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第07章 -平和な工芸都市フーリエタマナ編-
†第7章† -01話-[平和に隠れるその目だれの目]
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「ようこそ、王都を囲う町がひとつ。
フーリエタマナへ!」
「あぁ、どうも」
「何か変わったことはありましたか?」
「いえ、特には・・。
事件や事故もなく平和が続いていますね」
「そうですか、ありがとうございます」
飛ばしに飛ばして1週間掛からずに到着したフーリエタマナ。
ハルカナムでは陸な情報が集まらず、
というよりは問題が起こっていないという情報しかなかったのだ。
それでも王都手前の町と言うことで警戒をして、
手前の森の中からアルシェに氷の足場を建ててもらい、
その上から町を双眼鏡で確認したりもしたが、
普通の営みが行われているようにしか見えなかった。
それでも警戒を解くわけには行かなかったので念の為、
ゼノウパーティの4人と俺の5人でフーリエタマナへと足を踏み入れた。
他の仲間は当然影の中に潜んでいて、
宿に着いたら数部屋を借りたうえで部屋を割ることにした。
「何故こんな回りくどい事を?」
「ギルドや町長の確認には基本的にアルシェを向かわせていたので、
情報が先回りするにしてもアルシェの容姿くらいしか伝わりません。
だから、アルシェが町に入る姿を見られなければ、
多少は動きやすくなるかなぁ・・・と」
「それって本当に効果あるのかぁ?」
「効果があるなしに関わらず、
今回は姫様がフーリエタマナに到着したって事実を秘匿したかったんでしょう?」
「俺たちは集まる情報を武器に戦いますから、
どの情報を担保にどの情報を隠すか、とか色々とあるんですよ」
もしもペルクが生きていたとしても、
入り口でパーティメンバーの確認なんて行わないから、
誰かと入れ替わって結局俺が町に入る事になったはずだ。
町の門番、町の様子、人々の流れ・・・、
どれを見ても確かに問題が起こっているようには見えない。
予想される王都の状態や反対方向のハルカナムの状態を考えても、
この平穏そのものという空気感が逆に違和感となって気になってしまう。
いま俺の中にある選択肢は2つ。
本当に問題は無く平和で、俺が神経質になっているだけなのか。
それとも、まだ見つかっていない問題が転がっているのか・・・。
「とりあえず、宿で良いのか?」
「えぇ、お願いします」
かつて何度も訪れた事のあるゼノウ達の案内で、
俺たちはいくつかある宿屋のひとつに足を運びつつ、
俺だけは会話の最中も顔の向きや首は自然に任せて、
周囲の様子をキョロキョロと目で確認していた。
「ちょっと怖いです・・・」
「あ、すみません・・」
フランザさんに怖がられてしまった・・・。
とはいえ、宿に着くまでの道中にもおかしな部分は見受けられなかった。
宿にも多少人数が合わない部屋を希望したことを疑問に思われたが、
あとから合流するという事で納得したし、
他には問題もなくテイクインまで出来た。
各部屋に分かれてから一旦全員を影から引っ張り上げた。
「この町はいかがでしたか?」
「平和だよ。王都に一番近い町のひとつなのに平和すぎるから逆に気になる」
「では、情報収集から始められますか?」
「それはそうなんだけど、妙な動きをしなくない。
警戒しすぎなのかも知れないけど、触りを集める程度にしておきたい」
「じゃあどうするんですかぁ~?」
今回は都合が良いことに隠れ蓑が一緒に着いてきているし、
そちらも利用して無理のない程度に情報収集に当たるしかない。
使える者は親でも校長でも社長でも使えってな。
「お前ら、私服でギルドに行け、ついでに髪型も変えてな。
ゼノウ氏と・・・トワインさんを連れて話を集めろ。
受付にはゼノウ氏達を行かせて、お前らは冒険者の話に耳を傾けろ」
「お兄さんはどうされるんですか?」
「こっちも私服に着替えてライナー氏とフランザさんの2人を連れて町を歩いてみる。
何か外で起こってるみたいな情報があれば連絡をくれ、すぐに向かう」
「かしこまりました。すぐに支度を進めます」
指示を出すとすぐに動き始めるアルシェ達。
影から荷物を取り出し始めたので部屋を後にしようとしたが、
精霊への指示を忘れていたので追加で伝える。
「ニルとクーはこっちと一緒にいろ。
話を集める時はニルが重要になる、頑張れよ」
『かしこまりですわー!』
『かしこまりました』
アクアを連れて部屋を出ると、
そのまま別の部屋をノックする。
コンコン。
「水無月です、いいですか?」
「開いている」
「失礼します」
中に入ると男部屋と女部屋で2部屋確保していたのに、
4人全員が男部屋に集合していた。
ベッドに座る女性陣と壁を背に立つ男性陣を見回してから言葉を吐きだす。
「まずこの町の調査に入る前にお聞きします。
我々の仲間になりたいと希望されるのであれば、
基本的に秘密主義、言葉のひとつひとつに気をつけて頂かなければなりませんし、
何よりも敵に捕捉されて俺たちの情報を吐露することを俺たちは懸念しています」
もう目と鼻の先にフォレストトーレ王都がある。
今までは少し変わった冒険者が町の為に頑張ってくれた程度であったが、
他国に入ってからはアスペラルダ出身というカードですらいつ切っても良いのかなど、
相手を選んで提供する情報を限りなく少なくして、
出来る限りの情報を吐きださせる情報戦が重要になる。
アスペラルダのマントも頂いて早々悪いとは思うが、
町長やギルドマスターなどの地位が高い人物相手にしか使用することが出来ない状態だ。
「俺たちが欲しいのは冒険者ではなく協力者です。
もし戦闘面で協力したいということであれば、
我々ではなく勇者を探して彼の協力者になって下さい。
俺たちはあくまで簡単に死なない程度の戦闘力があればいいんです。
魔神族と戦う意思はありません」
黙って聞く彼らにはすでに俺たちの意思は伝えている。
仲間に入れるのは吝かではないが、
衝動的な意思で動いた可能性は十分にある。
だから、この数日は俺たちの普段の生活をありのまま伝え、
付き合ってもらい、今後も続けられるか?
仲間になればこういう生活を続けることになるし、
英雄のような人生を謳歌出来るわけではない、と。
それを踏まえた上で改めて問いかける。
「ここが分岐点です。
仲間になれば王都での調査にも協力してもらいますし、
自身を強化する為の相談にも国を上げてサポートします。
加護のない貴方方でも精霊使いになれる研究も進めていますから、
いずれは俺たちとは別行動でフォレストトーレを調べてもらう事も検討しています」
「そういう諸々の覚悟があるのであれば、
今日から貴方方を仲間として迎え入れます。
なので・・・覚悟のない方は別の宿へ移って、今後俺たちに関わらず大人しくいち冒険者として生きて下さい」
* * * * *
「では、パーティリーダーのゼノウ=エリウス様を筆頭に、
以下3名様の冒険者をクラン[七精の門]へ登録致します。
よろしいでしょうか?」
「お願いします」
「問題なし」
「よろしくお願いするわ」
「はい、お願いします」
結局、彼ら4人のうち1人くらいは脱落するかとも思ったのだが、
全員が仲間になることを継続して希望し、
晴れて?俺のクランに登録することとなった。
「クランリーダーの水無月様、登録してもよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です。お願いします」
これにて俺のクランメンバーは、
俺、アルシェ、メリー、マリエルに加えて、
セリア先生、ボジャ様、スィーネ、アインスさんのサポート組に、
セーバー、ゼノウ、ライナー、トワイン、フランザの冒険者組を合わせて、
総勢13人となった。
まぁ、セーバーはまだ移動中で登録できていないんだけどな。
最後の確認は、後日俺がギルドに寄った時に登録申請が来ていると知らされるから、
その際にOKを出せば遠くに居る人の登録も出来るのだ。
クランの結成のメリットは、
1.インスタントルームで大部屋が使えるようになる
これは離れている仲間とも会って話をしたり、アイテムの交換も出来る。
2.クランランクによる恩恵がもらえる
これは半年に1度、クランメンバーがどれほどのクエストで貢献したかを計り、
クランのランクというのを上げ下げするランキングをギルドが付ける。
上位陣はギルド系列のお店の割引や、
ギルド系列の食事処でのデザートサービスなど細々としているが、
クラン全員に適用と考えればかなり出費が抑えられる。
3.結界を張れる
以前アスペラルダで王族の許可をもらえれば結界を張り、
一定の範囲に敵を拘束して町に被害が出ないように出来る。
その結界を王族の許可がなくても発動できるようになるのだ。
ちなみに、アスペラルダではアルシェの許可で出せたらしいが、
フォレストトーレではここの王族の許可が必要らしく、
基本的にはクラン結成が必須となる。
あ、発動できるのはクランリーダーだけに限るぞ。
「登録は完了いたしました。
上位になれるように頑張って下さいね」
「ありがとうございました」
俺たちと同じく私服の4人を連れて、
早々にアルシェ達が待つ席に近づいていく。
「待たせたな、4人の登録は完了した。
あとの説明と揺蕩う唄の進呈は任せるぞ」
「はい、任せて下さい。
お兄さんもお気を付けて」
「あぁ、行ってくる。
ライナー、フランザ、2人は俺に着いてきて下さい」
「さっそく呼び捨てかよ・・・。了解」
「わかりました」
予定は軽く伝えていた為、
残りのゼノウとトワインを皆に任せて、
俺たちはギルドから足早に出て行く。
「それで?俺たちはどーすりゃいいんだ?」
「町民がどんな話をしているか耳を傾けて、覚えていって下さい。
ひとつだけだとしょうもない話でも、別の話題と紐付けするとヤバい事もありえますので」
「わかりました」
「あとはアルシェ達からの連絡が入れば、
その調査を優先して行うことになります。
先に2人にはこれを渡しておきますね」
そう言って俺が差し出したのは、
仲間の証でもある揺蕩う唄であった。
「あ?これってお前らが付けてるイヤリングか?
流石に俺には似合わねぇぞ・・」
「似合う似合わないじゃなくて、これがないと離れて喋ることが出来ないんですよ」
「とりあえず、クランリーダーの指示なんだから付けましょう、ライナー」
「ん、んー。しゃーねぇ、似合わなくても笑うなよ」
まぁ、初めは良い服とかでも着ている姿の自分に自信が無いと浮いてしまうのはある。
それでも、長く着ていれば自然と馴染んでいくから、
今似合わなくても問題は無いかな。
イヤリングに付けられるライナーってのも面白いが、
俺たちは影に徹したいから早めにイヤリングを付けるライナーになってほしいもんだ。
「あ?アクセサリーに装備出来ねぇぞ?」
「あぁ、それは装備じゃなくて普通に付けて下さい。見た目装備みたいなもんです」
「片耳だけですよね?どちらかって決まりはあります?」
「いいえ、付けやすい方で問題ありませんよ」
大きすぎないクリスタル状のイヤリングを2人が耳に付けるのを確認すると、
色は特に変わらなかったが、
魔力自体は吸収して装備者を特定できたらしい。
「《コール》ライナー、フランザ」
ピリリリリリリリ・・・
「おわっ!何だ!?」
「これは・・・イヤリングから聞こえるんでしょうか?」
「目の前に何か文字が出ていませんか?」
「水無月宗八から連絡が来ています・・・yes/no?」
「なんだこれ?」
道ばたで棒立ちの2人の背を押しながら話を続ける。
「このイヤリングはアーティファクトの模造品なんです。
魔法ギルドの仲間から・・・前回ペルク氏を調べていた女性からの支給品で、
遠くの仲間と話が出来る代物です。
とりあえず、Yesを押して下さい」
ピッ!
「俺の声が2重で聞こえませんか?」
「き、聞こえる・・・。なんだこれ」
「装着者の魔力と結合して通信しているので、
発動を切る時は意識してアクセサリーとの繋がりを切って下さい。
コツを掴めば簡単ですから」
しばらく、静かになる2人を誘導しながらも、
耳は周辺の声に傾ける。
風の制御での集音はギルドを出てからはずっと続けているが、
今の所は個人的な世間話や出店の会計の話程度しか聞こえてこない。
「切れましたか?」
「はい、フランザは切れましたね。
ライナーはまだ切れていませんが・・・」
「いや、繋がりを切れとか意味分かんねぇよっ!」
「魔法的な繋がりなのでフランザは感覚的に理解出来ますが、
完全な前衛だとわからない感覚だと思います。
コツを掴むまではこのままで居ましょう」
「えぇ!?今日1日このままかよっ!?」
「嫌なら魔法を使う時の感覚を思い出しながら切って下さい。
ハルカナムを出る前に覚えてもらったし、
道中の間にも影の中で魔法の指導は受けていたでしょう?」
日がな一日を無駄にする事無く、
外で俺たちが空を飛んでハルカナムからフーリエタマナへ向かう道中。
彼らには影の中でアルシェによる魔法の授業を受けてもらっていた。
「理屈を勉強しても出来るかどうかは別なんだよっ!」
「それは分かりますが、俺たちの仲間は必修科目です」
「くそぉ!2重の声で説教垂れんじゃねぇよっ!」
* * * * *
一方その頃。
「ニルちゃん、最近と呟いた男性に焦点を」
『了解ですわー』
「こちらも王都と呟いたあちらの商人に焦点を」
『はいはいですわー』
ギルド内に設置された席に座るアルシェ達とゼノウ、トワインの2人は、
宗八の方でも済ませた内容を伝えられた上で、
現在は情報収集の為に周りの声に集中していた。
全員が全員紙とペンを手にし、
焦点を当てる話を探る間は、
無意識にイヤリングへと手を添えていた。
「ニルちゃん、2番受付の会話をお願いするわ」
『まかせろーですわー』
席に集まるメンバーとは別行動をするクーは単純に耳が良いので、
猫の姿を持ってギルド内を歩き回り、
冒険者が話す内容を自身に蓄積していった。
* * * * *
結果から言えば、情報らしい情報は集まらなかった。
逆にその事が気味の悪さを増幅させ、
俺だけでなくアルシェ達もこの状況の異常さに違和感を感じ取っていた。
「ハルカナムでもこの町の情報の中には事件や事故の話はありませんでした。
しかし、町に着いても同じ状況というのは流石に引っ掛かります」
「メリーの言うとおり、
目下怪しい王都とハルカナムの状況から考えると、
何も出てこないという事がおかしいですね」
このフーリエタマナは、
木工を生業にする者が多く居り、
町の半分は家具だったり工芸品を作るエリアとして解放されていた。
風の国の土地柄なのか樹木の再生も早い為、
周囲を順番に切っては加工を繰り返し、
産業として成功を収めている。
ダンジョンもない町なので、
冒険者は王都かハルカナムへ行く為の宿場として利用しているようだ。
「本当に町の基本情報くらいしか出てこないな・・・」
「宗八の懸念はどういうものだ?」
クラン登録前までは水無月呼びだったが、
正式な仲間になった後からは余所余所しいとの声もあり、
お互いに呼び捨てにするようにした。
「王都を調べている途中で背後からバッサリ」
「でも、王都までの距離もありますしいきなり挟み撃ちはないのでは?」
「王都よりも先に片付けないと後々厄介になるという可能性もある」
「でも、慣れてる姫さん達や宗八でも見つからないんだろ?
本当にないんじゃねぇのか?」
その可能性はなくはないと思う。
ハルカナムは気づけば大きすぎるほどの問題を抱えていたし、
王都に至っては魔神族に落とされている可能性もある。
その2点の間に何もない平和な町を挟むことで、
情報の遮断と緩和などの効果を生み出しているのかも知れない。
「アルシェ、この町がハルカナムと王都の間にある意味ってあるか?」
「工芸品や家具を作る事に特化した町ですから生活には欠かせません。
政治的に考えるのであれば、
問題が無いことが問題・・でしょうか・・。
そういう意図で動く者の目を引く為のトラップになり得るかと」
「じゃあ警戒心を持たせることが目的なら、隊長は見事に引っ掛かっていますねぇ」
「ノーテンキなお前以外は全員引っ掛かってるよ」
「残念ながら、ライナーもです」
「おい、フランザっ!余計なこと言うんじゃねぇよ!」
いやいやライナー、目を見ればわかるからな。
ってことは、一旦落ち着く必要があるか・・・。
もし、本当に問題がないのなら長く留まる必要もないし、
身体を休める事も出来る。
なにより急務である無属性精霊の研究に時間を割けるのが大きい。
「正直気は進まないけど、切り替えて王都への準備期間としよう。
明日まで休息日に当てて明後日出発にする」
「わかりました。
でも、流石に気を抜きすぎるのは危ないので注意はある程度しますね」
「あぁ、それでいい。他の皆もそれでいいか?」
「その予定で補充もしておきます」
「わっかりましたー」
『あくあたちも~?』
無精が何を出来るのかとか研究するのに、
別にアクア達は必要ない・・・。
アルシェ達の護衛としてアクアは付いていて欲しいし、
クーとニルも息抜きに買い物でも楽しんで欲しい。
「アルシェ達に着いていって何か欲しいものでも買ってもらえ」
『あ~い!』『本当ですかっ!』『やったーですわー!』
ふっ、所詮は子供よな・・・。
ゼノウ達には無精の件で詰められるだけ詰めたいので、
俺と一緒に宿に詰めてもらうことにした。
「何かあれば?」
『すぐれんらく~!』
「アイテムの購入は?」
『100Gまで!』
「周りの人に?」
『迷惑かけないですわー!』
買い物フェイズではよく行う確認を精霊達と行い、
アルシェに俺のギルドカードを渡す。
「精霊分はいつも通りに。
それと、スライムの核が買えたら10個くらい補充しといてくれ」
「わかりました、お預かりしますね」
「じゃあ、また後でな」
* * * * *
アルシェ達と別れた俺たちは、
宿のゼノウ達の部屋に集まっていた。
「セーバーの姿を見ていれば分かったと思いますけど、
この核に自分の魔力を込めてもらいます。
手から供給するのでヴァーンレイドやヒールを使う時の感覚を思い出しながら、
魔力だけを放出してください。
ほとんど零れちゃいますけど、
慣れないと仕方ないので少しずつ魔力を込めて下さい」
「よぅ宗八、俺もかよ・・?」
「普通の冒険者では俺たちの仲間とは言えないんです。
冒険者としては貴方方の方が経験はあるでしょうが、
現状は俺達におんぶに抱っこだと理解して下さい」
「ついて行くにも必要という事だな。ライナー諦めろ」
「魔法なんて今まで使った記憶ヒールしかねぇぞ・・」
「だからヒールの感覚だけを意識しろって言われてるでしょう?」
ぐちぐちと諦めの悪いライナーへゼノウとトワインが構っている間に、
淡々と魔力を込める作業に入るフランザ。
やはり仲間と言えど思い入れの違いはあるようで、
男共とトワインは割とサバサバしているが所々でやる気を感じるタイプだけど、
フランザはペルクへの想いが一番大きいからか、
こういう事は率先して真面目に向き合う傾向だ。
「込め終わったら教えて下さい。
俺の方は精霊達に話を聞いていますので」
「了解だ」
「はいよぉ~」
「わかりましたわ」
「・・・」
各員の反応を確認してから俺の方も準備に入る。
水精や闇精、風精はそれぞれ属性があるし魔法の特性も理解できるし、四神やアルカトラズ様という上位存在もいると知っている。
しかし浮遊精霊の中でもっとも人数の多いはずの無属性精霊に関しては、
支配地域も上位存在も守護者の情報も何もわかっていなかった。
「まずは精霊関係者かな・・・《コール》セリア・スィーネ・ボジャ・カティナ」
ピリリリリリリリ
〔はーいはいはいはい、どうしたのぉお兄ちゃん〕
〔宗八の小僧か、どうした?〕
〔はい、セリアです。お久しぶりね、水無月君〕
〔どうしたですかぁー、アニキィ!〕
なんかテンションの無駄に高いのが2人居るけど、
長く生きている精霊が4人中3人も居れば何かしらヒントがもらえるだろうと期待して今回の用件を伝える。
「みんな、久し振りです。
実はクランに普通の冒険者も加える事になったんですが、
加護がないので無属性の精霊と契約させようかと思うんですけど、
無精について情報が欲しくて・・」
〔無精ぃ~?あの子達って気に入った場所で人間から勝手に離れて、
そのまま属性持ちになるんでしょ?〕
〔染まりやすいという点では同じだが、
確か・・昔話で無属性の王の話を聞いた気がするのぉ・・〕
お、さっそく俺のほしい情報が出てきたぞ。
無属性の浮遊精霊は新婦のように染まりやすく、
例えばスィーネがいる水源やハルカナムのグランハイリアらへんに冒険者が寄った際に離れ、属性持ちへと変化するのか。
〔ボジャ様、それってアニマ様ですか?〕
〔あー、それあちしも聞いたことあるデスネ。
でも確かにむか~しむかしの話デスカラァ〕
「そのアニマ様って王は今は居ないんですか?
例えばアルカトラズ様みたいに表に出ずに隠居していたり」
〔いえ、アニマ様はなんと言えば良いんでしょうか・・、
子供の頃などに聞くお話の中に出てくる王様ですわ〕
〔精霊王・・そう呼ばれておった。
最近の精霊は守護者達の元へ移動した時に聞く程度じゃろうて・・〕
精霊王。
ここで初めて出てきた単語だな。
四神と呼ばれる4属性の現神は、
水神シヴァ様、風神テンペスト様、炎神サラマンダー様、土神ティターン様。
本体どころか分御霊《わけみたま》がどこにいるのかも定かではないのだが、
他の2属性でも闇のアルカトラズ様、光の大精霊と存在することは確認済みだ。
精霊の間で伝わる昔話に出てくる存在という事で古神とでも言うのか、
すでに居ない精霊だがすごい精霊だったって感じかな?
「じゃあ今の無属性精霊の中心人物は誰なんですか?」
〔そもそも無属性精霊は加階しないデスカラ、
身を寄せる先もないので、
ずっと漂っているか同じ冒険者に死ぬまでくっついているデスヨ〕
〔守護する地も今は四神が担当しておるという話じゃ〕
つまり、今は四神が治めるエリアを昔は精霊王が統べていた?
「それってどのくらい昔なんですか?」
〔ボジャ様も産まれていないくらい前じゃないですか~?〕
〔然り、儂が浮遊精霊として産まれた時には既にその時代の四神が居った〕
〔もしかしたら、テンペスト様なら何か知っているかもしれないけれど、
私たちから出せるアニマ様の情報は申し訳ないのですがほとんどありませんわ〕
〔うちの爺ももしかしたら知ってるかもしれないデスネ-!〕
アルカトラズ様は姿を知っているからその可能性は理解できるが、
テンペスト様も骨だったりしないよな?
あの姿は闇精霊だからとかで納得してたのに、
テンペスト様も骨だったら精霊の生命力に感服するわ・・・。
現神の四神の中で代替わりしていないのが、
唯一テンペスト様だ。
汎用魔法の上級に位置する、
アクエリアス、テンペスト、インフェルノ、ヴォルケーノは初代四神に由来して名付けられている。
そのテンペスト様や骨になるまで生きているアルカトラズ様か・・・、
機会があれば伺っておいた方が良いかもしれないな。
「じゃあ無属性浮遊精霊は成長、加階をしないんですか?」
〔同じ精霊デスカラ、加階はするはずデスケドォ・・〕
〔そういう個体は見たことがないですわね・・〕
〔何が出来るとかもよくわからないし~・・〕
〔産まれては染まるを繰り返して加階まで至っていないだけかもしれんが、
儂も加階した無属性精霊は見たことがない。
魔法を参考にすれば回復が得意かもしれんがのぉ、
正確な情報はないに等しい〕
マジかぁ・・・。
十分に長生きしているボジャ様ですら知らないとか・・、
予想に反して未知数過ぎるぞ無精運用・・。
まぁ、本命の情報は手に入らなかったけど、
予定外のアニマ様の話も聞けたし、ポジティブに捉えることにしよう。
〔そういえば、水無月君。
貴方たちはいまどの町にいるのかしら?〕
「いまはフォレストトーレ王都手前にあるフーリエタマナです。
数時間仲間総出で調べてみたんですけど何も見つからなくて・・、
俺たちみたいな感づいている奴が警戒する為の罠の可能性もありますから、
ひとまずは休日に当てて今はアルシェ達とは別行動をしています」
〔確かに王都前で急に問題がない町というのは引っ掛かりますわね〕
〔でも、お兄ちゃん達が調べて見つからないなら、
破滅の芽はなかったって事じゃないのですか、セリア様?〕
手掛かりや情報も出てこないから、
それならそうであって欲しいし、
アドバイスがあるのならば聞かせて欲しかった為、
セリア先生の言葉に耳を傾ける。
〔秘密裏に王都を陥落させるような連中ですわよ?
常時展開するようなものではない可能性も疑うべきですわ〕
「常に展開しない・・・遅延とか、短時間ってことか・・・。
ありがとうございますセリア先生、
注意して行動するように伝えておきます」
すぐに起こらないのであれば仕掛けだけ整えて、
タイミングを見計らっている可能性はある。
しかし、仕掛けの影も形も見つからなかった事から、
あったとしても町中ではなく外で起こすつもりなのかも知れない。
次に短時間だけの何かを仕掛けたとして、
証拠などを残さずに何が出来るのか・・・。
これについては考えてみる価値はあるだろう。
「皆もありがとうございました、今回はこれで終わろうと思います」
〔また何かあれば連絡頂戴ねぇ~!〕
〔知識だけなら力になれるじゃろうて、またの〕
〔こっちもこっちなりに動いていますわ。
何か分かれば連絡しますから無理をしないように頑張ってください、水無月君〕
〔クーによろしくデスヨー!〕
無属性精霊に関しての情報をもらうだけのはずが、
思わぬ土産がいくつか頂けた。
いまの情報を元に今日と明日で無精について俺なりの研究をしてみよう。
続々と揺蕩う唄の接続が切れていき、
自分の手元にあるスライムの核に魔力を込めようかと思い立ったその時。
「・・っ!?」
何かの気配を感じてバッと天井へと目を向ける。
誰かの視線とかではないのだけれど、
なんと言えばいいのだろうか・・・、
高みから視姦されているのかねっとりと気持ちの悪い気配が、
天井を超えたその先から降り注ぐ感じを受けた。
(『お父さま!上空に空間干渉!
空間の先から何者かに町を見下ろされています!』)
俺とほぼ同タイムでクーも同じものを感じ取り、
建物外に居ることと俺よりも空間の揺らぎに敏感な為、
どういう状況なのか把握している様子だ。
(「ひとまず観光客に紛れて買い物を継続しろ。
俺たちだけを探して見られるようなら建物の中に自然に扮して隠れろ」)
(『かしこまりました。
視点は動いていませんから建物の中までは見られないと予想しますが、
念の為お父さまもお気を付け下さい!』)
フーリエタマナへ!」
「あぁ、どうも」
「何か変わったことはありましたか?」
「いえ、特には・・。
事件や事故もなく平和が続いていますね」
「そうですか、ありがとうございます」
飛ばしに飛ばして1週間掛からずに到着したフーリエタマナ。
ハルカナムでは陸な情報が集まらず、
というよりは問題が起こっていないという情報しかなかったのだ。
それでも王都手前の町と言うことで警戒をして、
手前の森の中からアルシェに氷の足場を建ててもらい、
その上から町を双眼鏡で確認したりもしたが、
普通の営みが行われているようにしか見えなかった。
それでも警戒を解くわけには行かなかったので念の為、
ゼノウパーティの4人と俺の5人でフーリエタマナへと足を踏み入れた。
他の仲間は当然影の中に潜んでいて、
宿に着いたら数部屋を借りたうえで部屋を割ることにした。
「何故こんな回りくどい事を?」
「ギルドや町長の確認には基本的にアルシェを向かわせていたので、
情報が先回りするにしてもアルシェの容姿くらいしか伝わりません。
だから、アルシェが町に入る姿を見られなければ、
多少は動きやすくなるかなぁ・・・と」
「それって本当に効果あるのかぁ?」
「効果があるなしに関わらず、
今回は姫様がフーリエタマナに到着したって事実を秘匿したかったんでしょう?」
「俺たちは集まる情報を武器に戦いますから、
どの情報を担保にどの情報を隠すか、とか色々とあるんですよ」
もしもペルクが生きていたとしても、
入り口でパーティメンバーの確認なんて行わないから、
誰かと入れ替わって結局俺が町に入る事になったはずだ。
町の門番、町の様子、人々の流れ・・・、
どれを見ても確かに問題が起こっているようには見えない。
予想される王都の状態や反対方向のハルカナムの状態を考えても、
この平穏そのものという空気感が逆に違和感となって気になってしまう。
いま俺の中にある選択肢は2つ。
本当に問題は無く平和で、俺が神経質になっているだけなのか。
それとも、まだ見つかっていない問題が転がっているのか・・・。
「とりあえず、宿で良いのか?」
「えぇ、お願いします」
かつて何度も訪れた事のあるゼノウ達の案内で、
俺たちはいくつかある宿屋のひとつに足を運びつつ、
俺だけは会話の最中も顔の向きや首は自然に任せて、
周囲の様子をキョロキョロと目で確認していた。
「ちょっと怖いです・・・」
「あ、すみません・・」
フランザさんに怖がられてしまった・・・。
とはいえ、宿に着くまでの道中にもおかしな部分は見受けられなかった。
宿にも多少人数が合わない部屋を希望したことを疑問に思われたが、
あとから合流するという事で納得したし、
他には問題もなくテイクインまで出来た。
各部屋に分かれてから一旦全員を影から引っ張り上げた。
「この町はいかがでしたか?」
「平和だよ。王都に一番近い町のひとつなのに平和すぎるから逆に気になる」
「では、情報収集から始められますか?」
「それはそうなんだけど、妙な動きをしなくない。
警戒しすぎなのかも知れないけど、触りを集める程度にしておきたい」
「じゃあどうするんですかぁ~?」
今回は都合が良いことに隠れ蓑が一緒に着いてきているし、
そちらも利用して無理のない程度に情報収集に当たるしかない。
使える者は親でも校長でも社長でも使えってな。
「お前ら、私服でギルドに行け、ついでに髪型も変えてな。
ゼノウ氏と・・・トワインさんを連れて話を集めろ。
受付にはゼノウ氏達を行かせて、お前らは冒険者の話に耳を傾けろ」
「お兄さんはどうされるんですか?」
「こっちも私服に着替えてライナー氏とフランザさんの2人を連れて町を歩いてみる。
何か外で起こってるみたいな情報があれば連絡をくれ、すぐに向かう」
「かしこまりました。すぐに支度を進めます」
指示を出すとすぐに動き始めるアルシェ達。
影から荷物を取り出し始めたので部屋を後にしようとしたが、
精霊への指示を忘れていたので追加で伝える。
「ニルとクーはこっちと一緒にいろ。
話を集める時はニルが重要になる、頑張れよ」
『かしこまりですわー!』
『かしこまりました』
アクアを連れて部屋を出ると、
そのまま別の部屋をノックする。
コンコン。
「水無月です、いいですか?」
「開いている」
「失礼します」
中に入ると男部屋と女部屋で2部屋確保していたのに、
4人全員が男部屋に集合していた。
ベッドに座る女性陣と壁を背に立つ男性陣を見回してから言葉を吐きだす。
「まずこの町の調査に入る前にお聞きします。
我々の仲間になりたいと希望されるのであれば、
基本的に秘密主義、言葉のひとつひとつに気をつけて頂かなければなりませんし、
何よりも敵に捕捉されて俺たちの情報を吐露することを俺たちは懸念しています」
もう目と鼻の先にフォレストトーレ王都がある。
今までは少し変わった冒険者が町の為に頑張ってくれた程度であったが、
他国に入ってからはアスペラルダ出身というカードですらいつ切っても良いのかなど、
相手を選んで提供する情報を限りなく少なくして、
出来る限りの情報を吐きださせる情報戦が重要になる。
アスペラルダのマントも頂いて早々悪いとは思うが、
町長やギルドマスターなどの地位が高い人物相手にしか使用することが出来ない状態だ。
「俺たちが欲しいのは冒険者ではなく協力者です。
もし戦闘面で協力したいということであれば、
我々ではなく勇者を探して彼の協力者になって下さい。
俺たちはあくまで簡単に死なない程度の戦闘力があればいいんです。
魔神族と戦う意思はありません」
黙って聞く彼らにはすでに俺たちの意思は伝えている。
仲間に入れるのは吝かではないが、
衝動的な意思で動いた可能性は十分にある。
だから、この数日は俺たちの普段の生活をありのまま伝え、
付き合ってもらい、今後も続けられるか?
仲間になればこういう生活を続けることになるし、
英雄のような人生を謳歌出来るわけではない、と。
それを踏まえた上で改めて問いかける。
「ここが分岐点です。
仲間になれば王都での調査にも協力してもらいますし、
自身を強化する為の相談にも国を上げてサポートします。
加護のない貴方方でも精霊使いになれる研究も進めていますから、
いずれは俺たちとは別行動でフォレストトーレを調べてもらう事も検討しています」
「そういう諸々の覚悟があるのであれば、
今日から貴方方を仲間として迎え入れます。
なので・・・覚悟のない方は別の宿へ移って、今後俺たちに関わらず大人しくいち冒険者として生きて下さい」
* * * * *
「では、パーティリーダーのゼノウ=エリウス様を筆頭に、
以下3名様の冒険者をクラン[七精の門]へ登録致します。
よろしいでしょうか?」
「お願いします」
「問題なし」
「よろしくお願いするわ」
「はい、お願いします」
結局、彼ら4人のうち1人くらいは脱落するかとも思ったのだが、
全員が仲間になることを継続して希望し、
晴れて?俺のクランに登録することとなった。
「クランリーダーの水無月様、登録してもよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です。お願いします」
これにて俺のクランメンバーは、
俺、アルシェ、メリー、マリエルに加えて、
セリア先生、ボジャ様、スィーネ、アインスさんのサポート組に、
セーバー、ゼノウ、ライナー、トワイン、フランザの冒険者組を合わせて、
総勢13人となった。
まぁ、セーバーはまだ移動中で登録できていないんだけどな。
最後の確認は、後日俺がギルドに寄った時に登録申請が来ていると知らされるから、
その際にOKを出せば遠くに居る人の登録も出来るのだ。
クランの結成のメリットは、
1.インスタントルームで大部屋が使えるようになる
これは離れている仲間とも会って話をしたり、アイテムの交換も出来る。
2.クランランクによる恩恵がもらえる
これは半年に1度、クランメンバーがどれほどのクエストで貢献したかを計り、
クランのランクというのを上げ下げするランキングをギルドが付ける。
上位陣はギルド系列のお店の割引や、
ギルド系列の食事処でのデザートサービスなど細々としているが、
クラン全員に適用と考えればかなり出費が抑えられる。
3.結界を張れる
以前アスペラルダで王族の許可をもらえれば結界を張り、
一定の範囲に敵を拘束して町に被害が出ないように出来る。
その結界を王族の許可がなくても発動できるようになるのだ。
ちなみに、アスペラルダではアルシェの許可で出せたらしいが、
フォレストトーレではここの王族の許可が必要らしく、
基本的にはクラン結成が必須となる。
あ、発動できるのはクランリーダーだけに限るぞ。
「登録は完了いたしました。
上位になれるように頑張って下さいね」
「ありがとうございました」
俺たちと同じく私服の4人を連れて、
早々にアルシェ達が待つ席に近づいていく。
「待たせたな、4人の登録は完了した。
あとの説明と揺蕩う唄の進呈は任せるぞ」
「はい、任せて下さい。
お兄さんもお気を付けて」
「あぁ、行ってくる。
ライナー、フランザ、2人は俺に着いてきて下さい」
「さっそく呼び捨てかよ・・・。了解」
「わかりました」
予定は軽く伝えていた為、
残りのゼノウとトワインを皆に任せて、
俺たちはギルドから足早に出て行く。
「それで?俺たちはどーすりゃいいんだ?」
「町民がどんな話をしているか耳を傾けて、覚えていって下さい。
ひとつだけだとしょうもない話でも、別の話題と紐付けするとヤバい事もありえますので」
「わかりました」
「あとはアルシェ達からの連絡が入れば、
その調査を優先して行うことになります。
先に2人にはこれを渡しておきますね」
そう言って俺が差し出したのは、
仲間の証でもある揺蕩う唄であった。
「あ?これってお前らが付けてるイヤリングか?
流石に俺には似合わねぇぞ・・」
「似合う似合わないじゃなくて、これがないと離れて喋ることが出来ないんですよ」
「とりあえず、クランリーダーの指示なんだから付けましょう、ライナー」
「ん、んー。しゃーねぇ、似合わなくても笑うなよ」
まぁ、初めは良い服とかでも着ている姿の自分に自信が無いと浮いてしまうのはある。
それでも、長く着ていれば自然と馴染んでいくから、
今似合わなくても問題は無いかな。
イヤリングに付けられるライナーってのも面白いが、
俺たちは影に徹したいから早めにイヤリングを付けるライナーになってほしいもんだ。
「あ?アクセサリーに装備出来ねぇぞ?」
「あぁ、それは装備じゃなくて普通に付けて下さい。見た目装備みたいなもんです」
「片耳だけですよね?どちらかって決まりはあります?」
「いいえ、付けやすい方で問題ありませんよ」
大きすぎないクリスタル状のイヤリングを2人が耳に付けるのを確認すると、
色は特に変わらなかったが、
魔力自体は吸収して装備者を特定できたらしい。
「《コール》ライナー、フランザ」
ピリリリリリリリ・・・
「おわっ!何だ!?」
「これは・・・イヤリングから聞こえるんでしょうか?」
「目の前に何か文字が出ていませんか?」
「水無月宗八から連絡が来ています・・・yes/no?」
「なんだこれ?」
道ばたで棒立ちの2人の背を押しながら話を続ける。
「このイヤリングはアーティファクトの模造品なんです。
魔法ギルドの仲間から・・・前回ペルク氏を調べていた女性からの支給品で、
遠くの仲間と話が出来る代物です。
とりあえず、Yesを押して下さい」
ピッ!
「俺の声が2重で聞こえませんか?」
「き、聞こえる・・・。なんだこれ」
「装着者の魔力と結合して通信しているので、
発動を切る時は意識してアクセサリーとの繋がりを切って下さい。
コツを掴めば簡単ですから」
しばらく、静かになる2人を誘導しながらも、
耳は周辺の声に傾ける。
風の制御での集音はギルドを出てからはずっと続けているが、
今の所は個人的な世間話や出店の会計の話程度しか聞こえてこない。
「切れましたか?」
「はい、フランザは切れましたね。
ライナーはまだ切れていませんが・・・」
「いや、繋がりを切れとか意味分かんねぇよっ!」
「魔法的な繋がりなのでフランザは感覚的に理解出来ますが、
完全な前衛だとわからない感覚だと思います。
コツを掴むまではこのままで居ましょう」
「えぇ!?今日1日このままかよっ!?」
「嫌なら魔法を使う時の感覚を思い出しながら切って下さい。
ハルカナムを出る前に覚えてもらったし、
道中の間にも影の中で魔法の指導は受けていたでしょう?」
日がな一日を無駄にする事無く、
外で俺たちが空を飛んでハルカナムからフーリエタマナへ向かう道中。
彼らには影の中でアルシェによる魔法の授業を受けてもらっていた。
「理屈を勉強しても出来るかどうかは別なんだよっ!」
「それは分かりますが、俺たちの仲間は必修科目です」
「くそぉ!2重の声で説教垂れんじゃねぇよっ!」
* * * * *
一方その頃。
「ニルちゃん、最近と呟いた男性に焦点を」
『了解ですわー』
「こちらも王都と呟いたあちらの商人に焦点を」
『はいはいですわー』
ギルド内に設置された席に座るアルシェ達とゼノウ、トワインの2人は、
宗八の方でも済ませた内容を伝えられた上で、
現在は情報収集の為に周りの声に集中していた。
全員が全員紙とペンを手にし、
焦点を当てる話を探る間は、
無意識にイヤリングへと手を添えていた。
「ニルちゃん、2番受付の会話をお願いするわ」
『まかせろーですわー』
席に集まるメンバーとは別行動をするクーは単純に耳が良いので、
猫の姿を持ってギルド内を歩き回り、
冒険者が話す内容を自身に蓄積していった。
* * * * *
結果から言えば、情報らしい情報は集まらなかった。
逆にその事が気味の悪さを増幅させ、
俺だけでなくアルシェ達もこの状況の異常さに違和感を感じ取っていた。
「ハルカナムでもこの町の情報の中には事件や事故の話はありませんでした。
しかし、町に着いても同じ状況というのは流石に引っ掛かります」
「メリーの言うとおり、
目下怪しい王都とハルカナムの状況から考えると、
何も出てこないという事がおかしいですね」
このフーリエタマナは、
木工を生業にする者が多く居り、
町の半分は家具だったり工芸品を作るエリアとして解放されていた。
風の国の土地柄なのか樹木の再生も早い為、
周囲を順番に切っては加工を繰り返し、
産業として成功を収めている。
ダンジョンもない町なので、
冒険者は王都かハルカナムへ行く為の宿場として利用しているようだ。
「本当に町の基本情報くらいしか出てこないな・・・」
「宗八の懸念はどういうものだ?」
クラン登録前までは水無月呼びだったが、
正式な仲間になった後からは余所余所しいとの声もあり、
お互いに呼び捨てにするようにした。
「王都を調べている途中で背後からバッサリ」
「でも、王都までの距離もありますしいきなり挟み撃ちはないのでは?」
「王都よりも先に片付けないと後々厄介になるという可能性もある」
「でも、慣れてる姫さん達や宗八でも見つからないんだろ?
本当にないんじゃねぇのか?」
その可能性はなくはないと思う。
ハルカナムは気づけば大きすぎるほどの問題を抱えていたし、
王都に至っては魔神族に落とされている可能性もある。
その2点の間に何もない平和な町を挟むことで、
情報の遮断と緩和などの効果を生み出しているのかも知れない。
「アルシェ、この町がハルカナムと王都の間にある意味ってあるか?」
「工芸品や家具を作る事に特化した町ですから生活には欠かせません。
政治的に考えるのであれば、
問題が無いことが問題・・でしょうか・・。
そういう意図で動く者の目を引く為のトラップになり得るかと」
「じゃあ警戒心を持たせることが目的なら、隊長は見事に引っ掛かっていますねぇ」
「ノーテンキなお前以外は全員引っ掛かってるよ」
「残念ながら、ライナーもです」
「おい、フランザっ!余計なこと言うんじゃねぇよ!」
いやいやライナー、目を見ればわかるからな。
ってことは、一旦落ち着く必要があるか・・・。
もし、本当に問題がないのなら長く留まる必要もないし、
身体を休める事も出来る。
なにより急務である無属性精霊の研究に時間を割けるのが大きい。
「正直気は進まないけど、切り替えて王都への準備期間としよう。
明日まで休息日に当てて明後日出発にする」
「わかりました。
でも、流石に気を抜きすぎるのは危ないので注意はある程度しますね」
「あぁ、それでいい。他の皆もそれでいいか?」
「その予定で補充もしておきます」
「わっかりましたー」
『あくあたちも~?』
無精が何を出来るのかとか研究するのに、
別にアクア達は必要ない・・・。
アルシェ達の護衛としてアクアは付いていて欲しいし、
クーとニルも息抜きに買い物でも楽しんで欲しい。
「アルシェ達に着いていって何か欲しいものでも買ってもらえ」
『あ~い!』『本当ですかっ!』『やったーですわー!』
ふっ、所詮は子供よな・・・。
ゼノウ達には無精の件で詰められるだけ詰めたいので、
俺と一緒に宿に詰めてもらうことにした。
「何かあれば?」
『すぐれんらく~!』
「アイテムの購入は?」
『100Gまで!』
「周りの人に?」
『迷惑かけないですわー!』
買い物フェイズではよく行う確認を精霊達と行い、
アルシェに俺のギルドカードを渡す。
「精霊分はいつも通りに。
それと、スライムの核が買えたら10個くらい補充しといてくれ」
「わかりました、お預かりしますね」
「じゃあ、また後でな」
* * * * *
アルシェ達と別れた俺たちは、
宿のゼノウ達の部屋に集まっていた。
「セーバーの姿を見ていれば分かったと思いますけど、
この核に自分の魔力を込めてもらいます。
手から供給するのでヴァーンレイドやヒールを使う時の感覚を思い出しながら、
魔力だけを放出してください。
ほとんど零れちゃいますけど、
慣れないと仕方ないので少しずつ魔力を込めて下さい」
「よぅ宗八、俺もかよ・・?」
「普通の冒険者では俺たちの仲間とは言えないんです。
冒険者としては貴方方の方が経験はあるでしょうが、
現状は俺達におんぶに抱っこだと理解して下さい」
「ついて行くにも必要という事だな。ライナー諦めろ」
「魔法なんて今まで使った記憶ヒールしかねぇぞ・・」
「だからヒールの感覚だけを意識しろって言われてるでしょう?」
ぐちぐちと諦めの悪いライナーへゼノウとトワインが構っている間に、
淡々と魔力を込める作業に入るフランザ。
やはり仲間と言えど思い入れの違いはあるようで、
男共とトワインは割とサバサバしているが所々でやる気を感じるタイプだけど、
フランザはペルクへの想いが一番大きいからか、
こういう事は率先して真面目に向き合う傾向だ。
「込め終わったら教えて下さい。
俺の方は精霊達に話を聞いていますので」
「了解だ」
「はいよぉ~」
「わかりましたわ」
「・・・」
各員の反応を確認してから俺の方も準備に入る。
水精や闇精、風精はそれぞれ属性があるし魔法の特性も理解できるし、四神やアルカトラズ様という上位存在もいると知っている。
しかし浮遊精霊の中でもっとも人数の多いはずの無属性精霊に関しては、
支配地域も上位存在も守護者の情報も何もわかっていなかった。
「まずは精霊関係者かな・・・《コール》セリア・スィーネ・ボジャ・カティナ」
ピリリリリリリリ
〔はーいはいはいはい、どうしたのぉお兄ちゃん〕
〔宗八の小僧か、どうした?〕
〔はい、セリアです。お久しぶりね、水無月君〕
〔どうしたですかぁー、アニキィ!〕
なんかテンションの無駄に高いのが2人居るけど、
長く生きている精霊が4人中3人も居れば何かしらヒントがもらえるだろうと期待して今回の用件を伝える。
「みんな、久し振りです。
実はクランに普通の冒険者も加える事になったんですが、
加護がないので無属性の精霊と契約させようかと思うんですけど、
無精について情報が欲しくて・・」
〔無精ぃ~?あの子達って気に入った場所で人間から勝手に離れて、
そのまま属性持ちになるんでしょ?〕
〔染まりやすいという点では同じだが、
確か・・昔話で無属性の王の話を聞いた気がするのぉ・・〕
お、さっそく俺のほしい情報が出てきたぞ。
無属性の浮遊精霊は新婦のように染まりやすく、
例えばスィーネがいる水源やハルカナムのグランハイリアらへんに冒険者が寄った際に離れ、属性持ちへと変化するのか。
〔ボジャ様、それってアニマ様ですか?〕
〔あー、それあちしも聞いたことあるデスネ。
でも確かにむか~しむかしの話デスカラァ〕
「そのアニマ様って王は今は居ないんですか?
例えばアルカトラズ様みたいに表に出ずに隠居していたり」
〔いえ、アニマ様はなんと言えば良いんでしょうか・・、
子供の頃などに聞くお話の中に出てくる王様ですわ〕
〔精霊王・・そう呼ばれておった。
最近の精霊は守護者達の元へ移動した時に聞く程度じゃろうて・・〕
精霊王。
ここで初めて出てきた単語だな。
四神と呼ばれる4属性の現神は、
水神シヴァ様、風神テンペスト様、炎神サラマンダー様、土神ティターン様。
本体どころか分御霊《わけみたま》がどこにいるのかも定かではないのだが、
他の2属性でも闇のアルカトラズ様、光の大精霊と存在することは確認済みだ。
精霊の間で伝わる昔話に出てくる存在という事で古神とでも言うのか、
すでに居ない精霊だがすごい精霊だったって感じかな?
「じゃあ今の無属性精霊の中心人物は誰なんですか?」
〔そもそも無属性精霊は加階しないデスカラ、
身を寄せる先もないので、
ずっと漂っているか同じ冒険者に死ぬまでくっついているデスヨ〕
〔守護する地も今は四神が担当しておるという話じゃ〕
つまり、今は四神が治めるエリアを昔は精霊王が統べていた?
「それってどのくらい昔なんですか?」
〔ボジャ様も産まれていないくらい前じゃないですか~?〕
〔然り、儂が浮遊精霊として産まれた時には既にその時代の四神が居った〕
〔もしかしたら、テンペスト様なら何か知っているかもしれないけれど、
私たちから出せるアニマ様の情報は申し訳ないのですがほとんどありませんわ〕
〔うちの爺ももしかしたら知ってるかもしれないデスネ-!〕
アルカトラズ様は姿を知っているからその可能性は理解できるが、
テンペスト様も骨だったりしないよな?
あの姿は闇精霊だからとかで納得してたのに、
テンペスト様も骨だったら精霊の生命力に感服するわ・・・。
現神の四神の中で代替わりしていないのが、
唯一テンペスト様だ。
汎用魔法の上級に位置する、
アクエリアス、テンペスト、インフェルノ、ヴォルケーノは初代四神に由来して名付けられている。
そのテンペスト様や骨になるまで生きているアルカトラズ様か・・・、
機会があれば伺っておいた方が良いかもしれないな。
「じゃあ無属性浮遊精霊は成長、加階をしないんですか?」
〔同じ精霊デスカラ、加階はするはずデスケドォ・・〕
〔そういう個体は見たことがないですわね・・〕
〔何が出来るとかもよくわからないし~・・〕
〔産まれては染まるを繰り返して加階まで至っていないだけかもしれんが、
儂も加階した無属性精霊は見たことがない。
魔法を参考にすれば回復が得意かもしれんがのぉ、
正確な情報はないに等しい〕
マジかぁ・・・。
十分に長生きしているボジャ様ですら知らないとか・・、
予想に反して未知数過ぎるぞ無精運用・・。
まぁ、本命の情報は手に入らなかったけど、
予定外のアニマ様の話も聞けたし、ポジティブに捉えることにしよう。
〔そういえば、水無月君。
貴方たちはいまどの町にいるのかしら?〕
「いまはフォレストトーレ王都手前にあるフーリエタマナです。
数時間仲間総出で調べてみたんですけど何も見つからなくて・・、
俺たちみたいな感づいている奴が警戒する為の罠の可能性もありますから、
ひとまずは休日に当てて今はアルシェ達とは別行動をしています」
〔確かに王都前で急に問題がない町というのは引っ掛かりますわね〕
〔でも、お兄ちゃん達が調べて見つからないなら、
破滅の芽はなかったって事じゃないのですか、セリア様?〕
手掛かりや情報も出てこないから、
それならそうであって欲しいし、
アドバイスがあるのならば聞かせて欲しかった為、
セリア先生の言葉に耳を傾ける。
〔秘密裏に王都を陥落させるような連中ですわよ?
常時展開するようなものではない可能性も疑うべきですわ〕
「常に展開しない・・・遅延とか、短時間ってことか・・・。
ありがとうございますセリア先生、
注意して行動するように伝えておきます」
すぐに起こらないのであれば仕掛けだけ整えて、
タイミングを見計らっている可能性はある。
しかし、仕掛けの影も形も見つからなかった事から、
あったとしても町中ではなく外で起こすつもりなのかも知れない。
次に短時間だけの何かを仕掛けたとして、
証拠などを残さずに何が出来るのか・・・。
これについては考えてみる価値はあるだろう。
「皆もありがとうございました、今回はこれで終わろうと思います」
〔また何かあれば連絡頂戴ねぇ~!〕
〔知識だけなら力になれるじゃろうて、またの〕
〔こっちもこっちなりに動いていますわ。
何か分かれば連絡しますから無理をしないように頑張ってください、水無月君〕
〔クーによろしくデスヨー!〕
無属性精霊に関しての情報をもらうだけのはずが、
思わぬ土産がいくつか頂けた。
いまの情報を元に今日と明日で無精について俺なりの研究をしてみよう。
続々と揺蕩う唄の接続が切れていき、
自分の手元にあるスライムの核に魔力を込めようかと思い立ったその時。
「・・っ!?」
何かの気配を感じてバッと天井へと目を向ける。
誰かの視線とかではないのだけれど、
なんと言えばいいのだろうか・・・、
高みから視姦されているのかねっとりと気持ちの悪い気配が、
天井を超えたその先から降り注ぐ感じを受けた。
(『お父さま!上空に空間干渉!
空間の先から何者かに町を見下ろされています!』)
俺とほぼ同タイムでクーも同じものを感じ取り、
建物外に居ることと俺よりも空間の揺らぎに敏感な為、
どういう状況なのか把握している様子だ。
(「ひとまず観光客に紛れて買い物を継続しろ。
俺たちだけを探して見られるようなら建物の中に自然に扮して隠れろ」)
(『かしこまりました。
視点は動いていませんから建物の中までは見られないと予想しますが、
念の為お父さまもお気を付け下さい!』)
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