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第03章 -港町アクアポッツォ編-
†第3章† -03話-[カエルの孤島ーネシンフラ島ー]
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島には問題なく渡ることが出来た。
船着き場もしっかり作られており、
乗ってきた舟の他に小型の舟が1つと中型の舟が1つ、
合計3つがカエル妖精の舟らしい。
商売を生業にしているのだから、
もう少し大きい船でもいいんじゃないだろうか。
「商人は自前の船で買取に来ますから、
こっちの舟はそこまで大きさも要らないんです」
そう言われれば納得してしまった。
息抜きに町に出る時に中型などを出すのかもしれない。
外から見ると無人島でも、
島に入ると意外と文化は築かれているもので。
人の手の入っていないように見えていたこの島も、
人に近い妖精族が暮らしていることもあり、
道も舗装はされていないが長年踏み固められて、
歩きやすい道になっていた。
『ますたー!なんかわくわくだね~!』
「大自然が残っているからそこいらじゃ見ない植物も多いな」
「小さい虫も多いのですが、
人の通る道には近づけないようにしてますから」
「助かります」
「メリーは虫が苦手なんですよ」
『生き物はかなりいるみたいですよ』
ワイワイと話しながら歩く事10分程度でカエル妖精の村に辿り着いた。
もっと奥にいると思っていたけれど、
結構海寄りに村を作っているんだな。
「ようこそ、カエル妖精の島へ!」
ハライク氏が振り返っりながら両手を広げ、
歓迎の言葉で迎え入れてくれた。
「まずは長老の家に案内しますね。
水無月さんと子猫ちゃんは息子さんの所で話を聞かれてください。
タユタナ!この方が依頼を受けたから案内してくれ」
村を歩きながら説明をするハライク氏に呼ばれ、
遠巻き連中の1人が慌てて飛び出して来た。
「ハライクさん、カインズさんの所でいいんですよね?」
「そうだ。
水無月さん、この子はタユタナと言いまして私の跡を継いで、
渡しの仕事をする予定の娘です」
紹介されたタユタナという少女は、
森の中の村出身なのに日に焼けた健康的な娘であった。
年は20歳に届かないくらいかな?
向き直ったタユタナがこちらへ挨拶をする。
「タユタナとお呼びください。
ここからは私の案内で依頼を出したカインズさんの所へ向かいます」
「わかりました。
俺とクーはここで分かれるらしいから、
そちらは楽しんでくるといい」
「ありがとうございます。
お兄さんとクーちゃんも頑張ってくださいね」
「お気を付けて」
「いざとなれば影から引き上げますので」
『くー、きをつけてね』
「水無月殿、よろしくお願いします」
各々に見送られて俺とクーは、
タユタナの案内でカインズという人の元へと向かう。
アルシェ達は観光だったり息抜きの為にカエル妖精の村で待機となる。
* * * * *
「タユタナ、この島はどのくらい君達の仕事場になるんだ?」
村を過ぎてさらに森の奥へと進んでいく道中に、
タユタナと少し話をしようと思い話しかけた。
「私達の仕事は主に虫や植物の栽培と、
沼にしかならない薬草の栽培の2つです。
沼もそれなりに大きいので大体3割です」
「商人に売るのは沼の薬草だけなのか?」
「いえ、時々虫も売りますが、
植物は私達の食料として生産しています」
『虫も食べるのですか?』
俺の質問には軽々と答えていたタユタナだが、
クーの質問には「!?」とビックリしたように後ろを振り向く。
「あ、貴女が喋ったの!?」
『はい、クーは精霊ですから』
何でもないことのようにクーは答えるが、
妖精族のタユタナにしてみれば何でもないことではなかった。
「水無月さんが契約しているんですか?」
「そうだよ。この娘とアクアっていう村に残った水精霊とね」
「私は水精霊しか見た事がなかったので、
この子猫が精霊とは露にも思いませんでした」
「闇精霊だから尚更見ないと思うよ」
何かに感心したようにクーを凝視する。
「私達妖精は人と契約出来ませんから、
契約という物に少し憧れがあるんですよ」
『契約と言っても切磋琢磨する程度の事だと認識してます』
「そうだな、俺は1人だと戦闘力低いし、
クーたちは魔法を造り上げる事が出来ないし。
協力する関係だから主従という感じではないよ」
「はぁ、お話ありがとうございました」
何かに納得したのか憑き物が落ちたのか知らないが、
興奮状態から落ち着いたタユタナは、
改めて足を進め始める。
「さっきの質問ですけど、虫も食べますよ。
島は麦などが育つ地質をしていないので、
貴重なタンパク質としてですが・・・。
気持ち悪いですよね?」
「いや、俺も虫を食べた事はあるし、
虫料理もいくつか知っているから気持ち悪いとは思わないよ」
「へぇ、外の人も食べるんですね」
「一般的な人は食べないからな。
みんなが知ってるみんなが食べてると思うなよ」
「はぁーい」
話を繰り返すうちに少し言葉遣いがフランクになってきたな。
そこからは昆虫食の話題で盛り上がった。
イナゴの佃煮に始まり、へご料理、
蝉の唐揚げやコオロギの炊き込みご飯や肉まん。
見た目さえ気にせずに食べることが出来れば、
確かに自然の中で食べるようになるのは当たり前だよな。
分かれてから結構奥まった所まで進んだ。
開けた所に出たと思ったが、視界一面に広がる沼に少々面食らってしまった。
この広さは想像していなかった。
島の3割というのが点々と存在する沼の総面積の事だと考えていたが、
実際は超広大な1つの沼が広がるだけであった。
「ここで働いているのか・・・迷子になりそうだ・・・」
「新米は1年働いてやっと迷わなくなるって聞きましたよ。
男は沼で働き、女は村の中で虫や菜園の世話が仕事になります。
私みたいなイレギュラーはありますけどね」
『人が見当たらないですね』
クーの言う通りで、
本当に沼しか目に入らないのだ。
「多分潜っているんだと思いますよ。
この位の時間に到着する事は伺ってたので」
キョロキョロとしながらタユタナが説明してくれる。
そこ言葉通りに沼の一部がせり上がり始め、
中から何かが出てくる。
泥だらけだから分かりづらいが人の形をしていない。
「あ、いたいた!カインズさーん!連れてきましたよぉー!」
泥の塊はタユタナの声に反応してこちらへ進み始める。
沼に体の殆どが埋まっていて顔が出ている状態なんだろうか。
カインズ氏が動くと何故か泥は体から滑り落ちるように沼の中へと落ちていき、
カインズ氏の姿を顕にした。
『あ、カエルだ』
「カエル!?」
クーの一言は俺の頭を混乱のドツボに陥れた。
カエルというのは小指サイズからモアイサイズまで、
様々にいるのは知っているが、
あの形!あの目!あの足!全てが、
俺の知っているカエルじゃない!!
まず体と足がカエルじゃない!
完全に星の〇ービィ!あの足で大ジャンプは無理だろうが!
泥が落ちるということは、
カエルらしく表面に粘膜か何かがあるのかもしれない。
だがだがしかし、だがしかし!
もっとも極まっているのが目なのだ。
カー〇ィにダークソウルに出るバジリスクの目が付いたような見た目・・・
2次元なら許される可愛さがあったかも知れないが、
3次元で見るとなんとエグい生き物だろうか・・・
「タユタナか。
では、そちらが依頼を受けた冒険者かい?」
「・・・」
「あれ?水無月さん?」
『お父さまは旅立たれました。
話はクーが聞きますので問題ありません』
「え?なんだ?どういうことだ?」
しばらく現実逃避していたが、
なんとか自分に折り合いをつけてカインズ氏に向き直った。
「失礼、初めてカエル妖精を見たもので・・・。
想像とかけ離れていた為ちょっと整理していました」
「任せて大丈夫か?
ただでさえ人数も少ないし、
ベイカーさんの推薦があったとはいえ不安だぜ」
兄貴肌な40歳くらいのおっちゃんボイスで喋るカエル。
話半分に考えていたのはケロケロちゃいむだと思えばなんとか直視出来るかもだった。
* * * * *
「長老!ベイカーさんとアスペラルダの姫様一行をお連れしましたよ!」
ハライクさんの後について村を横断している間に幾人かの塊の若い娘さんや、
おば様達に遠巻きに見られながら辿り着いた長老様の家は自分の記憶にもある建物でした。
「はいはーい!お待たせ致しました!
ようこそいらっしゃいました姫様ご一行!」
「マリエル!」
「わぁ!本当に姫様なんですね!
3年ぶりですねぇ、本当にようこそいらっしゃいました」
出迎えてくれたのは昔一緒に遊んでくれた幼馴染?になるんでしょうか?
視察でお母様に着いて来た時にずっと遊んでいたカエル妖精の娘、
マリエルでした!
「今回は視察じゃないと聞いてますが、
少人数で動くなんて姫様迂闊では?」
「いまは国を回っててね、
アクアポッツォを抜けると風の国に入る予定なの」
「えっ!?本当に何をしてるんですかっ!?」
言葉遣いには距離を感じますが、
心配や言葉尻から普段は周りに居る者よりも近くに感じられる。
やっぱり友達って良いものよね!
「聞いているんですかっ!?」
「聞こえてるわよ。護衛に頼りになる人がいるから大丈夫よ」
「護衛?そちらのメイドさん?それともそちらのおチビさん?」
「今はフラゲッタ退治に行ってるわ」
「・・・護衛って仕事を理解してます?」
* * * * *
フラゲッタはここ最近、
沼や時には村近くで見られるようになり、
まだ被害らしい被害はないとの事。
姿を見た村人からの聴取で大きさや模様が違う個体が6体いる事が判明し、
好き放題に動き回らず様子見を繰り返す様相から、
リーダーとなる個体がいると推察したという。
「じゃあ7匹目はやっぱり未確定なんですね」
「申し訳ないがその通りだ。
念の為6匹の特徴を記した物を用意した」
「ありがとうございます」
何かの皮に描かれた蛇は確かに模様も大きさもまばらであった。
これがあれば実はもっと居ました!となっても、
新個体だと判断が出来るようになる。
「フラゲッタの魔石は精霊の進化の他にも、
使い道があるから全滅させる訳にもいかない。
今回は卵を既に確保しているから遠慮なく倒してくれ」
「モンスターはリポップするものじゃないんですか?」
「どちらかと言えば動物寄りの魔物の部類ですから」
『死体は消えないのですか?』
「そうですね、死体も虫が分解するまで残り続けます。
必要なら皮を剥いでもいいですよ?」
「皮はいらないかな・・・」
どちらかと言えば牙とかなら欲しいと思う。
クーのデバフ効果は今のところ、
煙幕による目くらまししか機能していない。
牙に毒の効果が残るのであれば、
時間がある時にクーを毒にして覚えてもらう事も可能だろう。
もしかしたらゴブリンなどの地上にいるモンスターは、
全て魔物の部類で、生きているのかな?
流石にキュクロプスはないだろうけどね。
「ここから先が奴らのテリトリーになる。
俺達はここまでだが、任せて大丈夫か?」
「まぁ、なんとかなるでしょ。
俺一人じゃないし」
『何とかなりますよ。
お父さまが一緒ですし』
「仲良しですね!
討伐が完了しなくても夕方になる前に戻ってください。
この島は自然が多いので夜になるのも早いですから」
「どちらかと言えば夜の方がいいんだけどな」
「その辺は任せる。
連絡方法はあるかい?」
村の仲間になら連絡がつくことを説明。
2人に見送られて鬱蒼と茂る森へと進む。
木も大きく育ち影が多い事でクーも動きやすいが、
根っ子が盛り上がったりしているので歩きづらかった。
「それに暑いしな」
『熱帯林というものですか?』
「蛇も居るし、そうなんだろうな」
契約精霊は俺と繋がりがある為か、
時々俺しか知らないような知識を口にする事がある。
もちろんこの世界に熱帯林なんて単語はない。
「サーチで分かるかな?」
『小さい生き物が多いので特定は難しいかと』
「サーチ精度を下げたらどうだ?蛇は他の生き物に比べて大きいからさ」
『なるほど・・・。
うーん、こうかな?
・・・ひとまず小さい生き物は殆ど感じない程度にしました』
「よし、このまま進んでみよう」
* * * * *
しばらく進んだ先で倒れた木を発見し、
いまはそれに腰をかけて休憩中だ。
「まぁ、簡単に会えないわな」
『島の7割の何処かですからね』
クーを膝の上に乗せてお腹や頭を撫でまくる。
周りは全て森だし、とにかく蒸し暑い。
討伐依頼なので遭難している訳では無いが、
元の世界ならこの状況は遭難以外の何物でもないだろう。
『水精霊がいるなら聞いてみては?』
「残念ながら見えはするけど話せないんだ」
『お姉さまみたいに身振り手振りで伝えたり』
「アクアだからこそだと思うよ。
天然でするからクーの時みたいに伝わるんだよ」
『なるほど・・・っ!?』
急に立ち上がるクーの警戒度から俺も立ち上がり周囲を警戒する。
「蛇か?」
『長い生き物で他に比べて大きいので、おそらく。
あちらの方角です』
カットラスをインベントリから出して、
クーの示した方角に集中すると、
足音も無いのに下に落ちている枝が折れ、
草を踏み分ける音が聞こえてくる。
さらにインベントリから蛇メモを取り出ししゃがみこむ。
「クー、どれだ?」
『長さからこちらかと』
6体のうち一番小さい蛇を指す。
単純に小さく弱いからパシらされたか、
それとも小回りが効くから偵察に来たのか。
『煙幕張りますか?』
「いや、蛇は体温で獲物を見るから意味がない。
こちらも小手調べなんだ、正面から行こう」
『はい!・・・「シンクロ」』
こちらがシンクロをしたタイミングで、
薮から飛び出して来た蛇頭に合わせてカットラスで斬り込む。
大きく開いた口の上部には一際長い牙があり、
横を抜ける間際に見た牙からは何かが滴り落ちていた。
牙とカットラスがぶつかり、
蛇頭は一旦後ろに仰け反ったものの、
筋肉にものを言わせて再び噛みついてきた。
蛇頭は俺の頭と同じ程度の大きさで、
口を開くと当然パクリと行かれるレベルだった。
先程と同じ様に牙へ打ち込むが、
今度はきちんとパリィをして右へと流す。
そのままの勢いで首元を斬ってみたが、
流石に薄い傷が付く程度で肉まで辿り着けなさそうだ。
明らかにカットラスの攻撃力が足りていない。
というより、斬るなら柔らかい腹の部分か、
口の端の膜が薄い部分から斬り開く必要がある。
改めてフラゲッタの全体像を視界に捉えた。
「蛇よりアナコンダだけど、アナコンダサイズのつちのこじゃないか・・・」
フラゲッタの見た目を描き出したメモを初めて見た時は、
古代の壁画かよ!とか思ったが、
実物を見ると確かに絵と同じ程度の長さで正しかった。
「そろそろ反撃するぞ」
『はい!』
イメージは銀世界の闇魔法バージョン。
魔力を込めながら縦向きの拳を前に出しながらイメージを固めていく。
銀世界であれなら魔力はかなり消費するが、
こちらの戦場に引きずり込まないと攻撃方向が下だけになってしまう。
「≪反転世界≫」
『≪リバーサルワールド≫』
拳から黒い雫が地面へと堕ちていき、
銀世界と同様にクラウンを発生させながら地面へと染み渡り、
視界に映る世界は闇に包まれる。
「流石に空間は無理だな」
『申し訳ありません』
空は燦々と光降り注ぐ世界のままだが、
地面とそれに繋がる木々や植物全ての表面は黒に変化していた。
実際はそこまで広いわけではない。
フラゲッタも環境の変化に驚いたような素振りを見せたが、
すぐに俺達と反対方向へと逃げる動きを始める。
当然逃がすつもりはない。
「≪多重閻手≫」
『≪マルチプルダーク!≫』
地面を這うフラゲッタへ攻撃を当てる為には低い視点での攻撃が必要であり、
普通の閻手は刺突特化なので威力が薄い。
であれば、必要なのは打撃力!
通常の閻手を幾重にも重ねて四角い棒へと精製する。
射出地点は木の幹下方から、目標はフラゲッタの側頭部。
発射後どんどんと伸びていき、逃げることに必死だったフラゲッタは気付かず、
見事に頭を叩くことに成功した。
フラゲッタが目を白黒させているうちに距離を詰める。
「クー」
『≪ダークエンチャント≫シフト:オブシディアン!』
俺の持つカットラスの刀身に黒い煙がまとわりつき、
そのまま渦巻き始め、徐々に刀身を黒く添え上げていく。
気体型のエンチャントは今のところまだ効果がない為、
今回は攻撃力を上げる固体型エンチャントをしてもらう。
『≪マルチプルダーク!≫』
今度は倒れ込んでいるフラゲッタへ下から同じく多重閻手で打ち上げる。
小さい個体とはいえ大きい蛇は重い。
頭部は完全に上向きだが、体が打ちあがった直後に落ち始める。
「『≪螺旋閻手(らせんえんじゅ)!≫』」
クーが自由に使える2本の閻手を重ね合わせ渦を巻き、
薄い線での刺突ではなく貫通を求めた点の刺突を繰り出し、
フラゲッタの喉元へと突き刺さり、そのまま背後の大木へとその巨体を縫いつけた。
『お父さま、あまり持ちません!』
「わかった!」
小さいクーがフラゲッタを縫い留めておくには、
あまりに大きさに差があり過ぎて長くは持たないらしい。
魔法にも筋力って関わるんだろうか?
クーの言葉を受けてすぐさま駆け出しタイミングを見計らって、
螺旋閻手の刺さる部分を狙って踏み切り飛び掛る。
動けず死に掛けのフラゲッタへ止めを刺す為の刺突は、
すんなりと柔らかい裏側を刺し貫き、
落下に合わせてお腹を切り開いていく。
ドッパァ・・・。
尻尾の先まで切り開いた俺に掛かったのは、
フラゲッタの臓物であった。
* * * * *
陽も傾き、村の女性達が中身の見えない籠や野菜の乗ったザルを持って村の奥から戻ってきた。
「長老、お客様ですか?」
「おぉ、ウルミナ。おかえり。
今日はアルカンシェ様とその一行がお見えになっているよ」
「姫様が来ているの?なんで伝えておいてくれないのよお父さん!」
長老の実の娘はウルミナであり、
カインズは入婿という立場であった。
「視察や仕事で来られたわけではないようだよ。
食事も特別な物を用意しないで普段の物を食べたいそうだ」
「普段の物?」
ウルミナは持ち帰ってきた野菜類と、
中に入るものを逃がさないような造りの籠を見やる。
いままでは王や王妃と一緒に来ていたため、
普通の料理を提供していたが、
今回は普段の食事を指定された。
「本当に大丈夫なの?」
ウルミナは知っている。
自分達の食文化は外とは違う事を。
それが受け入れられ難いことを。
それを姫様が食べたがるということは無いという事を。
「姫様知らないんじゃない?」
「知らないだろうな。
ただ、見聞を広める為に色々動いているらしくてな、
その一環なら少し変わった食事も食べてみたいらしい」
「・・・少し」
「姫様から兄と呼ばれている護衛の方は昆虫食に理解があると、
道案内をしたタユタナが言っておったぞ」
「カインズはなんて?」
「とにかく護衛の方を心配していたな。
到着直後からフラゲッタ討伐に出ていてな」
護衛なのに別行動とか、
主人がそこまで心配するとか、
料理は自分一人で用意するのかとか、
色々頭を巡ったが、結局決定事項なら作るだけだと思考放棄する。
「人数は?」
「儂ら4人と姫様方が5人とベイカーさんが来ておるよ」
「わかったわ。とにかく作ってくるわ!」
* * * * *
倒したフラゲッタは腹を開かれ、
臓物を失ったのにも関わらずしばらく生きていた。
これ以上は俺達も手を出す気になれず、
見失わない程度に注意をしつつフラゲッタが絶命するのを待った。
亡くなった直後にフラゲッタの額にハマっていた綺麗な石が外れ、
地面を転がった。
これが話に聞いていた魔石なのだろう。
フラゲッタの死体が消えないのも聞いていた通りだったので、
フラゲッタの長い牙を回収させてもらった。
毒が残っているかわからないけど、
クーの強化様にいくつか回収しておきたい。
『どうしましょうか?』
「あと1匹倒したいからもう2時間くらいうろうろしようか」
『先に洗いませんか?』
確かに頭から被った臓物並びにフラゲッタの血はかなり鼻にくる。
ただ、森の中で装備を外して海辺か河原で洗うのは流石に危険が過ぎる。
「魔法を試すかな・・・」
ポルタフォールを出る前にカティナに解析してもらった魔法。
単純故に短時間で解析、着手、実現に漕ぎ着けたらしいけど、
魔導書にするまでは間に合わなかった為、
魔法名だけじゃなく詠唱文を読む必要がある。
「《氷質を宿した大気を集め、我が願いを満たせ!・・・アクアボール》」
指で大きさを指定しながら詠唱を読み上げる。
その中心から徐々に水が溢れだして、
指定した大きさまで大きくなると発生は止まった。
出来上がった水塊に頭を突っ込んでは洗い、
腕を入れては洗いと、
体を少しずつ綺麗にしていく。
いずれは全自動洗濯出来る魔法をアクアに開発してもらおう。
『この死体はどうしますか?』
「一旦インベントリに・・・弾かれるか。
クーのインベントリに入れておいていいか?
カエル妖精の村に持って帰れば何かに利用するだろうし」
『血もほとんど抜けてますし大丈夫ですよ』
その後もしばらく歩き回り、休憩をし始めた所で2匹目と遭遇した。
大きさは下から3番目と出会ったから、
別に小さい順に送りこまれたとかではないらしい。
今度は反転世界を使わずに多重閻手だけで倒す事が出来た。
反転世界は魔力消費も大きいし、
どちらにしろ上からの攻撃が出来ないし、
何より周りに障害物が無ければ横方向の攻撃も・・・。
* * * * *
『ある~、ますたーがそろそろ戻るって~』
「あら、もう6匹討伐したんですか?」
『うんう、2ひきたおしたけどおもってたのとちがうって』
「姫様の護衛が帰ってくるんですか?」
アクアちゃんがお兄さんの帰りを教えてくれましたが、
どうも討伐しきらずに戻るみたいです。
お兄さんなら仕事を片付けて戻られるかとも思いましたが、
まぁ今日の昼過ぎから始めましたし、
戦果としては2匹というのもそんなものですかね。
「本当に1人でフラゲッタを相手に戦ってるんですね」
『ひとりじゃなくてふたりだよ~!』
「おぁ、クーちゃん・・・でしたか?
それでも、パーティじゃないのにもう2匹とは凄いですね」
「そうなの?」
「フラゲッタは弱点らしい弱点もなくて、
魔法も初級しか持っていない場合はかなり苦戦するんです。
剣も皮で受け止められるから、打撃武器か、
もしくは中級以上の攻撃魔法がないと厳しいんですよ」
お兄さんは中級の魔法をまだ持ってないし、
クーちゃんは攻撃に不向きと聞いてます。
打撃が得意なのはノイちゃんだったはずですから、
また別の方法で倒したんだと思いますけど。
「とりあえず、晩御飯は一緒に食べられそうですね」
「・・・姫様、本当にいいんですか?」
「もう!何度目も言ってるけど、
今回は王族としてではなく、
ただの客人として来ているんだから、
普段の物を頂くのは当然でしょ」
『すききらいはだめなの~』
「そういうことでは・・・」
何を気にしているのかわからないけど、
普段カエル妖精の方々が食べているのですから、
健康面に悪影響がでる物は食べていないと思っていたのですが、
違うんでしょうか?
何度目かの問答をしているうちに、
お兄さんが帰ってきたと言って、
アクアちゃんが家を飛び出していったのを追います。
接待役としてマリエルも一緒についてきました。
『おかえり~』
「ただいまアクア」
『ただいま戻りました』
私達が着いたのは、
陽が完全に落ちる前に戻ったお兄さんに、
アクアちゃんが飛び込んでいるところでした。
「おかえりなさい、お兄さん。
予想よりお早いおかえりですね」
「ただいま、アルシェ。
いやぁ、予想以上に敵が弱いのとクーの資質がね」
「まぁ、晩御飯もそろそろ出来ますし、
その時にでも話してくださいよ」
「わかった。
で、そちらの娘は?」
そういえば、
お兄さんとマリエルは初顔合わせでしたね。
マリエルの背を押し前に出てもらいます。
「彼女が前に話した幼馴染のマリエルです」
「カエル妖精のマリエルです。
村長の孫にあたりますが姫様と同い年なので敬語などはいりません」
「ん、よろしくマリエル。
俺は水無月宗八、この娘がクーデルカだ」
『よろしくお願いします』
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
何か肩透かしを食らったかのような挨拶を交え、
私達はメリーに呼ばれ、夕餉を頂きに場所を移動を開始します。
* * * * *
メリーに呼ばれ、
晩御飯を食べる場所へ移動を初めてすぐに、
マリエルが俺に声を掛けてきた。
「水無月さん、昆虫食に理解があると聞いてますが?」
「食べる機会は少ないけどね。
一応、知識としては色んな物があると知ってはいるよ」
「姫様はそこを理解していません」
「え?アルシェがいるならそこは避けるんじゃないのか?」
「いえ、姫様は普段の食事を御所望されました」
頭を抱えた。
彼女達は気持ち悪いとかの気持ちが芽吹く前から口にしていただろうが、
アルシェはそんな物を食べた事はおろか目にした事も無いかもしれない。
「まずいですよね?
あ、味は美味しいですよ!」
「いやわかってるから。
状況がってことでしょ?」
メリーが晩御飯を呼んだということは、
彼女も食事の支度を手伝ったということで、
特に問題はクリアされたと判断が下されていれば、
食卓に虫が並ぶ事も可能だろう。
「行ってから決めようか」
「水無月さん・・・」
「大丈夫だよ、いざとなれば目隠しをして食べさせればいいから」
「私は水無月さんと姫様の関係を護衛としてしか聞いてませんが、
そんな適当で大丈夫なんですか?
この村でも姫様とは別行動だったようですし」
「危険が迫っても何も出来ずにって事にはならないし、
アルシェに対処出来ない敵が出た場合は俺に連絡してくるから。
今回の訪問について何か聞いてる?」
「王族としてではなく、
アルカンシェとして来ていると」
「じゃあそれが答えだよ。
実際は君に会いたかったってのもあるんだよ」
「え?」
「話には聞いてたからね。
訪問出来そうであれば遊びに行こうと話してたんだよ」
「そ、そうなんですね。
ま、まぁ、今は晩御飯もありますし、
話はここまでとしましょう」
顔を赤らめて嬉しそうに、
そそくさと俺のそばをあとにする。
悪い子ではなさそうだな。
『お父さま、蛇はどうしましょうか?』
「カインズ氏か村長に伝えてからにしよう」
『わかりました』
* * * * *
食卓に着くと、
既にサラダや肉料理のような何か、
その他諸々の料理が並んでいた。
「手洗いは外の井戸でお願いします」
「わかりました」
料理を持って現れた女性から洗い場を伝えられる。
初めて見たけど村長やカインズ氏の身内かな?
手洗いを皆で済ませて食卓に座る。
傍に寄ってきたメリーに確認をとる。
「(虫料理が出るらしいが、アルシェは食べられそうか?)」
「(流石に見た目がヤバめの物は控えてもらいましたが、
家庭の味のような虫はそのままにしています)」
「(食べ方のレクチャーは?)」
メリー:bビシッ!
「(隣に座って食べやすいようにな)」
「(かしこまりました)」
俺の側をそのまま通り過ぎ、
アルシェが座る席の横につく。
全員が着席すると結構な人数になった。
俺(アクアも)、アルシェ、メリー、ベイカー氏
マリエル、カインズ氏、女性、村長。
ベイカー氏は食事のあとに帰るらしいが、
俺達は数日泊まり込む予定だ。
「では、神に感謝を」
村長の一声に皆が両の手を合わせて、
祈りを捧げる。
これは俺たちで言ういただきますと同じ意味のようだ。
黙祷が終われば各々食事を始める。
各皿に料理が載せられ、バイキング方式で食べたいものを取るらしい。
隣に座るベイカー氏の手元を見ながら虫?の何かをもいで口に運ぶ。
ふむ、可だな!
味付けも絶妙だが、食感も悪くない!
「で、水無月さんよ。
フラゲッタの討伐はどんなもんだい?」
「ひとまず、2匹倒しましたよ。
課題だらけの討伐でしたがね(苦笑)」
カインズ氏への回答を口にしながら、
アクアの口に小さい食事を放り込む。
「へぇ、もう2匹なんてすごいですねぇ。
あ、私は村長の娘でカインズの妻のウルミナと申します。
話は聞いてますよ、水無月さん」
「よろしくお願いします。
本当はもう少し上手く立ち回れると思っていたんですがね」
「魔石はあるかい?」
「こちらに」
インベントリから取り出した魔石は綺麗な水色をしていた。
頭から外れた時は透明度の高い水晶のように見えたが、
これはどういう事だろう?
「ほうほう」
「わぁ、綺麗な色ですね」
「本当に倒したんだ・・・」
村長はどこか感心したような声を出し、
アルシェは感想、マリエルには疑われていたらしい。
カインズ氏は受け取った魔石をしばらく色んな角度から見たあと。
「よし、これなら問題ないだろ!
この調子であと4匹頼むわ!」
「傷もないし、結構な高純度ね」
夫婦揃って高評価のようだ。
色付きになるのは周囲にある、
水魔力を吸収する為であり、
色によって品質の善し悪しがわかるとの事。
「死体も一応確保してますが、
何かに使われるのであればお渡ししますよ」
「あ~、どうだ?」
「どこまで揃ってるかによるかしら?」
「お腹は裂きましたが、臓物以外は揃ってますね」
「なら、頂きます。
報酬上乗せでいいですか?」
「いや、特に苦労したわけではないので、
追加はいらないですよ」
「あら、無欲ね」
「養う先があるなら貰っといて損は無いと思うぞ」
「何かに使えたらと思って回収しただけですから、
気にしないでください」
とりあえず今は保留と無理矢理されて、
食事を再開する。
メリーの皿を見ると色んな何かが盛られていた。
殻とか棘とか取っていった結果だと思うけど、
元はどんな生き物だったのだろうか。
何の問題もなく食事も終わり、
メリーとウルミナさんが皿洗いに行ったので、
何があったのか話すことになった。
「・・・って訳だな」
「攻撃力不足ですか」
「でも、今回はなんとかなったのでしょう?」
「この先の個体によっては微妙な足掻きかと」
「なるほどな。
水無月さんはその子猫の資質は別にあると考えているのはわかった」
そう。
クーは闇属性だからだけではなく、
生来の性格が補助向きなのだ。
「精霊は契約者の意を組んで進化するらしいが、
この娘達はそこも少し違うみたいだ。
クーはアクアを姉と慕っていつも一歩下がった視点を持っている。
それに加えて俺達の力になりたいとも強く思っているから」
「攻撃役のアクアちゃんがいるから、
クーちゃんはその他の助けになりたいと思っている?」
「まぁ、これは見てもらった方が早いかな?
丁度メリー達も終わったみたいだし。
ここの近くで広い場所はありますか?」
「少し離れた所にあるぞ」
「じゃあ、そこに案内してもらえますか?」
「何の話?」
メリーとウルミナさんが皿洗いから戻り、
話に加わってくる。
先の説明をして何故か村長以外のみんなで行く事になった。
案内された場所は確かに広場になっており、
周囲は天然の森に囲まれていた。
「いい感じだな。
今から天狗とアクアの勇者の剣でアルシェに攻撃するから、
それを捌くか回避をしてくれ」
「はぁ、私なんですね」
「メリーでもいいけど?」
「無理です!」
「最近練習してるやつ使っていいから」
「それなら何とか・・・。
一応確認しますが、手加減は?」
「無しでやるからギブアップは早めにな」
「わかりました」
真剣な顔付きになったアルシェと見物人に加わったメリーに、
目を瞑ってもらいクーの魔法を掛けさせる。
クーを持ち上げている間に2人の瞼にポンポンと肉球が触れる。
うっすらと塗られた《猫の秘薬》と名付けられた魔法は、
付与されてから10分間夜目が効くようになる。
「だから今から10分間は光を見ないようにな」
「わかりました」
「かしこまりました」
ついでにベイカー氏にも同じ処置を行う。
「おぉ、これは面白いですね」
「あの、私達にもお願いします」
「あれ?カエルって夜目が効くのかと思ってたけど違うのか」
「耳で方向を理解するのであって目は見えねぇな」
マリエルとカインズ氏の指摘を受けて、
結局全員に処置を行った。
『闇纏い』
『氷纏い』
「『シンクロ!』」
「『闇精霊纏い!』」
「じゃあ今から俺達は森に溶け込む。
1分後に攻撃を開始するから頑張って避けろ、
以上だ!」
「ギブアップはありなんですね?」
「あぁ、その代わり勇者の剣を全て水に変えるからびしょ濡れになるがな!」
「え?」
「風呂に入る前で良かったな!
じゃあ始めるぞ。俺達の位置を補足できれば対処出来るかもしれないぞ」
* * * * *
そう言い残してお兄さんは暗闇の中に閻手を伸ばして飛んでいきました。
多分木を掴んで収縮からの跳躍なんだと思いますけど、
暗闇でも見えるようになった目にはお兄さんが木より高い位置まで飛んでいったのが見えてます。
そのまま別の木に再び閻手を伸ばして、
今度こそ姿を森の中へと潜り込ませました。
移動速度は・・・速い。
足音や木の軋む音が周囲の森を縦横無尽に駆け抜けていきます。
メリー達の方に目を向ければ全員が音や気配を頼りに姿を見ようとキョロキョロしていました。
「《アイシクルチャージ》シフト:輪舞曲(ロンド)」
履いている靴が氷の靴へと変わり、
足元の温度がどんどん下がっていく。
新しく構築した脚捌き用の魔法は、
足を地面に接したまま動作を素早く行うための魔法で、
踏ん張る時は前へ加速したり、
ダメージ軽減の為に後ろへ下がったり、
回避に集中する時は体の挙動のキレを上げてくれる。
もうお兄さんの動きがわからない。
足音も聞こえない。
気配もほとんど消えて位置の特定もわからない。
そろそろ1分。
突然、
頭上に勇者の剣が発生した。
それを認識した直後に別方向に同じく、
勇者の剣が発生する。
2つ目を認識したと思えば1つ目がこちらに向けて動き始めるのと同時に3つ目、さらに4つ目とどんどんと増えていく。
右足を滑らせ下げるとそこに勇者の剣が刺さり、
続けて左足を下げると2つ目が。
襲いかかる勇者の剣は増え続け、
ひとつを回避する間に次に来る2つを意識し続けないと躱せない密度で魔法が撃たれ続ける。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
船着き場もしっかり作られており、
乗ってきた舟の他に小型の舟が1つと中型の舟が1つ、
合計3つがカエル妖精の舟らしい。
商売を生業にしているのだから、
もう少し大きい船でもいいんじゃないだろうか。
「商人は自前の船で買取に来ますから、
こっちの舟はそこまで大きさも要らないんです」
そう言われれば納得してしまった。
息抜きに町に出る時に中型などを出すのかもしれない。
外から見ると無人島でも、
島に入ると意外と文化は築かれているもので。
人の手の入っていないように見えていたこの島も、
人に近い妖精族が暮らしていることもあり、
道も舗装はされていないが長年踏み固められて、
歩きやすい道になっていた。
『ますたー!なんかわくわくだね~!』
「大自然が残っているからそこいらじゃ見ない植物も多いな」
「小さい虫も多いのですが、
人の通る道には近づけないようにしてますから」
「助かります」
「メリーは虫が苦手なんですよ」
『生き物はかなりいるみたいですよ』
ワイワイと話しながら歩く事10分程度でカエル妖精の村に辿り着いた。
もっと奥にいると思っていたけれど、
結構海寄りに村を作っているんだな。
「ようこそ、カエル妖精の島へ!」
ハライク氏が振り返っりながら両手を広げ、
歓迎の言葉で迎え入れてくれた。
「まずは長老の家に案内しますね。
水無月さんと子猫ちゃんは息子さんの所で話を聞かれてください。
タユタナ!この方が依頼を受けたから案内してくれ」
村を歩きながら説明をするハライク氏に呼ばれ、
遠巻き連中の1人が慌てて飛び出して来た。
「ハライクさん、カインズさんの所でいいんですよね?」
「そうだ。
水無月さん、この子はタユタナと言いまして私の跡を継いで、
渡しの仕事をする予定の娘です」
紹介されたタユタナという少女は、
森の中の村出身なのに日に焼けた健康的な娘であった。
年は20歳に届かないくらいかな?
向き直ったタユタナがこちらへ挨拶をする。
「タユタナとお呼びください。
ここからは私の案内で依頼を出したカインズさんの所へ向かいます」
「わかりました。
俺とクーはここで分かれるらしいから、
そちらは楽しんでくるといい」
「ありがとうございます。
お兄さんとクーちゃんも頑張ってくださいね」
「お気を付けて」
「いざとなれば影から引き上げますので」
『くー、きをつけてね』
「水無月殿、よろしくお願いします」
各々に見送られて俺とクーは、
タユタナの案内でカインズという人の元へと向かう。
アルシェ達は観光だったり息抜きの為にカエル妖精の村で待機となる。
* * * * *
「タユタナ、この島はどのくらい君達の仕事場になるんだ?」
村を過ぎてさらに森の奥へと進んでいく道中に、
タユタナと少し話をしようと思い話しかけた。
「私達の仕事は主に虫や植物の栽培と、
沼にしかならない薬草の栽培の2つです。
沼もそれなりに大きいので大体3割です」
「商人に売るのは沼の薬草だけなのか?」
「いえ、時々虫も売りますが、
植物は私達の食料として生産しています」
『虫も食べるのですか?』
俺の質問には軽々と答えていたタユタナだが、
クーの質問には「!?」とビックリしたように後ろを振り向く。
「あ、貴女が喋ったの!?」
『はい、クーは精霊ですから』
何でもないことのようにクーは答えるが、
妖精族のタユタナにしてみれば何でもないことではなかった。
「水無月さんが契約しているんですか?」
「そうだよ。この娘とアクアっていう村に残った水精霊とね」
「私は水精霊しか見た事がなかったので、
この子猫が精霊とは露にも思いませんでした」
「闇精霊だから尚更見ないと思うよ」
何かに感心したようにクーを凝視する。
「私達妖精は人と契約出来ませんから、
契約という物に少し憧れがあるんですよ」
『契約と言っても切磋琢磨する程度の事だと認識してます』
「そうだな、俺は1人だと戦闘力低いし、
クーたちは魔法を造り上げる事が出来ないし。
協力する関係だから主従という感じではないよ」
「はぁ、お話ありがとうございました」
何かに納得したのか憑き物が落ちたのか知らないが、
興奮状態から落ち着いたタユタナは、
改めて足を進め始める。
「さっきの質問ですけど、虫も食べますよ。
島は麦などが育つ地質をしていないので、
貴重なタンパク質としてですが・・・。
気持ち悪いですよね?」
「いや、俺も虫を食べた事はあるし、
虫料理もいくつか知っているから気持ち悪いとは思わないよ」
「へぇ、外の人も食べるんですね」
「一般的な人は食べないからな。
みんなが知ってるみんなが食べてると思うなよ」
「はぁーい」
話を繰り返すうちに少し言葉遣いがフランクになってきたな。
そこからは昆虫食の話題で盛り上がった。
イナゴの佃煮に始まり、へご料理、
蝉の唐揚げやコオロギの炊き込みご飯や肉まん。
見た目さえ気にせずに食べることが出来れば、
確かに自然の中で食べるようになるのは当たり前だよな。
分かれてから結構奥まった所まで進んだ。
開けた所に出たと思ったが、視界一面に広がる沼に少々面食らってしまった。
この広さは想像していなかった。
島の3割というのが点々と存在する沼の総面積の事だと考えていたが、
実際は超広大な1つの沼が広がるだけであった。
「ここで働いているのか・・・迷子になりそうだ・・・」
「新米は1年働いてやっと迷わなくなるって聞きましたよ。
男は沼で働き、女は村の中で虫や菜園の世話が仕事になります。
私みたいなイレギュラーはありますけどね」
『人が見当たらないですね』
クーの言う通りで、
本当に沼しか目に入らないのだ。
「多分潜っているんだと思いますよ。
この位の時間に到着する事は伺ってたので」
キョロキョロとしながらタユタナが説明してくれる。
そこ言葉通りに沼の一部がせり上がり始め、
中から何かが出てくる。
泥だらけだから分かりづらいが人の形をしていない。
「あ、いたいた!カインズさーん!連れてきましたよぉー!」
泥の塊はタユタナの声に反応してこちらへ進み始める。
沼に体の殆どが埋まっていて顔が出ている状態なんだろうか。
カインズ氏が動くと何故か泥は体から滑り落ちるように沼の中へと落ちていき、
カインズ氏の姿を顕にした。
『あ、カエルだ』
「カエル!?」
クーの一言は俺の頭を混乱のドツボに陥れた。
カエルというのは小指サイズからモアイサイズまで、
様々にいるのは知っているが、
あの形!あの目!あの足!全てが、
俺の知っているカエルじゃない!!
まず体と足がカエルじゃない!
完全に星の〇ービィ!あの足で大ジャンプは無理だろうが!
泥が落ちるということは、
カエルらしく表面に粘膜か何かがあるのかもしれない。
だがだがしかし、だがしかし!
もっとも極まっているのが目なのだ。
カー〇ィにダークソウルに出るバジリスクの目が付いたような見た目・・・
2次元なら許される可愛さがあったかも知れないが、
3次元で見るとなんとエグい生き物だろうか・・・
「タユタナか。
では、そちらが依頼を受けた冒険者かい?」
「・・・」
「あれ?水無月さん?」
『お父さまは旅立たれました。
話はクーが聞きますので問題ありません』
「え?なんだ?どういうことだ?」
しばらく現実逃避していたが、
なんとか自分に折り合いをつけてカインズ氏に向き直った。
「失礼、初めてカエル妖精を見たもので・・・。
想像とかけ離れていた為ちょっと整理していました」
「任せて大丈夫か?
ただでさえ人数も少ないし、
ベイカーさんの推薦があったとはいえ不安だぜ」
兄貴肌な40歳くらいのおっちゃんボイスで喋るカエル。
話半分に考えていたのはケロケロちゃいむだと思えばなんとか直視出来るかもだった。
* * * * *
「長老!ベイカーさんとアスペラルダの姫様一行をお連れしましたよ!」
ハライクさんの後について村を横断している間に幾人かの塊の若い娘さんや、
おば様達に遠巻きに見られながら辿り着いた長老様の家は自分の記憶にもある建物でした。
「はいはーい!お待たせ致しました!
ようこそいらっしゃいました姫様ご一行!」
「マリエル!」
「わぁ!本当に姫様なんですね!
3年ぶりですねぇ、本当にようこそいらっしゃいました」
出迎えてくれたのは昔一緒に遊んでくれた幼馴染?になるんでしょうか?
視察でお母様に着いて来た時にずっと遊んでいたカエル妖精の娘、
マリエルでした!
「今回は視察じゃないと聞いてますが、
少人数で動くなんて姫様迂闊では?」
「いまは国を回っててね、
アクアポッツォを抜けると風の国に入る予定なの」
「えっ!?本当に何をしてるんですかっ!?」
言葉遣いには距離を感じますが、
心配や言葉尻から普段は周りに居る者よりも近くに感じられる。
やっぱり友達って良いものよね!
「聞いているんですかっ!?」
「聞こえてるわよ。護衛に頼りになる人がいるから大丈夫よ」
「護衛?そちらのメイドさん?それともそちらのおチビさん?」
「今はフラゲッタ退治に行ってるわ」
「・・・護衛って仕事を理解してます?」
* * * * *
フラゲッタはここ最近、
沼や時には村近くで見られるようになり、
まだ被害らしい被害はないとの事。
姿を見た村人からの聴取で大きさや模様が違う個体が6体いる事が判明し、
好き放題に動き回らず様子見を繰り返す様相から、
リーダーとなる個体がいると推察したという。
「じゃあ7匹目はやっぱり未確定なんですね」
「申し訳ないがその通りだ。
念の為6匹の特徴を記した物を用意した」
「ありがとうございます」
何かの皮に描かれた蛇は確かに模様も大きさもまばらであった。
これがあれば実はもっと居ました!となっても、
新個体だと判断が出来るようになる。
「フラゲッタの魔石は精霊の進化の他にも、
使い道があるから全滅させる訳にもいかない。
今回は卵を既に確保しているから遠慮なく倒してくれ」
「モンスターはリポップするものじゃないんですか?」
「どちらかと言えば動物寄りの魔物の部類ですから」
『死体は消えないのですか?』
「そうですね、死体も虫が分解するまで残り続けます。
必要なら皮を剥いでもいいですよ?」
「皮はいらないかな・・・」
どちらかと言えば牙とかなら欲しいと思う。
クーのデバフ効果は今のところ、
煙幕による目くらまししか機能していない。
牙に毒の効果が残るのであれば、
時間がある時にクーを毒にして覚えてもらう事も可能だろう。
もしかしたらゴブリンなどの地上にいるモンスターは、
全て魔物の部類で、生きているのかな?
流石にキュクロプスはないだろうけどね。
「ここから先が奴らのテリトリーになる。
俺達はここまでだが、任せて大丈夫か?」
「まぁ、なんとかなるでしょ。
俺一人じゃないし」
『何とかなりますよ。
お父さまが一緒ですし』
「仲良しですね!
討伐が完了しなくても夕方になる前に戻ってください。
この島は自然が多いので夜になるのも早いですから」
「どちらかと言えば夜の方がいいんだけどな」
「その辺は任せる。
連絡方法はあるかい?」
村の仲間になら連絡がつくことを説明。
2人に見送られて鬱蒼と茂る森へと進む。
木も大きく育ち影が多い事でクーも動きやすいが、
根っ子が盛り上がったりしているので歩きづらかった。
「それに暑いしな」
『熱帯林というものですか?』
「蛇も居るし、そうなんだろうな」
契約精霊は俺と繋がりがある為か、
時々俺しか知らないような知識を口にする事がある。
もちろんこの世界に熱帯林なんて単語はない。
「サーチで分かるかな?」
『小さい生き物が多いので特定は難しいかと』
「サーチ精度を下げたらどうだ?蛇は他の生き物に比べて大きいからさ」
『なるほど・・・。
うーん、こうかな?
・・・ひとまず小さい生き物は殆ど感じない程度にしました』
「よし、このまま進んでみよう」
* * * * *
しばらく進んだ先で倒れた木を発見し、
いまはそれに腰をかけて休憩中だ。
「まぁ、簡単に会えないわな」
『島の7割の何処かですからね』
クーを膝の上に乗せてお腹や頭を撫でまくる。
周りは全て森だし、とにかく蒸し暑い。
討伐依頼なので遭難している訳では無いが、
元の世界ならこの状況は遭難以外の何物でもないだろう。
『水精霊がいるなら聞いてみては?』
「残念ながら見えはするけど話せないんだ」
『お姉さまみたいに身振り手振りで伝えたり』
「アクアだからこそだと思うよ。
天然でするからクーの時みたいに伝わるんだよ」
『なるほど・・・っ!?』
急に立ち上がるクーの警戒度から俺も立ち上がり周囲を警戒する。
「蛇か?」
『長い生き物で他に比べて大きいので、おそらく。
あちらの方角です』
カットラスをインベントリから出して、
クーの示した方角に集中すると、
足音も無いのに下に落ちている枝が折れ、
草を踏み分ける音が聞こえてくる。
さらにインベントリから蛇メモを取り出ししゃがみこむ。
「クー、どれだ?」
『長さからこちらかと』
6体のうち一番小さい蛇を指す。
単純に小さく弱いからパシらされたか、
それとも小回りが効くから偵察に来たのか。
『煙幕張りますか?』
「いや、蛇は体温で獲物を見るから意味がない。
こちらも小手調べなんだ、正面から行こう」
『はい!・・・「シンクロ」』
こちらがシンクロをしたタイミングで、
薮から飛び出して来た蛇頭に合わせてカットラスで斬り込む。
大きく開いた口の上部には一際長い牙があり、
横を抜ける間際に見た牙からは何かが滴り落ちていた。
牙とカットラスがぶつかり、
蛇頭は一旦後ろに仰け反ったものの、
筋肉にものを言わせて再び噛みついてきた。
蛇頭は俺の頭と同じ程度の大きさで、
口を開くと当然パクリと行かれるレベルだった。
先程と同じ様に牙へ打ち込むが、
今度はきちんとパリィをして右へと流す。
そのままの勢いで首元を斬ってみたが、
流石に薄い傷が付く程度で肉まで辿り着けなさそうだ。
明らかにカットラスの攻撃力が足りていない。
というより、斬るなら柔らかい腹の部分か、
口の端の膜が薄い部分から斬り開く必要がある。
改めてフラゲッタの全体像を視界に捉えた。
「蛇よりアナコンダだけど、アナコンダサイズのつちのこじゃないか・・・」
フラゲッタの見た目を描き出したメモを初めて見た時は、
古代の壁画かよ!とか思ったが、
実物を見ると確かに絵と同じ程度の長さで正しかった。
「そろそろ反撃するぞ」
『はい!』
イメージは銀世界の闇魔法バージョン。
魔力を込めながら縦向きの拳を前に出しながらイメージを固めていく。
銀世界であれなら魔力はかなり消費するが、
こちらの戦場に引きずり込まないと攻撃方向が下だけになってしまう。
「≪反転世界≫」
『≪リバーサルワールド≫』
拳から黒い雫が地面へと堕ちていき、
銀世界と同様にクラウンを発生させながら地面へと染み渡り、
視界に映る世界は闇に包まれる。
「流石に空間は無理だな」
『申し訳ありません』
空は燦々と光降り注ぐ世界のままだが、
地面とそれに繋がる木々や植物全ての表面は黒に変化していた。
実際はそこまで広いわけではない。
フラゲッタも環境の変化に驚いたような素振りを見せたが、
すぐに俺達と反対方向へと逃げる動きを始める。
当然逃がすつもりはない。
「≪多重閻手≫」
『≪マルチプルダーク!≫』
地面を這うフラゲッタへ攻撃を当てる為には低い視点での攻撃が必要であり、
普通の閻手は刺突特化なので威力が薄い。
であれば、必要なのは打撃力!
通常の閻手を幾重にも重ねて四角い棒へと精製する。
射出地点は木の幹下方から、目標はフラゲッタの側頭部。
発射後どんどんと伸びていき、逃げることに必死だったフラゲッタは気付かず、
見事に頭を叩くことに成功した。
フラゲッタが目を白黒させているうちに距離を詰める。
「クー」
『≪ダークエンチャント≫シフト:オブシディアン!』
俺の持つカットラスの刀身に黒い煙がまとわりつき、
そのまま渦巻き始め、徐々に刀身を黒く添え上げていく。
気体型のエンチャントは今のところまだ効果がない為、
今回は攻撃力を上げる固体型エンチャントをしてもらう。
『≪マルチプルダーク!≫』
今度は倒れ込んでいるフラゲッタへ下から同じく多重閻手で打ち上げる。
小さい個体とはいえ大きい蛇は重い。
頭部は完全に上向きだが、体が打ちあがった直後に落ち始める。
「『≪螺旋閻手(らせんえんじゅ)!≫』」
クーが自由に使える2本の閻手を重ね合わせ渦を巻き、
薄い線での刺突ではなく貫通を求めた点の刺突を繰り出し、
フラゲッタの喉元へと突き刺さり、そのまま背後の大木へとその巨体を縫いつけた。
『お父さま、あまり持ちません!』
「わかった!」
小さいクーがフラゲッタを縫い留めておくには、
あまりに大きさに差があり過ぎて長くは持たないらしい。
魔法にも筋力って関わるんだろうか?
クーの言葉を受けてすぐさま駆け出しタイミングを見計らって、
螺旋閻手の刺さる部分を狙って踏み切り飛び掛る。
動けず死に掛けのフラゲッタへ止めを刺す為の刺突は、
すんなりと柔らかい裏側を刺し貫き、
落下に合わせてお腹を切り開いていく。
ドッパァ・・・。
尻尾の先まで切り開いた俺に掛かったのは、
フラゲッタの臓物であった。
* * * * *
陽も傾き、村の女性達が中身の見えない籠や野菜の乗ったザルを持って村の奥から戻ってきた。
「長老、お客様ですか?」
「おぉ、ウルミナ。おかえり。
今日はアルカンシェ様とその一行がお見えになっているよ」
「姫様が来ているの?なんで伝えておいてくれないのよお父さん!」
長老の実の娘はウルミナであり、
カインズは入婿という立場であった。
「視察や仕事で来られたわけではないようだよ。
食事も特別な物を用意しないで普段の物を食べたいそうだ」
「普段の物?」
ウルミナは持ち帰ってきた野菜類と、
中に入るものを逃がさないような造りの籠を見やる。
いままでは王や王妃と一緒に来ていたため、
普通の料理を提供していたが、
今回は普段の食事を指定された。
「本当に大丈夫なの?」
ウルミナは知っている。
自分達の食文化は外とは違う事を。
それが受け入れられ難いことを。
それを姫様が食べたがるということは無いという事を。
「姫様知らないんじゃない?」
「知らないだろうな。
ただ、見聞を広める為に色々動いているらしくてな、
その一環なら少し変わった食事も食べてみたいらしい」
「・・・少し」
「姫様から兄と呼ばれている護衛の方は昆虫食に理解があると、
道案内をしたタユタナが言っておったぞ」
「カインズはなんて?」
「とにかく護衛の方を心配していたな。
到着直後からフラゲッタ討伐に出ていてな」
護衛なのに別行動とか、
主人がそこまで心配するとか、
料理は自分一人で用意するのかとか、
色々頭を巡ったが、結局決定事項なら作るだけだと思考放棄する。
「人数は?」
「儂ら4人と姫様方が5人とベイカーさんが来ておるよ」
「わかったわ。とにかく作ってくるわ!」
* * * * *
倒したフラゲッタは腹を開かれ、
臓物を失ったのにも関わらずしばらく生きていた。
これ以上は俺達も手を出す気になれず、
見失わない程度に注意をしつつフラゲッタが絶命するのを待った。
亡くなった直後にフラゲッタの額にハマっていた綺麗な石が外れ、
地面を転がった。
これが話に聞いていた魔石なのだろう。
フラゲッタの死体が消えないのも聞いていた通りだったので、
フラゲッタの長い牙を回収させてもらった。
毒が残っているかわからないけど、
クーの強化様にいくつか回収しておきたい。
『どうしましょうか?』
「あと1匹倒したいからもう2時間くらいうろうろしようか」
『先に洗いませんか?』
確かに頭から被った臓物並びにフラゲッタの血はかなり鼻にくる。
ただ、森の中で装備を外して海辺か河原で洗うのは流石に危険が過ぎる。
「魔法を試すかな・・・」
ポルタフォールを出る前にカティナに解析してもらった魔法。
単純故に短時間で解析、着手、実現に漕ぎ着けたらしいけど、
魔導書にするまでは間に合わなかった為、
魔法名だけじゃなく詠唱文を読む必要がある。
「《氷質を宿した大気を集め、我が願いを満たせ!・・・アクアボール》」
指で大きさを指定しながら詠唱を読み上げる。
その中心から徐々に水が溢れだして、
指定した大きさまで大きくなると発生は止まった。
出来上がった水塊に頭を突っ込んでは洗い、
腕を入れては洗いと、
体を少しずつ綺麗にしていく。
いずれは全自動洗濯出来る魔法をアクアに開発してもらおう。
『この死体はどうしますか?』
「一旦インベントリに・・・弾かれるか。
クーのインベントリに入れておいていいか?
カエル妖精の村に持って帰れば何かに利用するだろうし」
『血もほとんど抜けてますし大丈夫ですよ』
その後もしばらく歩き回り、休憩をし始めた所で2匹目と遭遇した。
大きさは下から3番目と出会ったから、
別に小さい順に送りこまれたとかではないらしい。
今度は反転世界を使わずに多重閻手だけで倒す事が出来た。
反転世界は魔力消費も大きいし、
どちらにしろ上からの攻撃が出来ないし、
何より周りに障害物が無ければ横方向の攻撃も・・・。
* * * * *
『ある~、ますたーがそろそろ戻るって~』
「あら、もう6匹討伐したんですか?」
『うんう、2ひきたおしたけどおもってたのとちがうって』
「姫様の護衛が帰ってくるんですか?」
アクアちゃんがお兄さんの帰りを教えてくれましたが、
どうも討伐しきらずに戻るみたいです。
お兄さんなら仕事を片付けて戻られるかとも思いましたが、
まぁ今日の昼過ぎから始めましたし、
戦果としては2匹というのもそんなものですかね。
「本当に1人でフラゲッタを相手に戦ってるんですね」
『ひとりじゃなくてふたりだよ~!』
「おぁ、クーちゃん・・・でしたか?
それでも、パーティじゃないのにもう2匹とは凄いですね」
「そうなの?」
「フラゲッタは弱点らしい弱点もなくて、
魔法も初級しか持っていない場合はかなり苦戦するんです。
剣も皮で受け止められるから、打撃武器か、
もしくは中級以上の攻撃魔法がないと厳しいんですよ」
お兄さんは中級の魔法をまだ持ってないし、
クーちゃんは攻撃に不向きと聞いてます。
打撃が得意なのはノイちゃんだったはずですから、
また別の方法で倒したんだと思いますけど。
「とりあえず、晩御飯は一緒に食べられそうですね」
「・・・姫様、本当にいいんですか?」
「もう!何度目も言ってるけど、
今回は王族としてではなく、
ただの客人として来ているんだから、
普段の物を頂くのは当然でしょ」
『すききらいはだめなの~』
「そういうことでは・・・」
何を気にしているのかわからないけど、
普段カエル妖精の方々が食べているのですから、
健康面に悪影響がでる物は食べていないと思っていたのですが、
違うんでしょうか?
何度目かの問答をしているうちに、
お兄さんが帰ってきたと言って、
アクアちゃんが家を飛び出していったのを追います。
接待役としてマリエルも一緒についてきました。
『おかえり~』
「ただいまアクア」
『ただいま戻りました』
私達が着いたのは、
陽が完全に落ちる前に戻ったお兄さんに、
アクアちゃんが飛び込んでいるところでした。
「おかえりなさい、お兄さん。
予想よりお早いおかえりですね」
「ただいま、アルシェ。
いやぁ、予想以上に敵が弱いのとクーの資質がね」
「まぁ、晩御飯もそろそろ出来ますし、
その時にでも話してくださいよ」
「わかった。
で、そちらの娘は?」
そういえば、
お兄さんとマリエルは初顔合わせでしたね。
マリエルの背を押し前に出てもらいます。
「彼女が前に話した幼馴染のマリエルです」
「カエル妖精のマリエルです。
村長の孫にあたりますが姫様と同い年なので敬語などはいりません」
「ん、よろしくマリエル。
俺は水無月宗八、この娘がクーデルカだ」
『よろしくお願いします』
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
何か肩透かしを食らったかのような挨拶を交え、
私達はメリーに呼ばれ、夕餉を頂きに場所を移動を開始します。
* * * * *
メリーに呼ばれ、
晩御飯を食べる場所へ移動を初めてすぐに、
マリエルが俺に声を掛けてきた。
「水無月さん、昆虫食に理解があると聞いてますが?」
「食べる機会は少ないけどね。
一応、知識としては色んな物があると知ってはいるよ」
「姫様はそこを理解していません」
「え?アルシェがいるならそこは避けるんじゃないのか?」
「いえ、姫様は普段の食事を御所望されました」
頭を抱えた。
彼女達は気持ち悪いとかの気持ちが芽吹く前から口にしていただろうが、
アルシェはそんな物を食べた事はおろか目にした事も無いかもしれない。
「まずいですよね?
あ、味は美味しいですよ!」
「いやわかってるから。
状況がってことでしょ?」
メリーが晩御飯を呼んだということは、
彼女も食事の支度を手伝ったということで、
特に問題はクリアされたと判断が下されていれば、
食卓に虫が並ぶ事も可能だろう。
「行ってから決めようか」
「水無月さん・・・」
「大丈夫だよ、いざとなれば目隠しをして食べさせればいいから」
「私は水無月さんと姫様の関係を護衛としてしか聞いてませんが、
そんな適当で大丈夫なんですか?
この村でも姫様とは別行動だったようですし」
「危険が迫っても何も出来ずにって事にはならないし、
アルシェに対処出来ない敵が出た場合は俺に連絡してくるから。
今回の訪問について何か聞いてる?」
「王族としてではなく、
アルカンシェとして来ていると」
「じゃあそれが答えだよ。
実際は君に会いたかったってのもあるんだよ」
「え?」
「話には聞いてたからね。
訪問出来そうであれば遊びに行こうと話してたんだよ」
「そ、そうなんですね。
ま、まぁ、今は晩御飯もありますし、
話はここまでとしましょう」
顔を赤らめて嬉しそうに、
そそくさと俺のそばをあとにする。
悪い子ではなさそうだな。
『お父さま、蛇はどうしましょうか?』
「カインズ氏か村長に伝えてからにしよう」
『わかりました』
* * * * *
食卓に着くと、
既にサラダや肉料理のような何か、
その他諸々の料理が並んでいた。
「手洗いは外の井戸でお願いします」
「わかりました」
料理を持って現れた女性から洗い場を伝えられる。
初めて見たけど村長やカインズ氏の身内かな?
手洗いを皆で済ませて食卓に座る。
傍に寄ってきたメリーに確認をとる。
「(虫料理が出るらしいが、アルシェは食べられそうか?)」
「(流石に見た目がヤバめの物は控えてもらいましたが、
家庭の味のような虫はそのままにしています)」
「(食べ方のレクチャーは?)」
メリー:bビシッ!
「(隣に座って食べやすいようにな)」
「(かしこまりました)」
俺の側をそのまま通り過ぎ、
アルシェが座る席の横につく。
全員が着席すると結構な人数になった。
俺(アクアも)、アルシェ、メリー、ベイカー氏
マリエル、カインズ氏、女性、村長。
ベイカー氏は食事のあとに帰るらしいが、
俺達は数日泊まり込む予定だ。
「では、神に感謝を」
村長の一声に皆が両の手を合わせて、
祈りを捧げる。
これは俺たちで言ういただきますと同じ意味のようだ。
黙祷が終われば各々食事を始める。
各皿に料理が載せられ、バイキング方式で食べたいものを取るらしい。
隣に座るベイカー氏の手元を見ながら虫?の何かをもいで口に運ぶ。
ふむ、可だな!
味付けも絶妙だが、食感も悪くない!
「で、水無月さんよ。
フラゲッタの討伐はどんなもんだい?」
「ひとまず、2匹倒しましたよ。
課題だらけの討伐でしたがね(苦笑)」
カインズ氏への回答を口にしながら、
アクアの口に小さい食事を放り込む。
「へぇ、もう2匹なんてすごいですねぇ。
あ、私は村長の娘でカインズの妻のウルミナと申します。
話は聞いてますよ、水無月さん」
「よろしくお願いします。
本当はもう少し上手く立ち回れると思っていたんですがね」
「魔石はあるかい?」
「こちらに」
インベントリから取り出した魔石は綺麗な水色をしていた。
頭から外れた時は透明度の高い水晶のように見えたが、
これはどういう事だろう?
「ほうほう」
「わぁ、綺麗な色ですね」
「本当に倒したんだ・・・」
村長はどこか感心したような声を出し、
アルシェは感想、マリエルには疑われていたらしい。
カインズ氏は受け取った魔石をしばらく色んな角度から見たあと。
「よし、これなら問題ないだろ!
この調子であと4匹頼むわ!」
「傷もないし、結構な高純度ね」
夫婦揃って高評価のようだ。
色付きになるのは周囲にある、
水魔力を吸収する為であり、
色によって品質の善し悪しがわかるとの事。
「死体も一応確保してますが、
何かに使われるのであればお渡ししますよ」
「あ~、どうだ?」
「どこまで揃ってるかによるかしら?」
「お腹は裂きましたが、臓物以外は揃ってますね」
「なら、頂きます。
報酬上乗せでいいですか?」
「いや、特に苦労したわけではないので、
追加はいらないですよ」
「あら、無欲ね」
「養う先があるなら貰っといて損は無いと思うぞ」
「何かに使えたらと思って回収しただけですから、
気にしないでください」
とりあえず今は保留と無理矢理されて、
食事を再開する。
メリーの皿を見ると色んな何かが盛られていた。
殻とか棘とか取っていった結果だと思うけど、
元はどんな生き物だったのだろうか。
何の問題もなく食事も終わり、
メリーとウルミナさんが皿洗いに行ったので、
何があったのか話すことになった。
「・・・って訳だな」
「攻撃力不足ですか」
「でも、今回はなんとかなったのでしょう?」
「この先の個体によっては微妙な足掻きかと」
「なるほどな。
水無月さんはその子猫の資質は別にあると考えているのはわかった」
そう。
クーは闇属性だからだけではなく、
生来の性格が補助向きなのだ。
「精霊は契約者の意を組んで進化するらしいが、
この娘達はそこも少し違うみたいだ。
クーはアクアを姉と慕っていつも一歩下がった視点を持っている。
それに加えて俺達の力になりたいとも強く思っているから」
「攻撃役のアクアちゃんがいるから、
クーちゃんはその他の助けになりたいと思っている?」
「まぁ、これは見てもらった方が早いかな?
丁度メリー達も終わったみたいだし。
ここの近くで広い場所はありますか?」
「少し離れた所にあるぞ」
「じゃあ、そこに案内してもらえますか?」
「何の話?」
メリーとウルミナさんが皿洗いから戻り、
話に加わってくる。
先の説明をして何故か村長以外のみんなで行く事になった。
案内された場所は確かに広場になっており、
周囲は天然の森に囲まれていた。
「いい感じだな。
今から天狗とアクアの勇者の剣でアルシェに攻撃するから、
それを捌くか回避をしてくれ」
「はぁ、私なんですね」
「メリーでもいいけど?」
「無理です!」
「最近練習してるやつ使っていいから」
「それなら何とか・・・。
一応確認しますが、手加減は?」
「無しでやるからギブアップは早めにな」
「わかりました」
真剣な顔付きになったアルシェと見物人に加わったメリーに、
目を瞑ってもらいクーの魔法を掛けさせる。
クーを持ち上げている間に2人の瞼にポンポンと肉球が触れる。
うっすらと塗られた《猫の秘薬》と名付けられた魔法は、
付与されてから10分間夜目が効くようになる。
「だから今から10分間は光を見ないようにな」
「わかりました」
「かしこまりました」
ついでにベイカー氏にも同じ処置を行う。
「おぉ、これは面白いですね」
「あの、私達にもお願いします」
「あれ?カエルって夜目が効くのかと思ってたけど違うのか」
「耳で方向を理解するのであって目は見えねぇな」
マリエルとカインズ氏の指摘を受けて、
結局全員に処置を行った。
『闇纏い』
『氷纏い』
「『シンクロ!』」
「『闇精霊纏い!』」
「じゃあ今から俺達は森に溶け込む。
1分後に攻撃を開始するから頑張って避けろ、
以上だ!」
「ギブアップはありなんですね?」
「あぁ、その代わり勇者の剣を全て水に変えるからびしょ濡れになるがな!」
「え?」
「風呂に入る前で良かったな!
じゃあ始めるぞ。俺達の位置を補足できれば対処出来るかもしれないぞ」
* * * * *
そう言い残してお兄さんは暗闇の中に閻手を伸ばして飛んでいきました。
多分木を掴んで収縮からの跳躍なんだと思いますけど、
暗闇でも見えるようになった目にはお兄さんが木より高い位置まで飛んでいったのが見えてます。
そのまま別の木に再び閻手を伸ばして、
今度こそ姿を森の中へと潜り込ませました。
移動速度は・・・速い。
足音や木の軋む音が周囲の森を縦横無尽に駆け抜けていきます。
メリー達の方に目を向ければ全員が音や気配を頼りに姿を見ようとキョロキョロしていました。
「《アイシクルチャージ》シフト:輪舞曲(ロンド)」
履いている靴が氷の靴へと変わり、
足元の温度がどんどん下がっていく。
新しく構築した脚捌き用の魔法は、
足を地面に接したまま動作を素早く行うための魔法で、
踏ん張る時は前へ加速したり、
ダメージ軽減の為に後ろへ下がったり、
回避に集中する時は体の挙動のキレを上げてくれる。
もうお兄さんの動きがわからない。
足音も聞こえない。
気配もほとんど消えて位置の特定もわからない。
そろそろ1分。
突然、
頭上に勇者の剣が発生した。
それを認識した直後に別方向に同じく、
勇者の剣が発生する。
2つ目を認識したと思えば1つ目がこちらに向けて動き始めるのと同時に3つ目、さらに4つ目とどんどんと増えていく。
右足を滑らせ下げるとそこに勇者の剣が刺さり、
続けて左足を下げると2つ目が。
襲いかかる勇者の剣は増え続け、
ひとつを回避する間に次に来る2つを意識し続けないと躱せない密度で魔法が撃たれ続ける。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
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