特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第01章 -王都アスペラルダ城下町編-

†第1章† -12話-[死霊王の呼び声:最下層【 中編】]

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 は?なんだ、この???の救世主って?
 ALL+1は嬉しいけど得体が知れなくて怖いんだけど・・・。
 アルシェは流石の魔法ビルドだな、知力と精神力半端ねぇ(笑)。
 そりゃあんだけバンバン魔法撃てるわな。
 そのアルシェは自分の称号にある[お兄さん依存症]を見て顔を真っ赤にして戦慄おののいている。

 俺も最近はそんな気配を感じていたが、
 今は思春期真っ只中の彼女に俺から言えるわけもなく、
 宿屋の一件でメリーに一言頼もうと考えていた矢先にステータスから暴露された感じだ。
 そのメリーのステータスも偏った上昇を見せている。

「メリー。なんで器用さと素早さに偏ってるんだ?」
「称号にもあるように基本的に戦闘には参加せず情報収集や敵情視察が仕事ですので。
 STRへ少し振っているのは、
 いざとなった場合にアルシェ様を抱えて逃げられるようにです」

 姫の安全しか考えてないのは従者の鏡だなと感心する。
 ただ、ダンジョン内じゃなくて街中でも役に立ちそうなビルドをしているので、
 フットワークの軽さに工夫を凝らして動いてもらおう。
 最終的にクノイチにする計画を今のうちから立てておかないとな。

「アルシェ・・・・、アルシェ!」
「は、はい!なんですかお兄さんっ!
 別にお兄さんに依存していたわけじゃなくてですねくぁwせdrftgyふじこlp」

 アルシェに声をかけても反応がなかったので少し強めに声をかけたら、
 未だに混乱の渦中にあるようで、
 言葉尻は言い訳とかそんな生易しいレベルではなく言葉にならない慟哭に変わっていた。

「別に怒っているわけじゃないんだけどね、
 俺から時期を見て一言伝えようと思っていたことだし。
 可愛い妹に慕われて嫌なわけがないだろ?
 ただ、さっきも言った通りいずれの事を考えると注意はしていたよ」
「・・・はい」
「いきなり兄離れしろとも言わないさ。
 俺だってアルシェ離れしろと言われてもすぐには出来ないんだから。
 いずれでいいから、
 自分の中でラインをしっかりと用意しなさい」
「わかりました。すぐではなくても・・・いいでしょうか?」
「いいよ。俺はアルシェの事が大好きだからね、
 早すぎない程度にお願いするよ」
「はいっ!」
「兄妹っていいですねぇ」

 俺とアルシェの義理兄妹愛を噛み締めるように、
 専属メイドはいつものクールな表情を少し崩しながら微笑んでいた。

「さて、俺達は闘技場での死闘を超えたわけだけど、
 レベルではなく戦技スキルで勝ったようなものだ。
 アルシェが使う魔法も魔力を込めれば威力が上昇するだろう?
 そんな俺達に必要な事は敵戦力に対する威力のコントロールだ」
「そうですね。
 先の戦いが激しかった為に無意識に過剰攻撃をしてしまう事は大いに有り得ます」
「どういう事ですか?」
「アスペラルダが保有しているダンジョンはランク1なんだよ。
 キュクロプスはランク4ダンジョンの敵だったから、
 あの威力でも足りないって程度だったけど、
 ここのダンジョンでは過剰攻撃になる。
 敵だって1体じゃなく、
 何体も何体も出てくるのにそんなに連発していたら体力も精神力も最下層のボスまで持たないだろ?」
「なるほど、理解しました。
 適性攻撃をコントロールして負荷を減らせという事ですね」
「よく出来ました。だから、
 もともとの予定だった俺が前衛でアルシェは後衛で魔法支援の動きで行こう。
 メリーはどうする?一緒に来るか?」
「いえ、私は街中を動いて情報収集しています。
 攻略はお2人でどうぞ。
 ここのランクならば2人で潜る許可も出ていますし」
「わかった、宜しく頼む。
 夜はしっかり休みたいから夕方頃には宿に戻るようにするよ」
「かしこまりました」
「じゃあ、今日は時間もないし初めから潜り直して時間が来たら帰って来よう。
 アルシェは初めてのダンジョンだから感覚を覚えてもらわないと、
 囲まれた時に部屋ごと[アイシクルエッジ]なんて事もあるかも知れないしな(笑)」
「そんな事にはなりませんよ。お兄さんが守ってくれますから」
「妹の為に身を犠牲にする兄の鏡ですね」
「いや、雑魚相手にそこまでは苦戦しないよ。
[イグニスソード]が手に入ったから楽に進めるようになったし。
 相手はアンデットだから弱点属性なんだよね」
「だから、欲しがっていたんですねっ!流石はお兄さんですっ!」

 さすおにを頂いた所で[インスタントルーム]を退出し、
 受付で部屋から出た事を告げてダンジョンへ向かう。
 その前にメリーをパーティから外しておかないとな。

「では、私はこれで失礼します。
 お2人ともお気を付けて行ってらっしゃいませ」
「「行ってきます」」

 2人になり、思い出した事を確認してみる。

「そういえば、アクアを知らないか?」
「アクアちゃんならこちらにいますよ」

 アルシェがいつも目深に被っている帽子を外すと、
 彼女の頭の上に丸くなって眠る相棒がいた。
 朝から姿が見えないと思ったらこんな所に・・・さては、
 昨夜からアルシェの部屋に行ってたなコイツ。
 アルシェは水属性の適性が高いのでアクアとしてもマスターの俺よりも、
 アルシェの近くにいた方が居心地が良いんだろうとは思うけどな、
 ひと言言ってから行きなさいな。

「まぁ、無事ならいいや。起きるまでそのままでいいよ」
「わかりました。優しいですね、お兄さん」
「大事なパートナーだからね。
 この小さな精霊に頼ならないと強敵とも戦えないのは情けないと思うけどね」
「いずれ出来るようになればいいんですよ」
「そうだな、まだまだ最前線までは長いんだし気長に訓練を繰り返すよ。
 そうだ、アクアで思い出したんだけど、
 黄色いスライムを見つけたら倒さずに逃げられないようにして欲しいんだけどいいかな?」
「黄色いスライムですね。そのモンスターが何か?」
「アクアを強化するのに使えるかも知れない可能性を秘めている」
「それは是が非でも捕まえないとですね!
 わかりました、任せてください!」


 * * * * *
 やって来ました!あーきはーばらー!!ではなくて、
 お久しぶりのダンジョン[死霊王の呼び声]。
 今日はあと2時間も潜れば夕方になるからあまり奥へは進めないが、
 スライムとゾンビには出会えるだろう。
 横にいるアルシェを見やると、
 ワクワクが止まらないといった表情をしている、と思う。
 帽子で角度的にも顔は見えないがソワソワしているからあながち間違えてはいないようだ。

「準備はいいかい?アルシェ」
「もーまんたい、です!」

 俺が遊びで教えた言葉を拙い発音で問題無しと伝えてくる。
 敵の情報とかは城の図書館で調べているだろうし、
 セリア先生の指導の中にもあったはずだから本当に大丈夫なんだろう。
 ダンジョンへ足を踏み入れると、
 やはり入口の遺跡風な残骸が転がりつつも洞窟へと変化した。
 洞窟なのか遺跡なのかはっきりしろよ!

 スライムA.Bが現れた▼

「お、お兄さんっ!モンスターですっ!」
「初級ダンジョン最弱モンスターのスライム。
 弱点の核を壊せばバトル終了だ!」
「でも、お兄さん・・・」
「なんだ?どうしたアルシェ」
「あのスライムたち・・・アクアちゃんみたいで倒しづらいです」

 なん・・だと・・。
 アクアの見た目は目の前の球体然としたぷるぷるとした容姿ではなく、
 エウシュリーに出てくるような水精をイメージしたのに・・・、
 アルシェには同じように見えているのかっ!?人型と球体なのに!?

「でも、お兄さんの指示ですから倒します。《勇者の剣クサカベ!》」

 倒せないと言った矢先に菱形八面体に近い形をした氷の塊が2つ、
 2体の核を撃ち貫く。俺・・・倒せとは言ってないよ?

「これで宜しかったですか?お兄さん」
「そうだな、[アイシクルエッジ]ならもう一つ工程が必要だったけれど、
[勇者の剣クサカベ]なら狙いもつけやすくて良いんじゃないか?」
「お兄さんが教えてくれたこの魔法、使いやすくて良いですよね。
 汎用水氷属性魔法に遠距離攻撃は無いですから、
 教えてもらった時は感動したものです。
 あ、あそこにも!《勇者の剣クサカベ!》」

 遠くにいるスライムを発見して遠距離攻撃を堪能するアルシェ。
 まぁ、練度も高くないから遠ければ遠いほど命中率が下がってしまう。
 水の膜で遠くを見たり出来ないもんかなぁ、考えておこう。
 俺が考えに没頭している間にも目に入ったスライムに片っ端から[勇者の剣クサカベ]をぶち込んでいく。

「アルシェ!核を数個確保したいから、全滅だけは避けてくれよ」
「はぁーい!」
『はぁーい』

 いつの間に起きたのかアクアも一緒になって殺戮の限りを尽くしていた。
 精度が上がって遠くの敵を倒せるようになったら横取りに発展しかねないので、
 ほどほどにさせて奥へ進む。
 もちろん片栗粉戦法で核の回収をしながらね。

「面白い事をしますね、お兄さん」
「こうすると核を傷つけずに回収が出来て楽なんだよ」
「へぇー」
『へぇー』
「お前の核もこうやって回収した一つなんだぞ、アクア」
『えー、やだー』

 やだとか言われても生物由来の宝玉はコイツしか持ってないんだもん、
 仕方ないじょないか。

「そろそろゾンビと遭遇するだろうな、通路なら倒してもいいけど部屋なら集団でいるはずだから、後衛に回ってね」
「はい、お兄さん」
『あ、いた。《勇者の剣くさかべ》』

 角から出てきたアルシェにとって初めてのゾンビは、何故かアクアに倒されてしまった。

「こらアクア!
 俺たちだけで対処出来るんだからお前はまだ何もしなくていいんだよ!
 アルシェや俺の戦闘コントロールの為に戦ってるんだからな!」
『ご、ごめーんますたー。おこらないでー!』
「まぁまぁ、まだ戦う機会はあるんですからそのくらいで、ね?」
「ふぅ、アクア。アルシェにも謝りなさい」
『あるー。ごめーん・・・』
「いいんですよ。
 アクアちゃんが必要になったらお兄さんが声を掛けてくれますから、
 それまでは休んでいてください」
『はぁーい』

 スライムαアルファの核が欲しいのは戦力増強だけでなく、
 アクアの精神年齢を上げられないかと画策している為でもある。
 割とアクアはイタズラや先程のような事をやらかしては俺に叱られている。
 まぁ、可愛げはあるんだがね。
 手が掛かる子ほど可愛いとはいえ、
 父親をしている暇はないと思うしマスターなりに悩んでいる。
 その後もゾンビと遭遇してはアルシェが倒すを繰り返し、
 一層奥の溜まり場に到着出来た。

「じゃあ、今日は切り上げて明日は午前中にここで集団戦の練習をしよう。
 午後からどんどん下に潜って明後日には踏破率50%を目指そう!」
「はい!」
『おー!』
「じゃ、帰るぞ。《エクソダス》」

 初日のダンジョン探索が終わり、帰還魔法で街に戻る。
 回収したいらないアイテムをギルドで売り払い、宿に帰ってきた。

「おかえりなさいませ。ご主人様、姫様」
「ただいま、メリー!私、いっぱい倒したわ!」
「それはようございました、お話はお部屋で聞くとしましょう。
 ご主人様、すぐに食事に出来るそうですが如何されますか?」

 さっきからメリーは俺を主人と呼ぶ。
 違うだろ、君の主人はあくまでアルシェのはずだろうが。
 専属メイドの肩書きをわすれるんじゃないよ!

「じゃあ、各自部屋に戻ったら風呂に入って食事にしようか。
 お風呂の貸切についてはわかっているか?」
「重々承知しております。
 では、お先に部屋へ戻らせていただきます」

 思ったことは色々あれど、
 メリーに関しては訂正とか求めても王の命令とかで撤廃はしてくれないんだろうと、
 すぐに諦めの境地に至った。
 部屋に戻ろうとアクアを探したが、
 部屋へ戻るアルシェの肩に捕まっているのを見つける。

『っ!?あわわ!?』

 怒られたことを気にしてか、
 今日もアルシェにベッタリのようだ。
 父親としては寂しい気もするが今日は見逃してあげよう。

 風呂上がりにラフな恰好で待っていると、
 アルシェ達も城で着ていた服装ではなく一般的な恰好でテーブルにつく。
 メリーも普段と違うメイド服を着ている。結局メイド服かいっ!

「お待たせいたしました」
「お兄さん、待たせてしまいましたか?」
「男はお風呂が早いからね、気にしなくていいよ。
 それより2人とも新鮮な恰好で可愛いね」
「ありがとうございます」
「私もこんな恰好は新鮮でドキドキしています」
「城を出たかいがあったね。
 さぁ、待ちに待ったご飯を食べよう!」

 女将さんに全員が集まったことを告げて、
 晩御飯がテーブルに並べられていく。いつもなら背後に控えるメリーもアルシェに隣に座る。

「アクアはどうしている?」
「お風呂場で茹で上がってしまったようで、部屋で休んでます」

 何をしとるんだ、あの娘は。

「あ、姫様。食べるものは私が食べた物を食べて下さい。
 城で食べるよりは暖かいですから我慢なさってください」
「わかりました。宜しくお願いします」
「あ、やっぱりそういうのあるんだな。
 でも、ギルドに行けば解毒してくれるよ」
「麻痺だった場合はどういたしますか?」
「それも[キュア]の上位互換の[リカバー]で治療してくれるはずだよ」
「わかりました。ご主人様のお言葉に従います」
「アルシェだってメリーだって落ち着いて食べたいでしょ?
 姫様を連れ出すんだからそのくらいは事前に聞いてるよ」
「ありがとうございます、お兄さん。
 じゃあメリー、一緒に食べましょう」
「はい、アルシェ様」

 解毒はまだ先のダンジョンで手に入るはずだけど、
 一応闇市で毎回探してはいるのだ。
 手に入って覚えることが出来ればアルシェにまた暖かいものを食べさせることも出来るだろう。

 3人で食事を取りながら、
 アルシェはメリーに今日のダンジョン探索について興奮気味に語り、
 メリーからも情報収集の成果を聞いた。

「で?何か情報はあった?」
「はい。まず、闘技場で逃がした魔神族ですが。
 目撃証言を集めた結果、あの時いた魔神族は男で体は黒く、
 体のあちこちに蒼いラインが光っていたとの事です」
「蒼いライン?何か心当たりはありますか、メリー?」
「いえ、私に心当たりはございません」

 2人が俺に視線を送る。

「今浮かぶ可能性は・・・。
 1つは俺とは違う世界から、もしくは星の外からきた存在。
 もう1つはパワードスーツ・・・身体能力を強化する防具を付けていた可能性。
 蒼いラインとは魔力が通っている導線かもしれない。
 他には本当に神かもしれないけど、
 これは四神に会って確認すればわかるかもな」
「なるほど。報告をしておきます」
「よろしくお願いします。他にありますか?」
「アルシェ様の二つ名が[吹雪の姫君ブリザードプリンセス]となりました」
「なりましたってどういう事?」
「闘技場で行われた模擬戦に置いて、
 近距離でも遠距離でも戦える姫様は注目の的でした。
 正しく手の付けようがないそんな姫様の戦いっぷりの噂が流れ、
 いつしか[吹雪の姫君ブリザードプリンセス]と呼ばれるようになっていました」
「はぁ・・・すごい人気だなアルシェは。
 冒険者を始めて初日に二つ名を貰うなんて」
「その評価は嬉しいのですが、くすぐったいですね」(///_///)

 報告は以上で、食事も無事に終わりお互いそれぞれの部屋へ戻る。

「おやすみなさい、お兄さん」
「おやすみなさいませ」
「あぁ、2人ともおやすみ。メリーも一緒に寝るのか?」
「はい。バレた者の特権ですから」
「さいですか。じゃあ改めて、おやすみ」


 * * * * *
 翌日は予定通りにゾンビとスライムの集団を相手に戦いを開始した。

「アルシェ!」
「《アイシクルエッジ!》」

 円形に広範囲で地面が凍りつく。
 ゾンビはフラフラと倒れないように進行速度が遅くなるが、
 スライムは地面が凍ろうともそのまま突っ込んでくる。
 この単細胞めが!

「アクア!」
『《あくあちゃーじ》』

[アクアチャージ]はアルシェの[アイシクルチャージ]と同じで、
 氷の上を上手く滑ることが出来るようになる。
 同じ効果の魔法だけど、
 足元のエフェクトは氷の破片を撒き散らすアルシェと、
 水の飛沫を撒き散らす俺で僅かに資質に違いが出ている。
 アルシェは水属性の氷寄りみたいだ。

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!ふっ!せやっ!」

 ゾンビを片っ端から切り伏せていくが、流石はモンスター部屋。
 奥から次々と新しい個体が現れる。
 俺の背後に回ろうとするモンスターはアルシェに撃ち抜かれていく。

「《勇者の剣クサカベ!》」

 威力だけを見れば[アイスランス]の方に分があるのだが、
 消費MPや使い勝手を考えると遠距離攻撃はこれになるみたいだ。
 突撃してくるスライムと大きく回り込もうもするゾンビがどんどん撃たれては経験値へと変わる。

「アクア!レベルI!」
『《うぉーたーぼーる》せっと:かっとらす』
水竜一閃すいりゅういっせんっ!」

 制御しやすい、消費も最小の魔法[ウォーターボール]。
 これはアクアとアルシェの共同開発の魔法で、
 通常運用は周囲から水を集めるだけ。
 魔力によって量の調整が出来て、
 ダンジョン内で体が汚れた場合すぐに洗い流すことが出来る優れもの。
 俺の[魔法付与マジックエンチャント]の場合だと、
 威力の調整が効くので使い勝手の良い仕上がりになる。
 アクアに命令した[レベルI]は威力調整の掛け声だ。

 水で出来た一閃はゾンビの群れに当たり、
 水飛沫を上げながら後ろへ吹き飛ばす。
 斬れはしないが水圧はエンチャントを経ることで上がっているので見た目以上に威力はあるようだ。

「レベルII!」
『《うぉーたーぼーる》せっと:かっとらす』
水竜一閃すいりゅういっせんっ!」

 威力調査の為に立ち上がったゾンビ達とその後方にいた新鮮なゾンビを狙って放つ。
 先程よりもさらに水量の多い飛沫があがり、
 ゾンビ達も起き上がれずにそのまま消滅していく。
 斬れはしないが倒せるレベルという事がゾンビ達の献身的な犠牲の上で証明された。

「お兄さん!あれ!」

 その時、アルシェからお声が掛かった。
 モンスターの塊を指差しながら少し興奮気味に俺を呼んでいる。
 そちらに目をやるが特におかしな所は見つからな・・・ん!?
 いま、ゾンビの足元を移動していたスライムが黄色くなかったか!?あれ?いなくなった?

 確かに洞窟内では目立つ黄色が視界に映った。
 それは間違いないんだけど、今は確認出来ない。
 あれだけ目立つのに見失うなんてあるんだろうか?
 また少しするとアルシェが声をあげる。

「お兄さんっ!こっちですっ!」
『ある、すごーい』

 今度もアルシェが発見して周囲のモンスターを殲滅し始めている。
 こうなると、わかり易くポツンと黄色いスライムだけになる。
 ようやく、捕まえられたと思うだろ?
 黄色いスライムが点滅している。
 いや、ノーマルスライムとスライムαアルファを行き来しているのか?
 ひとまず様子を見ていると点滅は落ち着き、
 ノーマルスライムになった。
 周りのモンスターに邪魔されては困るので、
 広範囲攻撃に優れているアルシェに掃除を任せて、
 俺は件のスライムと睨めっこをしている。

 どれくらい経ったかな?
 1分ほど待っていると色がゆっくりと黄色いに戻り始めた。
 つまり、スライムαアルファの目撃例が少ない理由は、
 暗闇攻撃と擬態が原因だったわけだな。
 問題が解決したので片栗粉を取り出して振り掛ける。
 混ぜる。ゼリーを切り落とす。核を回収する。

 宝玉    :スライムα(アルファ)の核【レアリティ】レア

 やっ↑たぜ!
 これでアクアを強化出来るかも知れない!さぁ、研究だ研究!

「ありがとう、アルシェ。核の回収は済んだし、連携も確認出来た、
 時間も午前を回ったから1度街に戻ってお昼ご飯を食べよう」
「はい、わかりました」
『あるのまりょくでおなかいっぱいだから、ねてるねー』

 アクアをアルシェの頭の上で寝かせる。
 お昼ご飯はギルドが提携している食堂を利用しようとしたが
 生憎の満席、
 次の店も、その次の店も満席でこれ以上は時間の無駄になると思い、
 城下町の広場に行く事にした。

 座って食事は出来ないけれど、
 屋台形式でズラっと並ぶお店にアルシェは興奮している。
 視察の時は街の人達から恵んでもらう事はあっても(もちろん素行調査済み)、
 自分で買って食べるという事はなかったのだ。

「どれか食べたいものはある?」
「アスペラルダの姫として全ての味を調査する必要がありますね!」

 これは興奮どころではない、壊れている。
 冒険者のアルシェから、
 突如としてアスペラルダ王国の姫君アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダへ変貌を遂げた麗しい俺の妹は、近場の屋台へ突進して行った。

「メリー」
「はい、こちらに」

 居るはずのない専属メイドは呼ぶとすぐに姿を現した。
 俺が教育しなくても十分にクノイチになっているメイドへ念のため確認をする。

「いま出ているここの屋台は全部調査済みか?」
「はい、1店舗は休みですが営業している屋台は全て調整済みです。
 ご安心下さい」
「わかった。ありがとう」
「いえ。では、失礼します。ごゆっくりどうぞ」

 メリー達が事前に調べているならいちいち毒味はしなくてもいいみたいだな。
 早く解毒系の魔法を覚えたいなぁ。
 そうすれば気兼ねなく一緒にお昼ご飯を楽しめるのになぁ。
 メリーと会話をしている間に俺の分も買ってきたのか結構な量を持って帰ってきた。
 いったい何件の屋台を回ったんだ(笑)

「お兄さん!お兄さんの分も買ってきたので一緒に食べましょう!」
「ありがとうアルシェ。じゃあどこで食べようかな・・・そうだな、
 宿屋で食べさせてもらえるようお願いしてみようか」
「はい!」

 食べ物を分担して宿屋に戻る。
 昼食を食べる為の過程を説明すると、
 こころよく食堂のテーブルを貸してくれた女将さんに感謝しつつ、
 アルシェと一つ一つの料理の感想を言いながら楽しく食事することが出来た。
 今度、女将さんに何かお礼を渡しておこう。
 宿を出る時にアルシェ達の部屋から気配を感じて見上げると、
 メリーが寂しそうな瞳(真顔だが)でこちらを見つめていた。
 ごめん、本当に忘れてた。次は呼ぶからね。

 食事を取るとポーションほどの早さはないけど、
 回復する効果があるので食べながら喋っていると、
 体力も精神力もかなり回復している。

[エクソダス]からダンジョンへ戻ると、
 すぐにアルシェがスライムαを発見したので急いで核を回収。
 これで2つ手に入れることができたけど、
 俺はこの2ヶ月出会ったことも無かったのにアルシェが居ると見付かるんだもんなぁ。
 そういえば[イグニスソード]も全然見つからなかったもんな。
 俺のリアルラックってかなり低いのかもしれんな。

「じゃあ、ダンジョンを奥に進めるだけ進むぞ。
 敵の情報は頭に入ってるか?」
「はい、今までのスライムとゾンビが出なくなる代わりに、
 剣を使う[スケルトン]と防具も揃った[スケルトンナイト]、
 あとは素早く回避が上手い[レッドバット]ですね」
「そうだ。全5層構造の[死霊王の呼び声]は3層から敵が変わり、
 攻撃方法や敵の動きの変化に合わせてこっちも変える必要がある。
 ただ、やっぱりランク1のダンジョンだけあって、
 対処は難しくないし、
 ステータスに頼りきった戦い方を俺達はせずに、
 技術も磨いたからボスまでは問題なく進めるだろう」
「はい、がんばります!」

 まだ、お昼の興奮が途切れていないのかテンションが高いアルシェだが、
 戦闘が始まればガラリと落ち着きを取り戻して支援をしてくれる。
 アクア?まだ寝てるよ。
 道順は俺が記録していたので順調に進んでいき、
 2時間ほどで2層を抜けて3層へ到着出来た。
 今日はあと2時間か・・・どうするかな。

「お兄さん、ここからモンスターが変わるんですよね?」
「そうだよ。通路も少し広くなって1対1じゃなくて、
 2体や3体と戦うことになる可能性もある。
 アルシェ、近接の戦闘をするか?」
「え?私がですか?」
「あぁ。槍は実際刺す部分の先端が1番ダメージを出せるが、
 全体でダメージ判定がある武器だ。
 防御も攻撃も可能な万能武器なんだよ。
 1対多の対処は槍が1番得な分野だから、
 もしやるならヒールの支援はするから訓練しながら進まないか?」
「そうですね・・・お兄さんとしてはどう思っていますか?」
「出来るに越したことは無いと思っている。
 もしもで考えて欲しいんだが、
 闘技場のキュクロプスが棍棒だけでなく人サイズのゴーレムを精製できた場合、
 前衛ももちろん戦うだろうが精製範囲が闘技場全域だった場合は誰が後衛陣を守れる?」
「・・・私だけです。
 あの場にいた後衛は全員魔法使い用の装備に変えて戦われていましたから、
 装備を切り替えても戦えて3人程度でした」
「その時にアルシェは1対1で皆を守れるか?
 俺はキュクロプスの相手をしていると仮定しろ」
「無理ですね。
 それこそ3体ないし4体は引き付けないと支援を受けることも出来ないかと・・・、
 お兄さんの考えがわかりました。
 やらせて欲しいです」
「わかった。とりあえず、今日は2時間したら帰るからな」
「はい、支援はお任せします」

 そこからはお互い無言で戦闘と支援に集中した。
 もしもと仮定したが、
 破滅に向かうこの世界はいつ不条理な状態になってもおかしくないと考えている。
 誰かの作為なのか世界の判断なのかはわからないが、
 そんな状態になった場合に何も出来ずに死を待つ事だけは、
 アルシェに許したくはなかった。
 足掻けるだけの手数を用意したかった。
 もちろん俺がいれば全力で手助けするけれど、
 それこそ理不尽が相手であればやるだけやらないとな。

 ランク1のダンジョンの雑魚とはいえ、
 2時間集中しての1対多はかなりの疲労をアルシェへ溜め込んだようだ。
 宿に戻ると風呂に入ってすぐに寝入ってしまったとメリーから聞かされた。
 メリーの晩御飯を部屋へ届けて、
 俺も1人でご飯を食べて就寝する。
 現在、ダンジョン進行度は丁度50%だ。
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