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第一部『序章』
第十参話
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政宗「お、おい!あの軍勢はなんだ?!」
成実「さ、さぁ?」
「あの大軍は異常だぞ?まさか謙信が来てるのではあるまいな?」
成実「いえ、あの旗印に見覚えがないのですが…」
景頼「そ、そ、某も見た事がありません… さっきから口を開けっ放しの留守殿は知ってたりしますか?」
政景「あ、あ、あれは織田軍だ!!間違いない!!木瓜、そう織田木瓜だ!」
「アレが織田軍か!?そういえばアノ筒状の物は火縄銃だし、あの数名で押してる大きな筒状の物も初めて見るし、それにアレは槍か?」
景頼「全ての武器が異常な数です!鉄砲隊だけでも万はいますよ!」
「アレが噂に聞く戦国大名・織田信長の軍勢か!しかし、何故上杉軍と行動を共にしておるのだ?」
成実「殿!我らはいったい何処と戦ってるのですか?上杉?織田?」
「待て待て…」
政宗は頭を抱えて座り込んだ。
政宗「(そもそも我らは何処と戦っていた?父上が攫われて、蘆名の家臣・二本松義継を追いかけて討ち取った時に黒川城辺りが… ここで敵を見誤ったのでは?アレがそもそも上杉軍ではなく織田軍だとしたら?いやいや、それは無い!考え過ぎじゃ。白石城を取り囲んでるのは上杉軍… あー、もう分からん!)」
政宗の頭の中はぐるんぐるんに成っていた頃、信長は
「おい!景家に戻るように伝令を出せ!」
景家は信長の命を受け戻って来た。
景家「あれは伊達政宗でしたわ。」
「うむ。では景家よりもワシの家臣の方が伊達には良いかもしれんな。蒲生賦秀を呼べ!」
【蒲生賦秀(ガモウマスヒデ)。後の氏郷ウジサト。信長に才能を認められ、信任を得た。信長死後は秀吉に仕え、伊達家の監視役に抜擢された知友兼備な将。】
信長軍の中腹に居た賦秀はすぐに信長の元に馳せ参じた。
賦秀「大殿、如何致しましたか?」
「よう来た。おぬしには伊達との交渉に向ってもらう。」
賦秀「某にそんな大役が務まるでしょうか?」
「なにを言う、お前なら出来る!」
賦秀「大殿にそこまで思われていたとは…」
「相手には、我らに戦う意思が無い事と同盟の事を伝えて伊達の誰かと白石城に向かい誤解を解いて参れ!」
賦秀「はっ!この賦秀に万事お任せあれ!」
「うむ。では気を付けてな。」
そして、伊達方に伝令が来て
「殿!相手の織田から使者が来ています!どう致しましょう?」
政宗の表情を暗くし
「そうか… (降伏勧告やも知れんな… あの兵力で攻められるのはさすがに耐えられん… ここは潔く)すぐ通せ!」
賦秀は政宗や他の家臣達が居る陣に通された。
賦秀「お初にお目にかかります。某は織田家家臣・蒲生賦秀と申します。」
「ワシが伊達政宗である。楽に致せ…」
賦秀「この度、拝謁出来た事を感謝致しまする。では本題にはいるのですが…」
賦秀が回りを見渡すと、あきらかに敗戦状態な雰囲気に成っているのに気付き
「あの…?良いですか?皆様?」
政宗「ああ、悪い。話は分かっている。降伏勧告であろう?」
成実「殿!!敵わぬまでも一矢報いとうございます!!」
景頼「某も成実と同じ意見です!」
「おお!某は貴様が嫌いだったが、今だけは良いと思い始めてる!」
景頼「ほう。ワシも同じで、今だけは…と思ってるぞ!そういう訳で蒲生殿には悪いが引き取ってもらう。」
政景「まぁ待て!蒲生殿の言う事をしっかり聞いてみましょう。どうも違う雰囲気ですぞ!ほれ。」
政景が指摘して、皆が賦秀の方を見ると賦秀がうろたえていた。
政景「蒲生殿、すまなかった。ささ、話されよ。」
「しからば、我が主の織田信長様が申すには、伊達家に対し一切の攻撃はしない。つまり、危害は加えない。」
政宗「何じゃ、やはり降伏勧告ではないか?」
「話は最後まで聞いて下され。我ら織田家は伊達家と同盟関係を築く為に来たのです。」
政宗「やはり、降伏せよと… は?!今何と申した!?」
「いや、だから同盟を結びたいと…」
政宗「何ぃぃぃぃぃぃ?!我ら伊達と同盟を!?」
と、政宗は心底驚いた。
賦秀「伊達様?」
「いや、すまぬ。それよりも何故我ら伊達と同盟を?」
賦秀「その辺りは我が主の織田様に聞いて頂く方が早いかと。」
「え?!織田信長公が、このワシと話されるのですか?こんな若造と?!」
賦秀「いや、若造と申されても一国の主ではありませんか。」
「あ、ああ。そうであったな…」
政景「はぁぁ… 殿!もっと威厳を大事にして下さい!」
政景は政宗を諌めた。
政宗「悪い。では、ワシが信長公の陣営に向えば…」
と、賦秀に聞こうとした直後!!
???「それには及ばん!!」
いきなりド派手な甲冑に身を包んだ武将が割って入った!
賦秀「え?!大殿!単独で来られたのですか?」
「うむ。それより、口をパクパクしてる鯉の様な御仁が伊達政宗殿か?」
突然の現れた織田信長に驚き
「こ、こ、これは失礼致します。突然の事で…」
信長「であるか!ワシが織田信長じゃ!」
「某が伊達家当主・伊達政宗です!あの… お聞きしたいのですが?」
その問いかけに信長は政宗を睨み付け
「お聞きしたい?お主はそれでも一国の当主か!?」
政宗は信長が突然怒り始めて、おどおどしだした。
政景「これは織田様、申し訳ありません!某もそう思いますが、まだ当主になって日も浅く…」
「そなたは?」
政景「某は伊達家家老・留守政景ですが、殿の叔父にあたる者です。」
「うむ。政宗殿、良い家臣をお持ちではないか。」
政宗は我に返り
「これはとんだ失態で、それに我が家臣を褒めて頂きありがとうございまする。政景もすまなかった許せ。」
政景「だから、そういのが駄目なのです!」
そのやり取りを見ていた信長はすこぶる笑顔に成り
「わっはっはっは!良い良い、ワシもつい最近ではあるが政宗殿と同じで景家、柿崎景家な。これに言われたわ!わっはっはっは!」
政宗「え?!」
「家臣に謝る主(アルジ)が何処に居るとな!政宗殿は素直に自分の非を認める良い当主なのは見て取れる。」
政宗「は、はぁ。」
「で、賦秀が言ってたとは思うが同盟の件。どうじゃ?」
政宗「あ、それについてだが何故この伊達家と同盟を?それが全く分からないのですが?」
「うむ。ワシの義弟の徳川家康という者が居てな、ワシが東北の有力大名と手を結ぶなら何処が良いと聞いたところ、そやつが伊達家が良いと申すのでな。」
政宗「え?!そんな理由で?しかも徳川家康という御仁の名前は初めて聞いたのですが?」
と、政宗は顔をかしげた。
信長「まあアレだ、理由はどうあれ我ら織田家と同盟してはくれぬか?」
「同盟については有り難いのですが…」
信長「何じゃ?どうした?」
「いや、上杉と織田殿の関係は?」
信長「ああ、これは言うのを忘れていたな。上杉謙信は織田家の家臣に成ったのじゃ!」
「はあ?!家臣っていうと織田殿の家来ですよね?えええええええ!?」
政宗は人生で二度目の驚きだった。
信長「ワシも謙信に家臣にしてくれと言われた時は驚いたが、政宗殿の驚きぶりは凄いのぅ。」
「あ、これは失礼。しかし、え?!ちょっと待って下さい?白石城を包囲してるのは上杉ではなく織田殿ですよね?」
信長「ああ、そういえば包囲を解くように通達していなかったな。政宗殿、家臣の一人と賦秀で白石城に向ってくれるかな?」
「え?!それは構いませんが… おい、信康!織田殿の家臣・蒲生賦秀殿と白石城に向ってくれ!」
信長は信康という名に驚き
「信康だと?」
政宗「え?信康、ああ後藤信康という家臣です。ほれ挨拶せんか!」
信康「これは初めて御意を得ます。某は伊達家家老・後藤信康と申します。某の名は織田様にも響いてましたか!」
「これ!信康!織田殿、失礼仕った。」
信長「いや、ワシの知人に後藤殿と同じ名前の者が居ただけじゃ。(信康といえば、前世で酷い仕打ちを家康にした事を思いだすわい…)後藤殿、失礼した。」
「え?!そんな、いえ、某こそ申し訳ございません。では蒲生殿、一緒に白石城へ。」
後藤と賦秀は白石城へ向った。
それを見送った政宗は
「実は、もう一つあるのですが… 我が父上が蘆名家家臣・二本松義継に誘拐されまして…」
成実「それについては某、伊達成実が説明致しまする。その、二本松義継自体は既に殿が討ち取ったのですが肝心の殿の父上である伊達輝宗様が行方不明でって織田様、何を!?」
信長のニヤついた顔を見た成実が
「織田様!いくらなんでも不謹慎ですぞ!」
信長「これはすまなかった。いや、その御仁なら…」
政宗「え?!知ってるのですか?何処で?何時?何故?」
「いや知ってるも何も、ワシが上杉家で保護しておるが…」
政宗「え?!はああああ?!」
政宗は目を見開き、人生三度目の驚きを味わったのだった。
信長「そこもとは驚くのが好きじゃな!わっはっはっは!」
信長は大いに笑って、政宗はまた鯉の様に口をパクパクさせたのであった。
政宗「何回も失礼… 何故、父上を助けてくれたのだ?」
「ふむ。ワシの義弟の家康がの事は話したが、あやつがいくら薦めても伊達政宗殿や伊達家がどういう者の集まりとか、何処と敵対関係とか、何処と組んでるとか調べるのは当然であろう?」
政宗「まぁ、当然ですな。」
「で、ワシの情報網に伊達政宗の父親が誘拐され、あの村に捕らわれてるのが分かった。これから同盟するなら手土産が必要と思ってな!」
政宗「はぁ… しかし、我らはまだこの東北では弱小勢力に過ぎませんが?」
「蘆名家は輝宗殿を助けたその日から数日で滅ぼしたし、最上家はこの仙台城に来る前に滅ぼしたからの。もう、近隣に伊達に敵対する者は存在しないぞ?」
政宗「え?蘆名領から北の我の居城を目指さずに最上領から南下したのですか?」
「そうじゃが?」
政宗「では、ではですよ?何故、米沢城をやり過ごしてこの仙台城へ来たのですか?」
「それはさっきワシが言った情報で、伊達家に味方する豪族がこの城の近くに居るのが分かったから先に話を通そうと思うたまでじゃ。戦術としては有効であろう?」
政宗は目を輝かせ
「織田殿は凄いな。しかし、まだこの東北には二つの大国が居る… あっ!織田殿と同盟を結ぶ条件として、我らとその大国を攻略するという事にしないか?」
信長「それは安東家と南部家の事か?」
「そうその二大国です!ん?何故って、また情報?」
信長「それもあるが、もうその安東家と南部家は存在せんぞ。半年程前に滅ぼしたわ!今は無法地帯に成ってるとは思うがな。」
「は?!え?!」
政宗は信長の顔を見て、また鯉の様に成り
「あ、あ、お、織田殿は某が驚くのを楽しんでおるのか?」
信長は笑いを堪え
「いや、そんな事は無いぞ?くっく…」
政宗「笑うろうてるではないか!くそーぉぉぉぉぉ!」
「いや悪い、もうすぐ日が暮れる。ワシらは野営するので、後日にでも話そうではないか。」
政宗「そう言えば… しかし、同盟国になる御方を野宿さすには…」
「それには及ばん。慣れているのでな。それに、ワシだけ屋根の付いた部屋で寝れんしの!」
政宗「分かりました。では、日を改めてという事で。」
伊達政宗率いる伊達軍は仙台城に下がり、信長は織田本陣に戻って行った。
信長は本陣に帰る道中で自問自答していた。
(しかし、あの驚きようは面白かったな。あの鯉の様に成った時の顔といったら無かったわい!まあ政宗の人となりは分かった。)
伊達陣営。
政宗「織田信長か… 某が逆立ちしても勝てん存在じゃ。そう思わんか?政景。」
「はっ!兵力にしても、度胸にしても、殿では勝てませんな。」
政宗「その織田殿が、このワシと友好関係を築きたいと来たもんだ!凄いと思わんか?景綱。」
「はい。途中で信康が織田殿に自慢したのは冷や汗物でしたが…」
政宗「そうじゃ!あの時は冷や冷やしたぞ!」
「あの時の対応は良かったですが、普通の御仁ならどうなっていたか。しかし、アレが織田信長ですか何か分かりませんが凄いですね。」
政宗「ワシも凄いじゃろう?そんな大大名に見込まれるというのは!どうじゃ?成実。」
「いや、そもそも認められたのは信長ではなく、その信長の義弟である家康とかいう御仁の方でしょう?」
政宗「まあ何であれ、認められたのに違いないではないか!それに半ば諦めかけていた父上を…」
政宗は涙ぐんだ。
政景「殿…」
「すまん。ついな…」
そして、夜が更けて行った。
次の日。
昨日と同じ場所で政宗と数名の家臣達と信長が話す場を設けていた。
最初は挨拶から始まり、和やかな雰囲気であったが信長の表情が一変し
「もうまどろっこしい事は抜きにして、政宗殿一度しか言わんから真剣に返答してくれ!」
政宗「な?!わ分かり申した…」
「うむ。貴殿への手土産として輝宗殿を返すのは物のついでじゃ。本命は東北全ての土地を伊達家に譲渡する。そして我が織田家の家臣にいやワシの義弟の長女を嫁に貰ろうて織田家の身内に成らぬか?(あっ!そう言えば家康に娘は居なかったな。前世の記憶とごっちゃに成っておったわ。お!!そうじゃ、ワシの妹の犬がええわ。まあ話が決まってからで良いであろう。)」
政宗「は?!え?!お、お、織田殿、突然そんな話を言われても、某は… その…」
???「ええい!男なら二つ返事で返さぬか!政宗!!」
いきなり話に割って入ったのは政宗の父である輝宗であった。
時間を信長が柿崎景家を呼びつけた辺りまで戻す。
信長は景家に
「すまぬが、今から輝宗殿を呼んで来て欲しいのだが…」
景家「は?今からですと。大殿が政宗と話してる間に連れて来る事は不可能ですぞ?」
「いや、先んじてワシが元尾浦城跡から最上領に入る時に秋田城へ連れて来るように指示してある。」
景家「いつの間に!分かりました。直ぐに向かいます。」
柿崎景家は単騎で秋田城に向かった。
日は暮れ、辺りは真っ暗であったが遠くに明かりが見え、近付いて行くと織田の旗印が見えた。
景家「おーい!ワシは柿崎景家じゃ!すまぬが大殿からの命で至急、仙台城に輝宗殿をお連れしたい!」
「これは柿崎様!米沢城ではなく仙台城へですか?」
景家「うむ。仙台城付近に伊達を味方する豪族が居るとの事で、大殿が向ってのう。」
「(大殿しか知らない情報だな。)分かり申した。」
景家「時間が切迫してるので、このままワシの後ろに付いて来てほしい!」
時間を戻す。
政宗「え?!その声は、父上ぇぇぇぇぇ!!」
「ええい、鬱陶しい!泣くな!感動の再開は後じゃ!それより、早く返答致せ!織田殿が待っているぞ!」
政宗は涙をふき取り、織田信長をじっと見つめたのだった。
政宗「織田信長殿… ワシは決め申した!その案に同意致す!」
「おお!では嫁の件で訂正がある、ワシの義弟の娘ではなく、ワシの妹を貰って欲しいのだが。」
政景「その御方は、もしや市姫ですか?」
「いや、市は家康に嫁いだ。だから義弟なのだがな…」
政景「それは失礼致しました。織田様と言えば市姫かと思いまして。」
「ほう。市の名がこんな北国にも轟いてすとはな。」
政景「いえ、某は諸国漫遊が好きで噂で聞いた程度でござる。」
「であるか。ワシの八番目の妹で名は「犬」と申す。ワシが名づけたのじゃが、市と同じく美人じゃぞ。」
政宗「美人… いや、あの、嫁の件も承知致しました。では某も織田殿のいや、大殿の義弟に成るわけですな?」
「まだ早いわ!しかし、追々そうなるな。しかし、その前に南の北条が邪魔でな!政宗殿はワシと元蘆名領の…」
政宗「あいや、待たれよ。この城の南に相馬家の城があるのですが、この城はもう落としましたか?」
信長は考える。
信長「(相馬… あっ!忘れておったわ!)すまん、弱小過ぎて忘れておったわ!確か、岩代の小高城じゃったな。」
「はい、その城はどうされるおつもりですか?」
信長「うむ。ではこうしよう、白石城の白石殿と我が軍20000を指揮してる我が家臣の佐々成政、それに後藤殿と賦秀を元蘆名領・須賀川城跡に陣取って現在の北条の鳥山城を襲わせ、ワシらは小高城を落とし大田城に攻め込むとしよう!」
「何やら、凄そうですな。分かり申した。では白石城に伝令を送っておきますか?」
信長「うむ。ワシの名で通達、いや文の方が的確じゃな。一筆書くゆえ、これを持たせて向わせて下され!」
「心得ました!(織田殿の戦いぶりが見えるのは好都合じゃ!それにワシの知らない、あの太い筒の武器?アレの威力も見たい!楽しみだ!)」
信長「では、全は急げじゃ!出陣しようではないか!」
「はっ!」
【烏山城(カラスヤマジョウ)。現在の栃木県那須烏山市にあったとされる城。】
【大田城(オオタジョウ)。現在の茨城県常陸太田市にあったとされる城。】
【小高城(オダカジョウ)。現在の福島県南相馬市小高区にあったとされる城。】
【相馬義胤(ソウマヨシタネ)。小高城城主。政宗との戦で劣勢に立たされていたが秀吉に助けられる形に。】
こうして、政宗は白石城に伝令を送り、信長と共に相馬の小高城に向かい軍を進めるのであった。
そして、信長が春日山城を出立した頃まで時間を戻す。
関東の元北条氏康居城・小田原城では信長が家康に改装を命じた新小田原城に徳川・織田の両軍が集結していたのだった。
★
榊原康政仮居城・新小田原城には徳川家康率いる5万とまだ指揮官が居ない状態の織田軍10万、合わせて15万の大軍勢が集結し、家康達は木下藤吉郎の到着を待っていた。
忠勝「殿、木下殿は遅いですな。」
「越後からじゃからな。まぁ、気軽に待とうではないか。」
正信「忠勝、お前はせわし過ぎる!もっと、落ち着け!」
「そんな事を言っても、あの織田様の右腕と称してもおかしくない御仁ですぞ!わくわくが止まりません!」
家康「そういえば義兄・信長殿に会っているが、木下殿には会って無かったな。」
「です。どんな御仁ですか?殿。」
家康「ワシも直接は会うた事が無いから今市わからん。」
それから2日後に籐吉郎一向が到着した。
籐吉郎「広い城というより、町だなこれは。そう思わんか、光!」
光秀「そうですな。いくら大殿から金子を使ったのかと思うと恐ろしいですが…」
「では会いに行くとしようではないか!」
籐吉郎達は新小田原城の本丸に向った。
籐吉郎が本丸の評定部屋を見ると、徳川の重鎮らしい面持ちのある配下4人が座り、こちらを見ていた。
(どうせ、ワシを見て猿が一人で歩いてるとでも思っているに違いない。)
家康「これはこれは越後から良くお越し下さった、木下殿!某が徳川家康でござる。もっとも、この名前は大殿に付けて貰ったのですが…」
「これはご丁寧に。しかし、某と徳川殿は初対面だが何故分かったのでござるか?」
家康「いやー。それはアレですよ… 大殿がよく…」
と、家康は籐吉郎を見ずにキョロキョロと不審な行動を取りながら話した。
籐吉郎「某の顔が猿に似てるからでしょう?徳川殿。」
「有体に申せば、その通りでございまする…」
籐吉郎は家康の物言いを怒ることなく笑い飛ばし
「よく大殿にも言われますよ、わっはっはっは!」
家康「はぁ。では改めまして、今回の北条攻めをと行きたいですが我が配下を数名紹介します。まずは。」
「お初にお目にかかります。某、本多忠勝と申す!槍が得意で合戦にて披露致しまする。」
「同じく、お初にお目にかかります。某、榊原康政と申す!以後、お見知りおきを!」
「酒井家次と申しまする。某は合戦では役に立つ事はあまりないのですが、政が得意でござる。」
「某、井伊直政と申します。若輩者では有りますが武勇の腕はあると思っております。」
籐吉郎は「うんうん」と頷きながら
「今度は某だな、徳川殿!改めてではあるが、某は猿じゃ!」
その発言に皆、大いに笑い、その場の空気を和ませた。
籐吉郎「というのは冗談で、木下藤吉郎だ。皆、宜しく頼む。こちらも数名紹介しようではないか!」
「徳川様、それに徳川様の配下の方々、お初にお目にかかります。某、明智光秀と申します。一応、殿、いや藤吉郎様の軍師的な事をやらせて頂いてまする。」
(ほう。顔はきりっとした男前で頭も切れそうだな。)
「同じく、某は蜂須賀小六でござる。盗賊あがりではあるが今や侍でござる。以後お見知りおきを。」
「同じく、某は弟の木下小一郎でござる。存在的には酒井殿と同じ立場な感じでござる。」
「同じく、福島…」
籐吉郎「ええい、お前達は以下同文でええわ!すまんな、徳川殿。こやつらは井伊殿と同じ世代で腕には自信がある者で、右から福島正則・加藤清正と言って小一郎と共に某の血の繋がりがある者だ。」
「ほう。よく鍛えていて強そうだな。」
正則「強そうではなく、強いのじゃ!」
「これ!正則!いい加減しろ!すまんな。徳川殿。」
家康「いや、大いに結構!それぐらいでないと男は駄目です!では、北条攻めの方針を木下殿お願い致しまする。」
「いや、その前に… その苗字で呼ぶのは止めにしませんかな?我らは皆、織田家家臣なのですから。」
家康「それもそうですな。では、某の事は家康で…」
「いや、家康殿は大殿の義弟殿でもありますから、家康様とお呼び致す。」
家康「あいや、待たれよ!それは駄目ですぞ。少なくとも某は籐吉郎殿と対等だと思っています。そんな御仁に様は…」
「某と対等?そんな馬鹿な話は有りますまい!某、元は田舎の百姓の小倅ですぞ?それを…」
家康「いやいや、某とて松平家の時、今川へ人質に出される程の弱小豪族の小倅でしたから…」
「いやいや…」
家康「いやいや…」
そんな光景を見ていた徳川・木下両配下達はお互いの顔を見合わせ、苦笑していたのだった。
【酒井家次(サカイイエツグ)。酒井忠次の長男。母親は家康の叔母で、家康とは従弟になる。父の隠居で家督を継ぐ。】
【井伊直政(イイナオマサ)。万千代と呼ばれていた幼少の頃から家康に可愛がられ、徳川家の先鋒大将になったが、関ヶ原の戦いで負傷して翌年死亡。】
【福島正則(フクシママサノリ)。秀吉の親戚筋にあたる、賤ヶ岳の七本槍としても有名な猛将だが桶屋の息子だった説もある。】
【加藤清正(カトウキヨマサ)。秀吉の親戚筋にあたり、同じく賤ヶ岳の七本槍としても有名な猛将で関ヶ原の戦い後に肥後52万石の大大名に出世した。】
【賤ヶ岳の七本槍(シズガダケノシチホンヤリ)。秀吉を支えた7人の武将達の事だが、実際は9人で9本槍だった説も。】
家康と籐吉郎の名前の呼び名はスッタモンダの末、家康殿と籐吉郎殿になった。
籐吉郎「何か疲れましたが、北条攻めの方針を大殿から授かっているので皆に伝える。徳川・木下軍15万は二手に別れ徳川軍は玉縄城を落とし、我らは八王子城を落とし、再び江戸城付近で合流しこれを落とす。その後、佐倉城・土浦城・水戸城と攻め落とす。尚、上総・安房方面の元里見領の各城は滝川一益殿と九鬼海軍にて攻め落とす。そして、江戸城より北の武蔵・下野・下総・常陸の小田城は上杉謙信・柴田勝家が攻め落とす。そして、水戸の先は東北の伊達を支配下に置いた大殿の織田軍本体が大田城を攻め北条を完膚無きまでに叩き潰す。これが、この策の概要でござる。」
皆、籐吉郎の説明を聞き入っていり静まりかえっていたが家康が
「大殿は凄いとしか言いようがありませんな。これなら北条は逃げる事も出来ずに全滅するでしょうな。」
その頃、上野の厩橋城では上杉軍3万が武蔵の忍城に攻め込む算段をしていた。
【忍城(オシジョウ)。ここの城は石田三成が大軍を率いて落とせなかった城でも有名。】
謙信「柴田殿には、この厩橋城を守って頂き、我らは忍城を先に攻め河越・岩槻・結城・小山と落として行くので、小山を落とした時点で早馬を出すので柴田殿は唐沢山に攻めて下され。我が軍の一隊を館林に送りこれを攻め落とし柴田殿と宇都宮城手前の街道で合流し大殿が烏山城を攻めかけたら、宇都宮城に攻め込むという事でよろしいかな?後、関東南部は木下殿・徳川殿の軍勢が受け持つ事になっておる。」
「(あの猿め、いつか蹴落としてくれる!)それで良いかと、某が大殿から預かってる兵は5千しかないので助かります。」
謙信「では、少しでも早く事を進めないと、この北条包囲網に穴があくかもしれんので出陣致す!」
そう言うと、謙信は早々と厩橋城下を後にしたのだった。
勝家「謙信殿の戦いぶりを見たかったが、宇都宮城まで待つとするか。」
こうして、信長の策で北条を追い詰めていくのだったが、相手の北条はというと…
北条氏康居城の水戸城では緊急の軍評定が行われていたのだった。
氏康「なりを潜めていた織田信長が侵攻を始めたようだな。どう見る、幻庵。」
「まずは、小田原からですから綱成の玉縄城と八王子城を攻めるかと思われますな。」
氏康「では忍城の成田長泰殿に八王子城へ援軍を送って、玉縄城にはワシが向う事にする。」
そんな話をしていた氏康に火急の知らせが飛び込む!
「伝令!!軍儀のところ失礼致しまする。今しがた、上野の厩橋城から上杉謙信が成田様の忍城に向ったとの事!」
すぐさま別の早馬が来て
「伝令!!上総・安房方面に海賊が現れましたが、その旗印が織田の物で…」
氏康「なんじゃと?!三方からか!しかも上杉謙信が動いてるのが気がかりじゃ!どうみる、幻庵。」
「しからば玉縄城へは結城城の晴朝殿に援軍を出してもらい、忍城の長泰殿には悪いが持ち堪えてもらうしかなさそうですな。」
氏康「しかしそれでは、館林や唐沢山が手薄になるぞ?」
「では佐倉城の千葉殿に玉縄城の援軍を頼み、忍城は放置しますか?」
氏康「うむ。しかし問題は謙信が忍城を落とした後にどちらへ進むかで戦況が変わるな。」
「ですね。それよりも、上杉と織田が同時に攻めて来るのがおかしいのでは?」
氏康「それよ!まさか上杉と織田が手を組んでいるのではないか?」
「それなら、今回の事が全て辻褄が合います。」
氏康「ちょっと待て!では、援軍を送らず全ての兵力をこの水戸に集結すれば、あるいは…」
「幸い、北からは攻めて来ません!であるなら、相馬と蘆名に援軍を要請してはどうでしょうか!」
氏康「おお!さすが、幻庵じゃ!その手があった!すぐに相馬と蘆名へ早馬を送れ!綱成と八王子と成田には踏ん張ってもらうしかない。援軍要請が来たら、そう返答しておけ!」
しかし、その北条氏康の考えを見透かしてるように織田信長の軍勢が、氏康の頼りにしている一方である相馬の小高城を攻めていた。
政宗「大殿の攻めっぷりは、えげつないですな!感服致します!」
それもそのはず、大筒の砲撃で城門はおろか城壁や城内屋敷を破壊していく光景は誰が見ても圧巻としか言いようがなかった!
信長「そうか?しかし、この攻め方もすぐに真似されるとワシは思っておる。」
「え?そんな訳ないでしょう?某は鉄砲の価値を知ってますれば、大筒という武器の値段もだいたいですが分かります。東西広しと言えど大殿の様に金子は使えますまい!」
信長「いや、これは我が織田家にしかない大筒であり火縄銃である。」
「は?それはどういう事でござるか?」
信長「政宗には言うておらんが、この武器はみんな織田家専属の鉄砲鍛冶が作った代物じゃ。まぁ、考案したのはワシなんじゃがな。まず、大筒と火縄銃の射程範囲が長い。馬に騎乗しながら火縄銃を撃てるように砲身を短くしている。雨の場合は雨に濡らさない工夫を施しているしな。」
「(隙あらばと思っていたが… 勝てる気がしない!お手上げじゃ。)凄まじい知恵ですな。」
と、政宗は物凄く感激するのだった。
そして、水戸の氏康に相馬と蘆名の状況が伝わる…
「伝令!蘆名家の須賀川城下が織田の軍勢で埋め尽くされてる状態でした!」
続けて相馬の送った早馬は
「相馬の小高城に織田軍が攻撃を加えて、もう時間の問題かと。」
北条陣営は驚愕したのだった。
氏康「馬鹿な… 四方から、この北条家を包囲するつもりか… で、兵力は分かるか?」
「はっ!小高城を襲っていた兵力は織田方…」
氏康「待て!織田方とはどういう事じゃ?まさか…」
「はっ!伊達家が織田に付いたと思われます。それが証拠に織田軍と行動を共にしていました。」
氏康「では何か?北の二方向から織田軍。海。南からも織田軍。西からは上杉軍… もはやこれまでか…」
すると、氏康の軍師とも称される北条幻庵が
「殿!肝心の信長はどこから来るのでしょうか?」
氏康「おお!そうじゃ!ようは織田信長を討てば終わりなのじゃからな!」
「その事なのですが、殿様。」
氏康「なんじゃ、まだ居ったのか?構わん言うてみい。」
「相馬の小高城を攻めていた大軍勢に織田信長らしき人物が…」
氏康「何?!それは誠か!?」
「はっ!大道寺様から聞いた事がありまして、織田のうつけはやたら派手好きだと。ど派手な甲冑を着た武将が先頭に居ましたので、間違いないかと。」
氏康「おお!でかした!そなたには織田に勝てたら褒美をつかわす!」
「はっ!ありがたき幸せ。」
氏康「では方針を伝える!各城に伝令を送り大田城下に集結し、織田を叩く!結城晴朝あたりが文句を言うと思うが「織田を倒さないと未来は無い!」と伝えろ!それと敵と隣接している城には伝令を送らなくても良い!酷いようだが、これも北条家の為じゃ!」
幻庵「ですな。時間を稼いでくれれば…」
そんな話をしている事を知らない信長は相馬家の小高城を落とし大田城に向う準備を整えていたのだった。
【大道寺政繁(ダイドウジマサシゲ)。北条早雲からの譜代の家柄で代官や城代を歴任し、秀吉の小田原攻めの時に降伏して、前田利家の道案内をしたらしい。】
【北条早雲ホウジョウソウウン。初代北条家当主。】
信長の元に妙な報告が謙信側と徳川側の草からまい込んで来た。
信長「家康の方は玉縄城以外の城がもぬけの殻で、謙信の方も忍城以外がもぬけの殻とは… いったいどうなっておるのだ?」
政宗の右腕である片倉が
「織田様に申し上げたい事があります。」
信長「どうした?申せ!」
「はっ!これは織田様が居る場所を特定したと思われまする。」
信長「さすがは政宗の懐刀じゃ!北条氏康め、全ての城を捨てワシと直接対決するつもりじゃな?」
「某もそう思いまする。兵力的には互角かと…」
信長「ワシも舐められた者よのぅ。」
政宗「大殿!ここは一気に大筒で蹴散らしては如何ですか?」
「いや、今後の事を考え北条氏康のお手並みを拝見… (待てよ、あやつは確か夜戦が得意じゃったな。)」
信長が会話の途中で黙ったので政宗が
「どうされましたか?」
信長「いや、北条氏康は夜戦を仕掛けてくる可能性がある。」
「夜戦… あっ!たしか夜戦で有名になったと聞いた事が…」
片倉「夜戦ですと、大筒も火縄銃も使えないのと同じですからね。」
信長「夜戦で来ると分かれば、こちらは長槍を構えの陣形で横一列を何重にも重ねて行軍するとしよう。」
片倉「そういう事か…」
政宗「何がそういう事なんだ?」
「後方には敵は居ない。そしてこの街道が一本道…といえば?」
政宗「前からしか、仕掛けて来ない!」
「そうです。いくら夜戦慣れしてるとはいえ、前方にしか攻撃出来ないから奇襲に意味が薄れます。」
信長「さすがだ!しかし、それだけではない!奥行きを薄くし、突破させやすくする。」
政宗「突破されやすく?そんな事をすれば…」
「殿!織田様はわざと突破させるつもりではないでしょうか?」
政宗「何?!わざとか…?そうか、そこを包囲すると?」
信長「阿呆!包囲したら相手の後続部隊の思う壺ではないか!」
「そうですね… 反転しても反転した隊が後続にやられますね…」
信長「何重にもと申したではないか!」
片岡「わざとでは無く、ある程度抵抗して何回も突破させる事で疲労させるのですか?織田様。」
「そうじゃが、突破させた後の兵は左右にあるが、そのまま闇夜に紛れて待機させておき、後続部隊を全て飲む込んだら…」
政宗「四方八方から攻めかかる!!恐れ入りました!!」
織田と伊達の家臣達から「さすが大殿!」と声が聞こえた。
信長「氏康、目に者を見せてくれるわ!わっはっはっは!!」
そうとは知らず大田城下に集結していた氏康らは…
氏康「信長には鉄砲がある!ワシの得意とする夜戦でそれを封じる。どうじゃ、氏政。」
「さすが父上!それでは相手も同士撃ちになりますから撃てないし、敵が見えない。」
氏康「そうじゃ!大田・小高間の街道は一本道だ!信長は必ず最後尾に居る!闇夜に紛れて突撃し、織田本陣を突いて織田信長を討つ!!夕刻に出陣する!!この一戦は北条家の命運を賭けた一戦だ、皆の頼んだぞ!!」」
”おおおおぉぉぉぉぉ!!”
その頃、織田軍は陣形を編成していた。
信長が皆に聞こえるように話始め
「皆の者!この戦いで北条を滅ぼせる!先ほど説明した通りに動けば必ず勝てる!!北条を滅ぼせば後は毛利と九州だけじゃ!ワシと共に日ノ本を一つにし争いの無い日ノ本を作ろうではないか!今夜、氏康が夜に奇襲をかけて来るのは必定!!後少しの辛抱じゃ!ワシに、この信長に力を貸してくれ!!」
”おおおおぉぉぉぉぉ!!”
そして、日が落ち北条家は生き残りを賭け、信長は日ノ本統一悲願の為、決戦が切って落とされる!!
北条氏康は織田信長が待つ、大田城小高城間の街道中腹に兵を進軍させていた。
氏康「皆、止まれ!幸い、ここは海岸が近く波の音が大きいので馬の蹄の音や声はかき消してくれるだろうが、旗を降ろし松明を消し足音も消し一切喋る事を禁ずる!」
氏政「父上!今日は我らを味方してくれる神仏が居ると思われまする。」
そう、この日の空には月が無く曇り、霧も発生していたのだ。
しかし、この状況は信長にとっても好機であった。
信長「今日はなんと良き日であろうか!そう思わぬか、政宗!」
「そうでござるな。月明かりも無くしかも霧と波の音も相まって絶好の合戦日和かと!」
信長「相手も、同じ事を思っておるやもしれんが… 勝機は我にありじゃ!」
そして、信長の号令が発せられ
「いつ、北条が突っ込んで来るかも知れん状態じゃ!皆、心してかかれ!!声は出すなよ?」
そして…
氏政が隣に居る氏康に小声で声をかけ
「父上…」
それに呼応するように氏康の軍配が降ろされた!!
すると、織田軍の先鋒の前に突然黒い塊が現れたのだ!!
すぐさま、信長に伝令が届く!!
「大殿!!」
信長「ついに現れたか!!」
そして、合戦の火蓋始が切って落とされた!!
氏康「進め!進め!勝機はこの北条家にあるぞ!」
先鋒か後方まで北条軍は一つの塊と成り織田軍に襲いかかる!
政宗「大殿!敵は鋒矢の陣ですぞ!!」
「これは好都合じゃ!陣ぶれを鳴らし、先鋒隊に合図を送れ!!」
信長は策通り、各隊に支持を出す!
鋒矢の陣の最前列からすぐ後ろに位置する場所に氏康の本隊がいたので、前方の様子が把握出来た氏康は
「敵は長槍の陣じゃあぁぁぁ!!このまま突き崩せ!!」
氏康の声で北条軍は突撃して行く!!
織田側は何重にも連なる長槍の陣の中継地点の政宗の右腕である片倉を配置し、逐一政宗を返し信長に報告していた。
政宗「敵は第一陣を突破!第二陣に突撃を始めました!!味方は指示通り左右に散って、恰も線離離脱してるように偽装中!!」
「うむ。このまま戦況を報告しろ!!」
対して、氏康は
「このまま突き進め!!その先には必ず信長の陣がある!!」
氏政「父上!順調の突破し、敵は戦意喪失して逃げていますぞ!」
「おお!それは穣穣。」
その頃、信長は
「戦況はどうじゃ?北条軍の後尾は第一陣のいた辺りより後方に移動したか確認を急がせろ!」
政宗「いえまだの模様です。現在第二陣を突破されたところです!」
北条軍は何度も突撃を繰り返した…
氏政「(いったい何重の陣が存在するのだ?一向に織田本陣が見えないな。しかし、優勢なのは確かじゃ。)父上!十度目の突破に成功しました!こちらの損害は軽微ですぞ!」
「でかした!我らに後退の文字は無い!突き進むのじゃ!!」
政宗「今、連絡が!」
「うむ。もう一度、陣ぶれを鳴らせ!!総仕上げじゃ!」
ようやく、信長本陣が氏康の目に飛び込んで来たと同時に霧が消え、辺りが薄っすらと紫色になる。
氏康「織田信長!!ワシが北条氏康じゃあぁぁぁ!もう貴様の味方は無い!!覚悟せい!」
信長「はっ!片腹痛いわ!!覚悟するのは、おのれじゃ!!周りを良く見て見ろ!!」
その時、信長が言う通りに後ろを振り向くと丁度、空が晴れ朝日が目に飛び込んで来た。
「くっ!眩しい!!」
そして、改めて見渡すと
「馬鹿な?!氏政の報告では戦意喪失して逃げたと… 」
そう、氏康が見た物とは逃げたと思っていた織田軍が自軍を完全に包囲していた光景だったが、再び信長の方を見ると無数の火縄銃の銃口がこちらを狙っていた。
(なんて数の火縄銃じゃ…)
と、戦意を完全に消失した氏康と北条軍の家臣達や兵士達が一歩も動けなくなり、一瞬の静けさが辺り覆い… そして、信長の号令が無常にも響き渡る!!
『放てえぇぇぇぇぇ!!』
約15000もの火縄銃が火を吹き、信長の陣の後方から大きな轟音が轟いた!!
”ばばばばばぁぁぁぁんん”
”どどどどどおぉぉぉぉん”
北条軍の前列の隊は皆、穂が傾くが如く倒れて行き、後方の隊には雨霰の如く砲弾が降り、さながら地獄のような光景になっていた。
そして、家臣や兵士達が死んで逝くのを、ただただ見るだけしか出来ない氏康は途方に暮れていた…
氏康「まさか、ここまでの戦力差があったのか…」
と、嘆くが信長は
「貴様が、突撃に固執したせいもあるな。」
氏康「突撃に固執したと申すが、我らには後が無かったのだ。」
そう、後方には上杉・柴田・木下・徳川・滝川率いる九鬼水軍が迫っていたからだ。
信長「大国で胡坐をかいていたツケが回ったのじゃ。」
「そうか、「うつけ」と噂されていた貴様だったが、本当の「うつけ」はワシの方じゃったか… 逃げも隠れもせんが、冥土の土産に教えろ!貴様は何を目指しているのだ!」
信長「日ノ本の各大名を廃止し、争いのない世にしたいだけの事じゃ。その為には武力での統一が手っ取り早かっただけの事じゃ。」
「ふふっ。ワシの完敗じゃ!!良い戦であった!!戦の無い世に成ればいいのぅ…」
それが北条氏康の最後の言葉だった…
その後、北条軍の兵士や家臣達も尽く殺され、嫡男の氏政も逃げようとしたところを捕らえられ斬首された。
政宗「大殿!この後はどうなされるのでござるか?」
「まずは、この先の大田城に今回の北条包囲網に参加した家臣達が集まる。そこに、行こうではないか。そして、今後の方針をワシから皆に話すとしよう。」
こうして、北条氏康率いる北条軍は全滅し、織田信長は関東一円を手に入れたのであった。
北条氏康率いる北条軍を撃破した信長は、その先にある常陸の太田城に向う。
すると、すでにもの凄い数の兵士達でごった返していた。
信長は城の城壁にある櫓に昇り
『謙信!!権六!!家康!!猿!!、この状況をなんとかしろ!!』
信長はもの凄く通る声なので、直ぐに家臣達や兵達が信長に気付いた。
籐吉郎「大殿!!いつ、こちらに?それより、北条軍が何処にも居ないのですが?」
勝家「大殿に向って「それよりも」とは何じゃ!!猿公の分際で!!」
「言うに事欠いて「猿公」とは、ちと言い過ぎではございませんか?」
勝家「猿に猿公と言って何が悪いのじゃ!」
「むきぃーーーー!!」
籐吉郎と勝家は相変らず仲が悪いが、その仲裁に家康が動く。
家康「柴田殿も木下殿も、大殿前でいがみ合うのは控えた方が良いですぞ!」
「これは大殿の義弟の家康殿。某は人と話したいと思うておったのじゃ。」
その言葉を聞いた藤吉郎は地団駄を踏んで
「むきぃーーーー!!」
と、また吼えていた。
家康「柴田殿… それより、あれは上杉謙信公ですよね?」
「うむ。謙信公に大殿からの命で策を貰っただけなのだが、ここは織田家譜代の家臣達しか居ないのに、まだ越後に帰ろうとしないのじゃ?」
家康「そういえばそうですな。あっ!!」
家康は謙信と信長が親しげに話してるのを見て
「ワシが先に話そうと思うていたのに、先を越されたわ!」
その謙信は
「大殿。そやつが政宗殿かの?」
信長「うむ。ここではなんだ、太田城内の二の丸屋敷で話そうではないか。」
そして信長が主要な家臣だけ二の丸屋敷に呼び、今後の方針を話す事にした。
部屋には奥座に織田信長。
奥座を見た状態が正面で向って右、信長から見て左斜め前付近に鎮座するのが義弟・徳川家康。
その家康の後方に家康直属の本多忠勝、榊原康政、酒井忠次、井伊直政が座っていた。
家康から少し離れた左隣に木下藤吉郎が座っており、その後方は明智光秀、蜂須賀小六、木下小一郎が座っていたが、福島正則と加藤清正は外で隊の整理をさせていた為、ここには参列していない。
次に向って左、信長から見て右斜め前付近に鎮座するのは上杉謙信で、その後方に柿崎景家、宇佐美定満が座っている。
その謙信から少し離れた右隣に伊達政宗が座っており、後方には後藤信康、伊達成実、屋代景頼、留守政景、片倉景綱が座ってる。
そして柴田勝家は信長の右隣に座っていた。
佐々は籐吉郎の配下の福島らと共に兵の整理をして此処には参列していない。
織田信長が皆に労いの言葉をかけ
「皆。北条包囲策、見事でであった!!」
一同『ははぁぁぁぁ!』と頭を垂れた。
信長「皆。面を上げよ!まずは、皆不審がってる事から話す。ここに居る謙信と、その横に居る政宗は我が織田家の家臣と成った。」
信長は謙信に目で合図を送ると
「新しく皆々様と同じく轡を並べる事となった越後守護代・上杉謙信じゃ!今後共同じ織田家の一員として宜しく頼む。」
次に信長は政宗に目で合図を送ると
「某も新しく織田家に忠誠を誓う事になった、一豪族に過ぎない伊達政宗でござる!まだ若輩の身なれど今後共お願い申しあげる。」
この挨拶に織田家譜代の勝家が驚いていた。
信長「そう驚くな、権六!まだ日ノ本には倒さなくてはいけない敵が多いのだ。人は多い方が良い。」
「それはそうですが…」
信長「何じゃ。不服か?」
「いえ、不服などあるはずがありません。」
信長「そうか?ならば話を進める。政宗!」
政宗は信長から急に話を振られて
「え?は、はい!」
信長「何が「え?」じゃ!しっかり聞いておけ!」
「し、失礼仕った。」
信長「うむ、政宗。いや伊達家の領土件じゃ、一度しか言わんからしっかり聞くように。伊達家には岩代・羽前・羽後・陸前・陸中・陸奥と東北一円と蝦夷を領地として治めてもらう!」
それを聞いた政宗はもの凄い勢いで立ち上がり
「え?!は?!東北全てを伊達家に頂けるのですか?失礼ですが、某はまだ何も働いてませんが?」
信長「これから働けば良いではないか?」
「いやいや、これからにしても… こんな広大な領地を頂けるとは思いもかけず…」
信長「何じゃ。これくらい驚かれては困るのじゃがな。」
「は?!まだ何かあるのですか?」
信長「それは、この日ノ本を統一してからの話になるからの、楽しみにしておれ!それより、おぬしはすぐさま帰り、羽前・陸前以外の領土の治安を回復させ、石高が増える手立てを考え地盤を固めるのじゃ!」
「なんだか分かりませんが、承知致しました!その後はどうなさるのでしょうか?」
信長「地盤を充分固めたら、ワシ宛に文を送れ!よいな!」
「は?はぁ…」
信長「ん?聞こえんが?お前の父上殿も言うておったが、言葉をはっきり申せ!」
「はい!!」
信長「それで良い!おっと、皆の者!この伊達政宗はワシの妹の犬を貰ってもらう事になった!家康の義弟になる!心せよ!」
その言葉に勝家が
「お市様についで、お犬様まで…」
信長「権六が密かに狙っていたのは分かっているが、歳が離れ過ぎてるゆえな。」
「そんなぁ… しかし、大殿!某が何故狙ってると分かったのですか?」
信長「(おっと、これは死んでからの情報だったな。)いや、なんとなくじゃ。当ってたか?すまん。」
「某は若い娘の嫁を貰うのが夢ですので、諦めず精進します。」
信長「(この変態め!)その勢じゃ!」
信長は籐吉郎に目をやり
「猿!!鼻糞を穿ってる場合ではないぞ?」
籐吉郎「こ、これは失礼。(急に、こっちにおはちが…)」
「貴様のその名前に重みがない!ここらで改名せい!」
籐吉郎「いや、これは母が付けてくれた名前ですし…」
「このままでは農民の出丸出しのままで威厳が無いぞ?ワシが良い名前を与える!良いな?」
籐吉郎「え?大殿が直にでござるか?それは光栄です!某は大殿に拾って頂いた恩が有りますので従いまする。」
「そうか?では貴様は今後、羽柴秀吉と名乗れ!」
秀吉「羽柴?あっ!丹羽様の羽と柴田様の柴ですね?織田家譜代筆頭家臣の名前の一文字を… あり難き幸せ!秀吉とは…?」
「お前は何事にも秀でた勘の良さがあるので秀。吉は吉祥の吉。よって秀吉とした。不服か?」
秀吉「いえ、こんな百姓の小倅風情にこんな立派な名前を頂き感謝しかございません!」
そして、この事を聞いていた勝家は
「大殿!こんな猿公にワシの姓の一文字を与えなくても…」
信長「良いではないか、猿も織田家譜代筆頭家臣と権六の事を思っておるのだぞ?筆頭とな!」
「そ、そうでござるな… 筆頭でござるか… 猿、いや秀吉!名前に恥じぬ働きを期待しておるぞ!」
秀吉「(何が働きを期待しておるぞ!じゃ… まったく。)ははぁぁぁ。柴田様ありがとうございまする。」
信長「うむ。では政宗を除く、これからの方針は…」
信長の方針が何なのか皆、生唾を飲み待つ。
信長「まず謙信に申し渡す!」
「はっ!何なりと、大殿!」
信長「各領地の城を廃止し、城の跡地に小さな砦を建て、街道には10里ごとに番所を置け。」
謙信の目が点になり
「あの大殿?城を無くすとなると、敵が襲って来たらどう対処すれば?」
信長「敵?そんな者どこにおる?越前に朝倉が居るだけで、後方には誰もおらんぞ?違うか?」
「それはそうですが、いつ裏切りがあるかも知れませんし。」
信長「それを見定めるのは、おぬしの仕事じゃ。近畿制圧には何かと時間がかかる。謙信も地盤とさっきの件が全て終えたらワシに文をよこせ!」
そこに、のそっと政宗が
「その城を廃止するのは、某も同じでござるか?」
信長「おお!言うのを忘れておったわ!その通りじゃ。」
「(ああ、聞くのやめれば良かった…)はっ!分かりました!!」
信長「では両者は国元に帰り、急ぎ取り掛かれ!何、そう不安そうな顔をするな!うぬらには、それが終わったら日ノ本統一の仕上げに参加してもらわねばならかな。」
政宗と謙信が信長に対し一礼をして部屋を出た。
信長は家康の方を向き
「家康!息子の顔を早く見たいであろう?」
家康「それはそうですが、もしかして我らも城を廃止せよと?」
「うむ。よく分かっておるではないか!さすが義弟じゃ。」
家康「(やはり…)では、某もこれにて…」
「どこに行くつもりじゃ?」
家康「え?国元に帰るのですが?」
「阿呆!お前は夫婦と息子を連れて摂津の本願寺家の膝元・石山の町に移住し、さっきの件を優秀な配下に任せておけば良い!」
家康「は?ええっと?へ?」
家康は混乱した。
信長「しっかりせい!まだまだ、やる事がいっぱいじゃ!休んでる訳にはいかんのじゃ!」
「一度聞いてみたいと思うてたのですが、大殿は何故そんなに事を急ぐのですか?」
信長「人間誰しも寿命があるが、その寿命が尽きるその日までに統一し、日ノ本を良い国にしたい。」
「寿命のある内にですか… 承知致しました。大殿にどこまでも付いて行き高みを目指しまする。」
そして、信長は皆に号令を出す!
『一旦、石山本願寺の界隈に軍勢を移動させ、摂津の飯盛城に謙信・政宗・家康の配下以外の家臣達を集め軍評定を行う物とする!凱旋じゃ!胸を張れ!後は中国・九州のみぞ!』
こうして、織田軍は摂津に向け移動を開始し、謙信・政宗は帰路に着き。家康は途中の岡崎城に寄る事となったのだった。
★
織田軍は摂津の石山本願寺に移動中、家康が岡崎に寄るとと言い出したので信長が
「家康。岡崎に寄るなら、合戦の疲れを取ってから来い。」
家康「へ?(信長殿がこんな事を言うとは… また、良からぬ事を考えているのでは…)」
「へ?ではない!おぬしも国元が心配であろう?ほれ、奥方とか息子とか!!」
家康「あー、そっちですか?」
「何が、「あー」じゃ!ワシは義弟である家康を気遣ってるのじゃ!」
籐吉郎が家康の袖を引き
「家康殿、素直に大殿の言う事に聞いておけば良いと思いますよ。」
家康「それはそうなのだがな…」
信長「何を、猿とごちゃごちゃと話ておるか!家康!分かったな!」
「(後が怖いが…)はっ!謹んでお受け致します!」
その言葉を聞いて信長は胸を撫で下ろした。
それもそのはず信長は濃を通して市から引っ切り無しの文が大量に届いていた。
『兄上!いい加減に家康様を帰して下され。お市は寂しいくて寂しいくて、夜が!!』
(これで、市の顔が立つであろう… ワシに文句を言えるのは濃と市くらいだからな…)
と、独り言を呟く信長だった。
次の日、尾張・清洲城が見えたので久しぶりに父・信秀を訪ねた。
信長「父上!!まだ生きてますか!」
「馬鹿者!!まだ死んでおらぬわ!!それより、どうしたのじゃ?」
信長「今、お幾つに成られましたか?」
「歳の事は聞くな!あの世が近く感じてならぬわ!」
信長「それはそうと、親父殿。石山本願寺近くに引越しませぬか?」
「摂津のか?」
信長「京も堺も近いですし、それに某にも親父殿と酒を酌み交わしたいと常々思っていたのですが。」
「(ワシの死期を読んでの事か、もう61歳じゃ。そろそろ迎えが来てもおかしくない…)尾張の方が気楽で良いが、ここは信長様に任せてみるかの。」
信長「親父殿!ワシは織田家当主である前に織田信秀の息子ですぞ!それを「様」とは…」
それを聞いた信秀はにこやかに笑って
「お前はいつから冗談も分からない「うつけ」に成ったのだ?」
信長「ふふっ、親父殿!お忘れか?ワシは「うつけ」と前から言っておるではありませんか?」
「おお!そうであったな!わっはっはっは!」
そして、急に真面目な顔になった信長は
「平手のじぃは…」
信秀「平手は逝きおったわ… おまえの天下統一を生きてる間に見たいと言っておったのにな…」
「…。 そうですか。平手のじぃも惜しい事をしましたな。後1年長生きしてれば日ノ本統一を成しえたのに…」
信秀「信長!!後1年とはどういう事じゃ?」
それを聞いた信長が
「親父殿。どうもこうも、この織田家に立ち向かえるのは中国・毛利か九州・大友くらいしか残っていないのです。」
信秀「は?!馬鹿も休み休みに言え!」
「今の織田家に怖い物はありません!」
信秀「ついに、頭の中まで「うつけ」に成ったのではあるまいな?」
「はぁ…。あのですね、今の織田家の家臣に越後・上杉謙信を筆頭に、義弟・徳川家康、東北・伊達政宗が、同盟では摂津・本願寺、四国・長宗我部家があります。加えて、美濃から東側全て織田家の支配下に成っております。」
信秀は、口をぽかーんと開けて信長の話を聞いていた。
信長「親父殿!!」
「おお!?」
と、驚き
「信長。さすが、ワシが見込んだ男じゃ!ようやった!」
信長「まだ統一してませんがね。後1年長生きして下され!必ず統一してご覧にいれまする!」
「あいわかった!信長の天下統一、必ず果たせ!」
信長「はっ!日ノ本統一を!」
「(ん?こやつ、さっきから日ノ本と何回も言うが… もしや!?)おい、ちょっと聞いてもよいか?」
信長「何です?」
「日ノ本統一と言ったな?」
信長「言いましたが、何か変ですか?」
「お前の言う天下統一とは、いったい何の事じゃ?」
信長「親父殿。天下統一に意味?ついにもうろくしましたか?」
「馬鹿者!!(ワシの思い過ごしだと思うが、まさかな…)」
信長「さて、親父殿には摂津に新しく町を作って各屋敷を建てた後に文を送ります。それから、美濃の義親父・道三殿と一緒に来て頂く事に成ります。」
「道三殿と屋敷に?」
信長「お一人では話し相手も必要だろうと思いまして。後、謙信殿とも話が出来るように致します。」
「おお!!上杉謙信殿か!これは面白い!分かった。」
清洲城を後にした信長率いる織田軍本体は美濃・岐阜城に向い、羽柴・柴田の軍は信長の命により摂津の石山本願寺を目指したのだった。
西暦1570年秋。
岐阜城に帰った信長は、先に信長直属の家臣達や合戦に赴いた兵達を労い、褒美を渡して家族の元に帰した。
岐阜城の本丸の奥座敷に濃が信長の顔を見るやいなや、もの凄い勢いで近付いて来た!
濃「信長様!!今宵は、あ・い・てをして頂けるのでしょうね?」
「あ、あ、ああ。今宵は大丈夫じゃ。」
濃「今宵は大丈夫?ま・さ・か、今宵しか駄目とか言わないでしょうね?」
と、濃の顔は山姥の如く怖かった…
(さすがは蝮の娘じゃ… いや、おなごを待たせたワシが原因か…)
と、心の中で思った信長であった。
数日間、美濃・岐阜城で過ごした信長は道三と濃に信秀と摂津の新しい町への引越しの承諾を得て、紀伊・新宮城へ約五万の兵を率いて向った。
そう、新宮城の九鬼嘉隆と滝川一益に会う為に…
尾張を経由して伊勢・志摩を抜け、数日をかけ新宮城下に到着した織田軍は早速、城内に入った。
城内に入ってすぐに滝川一益が信長を迎え
「大殿。ご無沙汰しておりました。お変わりなく、ご謙遜でなによりです。」
信長「うむ。一益も元気そうで何よりじゃ。九鬼嘉隆殿はおいでか?」
「大殿が「九鬼嘉隆殿」というのはおかしいですぞ。もう、某の配下に成っているので事実上、織田家の一員ですから呼び捨てで宜しいかと。」
信長「ほう、そうか。分かった。」
「嘉隆は本丸に居ます。あやつは人見知りでして、申し訳ございません。」
信長「ほう。てっきり、嫌われてるのかと思っておったが…」
「いえ、某と会ったばかりの頃は嫌っていたと思いますが、今は認めているかと。」
信長「それなら、良いがな。では、向うとしようかの。」
そういうと、信長は一益の案内で本丸に向う。
嘉隆「織田信長か?」
一益「これ、大殿に向って…」
「良い。会うのは初めてだからな。そうじゃ、ワシが織田信長じゃ。」
嘉隆は初めて信長をまじまじと見て
「某の思っていた奴と違い、偉そうではないし… 気に入った!」
信長「そうか。それは良かった。ところで嘉隆よ、あの船はどうだ?」
「あれは最高だ!あの大筒の数も良いが鉄板を張り合わせてるだけだが、まるで鉄で出来た船のような威圧感がたまらん!」
信長「それは何よりじゃ。それで、今回はあの船の量産と船を操る者の育成を頼みたいのだが。」
「ほう。いったい何隻造るつもりだ?」
そのやり取りを見ていた一益が嘉隆に向って
「いい加減にせんか!大殿に向って、その物言いはどうなんじゃ!」
信長「一益!かまわん。嘉隆は元々海賊の出じゃ。ワシも嘉隆と話してると童に返った気分で楽しい。」
「大殿がよければ、それに越した事はないですが…」
嘉隆「織田の頭が言うんじゃ、一益も大目に見ろ!で、さっきの話だが?」
「おお!そうであったな。鉄甲船500隻、大型船5000隻を作ってくれ!もちろん金は織田家が出す。」
嘉隆「織田の頭!そんなに造って、何と戦うつもりじゃ?そりゃ、造れと言うなら造るがな。」
「嘉隆よ!一つ聞くが、おまえは日ノ本の海だけで満足か?」
嘉隆「は?何を言ってるのだ?」
「嘉隆よ!この城から見る、水平線を見て感じる物はないか?この大海原を支配して、貴様の名前を轟かせたくはないか?」
嘉隆「織田の頭!本気で言ってるのか?そりゃあよう、こんな日ノ本だけじゃなく外洋に出たい気はあるにはあるけどな。」
「この日ノ本はもうすぐワシが、この織田信長が平定する!しかし、それはワシの描いている天下統一ではない!世界を取ってこその天下統一じゃ!この話は、ここに居る一益と嘉隆にしか話してないがな。」
一益「大殿は初めから、その野望を持っていたという事でござるか?」
「そうじゃ、日ノ本も統一し朝鮮方面軍と南蛮方面軍に分かれ世界を取りに行く為に、この船団が必要になる!どうじゃ?嘉隆!胸踊るとは、この事だとは思わぬか?」
嘉隆「織田の頭、いや大殿!その考えに乗った!!すぐに着工しようではないか!」
「着工は良いが、何隻かを毛利の村上水軍を屠るのに欲しいのじゃがな。」
嘉隆「おお!村上水軍は我が九鬼の宿敵!この船で攻めても良いので?」
「うむ。しかし、まだ赤松や宇喜多を攻略していないので、攻略次第という運びになるがな。」
嘉隆「分かった!この九鬼嘉隆が責任を持って船団を作ると、ここに誓おうではないか!」
そう、織田信長の目は世界を見据えていたのだ。
そして、この話は他言無用と一益・嘉隆に言い聞かせた信長は摂津の石山本願寺に向け軍を進めたのであった。
第一部『序章』完
成実「さ、さぁ?」
「あの大軍は異常だぞ?まさか謙信が来てるのではあるまいな?」
成実「いえ、あの旗印に見覚えがないのですが…」
景頼「そ、そ、某も見た事がありません… さっきから口を開けっ放しの留守殿は知ってたりしますか?」
政景「あ、あ、あれは織田軍だ!!間違いない!!木瓜、そう織田木瓜だ!」
「アレが織田軍か!?そういえばアノ筒状の物は火縄銃だし、あの数名で押してる大きな筒状の物も初めて見るし、それにアレは槍か?」
景頼「全ての武器が異常な数です!鉄砲隊だけでも万はいますよ!」
「アレが噂に聞く戦国大名・織田信長の軍勢か!しかし、何故上杉軍と行動を共にしておるのだ?」
成実「殿!我らはいったい何処と戦ってるのですか?上杉?織田?」
「待て待て…」
政宗は頭を抱えて座り込んだ。
政宗「(そもそも我らは何処と戦っていた?父上が攫われて、蘆名の家臣・二本松義継を追いかけて討ち取った時に黒川城辺りが… ここで敵を見誤ったのでは?アレがそもそも上杉軍ではなく織田軍だとしたら?いやいや、それは無い!考え過ぎじゃ。白石城を取り囲んでるのは上杉軍… あー、もう分からん!)」
政宗の頭の中はぐるんぐるんに成っていた頃、信長は
「おい!景家に戻るように伝令を出せ!」
景家は信長の命を受け戻って来た。
景家「あれは伊達政宗でしたわ。」
「うむ。では景家よりもワシの家臣の方が伊達には良いかもしれんな。蒲生賦秀を呼べ!」
【蒲生賦秀(ガモウマスヒデ)。後の氏郷ウジサト。信長に才能を認められ、信任を得た。信長死後は秀吉に仕え、伊達家の監視役に抜擢された知友兼備な将。】
信長軍の中腹に居た賦秀はすぐに信長の元に馳せ参じた。
賦秀「大殿、如何致しましたか?」
「よう来た。おぬしには伊達との交渉に向ってもらう。」
賦秀「某にそんな大役が務まるでしょうか?」
「なにを言う、お前なら出来る!」
賦秀「大殿にそこまで思われていたとは…」
「相手には、我らに戦う意思が無い事と同盟の事を伝えて伊達の誰かと白石城に向かい誤解を解いて参れ!」
賦秀「はっ!この賦秀に万事お任せあれ!」
「うむ。では気を付けてな。」
そして、伊達方に伝令が来て
「殿!相手の織田から使者が来ています!どう致しましょう?」
政宗の表情を暗くし
「そうか… (降伏勧告やも知れんな… あの兵力で攻められるのはさすがに耐えられん… ここは潔く)すぐ通せ!」
賦秀は政宗や他の家臣達が居る陣に通された。
賦秀「お初にお目にかかります。某は織田家家臣・蒲生賦秀と申します。」
「ワシが伊達政宗である。楽に致せ…」
賦秀「この度、拝謁出来た事を感謝致しまする。では本題にはいるのですが…」
賦秀が回りを見渡すと、あきらかに敗戦状態な雰囲気に成っているのに気付き
「あの…?良いですか?皆様?」
政宗「ああ、悪い。話は分かっている。降伏勧告であろう?」
成実「殿!!敵わぬまでも一矢報いとうございます!!」
景頼「某も成実と同じ意見です!」
「おお!某は貴様が嫌いだったが、今だけは良いと思い始めてる!」
景頼「ほう。ワシも同じで、今だけは…と思ってるぞ!そういう訳で蒲生殿には悪いが引き取ってもらう。」
政景「まぁ待て!蒲生殿の言う事をしっかり聞いてみましょう。どうも違う雰囲気ですぞ!ほれ。」
政景が指摘して、皆が賦秀の方を見ると賦秀がうろたえていた。
政景「蒲生殿、すまなかった。ささ、話されよ。」
「しからば、我が主の織田信長様が申すには、伊達家に対し一切の攻撃はしない。つまり、危害は加えない。」
政宗「何じゃ、やはり降伏勧告ではないか?」
「話は最後まで聞いて下され。我ら織田家は伊達家と同盟関係を築く為に来たのです。」
政宗「やはり、降伏せよと… は?!今何と申した!?」
「いや、だから同盟を結びたいと…」
政宗「何ぃぃぃぃぃぃ?!我ら伊達と同盟を!?」
と、政宗は心底驚いた。
賦秀「伊達様?」
「いや、すまぬ。それよりも何故我ら伊達と同盟を?」
賦秀「その辺りは我が主の織田様に聞いて頂く方が早いかと。」
「え?!織田信長公が、このワシと話されるのですか?こんな若造と?!」
賦秀「いや、若造と申されても一国の主ではありませんか。」
「あ、ああ。そうであったな…」
政景「はぁぁ… 殿!もっと威厳を大事にして下さい!」
政景は政宗を諌めた。
政宗「悪い。では、ワシが信長公の陣営に向えば…」
と、賦秀に聞こうとした直後!!
???「それには及ばん!!」
いきなりド派手な甲冑に身を包んだ武将が割って入った!
賦秀「え?!大殿!単独で来られたのですか?」
「うむ。それより、口をパクパクしてる鯉の様な御仁が伊達政宗殿か?」
突然の現れた織田信長に驚き
「こ、こ、これは失礼致します。突然の事で…」
信長「であるか!ワシが織田信長じゃ!」
「某が伊達家当主・伊達政宗です!あの… お聞きしたいのですが?」
その問いかけに信長は政宗を睨み付け
「お聞きしたい?お主はそれでも一国の当主か!?」
政宗は信長が突然怒り始めて、おどおどしだした。
政景「これは織田様、申し訳ありません!某もそう思いますが、まだ当主になって日も浅く…」
「そなたは?」
政景「某は伊達家家老・留守政景ですが、殿の叔父にあたる者です。」
「うむ。政宗殿、良い家臣をお持ちではないか。」
政宗は我に返り
「これはとんだ失態で、それに我が家臣を褒めて頂きありがとうございまする。政景もすまなかった許せ。」
政景「だから、そういのが駄目なのです!」
そのやり取りを見ていた信長はすこぶる笑顔に成り
「わっはっはっは!良い良い、ワシもつい最近ではあるが政宗殿と同じで景家、柿崎景家な。これに言われたわ!わっはっはっは!」
政宗「え?!」
「家臣に謝る主(アルジ)が何処に居るとな!政宗殿は素直に自分の非を認める良い当主なのは見て取れる。」
政宗「は、はぁ。」
「で、賦秀が言ってたとは思うが同盟の件。どうじゃ?」
政宗「あ、それについてだが何故この伊達家と同盟を?それが全く分からないのですが?」
「うむ。ワシの義弟の徳川家康という者が居てな、ワシが東北の有力大名と手を結ぶなら何処が良いと聞いたところ、そやつが伊達家が良いと申すのでな。」
政宗「え?!そんな理由で?しかも徳川家康という御仁の名前は初めて聞いたのですが?」
と、政宗は顔をかしげた。
信長「まあアレだ、理由はどうあれ我ら織田家と同盟してはくれぬか?」
「同盟については有り難いのですが…」
信長「何じゃ?どうした?」
「いや、上杉と織田殿の関係は?」
信長「ああ、これは言うのを忘れていたな。上杉謙信は織田家の家臣に成ったのじゃ!」
「はあ?!家臣っていうと織田殿の家来ですよね?えええええええ!?」
政宗は人生で二度目の驚きだった。
信長「ワシも謙信に家臣にしてくれと言われた時は驚いたが、政宗殿の驚きぶりは凄いのぅ。」
「あ、これは失礼。しかし、え?!ちょっと待って下さい?白石城を包囲してるのは上杉ではなく織田殿ですよね?」
信長「ああ、そういえば包囲を解くように通達していなかったな。政宗殿、家臣の一人と賦秀で白石城に向ってくれるかな?」
「え?!それは構いませんが… おい、信康!織田殿の家臣・蒲生賦秀殿と白石城に向ってくれ!」
信長は信康という名に驚き
「信康だと?」
政宗「え?信康、ああ後藤信康という家臣です。ほれ挨拶せんか!」
信康「これは初めて御意を得ます。某は伊達家家老・後藤信康と申します。某の名は織田様にも響いてましたか!」
「これ!信康!織田殿、失礼仕った。」
信長「いや、ワシの知人に後藤殿と同じ名前の者が居ただけじゃ。(信康といえば、前世で酷い仕打ちを家康にした事を思いだすわい…)後藤殿、失礼した。」
「え?!そんな、いえ、某こそ申し訳ございません。では蒲生殿、一緒に白石城へ。」
後藤と賦秀は白石城へ向った。
それを見送った政宗は
「実は、もう一つあるのですが… 我が父上が蘆名家家臣・二本松義継に誘拐されまして…」
成実「それについては某、伊達成実が説明致しまする。その、二本松義継自体は既に殿が討ち取ったのですが肝心の殿の父上である伊達輝宗様が行方不明でって織田様、何を!?」
信長のニヤついた顔を見た成実が
「織田様!いくらなんでも不謹慎ですぞ!」
信長「これはすまなかった。いや、その御仁なら…」
政宗「え?!知ってるのですか?何処で?何時?何故?」
「いや知ってるも何も、ワシが上杉家で保護しておるが…」
政宗「え?!はああああ?!」
政宗は目を見開き、人生三度目の驚きを味わったのだった。
信長「そこもとは驚くのが好きじゃな!わっはっはっは!」
信長は大いに笑って、政宗はまた鯉の様に口をパクパクさせたのであった。
政宗「何回も失礼… 何故、父上を助けてくれたのだ?」
「ふむ。ワシの義弟の家康がの事は話したが、あやつがいくら薦めても伊達政宗殿や伊達家がどういう者の集まりとか、何処と敵対関係とか、何処と組んでるとか調べるのは当然であろう?」
政宗「まぁ、当然ですな。」
「で、ワシの情報網に伊達政宗の父親が誘拐され、あの村に捕らわれてるのが分かった。これから同盟するなら手土産が必要と思ってな!」
政宗「はぁ… しかし、我らはまだこの東北では弱小勢力に過ぎませんが?」
「蘆名家は輝宗殿を助けたその日から数日で滅ぼしたし、最上家はこの仙台城に来る前に滅ぼしたからの。もう、近隣に伊達に敵対する者は存在しないぞ?」
政宗「え?蘆名領から北の我の居城を目指さずに最上領から南下したのですか?」
「そうじゃが?」
政宗「では、ではですよ?何故、米沢城をやり過ごしてこの仙台城へ来たのですか?」
「それはさっきワシが言った情報で、伊達家に味方する豪族がこの城の近くに居るのが分かったから先に話を通そうと思うたまでじゃ。戦術としては有効であろう?」
政宗は目を輝かせ
「織田殿は凄いな。しかし、まだこの東北には二つの大国が居る… あっ!織田殿と同盟を結ぶ条件として、我らとその大国を攻略するという事にしないか?」
信長「それは安東家と南部家の事か?」
「そうその二大国です!ん?何故って、また情報?」
信長「それもあるが、もうその安東家と南部家は存在せんぞ。半年程前に滅ぼしたわ!今は無法地帯に成ってるとは思うがな。」
「は?!え?!」
政宗は信長の顔を見て、また鯉の様に成り
「あ、あ、お、織田殿は某が驚くのを楽しんでおるのか?」
信長は笑いを堪え
「いや、そんな事は無いぞ?くっく…」
政宗「笑うろうてるではないか!くそーぉぉぉぉぉ!」
「いや悪い、もうすぐ日が暮れる。ワシらは野営するので、後日にでも話そうではないか。」
政宗「そう言えば… しかし、同盟国になる御方を野宿さすには…」
「それには及ばん。慣れているのでな。それに、ワシだけ屋根の付いた部屋で寝れんしの!」
政宗「分かりました。では、日を改めてという事で。」
伊達政宗率いる伊達軍は仙台城に下がり、信長は織田本陣に戻って行った。
信長は本陣に帰る道中で自問自答していた。
(しかし、あの驚きようは面白かったな。あの鯉の様に成った時の顔といったら無かったわい!まあ政宗の人となりは分かった。)
伊達陣営。
政宗「織田信長か… 某が逆立ちしても勝てん存在じゃ。そう思わんか?政景。」
「はっ!兵力にしても、度胸にしても、殿では勝てませんな。」
政宗「その織田殿が、このワシと友好関係を築きたいと来たもんだ!凄いと思わんか?景綱。」
「はい。途中で信康が織田殿に自慢したのは冷や汗物でしたが…」
政宗「そうじゃ!あの時は冷や冷やしたぞ!」
「あの時の対応は良かったですが、普通の御仁ならどうなっていたか。しかし、アレが織田信長ですか何か分かりませんが凄いですね。」
政宗「ワシも凄いじゃろう?そんな大大名に見込まれるというのは!どうじゃ?成実。」
「いや、そもそも認められたのは信長ではなく、その信長の義弟である家康とかいう御仁の方でしょう?」
政宗「まあ何であれ、認められたのに違いないではないか!それに半ば諦めかけていた父上を…」
政宗は涙ぐんだ。
政景「殿…」
「すまん。ついな…」
そして、夜が更けて行った。
次の日。
昨日と同じ場所で政宗と数名の家臣達と信長が話す場を設けていた。
最初は挨拶から始まり、和やかな雰囲気であったが信長の表情が一変し
「もうまどろっこしい事は抜きにして、政宗殿一度しか言わんから真剣に返答してくれ!」
政宗「な?!わ分かり申した…」
「うむ。貴殿への手土産として輝宗殿を返すのは物のついでじゃ。本命は東北全ての土地を伊達家に譲渡する。そして我が織田家の家臣にいやワシの義弟の長女を嫁に貰ろうて織田家の身内に成らぬか?(あっ!そう言えば家康に娘は居なかったな。前世の記憶とごっちゃに成っておったわ。お!!そうじゃ、ワシの妹の犬がええわ。まあ話が決まってからで良いであろう。)」
政宗「は?!え?!お、お、織田殿、突然そんな話を言われても、某は… その…」
???「ええい!男なら二つ返事で返さぬか!政宗!!」
いきなり話に割って入ったのは政宗の父である輝宗であった。
時間を信長が柿崎景家を呼びつけた辺りまで戻す。
信長は景家に
「すまぬが、今から輝宗殿を呼んで来て欲しいのだが…」
景家「は?今からですと。大殿が政宗と話してる間に連れて来る事は不可能ですぞ?」
「いや、先んじてワシが元尾浦城跡から最上領に入る時に秋田城へ連れて来るように指示してある。」
景家「いつの間に!分かりました。直ぐに向かいます。」
柿崎景家は単騎で秋田城に向かった。
日は暮れ、辺りは真っ暗であったが遠くに明かりが見え、近付いて行くと織田の旗印が見えた。
景家「おーい!ワシは柿崎景家じゃ!すまぬが大殿からの命で至急、仙台城に輝宗殿をお連れしたい!」
「これは柿崎様!米沢城ではなく仙台城へですか?」
景家「うむ。仙台城付近に伊達を味方する豪族が居るとの事で、大殿が向ってのう。」
「(大殿しか知らない情報だな。)分かり申した。」
景家「時間が切迫してるので、このままワシの後ろに付いて来てほしい!」
時間を戻す。
政宗「え?!その声は、父上ぇぇぇぇぇ!!」
「ええい、鬱陶しい!泣くな!感動の再開は後じゃ!それより、早く返答致せ!織田殿が待っているぞ!」
政宗は涙をふき取り、織田信長をじっと見つめたのだった。
政宗「織田信長殿… ワシは決め申した!その案に同意致す!」
「おお!では嫁の件で訂正がある、ワシの義弟の娘ではなく、ワシの妹を貰って欲しいのだが。」
政景「その御方は、もしや市姫ですか?」
「いや、市は家康に嫁いだ。だから義弟なのだがな…」
政景「それは失礼致しました。織田様と言えば市姫かと思いまして。」
「ほう。市の名がこんな北国にも轟いてすとはな。」
政景「いえ、某は諸国漫遊が好きで噂で聞いた程度でござる。」
「であるか。ワシの八番目の妹で名は「犬」と申す。ワシが名づけたのじゃが、市と同じく美人じゃぞ。」
政宗「美人… いや、あの、嫁の件も承知致しました。では某も織田殿のいや、大殿の義弟に成るわけですな?」
「まだ早いわ!しかし、追々そうなるな。しかし、その前に南の北条が邪魔でな!政宗殿はワシと元蘆名領の…」
政宗「あいや、待たれよ。この城の南に相馬家の城があるのですが、この城はもう落としましたか?」
信長は考える。
信長「(相馬… あっ!忘れておったわ!)すまん、弱小過ぎて忘れておったわ!確か、岩代の小高城じゃったな。」
「はい、その城はどうされるおつもりですか?」
信長「うむ。ではこうしよう、白石城の白石殿と我が軍20000を指揮してる我が家臣の佐々成政、それに後藤殿と賦秀を元蘆名領・須賀川城跡に陣取って現在の北条の鳥山城を襲わせ、ワシらは小高城を落とし大田城に攻め込むとしよう!」
「何やら、凄そうですな。分かり申した。では白石城に伝令を送っておきますか?」
信長「うむ。ワシの名で通達、いや文の方が的確じゃな。一筆書くゆえ、これを持たせて向わせて下され!」
「心得ました!(織田殿の戦いぶりが見えるのは好都合じゃ!それにワシの知らない、あの太い筒の武器?アレの威力も見たい!楽しみだ!)」
信長「では、全は急げじゃ!出陣しようではないか!」
「はっ!」
【烏山城(カラスヤマジョウ)。現在の栃木県那須烏山市にあったとされる城。】
【大田城(オオタジョウ)。現在の茨城県常陸太田市にあったとされる城。】
【小高城(オダカジョウ)。現在の福島県南相馬市小高区にあったとされる城。】
【相馬義胤(ソウマヨシタネ)。小高城城主。政宗との戦で劣勢に立たされていたが秀吉に助けられる形に。】
こうして、政宗は白石城に伝令を送り、信長と共に相馬の小高城に向かい軍を進めるのであった。
そして、信長が春日山城を出立した頃まで時間を戻す。
関東の元北条氏康居城・小田原城では信長が家康に改装を命じた新小田原城に徳川・織田の両軍が集結していたのだった。
★
榊原康政仮居城・新小田原城には徳川家康率いる5万とまだ指揮官が居ない状態の織田軍10万、合わせて15万の大軍勢が集結し、家康達は木下藤吉郎の到着を待っていた。
忠勝「殿、木下殿は遅いですな。」
「越後からじゃからな。まぁ、気軽に待とうではないか。」
正信「忠勝、お前はせわし過ぎる!もっと、落ち着け!」
「そんな事を言っても、あの織田様の右腕と称してもおかしくない御仁ですぞ!わくわくが止まりません!」
家康「そういえば義兄・信長殿に会っているが、木下殿には会って無かったな。」
「です。どんな御仁ですか?殿。」
家康「ワシも直接は会うた事が無いから今市わからん。」
それから2日後に籐吉郎一向が到着した。
籐吉郎「広い城というより、町だなこれは。そう思わんか、光!」
光秀「そうですな。いくら大殿から金子を使ったのかと思うと恐ろしいですが…」
「では会いに行くとしようではないか!」
籐吉郎達は新小田原城の本丸に向った。
籐吉郎が本丸の評定部屋を見ると、徳川の重鎮らしい面持ちのある配下4人が座り、こちらを見ていた。
(どうせ、ワシを見て猿が一人で歩いてるとでも思っているに違いない。)
家康「これはこれは越後から良くお越し下さった、木下殿!某が徳川家康でござる。もっとも、この名前は大殿に付けて貰ったのですが…」
「これはご丁寧に。しかし、某と徳川殿は初対面だが何故分かったのでござるか?」
家康「いやー。それはアレですよ… 大殿がよく…」
と、家康は籐吉郎を見ずにキョロキョロと不審な行動を取りながら話した。
籐吉郎「某の顔が猿に似てるからでしょう?徳川殿。」
「有体に申せば、その通りでございまする…」
籐吉郎は家康の物言いを怒ることなく笑い飛ばし
「よく大殿にも言われますよ、わっはっはっは!」
家康「はぁ。では改めまして、今回の北条攻めをと行きたいですが我が配下を数名紹介します。まずは。」
「お初にお目にかかります。某、本多忠勝と申す!槍が得意で合戦にて披露致しまする。」
「同じく、お初にお目にかかります。某、榊原康政と申す!以後、お見知りおきを!」
「酒井家次と申しまする。某は合戦では役に立つ事はあまりないのですが、政が得意でござる。」
「某、井伊直政と申します。若輩者では有りますが武勇の腕はあると思っております。」
籐吉郎は「うんうん」と頷きながら
「今度は某だな、徳川殿!改めてではあるが、某は猿じゃ!」
その発言に皆、大いに笑い、その場の空気を和ませた。
籐吉郎「というのは冗談で、木下藤吉郎だ。皆、宜しく頼む。こちらも数名紹介しようではないか!」
「徳川様、それに徳川様の配下の方々、お初にお目にかかります。某、明智光秀と申します。一応、殿、いや藤吉郎様の軍師的な事をやらせて頂いてまする。」
(ほう。顔はきりっとした男前で頭も切れそうだな。)
「同じく、某は蜂須賀小六でござる。盗賊あがりではあるが今や侍でござる。以後お見知りおきを。」
「同じく、某は弟の木下小一郎でござる。存在的には酒井殿と同じ立場な感じでござる。」
「同じく、福島…」
籐吉郎「ええい、お前達は以下同文でええわ!すまんな、徳川殿。こやつらは井伊殿と同じ世代で腕には自信がある者で、右から福島正則・加藤清正と言って小一郎と共に某の血の繋がりがある者だ。」
「ほう。よく鍛えていて強そうだな。」
正則「強そうではなく、強いのじゃ!」
「これ!正則!いい加減しろ!すまんな。徳川殿。」
家康「いや、大いに結構!それぐらいでないと男は駄目です!では、北条攻めの方針を木下殿お願い致しまする。」
「いや、その前に… その苗字で呼ぶのは止めにしませんかな?我らは皆、織田家家臣なのですから。」
家康「それもそうですな。では、某の事は家康で…」
「いや、家康殿は大殿の義弟殿でもありますから、家康様とお呼び致す。」
家康「あいや、待たれよ!それは駄目ですぞ。少なくとも某は籐吉郎殿と対等だと思っています。そんな御仁に様は…」
「某と対等?そんな馬鹿な話は有りますまい!某、元は田舎の百姓の小倅ですぞ?それを…」
家康「いやいや、某とて松平家の時、今川へ人質に出される程の弱小豪族の小倅でしたから…」
「いやいや…」
家康「いやいや…」
そんな光景を見ていた徳川・木下両配下達はお互いの顔を見合わせ、苦笑していたのだった。
【酒井家次(サカイイエツグ)。酒井忠次の長男。母親は家康の叔母で、家康とは従弟になる。父の隠居で家督を継ぐ。】
【井伊直政(イイナオマサ)。万千代と呼ばれていた幼少の頃から家康に可愛がられ、徳川家の先鋒大将になったが、関ヶ原の戦いで負傷して翌年死亡。】
【福島正則(フクシママサノリ)。秀吉の親戚筋にあたる、賤ヶ岳の七本槍としても有名な猛将だが桶屋の息子だった説もある。】
【加藤清正(カトウキヨマサ)。秀吉の親戚筋にあたり、同じく賤ヶ岳の七本槍としても有名な猛将で関ヶ原の戦い後に肥後52万石の大大名に出世した。】
【賤ヶ岳の七本槍(シズガダケノシチホンヤリ)。秀吉を支えた7人の武将達の事だが、実際は9人で9本槍だった説も。】
家康と籐吉郎の名前の呼び名はスッタモンダの末、家康殿と籐吉郎殿になった。
籐吉郎「何か疲れましたが、北条攻めの方針を大殿から授かっているので皆に伝える。徳川・木下軍15万は二手に別れ徳川軍は玉縄城を落とし、我らは八王子城を落とし、再び江戸城付近で合流しこれを落とす。その後、佐倉城・土浦城・水戸城と攻め落とす。尚、上総・安房方面の元里見領の各城は滝川一益殿と九鬼海軍にて攻め落とす。そして、江戸城より北の武蔵・下野・下総・常陸の小田城は上杉謙信・柴田勝家が攻め落とす。そして、水戸の先は東北の伊達を支配下に置いた大殿の織田軍本体が大田城を攻め北条を完膚無きまでに叩き潰す。これが、この策の概要でござる。」
皆、籐吉郎の説明を聞き入っていり静まりかえっていたが家康が
「大殿は凄いとしか言いようがありませんな。これなら北条は逃げる事も出来ずに全滅するでしょうな。」
その頃、上野の厩橋城では上杉軍3万が武蔵の忍城に攻め込む算段をしていた。
【忍城(オシジョウ)。ここの城は石田三成が大軍を率いて落とせなかった城でも有名。】
謙信「柴田殿には、この厩橋城を守って頂き、我らは忍城を先に攻め河越・岩槻・結城・小山と落として行くので、小山を落とした時点で早馬を出すので柴田殿は唐沢山に攻めて下され。我が軍の一隊を館林に送りこれを攻め落とし柴田殿と宇都宮城手前の街道で合流し大殿が烏山城を攻めかけたら、宇都宮城に攻め込むという事でよろしいかな?後、関東南部は木下殿・徳川殿の軍勢が受け持つ事になっておる。」
「(あの猿め、いつか蹴落としてくれる!)それで良いかと、某が大殿から預かってる兵は5千しかないので助かります。」
謙信「では、少しでも早く事を進めないと、この北条包囲網に穴があくかもしれんので出陣致す!」
そう言うと、謙信は早々と厩橋城下を後にしたのだった。
勝家「謙信殿の戦いぶりを見たかったが、宇都宮城まで待つとするか。」
こうして、信長の策で北条を追い詰めていくのだったが、相手の北条はというと…
北条氏康居城の水戸城では緊急の軍評定が行われていたのだった。
氏康「なりを潜めていた織田信長が侵攻を始めたようだな。どう見る、幻庵。」
「まずは、小田原からですから綱成の玉縄城と八王子城を攻めるかと思われますな。」
氏康「では忍城の成田長泰殿に八王子城へ援軍を送って、玉縄城にはワシが向う事にする。」
そんな話をしていた氏康に火急の知らせが飛び込む!
「伝令!!軍儀のところ失礼致しまする。今しがた、上野の厩橋城から上杉謙信が成田様の忍城に向ったとの事!」
すぐさま別の早馬が来て
「伝令!!上総・安房方面に海賊が現れましたが、その旗印が織田の物で…」
氏康「なんじゃと?!三方からか!しかも上杉謙信が動いてるのが気がかりじゃ!どうみる、幻庵。」
「しからば玉縄城へは結城城の晴朝殿に援軍を出してもらい、忍城の長泰殿には悪いが持ち堪えてもらうしかなさそうですな。」
氏康「しかしそれでは、館林や唐沢山が手薄になるぞ?」
「では佐倉城の千葉殿に玉縄城の援軍を頼み、忍城は放置しますか?」
氏康「うむ。しかし問題は謙信が忍城を落とした後にどちらへ進むかで戦況が変わるな。」
「ですね。それよりも、上杉と織田が同時に攻めて来るのがおかしいのでは?」
氏康「それよ!まさか上杉と織田が手を組んでいるのではないか?」
「それなら、今回の事が全て辻褄が合います。」
氏康「ちょっと待て!では、援軍を送らず全ての兵力をこの水戸に集結すれば、あるいは…」
「幸い、北からは攻めて来ません!であるなら、相馬と蘆名に援軍を要請してはどうでしょうか!」
氏康「おお!さすが、幻庵じゃ!その手があった!すぐに相馬と蘆名へ早馬を送れ!綱成と八王子と成田には踏ん張ってもらうしかない。援軍要請が来たら、そう返答しておけ!」
しかし、その北条氏康の考えを見透かしてるように織田信長の軍勢が、氏康の頼りにしている一方である相馬の小高城を攻めていた。
政宗「大殿の攻めっぷりは、えげつないですな!感服致します!」
それもそのはず、大筒の砲撃で城門はおろか城壁や城内屋敷を破壊していく光景は誰が見ても圧巻としか言いようがなかった!
信長「そうか?しかし、この攻め方もすぐに真似されるとワシは思っておる。」
「え?そんな訳ないでしょう?某は鉄砲の価値を知ってますれば、大筒という武器の値段もだいたいですが分かります。東西広しと言えど大殿の様に金子は使えますまい!」
信長「いや、これは我が織田家にしかない大筒であり火縄銃である。」
「は?それはどういう事でござるか?」
信長「政宗には言うておらんが、この武器はみんな織田家専属の鉄砲鍛冶が作った代物じゃ。まぁ、考案したのはワシなんじゃがな。まず、大筒と火縄銃の射程範囲が長い。馬に騎乗しながら火縄銃を撃てるように砲身を短くしている。雨の場合は雨に濡らさない工夫を施しているしな。」
「(隙あらばと思っていたが… 勝てる気がしない!お手上げじゃ。)凄まじい知恵ですな。」
と、政宗は物凄く感激するのだった。
そして、水戸の氏康に相馬と蘆名の状況が伝わる…
「伝令!蘆名家の須賀川城下が織田の軍勢で埋め尽くされてる状態でした!」
続けて相馬の送った早馬は
「相馬の小高城に織田軍が攻撃を加えて、もう時間の問題かと。」
北条陣営は驚愕したのだった。
氏康「馬鹿な… 四方から、この北条家を包囲するつもりか… で、兵力は分かるか?」
「はっ!小高城を襲っていた兵力は織田方…」
氏康「待て!織田方とはどういう事じゃ?まさか…」
「はっ!伊達家が織田に付いたと思われます。それが証拠に織田軍と行動を共にしていました。」
氏康「では何か?北の二方向から織田軍。海。南からも織田軍。西からは上杉軍… もはやこれまでか…」
すると、氏康の軍師とも称される北条幻庵が
「殿!肝心の信長はどこから来るのでしょうか?」
氏康「おお!そうじゃ!ようは織田信長を討てば終わりなのじゃからな!」
「その事なのですが、殿様。」
氏康「なんじゃ、まだ居ったのか?構わん言うてみい。」
「相馬の小高城を攻めていた大軍勢に織田信長らしき人物が…」
氏康「何?!それは誠か!?」
「はっ!大道寺様から聞いた事がありまして、織田のうつけはやたら派手好きだと。ど派手な甲冑を着た武将が先頭に居ましたので、間違いないかと。」
氏康「おお!でかした!そなたには織田に勝てたら褒美をつかわす!」
「はっ!ありがたき幸せ。」
氏康「では方針を伝える!各城に伝令を送り大田城下に集結し、織田を叩く!結城晴朝あたりが文句を言うと思うが「織田を倒さないと未来は無い!」と伝えろ!それと敵と隣接している城には伝令を送らなくても良い!酷いようだが、これも北条家の為じゃ!」
幻庵「ですな。時間を稼いでくれれば…」
そんな話をしている事を知らない信長は相馬家の小高城を落とし大田城に向う準備を整えていたのだった。
【大道寺政繁(ダイドウジマサシゲ)。北条早雲からの譜代の家柄で代官や城代を歴任し、秀吉の小田原攻めの時に降伏して、前田利家の道案内をしたらしい。】
【北条早雲ホウジョウソウウン。初代北条家当主。】
信長の元に妙な報告が謙信側と徳川側の草からまい込んで来た。
信長「家康の方は玉縄城以外の城がもぬけの殻で、謙信の方も忍城以外がもぬけの殻とは… いったいどうなっておるのだ?」
政宗の右腕である片倉が
「織田様に申し上げたい事があります。」
信長「どうした?申せ!」
「はっ!これは織田様が居る場所を特定したと思われまする。」
信長「さすがは政宗の懐刀じゃ!北条氏康め、全ての城を捨てワシと直接対決するつもりじゃな?」
「某もそう思いまする。兵力的には互角かと…」
信長「ワシも舐められた者よのぅ。」
政宗「大殿!ここは一気に大筒で蹴散らしては如何ですか?」
「いや、今後の事を考え北条氏康のお手並みを拝見… (待てよ、あやつは確か夜戦が得意じゃったな。)」
信長が会話の途中で黙ったので政宗が
「どうされましたか?」
信長「いや、北条氏康は夜戦を仕掛けてくる可能性がある。」
「夜戦… あっ!たしか夜戦で有名になったと聞いた事が…」
片倉「夜戦ですと、大筒も火縄銃も使えないのと同じですからね。」
信長「夜戦で来ると分かれば、こちらは長槍を構えの陣形で横一列を何重にも重ねて行軍するとしよう。」
片倉「そういう事か…」
政宗「何がそういう事なんだ?」
「後方には敵は居ない。そしてこの街道が一本道…といえば?」
政宗「前からしか、仕掛けて来ない!」
「そうです。いくら夜戦慣れしてるとはいえ、前方にしか攻撃出来ないから奇襲に意味が薄れます。」
信長「さすがだ!しかし、それだけではない!奥行きを薄くし、突破させやすくする。」
政宗「突破されやすく?そんな事をすれば…」
「殿!織田様はわざと突破させるつもりではないでしょうか?」
政宗「何?!わざとか…?そうか、そこを包囲すると?」
信長「阿呆!包囲したら相手の後続部隊の思う壺ではないか!」
「そうですね… 反転しても反転した隊が後続にやられますね…」
信長「何重にもと申したではないか!」
片岡「わざとでは無く、ある程度抵抗して何回も突破させる事で疲労させるのですか?織田様。」
「そうじゃが、突破させた後の兵は左右にあるが、そのまま闇夜に紛れて待機させておき、後続部隊を全て飲む込んだら…」
政宗「四方八方から攻めかかる!!恐れ入りました!!」
織田と伊達の家臣達から「さすが大殿!」と声が聞こえた。
信長「氏康、目に者を見せてくれるわ!わっはっはっは!!」
そうとは知らず大田城下に集結していた氏康らは…
氏康「信長には鉄砲がある!ワシの得意とする夜戦でそれを封じる。どうじゃ、氏政。」
「さすが父上!それでは相手も同士撃ちになりますから撃てないし、敵が見えない。」
氏康「そうじゃ!大田・小高間の街道は一本道だ!信長は必ず最後尾に居る!闇夜に紛れて突撃し、織田本陣を突いて織田信長を討つ!!夕刻に出陣する!!この一戦は北条家の命運を賭けた一戦だ、皆の頼んだぞ!!」」
”おおおおぉぉぉぉぉ!!”
その頃、織田軍は陣形を編成していた。
信長が皆に聞こえるように話始め
「皆の者!この戦いで北条を滅ぼせる!先ほど説明した通りに動けば必ず勝てる!!北条を滅ぼせば後は毛利と九州だけじゃ!ワシと共に日ノ本を一つにし争いの無い日ノ本を作ろうではないか!今夜、氏康が夜に奇襲をかけて来るのは必定!!後少しの辛抱じゃ!ワシに、この信長に力を貸してくれ!!」
”おおおおぉぉぉぉぉ!!”
そして、日が落ち北条家は生き残りを賭け、信長は日ノ本統一悲願の為、決戦が切って落とされる!!
北条氏康は織田信長が待つ、大田城小高城間の街道中腹に兵を進軍させていた。
氏康「皆、止まれ!幸い、ここは海岸が近く波の音が大きいので馬の蹄の音や声はかき消してくれるだろうが、旗を降ろし松明を消し足音も消し一切喋る事を禁ずる!」
氏政「父上!今日は我らを味方してくれる神仏が居ると思われまする。」
そう、この日の空には月が無く曇り、霧も発生していたのだ。
しかし、この状況は信長にとっても好機であった。
信長「今日はなんと良き日であろうか!そう思わぬか、政宗!」
「そうでござるな。月明かりも無くしかも霧と波の音も相まって絶好の合戦日和かと!」
信長「相手も、同じ事を思っておるやもしれんが… 勝機は我にありじゃ!」
そして、信長の号令が発せられ
「いつ、北条が突っ込んで来るかも知れん状態じゃ!皆、心してかかれ!!声は出すなよ?」
そして…
氏政が隣に居る氏康に小声で声をかけ
「父上…」
それに呼応するように氏康の軍配が降ろされた!!
すると、織田軍の先鋒の前に突然黒い塊が現れたのだ!!
すぐさま、信長に伝令が届く!!
「大殿!!」
信長「ついに現れたか!!」
そして、合戦の火蓋始が切って落とされた!!
氏康「進め!進め!勝機はこの北条家にあるぞ!」
先鋒か後方まで北条軍は一つの塊と成り織田軍に襲いかかる!
政宗「大殿!敵は鋒矢の陣ですぞ!!」
「これは好都合じゃ!陣ぶれを鳴らし、先鋒隊に合図を送れ!!」
信長は策通り、各隊に支持を出す!
鋒矢の陣の最前列からすぐ後ろに位置する場所に氏康の本隊がいたので、前方の様子が把握出来た氏康は
「敵は長槍の陣じゃあぁぁぁ!!このまま突き崩せ!!」
氏康の声で北条軍は突撃して行く!!
織田側は何重にも連なる長槍の陣の中継地点の政宗の右腕である片倉を配置し、逐一政宗を返し信長に報告していた。
政宗「敵は第一陣を突破!第二陣に突撃を始めました!!味方は指示通り左右に散って、恰も線離離脱してるように偽装中!!」
「うむ。このまま戦況を報告しろ!!」
対して、氏康は
「このまま突き進め!!その先には必ず信長の陣がある!!」
氏政「父上!順調の突破し、敵は戦意喪失して逃げていますぞ!」
「おお!それは穣穣。」
その頃、信長は
「戦況はどうじゃ?北条軍の後尾は第一陣のいた辺りより後方に移動したか確認を急がせろ!」
政宗「いえまだの模様です。現在第二陣を突破されたところです!」
北条軍は何度も突撃を繰り返した…
氏政「(いったい何重の陣が存在するのだ?一向に織田本陣が見えないな。しかし、優勢なのは確かじゃ。)父上!十度目の突破に成功しました!こちらの損害は軽微ですぞ!」
「でかした!我らに後退の文字は無い!突き進むのじゃ!!」
政宗「今、連絡が!」
「うむ。もう一度、陣ぶれを鳴らせ!!総仕上げじゃ!」
ようやく、信長本陣が氏康の目に飛び込んで来たと同時に霧が消え、辺りが薄っすらと紫色になる。
氏康「織田信長!!ワシが北条氏康じゃあぁぁぁ!もう貴様の味方は無い!!覚悟せい!」
信長「はっ!片腹痛いわ!!覚悟するのは、おのれじゃ!!周りを良く見て見ろ!!」
その時、信長が言う通りに後ろを振り向くと丁度、空が晴れ朝日が目に飛び込んで来た。
「くっ!眩しい!!」
そして、改めて見渡すと
「馬鹿な?!氏政の報告では戦意喪失して逃げたと… 」
そう、氏康が見た物とは逃げたと思っていた織田軍が自軍を完全に包囲していた光景だったが、再び信長の方を見ると無数の火縄銃の銃口がこちらを狙っていた。
(なんて数の火縄銃じゃ…)
と、戦意を完全に消失した氏康と北条軍の家臣達や兵士達が一歩も動けなくなり、一瞬の静けさが辺り覆い… そして、信長の号令が無常にも響き渡る!!
『放てえぇぇぇぇぇ!!』
約15000もの火縄銃が火を吹き、信長の陣の後方から大きな轟音が轟いた!!
”ばばばばばぁぁぁぁんん”
”どどどどどおぉぉぉぉん”
北条軍の前列の隊は皆、穂が傾くが如く倒れて行き、後方の隊には雨霰の如く砲弾が降り、さながら地獄のような光景になっていた。
そして、家臣や兵士達が死んで逝くのを、ただただ見るだけしか出来ない氏康は途方に暮れていた…
氏康「まさか、ここまでの戦力差があったのか…」
と、嘆くが信長は
「貴様が、突撃に固執したせいもあるな。」
氏康「突撃に固執したと申すが、我らには後が無かったのだ。」
そう、後方には上杉・柴田・木下・徳川・滝川率いる九鬼水軍が迫っていたからだ。
信長「大国で胡坐をかいていたツケが回ったのじゃ。」
「そうか、「うつけ」と噂されていた貴様だったが、本当の「うつけ」はワシの方じゃったか… 逃げも隠れもせんが、冥土の土産に教えろ!貴様は何を目指しているのだ!」
信長「日ノ本の各大名を廃止し、争いのない世にしたいだけの事じゃ。その為には武力での統一が手っ取り早かっただけの事じゃ。」
「ふふっ。ワシの完敗じゃ!!良い戦であった!!戦の無い世に成ればいいのぅ…」
それが北条氏康の最後の言葉だった…
その後、北条軍の兵士や家臣達も尽く殺され、嫡男の氏政も逃げようとしたところを捕らえられ斬首された。
政宗「大殿!この後はどうなされるのでござるか?」
「まずは、この先の大田城に今回の北条包囲網に参加した家臣達が集まる。そこに、行こうではないか。そして、今後の方針をワシから皆に話すとしよう。」
こうして、北条氏康率いる北条軍は全滅し、織田信長は関東一円を手に入れたのであった。
北条氏康率いる北条軍を撃破した信長は、その先にある常陸の太田城に向う。
すると、すでにもの凄い数の兵士達でごった返していた。
信長は城の城壁にある櫓に昇り
『謙信!!権六!!家康!!猿!!、この状況をなんとかしろ!!』
信長はもの凄く通る声なので、直ぐに家臣達や兵達が信長に気付いた。
籐吉郎「大殿!!いつ、こちらに?それより、北条軍が何処にも居ないのですが?」
勝家「大殿に向って「それよりも」とは何じゃ!!猿公の分際で!!」
「言うに事欠いて「猿公」とは、ちと言い過ぎではございませんか?」
勝家「猿に猿公と言って何が悪いのじゃ!」
「むきぃーーーー!!」
籐吉郎と勝家は相変らず仲が悪いが、その仲裁に家康が動く。
家康「柴田殿も木下殿も、大殿前でいがみ合うのは控えた方が良いですぞ!」
「これは大殿の義弟の家康殿。某は人と話したいと思うておったのじゃ。」
その言葉を聞いた藤吉郎は地団駄を踏んで
「むきぃーーーー!!」
と、また吼えていた。
家康「柴田殿… それより、あれは上杉謙信公ですよね?」
「うむ。謙信公に大殿からの命で策を貰っただけなのだが、ここは織田家譜代の家臣達しか居ないのに、まだ越後に帰ろうとしないのじゃ?」
家康「そういえばそうですな。あっ!!」
家康は謙信と信長が親しげに話してるのを見て
「ワシが先に話そうと思うていたのに、先を越されたわ!」
その謙信は
「大殿。そやつが政宗殿かの?」
信長「うむ。ここではなんだ、太田城内の二の丸屋敷で話そうではないか。」
そして信長が主要な家臣だけ二の丸屋敷に呼び、今後の方針を話す事にした。
部屋には奥座に織田信長。
奥座を見た状態が正面で向って右、信長から見て左斜め前付近に鎮座するのが義弟・徳川家康。
その家康の後方に家康直属の本多忠勝、榊原康政、酒井忠次、井伊直政が座っていた。
家康から少し離れた左隣に木下藤吉郎が座っており、その後方は明智光秀、蜂須賀小六、木下小一郎が座っていたが、福島正則と加藤清正は外で隊の整理をさせていた為、ここには参列していない。
次に向って左、信長から見て右斜め前付近に鎮座するのは上杉謙信で、その後方に柿崎景家、宇佐美定満が座っている。
その謙信から少し離れた右隣に伊達政宗が座っており、後方には後藤信康、伊達成実、屋代景頼、留守政景、片倉景綱が座ってる。
そして柴田勝家は信長の右隣に座っていた。
佐々は籐吉郎の配下の福島らと共に兵の整理をして此処には参列していない。
織田信長が皆に労いの言葉をかけ
「皆。北条包囲策、見事でであった!!」
一同『ははぁぁぁぁ!』と頭を垂れた。
信長「皆。面を上げよ!まずは、皆不審がってる事から話す。ここに居る謙信と、その横に居る政宗は我が織田家の家臣と成った。」
信長は謙信に目で合図を送ると
「新しく皆々様と同じく轡を並べる事となった越後守護代・上杉謙信じゃ!今後共同じ織田家の一員として宜しく頼む。」
次に信長は政宗に目で合図を送ると
「某も新しく織田家に忠誠を誓う事になった、一豪族に過ぎない伊達政宗でござる!まだ若輩の身なれど今後共お願い申しあげる。」
この挨拶に織田家譜代の勝家が驚いていた。
信長「そう驚くな、権六!まだ日ノ本には倒さなくてはいけない敵が多いのだ。人は多い方が良い。」
「それはそうですが…」
信長「何じゃ。不服か?」
「いえ、不服などあるはずがありません。」
信長「そうか?ならば話を進める。政宗!」
政宗は信長から急に話を振られて
「え?は、はい!」
信長「何が「え?」じゃ!しっかり聞いておけ!」
「し、失礼仕った。」
信長「うむ、政宗。いや伊達家の領土件じゃ、一度しか言わんからしっかり聞くように。伊達家には岩代・羽前・羽後・陸前・陸中・陸奥と東北一円と蝦夷を領地として治めてもらう!」
それを聞いた政宗はもの凄い勢いで立ち上がり
「え?!は?!東北全てを伊達家に頂けるのですか?失礼ですが、某はまだ何も働いてませんが?」
信長「これから働けば良いではないか?」
「いやいや、これからにしても… こんな広大な領地を頂けるとは思いもかけず…」
信長「何じゃ。これくらい驚かれては困るのじゃがな。」
「は?!まだ何かあるのですか?」
信長「それは、この日ノ本を統一してからの話になるからの、楽しみにしておれ!それより、おぬしはすぐさま帰り、羽前・陸前以外の領土の治安を回復させ、石高が増える手立てを考え地盤を固めるのじゃ!」
「なんだか分かりませんが、承知致しました!その後はどうなさるのでしょうか?」
信長「地盤を充分固めたら、ワシ宛に文を送れ!よいな!」
「は?はぁ…」
信長「ん?聞こえんが?お前の父上殿も言うておったが、言葉をはっきり申せ!」
「はい!!」
信長「それで良い!おっと、皆の者!この伊達政宗はワシの妹の犬を貰ってもらう事になった!家康の義弟になる!心せよ!」
その言葉に勝家が
「お市様についで、お犬様まで…」
信長「権六が密かに狙っていたのは分かっているが、歳が離れ過ぎてるゆえな。」
「そんなぁ… しかし、大殿!某が何故狙ってると分かったのですか?」
信長「(おっと、これは死んでからの情報だったな。)いや、なんとなくじゃ。当ってたか?すまん。」
「某は若い娘の嫁を貰うのが夢ですので、諦めず精進します。」
信長「(この変態め!)その勢じゃ!」
信長は籐吉郎に目をやり
「猿!!鼻糞を穿ってる場合ではないぞ?」
籐吉郎「こ、これは失礼。(急に、こっちにおはちが…)」
「貴様のその名前に重みがない!ここらで改名せい!」
籐吉郎「いや、これは母が付けてくれた名前ですし…」
「このままでは農民の出丸出しのままで威厳が無いぞ?ワシが良い名前を与える!良いな?」
籐吉郎「え?大殿が直にでござるか?それは光栄です!某は大殿に拾って頂いた恩が有りますので従いまする。」
「そうか?では貴様は今後、羽柴秀吉と名乗れ!」
秀吉「羽柴?あっ!丹羽様の羽と柴田様の柴ですね?織田家譜代筆頭家臣の名前の一文字を… あり難き幸せ!秀吉とは…?」
「お前は何事にも秀でた勘の良さがあるので秀。吉は吉祥の吉。よって秀吉とした。不服か?」
秀吉「いえ、こんな百姓の小倅風情にこんな立派な名前を頂き感謝しかございません!」
そして、この事を聞いていた勝家は
「大殿!こんな猿公にワシの姓の一文字を与えなくても…」
信長「良いではないか、猿も織田家譜代筆頭家臣と権六の事を思っておるのだぞ?筆頭とな!」
「そ、そうでござるな… 筆頭でござるか… 猿、いや秀吉!名前に恥じぬ働きを期待しておるぞ!」
秀吉「(何が働きを期待しておるぞ!じゃ… まったく。)ははぁぁぁ。柴田様ありがとうございまする。」
信長「うむ。では政宗を除く、これからの方針は…」
信長の方針が何なのか皆、生唾を飲み待つ。
信長「まず謙信に申し渡す!」
「はっ!何なりと、大殿!」
信長「各領地の城を廃止し、城の跡地に小さな砦を建て、街道には10里ごとに番所を置け。」
謙信の目が点になり
「あの大殿?城を無くすとなると、敵が襲って来たらどう対処すれば?」
信長「敵?そんな者どこにおる?越前に朝倉が居るだけで、後方には誰もおらんぞ?違うか?」
「それはそうですが、いつ裏切りがあるかも知れませんし。」
信長「それを見定めるのは、おぬしの仕事じゃ。近畿制圧には何かと時間がかかる。謙信も地盤とさっきの件が全て終えたらワシに文をよこせ!」
そこに、のそっと政宗が
「その城を廃止するのは、某も同じでござるか?」
信長「おお!言うのを忘れておったわ!その通りじゃ。」
「(ああ、聞くのやめれば良かった…)はっ!分かりました!!」
信長「では両者は国元に帰り、急ぎ取り掛かれ!何、そう不安そうな顔をするな!うぬらには、それが終わったら日ノ本統一の仕上げに参加してもらわねばならかな。」
政宗と謙信が信長に対し一礼をして部屋を出た。
信長は家康の方を向き
「家康!息子の顔を早く見たいであろう?」
家康「それはそうですが、もしかして我らも城を廃止せよと?」
「うむ。よく分かっておるではないか!さすが義弟じゃ。」
家康「(やはり…)では、某もこれにて…」
「どこに行くつもりじゃ?」
家康「え?国元に帰るのですが?」
「阿呆!お前は夫婦と息子を連れて摂津の本願寺家の膝元・石山の町に移住し、さっきの件を優秀な配下に任せておけば良い!」
家康「は?ええっと?へ?」
家康は混乱した。
信長「しっかりせい!まだまだ、やる事がいっぱいじゃ!休んでる訳にはいかんのじゃ!」
「一度聞いてみたいと思うてたのですが、大殿は何故そんなに事を急ぐのですか?」
信長「人間誰しも寿命があるが、その寿命が尽きるその日までに統一し、日ノ本を良い国にしたい。」
「寿命のある内にですか… 承知致しました。大殿にどこまでも付いて行き高みを目指しまする。」
そして、信長は皆に号令を出す!
『一旦、石山本願寺の界隈に軍勢を移動させ、摂津の飯盛城に謙信・政宗・家康の配下以外の家臣達を集め軍評定を行う物とする!凱旋じゃ!胸を張れ!後は中国・九州のみぞ!』
こうして、織田軍は摂津に向け移動を開始し、謙信・政宗は帰路に着き。家康は途中の岡崎城に寄る事となったのだった。
★
織田軍は摂津の石山本願寺に移動中、家康が岡崎に寄るとと言い出したので信長が
「家康。岡崎に寄るなら、合戦の疲れを取ってから来い。」
家康「へ?(信長殿がこんな事を言うとは… また、良からぬ事を考えているのでは…)」
「へ?ではない!おぬしも国元が心配であろう?ほれ、奥方とか息子とか!!」
家康「あー、そっちですか?」
「何が、「あー」じゃ!ワシは義弟である家康を気遣ってるのじゃ!」
籐吉郎が家康の袖を引き
「家康殿、素直に大殿の言う事に聞いておけば良いと思いますよ。」
家康「それはそうなのだがな…」
信長「何を、猿とごちゃごちゃと話ておるか!家康!分かったな!」
「(後が怖いが…)はっ!謹んでお受け致します!」
その言葉を聞いて信長は胸を撫で下ろした。
それもそのはず信長は濃を通して市から引っ切り無しの文が大量に届いていた。
『兄上!いい加減に家康様を帰して下され。お市は寂しいくて寂しいくて、夜が!!』
(これで、市の顔が立つであろう… ワシに文句を言えるのは濃と市くらいだからな…)
と、独り言を呟く信長だった。
次の日、尾張・清洲城が見えたので久しぶりに父・信秀を訪ねた。
信長「父上!!まだ生きてますか!」
「馬鹿者!!まだ死んでおらぬわ!!それより、どうしたのじゃ?」
信長「今、お幾つに成られましたか?」
「歳の事は聞くな!あの世が近く感じてならぬわ!」
信長「それはそうと、親父殿。石山本願寺近くに引越しませぬか?」
「摂津のか?」
信長「京も堺も近いですし、それに某にも親父殿と酒を酌み交わしたいと常々思っていたのですが。」
「(ワシの死期を読んでの事か、もう61歳じゃ。そろそろ迎えが来てもおかしくない…)尾張の方が気楽で良いが、ここは信長様に任せてみるかの。」
信長「親父殿!ワシは織田家当主である前に織田信秀の息子ですぞ!それを「様」とは…」
それを聞いた信秀はにこやかに笑って
「お前はいつから冗談も分からない「うつけ」に成ったのだ?」
信長「ふふっ、親父殿!お忘れか?ワシは「うつけ」と前から言っておるではありませんか?」
「おお!そうであったな!わっはっはっは!」
そして、急に真面目な顔になった信長は
「平手のじぃは…」
信秀「平手は逝きおったわ… おまえの天下統一を生きてる間に見たいと言っておったのにな…」
「…。 そうですか。平手のじぃも惜しい事をしましたな。後1年長生きしてれば日ノ本統一を成しえたのに…」
信秀「信長!!後1年とはどういう事じゃ?」
それを聞いた信長が
「親父殿。どうもこうも、この織田家に立ち向かえるのは中国・毛利か九州・大友くらいしか残っていないのです。」
信秀「は?!馬鹿も休み休みに言え!」
「今の織田家に怖い物はありません!」
信秀「ついに、頭の中まで「うつけ」に成ったのではあるまいな?」
「はぁ…。あのですね、今の織田家の家臣に越後・上杉謙信を筆頭に、義弟・徳川家康、東北・伊達政宗が、同盟では摂津・本願寺、四国・長宗我部家があります。加えて、美濃から東側全て織田家の支配下に成っております。」
信秀は、口をぽかーんと開けて信長の話を聞いていた。
信長「親父殿!!」
「おお!?」
と、驚き
「信長。さすが、ワシが見込んだ男じゃ!ようやった!」
信長「まだ統一してませんがね。後1年長生きして下され!必ず統一してご覧にいれまする!」
「あいわかった!信長の天下統一、必ず果たせ!」
信長「はっ!日ノ本統一を!」
「(ん?こやつ、さっきから日ノ本と何回も言うが… もしや!?)おい、ちょっと聞いてもよいか?」
信長「何です?」
「日ノ本統一と言ったな?」
信長「言いましたが、何か変ですか?」
「お前の言う天下統一とは、いったい何の事じゃ?」
信長「親父殿。天下統一に意味?ついにもうろくしましたか?」
「馬鹿者!!(ワシの思い過ごしだと思うが、まさかな…)」
信長「さて、親父殿には摂津に新しく町を作って各屋敷を建てた後に文を送ります。それから、美濃の義親父・道三殿と一緒に来て頂く事に成ります。」
「道三殿と屋敷に?」
信長「お一人では話し相手も必要だろうと思いまして。後、謙信殿とも話が出来るように致します。」
「おお!!上杉謙信殿か!これは面白い!分かった。」
清洲城を後にした信長率いる織田軍本体は美濃・岐阜城に向い、羽柴・柴田の軍は信長の命により摂津の石山本願寺を目指したのだった。
西暦1570年秋。
岐阜城に帰った信長は、先に信長直属の家臣達や合戦に赴いた兵達を労い、褒美を渡して家族の元に帰した。
岐阜城の本丸の奥座敷に濃が信長の顔を見るやいなや、もの凄い勢いで近付いて来た!
濃「信長様!!今宵は、あ・い・てをして頂けるのでしょうね?」
「あ、あ、ああ。今宵は大丈夫じゃ。」
濃「今宵は大丈夫?ま・さ・か、今宵しか駄目とか言わないでしょうね?」
と、濃の顔は山姥の如く怖かった…
(さすがは蝮の娘じゃ… いや、おなごを待たせたワシが原因か…)
と、心の中で思った信長であった。
数日間、美濃・岐阜城で過ごした信長は道三と濃に信秀と摂津の新しい町への引越しの承諾を得て、紀伊・新宮城へ約五万の兵を率いて向った。
そう、新宮城の九鬼嘉隆と滝川一益に会う為に…
尾張を経由して伊勢・志摩を抜け、数日をかけ新宮城下に到着した織田軍は早速、城内に入った。
城内に入ってすぐに滝川一益が信長を迎え
「大殿。ご無沙汰しておりました。お変わりなく、ご謙遜でなによりです。」
信長「うむ。一益も元気そうで何よりじゃ。九鬼嘉隆殿はおいでか?」
「大殿が「九鬼嘉隆殿」というのはおかしいですぞ。もう、某の配下に成っているので事実上、織田家の一員ですから呼び捨てで宜しいかと。」
信長「ほう、そうか。分かった。」
「嘉隆は本丸に居ます。あやつは人見知りでして、申し訳ございません。」
信長「ほう。てっきり、嫌われてるのかと思っておったが…」
「いえ、某と会ったばかりの頃は嫌っていたと思いますが、今は認めているかと。」
信長「それなら、良いがな。では、向うとしようかの。」
そういうと、信長は一益の案内で本丸に向う。
嘉隆「織田信長か?」
一益「これ、大殿に向って…」
「良い。会うのは初めてだからな。そうじゃ、ワシが織田信長じゃ。」
嘉隆は初めて信長をまじまじと見て
「某の思っていた奴と違い、偉そうではないし… 気に入った!」
信長「そうか。それは良かった。ところで嘉隆よ、あの船はどうだ?」
「あれは最高だ!あの大筒の数も良いが鉄板を張り合わせてるだけだが、まるで鉄で出来た船のような威圧感がたまらん!」
信長「それは何よりじゃ。それで、今回はあの船の量産と船を操る者の育成を頼みたいのだが。」
「ほう。いったい何隻造るつもりだ?」
そのやり取りを見ていた一益が嘉隆に向って
「いい加減にせんか!大殿に向って、その物言いはどうなんじゃ!」
信長「一益!かまわん。嘉隆は元々海賊の出じゃ。ワシも嘉隆と話してると童に返った気分で楽しい。」
「大殿がよければ、それに越した事はないですが…」
嘉隆「織田の頭が言うんじゃ、一益も大目に見ろ!で、さっきの話だが?」
「おお!そうであったな。鉄甲船500隻、大型船5000隻を作ってくれ!もちろん金は織田家が出す。」
嘉隆「織田の頭!そんなに造って、何と戦うつもりじゃ?そりゃ、造れと言うなら造るがな。」
「嘉隆よ!一つ聞くが、おまえは日ノ本の海だけで満足か?」
嘉隆「は?何を言ってるのだ?」
「嘉隆よ!この城から見る、水平線を見て感じる物はないか?この大海原を支配して、貴様の名前を轟かせたくはないか?」
嘉隆「織田の頭!本気で言ってるのか?そりゃあよう、こんな日ノ本だけじゃなく外洋に出たい気はあるにはあるけどな。」
「この日ノ本はもうすぐワシが、この織田信長が平定する!しかし、それはワシの描いている天下統一ではない!世界を取ってこその天下統一じゃ!この話は、ここに居る一益と嘉隆にしか話してないがな。」
一益「大殿は初めから、その野望を持っていたという事でござるか?」
「そうじゃ、日ノ本も統一し朝鮮方面軍と南蛮方面軍に分かれ世界を取りに行く為に、この船団が必要になる!どうじゃ?嘉隆!胸踊るとは、この事だとは思わぬか?」
嘉隆「織田の頭、いや大殿!その考えに乗った!!すぐに着工しようではないか!」
「着工は良いが、何隻かを毛利の村上水軍を屠るのに欲しいのじゃがな。」
嘉隆「おお!村上水軍は我が九鬼の宿敵!この船で攻めても良いので?」
「うむ。しかし、まだ赤松や宇喜多を攻略していないので、攻略次第という運びになるがな。」
嘉隆「分かった!この九鬼嘉隆が責任を持って船団を作ると、ここに誓おうではないか!」
そう、織田信長の目は世界を見据えていたのだ。
そして、この話は他言無用と一益・嘉隆に言い聞かせた信長は摂津の石山本願寺に向け軍を進めたのであった。
第一部『序章』完
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