特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第07章 -平和な工芸都市フーリエタマナ編-

†第7章† -02話-[精霊使い量産化計画-実験編-]

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『・・っ!?』

 宗八が宿部屋の天井に視線を鋭く向けたその瞬間。
 外での買い物をアルシェ達と楽しんでいたクーも同じく・・、
 いやもっと具体的に空間干渉が起きた事を把握していた。

 現在のクーは猫モードになっており、
 メリーの肩に乗っている状態であった。
 耳をピクつかせたクーの様子にいち早く気づいたメリーだったが、
 2人の主人からのアクションもなく、
 クーもすぐに何かを伝えてくるわけでもない事から、
 不用意な言葉を掛けない方が賢明と判断し、
 クーデルカが何かを伝えてくるのを待つ一方、
 意識的にアルシェへの警戒度を強めた。

(『メリーさん、上空から何者かに見られています。
 状況から相手の目的が不明な為、
 ひとまずは観光客の振りをしてそのまま買い物を継続するように指示がありました』)
(「かしこまりました。
 念話と言うことは言葉も監視されているのですか?」)
(『空間越しにこの町を俯瞰している形なので声までは流石に拾えないと思いますが、
 口の動きから察知されては面倒です』)
(「なるほど。
 ご主人様の指示で私服に着替えていて正解でしたね」)
(『ですね。お父さまからお姉さまにも連絡がいくはずです。
 揺蕩う唄ウィルフラタを使用すると空間の揺らぎが出てしまって、
 相手に感づかれる恐れがありますから、
 おそらく念話での対応となるでしょう』)

 となれば問題はもう1人の仲間、マリエルであった。
 彼女は脳天気で楽観主義ではあるが、
 本気でアルシェを手助けしたいと頑張っている妖精だ。
 この場に居る自分とアルシェは契約があるので念話で状況を理解できるが、
 マリエルはまだ誰とも契約をしていない為、
 状況を伝えることが出来ない。

 アルシェとマリエルの会話に耳を傾けると、
 微かな違いを感じ取る。
 つまり、いまアルシェの思考は2分しており、
 片方でマリエルとの会話を展開しつつ、
 もう片方でアクアから情報を受け取っているのだ。

 メリーはアルシェに指示を仰ぐ為にアイコンタクトを取る。

「(アルシェ様、マリエル様への説明はいかがされますか?)」
「(伝える術がない以上買い物を楽しむしかないでしょう。
 億が一マリエルが何か感づいても、
 何も聞かないという選択をしてくれるように祈りましょう)」
「(かしこまりました)」

 ここからは監視が終わるまでの持久戦だ。
 こちらは偶々とはいえ乗り切れる条件が整っている事から、
 両主人の指示通りにこのまま買い物を続けることに集中するのであった。

 * * * * *
 アクアへの伝言も伝え、
 最後にニルへと念話で伝えるべきか悩んだあげく、
 あいつに伝える方が心配事が増えて心労が溜まるから放って置こうとなった。

「どした?」
「いえ、何でもありませんよ。
 それよりも集中してください、ライナー」
「へいへい」

 目の前の4人にも伝えておきたいところではあるが、
 状況と手札の無さがそれを許してくれないので、
 とりあえず視点が発生している方向だけは意識の隅に置いて、
 手早く手の平に転がる核に魔力を込めてしまう。

 っていうか、なるほどなぁ~・・・。
 何もないのがトラップとは、クハハ・・・なかなかキッツい事を仕掛けて来やがる。
 基本的に大型の問題を作り置きしてばらまいている魔神族の連中がだぞ?
 いきなり王都手前の町で手を抜くという意味、
 それがまさか秘密裏に動く俺たちを本当に釣り上げる為の罠とはな。

 まぁ事件への干渉だったり、
 他の冒険者の目も口も完全な箝口令は無理だとわかっていた。
 所詮はオタクと政《まつりごと》しか勉強していない姫様ぞ?
 出来うる限りの事はしてきたし、
 協力をしてくれる冒険者の間にはギルマスや町長、
 またはアルシェを挟んで俺の情報は隠していた。

 つまり、そういった蒔いた種を潰す存在がいるっぽいけど、
 正体は判明してない?
 あちらさんが警戒しているのは、
 俺たち限定ではなく反乱分子のような嗅ぎ回る連中?
 何もない平和な町をわざと用意して、
 怪しい動きをする奴がいないか監視して回ってるってか?

 じゃあ、いきなり現れたってことはこのフーリエタマナだけじゃなくて、
 いくつか同じ様な町が用意されている?
 おそらくクーやカティナにもあんな芸当は易々と出来ないだろうから、
 魔神族側のアーティファクトとかかな?
 だってゲームとかで言えば[遠見の水晶]とか[千里眼]とか、
 そんな仙人にならないと使えなさそうな最終奥義レベルっしょ?
 そういう人たちですら魔法の水瓶が必要だったりするんだから、
 魔法で再現するなら正直魔力がどれほど必要なのかわかったもんじゃない。

 超能力であったとしても負荷が強すぎると思うんだが、
 俺超能力者じゃないから正確な事はわからない・・・んだけど・・・。
 実はナユタ達が戦闘もせずにさっさと姿を消したり、
 禍津核モンスターの研究を進めているのは、
 戦闘継続力が低いからなんじゃないかとも疑っている。
 だけど・・・・いやいや、少し能力の強大さを見せつけて消えるのは納得できるが、
 準備が整っていないのに姿を見せる意味がわからんし・・・。

 第一、アポーツだって異世界人からすれば、
 得たいの知れない能力相手に恐怖心もクソもなくないかぁ?
 日本で言えば拳銃は一般的に出回っていないから、
 脅すなら刃物の方がいいらしい。
 そんな感じでリアリティのない脅しをされてもどこまで怖がって良いのか内心混乱するだけだろ・・。
 あー、こりゃ駄目だな。袋小路に入っちまってる。
 一旦考えるのを止めないと正解に辿り着けん奴だわ。

「・・・っはぁ」

 視点の気配はまだあり、
 目の前の4人はまだ魔力を込める作業に従事していた。
 その中でもやはりフランザは魔法使いだけあり魔力操作もそれなりに出来ていて、
 無駄に漏れてしまう魔力が少ない。

 それでもまだ時間は掛かりそうなので、
 さっさと話が出来るように俺に纏う浮遊精霊を強制進化させてしまおう。

「・・・すぅ。《・・・っ!?・・・・っ!?》」

 なんだ!?口?いや、声か?
 出そうと思っている言葉を俺の身体が紡ごうとすると、
 俺の意思に反して声帯でせき止められてしまう。
 それどころか・・・これは・・・。

「《ま・・われ・・・廻れ・・・巡れ・・・、古の誓約に従い今ここに・・むごご・・》」

 俺の意思とは関係無しに勝手に詠唱し始める口。
 とはいえ、操られているのは俺の口だけで身体は動かす事は出来た為、
 中側の指3本を口の中に突っ込んで意味不明な詠唱を無理矢理止めると、頭に誰かの声が響いてくる。

 -もぉーなんで止めるの、です!

「宗八、何故指を咥えてるんだ?」
「んが、ひょっほよほうぐぁいをほほあほひへ・・・」
「何を言っているのかわかりませんよ、宗八」
「えっと・・・込め終わりました」
「おめーだけ遊んでるんじゃねぇよ」
「(キュポンッ・・・)
 いえ、遊んでいたわけではないんですけどね。
 ちょっと予想外のことが起こりましてね・・・」

 ゼノウ達に返答をしつつも周辺を見回してみたが、
 先に聞こえた謎の声はもう聞こえず、
 声の主の姿も見当たることはなかった。

「廻れ廻れ巡れ、古の誓約に従い今ここに・・・」

 先の勝手に紡いでいた詠唱を口に出してみる。
 おそらくはまだまだ序盤の1節だが、
 古の時代に何かしらの誓約?誓約って自身に誓う事だよな?
 まぁ・・・それが有り、
 それが成就出来る準備が整ったから何者かが顕現しようとした?

 それでも強制力はそこまででは無かったことから、
 強力な力を備えているわけでもないらしい。

「ったく、なんなんだ次から次へと・・・。
 問題を起こさないでもらいたいもんだ・・・」

 この町の滞在はあと1日ある。
 ならば、上の監視がなくなった後に落ち着いて召喚に応じるとしよう。
 先の1節と先の情報から予想を立てるなら、別に敵ではないだろうしな。

「そういえば無属性精霊の強制進化は初めての試みだし、
 何がさっきの原因か確認しておくべきだよな・・。
 よしっ!核の状態を確認したら、ゼノウ達も精霊を召喚しよう!」
「召喚はまぁ、協力する為には必要な事と理解はしているが、
 本当に俺たちで出来る事なのか?」
「条件自体は満たしているはずですよ。
 1.精霊の属性に合う魔力を有する
 これは契約する精霊のご飯となる魔力を持つ必要があるんですが、
 無属性の浮遊精霊が冒険者全員に纏っている時点でクリアしていますね。
 2.喋られる精霊を用意する
 これが召喚・・進化で人と喋られる姿に進化させる方法です」

 全員が手元に転がる魔力を込めた核へ自然と視線が動く。
 そうそう、それが必要になるんだよ。
 とりあえず、経験則からして進化用の詠唱が必要になる事も伝える。

「そのままでも精霊に触れさせれば進化させることは可能です。
 しかし、身体の構成が固まらなくてすぐに進化が解けてしまうので、
 出来れば詠唱と名前も考えてあげて下さい」
「詠唱と・・・」
「名前・・・」

 呟くライナーとゼノウはそういうの苦手ですと顔に書いているが、
 その一方でトワインとフランザはアイデアがあるのか焦り顔を出していない。
 やはり男と違って・・・言葉は悪いと自覚した上で言わせてもらえれば、
 女の脳はメルヘンチックな内容に強いよな・・・。

「詠唱の内容は精霊のポテンシャルの指針になりますし、
 名前は個体を定着させるのに必要な事ですから・・ハハハ」
「ポテンシャルの指針とは?」

 理知的なトワインの質問に俺は鼻息荒く答える。

「例えばうちのアクアを例に挙げれば、
 蒼天という言葉を入れていますが、
 これをアクアは本来は別々の使用をする水と氷を合わせた、
 ハイブリット魔法を使う時に詠唱しています」
「なんでこいつら親子は互いの話の時にドヤ顔するんだ・・・」
「ハイブリット・・・魔法を合わせる・・・」
「そうです。
 水精のアクアは表の属性と裏の属性を個人で合わせることに成功しましたが、
 これは2人でも使用する事は出来ると考えています。
 風と炎、地と雷みたいな感じでね」

 途中ライナーの突っ込みが入った気もするが聞こえなかった振りをして、
 フランザの言葉に俺はさらに追加で情報を与えていく。
 まぁ、魔法使いが使う魔法は基本内容がバレているからな、
 さらに先があると分かれば興味を持つのは当然だろう。

「というわけで今から1時間を与えるので、
 それぞれ詠唱と名前を考えて契約まではしなくてもいいので進化まで持ち込んで下さい」


 * * * * *
 ゼノウ達を使った実験結果から言えば、
 彼らは別に何者かの意思で詠唱を強制させる自体には陥らなかった。

 俺と彼らの違いとはなんだろうか?
 レベル・・は近くなっているし、
 精霊使い歴・・・というか質の違い?
 あとは何があるかなぁ・・・。

「あ~も~ちょっと、勝手に動かないでっ!」
「ペルク、どこ行ったの~?」
「こちらはドゥーエを見つけたぞ、ライナー」
「ウーノはどこにも見つからないぞ、ゼノウ」

 と、さっそく問題が発生していた。
 なんと精霊の進化までは成功したというのに、
 4人とも精霊使いとしての質が足りなかったのか、
 相棒候補の4人の精霊はどこかへと隠れてしまい、
 意図しないかくれんぼがこの部屋で始まっていた。

 名前をつけるアイデアのなかった男連中は、
 とりあえずイタリア語で数字の1と2を意味するウーノとドゥーエを採用し、
 フランザは予想の斜め上の思い人と同じ名前を精霊に付けた。
 まぁ、海外とかだとなんちゃらジュニアとか息子が同じ名前って文化はあるし、
 もう叶わない子供を重ねて名付けたのかもしれんな・・・。

 そして、トワイン。
 彼女が付けた名前はセルレイン、愛称はセルだそうだが、
 そのセルちゃん?くん?は部屋のどこかに隠れてしまっている。

「俺以外が進化させた精霊はセーバーのリュースィ以来とはいえ、
 あいつは20年近くの付き合いだし絆もあったが、
 無属性精霊も長く纏うとはいえ誰にでも纏える事が絆の邪魔をしてるのか?」

 俺の視界の隅でコソコソしている2人の精霊を見つけたので確保する。
 見た目がやはり小さいうえに幼いから正確にはわからないけど、
 2人とも男の子に見える。珍しいな。

「ほら、捕まえた。
 ん?なんだ、その子を守ってるつもりか」

 2人を両手で捕まえると、
 その影に踞るもう1人の精霊を見つけることになった。
 それにしても、ム~ム~としか喋らないのはなんでだ?
 手元の2人も踞る1人もゼノウが捕まえている女の子も何故言葉を喋らないんだ?

「皆さん、ちゃんと喋るように意識しましたか?」
「あぁ、それはちゃんと意識しろと言われていたしな」
「私もしたわよ」
「込められた魔力の主から逃げるのは、
 質が足りないからって事で納得は出来るけど、
 喋られないのはどういうわけだ?おい、俺の言っている事は理解できてるよな?」

 手の中でさんざ暴れて指に齧り付いていた2人に声を掛けると、
 視線を俺の顔へと移して暫し見つめ合ったあとゆっくりと口を離してコクコクと頷く。

「なんでお前らは喋られないんだ?」
『ム~!』
「ふんふん」
『ムムムッ!』
「まじかよ、無精面倒くさすぎるだろ・・・加階もか?」
『ム~!』

 なるほどなぁ・・・。

「なるほどなぁって思案顔してんじゃねぇよっ!俺たちにも教えろよっ!」
「あれ?俺の表情が読めるんですか?」
「流石に話の流れからしてわかるかと・・・」
「基本はよくわからないので安心してくださいな」
「いえ、仲間なら表情くらい読んで下さい」
「それは無理だ」

 即答はひどいぞ、ゼノウ・・。
 とりあえず、先ほどの2人から聞いた話を要約して4人に聞かせると。
 無属性精霊は誓約により意識的な加階はおろか、
 喋ることも許可が下りないと縛られて自由に出来ない。
 その許可を下ろせる女王は現在休眠期に入っており、
 その入れ替わりに四神が世界の守護を受け持つことになったらしい。

 世界の守護とやらが俺の世界と同じものか、
 それとも違うものなのかわからんが、
 俺の旅してきた範囲と大陸の大きさを考えても、
 世界全てをカバーしているとは思えない。

 人間の国と魔族の国が半々のこの世界。
 では、あちら側の国も実は四神が守護しているのか?
 それとも残りの二柱が守護している?

「どっちにしろ、お前達の王を復活させるか、
 誓約の穴を突く方法を考えないと役に立ちそうにないな」
『ムッ!ムッ!』
「ふぅん、それは使えるな・・・」
「なんだって?」

 踞っていた無精の女の子が立ち上がって主張する。
 その意見に驚きながらも納得する俺の反応に、
 ライナーが内容を問うてくる。

「通常進化が出来ない無属性精霊だけど、
 進化したらリーダーとして浮遊精霊の守りを操作できるらしいです」
「操作?具体的に教えてくれ」
「つまり、浮遊精霊の加護は普段身体全体を纏っている。
 その加護を超える攻撃力を持ってすれば直接肉体が砕けるんだが、
 リーダー格の精霊を纏っていれば加護の厚さを操作できる。
 圧倒的格上の攻撃も耐えきれる可能性が出るってことです」

 要約するとピンポイントバリアが使えるってことで、
 俺が元々考えていた精霊を纏う方法の正当後継型がこの無属性精霊の進化にあったのだ。
 まぁ、うちの娘らの纏いも目に見えるって違いがあるだけで、
 しっかりと防御力はある。

「戦力としてとか契約に関しては・・・、
 許可がでないと今の所はどうにも出来ないみたいですけどね・・」
「そうか・・・、残念と言えば残念だが仕方ないな」
「そうですね、せっかく格好いい名前も付けたのにね」
「ペルク~・・・」
「頑張って魔力込めたってのに・・クソッ・・」

 無属性精霊の誓約は、
 この世界の人種を加護すること。
 王が休眠して大部分は制限が掛かってしまったけれど、
 加護の部分は生き続ける魔力摂取の行為もある為残り、
 その上世界の守護交代の折りに他属性精霊も浮遊精霊の加護に参列した。

 そして王とは当然アニマを差すとして、
 その王は条件が揃えば復活することが出来ると。
 じゃあ、さっきの勝手に紡がれた詠唱は条件が揃ったから?
 俺と彼らの違いといえば、
 先も述べた精霊使い歴程度だと思うけど・・・、
 もしかしたらアニマの名前を知る事も条件に含まれていたのかも知れんな。
 となると・・・・。

「さっさと復活させてクランメンバーを強化させたいな・・・」

 おそらくアニマ側にも条件はあったんだろうが、
 長い休眠期がそれを解決していたんだろう。
 あとは復活させてくれる奴が現れるのを待っていたとか、
 そんなちょっとご都合展開的な感じだろうな、どうせ。

「とりあえず、君らの纏い主の元にお帰り。
 今後は好きに出てくることは出来るだろう?」
『『『『(コクコク)』』』』

 そう言って拘束していた男の子2人を手放すと、
 それぞれがトワインとフランザの元へスィーと浮遊して飛んでいき、
 踞っていた女の子はゼノウの元へ行く。

「セル♪」
「ペルク♪」
「・・・」

 トワインとフランザは両手を広げて受け入れ体勢を整え、
 飛んでいく彼らも2人の胸元に飛んでいくが、
 胸元手前からスッと姿が溶けていき、
 2人はセルとペルクに触れることも出来ないまま精霊たちは2人の加護の役職に復帰した。

 なんか・・・この気持ちの行き違いは悲しいな・・・。

 ゼノウもライナーにドゥーエを返したあと、
 向かってくるウーノに手を伸ばすが、
 彼もまた彼女に触れることも出来ない結果に終わった。

「そんな目で見ないでください。
 単に精霊との親和性が低いから懐いてないだけですから、
 進化に使った魔力は皆さんのものですし、
 これからゆっくり仲良くなって下さい」

 さてと、じゃあ次は俺の番か。
 予想ではアニマが顕現《けんげん》するんだと思っているけど、
 違ったとしても俺の加護も強化しておきたいし、
 やるに越したことはない。

 再びインベントリから先に使った核を取り出し、
 魔力を確認すると少しだけ減っていたので再度込め直す。
 さっき途中で止めたから少し減ってるのかな?
 手の平に転がる核に意識を集中して精霊召喚、強制加階の為に意識を集中させる。

「《・・・廻れ廻れ巡れ、古の誓約に従い今ここにその意思を現界《げんかい》させよ。我、精霊使い水無月宗八の名の下に、今ひと時のとまり木から離れ、世界の守護者として役に戻れ!無彩限《むさいげん》の軛《くびき》を壊し、来よ!アニマ=アルストロメリア!》」

 いやいやっ!?ずいぶんと立派なお名前をお持ちですねアニマ様っ!


 * * * * *
「マナポーションはどうしましょう、姫様」

 宗八との連絡が終わってからも買い物を続けていたアルシェ達は、
 現在は雑貨屋で消費アイテムの補充に来ていた。

「最近は大掛かりな魔法をお兄さんも使われる機会が多いですし、
 少し高いけどフルマナポーションを多めに買っておきましょうか」
『現在はポーションが1ケース、フルポーションが2ケース、
 マナポーションが3ケース、フルマナポーションが1ケース、
 ハーフハイポーションが1ケース、ハイポーションが1ケースです』
「ハイポーションを使ったのはハルカナムの戦闘時だけですねぇ~」
「格下相手であればマナポーションだけでいいですが、
 同程度が相手ですと体力も減りますからね」
『あくあもちょこちょこのんでるよ~』
「でも、魔法で魔力を回復させられるんですか?」
『くーとおなじでまりょくをわけあたえればかのう~!』

 ポーションはHPを回復、
 当然マナポーションはMPを、ハイポーションは両方を回復する。
 アクアは以前からポーションの摂取をしており、
 遠距離からHPを回復させる魔法[ヒールウォーター]を開発した。
 その後もマナポーションとハーフハイポーションの摂取も続けていたのだ。

 補充品の内容を相談していたアルシェ達。
 その時、彼女たちの耳に入ってきた声に全員顔を凍り付かせることとなった。

「おいっ!さっきギルドに寄ったんだけどさ、
 なんか[アイアスタ]が魔物の群れに襲われたらしいぞっ!」
「は?アイアスタ?
 あそこはここと同じで食料を作っているわけでもないだろ?
 なんで襲われるんだよ・・・」
「いや、理由はわかんねえけど、
 突然魔物が現れたらしくてな、
 方向からして王都との間にある森から出てきたんじゃないかって話だぜ」

 工芸都市アイアスタ。
 この町フーリエタマナと同じく王都を囲う4つの町のひとつで、
 店舗内の男達が話すように食べ物関係を生産しているわけでもなく、
 然りとて大きな町というわけでもない。
 そんな町がいきなりこのタイミングで襲われたという情報が入れば、
 すでに消えている上空からの監視に誰かが引っ掛かったのではと勘ぐりしてしまっても仕方の無いことだった。

「アイアスタ方面の終着点は神聖教国ですね、アルシェ様」
「勇者様が到着されたのかも知れないですね。
 一旦引き上げてお兄さんに合流すべきかしらね」
「なら、パパッとお買い物終わらせちゃいましょう!」
『賛成ですわー!』
『あるものぜんぶよこせ~!』
『それではいらないものが多すぎます、お姉さま』

 この雑貨屋までに必要な買い物は済ませていたアルシェ達は、
 判断を下してすぐにポーション類の箱買いを済ませる。
 宗八の教育方針として精霊達は、
 それぞれが魔法を何かしら行使しながら生活している。
 アクアは移動時はライドを使うし、クーは影倉庫シャドーインベントリ
 ニルもソニックだったりを無意味に使用して魔法の経験値を詰ませている。
 おかげで進化までに掛かる期間の短縮が出来ているのだが、
 その分使用した魔力補給を宗八から行う為、
 宗八の常用飲料は基本マナポーションだったりする。


 * * * * *
「了解、じゃあ待ってるよ。はいは~い」
「アルカンシェ様ですか?」
「えぇ、買い物中に情報が入ったので、
 一旦正確な情報を確保する為にギルドに寄って戻るそうです」
「本当にゆっくりする暇がねぇな、お前らは」
「目的があればこんなもんじゃないですか?」

 アルシェからのコールを切ると、
 フランザが電話の相手を聞いてきた。
 曖昧な情報すら聞いていないので大人しく戻ってくるのを待つとしよう。

『ちょっと、宗八。ワタクシとの話中に誰と話していたのですか!』
「はいはい、すみませんねアニマ様」
『なんですかその態度は!ワタクシを蔑《ないがし》ろにしたのですよ!』

 俺の眼前まで浮かび上がって俺を注意するのは、
 つい先ほど顕現なされた無属性精霊の王、アニマ様。

 姿は確かにゼノウ達が召喚した精霊とは違って、
 髪も長いしゆるふわウェーブ掛かってるしで特別感はある。
 しかしなぁ・・・このちんちくりんな大きさで威厳ある喋りとかされても、
 正直緊張感ないし。
 手の平サイズの女の子が腰に手を当てて威張ってるんだぞ?
 中身がいくら無属性精霊の王様であっても、
 身体は1回進化しただけの精霊であるからして・・・な。

『なんですか!』
「アニマ様。
 貴女はおそらく転生されたようなものだと思いますが、
 記憶はどこまで持っておられますか?」
『ん、記憶ですか?
 ワタクシが王であった事と、仲間の制限を解除できるという程度、です!』
「俺に意思を伝える方法はなかったのですか?
 分かれば優先して召喚する事も出来たのですが」
『時間を置けばいずれ顕現はしていました、
 でもその前に宗八の準備が整ったの、です!』
「その準備とは?」
『ワタクシの情報を入手すること、です。
 それに精霊を人為的に加階させる方法を試そうとした時に、
 ワタクシの意思とは関係なく引き寄せられたの、です!
 準備が整わないと繋ぐことは出来なかったの、です!』

 やっぱり条件が揃って初めて接触が出来るタイプだったか・・。
 ゲームで言えば隠しキャラ枠なんだろうけど、
 なんだろうな・・・面倒事が増えただけな気がしてヤバい・・。

「それでアニマ様。
 自分たちの精霊達は何が出来るようになるのでしょうか?」
『それはワタクシの宿主次第、です!
 ワタクシも今はただのいち精霊ですから、
 眷属たちと同じように纏って守るがメインのお仕事、です!』

 無精の王アニマ様は休眠期という名の存在の転生をする事で、
 長年疲れに疲れた身体を捨てて生まれ変わり、
 改めて世界の守護者として成長するらしい。
 精霊の王の生まれ変わりとはいえ、
 現時点で出来る事は本人が言うとおり纏う人間を守る事と、
 無精の眷属達の制限を解除すること。

『宿主の使える魔法の劣化品を、
 眷属全体で利用出来るように制限を解除し、ます』
「その場合は俺が使える魔法ですか?」
『自然に顕現した場合とは違って、
 今回は精霊使いに召喚されました、ので、
 宗八の契約精霊の魔法の劣化品も利用可能、です!』
「・・・・」

 おっとぉ・・・これは思わぬ拾いもんだぞぉ~・・・。
 って事はだ、今はクーしか使えず俺たちしか利用出来なかった影倉庫シャドーインベントリや、
 アクアが使う移動用魔法のライドなど、
 そういう別行動をするうえで便利な魔法が、
 劣化品とはいえ仲間になった冒険者に使わせる事が出来るようになる。

「その制限解除はどうすればいいのですか?」
『もう解いて、ます!
 纏った子たちと繋がりを作ればすぐに使えるようになり、ます!』
「なるほど、じゃあすぐに訓練に入れるようにとっとと契約に移りましょう」

 アニマ様が仰られるように使えるようになったとしても、
 実際の出力だったり効果の強さだったりと調整や訓練は必要になる。
 付け焼き刃でも練度を鍛えておくに越したことはないだろう。

「と、言われてもな・・・」
「あいつらの呼び出し方とかわかんねぇし・・・」
「本当にわたしたちに纏っているのかもわからないわね」
「あの、どうすればいいんですか?」

 ゼノウ達も彼らなりに姿を現すようにと念じたり試行錯誤をしていた様子だが、
 当然繋がりも薄く精霊使いでもない為か、
 一切の反応を見せなかった。
 仕方ないな・・・。

「《おい、出てこい》」

 魔法の詠唱と似てはいるが、
 全く違う声を発して精霊に命令を出す。
 普通に精霊達と意思疎通をするだけならば必要のない行程だけど、
 言葉に魔力を混ぜ込むと何故か浮遊精霊達は俺の指示に素直に従うのだ。
 これによって対人戦において、俺は最強の手札を手にしたと思っている。

 俺の命令通りに誰へ向けた声なのか理解した4人の精霊が、
 自身が纏う4人の胸元に姿を現す。

「セルゥ~♪」
「ペルクゥ~♪」

 途端にガバッと2人を胸元に掻き抱くトワインとフランザ。
 まぁ、年齢的にも性別的にも子供に対して一物あるんだろうけど、
 その子達には愛が重いのか俺と残る2人に助けを求めるように手を伸ばしてくる。

『ちょっと人間!うちの眷属に乱暴をしないでいただけ、ます!?
 まだ小さいのですから、もっと優しくしてくだ、さい!』
「そうですね、少し落ち着いて下さいお2人とも」
「「・・・す、すみません」」

 アニマ様に怒られ俺から諭され謝る2人。
 身体から力が抜けた瞬間にバッと胸元からの脱出を果たし、
 俺の背後に隠れる2人。
 動きを追った視線を再びトワインとフランザに向けると、
 俺に対して恨めしそうな瞳が4つ・・・。
 いやいや、俺の所為ではないでしょうが・・・。

「悪いが2人とも、
 君らの纏い主と正式な契約を果たして俺たちに協力して欲しい」
『気に入らなければ契約破棄も可能、です!』
「え?そんな事出来るんですか?」
『ワタクシァ無精の王ですからね、そのくらいは出来、ます!』

 私ぁって・・・、
 やっぱチビッ子になって舌っ足らずになってるんだな。
 ってか、契約破棄を当事者以外が出来るってのは初耳だ。
 アニマ様の言葉から推察するに、
 自属性眷属の契約のみに干渉して強制破棄に持ち込むことが出来るのだろう。
 他の精霊たちもアクアの契約はシヴァ様が、
 クーの契約はアルカトラズ様が、ってな具合で王の特権のひとつなのかな?

 コンコンッ!
「ただいま戻りました、お兄さん」

 ちょうどアルシェ達も買い出しから帰ってきたようだし、
 ひとまずは契約方法だけ伝えてゼノウ達と精霊達でコミュニケーションを取らせよう。
 うまくいけば契約まで持ち込めるだろう。
 ちと別行動をしている間に色々とあったもんだ・・・説明面倒くさいな・・・。
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