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閑話休題 -アスペラルダ国境道~関所~フォレストトーレ国境道-

閑話休題 -12話-[ハイラード共同牧場Ⅱ]

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 壊された柵の応急処置諸々を牧場主のご家族と、
 従業員、子供たちと協力して行い、
 農場の方もマリエルが同じく牧場メンバーと協力して手入れと手直しを行った。
 農場にもやはりハイイヌが侵入しており、
 多少踏み荒らされたり作物が囓られたりしていたようだ。

 しかし、一番の被害は動物たちであった。
 野菜より肉を求めていた事から、
 ずいぶんとお腹を空かせていたらしい。
 蹴り飛ばしたハイイヌの体も想像していた重量よりも、
 幾分か軽かった気がする。

「ハイイヌはこの辺で出るとは聞いてなかったんですけど、
 よくあるんですか?」
「いえ、私も長くこの牧場で働いていますけど、
 今回が初めての事です。
 本来はあの山向こうの草原がハイイヌの生息域なんですよ」

 補修を終えてトーマーズさんと別れた俺の次の担当は、
 アクアを引き連れて畜場のお手伝いだ。
 指示を出してくれている畜場担当のラミネアさんとの雑談で、
 ハイイヌの詳しい生息域を教えてもらう。

「じゃあ、わざわざ山を越えてここまで?
 すいぶんと遠いんじゃないですか?」
「そうなんですよ。
 馬車でも2週間近く掛かる距離のはずなので、
 何故ここまで来てしまったのか・・・」
「山向こうの草原には何かありますか?」
「特には何もなかったかと・・・、
 あっても町からずいぶんと離れているので・・・」

 まぁ、用もなく山向こうまで行かないだろうし、
 情報を持っていなくても仕方ないか。
 何か手を打って確認だけでもしておきたいところだが・・・、
 流石にここからの寄り道は準備不足もあって俺達が行くという決断は難しい所だ。

 メリーとクーも手伝って遅めの昼食も済ませつつ、
 全員で協力し、すべての作業が終わったのは夜の20時であった。

「本当に助かりました。
 夕食と朝食の食材はこちらを使われてください。
 奮発して量も多めにしておきました」
「いえ、貴重な経験も出来ましたしこちらこそ。
 食材も色を付けていただいてしまってありがとうございます」
「お礼なのですから当然ですよ。
 では、我々は朝も早いので今日は失礼します。
 見学をされるのであれば声を誰かに掛けてください」
「わかりました。
 キリが良ければ明日にでも見学をさせていただこうと思います。
 じゃあ、おやすみなさい」
「はい、本当にありがとうございました。
 おやすみなさい」

 エンハネさんと別れ小屋に戻ると、すでに女性陣はお風呂に入っていた。
 頂いた食材は農園で取れた野菜数種類と、
 チーズやバターなどの加工製品。
 もちろん牛乳?あぁもう牛乳でいいや!
 牛乳もたっぷりと頂いた。
 そして、クシャトラさんが関所で売りさばいていた謎の粉は、
 フラクルを風車ですり潰して粉にしたもの。
 俗に言う、コーンフラワーとかスターチとかミールとか呼ばれる、
 トウモロコシの粉のようだ。
 ただ、知識として知っているのはここまでで、
 粉の違いがわからないし、何よりこの粉がフラワーなのかも不明。

「とりあえず、作りながら試すしかないか」
『ごはんつくるの~?』
「先に作っておいて、俺達が風呂から上がってから完成させようと思ってな」
『なにかてつだう~?』
「じゃあ少し手伝ってもらおうかな」
『あい~♪』

 さてと、じゃあ始めますか!
 とはいえ、風呂前に作り置きするのは生地だけだから、
 そこまで時間も掛からない。

「にしても、この牧場って何でも生産してんなぁ。
 牛乳に卵に加工品、それから羊毛?も取れるらしいし、
 数家族で経営しているってことはメガファームって奴かなぁ?」

 漫画でしか畜産の事は知らないけど、
 朝も2時くらいから始まるんじゃないかな?
 そう考えると新聞屋さんと大差ないな。
 まぁ、新聞屋は朝刊後はチラシ作りをする時間まで二度寝が出来るんだけどな。

 ボールに粉と塩を入れて真ん中を凹ませ、
 そこに何かの食用油を適量入れる。
 オリーブってもっと暖かい所で採れるはずだから、
 また別の植物の油かな?

「アクア、混ぜるから水をゆっくり入れてくれ」
『あい』

 俺がボールの中身をかき混ぜながらアクアが水を少量ずつ注いでいく。
 ダマにならないようにしっかりと混ぜ、
 10分もかき混ぜれば生地が手にもひっつかなくなり、
 一塊の生地となった。

「あれ?これって放置して発酵させるべき?
 いや、でもベーキングパウダーだっけか発酵させる粉混ぜてないしなぁ。
 ・・・・・いっか、もう焼いちまおう」

 念の為もう一塊生地用の材料を用意する。
 こちらはある程度まで俺が混ぜたが、
 以降はアクアに飽きるまで踏ませておく。

「踏んで平らになったら、何度か折り畳んでまた踏んでくれ」
『あい』

 もちろん、直接じゃなくて間に料理用の布を挟んでいる。

 少しずつ千切っては丸めていき、麺棒で伸ばしていく。
 一口で頬張れるような大きさのライスペーパーにしてから、
 特注フライパンで焼き色が付くまでゆっくり焼き上げる。
 焼き始めて少しすると香ばしいコーンの匂いが鼻に届くようになり、
 疲れからかちょっとばかり涎が口の中で大量発生する。

「マリエルも増えたし、ちょっと多めに焼いておこう」

 両手で作る輪っか程度の大きさのトルティーヤを計30枚焼き上げた。
 これに野菜と少し辛味のあるソースを作ればすぐ食事に出来るだろう。

『はぁはぁ・・・ますたー、これでいいかな~?はぁ・・』

 すっかり焼くのに夢中でアクアの踏みつけ作業を止めるのを忘れていた。
 しっかりと踏み込んでは2~3回織り込んでまた踏む作業を繰り返し、
 生地としては十分に練られているのを確認してOKを出す。

「お疲れ様。これで大丈夫だよ、ありがとう」
『えへへ~、はぁはぁ』

 魔法生命体らしく体力が少なめなので、
 こういった簡単な作業でも息を荒げてしまう。
 焼き終えたトルティーヤを家の中に運んでから、
 女性陣が風呂から上がるのをアクアと2人でのんびり待つ事にする。
 アクアを膝に乗っけて椅子に座り牛乳を飲みながら待っていると、
 ヤバイくらいの眠気が襲ってくる。
 アクアも目を擦っているが、
 今寝てしまうと夜にお腹が空いて目が覚めてしまうし、
 変な時間に起きてしまい日中が辛いと日頃から口を酸っぱく言っているので、
 必死に寝ないように戦っている。
 可愛い。


 * * * * *
「・・・んん!美味しいです!」
『ちょっぴり甘くて、美味しいですお父さま』
「これはなんという料理でしょうか?」
「この生地がトルティーヤで料理名はタコスだよ」

 野菜の千切りと卵を焼いた物、
 そこにタコソースもどきを少量掛けてみんなに振る舞った。
 幼い精霊達用に甘めのソースも作っておいたけど、
 そっちも好評なようで安心した。

「辛さは自分で調整しろよぉ。
 アクアとクーも辛い方を食べても良いけど、
 付け過ぎないように少しずつ付けて食べるんだぞ」
『あい!』
『はい!』
「隊長って多彩ですよねぇ。こんな料理も作れるなんて」
「実際大した料理じゃないぞ。
 生地はアクアと一緒に作ったし、野菜は新鮮。
 ソースはお好みだからな」

 ぱくっ。
 うん、一口サイズにしたから食べやすいし、
 辛すぎても水を飲むスペースが口の中に出来ているのがまた良い。

「薄めに焼いたけど、
 ちゃんと噛み切れているか?」
『だいじょ~ぶ』
『問題ありません』

 お口が小さい2人は3口ほどで平らげていく。
 辛口の料理の好みは俺とメリーが普通で、
 アルシェとマリエルとアクアが少量で食べており、
 クーに至ってはタコソースは苦手で食べられないみたいだ。

 用意したトルティーヤは全て皆のお腹に収まり、
 アクアが用意した予備の生地は明日の食事にと保管する。

「明日はどうしますか?」
「1日はゆっくり休もうかと思ってるから、
 好きな時間に起きて好きに見学してくるといい」
「わかりました」
『お手伝いしてもいいですか?』
「いいよ。あちらが良いって言えばね」

 クーは今日と同じく牧場のお仕事を手伝うつもりらしい。
 とことん人を支えることが好きなようだ。

『なにしようかな~』
「マリエルはどうするの?」
「私は畑のお手伝いに行ってこようかと思います。
 姫様はどうされますか?」
「色々と見て回ろうと思ってる。
 あまり牧場に来る機会はないだろうから」

 明日は休日に当て、
 明後日から外を見回りつつ、
 ブルププクを探そうかな・・。
 でも、ハイイヌとランクは同じはずだから、
 もう結果は見えているような気もする。


 * * * * *
 牧場経営者の朝は早い。
 現在朝の3時でまだ真っ暗の中、
 窓から見える牛舎では明かりがついて・・・いなかった。
 あれ?牛って品種改良されているから、
 毎日乳を搾ってやらないと破裂するんじゃなかったっけ?

 トイレに起きて何気なく窓の外を見ただけで、
 特に手伝おうとかは考えていなかった。
 というか、まだ眠かった。寝ぼけていた。

「でも、せっかく起きたしせっかく牧場にいるんだから、
 ちょっと見回ってみようかな・・・」

 部屋にこっそりと戻ると、
 宗八箱から私服を取り出して着替える。
 防具の装備はしているけど、外観は謎システムにより私服でも可能なのだ。
 外装ってどういう原理なんだろうな。

 みんなを起こさないようにドアを開け外に出ると、
 窓からでは見えないところで作業をしている人達を見つけた。

「おはようございます」
「うわっ!あ、昨日の・・・おはようございます。
 さっそく見学ですか?」

 眠気眼のまま挨拶をすると、
 こんな時間帯に歩き回る冒険者は今までいなかったのか、
 とっても驚かれる従業員さん。

「まぁそうですね。
 いまの時間帯は何をしているんですか?」
「今は昨日殺されてしまったホルスタウルスの解体をしています。
 幸い気温も下がってきた時期な事もあってすぐに腐らなくて」
「あぁ。結局被害はどのくらいでしたか?」
「ホルスタウルスは年寄りと子供が合計8頭、
 フリジノが2匹、ラノリシープが1頭ですね」

 ホルスタウルスは俺達のよく知る牛ではなく、
 どちらかと言えばヤクと呼ばれる長毛の・・・牛?に近い。
 モップ犬の牛バージョンみたいなね。

「フリジノとラノリシープとは?」
「えっ?フリジノを知らないんですか?」
「あまり動物に詳しくないもので。すみません」
「いえ。えっと、フリジノは毎夜卵を産んでくれる魔物ですね」
「へぇー、朝じゃないんですね」
「朝に産む方もいるんですけど、うちの牧場は夜タイプです」

 鶏とは違うという事か。
 確か鶏は鶏冠(とさか)で光を感知して、
 朝が来た事を感じると卵を産むんだったかな?

「一応魔物なんですよね?
 家畜にするのって危なくはないんですか?」
「いまこの牧場にいる魔物たちは生まれた頃からここに居ますし、
 生まれた直後は元の動物なんですよ。
 だから、しっかりと生活を習慣付ける事で、
 魔物化して知能が上がっても、そこまで危なくはないんです」

 魔物は野生動物が体に一定量の魔力を吸収し、
 魔石が体のどこかに精製されれば変化して魔物化する。
 話を聞いたばかりの俺のなかでは、
 尿道に出来る石みたいなイメージであった。
 魔物になると知能が上がり、
 普通の動物の時とは異なり自我も強くなる。

 しかし、魔物が子を産むと子は動物というのは面白いな。
 魔石はすでに体に出来ている為いずれ魔物になるって事だから、
 この世界に野生の純粋な動物というのはいないのかも知れない。

 その日の朝は死んでしまった動物たちの解体を見学した。
 ヤバイ毛色をしたフリジノは鶏と同じように逆さに吊して、
 首を切って血抜きをし、
 毛を抜いてからそのまま調理台へと消えていった。
 次にラノリシープだが、
 俺の知っている羊と異なる容姿で、
 鹿に羊の毛を装備させた!みたいな見た目であった。
 ラノリシープもすでに死んでいる為、
 先に毛を刈り取ってしまい、体中に切り込みを入れて皮を剥いでいく。
 臓物を取り出してバケツに入れると、
 従業員さんがこれも調理場へ持って行ってしまった。
 たぶんほとんど捨ててしまうと思うけど、
 腸はソーセージだかウインナーだかになるのかな?

 残された肉塊は部位毎に綺麗に切り離され、
 調理台ではなく保存食にする為の施設へと運ばれていった。
 肉の保存食と言えばべーコンとか燻製肉だろうか。
 牧場を出る時に買っておこう、そうしよう。

 最後はホルスタウルス。
 まず逆さに吊し上げて首を切り血抜きをする。
 その後は皮を剥いでいきながら、
 腹も切り開いて臓物を取り出し、再び調理場へ。
 あとは運びやすいように部位毎に切り離して、
 ほとんどの部位はラノリシープと同じく保存食にする為施設へ運び込まれ、
 一部は牧場住民のしばらくの食事になるという。

 本来産卵させた卵や酪農、刈り上げた毛を出荷するのであって、
 肉を出荷する牧場ではない。
 日本でもどちらともする牧場は少なく、どちらかの牧場が多かったはず。

 鶏も鶏肉用はブロイラー、鶏卵用はレイヤーと分かれている。
 牛も肉牛と乳牛が存在しており、
 売られている肉は和牛と国産牛の2種。
 和牛以外は全て雄の乳牛とリタイアした乳牛と聞いた事があるな。
 羊はよくわからん。

 つまり何が言いたいかというと、
 今回死んでしまった家畜の肉を出荷する√が異世界牧場にはなくて、
 お金にする事が出来ないということで、
 彼らの死を無駄にしない為、
 予期せぬ出来事で死んでしまった場合は今回のように、
 みんなで死を弔うのと同時に感謝をして食すのだという。

 牧場主さんのご厚意で少しだけ朝食用に分けてもらい、
 小屋へと帰ってきた頃には空が明るくなっていた。
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