織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅

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第二部『日ノ本統一! そして…』

第四話

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山名家に向う途中の一色家が織田軍の進軍は不当だと訴えて来ていた。


その一色家に交渉した拝郷家嘉は先の謀反の首謀者として磔獄門で死亡していた為に内容が分から無かったが、謀反人と交渉した内容は無効と成り、一色家の訴えを退けた織田軍は一色義道居城・宮津城を大筒で攻撃し城自体を完膚無きまでに壊し尽くし、一色家は滅亡した。


そして、織田軍は山名祐豊居城・鳥取城へ進軍を開始した。


信長「おい権六、山名祐豊との交渉はどんな内容に成っておるのだ?」
「はっ!それが交渉を行ったのが盛政で…」

信長「何、またか!それではまた休戦内容が分からないではないか!」
「また、一色と同じ様に条約を無下にして攻撃致しまするか?」

信長「それでは品が無いな。権六!貴様が鳥取城へ行き降伏させて参れ!」
「え?某がですか?」

信長「お前は元織田家筆頭家老だったのだ、それくらい出来なくてどうする?」
「分かりました!ご期待に沿う様、行って参ります。」


そう言うと勝家は鳥取城へ向うのであった。


勝家「開門をお願い致す!某は織田信長様の家臣・柴田勝家である!山名祐豊様に取り次ぎ願う!」

と、門前にて大声で叫んだ!


豊国「叔父上!織田家の柴田という者が訪ねて来ていますが、お会いに成られまするか?」
「柴田じゃと?確か佐久間盛政の上役の者か。会うので来てもらえ!」

そして勝家は山名祐豊に会うやいなや
「山名祐豊でございますな?某は織田家家臣・柴田勝家にござる。先日、盛政がお世話になり有難うございます。」

祐豊「いやなに、構わんが今回の訪問はいったい何でござるか?」
「はっ!先程申した佐久間盛政が信長様の弟君を斬って逆賊として葬られてしまい、盛政と交わされた約定が無効になり申した。」

祐豊「ほう。態々ご苦労な事だな。で、何か?宣戦布告にでも来たのかな?」
「いえ、宣戦布告というより降伏勧告に来たと言うた方が正解なのだすが…」

祐豊「降伏しろだと?馬鹿を申すな!たわけ!!」
「たわけてはおらん!真面目な話、この鳥取城は四方八方取り囲んでおる!織田家の最大火力の大筒隊300がな。悪い事は言わん!降伏してはくれんか?」

祐豊「大筒?おい豊国。大筒とは何の事か分かるか?」
「はっ!聞いた話によると、たった1発で城門を木っ端微塵に吹き飛ばす事が出来る武器と聞き及んでいます。値段も目玉が飛び出る程高価だと聞いています。」

祐豊「それが300か… うむ。柴田殿、もし降伏したらワシらはどうなる?」
「当然ですが、祐豊殿は隠居して同門である豊国が我らの軍門に下るかと。」

祐豊「うむ。では逆の場合はどうなる?」
「この日ノ本から山名家が城ごと消えるだけかと…」

祐豊「城ごとか… 分かった降伏する!豊国よ、織田家で偉くなって山名家を再建致せ!分かったな。」
「はい!!必ずや!出世してみせまする!」


こうして、柴田勝家の強引な交渉で山名家が織田家の軍門に下ったのだが、もう一つ信長から別件の用を言い渡されていた。


(このワシが、あの忌々しい奴に報告する事になろうとはな!)


そう、勝家がもっとも嫌う相手とは秀吉の事である。


その秀吉に会う為、一隊を率いて宇喜多家の出城・上月城を迂回し赤松家の置塩城に向うのであった。



赤松家の置塩城では、羽柴軍が既に陥落させ逃げた小寺政職や赤松家に連なる者の処刑を行っていた。

秀吉「赤松家に連なる者は女子供とて容赦せず打首にした後、土に埋葬せよ!しかし、小寺の首は犬の餌にしてやれ!犬も喜ぶであろう。よいな、官兵衛。」
「はっ!それで宜しいかと…(この羽柴秀吉という男は、織田信長の命令なら何でも実行するのか。)」

秀吉「それでは、次は宇喜多家の出城・上月城であるな。計画通り、光秀へ伝令を送れ!2日後に、こちらも進軍を開始する。官兵衛はどうする?」
「某はこのまま秀吉様に付いて行き見聞を広めたいと思います。」

秀吉「ほう。それは良い心がけじゃ。ワシの戦ぶりは大殿譲りであるから充分見聞になると思う。」
「はっ!あり難き…」


官兵衛の言葉が途中で途切れたと思ったら、西から織田の家紋が入った旗印の一団が近付いて来た。


勝家「そこにおるのは、中国地方攻略を仰せつかった百姓の小汚い猿ではないか!」


その言葉に素早く反応した官兵衛は
「秀吉様に向って失礼ですぞ!」


すると、勝家は笑みを浮かべ
「これは異な事を、羽柴秀吉様とは一言も言ってはおらんが?おぬしは、百姓の小汚い猿が誰の事か分かったという事になるなぁ。」

官兵衛「うぬぬぬ。(何なのだ?この黒髭のじじぃは!)」

秀吉「勝家様、そう虐めてくれぬな。その者はこの城を落とす為に頑張った功労者でな、名前は黒田官兵衛と申す者です。」


また勝家はニヤニヤしながら
「ほう。猿のお供か?」

秀吉「勝家様!」
「おっと、こんな事を話に来たのではない!」

秀吉「と、申しますと?」
「大殿が某の代わりに、貴様の助勢に来て山名家を降伏させた事を伝えに来たのだ。」

秀吉「え?は?某の助勢に、で、ございまするか?それはまた、どうして?」
「某が失敗して大殿が来ただけじゃ!」

秀吉「失敗ですか!それはまた…」
「何じゃ!その顔は!!ワシが失敗すると、そんなにおかしいか?」


秀吉は笑いを堪えて
「くくく。失礼!で、某にどうせよと大殿は言ってるのですか?柴田様。」

勝家「いや、伝えろとだけしか言わなんだぞ。」
「そうですか。では、某はこれから配下や兵達を労いを兼ねた宴会を催すのですが、柴田様も良ければ参加致しませんか?(この男は大嫌いだが、後でネチネチと言われたくないし、ここで恩を売っておいた方が何かと都合が言いな。)」

勝家「おお!宴会という事は酒が振舞われるのであろう?是非、参加したい!よいか?(さっき虐めた官兵衛とか申す男に謝罪の一言でも言っておくかの。)それと、先程は失礼したな官兵衛殿。」
「いえ!滅相もありません!織田家筆頭家老・柴田勝家様とは知らず、ご無礼を!」

勝家「よせ!(ワシの心境を見透かしているのか?こやつは!!)ワシはそんな大層な者ではない。貴殿が許してくれるなら良い!そんな事より、酒を振舞え!」


(あの勝家様が一介の足軽ごときに謝ったぞ?!何か悪い物でも食ったのか… くわばらくわばら。)


勝家「羽柴秀吉!そんな所に突っ立ってないで、こちらに来て一緒に飲もうではないか!」
「(は?本当に、どうされたのじゃ?後が怖いのじゃが…)はっ!今、参ります!」

と、赤松家に勝った戦勝を祝した宴会で盛り上がったのであった。


                 ★


柴田勝家が羽柴秀吉と会っていた頃、信長と政宗は尼子家の月山富田城の攻略をどうするか軍儀を開いていた。


信長「衰退したとはいえ、あの月山富田城という城は岐阜城の様な難攻不落の城だ。いつもの様な大筒でとはいかんぞ?蘭丸はどうみる?」
「はっ!後方は山ですから岐阜城より攻め辛いかと。」

政宗「某は尼子の兵を野戦に引きずり出し、義兄上が兵力が少なくなった隙に城を奪うという策が良いと考えまする。」
「しかし、のぅ政宗。その策を実行するには囮(オトリ)が必要であろう?ワシがやっても良いが…」


そこに聞きなれた声がし
「信長殿!いや、大殿!ワシがその役を受けてやろう!」

信長「おお!!その声は謙信ではないか!」
「久しいな。国元は宇佐美らに任せてワシと…」

柿崎「某が先発隊で来たのだ!」
「おお!!いや、しかし朝倉はどうしたのじゃ?」

謙信「朝倉?そんなゴミなど、とうの昔に滅ぼしたわ!のぅ景家。」
「ですな。一族皆殺しにして憂いを取除いておきました!」

信長「それは重畳だ。感謝致す。」
「なぁに、それと金ヶ崎城の前田殿だが城に燻ってては宝の持ち腐れだと思って、あの猿殿に加勢せよと命じたのだが…」

信長「さすが、戦上手だな。犬千代は猿と仲が良いからな。」


それを会話を聞いていた政宗は大笑いしながら
「わっはっは!猿と犬は犬猿の仲なのに仲良しか!こいつは傑作だな!」

信長「それもそうだの!わっはっはっは!」


そして一同は真剣な面持ちに戻り
「謙信。悪いが尼子の挑発を頼めるか?」

謙信「織田家に仕えての最初の役目じゃ!大殿には大船に乗ったつもりで結果を待っていてもらおうではないか!」
「おお!心強いな!」

謙信「それはそうと、その男か女か分かり辛い者は誰かの?」
「そうか、初対面だったな。この者はだな…」

蘭丸「大殿、ここは某が。では、改めまして某の名は森蘭丸。森可成の次男ですが先刻、略式ではありますが信長様と夫婦に成りました。」


その言葉に、謙信と景家が困惑した。


そう、あの謀反戦が終わって政宗に仲介役を頼み信長は蘭丸を側室にしていたのだった。


景家「お、大殿?その者と祝言を?男とでありますか?」
「いや、この者は…」

謙信「おい、景家!大殿はそういう趣味の持ち主という事だ!もう、この日ノ本を獲ったというても良い御仁じゃ。誰も文句は言わんわい。」
「それもそうですな!」

信長「いや、話を…」


その会話を傍観していた政宗であったが笑いを堪え切れずに
「くっはっはっはっは!実に面白い!あの義兄上がしどろもどろになる光景が面白くて堪らんわい!」

景家「何がそんなに面白いのだ、政宗殿。」
「蘭丸は正真正銘、女(オナゴ)だ!」

謙信「いや待て、待て、待て!蘭丸殿は自分で次男と申したではないか?そうであろう?蘭丸殿。」
「まぁ、いつもの癖です。申し訳ありません。」

と、顔が真っ赤になって照れる蘭丸であった。


謙信は笑みを浮かべながら
「それならそうと言うて下されば… それにしても、戦場に側室を侍らせるとは流石は大殿。」

信長「いや、こやつは側室の前にワシの参謀でもあるし、腕っ節は政宗と同格ですからな。」
「なんと!?それは、誠ですかな政宗殿!」

政宗「はぁ、某も自信をなくし掛けましたからな。まさか、おなごと同格とはと…」


さっきまで大笑いしていた政宗が落ち込んだ。


謙信「ほう。これは本当らしいのぅ。ワシもうかうかしてられんわい!」
「謙信様!ご冗談を!某など足元にも及びません!」

と、軍儀のくせに和やかな雰囲気が漂っていたのだった。




※前回登場した武将の紹介がまだだった為説明しておきます。

【朽木元綱(クツキモトツナ)。近江高島郡朽木谷の豪族で足利家から織田家に鞍替え。本能寺の変後は秀吉に従い関ヶ原では東軍(三成)を裏切り西軍(家康)に付いた。】

【塙直政(バンナオマサ)。信長の親衛隊・赤羽衣衆の一人。山城守護代・大和守護代を経て本願寺包囲軍に参加し敵本拠地を攻めるが一向一揆軍に殺された。】

【赤羽衣衆(アカホロシュウ)。信長の親衛隊。】

【不破光治(フワミツハル)。美濃斉藤家家臣。龍興の代に斉藤家から織田家に鞍替え。後に柴田勝家の与力となり、北陸一向一揆平定に貢献した。】

【堀秀政(ホリヒデマサ)。美濃の豪族出身で、信長の側近として仕え各軍団長との連絡役を務めた。合戦時の指示が上手かった為「名人」とも呼ばれ、後に秀吉の元で越前・北ノ庄城の城主となった。】



織田家岐阜城の匹敵する難攻不落の山城である月山富田城(現在の島根県安来市広瀬町富田)を攻略すべく、軍儀を行っていた織田軍は上杉謙信を囮に使った誘引し城から主だった兵を誘き寄せ、空になった城を落とす策に決した。


信長「では、謙信。頼んだぞ!」
「はっ!景家!行くぞ!越後兵の戦いぶりを大殿に見せる良い機会じゃ!」


そう言って謙信は10万もの兵を1000の兵に分けた部隊を構成し、月山富田城向けて進軍を開始した。


尼子の月山富田城からは小高い丘や谷が存在した為(史実の地形とは異なる)、上杉軍(織田軍)の全体兵力が把握出来ない上に霧まで発生していたので前方の約3000位までしか見えなかったが旗印だけははっきり見えていた。



【尼子義久(アマゴヨシヒサ)。西暦1560年に義久の父が急死した為に家督を継ぐ。しかし、その6年後には毛利の重圧に堪えきれず降伏し幽閉された。後に毛利家の客分となった。】

【牛尾幸清(ウシオユキキオ)。尼子家3代に仕えた重臣。義久の代に月山富田城を毛利に包囲されるも抗戦したが、開城直前に毛利家に降りた。】

【山中鹿介(ヤマナカシカノスケ)。毛利家によって主家である尼子家を滅ぼされ、義久のはとこの尼子勝久アマゴカツヒサを擁して尼子家再興を企てた。その覚悟を「我に七難八苦を与えたまえ!」と誓ったらしい。しかし、望み叶わずこの世を去った。】



幸清「義久様!物見の知られでは、なんとあの越後の上杉軍の旗印を目撃したとのよし。」
「何だと?!毛利の次は上杉だと?では、あの噂は本当らしいな。」

幸清「織田が日ノ本の半分を手中に収めたという噂ですか?」
「そうだ!戯言と思っておったがな。幸清よ、どうしたものかの?」

幸清「どうするも何も、ここは篭城でしょう!」


そこへ若武者が
「あいや待たれよ!ここは城を出て敵を屠るのが良いかと!」

義久「誰かと思えば鹿介ではないか!何故、そう思う?」
「はっ!相手はあの越後の軍神・上杉謙信ですぞ!その軍神を倒す事が出来れば毛利にも脅しが効くと思った次第です。」

義久「それは勝てればだろう?幸清よ、我が軍と上杉軍との兵力差は如何ほどか?」
「え?打って出る気ですか?」

義久「打って出るかは戦力次第だ。早よせい!」
「はっ!我が尼子家との差は約2倍。」

義久「何?!2倍もあるのなら篭城しかないではないか!!」
「いえ、逆です!我が軍が兵力で勝っています!」

鹿介「義久様!好機ぜすぞ!今、打って出ればあの上杉謙信に勝てます!」
「うむむ。(上杉謙信は良いとして、肝心の織田信長は何処にいるのだ?それが分からぬと、おいそれと打って出れないではないか!)」

鹿介「何をためらってまするか?」
「上杉謙信がもし囮とするなら、この城から兵を出した隙を突かれるやも知れんぞ!」

幸清「殿に言う通りだ。もう少し引き付けてから判断した方が…」
「しかし!織田の本軍が来たら来たで、我が軍が不利になるのは必定ですぞ!」


尼子義久は双方の家臣の意見に悩んでいたが、先方の上杉軍からの使者が義久の決断より早く来てしまったのであった。


幸清「殿!上杉からの使者が来ておりますが、如何致しましょう?」
「如何も何も、通せ!」

幸清「はっ!しかし、危険ではありませぬか?」
「大丈夫だ。早くしろ!」


義久の命で幸清は上杉の使者を通すと
「お初にお目にかかります。殿、いや上杉謙信の名代でまかりこしました者でございます。さて、今回の用件を殿から預かって来た、この文を読ませて頂きますが宜しいでしょうか?」

義久「うむ、許す。」
「しからば、〔尼子義久殿。ワシは上杉謙信だ。故あって織田家の属国になったが尼子義久殿と言えば、あの尼子経久殿の血を受けしひ孫であろう?なら、そんな城で燻ってないでワシと、この上杉謙信と戦ってみたいとは思わんか?月山富田城から見えておるのだろ?さぁ、早く来ませい!経久殿が草葉の陰で悔しがってるぞ!〕と、申しておりますが返答は如何に?」



【尼子経久(アマゴツネヒサ)。足利幕府が弱体し始めた時、守護代から戦国大名に成った人物。中国三代謀略家の一人で謀略の天才としても有名。】



義久「まさか、爺様を引き合いに出してくるとはな!そこまで言われて引き下がれるか!」

幸清「あいや、お待ちを!それでは織田信長の思う壷ですぞ!」
「どうせ、この城で篭城しても命が一月二月延びるだけだ!それなら、あの謙信公と戦かって見たいではないか!違うか?幸清。」

幸清「しかし…」
「もう決めた!幸清が反対しても行くぞ!いいな。」

幸清「分かり申した!某も殿と共に行きます!そうと決まれば、鹿介!出陣の準備じゃ!」
「おお!それでこそ尼子魂と言う物だ!すぐ準備に取り掛かりまする!」

義久「という事だ。謙信公には、そのように伝えて頂けるか?」
「分かり申した!では御武運を!某はこれにて失礼致す!」


上杉の使者は、帰って行った。


義久「御武運を、かぁ…(上杉謙信。爺様が生きていたら、どうなっておったかのぅ…)」

鹿介「相手にとって不足無しでござるな!」


そして、その報が謙信に伝えられた。


謙信「尼子義久… 中々の人物と見た!よし皆に告ぐ、尼子家当主・尼子義久が、この上杉との戦を所望しておる!ワシはこの戦を信長様に見せつけ、後世の語り部にして貰うつもりじゃ!この戦、兵力的には圧倒しておるが、相手はあの尼子経久殿の血を受け継いだひ孫だ!なめてかかると、蛇が出る恐れがある!皆、気を引き締めて望んで欲しい!景家!陣を編成しろ!」
「して、その陣形は?」

謙信「車懸りの陣じゃ!!織田信長様が見ているのだ、恥ずかしく無い戦をご覧にいれるのじゃ!命を惜しむな!名こそ惜しめ!死なんと戦えば生き、生きんと戦えば必ず死する物なり!運は天にあり!鎧は胸にあり!手柄は足にあり!この戦、毘沙門天に賭けて必ず勝つ!ゆくぞ!!」
「川中島、再びといったところですな!」


こうして、謙信は月山富田城の南に位置する富田川に向かった。


この時の天候は濃霧…


それは、まるで川中島の合戦のようであった。


                   
                 ★



義久「上杉軍は今どの辺りだ?幸清。」
「はっ!物見の調べでは富田川を挟んだ向こう側に陣を構えて、こちらの出方を観察してるとの事です。」

義久「そうか!裏門の橋を落とし、準備した土嚢で完全に裏門を固定して板で打ち付けておけ!大手門から我が軍は城を出て上流に陣を構える!北門も落とすのだが塩谷川にかかる橋も落としておく事を忘れるな!準備が整え次第順次出陣じゃ!」


そして、尼子軍は富田川を挟んだ手前の上流、上杉軍からすれば向かって右に陣を構えた。


上杉軍はというと
「お館って殿ですな。」

謙信「どっちでも良いが、この霧じゃ。どっちに移動したか分からんな、景家よ。」
「たぶん、川上ではないでしょうか?」

謙信「うむ。川の流れを読んでとい事か… 正面からの攻撃は無いという判断だな?」
「はっ!相手は奇策の才を持ってますが、大殿程では無いかと。」

謙信「大殿はワシから言うても化け物の部類に入るからな!しかし、尼子義久も衰退したとはいえ侮れん。」
「我らは川下から川を渡って来ると読んでるかもですから、ここはあえて少し川上から夜戦を仕掛けて相手の出方を見て見たら良いかと。」

謙信「うむ。それは妙案じゃ!朝信!景家!軍を率いて川下から川を渡り夜戦を仕掛けろ!」
「え?!川上ではないのですか?」

謙信「川上はワシが向う!」
「分かりました。しかし、これは突いてみるだけで良いのでしょうか?」

謙信「いや、貴様らには3万の兵を与える!たぶん、敵が待ち伏せていよう。出来るだけ持ち堪えよ!」
「それで、尼子本体がこちらに移動したのを見計らって後方から殿が川上を渡って攻めるのですね?」

謙信「そうだ!しかし、あまり無理はするでないぞ!」
「はっ!心得ました!では某はすぐに、ここを出立致しまする。」


そう言うと朝信と景家は濃い霧の中、軍勢を率いて川下に駆けて行った…


謙信「よし!我らも川上に移動するぞ!弥太郎。」
「それでは、敵に動きが分かりませんか?」

謙信「いや、川上なら流れが早いから川の音で掻き消えるであろうからな。」
「それもそうですな!それに良い具合に霧が出ていますからな。」

謙信「また弥太郎の勇姿が見れるとな…」
「何を仰いましか!某は殿と戦えるだけで感無量ですぞ!」


相手の尼子義久は川下から川を渡って来ると踏んで鹿介に2万の兵を与えて待ち伏せさせていた。


(この音は、やはりこちらに軍を移動して来たか!馬鹿め!こちらには尼子軍の7割が集結しているとも知らずにな!くくく。)

と、鹿介は上杉軍を内心あざ笑った。


鹿介「皆の者!敵は、川を渡って進軍して来る!渡り切ったと同時に突撃し敵の戦意を削ぐ!準備を怠るな!そして、喋るな!敵に位置がばれる!」



そして上杉軍が川下に到着した!


景家「相手の兵力が分からんが、多くは居ないと思う。」

朝信「ですね。ではもうすぐ日が暮れまする。そろそろ行きますか!」


こうして、川下で柿崎景家・斉藤朝信の軍と山中鹿介率いる軍が激突するのであった!



【斉藤朝信(サイトウトモノブ)。越中攻め等で活躍。軍事・行政の両面で手腕を振るい謙信死後は景勝に仕え、織田軍の侵攻を防ぎ戦ったとされている。】



尼子家の山中鹿介は尼子義久から7割にあたる兵、およそ2万を預かっていた。


指揮官壱「川岸に配置した物見によると、対岸から川を渡ってこちらに向ってると思われる馬の鳴き声等が微かに聞こえたと報告が上がっています。」
「おお!なら川べり伝いに全弓隊8000を配置、川を渡り切る時間を考慮して半刻後に対岸方向へ向け、矢を放ち我が隊のところまで後退しろ!」

指揮官壱「了解致しました。ではごめん!」


鹿介は悪い笑みを浮かべ…

(もうすぐ対岸だと思いきや、雨霰の矢を食らうがいいわ!)


上杉軍の先鋒は斉藤朝信で次鋒が柿崎景家で前後で伝令を置き、連絡を取り合っていた。


朝信「(霧が濃い過ぎて、先が全く見えん!川の流れる音と我らの蹄の音と兵達の川を渡る音しか分からんな。)もうすぐ川を渡るので柿崎様に伝えろ!」
「はっ!後方の柿崎様に伝え… 斉藤様!前方から変な音がしますが!」

朝信「変な音?」


”ひゅひゅひゅぅぅんんん”


朝信「これは!?不味い!後方へ退避しろ!矢の音だ!」


”どすどすすすすす!!”


”ぐわああぁぁぁぁ!”


多くの上杉兵が、まるで豪雨の様な矢が飛んできて多くの死傷者が出た…


「朝信様!もの凄い数の矢が降り注いで… ぐわっ!」

朝信「何でもいい!早く、後退しろおおお!」



”えい!えい!おおぉぉぉぉぉ!!”

と、皮肉にも対岸の敵から勝どきが聞こえた!


鹿介「馬鹿め!我が手中に、まんまとはまってくれたわ!わっはっはっは!」
「これで我が軍の初戦は勝利で飾り、相手の戦意を著しく挫いたと思われます。」

鹿介「うむ。一度後退しろ!物見はそのまま、ここに留まり対岸方向を見張れ!なぁに、敵はすぐに現れんわ!アレを見て見ろ!」

と、鹿介が刀を指した先を兵達が見て見ると、無数の人や馬が死んで後続隊が容易に川を渡れなくしていた。


鹿介「では矢の補充と行きたいが、二度は通用しない!水かさが下がって来るから、敵は突撃して来るぞ!」
「例の策ですな?」

鹿介「そうだ!地面に杭を打ち付け、縄を張り騎馬隊の足を止め長槍隊で攻撃する!準備を急げ!」
「ははぁ!」



その頃、朝信は兵の大半を失い、戦える兵が3000まで減っていた。


朝信「柿崎様!対岸が見えて、気が緩んだのが敗因です。面目次第もございません…」
「いや、これは某も想定外だった。こちらこそ、すまん。」

朝信「滅相もございません。しかし、これではっきりしましたが対岸には尼子軍の殆どが集結していると思われます。」
「うむ。殿の方に早馬を送って知らせよ!」

朝信「分かりました。すぐに手配致します!」
「(いったい誰が、あの指揮を取ってるのやら…)初戦は負けたが次は勝つぞ!」

朝信「相手には、かなりの数の弓隊が居ますが、どう対処致しましょう?」
「それが問題だな。こちらは平地では突撃すれば済む話なんだがな…」

朝信「川の水かさが減るのを待ちますか?」
「それしかあるまい!(川上の殿はどう出るつもりかのぅ)」


初戦で大敗した報告が謙信に届いたのは川下の水かさが引いた頃であった。



弥太郎「殿!景家殿から伝令が来ています。」
「うむ。情報を聞いて参れ!」

弥太郎「はっ!暫くお待ち下され。」


暫くして
「どうであった?」

弥太郎「はっ!初戦に負け、約12000人もの兵が死傷したとの事です!」
「何だと?!それで敗因は何と?」

弥太郎「はっ!対岸が薄っすら見えた辺りで豪雨の様な矢が降り注いだと…」
「うーむ。待ち伏せか!敵には相当の切れ者が居るようだな。しかも、それだけの弓兵が居るという事は川下には殆どの尼子勢が集結してるのだろう… 迂闊であったわ!」

弥太郎「どう致しまするか?」
「あの両名は猪突猛進の気がある!ワシの予想では川の水位が引いたら全軍で突撃する可能性が高い。」

弥太郎「殿、それは十分あり得るかと!弓兵は距離を詰められると、どうしようもありませんから。しかし、それが何故?」
「相手がソレを読んでるとしたらどうなる?」

弥太郎「まさか!?しかし、もし読んでいたとしても、その対処方はどうするのでしょう?」
「そこまでは分からんが…(もし、ワシの予想が的中したら全滅するやも知れん!)弥太郎!」

弥太郎「はっ!何でございましょう?」
「大殿に援軍の要請を打診してくれ!大殿には大見栄を切ったが、致し方ない!あの両名を失う訳にはいかんからな!」

弥太郎「はっ!直ちに早馬を送ります!」


(間に合ってくれれば良いが…)



その頃、謙信の予想は的中し川の水位が下がったのを見計らって斉藤隊を後方下げ、柿崎隊が先陣を切って突撃して行った!


そして川を渡り切った時、ようやく足元以外の霧が晴れて来て両名の目に尼子軍の全容が見え、柿崎景家が吼えた!


景家「先刻は世話に成ったな!某は上杉謙信の配下・柿崎景家じゃあ!貴様らを今から蹂躪してやるぞ!皆の者、突撃し敵先鋒の弓兵をなぎ倒すぞ!続けえぇぇぇぇ!!」


”うおぉぉぉぉぉぉぉお!”

と、突撃して行ったがソレは知将・山中鹿介の計略であった…


鹿介「馬鹿め!弓隊を先鋒に出せば食い付くと思ったが案の定、食い付きおったわ!皆の者!やつらが来たら必ず弓隊に偽装したかかしの前で転ぶ!その転んだのを見計らって長槍で殺せ!この戦も、また我らの勝利で飾ろうではないか!」


”おおおぉぉぉぉぉ”


そして、突撃を敢行した柿崎隊は山中の術中にはまり、事前に用意した2本の杭を地面に打ちつけ、その両端に縄を張った縄に馬が足をとられ転倒していくではないか!


景家「何?何故、馬が勝手に転ぶのだ!!」
「景家様、足元の霧で見えなかったのですが、どうも罠が仕掛けられてる模様です!」

景家「何?!罠だと?ええい!構わん!馬から落とされても起き上がって敵を殺して・・・」


そこの朝信から
「敵に弓兵は藁で出来たかかしですぞ!それに長槍隊の伏兵に味方が攻撃されてます!」

景家「なんだと?またしても… ええーい!隊を立て直すぞ!一度下がれぇぇぇ!」


対する尼子軍は…


配下壱「鹿介様、敵が後退して行きますぞ!追撃を…」
「馬鹿者!追撃はするな!」

配下壱「しかし…」
「相手は猪突猛進の馬鹿でも、さすがに学習するだろう。ここはこちらも待機で良い!それにもうすぐ川上の殿が来る!その時こそ一気に上杉軍の片割れを一掃する!」

配下壱「片割れですか?」
「そうだ!まだ本命の上杉謙信が現れていないであろう?」

配下壱「そういえば…」
「たぶん川上に上杉の本陣があるであろう。殿と合流して、あの上杉の残りカスを平らげた後に反転して迎え撃つ!幸い、こちらはほぼ無傷だしな!わっはっはっは!」

と、鹿介は腹を抱えて笑っていた。


しかし、後退していく上杉軍に気を付け、川から離れた鹿介であったが対岸には織田信長の元筆頭家老の柴田勝家の鉄砲騎馬隊が集結していたのだった。

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