特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第01章 -王都アスペラルダ城下町編-

†第1章† -08話-[レイド戦 VSキュクロプス]

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「お疲れ様でした、お兄さん」
「あぁ、流石はアルシェだな。
 アレを出すまで追い詰められるとは思っていなかったよ。
 でも、なんとか兄の威厳は保てたかな?」

 苦笑しながらアルシェの頭を撫でる。
 本当になんとか引き分けに縺れ込むことが出来たというのが俺の感想だった。
 あの時アルシェがリタイア宣言をしなければ俺がリタイアを宣言するつもりだった。
 せめて、アルシェの姿を確認してからと思い様子を伺っているうちに先を越されてしまっただけなのである。

 何しろアレは威力が強力な分俺にはまだ制御しきれていなくて、
 武器は修理できないほど破壊され、
 俺の両手は酷い凍傷を負ってしまっていた。
 すでに治療済みとはいえ、
 そう何度も経験がしたい体験ではないので、
 本当にピンチにならない限りは正直使いたくない。
 早く制御出来る様になりたいなぁ。

「お疲れ様でした二人とも、流石は私たちの子供達です」
「実に見事な戦いっぷりであったぞアルシェ」
「お疲れ様でした」
「近接戦闘にも魔法と組み合わせることで、
 ここまで幅が出せるとは全く持って脱帽です!」
「魔法戦闘にしても前衛があそこまでの魔法が使えると、
 中途半端な魔法使いの立場が危うくなるわね、
 教育内容を考え直さなきゃいけないわ」

 闘技場に集まった人々からの止まない拍手をBGMに王様、
 王妃様にメリー、ポルトー、セリア先生が俺達の元へと集まってきた。
 セリア先生がさり気なくMPポーションを俺達に渡してくれる。
 気遣いに感謝しつつありがたく飲ませてもらおう、
 何せお互いにMPはほぼ無くなっており精神的な疲れで、
 いつ気が抜けて倒れてもおかしくはない状態であった。

「これで王様方の目的達成のお手伝いは出来ましたか?」
「あぁ、十分だとも!
 これで街中であろうとダンジョン内であろうと、
 2人が一緒にいる事に異議を唱える者は居なくなるだろう。
 宗八そうはち君は十分な強さを証明したことで、
 臣民からアルシェのボディーガードとして認められるだろうし、
 アルシェにしても不当な輩が自分達の力量を見誤らない限り手を出して来なくなっただろう」

 王様はそこまでかっ!
 と言いたくなるほど嬉しそうに今回の模擬戦の成果について語ってくれた。
 まぁ、一人娘だしそりゃ大事だよな。
 嬉しそうな顔の王様方を見ながらMPが全回復したのを確かめて、
 約束をしたあいつを再び呼ぶことにする。

「ちょっと失礼。
氷質ひょうしつ宿やどした大気たいきあつめ、いま一時ひとときしずくりて、もとよ、蒼天そうてん穿うがて!精霊加階せいれいかかいよ!・・・アクアーリィ!≫」

 召喚詠唱を唱えて、新たに取り出したスライムの核でアクアを呼び出す。

『おそいよぉ~、ますたー』
「そりゃ、すまんね。
 あのあと戦闘はすぐに終わったんだけど後始末が少しあってな」
『しかたないですねぇ~』

 軽いやり取りを交わしながらアクアは俺の頭の上にうつ伏せで寝転がる。
 なんでも、個人的に一番楽な姿勢を研究した結果がこれなんだと力説された。

「わぁ、この子がお兄さんの精霊さんなのですね。可愛いです~」
「へぇ、やっぱり間近で観察すると自力で成長した精霊とは、
 異質な在り方をしているようですわね。
 やっぱり召喚に使用したアイテムがキーポイントですわねぇ」
「割と簡単に手に入るもの、
 ここのダンジョンで手に入るもの、
 集めようと思えばすぐ数が揃うもの。これがヒントですよ」

 現在ギルドで取り扱っている[スライムの核]はほとんどが俺経由で卸された品々である。
 元よりギルドへ卸される数もあまり無く常に品薄品。
 納品されたとしてもほとんどが魔法ギルドへ研究材料として送られ、
 市場に回らなかった事を考えれば、
 名の通った魔導師のセリア先生でも予想で正解に辿り着けなかったようだ。

「意地悪ですわね。
 まぁ、人様の研究成果を簡単に開示してくれとは言えませんわ」
「俺としてはアルシェの反則級に強力な前衛的魔法行使について、
 色々と聞きたいことがありますがねぇ?」
「流石のお兄さんにも秘密です。
 それにあの魔法の数々のほとんどは、
 加護があって水属性の浮遊精霊が多い私にしか出来ないことでしょうとセリア先生もおっしゃっていました」
「なら仕方ないね(笑)」
『ないねぇ~、ん?』
「あら?」

 俺の言葉を繰り返して遊んでいたアクアとセリア先生が何かに気がついたように声を上げる。
 途端に緊迫する空気があたりを包み込む。

「精霊たちが騒ぎ出しましたわね。
 何か良くないものが近づいて来ると・・・」
『ますたーっ!!!!!』

 アクア普段ののんびり口調から一転して切羽詰った語気で俺に危険を伝えてくる。
 確かに身の危険を俺の細胞という細胞が感じて警告を発しているし、
 急速に距離が縮まっていく気配もする。
 そちらへ目を向ければ綺麗な光沢をした、
 でも内蔵された魔力は確実に良くない・・・、
 はっきり言って禍々しい色合いをしている人の頭ほどの大きさをした珠が闘技場の真ん中、中空に浮かんでいた。

「あれは何だ!?」
『よくないもの!』
「それはわかっている!あれはこれから何を起こすかわかるか!?」
「おそらく水無月みなづき君と同じ・・・」
『せいれいかかい!』

 直後、珠の魔力が脈動を打ち始める。
 ドクン、ドクンと空気が揺れる。
 あれが生きているわけではないはずなのに聞こえてくる。
 アクアは精霊加階せいれいかかいと言ったならば・・・

「戦闘態勢!!!!!!」

 俺の声に動きを止めていた冒険者も、観客も、
 俺の傍にいた誰も彼もが現状迫り来る脅威を正しく認識して動き始めた。

「あの珠を急いで壊せ!!!!!」

 が、時すでに遅し。
 珠は地面から迫り出してきた岩に覆われ始めさほど間も置かず、
 珠は高さ3Mほどの球状になった岩で覆い尽くされた。
 俺の声に反応した幾人かが攻撃を敢行したが全て弾かれている。
 この状態に入った精霊加階は一切の攻撃を通さない。
 だが、あの巨大さから中身が出てくるまでにもう少し時間を要するはず!
 今のうちに戦闘準備を整えなければっ!

「あの状態になったら攻撃は一切通りません、
 ただしあの大きさから出てくるまで少し時間があるはずです。
 今のうちに冒険者の主要メンバーを集めて戦略を立てましょう!
 メリーっ!」
「はい、こちらに」
「足の速い者を集めて周辺を探って欲しい。
 あれは突然現れたがアクアは良くないものが近づいていると言っていた、
 なら付近に主犯が潜んでいる可能性がある。
 出来れば姿だけでも確認して欲しい!」
「かしこまりました!」
「ギルドマスター!アインスさんはまだ居ますか!」
「はぁーい!ここに居ますよぉ!」

 俺の指示に素直に従って斥候に出たメリーを見送り、
 次の対策に必要な人材を探すと実況席から手を振っているアインスさんを見つけた。
 セリア先生と同じく風魔法で声をこちらへ届けたようだ。

「この街の上位パーティを数組選んでこちらへ案内していただけますか!」
「はい、よろこんでぇ~!」
「待ってくださいな水無月みなづき君!王妃様っ!」
「そうですね。レイド戦になるでしょう」
「アインス、パーティは上位4組を案内してくださいな」
「4組ですね!セリア様、すぐに向かわせる手配をします!」
「レイド戦ってどういうものですか?
 俺の世界にもそういう言葉があるんですけど、
 やっても友人と2人で、とかだったのでよく知らないんですが」
「レイド戦というのは最大5組のパーティ、
 25人までで行う戦闘方法ですわ。
 基本は高ランクダンジョン最下層のボスを討伐する際に利用するものなのですけれど、
 王妃様からレイド戦とお達しをいただいたから、
 間違いなくこの辺で戦う機会の無い高ランクモンスターですわね」
「俺はそのレイド戦に参加する資格はありますか?」
「当たり前ですわっ!
 貴方は今やこの城下町でおそらく一番強い冒険者ですのよっ!
 あんな威力を持った攻撃を出す雑魚がどこにいるんですの!?」
「では、私はお兄さんのパーティに入りますね」
「もちろん、私も水無月みなづき君のパーティですわ」
「俺も一緒でいいか?」
「じゃあ、アルシェとセリア先生、
 ポルトーにパーティ申請を出すから参加宜しく。
 次は戦術会議だ。
 見たとおりあの岩石は土属性の精霊もしくは、
 それに類する存在を取り込んで発生しているため、
 魔法使いは攻撃の要になる。
 この街に住んでいる冒険者レベルでは防御に特化した土属性の敵にダメージを入れるのは難しいと思います」

「同意ですわね」
「私の魔法はどこまで通ずるのでしょうね」
「いざとなればアクアと協力すればダメージはかならず通るさ」
「はいっ!」
「じゃあ前衛陣はどうするんだ?」
「もちろんタンクに決まってるだろ」
「タンクとは?」
「攻撃を自分に向けさせて仲間を守る守護の盾です」
「確かに攻撃をしてもダメージに繋がらず、
 あまつさえ大ダメージを受けた場合戦力外になってしまいますものね」
「ポルトー、防具屋で大型の盾をあるだけ用意するように走って貰えるか?」
「あいよっ!」
「アクアちゃんはさきほどの模擬戦で消えてしまいましたが、
 同じ現象で倒せないのでしょうか?」
「いや、あれは核の耐久が低いのと貯蔵魔力が尽きたことが原因だから。
 あの大きさの核であれば砕くのがベストだ。
 魔力が尽きるのを待っていたら城下町が半壊するぞ」
「それは許容できる事態ではないね。
 私たちに出来ることはあるかね?」
「戦闘はこちらで行いますので国民に声を掛ける事と事後処理だけではないですか?
 いつものお仕事ですね(笑)」
「フフフ、わかった。
 後のことは任せてもらおう。この場はよろしく頼む」

 メリーに続き、アインスさん、ポルトー、王様と王妃様が去って行った。
 ポルトーは戦闘前に戻る予定だけどね。
 さぁ、あとは決戦に向けて身体を休めて全力で挑む準備をするだけだな。


 * * * * *
「じゃあ、レイド申請を送りますので各パーティリーダーは参加をお願いします」
「「「「はい、よろこんでぇ~!」」」」

 レイド申請をして正式なレイド戦が始まれば、
 周囲の一定範囲に戦闘の手が伸びることは無くなる今回のレイド範囲は、
 闘技場内になるだろうとセリア先生からお言葉もいただいたので、
 ほぼ確定事項として考えよう。
 先ほどもアインスさんが言っていた「はい、よろこんでぇ~!」は、
 最近冒険者達の間で流行になっている了解の意を表した言葉だそうだ。

「岩が割れ始めたら風魔法が使える人は準備を始めてください。
 合図はこちらから出します。
 セリア先生、敵の姿が見えたら予想でいいので正体を皆に伝えていただけますか?」
「わかりましたわ。
 これでも実戦経験だけではなく知識も豊富なつもりですから、
 お役に立って見せますわ」
「アルシェ。土属性相手に水属性の特性が強いアルシェの攻撃は効き辛いだろうが、
 目に見えなくともダメージはあるはずだ。
 ひとまず核があるであろう場所に攻撃を加えてみて欲しい。
 アクアの場合は核の移動は出来ないから一箇所から動かないはずなんだ」
「はいっ!」
「ポルトーは前線陣だな。
 とにかく防御を固めて相手の様子を伺って欲しい。
 何か、パターンや攻撃予兆を見抜いてくれると助かる。
 敵次第で回避主体に切り替えよう!」
「あいよー!」
「後方支援組みの指示はいりますかね?
 見ただけで残りHPとかわかりませんよね」
「では!私が後方支援組みの司令塔になりましょう!」
「アインスさん。
 いいんですか?ギルドマスターとはいえ机仕事がメインですよね?危ないのでは?」
「ギルドマスターになる前に鍛えてますから大丈夫です!
 経験則でHP管理をさせてもらいます!」
「では、メンバーに空き枠がある俺達のパーティへ来てください」

 ピシリッ・・・・・
 アインスさんを参加させた直後にその不吉な音は闘技場内に響き渡った。
 全員が全員、誰に言われるでもなく戦闘態勢に入っている。
 皆に漂うのは絶望ではない希望に満ちた空気であることに安堵する。
 そりゃあれだけ事前に準備が出来たんだからな、
 メンバーに欠けはなく人数は25人のフルメンバー、
 前線陣の大盾も予備を含めて防具屋に無理やり用意させた、
 攻撃はアルシェとセリア先生を筆頭に各パーティに1人はいるし、
 後方支援組みも揃っている。
 これで勝たないと未来はないが、
 何とかできると皆の意思がひとつになっているとわかる。

 ピシ・・パキパキッ・・・ガラッ・・ガラガラガラァァ・・ドシーーーンッ!
 ひび割れは進み大きい塊まで崩れ始めた。
 いよいよ誕生するようだ。

「UGAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!」

 品性も知性も無さそうな産声を上げて大きな岩から現れた巨体は3Mほどはあった。

「敵視認!敵はキュクロプス亜種!
 通常の種と比べると少々小型のようですわ!
 動きを良く見て攻撃に直に当たらないように注意してくださいな!」
「前衛陣!回避主体でヘイト管理するぞ!
 絶対に直に当たるな!自分が出来る全力で回避しろ!」
「「「「応!」」」」
「あれがキュクロプス・・・・、
 確かに本で見た個体より高さがありませんね」
「情報頂戴」
「元のキュクロプスはランク4ダンジョンに出現するモンスターです。
 亜種なのでさらに強いのかも定かではありません。
 攻撃に魔法は使用せず物理攻撃のみに特化したモンスターのはずです」
「亜種ってのが厄介だな。
 中の奴がどんな成長をしているのかもわからないし、
 せめて核がある位置が判ればなぁ」
『ぜんぶ、くだこぉ~』
「労力がでか過ぎてやってられないよ、核の部分だけでいいんだよ。
 まずは魔法で砕くことが可能なのか試してみないとね」

「UGAAAッ!!!!」

 動きは緩慢、されど一撃の威力は高しってか?
 無造作に振るわれた太くて固いだけがとりえの腕を回避し損ねて、
 大盾で攻撃を防いだ戦士は後方へ吹き飛ばされて壁を破壊してようやく止まったが、
 彼は気絶しているのか動きが無い。

「はぁ!?!?!?」

 おいおい、はじまりの街の大盾、物理カット率低過ぎッ!?

「前衛!絶対に直撃は死ぬ気で避けろ!
 自分で思う回避範囲の1.5倍、あぁなりたくなければ2倍は回避しろ!
 最悪大盾は捨ててもいい!どうせ安物だっ!
 バックステップが間に合わないと思った奴は逆に懐へ飛び込め!」

 改めてポルトーが指示した内容を叫ぶ小金持ちの俺の声を、
 セリア先生が全体へ届けてくれた。
 直後にキュクロプスは腕を振り回しながらゆっくりと一回転する。
 今度は誰一人として直撃しなかったものの掠った者が1名おり、
 ダメージは無さそうだけど大きく吹き飛ばされていた。
 どっちにしろかよっ!レベル差が酷過ぎる。
 早めに対処方法を考え付かないと前衛が持たないぞ・・・。

「せめて風属性の武器があれば俺も前に出られるんだけど。
 風魔法の制御出来ないか?」
『むりぃ~』
「風魔法であの技は出せないのですか?」
「炎で出せたのは属性一致の武器だったからで、
 水属性はアクアの補助がないと無理なんだよ。
 風を司る精霊でもいれば話は違うんだろうけどね」
「セリア先生が風属性ですよ?」
「え!?私ですの!?駄目ですわよ!
 私はすでにテンペスト様の配下なのですからね!」
「残念ですね。
 はぁ、考え込んでも仕方ありません、駄目元で攻めてみましょうか」
「魔法で攻撃も続けていますけれど大きく身体を削る威力はないですわね。
 核まで届かないダメージが修復されてしまっていますから、
 試すだけ試してみるのは決して悪い手ではありませんわね」
「頑張ります!」


 * * * * *
「≪アイシクルウェポン!≫シフト:アロー!」
「では、支援は任せますよセリア先生」
「任されましたわ。今から試しに攻撃を敢行いたします!
 水無月みなづき君が飛び込んできたら巻き込まれないように前衛陣は下がってくださいな!」
「「「「「はい、よろこんでぇ~!」」」」」
「大振りをした直後に行くぞ、アルシェ」
「はい、お兄さん!」
「アクアもよろしくな」
『よろこんで~』

 丁度、キュクロプスダンス(俺氏命名)が始まって皆が下がっているし、
 攻撃後の硬直も大きいからこのチャンスに近付いてしまおう。
 岩って事は鉱石かぁ。
 溶かすのは無理だろうからヒートショックを狙ってみるか。
 ダンスの終わりに外へ振り切った腕へセリア先生が矢を射る。

「アイスアロー≪ソニック!≫」

 ピュッ!ズガァァァァァァァァンッ!!!!
 風魔法で速度を上げたアルシェ特製の氷の矢が、
 キュクロプスの腕に刺さるとあり得ない程の轟音を撒き散らしながら、
 本当に一本の矢で体勢を崩してくれた。
 いまっ!!!

「≪ヴァーンレイド≫セット:イグニスソード!!」

 狙うは人体の第一急所ライン!

擬似ぎじ火竜一閃かりゅういっせんっ!」

 縦斬りで放たれた炎の一閃がキュクロプスにぶつかり、
 熱風が辺り一面に吹き荒ぶ。
 ダメージに繋がったかは分からないが、
 表面は薄っすらではあるが赤く熱せられているようで、
 効果がまるっきりないわけではないらしい。
 イグニスソードからすぐさまショートソードへと持ち替えて構えを取る。

『≪あいしくるえっじ≫せっと:しょーとそーど』
氷竜ひょうりゅう・・・一閃いっせんっ!」

 間髪いれずアクアからエンチャントを受け取りすぐさま放つ。
 熱されたキュクロプスの顔・胸・腹の3点を目指した氷の一閃が直撃して、
 急速に身体の熱を冷やしていく。
 発生した白煙の先からはプシューーーーー!という蒸気特有の音が聞こえる。
 その中で確かに聞こえた期待通りの音を合図に声を上げる。

「セリア先生!視界の回復を!アルシェ突撃とつげき準備!」
「≪エアースラッシュ!≫」
「≪アイシクルウェポン!≫シフト:ランサー!≪アイシクルエッジ!≫」

 ピシリッ・・・ピシリッ!
 攻撃箇所は伝えてあるから、あと俺に出来ることは攻撃が通ることを祈るのみ。
 セリア先生の風魔法で視界は確保されてキュクロプスの状態を確認できた。
 やはり、音の正体はヒートショックで割れ始めた奴の身体であった。
 アルシェの魔法で氷槍3本の精製と地面の凍結が始まる。

「≪エレメンタルジャベリン!≫シフト:トライデント!≪アイシクルチャージ!≫」

 槍の数は3本。
 腹をアルシェが、あとの2箇所を浮遊精霊が攻撃する算段だ。

愕天王がくてんおう突喊とっかんっ!!!!!」
「「「「「「「「行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」」」」」」」」

 俺のテンションが上がる入れ知恵を遺憾無く発揮して、
 アルシェが突撃とつげきを開始する。
 前衛も後衛も関係なく全員がこの攻撃に期待を寄せていた。
 誰もが希望を見ていた。

 バンッ!!!!!!!!

 という轟音と共にキュクロプスの前面が爆発して土煙が巻き起こる。
 これはもう岩に攻撃した音じゃないぞ!?
 視線という視線はキュクロプスに向かっている。
 やったか?と遠くから聞こえた気がしたが悲しいけどこれ、
 まだファーストトライなんだよね。
 途端に土煙の向こうからアルシェが飛び出してくる。
 なんだそのダンプに引かれましたって具合の飛び方は・・・っ!

「アルシェッ!」

 俺が声を発するとハッとしたように中空で体制を整えて、
 凍った地面に滑りながら着地する。

「大丈夫かっ、アルシェ?」
「私は大丈夫ですが・・・すみません。
 核まで貫けませんでした、手前の岩盤で勢いが殺されてしまって・・・」

 アルシェの安否を確認してキュクロプスに目を向ける。
 土煙が晴れた先には、
 攻撃された箇所を徐々に修復している岩の巨人が棒立ちになっていた。
 ダメージは通っているが、核を砕かない事には俺達の勝利はない!

「核はどうだ!?」

 前衛陣も前へ詰め寄り、目を皿のようにして核を探す。
 このまま破壊出来ていれば御の字。破壊出来ていなければ位置の確認は必須。
 土煙で見えづらいが魔法で飛ばしてもキュクロプスに戻ってくる。
 体を構成している物質という事なのだろうか?

「お兄さん、ありました!」

 アルシェが指差す先。核は胸の中心より左に寄っていた。
 残念ながら攻撃の直撃を免れた核は傷ひとつ無い姿を曝け出していた。
 そう、曝け出せていると言う事は・・・!

「セリア先生!!」
「わかってますわ!!」

「《ソニック!》」
 ピュッ!ガァァァァァァァン!!

 アルシェが用意した矢は1発のみ、
 まさかトライ1回で核の位置を特定できるとは思っていなかったため、
 魔力温存に回してしまっていた。
 セリア先生の渾身の矢は身の詰まった珠に当たりはしたが貫けず地に落ちてしまう。
 だが、まだだっ!

「許可でたよ!」
「っ!」
『っ!』

 遊び半分で伝えていた緊急アタックの開始を告げる。

「・・・合いましたわっ!!」
『≪はくしゅっ!≫』(*゜▽゜ノノ゛☆パンッ!

 詠唱短縮で属性魔力をエンチャントする連携。
 ただ威力が上がるだけだが今はそれだけで十分なはず!
 もともと試すだけのファーストトライだっ!
 当たって砕けろ!!ゴライアス!!

「《アクアソニック!》」

 ピュッ!!ガッギィィィィィィィィン!!!!
 ナイス!!芯は既に修復で隠されていたが、
 まだ露出していた部分へセリア先生の矢が刺さり、
 そのまま硬度で軌道を逸らされつつも確実にガリガリ削っていく!
 全体の5分の1くらい削れたんじゃないか!?

「「「「「「「「よっしゃーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」」」

 皆が歓喜する!まだ倒せた訳では無いが核を削る事が出来たということは、
 いずれ破壊出来るだろうと思い至るには十分な材料だった。
 アルシェも、セリア先生ですらガッツポーズをしている。

「UGAAAAAAAAAA・・・」

 元気がないキュクロプスは弱っているように見える。
 あの珠は奴にとっての心臓に当たるものなのだから、
 多少傷付いただけでも痛手になる。
 と、巨人の肩から左腕が砂に戻り崩れ落ちた。
 良く見ると修復もスピードが落ちており、
 攻めれば勝てると妄想するくらいには俺も勝ちを意識した。

「・・・UGUUUUUUUUU!!!!!!!!」

 全員の意識が逸れたその瞬間に残った右手を地面に叩き付ける。

『まりょくがあつまってるよ!!!』
「っ!総員回避ーっ!!!!!!!!!」

 叫びは届いたのだろうか。
 俺は叫ぶと同時にアルシェを抱きしめてキュクロプスの足元に飛び込む。
 直後。

 ブウゥゥゥゥゥゥゥゥンン!!!!!

 聞いたことの無い音量の風切り音と僅かな悲鳴を耳に残しながら巨大な足の傍を滑る。
 そのままの勢いで立ち上がり、キュクロプスの背後へ全力で走り抜ける。
 壁際まで距離を開けて・・・、
 状況を・・・あぁ、クッソ!
 何が起こった?いや、認めたくないだけだよ!わかってるよ!

 振り返り、キュクロプスの後ろ姿を視界に入れる。

「お、お兄さん・・・あれ・・・」
「ああ、ありゃ・・・」

「魔法で棍棒を精製しやがった・・・」
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