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藤堂を斬り捨てた君菊はすぐさま助太刀に入る。
御陵衛士は伊東の収容された駕籠を護って油小路通を北上しようとした。しかし、たちまち新撰組に取り囲まれてしまう。
すぐに乱闘となったが、襲いかかる新撰組はしっかりと武装をしていたが、御陵衛士たちは平服のままである。
圧倒的不利の中で、まず富山が新撰組の攻撃を切り抜け、さらに三木、篠原、加納、橋本がこれに続いた。
現場を離れなかったのは服部と毛内の二人で、辻の東北角に追い詰められてしまう。
うって出た毛内だったが、背後から一刀を浴び、さらに側面から足を斬り払われ、うつ伏せに触れ伏せた所を何度も斬りつけられ絶命する。
一人残された服部は、何十人もの敵を相手に獅子奮迅の戦いぶりを見せていた。
中に鎖の入った防寒着を着用していたことが服部の命を繋ぎ留めていたのだ。
提灯を腰に差し、大刀、脇差を両手に持って暴れ回り、取り巻く新撰組を悩ませいていたが、地面を思い切り蹴り上げ、空から首を狙って斬りかかった君菊の攻撃と原田の槍にて倒れる。
新撰組は服部が動かなくなっても遺体がばらばらになるまで何刀も浴びせ続けた。
伊東らを殺害し、事実上、御陵衛士の壊滅に成功した新撰組は、午前四時ごろになって現場を引き揚げている。
後にこれを油小路事件と呼ばれる。
「君菊!怪我はないか」
「隊士も充分に居たしないわよ。これはただの返り血」
まだ太陽も上がっていない頃、歳三は君菊のことが心配でずっと起きたままだった。
眠ってなんかいられなかったのだ。
大切な人が戦場で戦っている。自分は何もしていない。それだけで人間はこんなにも不安に思うものなのか。
歳三は身をもってそのことを思い知った。
「良かった…」
「血がついちゃうから離した方がいいと思うよ」
「構わねぇ」
「洗うの私なんだけどなぁ」
抱きしめてくる歳三に苦笑いで答える君菊。
そんな中、君菊は藤堂の最期を思い出していた。瞳に自分が映り込んでいるのがわかった。
藤堂が最期、何を思ったのかはわからない。
付き合いは長い方の人間だった。性格は君菊から見ればいい人だったと思う。
でも、家の教えのおかげで今の自分は何も思わない。
それが少し悲しいことだと思った。
何も思えないことが悲しいだなんて変だな、と思いながらも君菊は歳三の背中に腕を回した。
歳三の腕は相変わらず震えていた。
七条油小路から脱出後、薩摩藩に匿われていた御陵衛士の残党が、新撰組への復讐を開始するのは、一ヶ月後のことである。
朝廷により天皇中心の国家への復帰が宣言された。
さらに徳川慶喜が政治戦略として願い出ていた征夷大将軍の辞任が認められ、京都守護職、京都所司代などの職列の廃止が発表された。
慶喜、松平容保、松平定敬は京都に滞在する名目を奪われる。
この討幕派による政変のことを「王政復古の大号令」という。
慶喜は討幕派との軍事的接触を避けるため、十二月十二日に大阪城に移っている。
これに伴い、新撰組は一旦、二条城の留守番を命じられるが、その後京都南方の伏見の警備を担うことになり、五年近く慣れ親しんだ京都の地を離れ、十六日に京都守護職と共に廃止されていた伏見奉行所に入った。君菊も入っている。
十八日朝。
御陵衛士の残党は、新撰組が京都を離れた後も沖田総司が療養しているという不動堂村屯所付近の近藤の妾宅を襲撃している。
確かに起きたは新撰組の伏見への移動が落ち着くまで近藤勇の妾宅で療養していたが、前日の十七日に新撰組からの迎えがあり、伏見奉行所に引き移っていた。
襲撃が空振りに終わった元御陵衛士だったが、午後二時ごろに近藤勇が二条城に入ったとの情報を入手する。
帰途に利用する伏見街道沿いで近藤を待ち伏せることになった元御陵衛士は二丁の鉄砲を用意していた。
午後四時ごろ。
二発の銃声が橙色に染まる空の下で響きわたる。
近藤の右肩には一発の弾丸が撃ち込まれていた。
元御陵衛士・富山弥兵衛の放った弾丸が命中したのだ。
二発目はどうにか近藤は避けた。
護衛の隊士は島田魁らの数人だったが、かろうじて落馬をしのいだ近藤に鞍壺を離さないように声をかけると、馬の尻を刀で叩いた。
伏見奉行所に落馬することなく帰り着いた近藤は、血を滴らせながらも一人で歩いて建物内に入った。
「おかえりなさい、勇さ…勇さん!!」
君菊が肩をおさえながら奉行所内に帰ってきた近藤を見て駆け寄る。
手からは血が滴り落ちており、素人目から見ても重症だった。
「誰か!歳三を呼んでください!急いで!!」
その頃歳三は、溜まっていた仕事を一つ一つ片付けていた。
夕暮れ時。
そろそろ近藤たちが二条城から帰ってきてもおかしくはない。
迎えくらい副長としてやるべきだと仕事をひとまず切り上げた時だった。
「副長、今よろしいですか!」
「なんだ、どうした」
「局長が肩を撃たれて重症です!!」
「な、なんだって!!」
平隊士からの報告を聞いて、自室の襖を乱暴に開ける歳三。
居場所を聞き、医者を呼ぶように隊士に伝えると、すぐさま駆けつけた。
「勇さん!」
「歳三、遅いわよ」
そこには肩が血まみれになって横たわる近藤と、それをどうにか止血しようとしている君菊の姿があった。
御陵衛士は伊東の収容された駕籠を護って油小路通を北上しようとした。しかし、たちまち新撰組に取り囲まれてしまう。
すぐに乱闘となったが、襲いかかる新撰組はしっかりと武装をしていたが、御陵衛士たちは平服のままである。
圧倒的不利の中で、まず富山が新撰組の攻撃を切り抜け、さらに三木、篠原、加納、橋本がこれに続いた。
現場を離れなかったのは服部と毛内の二人で、辻の東北角に追い詰められてしまう。
うって出た毛内だったが、背後から一刀を浴び、さらに側面から足を斬り払われ、うつ伏せに触れ伏せた所を何度も斬りつけられ絶命する。
一人残された服部は、何十人もの敵を相手に獅子奮迅の戦いぶりを見せていた。
中に鎖の入った防寒着を着用していたことが服部の命を繋ぎ留めていたのだ。
提灯を腰に差し、大刀、脇差を両手に持って暴れ回り、取り巻く新撰組を悩ませいていたが、地面を思い切り蹴り上げ、空から首を狙って斬りかかった君菊の攻撃と原田の槍にて倒れる。
新撰組は服部が動かなくなっても遺体がばらばらになるまで何刀も浴びせ続けた。
伊東らを殺害し、事実上、御陵衛士の壊滅に成功した新撰組は、午前四時ごろになって現場を引き揚げている。
後にこれを油小路事件と呼ばれる。
「君菊!怪我はないか」
「隊士も充分に居たしないわよ。これはただの返り血」
まだ太陽も上がっていない頃、歳三は君菊のことが心配でずっと起きたままだった。
眠ってなんかいられなかったのだ。
大切な人が戦場で戦っている。自分は何もしていない。それだけで人間はこんなにも不安に思うものなのか。
歳三は身をもってそのことを思い知った。
「良かった…」
「血がついちゃうから離した方がいいと思うよ」
「構わねぇ」
「洗うの私なんだけどなぁ」
抱きしめてくる歳三に苦笑いで答える君菊。
そんな中、君菊は藤堂の最期を思い出していた。瞳に自分が映り込んでいるのがわかった。
藤堂が最期、何を思ったのかはわからない。
付き合いは長い方の人間だった。性格は君菊から見ればいい人だったと思う。
でも、家の教えのおかげで今の自分は何も思わない。
それが少し悲しいことだと思った。
何も思えないことが悲しいだなんて変だな、と思いながらも君菊は歳三の背中に腕を回した。
歳三の腕は相変わらず震えていた。
七条油小路から脱出後、薩摩藩に匿われていた御陵衛士の残党が、新撰組への復讐を開始するのは、一ヶ月後のことである。
朝廷により天皇中心の国家への復帰が宣言された。
さらに徳川慶喜が政治戦略として願い出ていた征夷大将軍の辞任が認められ、京都守護職、京都所司代などの職列の廃止が発表された。
慶喜、松平容保、松平定敬は京都に滞在する名目を奪われる。
この討幕派による政変のことを「王政復古の大号令」という。
慶喜は討幕派との軍事的接触を避けるため、十二月十二日に大阪城に移っている。
これに伴い、新撰組は一旦、二条城の留守番を命じられるが、その後京都南方の伏見の警備を担うことになり、五年近く慣れ親しんだ京都の地を離れ、十六日に京都守護職と共に廃止されていた伏見奉行所に入った。君菊も入っている。
十八日朝。
御陵衛士の残党は、新撰組が京都を離れた後も沖田総司が療養しているという不動堂村屯所付近の近藤の妾宅を襲撃している。
確かに起きたは新撰組の伏見への移動が落ち着くまで近藤勇の妾宅で療養していたが、前日の十七日に新撰組からの迎えがあり、伏見奉行所に引き移っていた。
襲撃が空振りに終わった元御陵衛士だったが、午後二時ごろに近藤勇が二条城に入ったとの情報を入手する。
帰途に利用する伏見街道沿いで近藤を待ち伏せることになった元御陵衛士は二丁の鉄砲を用意していた。
午後四時ごろ。
二発の銃声が橙色に染まる空の下で響きわたる。
近藤の右肩には一発の弾丸が撃ち込まれていた。
元御陵衛士・富山弥兵衛の放った弾丸が命中したのだ。
二発目はどうにか近藤は避けた。
護衛の隊士は島田魁らの数人だったが、かろうじて落馬をしのいだ近藤に鞍壺を離さないように声をかけると、馬の尻を刀で叩いた。
伏見奉行所に落馬することなく帰り着いた近藤は、血を滴らせながらも一人で歩いて建物内に入った。
「おかえりなさい、勇さ…勇さん!!」
君菊が肩をおさえながら奉行所内に帰ってきた近藤を見て駆け寄る。
手からは血が滴り落ちており、素人目から見ても重症だった。
「誰か!歳三を呼んでください!急いで!!」
その頃歳三は、溜まっていた仕事を一つ一つ片付けていた。
夕暮れ時。
そろそろ近藤たちが二条城から帰ってきてもおかしくはない。
迎えくらい副長としてやるべきだと仕事をひとまず切り上げた時だった。
「副長、今よろしいですか!」
「なんだ、どうした」
「局長が肩を撃たれて重症です!!」
「な、なんだって!!」
平隊士からの報告を聞いて、自室の襖を乱暴に開ける歳三。
居場所を聞き、医者を呼ぶように隊士に伝えると、すぐさま駆けつけた。
「勇さん!」
「歳三、遅いわよ」
そこには肩が血まみれになって横たわる近藤と、それをどうにか止血しようとしている君菊の姿があった。
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