特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

文字の大きさ
上 下
24 / 409
閑話休題 -ポルタフォール街道-

閑話休題 -02話-[アスペラルダ~ポルタフォール道中Ⅱ]

しおりを挟む
 アスペラルダを出発してから5日が過ぎた。
 馬車であればもう到着しているかもしれないが、
 クーの様子を見ながらなので、
 速度が上でもひとつひとつの行動も準備も手早く済むであろう玄人連中より遅いのは仕方ないな。
 それでも徒歩で掛かる期間の半分で着く予定なので、
 2~3日中には[ポルタフォール]に着くだろう。

「そういえば、ポルタフォールって大きな湖の上にある街なんだよな?」
「そうですね。
 湖の底がとてつもなく深くて、
 大きい穴という意味のホールと、
 水が引いている時に見られる滝のフォールを掛けて名が付いたそうです」
「その水はこの地域の山などを通して、
 最後に浄化された水が流れ込んでくる中心点なのです。
 穴の底から水脈を通って各地にある水源などから、
 湧き水として循環しているのです」
「じゃあ今まで通ってきた河の水も1度は[ポルタフォール]を経由しているって事?」
「その通りです」

 なんだかんだで走行中でも話が出来る程度に余裕が出た俺達は、
 次の街に着く前に整理をしていた。

「その穴って相当深いんだろ?溺れるやつがいるんじゃないか?」
「聞いた話だと死亡者は居ないらしいです」
「え?なんで?」
「さぁ?メリーは聞いたことがありますか?」
「私が聞いたのは溺れた人はいつの間にか、穴の淵にある浜辺に打ち上げられるそうですよ」
「不思議ですねぇ」
「いや、海流みたいなもので運ばれたんだろう」
「海流って何ですか?」
「海には自然の流れが決まっていて、
 ただのボートもいずれはどこかの浜に辿り着くんだよ。
 まぁ遭難者が死んだあととかがほとんどだけどね」
「湖は海より狭く、浜に囲まれているから生還できるということですか?」
「そうだと思うよ、湖だから詳しくはわからないけどね。
 精霊が流れを造っているのかもしれないし」
『あくあもできる?』
「いや、無理だと思うよ。何人も精霊が必要なんじゃないかな」
『そっかぁー』
「そろそろ休憩時間です」
「じゃあ、次の終点でな」
「『はーい』」

 一旦休憩を挟む。クーもこの数日で確実に成長をしており、休憩中に眠らなくなった。

「クー。核が劣化した感覚はあるか?」
『いえ、特には』
「クーが加階してからそろそろ2週間経つし、
 成長もアクアの時とは違って意識的に促進を図っている。
 劣化状況の確認の為、夜に1度核の交換をしよう」
『わかりました』
『ますたー、あくあはー?』
「アクアはもう専用の核になってるんだから、
 交換は必要ないってアルカトラズ様からお墨付きをいただいてるだろ。
 前みたいに不調に見えたら確認しよう」
『・・・あー、なんかねむいなー』
「構って欲しいのがバレバレだぞ。
 そんな演技してないでいつもみたいに来ればいいだろ」
『わぁーい、ますたー!』
『あの、マスター・・・』

 少し緊張した面持ちでモジモジするクー。
 珍しく自分の意思を表に出す闇精霊に意識を向ける。

『これまでマスターをマスターとお呼びしておりましたが、
 自分なりに考えまして、その・・呼び方を替えようかと思います』
「あぁ、そういえば好きに呼ぶように言ってたな。
 クーが呼び安いなら好きに決めていいぞぉ」

 アクアを胡座に座らせて、クーと見つめ合う形を取る。

『マスターは優しくしてくださいました。
 マスターは頼り甲斐があると感じました。
 マスターはクーの事を大切に扱ってくださいました。
 まるで・・・お父様のようだと思いました』
「わかりますよクーちゃん。ついつい甘えたくなるんですよね」

 クーの真剣な話の途中でアルシェが合いの手を入れる。
 しかし、お父様かぁ。こいつらはまだ幼いから言い得て妙だが・・・。

『クーはマスターをお父様と呼びたいと思います。
 精霊にとって仲間は家族も同然ですが父母という括りではありません。
 唯一アルカトラズ様が肉親のような立場でいらっしゃいますが、
 あの方はクー達に何かを求めることはありませんし、干渉もしてきません』
「・・・・・」
『ですので。もし家族がいたら、父親が居たらと考えたら。
 お姉さまとマスターが思い浮かびました。
 クーはマスターをお父様と認識してします。
 そう、呼びたいと思っています・・・呼んでもいいでしょうか?』

 暫しの沈黙があった。
 もちろんクーの呼び方を容認するのは簡単だが、
 正直に言うと複雑な気持ちでもある。
 まだ、嫁もいないのに俺を父と呼ぶ存在を認めてもいいのだろうか、と。

 嬉しいのは嬉しいさ、
 初めはアクアにベッタリだったクーが俺にここまで心を開いてくれたんだからな。
 もともと年下の子として扱ってきた部分は大いにあるし、
 純粋なところに心安らぐことはある。
 しかし、お父様!
 お父様はわりと引き返せなくなるラインの呼び名ではないだろうか?
 俺さ、いずれ元の世界に帰る予定がある身なんで、
 クーに泣かれると参っちゃうじゃないか?
 アクアだって泣き喚くぞ、精神年齢はクーより幼いように感じるからな。
 あぁ、俺はどうすれば・・・(ここまで1秒)

 目をクーに向ければ、すぐに返事が無いことを不安に思い俯く姿が目に入る。
 あぁ、ダメだ!子供を泣かせる大人にだけはなりたくないんだ!!

「いいよ、Myドーター」
『・・・え?マスター?』
「お父様じゃなかったのか?」
『っ!お父様っ!!』

 ゴロゴロと喉を鳴らして俺に擦り寄るクーを見て思う。
 俺に父親が務まるのだろうか。
 自分の父親を思い出すが、
 小学生の時に離婚してそのまま家を出た背中に答えは出なかった。
 まぁ、父親になったものは仕方ないだろ、
 子供にも戦いをさせる鬼父を目指そうじゃないか。

「あんなに甘えて・・・羨ましくなんてないんですからねっ!」
「何を言ってるんだか。
 時々夜中にテントに潜り込んで俺が起きる前に戻っているのを知らないとでも?」
「え゛!?」
「情報源は秘密だ」
「メリー!」
「今回は私ではありませんよ」
『あくあだよー』
「あ、アクアちゃん・・・くっ、怒るに怒れないよー(泣)」
「こいつらはまだ幼いから今だけだよ。
 成長は早いはずだからすぐに親離れするさ。
 アルシェはラインを引く話をどこにやったのかな?」
「ぐっ!まだ未定です」
「メリーも止めなくなったのか?」
「いつも走って疲れてますし、
 アルシェ様が出ていくのに気づかなかったですねー(棒)」

 わいわいと会話をしつつも、出発の準備を進める。
 あと、一息で[ポルタフォール]に着く。
 もう解決してしまっているかもしれないが、
 百聞は一見に如かずだから、ひと目見て回ろう。

「じゃあ、行くぞー」
「はい」
「準備は出来ております」
『ごー』
『影に失礼します、お父様』

全員の姿を確認して出発する。
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉

陣ノ内猫子
ファンタジー
 神様の使い魔を助けて死んでしまった主人公。  お詫びにと、ずっとなりたいと思っていたテイマーとなって、憧れの異世界へ行けることに。  チートな力と装備を神様からもらって、助けた使い魔を連れ、いざ異世界へGO! ーーーーーーーーー  これはボクっ子女子が織りなす、チートな冒険物語です。  ご都合主義、あるかもしれません。  一話一話が短いです。  週一回を目標に投稿したと思います。  面白い、続きが読みたいと思って頂けたら幸いです。  誤字脱字があれば教えてください。すぐに修正します。  感想を頂けると嬉しいです。(返事ができないこともあるかもしれません)  

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...