「はい!」
* * * * *
結局その日は一日訓練を行うこととなり、
昼には起きてきたメリーが昼食を宿で作って合流。
マリエルはライナーがサボらないように監視。
トワインと無精のセルレイン組の魔法矢と弓の強化、
ついでに組手の相手も宗八とアニマが担当し、
ゼノウと相棒のウーノは同じく軽装のメリーとクーが相手をしてボコボコにしていた。
パーティ内の立場が近しい者同士であれば、
悩みも共有しやすくプレイヤースキルではアルシェたちがアドバイスをして、
冒険者の悩みであれば経験を生かしてフランザたちがアドバイスをして切磋琢磨する流れがこの数週間で出来上がっていた。
「?」
『いま、強い魔力の気配がありましたね』
『え~?あくあわかんなかったよぉ~?』
『ニルもわかりませんでしたわー!』
本来は休日に当てていたという事も考えて、
門扉が閉まる前に宿に戻って早めに休もうかと話していたその時。
頭痛とは違う、けれどムズムズする感覚が脳に走り、
その気配のあった方向へと視線を向ける。
しかし問題は、視線の先は地平線ではなく中空へと向けられていた事だ。
俺と同じく感じ慣れない魔力に反応したクーも、
同じ様に中空へと向いている。
「アルシェ!今の気づいたか?」
「え?どれの事ですか?」
「いや、わからなかったんならいい」
「はぁ・・・?何かあったんですか?」
『ワタクシも検知出来ませんでしたし、クーと宗八だけが気づいた点から、
もしかしたら光属性の魔法が近くで使われたのかもしれない、です!』
魔法に強いクー以外の精霊たちと、
アルシェも反応出来なかったことから推理したアニマの見解は、
闇属性の対となる光属性の魔力反応だったのでは、というものだった。
「光属性の魔法ってことですよね?
もしかして勇者様でしょうか?」
「はぁ?言付けはしたけど別に会いに来いとは書いてないよな?」
「えぇ。フォレストトーレ王都が不穏。
至急調査協力を求める、って伝えただけです」
その内容なら会いに来いって意味よりは、
王都で合流しましょうって意味合いに聞こえるよな?
それでも光属性の魔法を使える人物がほいほいとそこら辺にいるとは思えないし、
俺の頭にも勇者が第一候補として浮上している。
とはいえ、実際のところは確認をしてみないとわからない。
「まぁ、いいや。
さっき話していたとおりに今日はもう上がろう。
後で俺とアルシェがギルドに行って確認してみるさ」
「わかりました。22時前には着けるようにしましょう」
「かしこまりました」
「よっしゃ!さっさと風呂に入りに行こうぜぇ!」
「あれ?ライナーさんまだ元気ですね?」
「(おい、余計な事を言うんじゃねぇよマリエル嬢。
宗八に聞こえたらどうなるかわかったもんじゃねぇんだからよ・・)」
予定通りに終業の指示を出すと、
全員が了解の声を上げて町へと戻り始める中。
元気よく帰路に着こうとするライナーの発言に、
マリエルが反応を示すとライナーは慌ててマリエルにコソコソと文句を言っている。
まぁ聞こえてるんだけどね。
今はそんなことよりも気になる事案が発生しているので、
聞こえなかった振りをして俺も精霊たちを抱えて宿へと引き上げていくのであった。
「いえ、私もいま着いたばかりですから・・」
『お待ちしておりました、お父さま』
『ますたー、まってたよ~!』
『ですわー!』
アニマに呼ばれて向かった先には、
別口で呼び出されたトワインがすでに到着していた。
そう、今回はずっと気がかりだったトワインの戦闘面について、
何か策を嵩じようと思い、こうして精霊の協力の下トワインを呼んだのだ。
「それで今日は何をさせたいのかしら?」
「ではさっそく、いつも使われる弓を出してください。
合図を出したらあちらに用意している的を撃って下さい」
「???わかりました。
構えはせず弓の用意だけですね」
説明の間で俺が指を差す方向には一本の大木があり、
その中心にはクーの制御で影が特定の形を取っていて、
黒い縁取りの円とその中心部分には真っ黒な円が出来上がっていた。
「いいですよ」
「・・・始めっ!」
「っ!」
ピンと張り詰める空気のなか、構えて3秒程度の間を置いてから射るトワイン。
その手から放たれた矢は風斬音を発生させながら遠ざかっていき、
1秒程度で目標の黒丸の円内に突き刺さった。
俺に弓術の知識ははっきりと言って無い。
アニメで部活の弓道を見たことはあるし、
動画で実際の弓道も見たことはある。
しかし、その程度のおぼろげな構えから射って構えを解いて息を吐く。
はっきりとわかるのは某艦隊これくしょんがアニメ化に際し、
片足立ち構えの加賀が雑誌に掲載された姿よりはちゃんと弓兵の姿だとわかる程度。
「・・・いかがですか?」
「・・・アクア、スナイプモード」
『《氷纏》シフト:狙撃も~ど!』
俺たちがいる現在位置から的までの距離はおよそ70M。
勝手なイメージだが、
弓道というよりはアーチェリーに近い射程距離なんじゃないだろうか?
トワインの矢はきっかり真ん中ではなく少しだけズレて刺さっていた。
トワインの主武器の名前は[コンポジットボウ]。
複合弓の名の通り、
当然射程距離も弓道よりはアーチェリーに近しく、
異世界のステータス補正も含めるとそれ以上の射程範囲になることだろう。
俺の声を合図にアクアが遠距離戦用の氷纏を展開する。
片目にはモノクル型ウォーターレンズ、
頭の上には長さ15CMほどの捻れた勇者の剣が3本。
ドレスアーマーも普段の装飾とは異なり、
軽装の胸当て程度に留まっている。
「・・・始めっ!」
『《っ!ふぉいやー!》』
一拍の間を置いてアクアは銃の形に指を折った右手を跳ね上げると、
頭上の3発のうち右手に一番近い勇者の剣が目標に向けて射出され、
見事にトワインの矢が刺さったところと同じ範囲内に突き刺さる。
1発を撃つと残りの2発が移動を開始して、
開いた左のスペースに追加で新しい勇者の剣が精製されていた。
「・・お見事ですね」
「ありがとうございます」
肉眼でこの距離が見えているのか、
的に命中するとほぼ同時に賞賛の声を上げるトワインに驚かされる。
天性の才能なのかな?
「それで、今のアクアちゃんの魔法を見せて何を伝えたいんですか?」
「簡潔に言うと、
弓での攻撃は魔法で代替が可能になってしまいます。
なので、無精と契約しているからこその独自性を持って頂きたいと考えています」
「いえ、魔法に関してはアクアちゃんだからこそ可能になっているのだと、
魔法に詳しくない私にもわかります。
ちなみに独自性とはどういったものを指しているのでしょうか?」
「アクア」
『あ~い!ぱっちん!』
問われた俺のイメージする独自性をトワインに伝える為に、
アクアに追加で指示を出すと、
カスッと音を立てる鳴らない指ぱっちんを敢行。
口でぱっちんと言って誤魔化した矢先に、
的に刺さった勇者の剣が小規模の爆発を起こし、
的となった大樹を一定範囲凍り漬けにした。
「あれをしろと?
単純な疑問なんですけど、私にあれが可能なのかしら?」
「セルレインを召喚する時に魔力を核に込めたでしょう?
その技術をさらに発展させれば可能です。
今アクアが使用した魔法を説明すると・・・」
俺が開発した魔法剣という戦技は、
武器に魔法を込めるという大前提が必要になる。
核には魔力を込めてもらったが、
核を武器にして魔力を魔法に変えれば魔法剣が完成する。
今回は核を勇者の剣の魔法に、
アイシクルエッジの魔法を込める事で遠距離攻撃に追加効果を持たせたものだ。
では、俺たちがトワインに求めている技術は何かというと・・・。
「属性魔法を矢に込めて撃つ・・・ですか?」
「えぇ、それと出来れば弓自体に魔法で追加武装が出来るようになって欲しいですね」
「追加武装?宗八が使う[武器加階]みたいなものですか?」
「その前身となった魔法ですね」
お手本を見せる為にインベントリからアイスピックを取り出して、
詠唱を開始する。
「《アイシクルエッジ》セット:アイスピック。《流水加速》《アイシクルエッジ》追加武装、セット:アイスピック」
こうして一気に詠唱すると長くて無駄が多いと感じる。
いまであればさらに強力になって、
頭のセットまで済ませたら武器加階の詠唱で完成する事を考えれば、
俺の魔法技術もずいぶんと進歩したものだと感慨深くもなる。
無駄に長い詠唱の末に完成したアイスピックの姿は、
水剣の剣身に氷の刃がくっついただけの逆V字に見える剣であった。
「こんな感じですけど、
弓に属性武器はないと聞いていますから、
頭のセットをエンチャント魔法の[エンハンスアクア]に変えて使用すれば上手くいくと思ってます」
『お父さまの理論は弓に段々の刃をいくつも分けて追加武装するものです。
それであれば引いてしなる弓の動きにも対応できるかと』
「・・・宗八、単刀直入に聞きますが。
貴方方は私たちにかかずらわる時間はないのではありませんか?」
魔法を用いた説明の合間に投げかけられた問い。
トワインの瞳には真剣な光が宿っており、
出来うる限り仲間として答えなければと俺の心を動かした。
「確かに俺たちは急いで王都に着きたいし調査を進めたい。
それは事実であり、不必要な事に首を突っ込んでいる余裕はありません」
足下に掛け寄ってきていたクーを抱き上げて、
肩口にぶら下がっているアクアの頭を撫でつつ口を動かす。
ニルも一旦訓練が止まると空気を読んで、
勝手に近場に広がる花畑へと遊びに出かけて行くのを目端に捉えた。
「俺たちの旅のスローガン・・・、
旅の理念として[火のない所に煙は立たぬ]ってのがある。
言葉の意味は情報があれば原因があるって感じなんですが、
これは出会いや人生に置き換えることも出来るんです」
「置き換え?」
「えぇ。例えばアクアは俺と出会わなければ普通の精霊として成長するはずだったし、
マリエルも子供の頃にアルシェと出会わなければ、
この旅に着いてくる事にはならなかっただろうと思います。
この場合出会いは情報・・つまりは煙と同じなんです」
IFや世界線と言えばわかりやすいだろうか。
どの世界でも同じだと思っているんだが、
きっかけや分岐点に気が付くか気が付かないかで人生は大きく左右される。
それは情報を多く受信が出来る世界であれば尚更だろう。
ガキの頃にTVで戦闘機が飛んでいるシーンを見て航空自衛隊を目指したり、
ラジオで聞いた音楽に惚れて作曲家を夢見たりと、
いろんな[煙]が存在している。
それは欠片。
自分が自分に対して提示する手札、道。
どんな人生を送るか、どんな夢を見るか、どんな人と出会うか・・・、
そういう色んな煙の中から選んで人生の分岐点を自分で選ぶ。
運命と呼ばれるそれらの中でアクアの煙と俺の煙は合流を果たした、
いまは火となって共に生きている。
「そしてゼノウやライナー、トワインにフランザの4人に対して、
俺が手出しする意味はバタフライエフェクトにあります」
「バタフライエフェクト?それはなんですか?」
「1匹の蝶が飛び立った。
その蝶はその後蜘蛛の巣に引っかかり食べられてしまった。
その原因は蝶が飛び立ったからか?それとも蜘蛛がその場に巣を作ったからか?
色んな原因があるけれど、各々の行動がその後に影響を及ぼすって意味です」
俺の説明をゆっくりとかみ砕いて自分で理解できるように努力をする。
そんな空気がトワインから伝わってくる。
これはアルシェと同じ聡明な人物の特徴のひとつと言えるのかも知れないな。
理解できないからと投げ出さず、
自分の力にしようと努力するその姿は本当に眩しい。
「その現象には理解が出来ます。
それでも・・・」
「俺たちには貴女方を仲間にするという手札と仲間にしない手札があった。
基本は身内以外の戦力として現地の冒険者や精霊と協力をしてきたが、
フォレストトーレ王都は状況が不鮮明なうえに仲間の目処もなく、
最低のスタートからゴールに向かう事だって考えられた。
そんな状況下で危険な旅に同行したいという馬鹿共が追ってきたんだ。
これを・・・俺は運命だと思ったよ・・・、
あれほど危険だから大人しくしておけ、命の保証は出来ないと釘を刺しておいたのにだ」
「それは・・申し訳なく思っています。
マリーブパリアでは本音で話して下さったことに感謝もしていますが、
やはり仲間の・・・ペルクの命は私たちにとっても軽くはありませんでしたから」
「わかりますよ・・・大事な人が逝ってしまう悲しみは理解できます。
だから俺は守れる範囲の人しか親しくしないし、
近寄らせないように生きてきましたから・・・」
元の世界での俺はオタクではあったが別に引きこもりではなかった。
俺が何かしたら死ななかったかも・・なんて逆上せ上がることはないけれど、
その人と親しければ親しいほどに、
俺の心はどんどんと冷え込んでいった。
いつの頃からだろうか。
友達と喜び合うことが出来なくなったのは・・・、
人に合わせて作り笑いを浮かべるようになったのは・・・、
親しくなってしまった人と距離を置くようになったのは・・・。
そして・・冷めた客観的な視線で自分の滑稽さを眺めるようになったのは・・・。
「宗八?どうしました?」
「いえ、以前人から壁があると言われたのを思い出しただけです。
近寄りがたい部分を感じるって」
「あ、それはわかります。
どこか張り詰めた緊張感が近寄りづらさを醸していますから」
さいですか・・。すみませんね・・。
「ともかく、今回は状況が状況なので事態を有利に運ぶ為、
危険を分散させる囮として、
純粋な戦力として貴女方を頼る事にしました。
仲間にすると決めた以上は簡単に死なないように鍛える義務があるでしょう?
仮にも俺は・・・みんなのリーダーなんだから・・・」
「それで体力作りに隠密、戦闘面の強化を考えて下さっているんですね。
じゃあ、私の弓は宗八にとってはどんなものですか?」
「ゴミですね。戦場で撃たれたとしても何の影響もない塵と同義です」
「はっきり言い過ぎです・・・」
「言った方が時間の無駄を省けますから。
いまのまま俺が撃たれたとしても見て避けるのも余裕ですし、
斬り払う技術もあります。
何よりも風の制御で矢の軌道を変えれば何もしなくても当たりません」
「はぁ・・・わかりました。
クランリーダーの方針ですからね、
頑張って王都に着くまでにはある程度使える戦力になれるよう頑張ります」
「こちらも技術的な疑問でも精霊関係の相談でも乗りますから、
改めてよろしくおねがいします、トワイン」
* * * * *
一方、着地訓練を一通り終えたアルシェは、
同じ魔法使い職のフランザとの組み手を始めようとしていた。
「基本の打ち方や蹴り方は訓練通りで問題ありません。
攻撃の順序は覚えていますか?」
「はい、大丈夫です」
「では、遠慮無く打ち込んで来て下さい」
「行きます!」
宗八は生来の事なかれ主義な為、
殴り合いの喧嘩はおろか、空手やボクシングなどといった格闘技を習うこともなかった。
例え殴り合いの喧嘩に発展したとしても、
捌きと防御、逃げの一択で自分から積極的に攻撃することはなかった。
どちらかといえば、
相手が諦めるまで時間を使い、
息を荒げていく様を楽しむタイプであった。
「はっ!はっ!せいっ!」
フランザの拳を手の平や手首で軌道を反らし、
肘鉄は側面から叩いて弾く。
蹴りは基本的に上半身の攻撃よりも威力が高いので、
捌くのも容易ではない。
なので第一候補は回避であるが、
レベルによっては回避が間に合わないということも懸念して第二候補の防御もしっかりと訓練をする。
アルシェからの攻撃はないとはいえ、
足りないステータスに足りない筋肉、
体幹に至ってもまだまだ実践には投入できない脆さだが、
それでも一撃一撃を大事に集中して打ち込むように言い含めている為、
フランザはスタミナを無駄に減らしながらも丹田に力を入れて攻撃を仕掛けてくる。
「行きます!」
「どうぞ!っ・・・!」
それでも避けて捌いて防御するだけでは、
フランザが殴る感触にいつまで経っても慣れることが出来ない。
アルシェも攻撃がHITしても一定の痛みに耐えて次の行動に移す訓練をする為、
合間合間にわざとHITさせている。
今し方最後の予定調和で、
アルシェに攻撃がHITして体が開いたところを右肩と左胸下に手を添えて一息に突き飛ばす。
2人の距離が開いた時点でフランザが攻撃役の約束組手は終了した。
「次は交代しましょう、フランザさん。
順序は覚えていますか?」
「はい、姫様。
しっかりと復習して覚えてきました」
「では、同じものを全部で5回行います。
徐々にスピードを上げていきますから今度は防御と回避に集中してください」
「はい!」
* * * * *
結局その日は一日訓練を行うこととなり、
昼には起きてきたメリーが昼食を宿で作って合流。
マリエルはライナーがサボらないように監視。
トワインと無精のセルレイン組の魔法矢と弓の強化、
ついでに組手の相手も宗八とアニマが担当し、
ゼノウと相棒のウーノは同じく軽装のメリーとクーが相手をしてボコボコにしていた。
パーティ内の立場が近しい者同士であれば、
悩みも共有しやすくプレイヤースキルではアルシェたちがアドバイスをして、
冒険者の悩みであれば経験を生かしてフランザたちがアドバイスをして切磋琢磨する流れがこの数週間で出来上がっていた。
「?」
『いま、強い魔力の気配がありましたね』
『え~?あくあわかんなかったよぉ~?』
『ニルもわかりませんでしたわー!』
本来は休日に当てていたという事も考えて、
門扉が閉まる前に宿に戻って早めに休もうかと話していたその時。
頭痛とは違う、けれどムズムズする感覚が脳に走り、
その気配のあった方向へと視線を向ける。
しかし問題は、視線の先は地平線ではなく中空へと向けられていた事だ。
俺と同じく感じ慣れない魔力に反応したクーも、
同じ様に中空へと向いている。
「アルシェ!今の気づいたか?」
「え?どれの事ですか?」
「いや、わからなかったんならいい」
「はぁ・・・?何かあったんですか?」
『ワタクシも検知出来ませんでしたし、クーと宗八だけが気づいた点から、
もしかしたら光属性の魔法が近くで使われたのかもしれない、です!』
魔法に強いクー以外の精霊たちと、
アルシェも反応出来なかったことから推理したアニマの見解は、
闇属性の対となる光属性の魔力反応だったのでは、というものだった。
「光属性の魔法ってことですよね?
もしかして勇者様でしょうか?」
「はぁ?言付けはしたけど別に会いに来いとは書いてないよな?」
「えぇ。フォレストトーレ王都が不穏。
至急調査協力を求める、って伝えただけです」
その内容なら会いに来いって意味よりは、
王都で合流しましょうって意味合いに聞こえるよな?
それでも光属性の魔法を使える人物がほいほいとそこら辺にいるとは思えないし、
俺の頭にも勇者が第一候補として浮上している。
とはいえ、実際のところは確認をしてみないとわからない。
「まぁ、いいや。
さっき話していたとおりに今日はもう上がろう。
後で俺とアルシェがギルドに行って確認してみるさ」
「わかりました。22時前には着けるようにしましょう」
「かしこまりました」
「よっしゃ!さっさと風呂に入りに行こうぜぇ!」
「あれ?ライナーさんまだ元気ですね?」
「(おい、余計な事を言うんじゃねぇよマリエル嬢。
宗八に聞こえたらどうなるかわかったもんじゃねぇんだからよ・・)」
予定通りに終業の指示を出すと、
全員が了解の声を上げて町へと戻り始める中。
元気よく帰路に着こうとするライナーの発言に、
マリエルが反応を示すとライナーは慌ててマリエルにコソコソと文句を言っている。
まぁ聞こえてるんだけどね。
今はそんなことよりも気になる事案が発生しているので、
聞こえなかった振りをして俺も精霊たちを抱えて宿へと引き上げていくのであった。
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