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第04章 -王都アスペラルダ編Ⅱ-

†第4章† -06話-[包囲殲滅戦演習!]

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「これより!第2、第3王国混成軍と、
 姫殿下護衛隊の共同演習を始めたいと思います!」
「「「「「よろしくおねがいします!!!!!」」」」」
「「「『『よろしくおねがいします!!!!!』』」」」

 俺達が王都へ戻ってきてから、今日で1週間が過ぎようとしていた。
 そして現在の場所が闘技場。
 今回の演習は俺から申し出たものだが、
 丁度時間の確保の手回しが間に合ったのが第2第3王国軍だった。
 俺の持ちかけに、良い経験になると二つ返事をしてくださり、
 本日その演習は開始された!

「進行は第2王国軍副将ポードマンがさせていただきます!
 本日の演習内容は包囲戦での対応です!
 基本的には人数の少ない護衛隊の方々が包囲される側、
 つまりは防衛する側で、
 我々混成軍が攻撃を致します!」
「質問をしてもおよろしいでしょうかっ!」
「なんだ!」

 兵士の一人が挙手をしながら一歩前に出てくる。

「ありがとうございますっ!
 護衛隊に対して我々は数が多すぎますが、
 全員でされるのでしょうかっ!」
「部隊は3つに分け、交代で攻撃役になる!
 待機部隊は戦闘内容をしっかりと勉強して対策を練るようにっ!」
「ありがとうございますっ!」

 本隊の兵士ってみんなこんなノリなわけ?
 暑苦しくて基本適当に生きている俺には合わないわ。

「部隊の指揮は私を含まない3副将に行ってもらう!
 開始前の作戦会議で将軍はアドバイスをくださるが、
 演習に直接は参加しないのでそのつもりで事に当たれっ!」
「「「「「はっ!」」」」」
「ではまず、第一部隊を発表する!
 魔法部隊!第2王国軍・・・」

 その後は3部隊の編成を発表。
 前衛の戦士と後衛の魔法使いに分かれて、
 今回の演習に当たる。

「第一演習!各部隊の戦闘開始時の状態とルールを発表する!」

 そして俺のやりたかったことのひとつが、
 このルール付きでの戦闘だ。
 ルールと言ってもゲームのような設定を追加するだけで、
 各々の部隊はそれを考慮して動かなければならない。

「攻撃部隊!前衛の3割が負傷!5分後に戦線復帰!
 開始してから攻撃を受けたものも負傷者として扱い、
 速やかに後衛に合流!
 負傷者は5分後に戦線復帰!以上!」
「「「「「はっ!」」」」」
「防衛部隊!メリー=ソルヴァ負傷!5分間戦闘と移動禁止!
 復帰後は右腕が使えないものとする!」
「ちょっと縛りがきつくないですか?」
「申し訳ありません姫様。こちらは水無月殿からの申し出です」
「お兄さんが?」

 なんでこんなキツい縛りを設けるのか?
 そんな顔で俺へと疑問を投げかけてくるアルシェ。

「メリーとクーのコンビが万全で動けると、
 俺達は時間稼ぎをするだけで勝ってしまうからだ。
 この後に制限時間を発表されるが、
 時間がある事で俺達は圧倒的有利なんだ、それはわかるな?」
「それはまぁ・・・」
「条件付きでやるんだから、次の演習はまた別の条件に変わる。
 今回はこういう条件なんだと納得して対策を立てよう」
「わかりました」

 目線で先に進むようにポードマン副将へ伝える。
 コクリと頷いて、続きの戦闘時間を宣言する。

「戦闘時間は15分!お互い負傷者復帰からの作戦が大事になる!
 しかし、いつもじっくり作戦を立てる時間は無い!
 10分で考え、配置につけ!以上!作戦会議開始!」

 待機組は観客席への移動と、
 戦闘開始は10分後と宣言する。

「各陣営はこの時間内に作戦を立案し、
 自分たちの勝利条件をクリアしてほしい!以上!」
「「「「「はっ!」」」」」

 これを皮切りに作戦会議の時間がスタートし、
 それぞれが話し声が聞こえない距離まで離れて話し合いが始まる。


「まず、条件通りメリーは開始から5分間は何も出来ない。
 つまり俺達はメリーを守る為に動く事が出来ないわけだ」
「部隊が分かれたとしても魔法部隊の総攻撃は流石に捌けません」
「それについては、メリーが復帰するまで無理をする必要がある」
「申し訳ございません姫様」
「いえ、こういう演習を組むという事は何か作戦があるんですよね?」
「作戦は・・・」


 * * * * *
 この演習は包囲戦なわけで、
 当然俺達が闘技場の中心に配置され、
 周囲をぐるりと兵士が囲っている。

 まずスタートしても前衛は動かない。
 それは包囲はしているが距離はまだ空いており、
 後衛の魔法使い部隊の攻撃が当たる為である。
 逆に前衛が突っ込んだ場合は、
 仲間が邪魔になって魔法なんて撃ってられない。
 セオリーを考えれば魔法使いの攻撃を凌いでいる間にメリーが復帰してくる計算だ。

「開始!」

 斯くして包囲演習の火蓋が切って落とされた。

「作戦通りにな!」
「はい!」
『まっかせて~!』
「5分間よろしくおねがいします」
『しっかりと守ります!』

 声を掛けると皆士気の高い返事を返してくれる。
 俺もかなりの無茶を自身に強いるが、
 今より成長する為に少しでも背伸びをして、
 今より先の自分を感じる必要があった。

「魔法部隊構え!ってえええええ!!!」
「《ヴァーンレイド!》」
「《エアースラッシュ!》」
「《レイボルト!》」

 予想通り前衛は動かず、
 近距離でしか意味の無いアイシクルエッジ以外の初期魔法が、
 一斉に俺達に向かって飛んできた!
 初っぱなから一閃をかます事も考えはしたけど、
 着弾はレイボルトの方が早いので、
 もしもHITした場合、負傷扱いにはならないが、
 一瞬動きが止まってしまい、以降はボコボコにされるオチが見えた。

「アルシェ!」
「《アイシクルウェポン!》シフト:ランサー!」

 アルシェの詠唱により、氷の槍が5本精製される。
 5本は上空へと一度上がってから、
 俺達を囲むように地面へと刺さる。

「回避!」

 飛んできたレイボルトを回避する。
 アルシェの避雷針はまだ地面に刺さっていないから、
 始めに放たれたレイボルトだけは避ける必要がある。

『閻手!』

 アルシェは避雷針の準備で回避が遅れるが、
 クーの閻手がレイボルトのHITを防ぐ。

「ありがとう、クーちゃん!」

 返事はない。
 いちいちしている暇はないので、
 極力余計な言葉は慎んで防御に集中するように伝えたからだ。
 まぁアルシェみたいに普段の礼儀が出てしまう事は仕方あるまい。

「《氷結加速!》ふんっ!!」

 アイスピックに氷の刃を生やして、
 何も握っていない左手で周囲を大きく仰ぐ。

「『シンクロ!』」
「わかるかっ?」
『だいじょうぶ~!』

 左手で仰いだ際に発生した風が俺達の周辺に1度だけ吹く。
 そして、その風に触れるのは次に射速が速いエアースラッシュ。
 エアースラッシュは目で捕らえづらい、しかし、
 俺が起こした風は切り裂いた何かを認識出来、
 俺が素早く位置を把握。
 その情報はシンクロしているアクアへと流れ・・・。

『《勇者の剣くさかべ!》』

 魔法の連射でエアースラッシュを片っ端から潰していくアクア。
 近すぎると俺の反応が間に合わなくなる為、
 魔法の速射が出来るアクアに任せる。
 つまり俺は残ったヴァーンレイドの処理をするわけだ。

「はああああ!」

 常に風を周囲に散布しながら、
 炎の塊を切り裂いていく。
 射速の遅いヴァーンレイドは360度から撃ち込まれても、
 俺達少数の範囲などたかが知れており、
 一週を回って切り裂くのは余裕であった。

 だが、完全ではない風の守りの間断を突いて通り抜けたエアースラッシュは、
 クーが閻手にて半円状に防御膜を張ってるのでメリーとクーには当たらない。

 レイボルトを何度か受け止めたアルシェの避雷針が、
 雷の熱量で融けたり折れたりするけど、
 その都度アルシェが修復、
 セイバーを出現させて自動攻撃を開始している。
 狙うはレイボルトを撃っている魔法使い。
 しかし、あちらも前衛が守っていて攻撃は弾かれてしまっている。

 あと2分。
 メリーが戦闘に復帰すると同時に攻撃部隊の前衛も完成する。
 そこからはどんな動きをするのかわからないから、
 臨機応変に対応をしなければならない。
 この3分の間に指示をする副将が何か別の作戦を考えている事だろう。さぁ、来るなら来い!


 * * * * *
「5分経過!」

 つまりは互いの戦力が全員投入されるわけで、
 前衛が動きだす事となる。
 すぐに負傷兵は配置へと走って復帰し、
 メリーも立ち上がる。

「お待たせいたしました」
「よし、現状維持しつつ様子見!
 メリーは腕が折れていると想定した動きをシュミレーションと、
 副将の位置把握!!」
「はい!」

 1分もすれば負傷待機場所にいた兵士達は配置につく。
 魔法使いの攻撃はまだまだ続いているが、
 集中は良い感じで維持出来ている。

「ぜんしーん!!」

 ついに前衛の大部隊が一歩一歩前進を始めた。
 2分もすれば接敵して対応処ではなくなってしまう。

「アクア、アルシェ!」
「「『シンクロ!』」」

 メリーがいる中心へと駆け寄り、
 互いが左手を突き出し3人で掌を重ね合う。

『《セーフティフィールド!》』
「「『《アイシクルエッジ!》』」」

 敵からすれば自分たちが放つ魔法が翻る護衛隊に当たると思った瞬間に、
 姿が消えて各人の魔法が交差して仲間を襲う。
 それと同時に闘技場の壁際1m以外の足下が凍りつく。
 前衛は足を取られ転ぶ者もいれば、剣を地面に突き刺して進む者、
 うまく滑って歩みを進める者まちまちだ。
 しかし、前衛も後衛も足下の氷から氷の刃が定期的に生えてきては、
 自分たちを斬り付け苦しめる。

 当然それにより体力の回復にも気を配り始めるので、
 気も漫(そぞ)ろになり始めていた。
 彼らが知るアイシクルエッジは、
 基本的に自分を中心に半径1.5m程度の地面を凍らせて、
 生えてくる刃で攻撃する魔法。
 こんな事態に陥った事が初めてであった。

「慌てるな!ゆっくりでいいから後衛は炎で氷を融かして道を確保しろ!」
「《ヴァーンレイド!》」
「《フレアーヴォム!》」

 ここで中級魔法のフレアーヴォムが前方へと投げ込まれる。
 これは炎の手榴弾を投げるような魔法で、
 集団でいる敵を広範囲に燃やし爆発する魔法。
 この魔法によって確かにヴァーンレイドよりも効率的に、
 道幅の広い通路の確保に成功した。

「危ないぞ!」

 そんな彼らの中から危険を知らせる声が飛んでくる。
 無意識に声がした方へと目を向けると、
 氷で出来た湾曲した刃のような物が氷の地面を走り回り、
 仲間を切り裂きながら進んでいる光景であった。


 * * * * *
 姿を隠してすぐに次の魔法の詠唱に入った。

「「『氷鮫の刃ブレイドシャーク!シフト:サークル!』」」

 こうして敵が近付いてきている戦場の中を、
 切り裂きながら暴れ回る鮫を合計3匹解き放った。
 ここまでの大規模魔法になると、
 3人で協力しないと発動も厳しくなる。
 しかし、発動さえすればあとは維持するだけなので、
 魔法力は必要ない。

「あとは任せるぞ!」

 俺だけシンクロを解き、
 王国軍に向き直るのと同時に、
 メリーとクーが飛び立つ。

『《マルチプルダーク!》!』

 メリーが復活した早いうちからシンクロ状態で待機していた2人の役割は、
 元からの予定通り敵の陽動と撹乱、そして暗殺である。

『《隠遁(ハイド)!》』

 メリーの足裏を押し出すように生えてきた閻手の塊が、
 カタパルトとなって彼女達を遠くへ飛ばす。
 セーフティから空へと撃ち出される瞬間に、
 クーが敵に見えないように魔法を掛けた。
 これで敵の背後が取れるが、
 音や砂の沈みなんかは隠せないので、
 その辺は気をつけるように言ってある。
 クーが居なくなった事でセーフティフィールドも同時に解けて、
 俺達の姿が再び王国軍の前に現れる。

「《氷竜一閃!》シフト:流(ながれ)!」

 戸惑いつつも前進する彼らの足下に、
 冷気を纏った白い気体が通り過ぎる。

「《結!》」
「うわああああ!なんだっ!」
「足が・・・」
「動けない!融かしてくれ!」

 混乱はさらに広がる。
 最前線の敵は素通りさせ、わざと中程の兵士を凍らせた為、
 ヴァーンレイドを撃ち込もうにも回りの兵士が邪魔で、
 魔法使い達も助ける事が出来ない。

 今ので前方180°は足が鈍くなった。
 そこで俺が反転をして足止めがされていない側へ突っ込んでいく!
 俺の走り出しと同じくアルシェが足止めされた部隊への攻撃を開始する。

「《アイシクルウェポン!》シフト:セイバー!
 《エレメンタルコントロール!》シフト:ディフェンス!」
「サンキュー!」
「お気を付けて!
 《アイシクルウェポン!》シフト:ランサー!
 《アイシクルライド!》」

 アイシクルエッジと氷鮫の刃ブレイドシャークの制御はアクアに任せる。
 現在のシンクロは俺とアルシェとアクアの3人でしており、
 俺とアルシェの制御力の大半をアクアに委ねれば、
 多少無理をさせるが、アクア一人でも制御は可能だ。

 あとは俺とアルシェが接敵すれば、
 魔法使いは俺達に対処する事が一切出来なくなる。
 そしてもう一手!

「副将負傷!これより5分間副将は動けません!
 負傷中に10HITすれば死亡扱いとします!」
「えっ!?副将負傷!?なんでっ!一番後ろの列にいるのにっ!」
「まずいぞ!後ろには近接戦闘出来る奴が残ってないっ!」

 メリーが最後列まで飛んでいき、
 隠遁(ハイド)をしながら指示に集中する副将をひと突き。
 進行役のポードマンが負傷の情報を伝える間に、
 メリーは副将から離れなければならない。
 でなければ、伝えている間に10HITなんて終わってしまうからだ。

「敵はどこからっ!?」
「わからないんだっ!いきなり副将が負傷してっ!」

 良い感じに混乱が加速する。
 前衛も今の情報伝達を聞いて守る為の動きを見せるが、
 足止めに数人残すだけとかなめとんのかっ!

「《氷竜一閃っ!》」

 退いていく彼らの頭上を俺が吹き飛ばした兵士が、
 体の表面を凍りつかせながら飛んでいく。
 遅れながらも俺に警戒を高めているが、
 足下も側面も疎かになっている。

「ぐわっ!」
「うわああああああ!!」

 足下からはアイシクルエッジ、
 側面からは氷鮫の刃ブレイドシャークが彼らに襲いかかる。
 アイシクルエッジは軽傷扱いで負傷にはならないけど、
 氷鮫の刃ブレイドシャークは攻撃力も高いので一発で負傷者になる。

 アルシェの方はさらに簡単だろう。
 前衛層の中にいる兵士の足下を凍らせたから、
 後衛に助けに動けるのは後方に近い少数だし、
 最前線にいた兵士は後退しようにも味方が邪魔で右往左往する。
 つまりは、攻撃し放題なのだ。

 メリーとクーも作戦通りに、
 副将を守ろうと集まる兵士や魔法使いの最後方を走る奴を、
 片っ端からバックスタブを決めていく。
 副将も仲間が減っていっている事に気付いていながらも、
 負傷者は声を出してはならないし、身振りで伝えてもいけない。

 最終的にこの演習は俺達の圧勝となる。
 結果は15分経たないうちに王国軍は全員負傷者となり、
 こちらは負傷0。
 ちなみにアクアは副将負傷の混乱に乗じて空へと避難しながら、
 戦況を見つつ魔法で援護をしていた。

「圧倒的に不利かと思っていましたけど、
 勝ってしまいましたね」
「そりゃ勝つ為に作戦も立てたんだ。
 とはいえ、もう少し危なくなるかと思ったけど、
 王国軍がセオリー通りに動いたからこその勝利だな」
『いえ~い!』『やりましたね、お姉さま!』
「メリー、副将には気付かれなかったか?」
「地面には降り立たず、クーデルカ様の魔法で壁で待機いたしましたので、
 気配で一度は振り返りましたが、気のせいだと思われたようです」
「そうか。やっぱ将軍がおかしいだけだな」

 あちらでも反省会が行われているけど、
 次の王国軍が闘技場内に降りてきている為、
 そそくさと観客席へと移動していく。

「マナポーションは飲んどけよ」
「はい」
『あくあもまりょくもらうね』
「吸え吸え。完全回復させとけよ」


 * * * * *
 場所は変わって王国軍第1演習を終えた兵士一同と
 第2王国軍将軍のオーラン=クエイサー卿。

「ひとまず、感想を聞こうか。副将」
「はっ!セオリー通りに魔法で攻撃した際の対処方法は、
 将軍レベルでないと出来ないと踏んでおりましたが、
 彼らはチームワークと魔法を上手く組み合わせて対応しました。
 これは戦士と魔法使いに分けている我々では為し得ない戦術です!」
「私から見ても彼らの戦術は興味深い。
 レベルだけを見れば彼らの方が10は低いはずなのだ。
 それを少人数且つ包囲された状態で勝利した」
「はいっ!私も気がついた時にはメリー殿に刺されておりました!」

 彼ら兵士からしても、
 頼りの副将が負傷したことでの動揺は大きく、
 実際始まった時点では余裕で勝てると高を括っていた。
 しかし、終わってみれば50人はいた仲間は全滅しており、
 制限時間の15分も持たなかった。
 ルールが厳しく、すぐに負傷扱いにされてしまうとはいえ、
 これは予想外すぎてショックが大きかった。

「次、前衛部隊から・・・お前さんはどう思った?」

 あえて自分の第2の部下ではなく第3から選び、
 新鮮な意見を聞くこととした。

「はっ!護衛隊が使う魔法はどれも初見のものばかりであり、
 尚且つ効果的でした!
 さらに言えば、魔法だけでなく近接戦闘もかなりの水準でした!」
「姫様と戦った者はいるか?」
「「「「「はいっ!」」」」」

 幾人かが同時に手を上げた。
 とはいえ、あれほどの戦力がいながらその数が少ないのは、
 戦えたのが分断された最前のみという答えの結果である。

「よし、フランツ」
「はっ!姫様の攻撃力自体はそこまで高くはありませんでしたが、
 どうも姫様は1対多の戦闘に慣れているように感じました・・・。」

 うんうんと先ほど挙手した一同が頷く。

「動きにしても足捌きに合わせて斬り付けたのに、避けられました。
 確かにアイシクルエッジによる弊害があるにしても、
 毎日訓練している我々の剣を避けられるとは思いも寄りませんでした。

 負傷扱いになって改めて確認すると足にも何か魔法を使っておられました」
「なるほどな。魔法と近接の組み合わせか。
 攻撃魔法ではなく自身に掛けて戦力を増やすとはな・・・。
 次!魔法について魔法部隊の意見が聞きたい!」
「「「「「はっ!」」」」」

 魔法部隊のほとんどは背後からの1撃で負傷し、
 誰1人としてメリーの姿を確認出来ていなかった。

「よし、お前さんの話を聞こうか」
「はっ!第3王国軍所属!イセベル=アグニスです!
 護衛隊の広範囲魔法はおそらくですが、
 水無月殿、姫様、アクアーリィ殿の3名で使用したと思われます」
「何故だ?」
「はっ!姿を消してからすぐに現れたお三方が、
 同じような水色の何かを纏っていましたのでっ!」

「確かに!」や「そういえばそうだった」と各所で声が漏れる。

「静粛にっ!」
「メリー殿の動きについては何かわかるか?」
「はっ!姿を消すまでは確かにあの場には居ましたので、
 その後不明な方法にて背後に回られたのだと思いますっ!」
「ふむ、副将が1番始めに負傷したな・・・何か気付いたか?」
「はっ!確かに上空を何かが飛び越えるような気配はありました。
 しかし、背後の土にも足跡は発見出来ませんでしたし、
 続けて動く気配もなかったので鳥が通ったのだと判断しました」
「それがメリー殿だった可能性は高いな。
 姿が見えなかったように私にも思えたが、何か意見はあるか?」
「「「「「はっ!」」」」」

 これにも数名が挙手をする。
 どれも後衛にいた魔法使いが多かったが、数名前衛部隊が混じっている。

「では、君の意見を聞こうか」
「はっ!第3王国軍所属!ジーセフ=ガドーです!
 メリー殿が姿を消した時に、クーデルカ殿も居なくなっておりました!
 おそらくは彼女の魔法にて姿を消したものだと思われますので、
 攻略するのであれば彼女達を分断するしか無いと思います!」
「うむ、良い意見だ。
 では次に水無月殿についてだ。誰か攻略の糸口は見つかったか?」
「「「「「・・・・・」」」」」
「おいおい、誰も居ないのか?」

 当然、護衛隊の中核を担うのが彼である事は皆が理解していた。
 だからこそ、魔法使いも指示をされていないながらも、
 彼へと重点的に攻撃をしたのだ。
 しかし結果としてすべてヴァーンレイドは切り裂かれ、
 エアースラッシュはアクアーリィ殿が潰し、
 レイボルトは姫様の氷の槍に引き寄せられて届かなかった。

 単体となれば攻撃は届く事だろうが、
 もし戦場で彼が敵として現れた場合・・・。
 単体という強みを持って一閃や嵐閃が牙をむくだろう。
 今回の演習で嵐閃は出なかった・・・、
 つまりあれは小範囲への魔法剣である為だ。
 ここまでは理解出来る、しかし、一閃ですら対処方法が思いつかない。
「まぁ、いい。
 彼の魔法剣は我々の知る戦術と全く違う。
 精霊と協力し剣と魔法を駆使して戦う。
 誰もが彼のように戦えるようになるわけではないだろうが、
 フィリップから聞いた話では、あの水精を纏ってもっと強力な攻撃が出来るらしいぞ?」

 全員が目を剥く。
 今のままですら手も足も出ないと思えたのに、
 さらに上の戦術を持つ・・・。

「だが、まだ制御し切れていないみたいだがな。
 さぁ、反省会はここまでだ!
 次の第2演習が始まるぞ!しっかりと見ておけよ!」
「「「「「はっ!」」」」」


 * * * * *
 第2演習の条件は、
 王国軍が魔法使い部隊が5分遅れで到着。
 護衛隊がアルシェ負傷、5分後に復帰するが足に負傷が残る。
 つまりは攻撃に参加は出来るけども動けないって事だ。

 王国軍の戦略は横列ではなく縦列行進。
 これによって俺の一閃の効果が薄れてしまったが、
 これに対し俺とアクアでシンクロ、縦列の一直線を凍らせる。
 上から見れば氷の結晶のように見えるだろうな。
 それと同時にメリーとクーに先行してもらい裏取り、
 そのまま後ろのいる者から負傷していき、
 彼らの対処は各一番後ろにいる1人がメリーの対処に行くというものだった。
 今回は姿が見えているからこの対応を選んだのだろうけど、
 一カ所に集まる彼らへ俺からのプレゼントを一閃する。

 これにより5分以内の全滅、
 後退で到着した魔法部隊にはクーのスモッグで盲目にしてから、
 各々分かれて各個撃破。
 5分後にまた入れ替わりで復帰してきた前衛には同じように、
 一閃を主軸にした戦略と勇者の剣くさかべの連射で圧勝出来た。

「両方が揃って始めてキツくなるし、
 前衛は接近していなければ怖くはないな」
「ですね・・・。でも私この城の姫なのでちょっと複雑です」
「今の条件が姫様でなくご主人様が負傷であれば、
 もっと拮抗した戦闘になったと思います」
「逆言えば効果的な範囲攻撃を俺しか持っていないってことだから、
 順番で言えば次は俺が負傷役だ。
 第3演習でまた自分の弱点が見えてくるかもな」
『がんばる~!!』
『お父さまに指一本触らせません!』


 * * * * *
 第3演習の条件が発表された。
 王国軍は副将5分負傷、作戦会議欠席。
 護衛隊は俺が5分負傷で同じく作戦会議欠席であった。
 作戦会議欠席は俺のシュミレートにはなかったが、
 これも良い経験になるということで納得し、
 先に負傷者席で待つ事にした。

 結果は惨敗というか何も出来なかった。
 アルシェ達が立てた作戦は、俺を影に収納し、
 メリーとクーが《隠遁(ハイド)》で魔法使いを倒し、
 アルシェとアクアがシンクロでアイシクルエッジで足止めしつつ、
 勇者の剣くさかべを乱射するという魔力にものを言わせた戦術であった。

 対して王国軍は防御に徹して、
 前衛は3層に分かれて広範囲をカバーして、
 魔法使いは壁ギリギリまで下がっていた。
 これにより、メリー達の位置が小さなミスで判明しやすくなり、
 数を減らすどころではなく逃げ回る羽目になった。
 そして、アルシェ達も勇者の剣くさかべを撃っても、
 防御に徹すればなるほど堅い。
 その間に魔法部隊が中級魔法を遠慮無くぶっ放した。
 炎属性のフレアーヴォム、雷属性のプラズマレイジス、
 風属性のウインドブラストがアルシェとアクアに降り注いだ。
 対策として立てていた氷の槍はレイボルトには有効であったが、
 守る範囲が小さくなった為、
 間隔が短くなった事で槍から槍に移っていき、
 逆に動きを制限されてしまった。

 そこにフレアーヴォムとウインドブラストが畳みかけに注がれ、
 戦闘不能と判定された。
 そして、メリーとクーは投降してリタイア。
 5分経たずに演習が終了したので、
 俺も副将も負傷者席で傍観するだけであった。

「すみません、お兄さん・・・負けちゃいました・・・」
「いやいや、本来は勝敗を競う物じゃなくて、
 負けたら反省、勝てたらここが良かったと褒め合う。
 それがこの演習の意味なんだから、負けても良いんだぞ。
 っていうか、先の2戦が勝てただけでもすごいことなんだから、
 悪かったところだけ反省してあまり引きずるな」
「・・・はい」
「ほら、お前等もそんなしょげた顔するんじゃない」
『だって~・・・』
『すぐ見つかってしまいましたし・・・』
「ご主人様の顔に泥を・・・」

 精霊達やアルシェが落ち込むのは幼いし仕方ないと思うけど、
 普段冷静なメリーが落ち込んでいるのは少々珍しい。
 大方、この娘らに引っ張られて落ち込んで居るんだろうが、
 改善点が見つかれば勝ち負けは関係ないんだから、
 早めに切り替えてくれると助かるなぁ・・・。

「これにて!合同演習は終了となります!!
 全員整列!!!」
「「「「「はっ!」」」」」
「ほら、行くぞ。
 姫がそんな顔してていいのか?」
「・・・ふぅ。んっ!んっ!」

 顔をパンパンと2度叩いて気分を切り替える。
 今度は目にも力が戻った普段のアルシェの顔だ。

「皆様、本日の演習お疲れ様でした。
 戦績としては護衛隊が2勝と先を行かれていますが!!
 この負けを受け止めさらなる精進を心がけるように!!」
「「「「「はっ!」」」」」
「では、礼!!!」
「「「「「ありがとうございましたっ!」」」」」
「「「『『ありがとうございました!』』」」」


 やりたい事はやったし、
 精霊使いの可能性についても王には伝え済み。
 そろそろ旅を再開する良い頃合だな。
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