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第05章 -海風薫る町マリーブパリア編-
†第5章† -09話-[新ダンジョン探索ス]
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時間にして5分くらいだろうか。
青年兵士が仲間の兵士への指示出しを終えて、
階段を駆け下りてきてから彼へとパーティ申請を送る。
[ドーキンス=カザリがパーティに加わりました](5\5)
これで俺のパーティは、
俺・アルシェ・メリー・マリエルに加えて、
青年兵士改めドーキンス氏を加えた5人パーティとなる。
基本的に5人で1パーティとなるのは知っているし、
BOSSもパーティ毎で戦うのもわかる。
しかし、守護者は1ランク上のBOSSらしいけど、
それでも1パーティで対処しなくてはいけないのだろうか。
まぁ、俺たちが倒すわけではないのでそこは今は気にせずに、
レベルや戦術の確認をする。
「私達兵士は基本的に前衛となりますので、
盾無しの両手剣が主流になります。
レベルは38です」
俺よりも13Lev.高いけど、
この差は敵のランクを調べる上で役立つ。
ドーキンス氏からは俺たちの戦法に合わせると言われているので、
こちらで処理した敵が再び出た場合はドーキンス氏に対応して頂き、
敵戦力の予想をすり合わせることにした。
『「シンクロ!」』
訓練以外では久しぶりの実践でのシンクロを使用する。
ステータスは下がっていても、
アクアの意思を初めての時よりもはっきりと感じる事が出来ている。
やはり思った通りに経験値は俺の中で活き続けているようだな。
「では、進みましょうか」
「タイムリミットは1時間です。
速やかに調査して戻って参りましょう」
もう、俺に質問をするのも諦めたドーキンス氏を伴って、
広場から左の通路を進んでいく。
通路一つ取ってみてもかなり規模のデカイダンジョンなのではないだろうか。
天井も高いし、横幅も広い、
壁に掛けられているランプも地上で見かける物よりも明るくする範囲が広いのか、
地上と大差ない視界が確保出来ている。
「メリー、クー。先行してくれ」
「はい」
『行きます』
索敵班を先行させて、入ってからの部屋の構造や、
敵の配置を揺蕩う唄を使って伝えてもらう。
〔入ってすぐ左に下り階段、右に上り階段。
3層から成る部屋になっています〕
〔敵は人型が4体、Bデッキに2体、Aデッキとボットムに1体ずつ。
見た目は青い奴ではなくトカゲっぽいです〕
〔武器持ちでボットムから篭手、槍、篭手、槍です〕
メリーの情報で部屋の造りの大まかな情報が上がってきて、
すぐさま敵の情報がクーにより上がってくる。
「隊長、デッキとかボットムってなんですか?」
「船の構造だな。
上からBデッキ、Aデッキ、ボットムって言ってな、
クーが俺の記憶から知識を得て使ってるんだろ」
「どう対応しますか?」
「アルシェが遠距離だと思うAデッキかボットムへ攻撃後、
マリエルが残った方へ動け」
「わかりました」
「りょうか~い」
〔こっちが部屋に入ったら上は2人に任せる〕
〔かしこまりました〕
短い通路を抜けると開けた視界にクーの情報通りにトカゲの人型・・、
いわゆる[リザードマン]と呼ばれる敵を視認する。
リザードマン・篭手の武器はプロペラのように刃が設置され、
常にそれが回転している。
殴りだけでなく横薙ぎをすることで相手を切り裂けるようだ。
次にリザードマン・槍は、
最近よく見かけるようになった[グレイヴ]と呼ばれる武器を装備している。
これは武器の更新をしたアルシェが使い始めた物と同じだ。
「Aデッキはこちらが!《勇者の剣!》」
「じゃあ、ボットム行きます!」
上はすでに対処に入っていると仮定して、
アルシェが槍に勇者の剣で先制攻撃を行い、
マリエルも階段を使わずに目標へ向けて階下へと飛び降りる。
「・・ッ!GUUUU!」
アルシェの勇者の剣は見事に胸に命中したが、
ランクの違いからか死霊王の呼び声のモンスターとは異なり、
貫通せずに中程までめり込んで停止する。
「GAAAAAAAAAッ!!!」
「死なないか・・・〔マリエル、気をつけろよ〕」
「はいっ!もうこっち見られちゃいました!」
Bデッキの戦闘は音も発していないことから、
いつもの必勝パターンで処理したのだろうが、
こちらは動きを止める前に攻撃を開始している。
アルシェの魔法が刺さったリザードマンは、
自分の胸に刺さる氷の塊を意に返すこともなく、
槍を構えてアルシェをターゲットに走り始めた。
流石はリザードマンと言うべきか、
構えてから接敵までの速度といい、
スライムやスケルトン共よりもレベルが高いことが窺える。
アルシェが槍を構えて前に出ようとしたので、
俺が低レベル前衛代表として先にアルシェの進路をふさぐ。
「俺達が行く」
「わかりました、マリエルのサポートに回ります」
話の早いアルシェはすぐに踵を返して階下の見える位置に移動し、
俺はギリギリ要求ステータスが足りて装備できたアイスピックを構える。
「氷結加速《ひょうけつかそく》」
迫るリザードマンが速度をそのままに腕を後ろへと引き絞り、
次の瞬間にはうまい間隔を保ったまま俺へと槍が放たれる。
なんという体幹だろうか!
アイスピックで槍の軌道を変えて裁きつつも、
近くなったリザードマンの肉体へ賞賛を送る。
流石は初めてのちゃんとした肉体持ちの敵だ。
走りながら引き絞って、停止と共に放たれたこの突きの鋭さを考えれば、
眼前の敵の肉体が高いレベルで構成されていることがわかる。
ゲームでいえば割と前半で戦うことになるリザードマンだが、
こうして実際に戦ってみるとなんと力強いことか!
裁いた槍はすぐさま引かれて、
続けざまに突きを繰り出してくる。
アルシェのように横薙ぎや石突きでの打撃を主体にしておらず、
基本は突きで攻撃してくるらしい。
そのおかげもあり、攻撃速度だけで言えばアルシェに軍配が上がる為、
落ち着いて処理をすれば俺でも対応は可能だった。
「ニル、槍にレイボルトを」
『《レイボルト》ですわー!』
「GUUUUUGAAAAAA!!!」
突きを裁いて一時の遅延《ディレイ》が発生したリザードマンが持つ槍へ、
ニルの雷が走り抜ける。
当然手に握っている彼へ間接的にHITする事になり、
数秒の感電の後にカラァン!と槍を手から落としてしまう。
「『氷竜一閃《ひょうりゅういっせん》」』
その隙に一気に距離を詰めて0距離一閃を放つ。
声も漏らすことなく氷の彫像と化したリザードマンはそのまま絶命し、
凍った身体が砕けると共に煙のように姿を消してしまう。
〔お父さま、こちらも終わりました〕
〔こっちも姫様のおかげでなんとか~〕
ほぼ同タイムでBデッキとボットムの戦闘も終了して、
この部屋の敵はすべて片付ける事が出来た。
直接戦ってみた限りでは、
苦戦するまでは行かずとも、それなりの歯ごたえは感じた。
上と下から戻ってくる仲間たちと合流して意見交換に移る。
「ランク1のモンスターよりも強かったですね」
「耐久も攻撃の鋭さもかなりの差を感じました。
ランクは2~3と言ったところでしょうか?」
「確かに歯ごたえはあったけど、
ゾンビやスライムが戦闘に慣れる為のモンスターと考えれば、
スケルトンがランク1の基準だと思う。
であれば、ランク3でもおかしくはないかもと思っている」
「わたしは戦ったことがないのでなんとも・・・」
言ってしまえばゾンビは不動状態《マグロ》に近かったし、
スライムは体当たりしか出来ないクソ雑魚ナメクジだった。
それに対してスケルトンは武器も持っていたし、
積極的に攻撃してきていた。
それでも対処出来ないわけではなかった事から、
その敵との経験から来る勘がランク3じゃないかと囁いてくる。
「よし、次はドーキンス氏に戦ってもらって判断をしてもらおう」
「えぇ、次はおまかせください!」
次の通路を進む間に先の戦闘報告を各自にしてもらった。
Bデッキのメリー達は予想通りに影縫で各個撃破を敢行したが、
刃が大して通らず多少時間が掛かってしまったらしい。
モンスターは浮遊精霊の鎧を纏っていないので、
これは純粋な筋肉の鎧。彼らが持つ防御力ということだ。
逆にマリエルは防戦一方になってしまい、
何度か攻撃を受けてしまったらしい。
アルシェのサポートが途中から入ったから良かったものの、
このダンジョンでは単身での戦闘は厳しいということが分かった。
「では、行って参ります」
「気をつけてな」
敵の戦闘力を把握したことで、
部屋内の全員にタゲられるとヤバいことは理解できた。
仲間にはランク3と思って対応するようにと伝えているので、
いつも以上に注意をして動いてくれるはずだ。
〔入って手前と奥の右手上に上がる階段があります。
下へ下る階段はありません〕
〔敵は5体。
2階へ上がってすぐに植物型のモンスターが2体。
その間にリザードマン・槍が1体。
下に大型のスライムが1体と中型の蛙が1体です〕
大型スライムは以前ポルタフォールの水源で見かけたマザースライムの事か?
植物と中型の蛙ってのはちょっと情報がなさすぎるから、注意して望もう。
〔リザードマンは任せる〕
〔かしこまりました〕
「スライムはアルシェが相手をするんで、
蛙の方をお願いします」
「了解しました、任せて下さい!」
「植物はちょっと位置が悪いから俺とマリエルで様子を見る、以上」
指示を終えるのと同時に通路は終わりを迎え、
すべての敵の姿を視認する。
スライムは予想通りのマザースライム型で、
スライムが巨大化しただけという体のモンスターだった。
「《アイシクルランス!》」
場所を指定してアルシェが2本指を振るえば、
真下からの氷柱でスライムの核は狙い撃ちされて砕け散った。
ドーキンス氏は緑の身体に赤いラインの入った毒々しい蛙に向かって駆け抜けていく。
上の階では対象が1体なので速やかにメリーとクーが倒したのが見えたので、
残る俺たちは植物へ注視する。
「階段の方を向いて何もしないな・・・」
「遠距離攻撃で倒せるんじゃないですか?」
確かに遠距離であれば安全に対処出来そうではある。
それほどに全く動かないし、横を向けばメリー達もいるというのに、
頑なに階段へ向き続けている。
見た感じは大きな花が若干斜めを向いて壁から咲いているようだ。
「マリエル、魔法拳を準備して階段を上がってくれるか?」
「わかりました。《アイシクルエッジ》セット:ナックルダスター」
〔メリー達は逆のもう1体を側面から攻撃してみてくれ〕
〔かしこまりました〕
マリエルが俺の指示に従って、
武器に魔法を込めて一槌の準備を整えてから階段へと近づいていく。
俺は植物型モンスターの動きに注意を払っていると、
マリエルが階段の1段目に足を掛けた直後に、
植物が突如活動を始めて、
花の中心がパカパカと蓋のように開いたり閉まったりするわ、
身体全体が脈動をし始めるわで結構気味の悪いビジュアルになる。
合計で4度短く脈動を起こすと、
花弁部分が垂れていき地面に接する。
すると、パカパカしていた中心部が一気に大きく開いていき、
中から階段の幅とほぼ同じ大きさの岩を吐き出し転がしてくる。
「えぇえええええ!?《氷竜一槌《ひょうりゅういっつい》!》」
慌てつつもしっかりと指示通りに込めておいた魔法拳を、
その転がってくる植物性の大岩へとたたき込むと、
威力不足で破壊までは行かずとも、
殴りつけた衝撃で減速した事と大岩表面から発生した氷が、
床と壁に大岩を張り付けた事により、
大岩の位置を固定することが出来た。
「びっくりしましたぁ~」
「花が岩を吐くのか・・・。
それとも蜜が固形化した物なのか?」
額に噴出した冷や汗をぬぐうマリエルの横まで移動しつつ、
大岩の考察を始める。
つまりリザードマンが囮役で、
花に注意が向いていない冒険者へ大岩をぶつけて、
大ダメージを狙うトラップという事か。
ランク1ダンジョンではこんな段差のある構造のダンジョンではなく、
洞窟とかのほぼ同じ高さで冒険者を嵌めるようなトラップを仕掛けられる場所もなかった。
設置出来たとしても落とし穴かと考えたが、
いずれにせよ死霊王の呼び声にトラップと呼べる代物はなかった。
〔もう1体も倒してくれ〕
〔はい〕
すでに片割れを倒し終えていたメリー達へ再度指示出しをし、
階段が塞がれて進めないマリエルに代わって倒してもらう。
横からの攻撃には何も対応出来ないことから、
側面からの対応が有効打なのだとギルドへの報告書には記載しておこう。
〔クーちゃん、ドーキンスさんが毒に侵されましたので、
ちょっとこちらへ来て頂けますか?〕
〔すぐ向かいます〕
ドーキンス氏が今回担当した蛙は舌を伸ばして近~中距離の攻撃を得意とし、
舌に付着した唾液に毒の効果が付与されていたらしい。
体長も彼より頭ひとつ分低いくらいだったから、
気持ち悪さもひとしおだった。
幸い身体がスリムなアマガエルスタイルではなく、
鈍重なウシガエルスタイルだったから動き回ることはなかったが。
『お父さま、ちょっとよろしいですか?』
「はいはいどうした?」
ドーキンス氏の毒治療をしていたクーに呼ばれて、
アルシェ達が集まる場所へマリエルを連れて向かう。
近づいていくとドーキンス氏の手にしている武器が、
先ほどまで使っていた武器と違うことが確認できた。
「お兄さん、有力情報が出ましたよ」
「さっそくか。運が良いな、流石アルシェだ」
「え?私ですか?」
過去のイグニスソード然り、
スライムα然り、
アルシェをダンジョンに連れて行くとレアドロップが起こると、
俺の中ではそんなジンクスがあった。
『ドロップされたのはドーキンスさんですけど、
とりあえず話を聞いて下さい』
「わかった。
ドーキンスさん、その武器がどうしたんでしょうか?」
「えっと、私の話は表立って発表されていない噂なのですが。
実はダンジョンのドロップ品には制限があるという噂があるんです」
「制限?例えば踏破率とかですか?」
「踏破率も可能性のひとつですが、有力なのがレベルですね。
ダンジョンランク毎に出る出ないがあるのはご存じかと思いますが、
その中でもレベルが足りないとドロップしないアイテムがあるらしいんです」
なるほどな。
確かにそういったハック&スラッシュ系のゲームは存在する。
かく言う俺はそういうゲームが好きな部類なので、
攻略サイトに頼らずに自力でレベルを少し上げては数時間籠もるを繰り返し、
メモに記載したドロップ品をExcelで整理する!みたいな事を楽しんでいた。
つまり、ダンジョンはやりこみ要素も盛り込まれた場所ということだ!
「どうせならVRゲームに入っちゃった系の設定じゃねぇのかよぉおおお!!」
「っ!?ど、どうしたんですか?水無月さん?大丈夫ですか?」
「すみません、ちょっと雑念を払っただけです。
それで?さっきのポイズントードがそれ系のドロップをしたんですか?」
「あ、はい。そうなんですよ。
今回ドロップしたのはランクとレベルに制限が掛かっていると思われる物なんです」
ドロップ品を見せてもらったが、
両手剣カテゴリに当てはまる[ルーンブレイド]という装備らしい。
この武器はランク3以降でしか確認されていない事に加え、
おそらくLev.30~35を超えている必要があると噂が有るとのこと。
「その噂って聞いたことないんだけど・・メリー達は聞いたこと有るか?」
「申し訳ございません。
事件性のありそうな情報は集めておりましたが、
流石にドロップ情報は・・・。
ただ、1度もそういう話は聞いたことはありません」
「いや、謝らなくても良いんだけど・・そうか。
ドーキンス氏、その噂ってどこから出てるんですか?」
「ギルドの職員さんですね。
不要な装備を売る際のギルドカードから冒険者レベルを確認して、
統計を取っているという話ですよ」
有り得そーーーーーー!!!wwww
ギルド関連はそういった事を平然と行う可能性は捨てきれない。
噂があるってだけで正式な声明が出されていないなら、
まだ統計が安定して出てないってことなのだろうか?
「敵の強さ的にはどうでしたか?」
「ステータス異常攻撃は、
レアモンスター以外であればランク2から始まります。
攻撃の鋭さや体力の多さから考えると、やはりランク3だと思われます」
まだ2部屋目で20分程度しか経っていないけれど、
これでこのダンジョンがランク3だとほぼほぼ確定したかな。
「念のため他の部屋も回りつつ入り口に戻ってもいいですか?」
「そうですね。ランクが判明したとしても、
上層の敵でまだ相対していないモンスターもいるかも知れませんし、
情報収集がてら回りましょうか」
ドロップ品のルーンブレイドは、
アルシェの進言によりギルドへの提出品にする事が決まり、
俺たちはそのままマッピングをしながら、
モンスターを倒しつつ近い道のりで入り口に戻ってきた。
流石に1時間で階段を見つける事は出来なかったが、
追加のモンスター情報として、
あの青いモンスターともエンカウントすることが出来た。
初めて明るい場所で見た奴の姿は半漁人のイメージに近いと思った。
しかし、地上での動きが鈍かったのに対し、
ダンジョンでの奴の動きは速かった。
まぁ、リザードマンよりは遅いし武器は素手だしと油断していたら、
いきなり口からヴァーンレイドを放ってきたり、
腕部分に付いているエラみたいなパーツが肥大化して空を飛び回ったりと非常にトリッキーなモンスターと判明した。
「これが外で動き回ったら阿鼻叫喚だな・・・。
地球防衛軍4のトカゲかよ・・・」
そういえば、あの竜だかトカゲも火を噴いていたけど、
倒し方の参考にならねぇゲームだな、おい。
食い付かれて空飛んで倒しては落ちて空飛んでを繰り返すから、
最終的に火炎放射と回復持ちでクリアした気がする。
そして最後の入り口に戻る通路で発見された物が新事実を発覚させた。
『どなたか倒れていますっ!』
もう入り口も近いということで、
クーが先行して確認をしたところ、
最後の通路に人が倒れているのを発見した。
「あ、この店の店主ですね・・」
「なんでこんなところで・・・」
「ご主人様、キノコが生えておりますよ」
「は?キノコって・・・」
「え?まさか、そういうことですか?」
「・・・アホかこの店主」
『あほー』
つまり上の店の店主は、
いきなり現れたダンジョンの片隅に自生していたキノコを利用して、
お客さんに振る舞ったということか?
ご丁寧に手にキノコを握って倒れているし。
「もうこの店潰してダンジョンとして活動するしかないし、
このまま放置でいいんじゃないですか?」
「自業自得とはいえ、それは非人道的過ぎますよ」
「私が背負って地上に上げますね」
俺の判決に異を唱えたアルシェの優しさと、
ドーキンス氏の力強い肉体により彼は救われることが決定した。
そのまま、階段を上がっていき兵士諸君と合流し、
今日はこのまま解散する事になった。
「ギルドに報告したらどのくらいで解放されるかな?」
「とりあえず、守護者の討伐は高レベル冒険者へクエストが発行されると思います。
それ以外の階層は自己責任で攻略していい事になりますね」
「明日解放されていれば、お前達だけで攻略に行って良いぞ」
「あれ?隊長は行かないんですか?」
「正直、無理に攻略する必要はないからな。
ステータスの低下も結構だるいし、残りの日数は治療に専念するよ。
保険でアクアとクーは連れて行って良いから、
仕事後にでも行くと良い」
「わかりました、無理しない程度に攻略します」
まぁ、問題は兵士長だけなんだけど、
そこはもう俺たちが介入すべき問題ではないので、
ドーキンス氏および駐在兵士達の奮闘に期待しよう。
「ドーキンス様、こちらをどうぞ」
「なんですか、これ?」
「マッピングした物とモンスター情報を綴った書類になります」
「え、あ、えぇと!ありがとうございます!助かります」
「「「「「メリーさん、ありがとうございます!」」」」」
「これならすぐに提出出来ます。
整理する時間も省けますので本当に助かります」
メリーが自主的に資料作りをした物を、
代表としてドーキンス氏に渡す。
本当にいつの間に用意したのか・・・、
謎すぎる冥土力を発揮したメリーに戦慄を覚える。
「じゃあ、あとはそちらに任せますね」
「はい、ご協力ありがとうございました!
町にいる間に何かあれば誰にでも良いのでお声をおかけ下さい!」
「ギルドへの報告、よろしくおねがいしますね」
「はい、早めに報告はさせていただきます」
「「「「「任せて下さい、メリーさん!」」」」」
「私は何も口にしておりませんよ?
でもアルシェ様の命令ですから、しっかりと全うしなさい」
「「「「「はい!」」」」」
なんだこれ。
兵士ってどいつもこいつも、
なんでいつの間にかメリーの手下になってるんだ。
もしかしてメリーって指揮官とかに向いていたりするんだろうか?
とりあえず、彼らと意図的に顔を合わせるのもこれで最後だ。
陽も落ちてきてそろそろ町の扉も閉まる塩梅の時間になるので、
このまま宿に向かおう。
「では失礼します」
「はい、ありがとうございました」
ぺこりと会釈を別れの声かけをして踵を返す。
俺に続いてアルシェ、マリエル、メリーも同じように続き、
アクアは『じゃあね~』と言いながら俺の後頭部に突撃してきた。
クーも俺を真似て会釈して側に浮遊して並び、
ニルに至っては何も言わずに俺たちの周りを飛び回っていた。
「お兄さん、今夜はどうするんですか?」
「散歩のことなら、もともとダンジョンとは関係無しにやり始めたし、
今夜も行くつもりだよ」
「順番的には次はメリーさんですかね?」
「いえ、私はクーデルカ様への指導もございますので・・・」
『同じ理由でクーも候補から外れますね』
「やることないならマリエルでもいいけど・・、
お前あの時間もう寝てるからなぁ」
「たはは・・・。
付き合えというのであれば頑張りますけど?」
「いや、そこまですることじゃないから、
またアクアかアルシェに頼むよ」
ニルという選択肢が初めからないのは、
夜の散歩は相方を信頼して身を任せる行為だからだ。
出会って間もない風の国出身者に身を任せるほど、
俺も甘くはない。
『ニルはどうしますのー?』
「とりあえず、セリア先生と相談かな・・・」
結局その日の夜は、
アクアとアルシェがじゃんけんをしてアクアが勝利を掴んだ。
時間もわざわざ半漁人タイムに合わせることなく、
初日に歩いていた時間に戻してのんびり訓練に励んだのであった。
青年兵士が仲間の兵士への指示出しを終えて、
階段を駆け下りてきてから彼へとパーティ申請を送る。
[ドーキンス=カザリがパーティに加わりました](5\5)
これで俺のパーティは、
俺・アルシェ・メリー・マリエルに加えて、
青年兵士改めドーキンス氏を加えた5人パーティとなる。
基本的に5人で1パーティとなるのは知っているし、
BOSSもパーティ毎で戦うのもわかる。
しかし、守護者は1ランク上のBOSSらしいけど、
それでも1パーティで対処しなくてはいけないのだろうか。
まぁ、俺たちが倒すわけではないのでそこは今は気にせずに、
レベルや戦術の確認をする。
「私達兵士は基本的に前衛となりますので、
盾無しの両手剣が主流になります。
レベルは38です」
俺よりも13Lev.高いけど、
この差は敵のランクを調べる上で役立つ。
ドーキンス氏からは俺たちの戦法に合わせると言われているので、
こちらで処理した敵が再び出た場合はドーキンス氏に対応して頂き、
敵戦力の予想をすり合わせることにした。
『「シンクロ!」』
訓練以外では久しぶりの実践でのシンクロを使用する。
ステータスは下がっていても、
アクアの意思を初めての時よりもはっきりと感じる事が出来ている。
やはり思った通りに経験値は俺の中で活き続けているようだな。
「では、進みましょうか」
「タイムリミットは1時間です。
速やかに調査して戻って参りましょう」
もう、俺に質問をするのも諦めたドーキンス氏を伴って、
広場から左の通路を進んでいく。
通路一つ取ってみてもかなり規模のデカイダンジョンなのではないだろうか。
天井も高いし、横幅も広い、
壁に掛けられているランプも地上で見かける物よりも明るくする範囲が広いのか、
地上と大差ない視界が確保出来ている。
「メリー、クー。先行してくれ」
「はい」
『行きます』
索敵班を先行させて、入ってからの部屋の構造や、
敵の配置を揺蕩う唄を使って伝えてもらう。
〔入ってすぐ左に下り階段、右に上り階段。
3層から成る部屋になっています〕
〔敵は人型が4体、Bデッキに2体、Aデッキとボットムに1体ずつ。
見た目は青い奴ではなくトカゲっぽいです〕
〔武器持ちでボットムから篭手、槍、篭手、槍です〕
メリーの情報で部屋の造りの大まかな情報が上がってきて、
すぐさま敵の情報がクーにより上がってくる。
「隊長、デッキとかボットムってなんですか?」
「船の構造だな。
上からBデッキ、Aデッキ、ボットムって言ってな、
クーが俺の記憶から知識を得て使ってるんだろ」
「どう対応しますか?」
「アルシェが遠距離だと思うAデッキかボットムへ攻撃後、
マリエルが残った方へ動け」
「わかりました」
「りょうか~い」
〔こっちが部屋に入ったら上は2人に任せる〕
〔かしこまりました〕
短い通路を抜けると開けた視界にクーの情報通りにトカゲの人型・・、
いわゆる[リザードマン]と呼ばれる敵を視認する。
リザードマン・篭手の武器はプロペラのように刃が設置され、
常にそれが回転している。
殴りだけでなく横薙ぎをすることで相手を切り裂けるようだ。
次にリザードマン・槍は、
最近よく見かけるようになった[グレイヴ]と呼ばれる武器を装備している。
これは武器の更新をしたアルシェが使い始めた物と同じだ。
「Aデッキはこちらが!《勇者の剣!》」
「じゃあ、ボットム行きます!」
上はすでに対処に入っていると仮定して、
アルシェが槍に勇者の剣で先制攻撃を行い、
マリエルも階段を使わずに目標へ向けて階下へと飛び降りる。
「・・ッ!GUUUU!」
アルシェの勇者の剣は見事に胸に命中したが、
ランクの違いからか死霊王の呼び声のモンスターとは異なり、
貫通せずに中程までめり込んで停止する。
「GAAAAAAAAAッ!!!」
「死なないか・・・〔マリエル、気をつけろよ〕」
「はいっ!もうこっち見られちゃいました!」
Bデッキの戦闘は音も発していないことから、
いつもの必勝パターンで処理したのだろうが、
こちらは動きを止める前に攻撃を開始している。
アルシェの魔法が刺さったリザードマンは、
自分の胸に刺さる氷の塊を意に返すこともなく、
槍を構えてアルシェをターゲットに走り始めた。
流石はリザードマンと言うべきか、
構えてから接敵までの速度といい、
スライムやスケルトン共よりもレベルが高いことが窺える。
アルシェが槍を構えて前に出ようとしたので、
俺が低レベル前衛代表として先にアルシェの進路をふさぐ。
「俺達が行く」
「わかりました、マリエルのサポートに回ります」
話の早いアルシェはすぐに踵を返して階下の見える位置に移動し、
俺はギリギリ要求ステータスが足りて装備できたアイスピックを構える。
「氷結加速《ひょうけつかそく》」
迫るリザードマンが速度をそのままに腕を後ろへと引き絞り、
次の瞬間にはうまい間隔を保ったまま俺へと槍が放たれる。
なんという体幹だろうか!
アイスピックで槍の軌道を変えて裁きつつも、
近くなったリザードマンの肉体へ賞賛を送る。
流石は初めてのちゃんとした肉体持ちの敵だ。
走りながら引き絞って、停止と共に放たれたこの突きの鋭さを考えれば、
眼前の敵の肉体が高いレベルで構成されていることがわかる。
ゲームでいえば割と前半で戦うことになるリザードマンだが、
こうして実際に戦ってみるとなんと力強いことか!
裁いた槍はすぐさま引かれて、
続けざまに突きを繰り出してくる。
アルシェのように横薙ぎや石突きでの打撃を主体にしておらず、
基本は突きで攻撃してくるらしい。
そのおかげもあり、攻撃速度だけで言えばアルシェに軍配が上がる為、
落ち着いて処理をすれば俺でも対応は可能だった。
「ニル、槍にレイボルトを」
『《レイボルト》ですわー!』
「GUUUUUGAAAAAA!!!」
突きを裁いて一時の遅延《ディレイ》が発生したリザードマンが持つ槍へ、
ニルの雷が走り抜ける。
当然手に握っている彼へ間接的にHITする事になり、
数秒の感電の後にカラァン!と槍を手から落としてしまう。
「『氷竜一閃《ひょうりゅういっせん》」』
その隙に一気に距離を詰めて0距離一閃を放つ。
声も漏らすことなく氷の彫像と化したリザードマンはそのまま絶命し、
凍った身体が砕けると共に煙のように姿を消してしまう。
〔お父さま、こちらも終わりました〕
〔こっちも姫様のおかげでなんとか~〕
ほぼ同タイムでBデッキとボットムの戦闘も終了して、
この部屋の敵はすべて片付ける事が出来た。
直接戦ってみた限りでは、
苦戦するまでは行かずとも、それなりの歯ごたえは感じた。
上と下から戻ってくる仲間たちと合流して意見交換に移る。
「ランク1のモンスターよりも強かったですね」
「耐久も攻撃の鋭さもかなりの差を感じました。
ランクは2~3と言ったところでしょうか?」
「確かに歯ごたえはあったけど、
ゾンビやスライムが戦闘に慣れる為のモンスターと考えれば、
スケルトンがランク1の基準だと思う。
であれば、ランク3でもおかしくはないかもと思っている」
「わたしは戦ったことがないのでなんとも・・・」
言ってしまえばゾンビは不動状態《マグロ》に近かったし、
スライムは体当たりしか出来ないクソ雑魚ナメクジだった。
それに対してスケルトンは武器も持っていたし、
積極的に攻撃してきていた。
それでも対処出来ないわけではなかった事から、
その敵との経験から来る勘がランク3じゃないかと囁いてくる。
「よし、次はドーキンス氏に戦ってもらって判断をしてもらおう」
「えぇ、次はおまかせください!」
次の通路を進む間に先の戦闘報告を各自にしてもらった。
Bデッキのメリー達は予想通りに影縫で各個撃破を敢行したが、
刃が大して通らず多少時間が掛かってしまったらしい。
モンスターは浮遊精霊の鎧を纏っていないので、
これは純粋な筋肉の鎧。彼らが持つ防御力ということだ。
逆にマリエルは防戦一方になってしまい、
何度か攻撃を受けてしまったらしい。
アルシェのサポートが途中から入ったから良かったものの、
このダンジョンでは単身での戦闘は厳しいということが分かった。
「では、行って参ります」
「気をつけてな」
敵の戦闘力を把握したことで、
部屋内の全員にタゲられるとヤバいことは理解できた。
仲間にはランク3と思って対応するようにと伝えているので、
いつも以上に注意をして動いてくれるはずだ。
〔入って手前と奥の右手上に上がる階段があります。
下へ下る階段はありません〕
〔敵は5体。
2階へ上がってすぐに植物型のモンスターが2体。
その間にリザードマン・槍が1体。
下に大型のスライムが1体と中型の蛙が1体です〕
大型スライムは以前ポルタフォールの水源で見かけたマザースライムの事か?
植物と中型の蛙ってのはちょっと情報がなさすぎるから、注意して望もう。
〔リザードマンは任せる〕
〔かしこまりました〕
「スライムはアルシェが相手をするんで、
蛙の方をお願いします」
「了解しました、任せて下さい!」
「植物はちょっと位置が悪いから俺とマリエルで様子を見る、以上」
指示を終えるのと同時に通路は終わりを迎え、
すべての敵の姿を視認する。
スライムは予想通りのマザースライム型で、
スライムが巨大化しただけという体のモンスターだった。
「《アイシクルランス!》」
場所を指定してアルシェが2本指を振るえば、
真下からの氷柱でスライムの核は狙い撃ちされて砕け散った。
ドーキンス氏は緑の身体に赤いラインの入った毒々しい蛙に向かって駆け抜けていく。
上の階では対象が1体なので速やかにメリーとクーが倒したのが見えたので、
残る俺たちは植物へ注視する。
「階段の方を向いて何もしないな・・・」
「遠距離攻撃で倒せるんじゃないですか?」
確かに遠距離であれば安全に対処出来そうではある。
それほどに全く動かないし、横を向けばメリー達もいるというのに、
頑なに階段へ向き続けている。
見た感じは大きな花が若干斜めを向いて壁から咲いているようだ。
「マリエル、魔法拳を準備して階段を上がってくれるか?」
「わかりました。《アイシクルエッジ》セット:ナックルダスター」
〔メリー達は逆のもう1体を側面から攻撃してみてくれ〕
〔かしこまりました〕
マリエルが俺の指示に従って、
武器に魔法を込めて一槌の準備を整えてから階段へと近づいていく。
俺は植物型モンスターの動きに注意を払っていると、
マリエルが階段の1段目に足を掛けた直後に、
植物が突如活動を始めて、
花の中心がパカパカと蓋のように開いたり閉まったりするわ、
身体全体が脈動をし始めるわで結構気味の悪いビジュアルになる。
合計で4度短く脈動を起こすと、
花弁部分が垂れていき地面に接する。
すると、パカパカしていた中心部が一気に大きく開いていき、
中から階段の幅とほぼ同じ大きさの岩を吐き出し転がしてくる。
「えぇえええええ!?《氷竜一槌《ひょうりゅういっつい》!》」
慌てつつもしっかりと指示通りに込めておいた魔法拳を、
その転がってくる植物性の大岩へとたたき込むと、
威力不足で破壊までは行かずとも、
殴りつけた衝撃で減速した事と大岩表面から発生した氷が、
床と壁に大岩を張り付けた事により、
大岩の位置を固定することが出来た。
「びっくりしましたぁ~」
「花が岩を吐くのか・・・。
それとも蜜が固形化した物なのか?」
額に噴出した冷や汗をぬぐうマリエルの横まで移動しつつ、
大岩の考察を始める。
つまりリザードマンが囮役で、
花に注意が向いていない冒険者へ大岩をぶつけて、
大ダメージを狙うトラップという事か。
ランク1ダンジョンではこんな段差のある構造のダンジョンではなく、
洞窟とかのほぼ同じ高さで冒険者を嵌めるようなトラップを仕掛けられる場所もなかった。
設置出来たとしても落とし穴かと考えたが、
いずれにせよ死霊王の呼び声にトラップと呼べる代物はなかった。
〔もう1体も倒してくれ〕
〔はい〕
すでに片割れを倒し終えていたメリー達へ再度指示出しをし、
階段が塞がれて進めないマリエルに代わって倒してもらう。
横からの攻撃には何も対応出来ないことから、
側面からの対応が有効打なのだとギルドへの報告書には記載しておこう。
〔クーちゃん、ドーキンスさんが毒に侵されましたので、
ちょっとこちらへ来て頂けますか?〕
〔すぐ向かいます〕
ドーキンス氏が今回担当した蛙は舌を伸ばして近~中距離の攻撃を得意とし、
舌に付着した唾液に毒の効果が付与されていたらしい。
体長も彼より頭ひとつ分低いくらいだったから、
気持ち悪さもひとしおだった。
幸い身体がスリムなアマガエルスタイルではなく、
鈍重なウシガエルスタイルだったから動き回ることはなかったが。
『お父さま、ちょっとよろしいですか?』
「はいはいどうした?」
ドーキンス氏の毒治療をしていたクーに呼ばれて、
アルシェ達が集まる場所へマリエルを連れて向かう。
近づいていくとドーキンス氏の手にしている武器が、
先ほどまで使っていた武器と違うことが確認できた。
「お兄さん、有力情報が出ましたよ」
「さっそくか。運が良いな、流石アルシェだ」
「え?私ですか?」
過去のイグニスソード然り、
スライムα然り、
アルシェをダンジョンに連れて行くとレアドロップが起こると、
俺の中ではそんなジンクスがあった。
『ドロップされたのはドーキンスさんですけど、
とりあえず話を聞いて下さい』
「わかった。
ドーキンスさん、その武器がどうしたんでしょうか?」
「えっと、私の話は表立って発表されていない噂なのですが。
実はダンジョンのドロップ品には制限があるという噂があるんです」
「制限?例えば踏破率とかですか?」
「踏破率も可能性のひとつですが、有力なのがレベルですね。
ダンジョンランク毎に出る出ないがあるのはご存じかと思いますが、
その中でもレベルが足りないとドロップしないアイテムがあるらしいんです」
なるほどな。
確かにそういったハック&スラッシュ系のゲームは存在する。
かく言う俺はそういうゲームが好きな部類なので、
攻略サイトに頼らずに自力でレベルを少し上げては数時間籠もるを繰り返し、
メモに記載したドロップ品をExcelで整理する!みたいな事を楽しんでいた。
つまり、ダンジョンはやりこみ要素も盛り込まれた場所ということだ!
「どうせならVRゲームに入っちゃった系の設定じゃねぇのかよぉおおお!!」
「っ!?ど、どうしたんですか?水無月さん?大丈夫ですか?」
「すみません、ちょっと雑念を払っただけです。
それで?さっきのポイズントードがそれ系のドロップをしたんですか?」
「あ、はい。そうなんですよ。
今回ドロップしたのはランクとレベルに制限が掛かっていると思われる物なんです」
ドロップ品を見せてもらったが、
両手剣カテゴリに当てはまる[ルーンブレイド]という装備らしい。
この武器はランク3以降でしか確認されていない事に加え、
おそらくLev.30~35を超えている必要があると噂が有るとのこと。
「その噂って聞いたことないんだけど・・メリー達は聞いたこと有るか?」
「申し訳ございません。
事件性のありそうな情報は集めておりましたが、
流石にドロップ情報は・・・。
ただ、1度もそういう話は聞いたことはありません」
「いや、謝らなくても良いんだけど・・そうか。
ドーキンス氏、その噂ってどこから出てるんですか?」
「ギルドの職員さんですね。
不要な装備を売る際のギルドカードから冒険者レベルを確認して、
統計を取っているという話ですよ」
有り得そーーーーーー!!!wwww
ギルド関連はそういった事を平然と行う可能性は捨てきれない。
噂があるってだけで正式な声明が出されていないなら、
まだ統計が安定して出てないってことなのだろうか?
「敵の強さ的にはどうでしたか?」
「ステータス異常攻撃は、
レアモンスター以外であればランク2から始まります。
攻撃の鋭さや体力の多さから考えると、やはりランク3だと思われます」
まだ2部屋目で20分程度しか経っていないけれど、
これでこのダンジョンがランク3だとほぼほぼ確定したかな。
「念のため他の部屋も回りつつ入り口に戻ってもいいですか?」
「そうですね。ランクが判明したとしても、
上層の敵でまだ相対していないモンスターもいるかも知れませんし、
情報収集がてら回りましょうか」
ドロップ品のルーンブレイドは、
アルシェの進言によりギルドへの提出品にする事が決まり、
俺たちはそのままマッピングをしながら、
モンスターを倒しつつ近い道のりで入り口に戻ってきた。
流石に1時間で階段を見つける事は出来なかったが、
追加のモンスター情報として、
あの青いモンスターともエンカウントすることが出来た。
初めて明るい場所で見た奴の姿は半漁人のイメージに近いと思った。
しかし、地上での動きが鈍かったのに対し、
ダンジョンでの奴の動きは速かった。
まぁ、リザードマンよりは遅いし武器は素手だしと油断していたら、
いきなり口からヴァーンレイドを放ってきたり、
腕部分に付いているエラみたいなパーツが肥大化して空を飛び回ったりと非常にトリッキーなモンスターと判明した。
「これが外で動き回ったら阿鼻叫喚だな・・・。
地球防衛軍4のトカゲかよ・・・」
そういえば、あの竜だかトカゲも火を噴いていたけど、
倒し方の参考にならねぇゲームだな、おい。
食い付かれて空飛んで倒しては落ちて空飛んでを繰り返すから、
最終的に火炎放射と回復持ちでクリアした気がする。
そして最後の入り口に戻る通路で発見された物が新事実を発覚させた。
『どなたか倒れていますっ!』
もう入り口も近いということで、
クーが先行して確認をしたところ、
最後の通路に人が倒れているのを発見した。
「あ、この店の店主ですね・・」
「なんでこんなところで・・・」
「ご主人様、キノコが生えておりますよ」
「は?キノコって・・・」
「え?まさか、そういうことですか?」
「・・・アホかこの店主」
『あほー』
つまり上の店の店主は、
いきなり現れたダンジョンの片隅に自生していたキノコを利用して、
お客さんに振る舞ったということか?
ご丁寧に手にキノコを握って倒れているし。
「もうこの店潰してダンジョンとして活動するしかないし、
このまま放置でいいんじゃないですか?」
「自業自得とはいえ、それは非人道的過ぎますよ」
「私が背負って地上に上げますね」
俺の判決に異を唱えたアルシェの優しさと、
ドーキンス氏の力強い肉体により彼は救われることが決定した。
そのまま、階段を上がっていき兵士諸君と合流し、
今日はこのまま解散する事になった。
「ギルドに報告したらどのくらいで解放されるかな?」
「とりあえず、守護者の討伐は高レベル冒険者へクエストが発行されると思います。
それ以外の階層は自己責任で攻略していい事になりますね」
「明日解放されていれば、お前達だけで攻略に行って良いぞ」
「あれ?隊長は行かないんですか?」
「正直、無理に攻略する必要はないからな。
ステータスの低下も結構だるいし、残りの日数は治療に専念するよ。
保険でアクアとクーは連れて行って良いから、
仕事後にでも行くと良い」
「わかりました、無理しない程度に攻略します」
まぁ、問題は兵士長だけなんだけど、
そこはもう俺たちが介入すべき問題ではないので、
ドーキンス氏および駐在兵士達の奮闘に期待しよう。
「ドーキンス様、こちらをどうぞ」
「なんですか、これ?」
「マッピングした物とモンスター情報を綴った書類になります」
「え、あ、えぇと!ありがとうございます!助かります」
「「「「「メリーさん、ありがとうございます!」」」」」
「これならすぐに提出出来ます。
整理する時間も省けますので本当に助かります」
メリーが自主的に資料作りをした物を、
代表としてドーキンス氏に渡す。
本当にいつの間に用意したのか・・・、
謎すぎる冥土力を発揮したメリーに戦慄を覚える。
「じゃあ、あとはそちらに任せますね」
「はい、ご協力ありがとうございました!
町にいる間に何かあれば誰にでも良いのでお声をおかけ下さい!」
「ギルドへの報告、よろしくおねがいしますね」
「はい、早めに報告はさせていただきます」
「「「「「任せて下さい、メリーさん!」」」」」
「私は何も口にしておりませんよ?
でもアルシェ様の命令ですから、しっかりと全うしなさい」
「「「「「はい!」」」」」
なんだこれ。
兵士ってどいつもこいつも、
なんでいつの間にかメリーの手下になってるんだ。
もしかしてメリーって指揮官とかに向いていたりするんだろうか?
とりあえず、彼らと意図的に顔を合わせるのもこれで最後だ。
陽も落ちてきてそろそろ町の扉も閉まる塩梅の時間になるので、
このまま宿に向かおう。
「では失礼します」
「はい、ありがとうございました」
ぺこりと会釈を別れの声かけをして踵を返す。
俺に続いてアルシェ、マリエル、メリーも同じように続き、
アクアは『じゃあね~』と言いながら俺の後頭部に突撃してきた。
クーも俺を真似て会釈して側に浮遊して並び、
ニルに至っては何も言わずに俺たちの周りを飛び回っていた。
「お兄さん、今夜はどうするんですか?」
「散歩のことなら、もともとダンジョンとは関係無しにやり始めたし、
今夜も行くつもりだよ」
「順番的には次はメリーさんですかね?」
「いえ、私はクーデルカ様への指導もございますので・・・」
『同じ理由でクーも候補から外れますね』
「やることないならマリエルでもいいけど・・、
お前あの時間もう寝てるからなぁ」
「たはは・・・。
付き合えというのであれば頑張りますけど?」
「いや、そこまですることじゃないから、
またアクアかアルシェに頼むよ」
ニルという選択肢が初めからないのは、
夜の散歩は相方を信頼して身を任せる行為だからだ。
出会って間もない風の国出身者に身を任せるほど、
俺も甘くはない。
『ニルはどうしますのー?』
「とりあえず、セリア先生と相談かな・・・」
結局その日の夜は、
アクアとアルシェがじゃんけんをしてアクアが勝利を掴んだ。
時間もわざわざ半漁人タイムに合わせることなく、
初日に歩いていた時間に戻してのんびり訓練に励んだのであった。
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