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第05章 -海風薫る町マリーブパリア編-

†第5章† -01話-[新たな試み、不穏の足音]

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 カツンカツンカツンと夜の街並に響く足音がある。
 人通りの極端に少ない人が寝入り始めたその時間に、
 楽しげでもあり、しかしうるさくはない足音が響き渡る。
 ここ2日ほどで観測され始めたそのリズム感のある足音は、
 数名の町民からの苦情と多数の町民からの賞賛を頂いていた。

「謎の快眠犯は誰なのか!?ですってよ、隊長」
「そんな噂が流れてんのか?
 ってか、それどこからもらってきたんだ」

 カエル妖精の族長・・・の孫である、
 マリエル=ネシンフラは俺の知らない情報が載る紙を手に隣を歩いていた。

「この町って面白いんですよ!
 ギルドに集まった町の面白い情報を、
 週に1回こういう情報誌として売るんだそうです。
 今朝メリーさんとクーちゃんが情報収集から帰ってきた時に持って帰ってきたんですよ」

 俺とアルシェの共有侍従、メリー=ソルヴァと、
 俺の契約する闇精霊のクーデルカ=シュテール。
 最近は情報の更新も狙って朝と夕方にはギルドへと顔を出して、
 近隣の町で起こっている問題や話題を持ち帰ってくる。

「売ってるってそれも魔法ギルドの金稼ぎなのか、
 それともギルドが勝手にやってるお小遣い稼ぎなのか・・・」
「メリーさんに聞いてみればいいじゃないですか?」
「流石のメリーもわからんだろ」
「集まったお金で数ヶ月に一度、
 ギルド職員で宴会をする為の資金集めだそうです、ご主人様」
「うおっ!」

 話題に出ていたからか、
 俺達の側に音もなく降り立つメリーとクー。
 着地と同時にメリーから俺へと乗り移ってくるクーを抱き留める。
 いままで屋根伝いにどこからか移動してきたのだろう。

『ただいま戻りました、お父さま』
「おかえり、クー」
「おかえりなさい、メリーさん」
「はい、ただいま戻りました。
 姫様はどちらですか?」
「正面の雑貨屋でアクアと買い物中だよ」
「さようですか。では私も合流して参ります」

 まだ人が多い道をスッスッと避けながら横断するメイドさん。
 すれ違う人全員がギョッと2度見をするくらいにはメイドは珍しいみたいだ。
 彼女の入っていった店の中には、
 水の国と呼ばれるアスペラルダ王国の姫君。
 アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダと、
 俺の契約しているもう1人の精霊で、
 水精霊のアクアーリィが小物やアイテムを吟味しながらショッピングを楽しんでいた。

「リーダーも入れば良かったんじゃないですか?」
「いや、ああいうのはいつもアルシェが補充するのが役割になってるし、
 気晴らしにもなってるから俺は遠慮してるんだよ。
 中ではアクアが、外では俺が見守ってるんだからこれでいいんだ」
「意外とちゃんと護衛してるんですね。
 役職を借りているだけじゃないんですか?」
「そりゃ魔神族に目をつけられないようにとか、
 この世界を動きやすくする為の役職だけど、
 護ってもらうばかりじゃなくて年上としても護れる場面は護るだろ」
「ふぅん。で?さっきから何をしてるんですか?」
「制御の訓練と情報収集」

 水の国アスペラルダから先日、風の国フォレストトーレ国内へと越境し、
 その辺からどうも風の制御がやりやすくなった。
 おそらくは関所で感じた何かの中に入ったような感覚が答えで、
 風精霊に適した環境に整えられているのだろう。
 そのおかげか、俺の風制御も多少向上した為、
 この機会にガンガン訓練して慣らしておこうと思ったのだ。

 とはいえ、今できる風の制御なんて、
 集音(低範囲、低音質)と突風(すぐに霧散)、
 エコー(少し遠くまで声が届く)ぐらいだ。
 この制御力は精霊との親和性を深めていけば、
 精霊使いとしての資質があがり、
 効果も比例して上がっていく。
 それは一朝一夕で出来るものではなく、
 それこそ世界を巡っていろんな精霊と仲良くなる必要がある。

「いろんな人がいろんな話をしているだろ?
 その中に興味のある話をしている人がいれば、
 その人の声に焦点を当てて他の声を聞こえなくするんだ」
「それ出来てるんです?」
「・・・目下訓練中」

 まだ精度が低いのはご愛嬌として、
 それでも毎日続ければ慣れる。
 俺は飽きるのが早いのだと元の世界ではずっと思っていたけど、
 実は違っていて慣れるのが早いのだと最近気がついた。
 こうした小さな積み重ねも俺にとっては大きな前進なのだ。

「そっちは料理の勉強進んでるか?」
「え?なんですって?」
「こらこら、せっかくアルシェとメリーが時間を割いてるのに・・。
 お前どんだけ嫌いなんだよ」
「私が1人で作った料理を食べた事がないからそんなことが言えるんですよ。
 村でお母さんに教えられながら作る料理・・・、
 言われたとおりに作っていたのに出来上がったのは謎の物体・・・。
 お父さんは寝込んだわ」
「・・・娘の手料理だからな・・・カインズ氏、南無」

 遠くを見つめて哀愁を漂わせるマリエルには、
 合掌をプレゼントして放っておき、
 俺はメリー達が買ってきたという情報誌に目を通していくのであった。

 * * * * *
 2日前。

「やっと着いたなぁ」
「夜も近いですし、このまま入られるのが宜しいかと」
「何でですか?」

 魔神族との一方的な出会いから数日。
 突然の邂逅を恐れて足を急がせた結果、
 思ったほど日数も掛からずにマリーブパリアへ辿り着いた。

 時刻は陽が隠れようかという塩梅ではあるが、
 もう目と鼻の先という事もあり、俺達は自然と足を緩めた。
 しかし、メリーはさっさと町に入る事を勧め、
 マリエルがその言葉に反応を返した。
 その反応への返答はメリーではなく、アルシェが引き継いだ。

「マリーブパリア以下フォレストトーレの王都以外の町は、
 全て陽が落ちると町へと続く門を閉めるのよ。
 緊急事態以外は入門を許してくれないから、
 メリーの言うとおり野宿をしたくなければ急がないといけないの」
「まぁあと一息だし、ここで放り出されるのも嫌だから、
 さっさと入っちまおう」
『あいさ~!』
「はーい・・・」

 町へと入るとほぼ同時に陽が山向こうへと完全に姿を消した。
 その光景を見納めてから、門番達は動き出して、
 少し大きめの鉄扉を締め始める。

「うひゃー、危なかったですね。
 でも、夜に外に出られ無くないですか?」
「夜に町の外へ出られる奇特な方はそう居られませんし、
 防衛上は安全性も増しますので。
 風の国は他の3国に比べると、魔物が少し元気なのですよ」

 つまりはハイイヌのような魔物が多く存在していて、
 野性味溢るる凶暴性も兼ね備えて、
 時折周辺を徘徊する場合もあると。
 そんな時鳴き声が聞こえるだけでも、他国の住民は怯えるが、
 風の国は防備が固められている為安心して眠る事が出来、
 毎日の仕事の成果も安定するというわけだ。

「じゃあ、夜は人もほとんど出歩かないのか?」
「そういう風習というか、国の色と言いますか。
 やはりアスペラルダとは違いますよね」

 アルシェも他国に出る機会は少なくて、
 いままでも風の国までしか来た事はないという。
 それ以上は長旅が過ぎるから土の国と火の国の王族には会った事がないらしい。

『とりあえず、町には入れましたし宿を取りましょう』
「そうですね。あちらの門番に聞いて参りますので少々お待ちください」

 こちらの回答も待たずにメリーとクーは、
 扉を閉めて手空きになった門番へと近付いていく。
 二言三言会話を挟んで門番の男性が指を動かしている様子から、
 道順を教えてくれているようだ。
 いくつかの宿情報を教えてもらい、2人は戻ってきた。

「優先項目はどちらでしょうか?」
「飯」
「「お風呂」」
『おふとん!』

 美味いご飯1票、お風呂付き宿2票、布団がある宿1票。
 アクアのアンポンタンは置いておいて、
 毎日の活力であるご飯をないがしろにするとは、
 若い2人には懇切丁寧に教えてあげないといけないな!

「私もお風呂に1票です。クーデルカ様は?」
『クーはご飯ですので、お風呂付き宿3票で決まりですね』
「「やったー!!」」
「ご飯は食べ歩きで我慢するとしようか」
『ですね』
『あくあのいけんきいてる~?』

 マリーブパリアは王都から離れている割には少々大きめの町にあたり、
 海風も微かに混ざって通るせいか、
 海からも離れているのに少し塩っぽい匂いが感じられる。

 メリーとクーの案内でようやく着いた宿は、
 お風呂も付いている為、他の宿に比べると小綺麗な店構えをしていた。

「おしゃれな造りですね」
「装飾もうちの国と違って面白いです」

 宿によっては寝るだけだったり、朝食だけ出してくれたりと、
 いろんなオプション別に分かれているが、
 やはりお風呂付きはそれらオプションのほとんどが完備されている。
 俺の世界でいう高級宿だな。
 ただし宿代が1000Gに収まる程度で済むあたり、
 やはり物価や賃金は安いように思う。

「マリエルも増えたし、風呂は貸し切りじゃなくてもいいか?」
「そうですねぇ・・・メリー、どう?」
「問題ないかと。
 マントは羽織っておりますが、現在はいち冒険者の扱いです。
 あまりお金も使っていられませんし、他の方と一緒でもよろしいかと」
「わかりました、じゃあそれでいきましょう」
「マリエル、アルシェを護ってやってくれ」
「まっかせてください!姫様は私が護ります!」
「お2人はどうされますか?」
『ますたーといっしょにはいる~』
『クーも久しぶりですし、お父さまと一緒にいます』

 長い野宿生活を終えての初日は早めにゆっくりする事にしている。
 女性陣はもちろん長湯をして、ご飯を食べてから部屋で長話。
 俺も風呂にゆっくりと浸かって日頃の疲れを癒やす。
 今回は少し試したいこともあるし、茹で上がらないようにしないとな。

 その夜、男湯では宿の仕様にはない謎の泡が浴槽の底から、
 次々と湯面へと浮き上がる現象が観測された。
 時間にして1時間もなかったとされているが、
 体験した十数人の男性客はいつもよりも疲れが取れたとコメントしている。

『お風呂もご飯も久しぶりにゆっくり出来ましたね』
『あくあもう、おなかいっぱい~』
「味付けも違う香辛料を使っているからか、新鮮だったしな」

 あとはベッドで寝るだけという準備が出来てから、
 ひとり部屋で寝っ転がるとクーとアクアが直ぐ様両隣に寝っ転がる。
 時刻としては22時を回っているけれど、
 食べたご飯が未だに消化が間に合っておらず、
 お腹が張りっぱなしであった。
 眠気も確かにあるのを感じるけど、
 おそらくゴロゴロするだけで数時間使ってしまうだろう。

「散歩に行こうかな・・・」
『外に出るんですか?』
『めりぃがいってた、きとくなひとだぁ~』
「いやいや、町の中を歩くだけだよ。
 30分から1時間くらい歩けば、たぶんすぐに眠れると思ってな」
『そういうことならご一緒します』
『あくあはさきにねむれそうだから~、ねてまってるよ~』

 それは待ってるとは言わないと思うが・・・。
 そんなわけで張るお腹の消化の促しと、
 気分転換の夜散歩へとクーを連れて出発する。
 宿の受付に少し宿を離れる旨を説明してから宿を出ると、
 歩く人が全くいない通りを目にする事となった。

「本当にみんな寝静まるんだな」
『アスペラルダでは、まだ人が出歩いていますもんね』

 ここまで人がいないとは思っていなかった。
 だが、俺のチャレンジしたい事にとっては好都合かもしれない。

「クー、ちょっと歩く間にやりたい事があるんだけど、
 協力してくれるか?」
『お父さまの頼み事なら喜んで協力させていただきます』


 * * * * *
 カツンカツンカツンと夜の街並に響く足音がある。
 人通りの極端に少ない人が寝入り始めたその時間に、
 楽しげでもあり、しかしうるさくはない足音が響き渡る。
 影は1人の男と、その男を誘導するように手を繋ぐ小さな子供。
 大通りから裏道を適当の歩いているのか、
 立ち止まることはないが、
 ゆっくりとしたペースでその足音は町の中を響いて回る。

(『調子はどうですか、お父さま?』)
(「町のイメージにはほど遠いけど、
 一応壁とか横道なら判断出来るかな・・」)

 現在俺は目を瞑って歩いている。
 ナビゲーターは手を握って誘導してくれるクーに任せて、
 俺は足音に風の制御を組み合わせて、エコーロケーションの訓練を始めた。
 エコーロケーションを使う動物の代表格はイルカやコウモリだろう。
 超音波を用いて壁や物体に反射した物を分析して、
 目が頼れない状況下でも、まるで見えているかのように飛んだり泳いだりする事が可能となる。

 もちろん俺の足音は超音波ではないし、
 風の制御もまだまだ練度が不十分であるからして、
 頭に浮かぶ街並みのイメージ映像は、
 黒い画用紙に白い波で建物など物体の角に線が引かれている状態だ。
 これは何ですか?
 と聞かれても細かい部分まで把握出来ないから絶対に正解出来ない。

(『楽しそうですね』)
(「夜の散歩は元々好きだったし、
 新しい事に挑戦出来ている事が楽しいんだよ」)

 稚拙な成果しか出せていない現状であっても、
 見方を変えれば子供が書いた迷路を歩いているような気もして、
 割とこの落書き染みたイメージの街並みを楽しめていた。

 1時間も経たないうちに近場を1周して宿へと戻ってくれば、
 なかなかどうして疲労が顔を出していますぐ眠れそうだった。
 暗い部屋へと入ってみれば、
 アクアが布団を抱きしめて眠っているのが見えてなんともほっこりとする。
 アクアの握る手を剥がしてから俺の隣に寝かせ直すと、
 すぐに俺に抱きついてきた。
 クーも今日は人型のまま寝間着へと変身して、
 アクアの反対へと横になる。

「クー、おやすみ」
『おやすみなさい、お父さま』
『ZZZzzzzzz・・』


 * * * * *
 翌日、朝食の時間に昨夜の話をすると。

「クーちゃんだけお出かけしたのはズルイです」
『申し訳ございません、アルシェ様』
「でも、姫様。
 私たちその時間にはもう寝付いてましたよね」
「昨日は疲れが出ただけで、今夜なら私がお付き合い出来ます」
「いやまぁ、昨夜思い立ってクーが付き合ってくれただけだから、
 今夜はアルシェでもかまわないけど・・・」
「やった!」
「その間は私どもの所でお2人をお預かりいたしますね」
「あぁ、そうしてやってくれ。いいか、アクア?」
『だいじょ~ぶ~』

 揚げられた一口サイズの魚の切り身を頬張りながらアクアが答える。
 期せずして今夜の相棒も決まり、
 マリーブパリア初日の動きは、全員で情報収集することにした。

「と、その前にマリエル」
「はい?なんですか?」
「お前の武器を先に見繕うから、武器屋と闇市に行くぞ」
「え~、また師匠と一緒ですかぁ!?
 たまには姫様と町を歩かせてくださいよぉ・・!」
「今日が終われば勝手にして良いから。
 先にオベリスク影響化で戦えるように準備だけはしておかないと、
 役立たずのまま死ぬ事になりかねん」
「うう~、わかりましたよぉ・・・」

 しょんぼりするアルシェ大好きカエル妖精を見かねて、
 アルシェがマリエルへとフォローをいれる。

「じゃあ先にギルドで情報収集しておきますから、
 お兄さん達の用事が終わったら私と合流しましょう?」
「本当ですかっ!ありがとうございますっ!」
「私たちはいつも通りに収集いたしましょうか」
『そうですね、私たちは私たちで動きましょう』
「じゃあ、アクアちゃんは私と一緒ですね」
『あ~い!』


 * * * * *
 まずは、商品にあまり期待は出来ないが、武器屋へと到着する。
 触り付け心地だけでも確かめさせて、
 どの篭手が一番マリエルに合うか確認しよう。

「今付けてるナックルダスターは拳部分だけしかないけど、
 個人的には肘まで守れるガントレットタイプがいいと思ってる」
「なるほど・・・。受けられる範囲が増えるのはいいですね」
「店主、ここに足に装備するアクセサリーはありますか?」
「足に付ける?レザーブーツならあっちに置いてるよ」
「ありがとうございます。
 マリエル、後であっちにも行くぞ」
「はぁーい」

 店売り品の篭手は、元から種類の少なさからあまり試す事も出来なかった。
 死霊王の呼び声でドロップした[ナックルダスター]、
 あとは手に入れた事のない[鉄の爪]と[ガントレット]。
 現在確認されている武器が載る辞典も見せてもらい、
 今後の候補を見繕う事とする。

「やっぱりリーダーの言うとおり、
 ガントレットタイプがしっくりきますね。
 拳だけだと防御に意識が集中しちゃって・・・」
「だよなぁ・・・。
 ってことは、今後見つけておきたい武器は・・・」

 カイザーナックル【レアリティ:プチレア】
 要求ステータス:STR/45 VIT/45

 三鈷杵さんこしょ【レアリティ:プチレア】
 要求ステータス:STR/18 VIT/18 MEN/18 DEX/25

 テクンベ【レアリティ:レア】
 要求ステータス:STR/28 VIT/28 DEX/40

 この3つと肘まで守られてはいないが、
 魔法拳用にフレイムファングは欲しい所。
 しかし、ガントレット型は要求ステータスが高いなぁ。
 通常のガントレットですらレアリティは普通なのに、
 STR/40 VIT/35 DEX/30となっている。

「次のランクのダンジョンに潜れば、
 どれかが出るといいんだけど・・・」
「あんたら、次のダンジョンのランクは?」
「俺達は王都まで言ってからランク2に挑戦するつもりです」
「なら、テクンベがドロップするはずだよ。
 ただし、レアだから結構頑張らないといけないけどな」
「本当ですかっ!情報提供感謝です。
 その分お店に貢献しますからねっ!」
「は~い、まいどぉ~」

 ひとまず現状装備出来るナックルダスター現物の購入を決め、
 奥まった所にあるコーナーにアクセサリー類が展示してあるらしいので、
 マリエルを連れて見に行く。

「さっき言ってた足の装備って、何に使うんですか?」
「ん~現状さ、魔法を篭めるのは武器にしか試した事がないんだけど、
 これが武器だけじゃなくて防具やアクセサリーでも可能になれば、
 もっと色々出来るかもって思ってなぁ~」
「アクセサリーに属性ってあるんですか?」
「ハハハ、流石にないだろうな。
 マジックエンチャントするにしても今のところは、
 アクアが創ったウォーターボールをさらに調整して威力を下げてなんとかってところかな」

 魔法剣や魔法拳を俺は魔法付与マジックエンチャントと呼んでいるが、
 この技術が成功したのは完全に俺のイメージに近い物が偶然出来てしまっただけ。
 何がどうなって成功したのかとかは二の次にしていたけれど、
 実は少しずつ研究を重ねており、
 集めた情報を統合すると。

 1.武器は不純物だらけである
 これはこの異世界が持つ鋳造の技術では取り除ききれない物質が、
 まだ多く鉄や銅と言ったインゴットに残ったままなのだ。
 だから、店売り品はすべてレア度が低い。
 ダンジョンでドロップする装備品は、逆に全て純粋な金属で出来ている。
 故にプチレアから鬼レアまで武器の出来が違うのだ。

 2.その不純物の中に正解がある
 ネシンフラ島にあった精霊石という、
 長い年月魔力を吸い続けた石が存在した。
 その精霊石は始めは塵程度の小さい物質に宿り始め、
 周囲を精霊石に変化させながら徐々に徐々にその大きさを肥大化させる。
 残念ながら小さな物質がなんなのかは解析出来ていないが、
 その物質は成長する物とそのまま停止してしまう2種類があり、
 停止した物はそれこそ星の数ほどある。
 死んだ精霊石の卵がインゴットに残り、
 剣や篭手に姿を変える。
 それが魔法付与マジックエンチャント成功の秘密だ。
 もちろん、魔法を篭めるという技術も必要だけれど。

 3.レア度が上がれば不純物は少なくなる
 レア度があがれば属性武器も出てくるから特に気にする必要は無い。
 しかし、ノーマルの武器は不純物が少なくなり、
 その分精霊石の数も少なくなる為、
 魔法付与マジックエンチャントの効率もどんどんと低下していく。

「つまり、それって石の中にあるんですよね?」
「そうだ、だから防具に宿るにしても金属製にしかあり得ない。
 レザーなんて動物由来の物に宿るとは思えないけど、
 別の方法を考えるのもいいかなってね」
「本当、そういうの考えるの好きですよねぇ」
「俺の本質というか・・・なんていうかな。
 俺は一流の戦士にはなれないけど、三流のオールラウンダーにはなれるんだ。
 だから幅広く手札を増やすのは割と日常だ」
「?」
「まぁ、何でも出来るけど何も極められないって事だ」

 悲しいけど俺、器用貧乏なのよね。
 スタートから割と何でもそれなりに出来るけど、それだけなのだ。
 始めは評価が高い、何でも出来ると関心が低くなる、故に努力が出来ない、
 そうなると評価が低くなっていく、周囲が勝手に失望するのだ。
 こいつらにもいずれは失望されるだろうが、
 その時には魔王も倒されて俺は異世界をおさらばする。
 俺も何かひとつでいいから、
 夢中になれることが知りたかったなぁ。
 そうすれば自分の命にも人生にも興味を持てたのかも知れない。
 あぁ・・本当に・・・・早く死にたい・・・。


 * * * * *
「アクセサリーって色々あるんですねぇ」
「人の手で作れる物が多いってことかな。
 布や革で作れて防御力に期待が持てないアクセサリーなら作れるのか・・」

 指輪や腕輪、靴。
 店主の言っていたレザーブーツも確かにあり、
 隣の棚には安全靴と明記された靴が置いてあった。

 レザーブーツ【レアリティ:普通】
 特殊効果 :クイック+1

 安全靴【レアリティ:普通】
 特殊効果 :クイック-2

「安全靴買う人っているんでしょうか?」
「冒険者じゃなくて町の中で働く人が買うんじゃない?」

 アクセサリーは種類が多いとはいえ、
 効果はないけれどとりあえず装備枠が埋まる程度の物ばかりで、
 戦闘をする事を考えれば、冒険者はやはりドロップ品を装備するべきだろう。

「こっちも実験用にいくつか買っていこう」

 合計6足を買ってその店を出る。
 こうやって少しずつ貯金を削っていく生活もそろそろ厳しくなってきたから、
 早めにダンジョンのある王都まで行ってしまいたい。

「買い物は終わりですかっ!」
「馬鹿たれ、闇市もしっかりと見ていくぞぉ」
「ぶぇ~」

 こっちも早くアルシェと合流したいのか、
 気が急いている様子だけど、
 闇市では俺だけでなく全員の装備候補も見繕えればと思っている。
 もしかしたら、この店よりも時間を掛けるかも知れないから、
 マリエルの幻想はしっかりとブチ折っておく。

 とはいえ、あまり時間を掛けるとマリエルが可哀想なので、
 少し早足で回る事としよう。
 幸い、武器屋からそう離れていない場所で闇市は開催されて居た為、
 足早に移動を済ませ、10分後には到着出来た。

「バザーみたいですね。
 それにしても全員が黒いフードを被って顔を隠して・・不気味です」
「中身は冒険者や代理出品者だから怖い事はないよ。
 後はその人間の人格次第だ。さぁ、見ていこう」
「はい」

 流石は冒険者が出品者の闇市だ。
 店売りしていない普通からレアまでいろんな武器防具が売られており、
 やはりどれもお値段が破格の15倍だ。
 中古品とはいえ、性能に差はないから俺は気にしないけど、
 女の子達の装備品としてはちょいと微妙かな。
 いけても武器くらいだろうか。

「お、あれはアビスアーマーだ」
「ちょっと物騒な名前ですね。呪われてそうです」
「呪いはないそうだけどね・・・げぇっ!15.000G!」
「高いんですか?」
「まぁ高いと言えば高いけど。
 これがアスペラルダを始めて出る時点で見つけていれば即買いしたんだが、
 いまは金があまり残ってないからなぁ」
「15.000Gならあっちのゲーリュオンも同じ値段でしたよ?」
「あっちはステータスが足りない。
 確か2つほど60を越えないと装備出来ない」
「値段の設定が謎ですねぇ」
「本当にねぇ」

 俺としてはクイックにマイナス補正が掛かる装備はしたくない。
 闇市の中には装備の特殊効果も記載してくれている方もいるので、
 そちらを基準に考えて1時間ほど見回ると、
 入り口付近から大きな声が広がる。

「あと20分で闇市を閉めますので、
 出品者の方は店締めの準備を始めてください!」

 闇市は定期的に行われるが、
 毎度時間制限で開かれる為、
 しっかりと情報を仕入れていないと闇市で買い物は出来ないのだ。

「何を買うか決めましたか?」
「氷の鎧を実験用に買って、
 自分用には太陽の胸当て・・・いや、あれは高すぎるしなぁ・・・。
 やっぱりアビスアーマーだな」

 氷の鎧【レアリティ:プチレア】 6.000G
 アビスアーマー【レアリティ:レア】 15.000G

 残金はついに3万を下回り、
 27.400Gまで使い込んでしまった。
 あとは宿代とかを考えると、もう他に使っていられる状況ではなくなった。
 ひもじいよぉ・・・。
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