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第06章 -大樹の街ハルカナム編-

†第6章† -06話-[アタランテ幼体殲滅戦]

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 ハルカナム滞在最終予定日。
 俺たちはすでに戦闘を開始しており、
 2時間の間アタランテ幼体を目に入る端から潰していた。

「《氷竜一閃!》。マリエル、蹴り飛ばすぞ!
 向こう側のメリー達と合流して足止めして来い!」
「えぇっ!?け、蹴るんですか!?」
「ニル、足にソニック!
 タイミングを合わせて俺の足に飛び乗って思いっきりジャンプしろっ!」
『《ソニック!》』
「ひぃぃぃぃっ!うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・!!」

 空高いこの樹頂でさらに空高く飛んでいくマリエルを最後まで見送らずに、
 俺は振り返り装備を取り替えて握った[雷光剣]を凍らせた集団に振り抜く。

「《風竜一閃!》」

 手加減なしで撃ち込む一閃は、
 周囲に重たい風の塊を纏いながらアタランテ共にぶつかり、
 凍った身体を粉々に砕く。
 しかし、その身体の欠片に守られるように姿を現す禍津核には、
 大したダメージを与えられてはいない。
 そこへ一閃が通り過ぎた後を追うように吹き抜ける風があった。
 その名はカマイタチ。
 小さな傷がどんどんと刻まれていき、
 傷が繋がり深くなり、
 その傷はついに真っ二つに禍津核を穿った。

「『アイシクルランス!』」

 アタランテが一掃された光景を瞳に捉えながら、
 俺の背後で重なる魔法の詠唱が耳に届く。

 アルシェとアクアが[シンクロ]状態で行う魔法は範囲も広がり、
 まるで串刺し候の如く地面から生える氷の柱が視界に移るアタランテを全て刺し貫いていた。
 その中でも数匹がうねうねと柱に刺されて地面から浮き上がっている身体を揺すっている。

「あー、やっぱり全員は無茶でしたね。《勇者の剣くさかべ!》」
『うまくいくとおもったのにね~。《勇者の剣くさかべ!》』

 制御力のバランスを手数に回した結果、
 命中率が下がってしまい、
 禍津核を傷つける事無く、
 アタランテの巨体を浮かすだけになってしまったのが原因らしい。

 そのうねうねと脱出を試みるアタランテに無慈悲の一撃を加えて、
 無事だった禍津核をひとつひとつ砕いていくアルシェ達。
 見た限りでは終わるのも時間の問題なので、
 俺は再び踵を返して先で敵を集めて足止めをしている3人の元へと走り始める。

「ニル、ソニック!」
『はい!《ソニック!》』

 いつもよりも言葉少なく、俺から離れず、命令に淡々と従うニル。
 よほど自由を奪う瓶詰めと言葉を失って相手にされなかったのが堪えたのか、
 朝からこの調子で大人しく戦闘に参加している。

 身体全体に魔法が再び掛かると、
 高く伸びた枝を駆け上がっていき、
 雷光剣を地面にそのまま刺すとその刺さった部分から強烈な強風が吹き荒れ、
 俺の身体はその風に吹き飛ばされて滑落しそうな枝という名の足場をスルーして3人の元へと辿り着く。

「お疲れさん、次に行ってくれ」
「かしこまりました」
『行きます!』

 俺の指示に従いその場から忍者のように姿を消すメリーとクー。
 シンクロ状態の2人はアルカトラズ様が使っていた影移動シャドームーブを使って、
 アタランテが周囲にいない近場の影から出現し、
 次の集団を少しでも俺たちがいる場所へと誘導をする為移動を開始した。

「マリエル、ネコぱんちの魔力許容量は把握してるか?」
「問題ないですよ、常に8割くらいキープで戦えるようになってます」
「よし。《氷結解除》《流水加速》。
 俺の後に一槌を頼むぞ!」
「ばっちこいです!」

 俺たち3人の立つこの枝は周囲の中でも太い枝なので、
 眼前にはアタランテが群れを成して通行止めになっている。
 さらに上に向かう枝の先端から続々とアタランテがボトボトと落ちて来てはその数を増やしていた。

「《水竜一閃すいりゅういっせん!》」
「《氷竜一槌ひょうりゅういっつい!》」

 当たりやすいようにわざわざ集まったアタランテの集団へ向けて放つ一閃は、
 ある者は真っ二つにされ、ある核はヒビが入り、
 アタランテ達の中心を通り過ぎていく。
 その中でも共通しているのは、
 全員水浸しになっているという事だ。

 間髪入れず身体の修復を始める前に、
 離れた身体が中空に浮かんでいる間に、
 追撃の凍てつく魔力砲がアタランテ全員を包み込んだ。

 濡れた身体と核は冷気を良く浸透させ、
 凍りついた端から身体が耐えきれずに砕けていく。
 それは禍津核といえど厳しい寒気なのか、
 あとに残るのは砕けた禍津核の欠片と解放された浮遊精霊だけであった。

「鋭さが高い分俺の方が遠くまで届くけど、
 円状の砲撃だから避けづらいし良い威力だ。
 俺の一閃とは分岐が明確になったな」
「まぁ、前に撃ち込んでるだけですからねぇ、
 威力にしても隊長の水撒きがあったからでしょうし。
 私だけだったら倒しきれずに隙だらけになるだけだし・・」
「戦力としての使い分けが出来るから、
 俺としてマリエルの成長は嬉しく思うぞ。
 パワーは無いけどトリッキーな俺と、
 出来る事は少ないけど一撃が重いマリエルで分担出来れば、
 前衛は完成したようなもんだ」
「今日は褒めますねぇ・・・、何かあるんですか?」
「素直に受け取りなさいな・・。まぁ今日は忙しいからな、
 あまりストレスが溜まらないように気を遣った結果でもあるよ」
「そんな事だろうと思いましたけど・・ありがとうございます」

 アタランテの残骸を踏みしめながら、
 周囲と空を気にする俺を真似てマリエルも足を進め始める。
 俺の戦闘スタイルはパリィを中心に据えて、
 魔法剣で広範囲攻撃だったり制御力でカバーしたりと出来ることの幅は広いが、
 魔法攻撃力はアルシェや精霊に負けるし、
 素早さはメリーに負けるし、
 攻撃の威力もマリエルの拳・・いや脚の方が痛い。
 元の世界でもそうだったけど、
 器用貧乏はどこの世界に行っても器用貧乏なんだなぁと思う。
 結局2流にはいくらでもなれるけれど、
 1流にはなれないんだよなぁ・・・。

 このままマリエルが強撃拳士として成長してくれれば、
 オベリスクの対処も俺たちのパーティで対処出来る様になるかも知れない。
 ただし、マリエルも妖精族なので、
 影響が軽いオベリスクに限った話になるだろうけどな。

「お待たせしました、お兄さん。マリエルも」
『おまたせ~、ニルはげんき~?』
「お疲れ様です姫様。5分程度ですし問題ないですよ。
 じゃあ隊長、先に行ってますね」
「はいよ」

 マリエルを褒めながら魔神族を警戒しているうちに、
 アルシェ達が後方のアタランテを全滅させてから合流してきた。
 後頭部から頭にゆったりと抱きついてくるアクアが俺の胸元にいるニルに声を掛け、
 アルシェも少し時間が掛かった事を気にしてか、
 俺とマリエルに気遣いを見せる。

『アクア姉さま、ニル・・・もう瓶詰めは嫌ですわ・・・』
『ますたーおこったらこわいからねぇ~』
「朝解放したのにまだそんな事言ってるのか・・・」
「それはお兄さん・・・、
 まだ幼いというのもありますけど、
 昨日の夕刻から朝まで瓶詰めでは滅入って当然ですよ。
 私も怒られた際に2時間部屋に閉じ込められた時は滅入ったものです」
「アルシェがそんなお転婆だったのも驚きだけど、
 王様がそんな躾をするなんて・・・いや、王妃様か・・」
「えぇ・・・お父様はお母様を説得してくれましたが、
 お母様は厳しくて・・・」

 昨日の蟻の巣捜索の際に自由奔放だったニルに罰を与えるため、
 瓶詰めの刑に処した上に魔法を詠唱できないように文字魔法ワードマジックで沈黙を飲ませた。
 そしてアルシェ達を迎えに行き、風呂に入り晩飯を食べ、
 町長に報告をして、疲れからそのままニルの事をすっかり忘れて寝てしまったのだ。
 結果、朝まで自由に動けない+喋る事が出来ず、
 自由奔放で喋るのが好きなニルは精神的にも肉体的にもストレスが溜まりトラウマになってしまったらしい。

『あくあもいたずらしてよくおこられたよ~』
『アクア姉さまもですのー?』
『うん、でもそのときはますたーもここまでできることがなかったから~、
 びんづめはなかったけどね~』

 アクアの時は何をしてたかなぁ~?
 身体が今よりも小さかったからほっぺを指で摘まんでやったり、
 デコピンしたくらいかな?
 当時瓶詰めしたとしても魔法で脱出しただろうし、
 俺の出来るお仕置きもレベルが上がってきている証拠だな!

『やりすぎるとあくあもまもれないから~、
 ほどほどにするんだよ~?』
『かしこまりましたわー、アクア姉さま。
 ほどほどに好き勝手致しますわー・・』

 ほどほどかよ!
 俺の目の前でこれからも自由奔放宣言するなよ。
 邪魔にならず、絞めるところはしっかりと絞めれば俺もあんまり怒らないんだからな!
 この前はソニック以外は勝手に彷徨いているだけで、
 役に立たなかったからアクアの手前しっかりとお仕置きをさせてもらった。
 ちゃんと仕事していたアクアが気にしまくっていたのを俺は知っていたからな。

 しかし、瓶詰めしたおかげでニルもアクアの偉大さ?を理解して、
 いつの間にか呼び方がアクアーリィさんではなく、
 アクア姉さまに矯正されている。
 確実にクーの入れ知恵が介入している事が窺える呼び方だ。

「あとちょっとだ、そろそろ行くぞ」
「はい」
『あ~い』
『かしこまりですわー・・』

 ニルのテンションは、まだ低い・・・。


 * * * * *
「今ので最後か?」
『クーとメリーさんの制御力で確認できる範囲には居ませんでした』
「俺も入ってもう一回り索敵しておこうか」
「かしこまりました」
『わかりました』
「お前らは高いところに登って目視で探しててくれ」

 最後と思われるアタランテ幼体をアクアが処したのを目視してから、
 メリーとクーに確認を取ると、
 サーチの効果範囲にある影上を動く生き物はいないらしい。
 念の為俺も含めた3人で再び索敵する為に2人に駆け寄りつつ、
 影に入っていない個体もいないかと別方向からのアプローチも指示する。

「『シンクロ!』」
『《影踏索敵シャドーサーチ!》』

 先のサーチから1.2倍ほど効果範囲は広がったが、
 それでも索敵に反応が無い事、
 そしてアルシェ達肉眼班からもアタランテの姿はないと報告が降りてきた為、
 この時点を持ってアタランテ幼体の殲滅は完了とする事が決まった。

「朝からなので、3時間ですか・・・。
 やっぱり範囲攻撃を持つお兄さんがいると集団戦は楽になりますね」
「アルシェとアクアだって範囲魔法で戦ってたじゃないか」
「でもやっぱり精度が・・ねー」
『ねー』
「今回は防御力の低いアタランテだったから上手くいっただけだからなぁ。
 さてと、一旦休憩を挟んでから下に戻るか・・・ステータス」

 各々が休憩をする為に影からお菓子やお茶を取り出していくなか、
 俺は自身のステータスを改めて確認する。
 この3時間で戦闘したのは禍津核モンスター。
 つまりキュクロプスと同じく経験値を有さないモンスターなので、
 レベルは鐚一文《びたいちもん》上がっちゃいないが、
 バイトルアントの巣を確認する為に戦闘を多少行った為、
 その分の経験値が入り、Lev.26に上がっていた。

「そういえば、お前らクラン名って考えたか?」
「水無月調査団とか、アスペラルダ近衛隊、アルシェ様と愉快な仲間達」
「マリエルはアルシェを中心に考えすぎだろ。
 別に名前は何でも良いけどさぁ、もうちょっとひねりが欲しいな」
「お兄さんはどんなのを考えたんですか?」
「俺は・・LiesOrTruthライズオアトゥルースとか、BackStageバックステージとかかな・・」
「おそらくご主人様の世界の言葉なのでしょうけれど、意味は何なのですか?」
「前が[嘘か真実か]で後ろが[舞台裏]だな」
『お父さまが自身の冒険をどう捉えているのかわかりやすいですね』

 まぁ目立ちたくはないし、
 破滅について調べたり魔神族について考察したりで情報の精査はしてるから、
 そういった意味では意識してるかもしれないな。

「こっちの世界の言葉じゃないから込められた意味もわからんだろ?
 だからまぁ何でもいいっちゃいいけど、
 俺がつけるならこの辺りだな」
「わかりました、みんなで相談してお兄さんのレベルが30になる前に決めておきます」
「凝ったものじゃなくていいからなぁ・・」

 ネトゲのギルドであれば格好いいからと、
 なんたら旅団、戦士団、騎士団とかつけても違和感は湧かないけど、
 俺がいるのは魔法はあってもゲームではない異世界なので、
 やっぱり体裁を考えてそういう感じの集団名は使いづらい。

 精霊関係で動く事が多くなった気もするし、
 クランのメンバーも精霊や妖精が実際多い。
 だからエレメンタルなんたらも考えたけど、
 エレメンタルがそもそも長いから後の文字は短くしたいと思ってしまった。
 その時点で俺にはやはり名をつけるセンスはないと判断を下して、
 もとから予定されていたアルシェ達に一任する事にしたわけだ。

 お茶も菓子も食べて一息入れたところで、
 次の作戦に移る為にエクソダスの詠唱を行い、
 俺たちは地面に広がった魔法陣の光に包まれてグランハイリア樹頂から下に広がるハルカナムの街へと戻ってきた。


 * * * * *
 今日は冒険者や兵士の導入人数も多い事から、
 ゲンマール町長はギルドまでお越し頂いており、
 ギルドの会議室には他にもギルドマスターのホーリィ、
 グランハイリア研究所所長のウクリール氏、
 そして兵士へ指示を出して街の防衛を固めている町長の息子であるラーカイル氏もこの場に詰めていた。

 ギルド職員から兵士までバタバタと小走りする廊下を抜けて進んだ先の扉を開くと、
 現在の指揮系統を務める4人だけでなく、
 そのサポートをするメンバーが一斉にこちらへ視線を向けてくる。

「お疲れ様です、失礼します」
「おや、お一人ですかな?」
「えぇ、先ほどまで戦闘をしていましたので少しでも休むようにと、
 ギルドにあるソファーに残してきました」
「わかった。さっそく報告を頼む」

「グランハイリア樹頂に大量発生していたアタランテ幼体の駆除はほぼ終了。
 残るは取りこぼしと繭の状態になったアタランテのみとなります」
「すみません。確認なのですが、取りこぼしがあるのですか?」

 ゲンマール氏に促されて始まった俺の報告にまず反応を返したのは、
 問題のご子息ラーカイル氏であった。

「取りこぼしがないと断言できない以上あると思われた方が賢明かと・・。
 もし、今の繭から遅れて別の場所にて繭になった場合、
 気づかずに羽化した時、推定ランク7のモンスターになります。
 これと戦う事になる可能性は約2ヶ月後です。
 その危険性を無視して断言は不可能かと」
「・・・わかりました。ウクリール所長、
 上昇機の設置は間に合いそうですか?」
「間に合いませんな。
 ですので、彼らが幼体のほとんどを倒した後2ヶ月の間に、
 契約した冒険者で索敵を進めるしか方法はないでしょうな・・」
「そうですか、わかりました。
 質問に答えて頂きありがとうございます」
「いえ、ゲンマール氏は何か確認したい事はありますか?」
「グランハイリアについては目処も立ったし、
 アルカンシェ様達のおかげでずいぶんと負担は減った。
 あとはこちらの仕事だ、問題は無い」
「わかりました、次の行動について念の為お伝えします」

 ゲンマール氏は俺たちが目立ちたくない事に理解を示してくれている。
 そのおかげもあり、あくまで協力体制という事を前提に、
 この場で感謝を伝えることも控えてくれた。
 表から見れば町長、所長、ご子息(兵士)、ギルマス(冒険者)、
 俺達の5チームの協力で本件が解決に向かっている体で話を進めてもらっている。

 所長にも目線を向けるとにやりと笑う。
 このおっさんも町長と手を組んでしっかりと仕事をしてくれているらしい。

「俺たちは巣穴の一つに向かい、
 巣の中に対してとある水氷系魔法を行使します。
 これにより戦闘を比較的少なくし、
 爆発するような魔法の使用を抑制するのが目的です」
「爆発が起こる魔法は火属性の[ヴァーンレイド][フレアーヴォム]の2種類です。
 爆発箇所によっては街の一部が、
 陥没する事態になりかねないと判断した事が理由に挙げられます」

 珍しく仕事をしているギルドマスターのホーリィが、
 抑制理由を追加で喋ってくれる。
 俺の中で落ちた評価がほんの少し上昇した。

「他にも理由はありまして、
 バイトルアントが歩き回るだけであれば、
 酔う人が出る程度の被害で済みますが、
 同時に冒険者とアントが戦闘をした場合はその比ではない振動が街を襲う事になり、
 どんな事態になるのか予想が出来ない為です」
「すぐに鎮圧するか、戦闘を外で行えばいいのではないですか?」

 再びラーカイル氏からの質問が飛んできた。
 見た感じ戦闘についてはそこまで経験がないのか、
 バイトルアントの知識が無いような質問をしてくる。

「バイトルアントの数は先の幼体と同等と考えられます。
 その数が一斉に動くだけでも振動は凄まじい事になりますし、
 外に出るのを待つとなると出てくる数と倒す数が合わなくなり、
 すぐに全方位から襲われてしまいます。
 いくらレベル差がある冒険者でもそれは危険が過ぎますので」
「わかりました。
 そういうことであれば専門外なのでお任せいたします」

 予想通り門外漢であったらしい。
 それでもこのように意見を伝えるのは統治する者としては正しいのだろう。
 だからこそ、彼の未来がないことが悔やまれる。
 ゲンマール氏も同じことが頭に過ぎっているのか、
 顔に影が差したように見える。

「もしも、俺たちの戦闘中に例のアレが落ちてきた場合は、
 運が悪かったと思って下さい。
 街の真ん中でしかも下には魔力を持つ魔物が数百いて、
 魔力を糧に育つグランハイリアもある時点で成長率は馬鹿に出来ない。
 すぐに対処する必要があるので、
 街の今後を考えれば多少の犠牲はお覚悟を・・」
「わかっておる。こちらも精一杯の足掻きはさせてもらった」
「父上、例のアレとは?」
「こちらの話だ。
 お前は街の治安の維持を務めてくれ、被害が出ぬよう精一杯な・・・」
「・・?わかりました」

 オベリスクに関しては先に手を打つ事で、
 巣の崩落を少しでも阻害出来ると思われる為、
 オベリスクが落ちたと分かった時点で多少の無茶をしてでも、
 対処できる内に叩き折りに向かわなければならない。

「今日は一日待つつもりだが、何かあれば知らせてもらえるのかな?」
「はい、私がエクソダスで都度戻るつもりです。
 戻る事案としては例のアレ以外の緊急事態、もしくは状況終了です」
「わかった、よろしく頼む」
「では、失礼しました。皆様もよろしくお願いします」

 こうして踵を返す俺は、
 ソファで仮眠を取る全員に声を掛けて、
 今度はバイトルアント殲滅の為に街の外へと移動を開始した。


 * * * * *
 街から一番近いとは言っても、
 アクアとの水精霊纏エレメンタライズ[竜]+ソニックで街から30分も掛かる。
 その上で街の地下に巣が形成されている事から、
 どれだけ広大な巣なのか想像するに嫌になる。

「開始の合図はヴァーンレイドを2発空に打ち上げる事になっている。
 これはメリーとマリエルにまかせる」
「はい!」「かしこまりました」

「俺とアクアはこのまま[竜]でブレスを行使するから、
 アルシェもシンクロで制御力を貸して欲しい」
「あの・・ブレスってポルタフォールでフィリップ将軍相手に使った魔法ですよね?
 あれだと巣を崩落させてしまうのでは?」
「あぁ、今回はそっちじゃない。
 というかあれは試験的に使ってただけの失敗作に近いブレスだから、
 今回はアクアも俺も成長してるし調整も出来ているから問題ない」
『まかせて~!でもたりないかもだからたすけてね~』
「そういうことならお二人を信じてご協力します。
 頑張りましょうね、アクアちゃん」
『お~!』

「クーとニルはブレスが終わった後が仕事だな。
 ブレスの放射時間は俺の息が持つ1分間だ、
 その後にマリエルを筆頭に一気に最深部まで進むから、
 クーは[猫の秘薬]を、ニルは[ソニック]を全員に頼む」
『わかりました!』『はいですわー!』

 俺の知る蟻って生き物は割とどんな環境でもなかなか死なない。
 あの硬質のある皮が寒さを通さず、
 水攻めしても小さい身体に空気が付着して浮き上がってくるし、
 下半身を失ってもまだまだ活動を続ける。
 俺の中ではゴキブリと並ぶ生命力の持ち主なのだ。
 だから、ランク3の化け物蟻相手に普通の魔法では、
 一掃することは出来ない。

 中級魔法の[ホワイトフリーズ]をメインの案に据えた理由として、
 蟻の殺虫剤と言えばフマキラーかな~やっぱ。
 でも、所長に確認したところ殺虫剤なる物はこの異世界にはなく、
 そもそもあの大きさの蟲に効く薬が存在するわけもなかった。
 だから薬ではなく魔法で実現可能そうだったのが、
 冷気を散布して接した敵を凍らせるホワイトフリーズを採用した。

 殺虫剤の中にも冷凍殺虫なるものが存在しているのを知っている。
 流石にマイナス何℃とかは知らないから参考にならないけれど、
 俺たちに出来る全力を持ってすればバイトルアントの大部分を駆逐出来るのではないかと考えている。

「それって試したんですかぁ~?」
「一応はバイトルアントに対してホワイトフリーズを試したけど、
 しっかりと効いていたし、
 そのまま身体を粉砕する事も出来たから、
 マリエルの仕事はブレス後に巣へ入っていき、
 凍ったアントを片っ端から壊して進むだけだ」
「あ、カンタンそう!」
「それでもおそらくは巣の何割かにしか届かないだろう。
 だから都度ブレスをする必要がある。
 今回は俺、アクア、アルシェ、メリーのMPを使用するから、
 マリエルはとにかく進む事だけを考えろ。
 下へ下へ進めばマザーのいる位置まで行く事が出来ると思う。
 巣の構造はおそらくこんな感じになっている。
 俺たちはお前の後を追うから好きに進め」
「わかりました!」
「部屋は各入り口に張った冒険者が探索して潰すから通る必要がある部屋だけ俺たちが潰せばいい」

 今回の作戦は広範囲にブレスを届かせる必要性から、
 俺たちのMPをフルに活かす作戦にした。
 マリエルを先行させる理由としては通路を塞いで凍り付くであろうアントの駆除だが、
 やはり打撃で身体を崩していくのが安全かつ早いと判断した。
 以前までのマリエルであれば壊す事は出来なかっただろうが、
 いまであれば十分に戦力として活かす事が出来る。
 そのマリエルは俺の説明を聞き、
 地面に描かれた巣の構造をじっと見つめている。

「ご主人様、
 懸念されていたオベリスクが落ちてきた場合はどうされるのですか?」
「その時は一旦エクソダスで戻って先に破壊しに行く。
 ただし、バイトルアントの巣がグランハイリアの下まで広がっている事を考えれば、
 もしかしたら地面を貫通して来るかもしれない。
 そうなったら、上に戻るよりもこちらから進んだ方が早い可能性もある」
「その場合は道順はわかるのでしょうか?」
「巣の中は暗闇だ。
 俺とクー、メリーの三人でシンクロしてサーチをすれば構造と道のりくらいはわかる」
「かしこまりました」

 説明もなかなか時間が掛かってしまった。
 この後は先に巣の正確な構造をサーチして全員で共有する予定だ。
 その後に作戦を実行する。

「他に質問はあるか?」
「ありません。マナポーションも十分あります」
「ないで~す、がんばりま~す」
「ございません」
『ないよ~』
『ありません』
『ないですわー!』

「よっし、じゃあいっちょやりますかっ!!」
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