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第一部『序章』

第壱話

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ここ日ノ本と呼ばれた時代


時は西暦1582年6月2日、京の本能寺での日本歴史上もっとも有名な『本能寺の変』が今まさに起ころうとしていた。


信長は騒々しい音で目を覚まし蘭丸を呼ぶ!

「蘭丸!外が騒がしいがどうしたのだ!」

「は!上様、大変でございます!謀反です!」

「であるか!どこの馬鹿だ?」

「は!馬印を確認したところ桔梗紋、明智光秀との事です!」

「何?!あの金柑がか?馬鹿な、あやつが謀反だと?あれだけ目をかけてやった恩を仇で返すとは!」

「もう寺の周りは明智の軍勢で取り囲まれているかと!上様、どうしましょう?」

「是非も無し!蘭丸、弓と矢を持ってまいれ!」

「は!」



信長は寝室を出て果敢に弓で応戦した…

「ええい!数が多すぎる!こんな事なら信忠を返すのではなかったな… 致し方ない!」

「どうなさるのですか?」

「最早これまで、蘭丸!ここより先に兵を1人も通すな!」

「上様… は!身命をとして言いつけを守ります!」

「そなたには、いや… 地獄で再会しようぞ、ではな!」



信長は燃え盛る一室で

(まさかこんなところで、天下統一の夢が絶たれるとはな…)

『人間五十年 下天の内をくらぶれば 夢幻の如くなり 一度生を得て 滅せぬもののあるべきか』



「悔いが無いと言えば嘘になるが… さらばじゃ!!」

と、本来はここで自害して終わるのだが…



織田信長は別の空間で目を覚ます。

「ここは、どこだ?真っ白で何もない所であるな…」


そこに、どこからともなく声が聞こえて来た。

「そこの御仁、何かお困りですかな?」

と、顎鬚と髪の長い老人が信長に声をかけた。


「困ってると言えば困っておるが、ここは地獄か?」

「ここは地獄ではない。しいて言えばあの世とこの世の間(ハザマ)かのう。」

「であるか。」

「おぬしに未練はあるかのう?」

「未練か… おかしな話ではあるが聞いてくれるか?」

「何やら溜め込んでおるようじゃな、話てみよ。」



信長は見知らぬ老人に、今までの経緯を事細かく話して聞かせた。


「うむ。では、もう一度だけ現世に戻ってやり直してみるというのはどうじゃ?」


老人はにこやかに信長に提案したが、信長は冗談だと思い、その話に付き合ってみる事にした。


「それは是非も無し。だが、もしそのような事が出来るなら生前の記憶を持ったまま生まれ変わってみたいものよなぁ。」

「ほう、生前の記憶をとな。それなら、おぬしが死んだ後の100年後の記録を一緒に持って行くのはどうかな?」

「死んでから100年後とな。面白いな!」

「では、もう一度やりなおしてみよ!そして、思う存分生きてみよ!おっと、時代を西暦1549年まで戻しておいてやるわい!ではな織田信長!!」

「おい、ちょっと待たれよ!おい!」


信長の目の前が暗闇に成ったと思ったら尾張の名古屋城が見える丘に1人立っていた。


信長は我に返って
「ここは尾張か懐かしいな。そして、あの老人が言った通りワシも若返っておるではないか!」

(てっきり冗談だと思っていたのだがな…)

「この時代だと、まだ親父殿も平手のじぃも生きておるやもしれんな。ワシを蘇らしたのはいったい何をさせたいのやら… まぁ何にせよ、今度はこそ天下を取ってやるぞ!」


あの老人の目論見は分からないが信長の物語は再び始まる…


                
                 ★ 



【実史では西暦1548年に三河(現在の愛知県東部)の松平家当主で松平広忠(マツダイラヒロタダ)は今川家の属国でその証に嫡男である竹千代(後の徳川家康)を今川家の人質に送る事にしたが、その事に腹を立てた家臣に暗殺された。しかし、暗殺される前に竹千代を今川家への道中で移送する兵が織田家に売ってしまう出来事があったが、その翌年に今度は織田家の信長の異母兄にあたる織田信広(オダノブヒロ)が今川家に捕らえられ、竹千代と交換条件を持ちかけられ織田家を出て今川家の人質になった。】



(確か、この年に信広のアホが今川家に捕まって竹千代と交換するはめになったな。うむ。親父殿に相談してみるか)


信長は実質、織田信秀(オダノブヒデ)と会うのが30年ぶりになるので聊か緊張して名古屋城(実史では違うのですが、ここは「もし」の世界なので…)に向かって歩き出す。


(親父殿に会うのは流石に緊張するな、またあの声で怒鳴ってほしい…)

と、独り言を呟き城門前に来ると信長の実弟にあたる織田信勝(オダノブカツ)に出会う。



【実史では織田信勝が2度にわたり信長を裏切って、殺されている。】



「これは兄上。どうされたのですか?」


(おお!信勝ではないか!懐かしいな… こやつも助けてやらないとな…)


「いや、親父殿に用事があってな。」

「これは珍しい事もある物ですね。では、私はこれにて。」


(珍しいか… さもありなん、当時は「うつけ」と周りから噂され遊びまわっていたからな)


「父上!三郎が久方ぶりに参上しましたぞ!」

「ええい、やかましい!」


(おお!親父殿!この頃は元気が有り余っているな!懐かしい…)


信長は信秀を見るなり涙ぐむと
「なんじゃ!男が涙を流すとは何事じゃ!」

「いや、久方ぶりに見たので…」

「そちは何を言っておるのじゃ!つい此間会ったばかりではないか!馬鹿者が!!」


(この声、やはり親父殿はこうでなくてはな)


「はっ!」

「なんじゃ?気持ち悪いのぉ。変な物でも食ったのか?で、何用じゃ。ただ単に顔を見に来たのではないのだろう?」

「はっ!実は、兄の信広に護衛を多く付けてほしいのです。」

「これは珍しい事もあるもんだな!」


信長は苦笑し
「それ、信勝にも言われました。」

「で、当然理由があるのだろう?」

「はっ!私はいつも外で遊んでいるのは、ただ単に遊びほうけているのではなく、色々な情報を民から仕入れているのです。で、今回耳に入れた情報では今川が兄を拉致しようと企んでいると。」

「ほう!その情報は確かなのか?」

「私の命にかけて!」

「馬鹿者!!軽々しく「命」などと言うでないわ!しかし、その具申受けようではないか!」

「はっ!ありがたき幸せ!では、これにて失礼致しまする。」


(あの三郎がなぁ)’パンパン’と、信秀が手を叩くと忍びの者が天井から降りてきた。


「用件をどうぞ…」

「今の話を聴いていたな?すぐに信広の警備を固めろ!」

「あの三郎様の言う事を信じるのですか?」

「当たり前じゃ!三郎はワシの跡取りじゃからな!ごちゃごちゃ言わずに行け!!」

「は!ただちに!」


(お屋形様は何を考えているのやら。しかし、命令は命令か…)


しかし、信長の情報は的確で信広は今川に拉致される事なく未然に防がれたのであった。


(これで、竹千代は今川の人質にならなくなったな。さて、次は平手のじぃだな。)


【実史では信長の指導役で平手政秀(ヒラテマサヒデ)が、信長の愚考を諌める為自害したとある。】


その当時、信長は世間から「うつけ」とか「織田の馬鹿」とか散々に言われていたが、これは全て信長の策略であったが、それを誰1人として理解しようとはしなかった。


信長が外から帰ると毎日のように平手の小言が…
「殿!じぃは嘆かわしいですぞ!毎日「うつけ」と言われる殿の事が、そのまま家臣にも戻ってくるのですぞ?その事をどう思っているのですか?」

「言いたい奴には言わせておけばいいのだ!」

「また、そのような事を!濃様もなんとか言って下さい!」


【濃とは斎藤道三(サイトウドウサン)の娘濃姫(ノウヒメ)で、実史では西暦1548年に織田家と美濃(現在の岐阜県)の斎藤家と和睦し、その証として濃姫を信長に嫁がせたとある人物。】


「旦那様は、1度言ったら曲げませんゆえ無理です。そうですわよね?」

「で、ある。じぃ、いや平手政秀にだけは真実を話しておく。心して聞くように!」


突然、信長が真剣な面持ちに政秀は驚く。

(いったい、どうしたというのじゃ?あの殿が…)


「世間ではワシの事を「うつけ」と呼んでおるのは、その様に風潮される為であるが、その真意は敵に油断させる事にある。その油断で敵がワシの事を軽んじてくれれば儲け物だとな。」

「そのような意図があったのですか… 殿の知恵深さに感服致しました。」

「ワシはじぃを誰よりも信頼しているのだ!ずっとワシのお守役として仕えてくれ!」


政秀自身は信長にずっと嫌われていると思っていたので、その言葉に感動し号泣する。

「うおおお!殿!じぃは嬉しゅうございます!じぃは織田三郎信長様に寿命尽きるその日まで仕えてまいります!」


(よし、これで自害されずに済んだと見ていいな。次は、辛い事が待っているな)


信長が悲観的になっている理由は2度目の父親の死に直面しなくてはならない事である。


【実史では織田信秀が流行の病にかかり41歳の若さで没した。】


                 
                 ★




竹千代(後の徳川家康)を今川家の人質に出さず、しかも平手政秀の自害を阻止した信長。


しかし、実史では3年後の西暦1552年に信長唯一の理解者である父(織田信秀)が病で他界する事になるのだが、それはまだ先の事だが…



『西暦1549年某月』


信長は父である織田信秀に呼ばれ名古屋城に来ていた。


「三郎よ、今回の信広襲撃を未然に防いだ、おぬしの情報は天晴れと言う外はない!そこで、褒美をやろうと思うが何か欲しい物があるなら申してみよ!」

「親父殿、それは何でも良いのですか?」

「何でもと言うのは言葉の綾だがな。そんなことより早く申してみよ!」

「しからば、竹千代を欲しいのですが宜しいでしょうか?」

「ほう、小姓にでも欲しいのか?」


信長はその問いに激しく反論し
「親父殿!いくらなんでも冗談が過ぎまするぞ!部下に欲しいという意味です。小姓ならもっと美形を選びます!」

「そう怒るでない。そうかそうか、許す!好きにせい!」

「はっ!ありがたき幸せ!」

「他には無いのか?」

「しからば、鉄砲を購入する許可をお願い致しまする。」



【この時代の鉄砲とは、火縄銃の事で一般に全国へ広まったのは種子島と呼ばれた火縄銃である。ここで分からない方に詳しく説明すると、西暦1543年に種子島に漂着したポルトガル船に乗っていた商人が種子島領主である種子島時尭(タネガシマトキタカ)に売りつけた事により、種子島(タネガシマ)と呼ばれる火縄銃が日ノ本中に広まったらしいとされている。】



その言葉にキョトンとする信秀は
「その鉄砲とは何じゃ?」

「はっ!武器でございまする。九州の種子島で外国船が漂着した際、手に入れ全国に普及しつつある武器です。」

「ほう、それはどのような効果があるのだ?」

「轟音で敵を怯ませ、弓より長い射程で遠距離から敵を殺す事が出来ます。」

「馬鹿者!!と言いたい所だが、それは興味深いな。その武器の値段はいくらじゃ?」

「はっ!一丁約150貫~300貫だと思われまする。」



【この当時の通貨で1貫(現在の日本円で約10万円~15万円)なので鉄砲1丁の値段が物凄い高いのが分かる。】



信秀は目が点となり、次の瞬間大爆発!!

「この大馬鹿者!!この織田家を破産させるつもりか!!」

「お言葉ですが、私は購入もしくは親父殿に貰った領地で製造させる許可だけを取り付けたいだけです。」

「許可ぐらいなら、いくらでも出すが金はどうするのじゃ?」

「そこは考えがあります。お任せ下され、親父殿。」

「よくわからんが、好きにせい!もう下がってよい!」

「はっ!では失礼致す。」



(三郎の奴には、いつも驚かされるわ!しかし、どうなるか楽しみだのぉ)

と、信秀は内心思うのであった。



135年後の未来の出来事と技術を身につけているのが今の信長の強みである。



それを踏まえて、鉄砲伝来した後に近江の国友や和泉の堺で鉄砲を産地として栄えたのを知っている信長は、まだそれほど知られていない鉄砲鍛冶師を、信秀に与えれた領地へ抱え込む事に成功する。



「どうだ?火縄銃の生産状況は?」

「これは殿様、順調でさぁ。殿様には感謝のしようがありませんからのぉ、気張って作りますぜ!」

「いや、ちゃんと飯を食って、しっかり寝てゆっくり作ってくれれば良いからな!」

「はっ!ありがとうごぜぇますだ。」




時は遡ること数ヶ月前、信長の配下数名と竹千代は近江(現在の滋賀県米原市)のとある農村に立ち寄っていた。


「三郎殿!疲れたのじゃ!少し休みたいのじゃぁぁぁ!」

と、叫ぶのは竹千代である。


「ええい、やかましい!!お前はすぐ疲れただの休みたいだのと、いい加減しろ!」

「そんな事言われても、無理なものは無理なのじゃ!」


(こいつ本当に天下を取った男か?歴史が変わった事による弊害かもだが、変わり過ぎだろう?)


「致し方ない… ここで少し休憩する!」

「さすが三郎殿じゃ!」


竹千代は喜んで草むらに寝転んだ。


「三郎殿?」

「なんじゃ?」


寝転がってる竹千代が指を指し

「いやなに、あっちの方向にいる農民達と何処かの家中の兵らしき者と、何やら揉めてるみたいじゃが?」


信長の配下の者は
「殿!あんな織田家とは無縁の農民達なんぞ捨ておきましょう!それに他の家中に要らぬ反感を買いかねませんゆえ。」

「あぁ、そう言う事言うと三郎殿に怒られまするぞ?ねぇ、三郎殿?」


信長は苦笑し
「農民達は日ノ本の宝だ!それに困ってるかも知れん奴を野放しにも出来ん。一応、近くを通るふりをして揉めてる内容を聞こうではないか。」

「はっ!殿がそう言うのなら…」


(やはり、この殿は「うつけ」だな)


信長の配下の者が渋々承諾した。


「で、竹千代は何故まだ寝転がってるいるのだ?」

「先ほど申したではありませぬか?」

「竹千代殿!無礼ではありませんか!」

「お前達、竹千代の事は放っておけ!それより行くぞ!」


信長達は竹千代を無視して揉めてる方に向かうと、どうも無許可で物を売ってるらしいというのが分かった。


「殿!勝手に物を売って咎められてるらしいですね。何処の国でもある事ですから捨ておきましょう。」

と、配下が具申しるが信長は聞かず、そこに割って入った。


「街道にも聞こえる大声で何を揉めているのだ?」

「これはお恥ずかしい。いやなに、この鍛冶屋らしき者がこの六角家の領地にて無許可で物を売ってるらしいので咎めていたところだ。」

「お侍様、違うのです!私共は和泉の堺に行く途中で道具を確認していただけなのです!」

と、信長に鍛冶屋らしき者がしがみついて来た。


「六角家の方達、この者がこう申しているが?」

「そんなのは、罪を免れたいだけの言い訳に過ぎん!大体、そなたらは何処の誰だ?」


すると、信長の配下が信長の裾を引っ張り小声で具申する。


「殿!織田家と言ってはなりませんぞ!六角家は南近江一の大名ですぞ!」

「そんな事は分かっているわ!仮に敵対したとしても東には同盟してる義親父殿が居るし、南には北畠家があるので大丈夫だからな!」

「しかし…」

「しかしもかかしも無い!そちたちは黙っておれ!」


(この馬鹿殿が!!信秀様はこんな「うつけ」を跡取りに決めているみたいだが、信勝様を織田家の当主にした方が良いと噂しているのが分かる気がする)


【あまり知られていないが信長には兄がいた。実際は異母兄である信広が長男である。】


「さっきから、ごちゃごちゃと!そこもとは何処の誰だ!」

「これは失礼。私は織田家嫡男、織田三郎信長です。」

「はぁ?あの有名な「うつけ」か!尾張の豪族の分際で出しゃばるな!ここは我ら六角定頼(ロッカクサダヨリ)様の領地内の事だぞ!それとも何か?六角家と事を構える気か?」

「そこもとらこそ、一介の兵がどの口で誰に向かってほざいてるのか分かってるのか?!」

と、いつの間にか竹千代がしゃしゃり出て来ていた。


「何だ?このガキは!そんな事より、その言葉を領主様に伝えてもいいのだな?ええ、「うつけ」が!」


竹千代は半笑いで
「どうぞご自由に、なさって結構です。」


信長の配下の者が割ってはいる。


「六角家の家中の方々、子供がほざいた戯言です。気を静めて下さい。」

「何を今更!この事はすぐに領主様に報告する!」


(ああ、やはりこうなるか… この「うつけ」と「うつけ」の腰巾着め!)


「織田家の武将が六角ごときに何たる弱腰だ!恥を知れ!」

と、信長は配下を怒鳴りつけた。


「しかし、事はもう殿の手に負えませんぞ!いったい、どうするのですか!」

「お前達は、揃いも揃って馬鹿の集まりか!まあいい、お前達はもう黙っていろ!これは命令だ!それから、この鍛冶屋一行は我が召抱える事にする。」

「はぁ?それについては異論はござらんが、無許可での罰金は「うつけ」が払ってくれるのであろうな!」


すると、また信長に無断で配下が発言する。


「その金子を払うと、今回の暴言は取り消してくれるのか?」


兵達はニヤニヤしながら
「それとこれとは話が別だ!やはり「うつけ」は類を呼ぶのだな!がっはっはっは!」

「で、いくら払えばいいのだ?」

「ほう、払ってくれるのか?なら1貫で手を打とうではないか!」

「よかろう!」

「殿!」


そのやり取りを見ていた鍛冶屋達は信長に対しての好感度が鰻登りになっていた。


「織田の若殿様、こんなわし等に1貫なんちゅう大金をいいだか?」

「構わん。構わんがワシの為に作って欲しい物があるのだが、よいか?」

「喜んでお仕えし、若殿様の欲しい物を作りますだ!」

「ほう、まだ何を作るかゆうておらぬが良いのか?」

「はい!わし等は若殿様が六角家あいてにあそこまで言って匿ってくれたんじゃ。それに応えたいと思ってるだけですじゃ。」

「で、あるか。」



すると六角家の者が
「罰金の金子は受け取ったが、六角家を敵に回すとはやはり「うつけ」だな!まあその内、報復するんで怯えて暮らすがいいわ!がっはっはっは!」

と、帰って行った。


信長達は鍛冶屋達を引き連れて足早に尾張へ帰還した。


帰還するなり、信長の配下が信長に断りもなく信秀に報告するが、その場で切り捨てられたのだった。


(三郎も苦労するな。そもそも、三郎の配下なら三郎を庇う立場である者が密告とはな… こんな使えない馬鹿が配下にいるとは!まあ、ワシが見繕った者達なんだが、こんなに馬鹿だとは思わなかったぞ… 普通に考えたら分かると思うがな、やはり三郎を早めに当主にしないと収まりがつかんかもしれんな)



そして、時はもどり

「材料は腐るほどあるからな。慌てず正確無比な鉄砲を作ってくれ。」

「はは!殿様のお目に叶う鉄砲を作って大量生産にこぎつけてみせまする!」

「よく申した!期待しているぞ!」


次に信長が目を付けたのは…



                 ★



長槍(ナガヤリ)だった。



【通常の長槍は通常2間半(4.5m)であるのに対し実史上、信長が考案した長槍は3間半(6.3m)で敵の長槍の届かない位置から攻撃出来る優れ物ではある。】



じぃ(平手政秀)に信長が命令を下す。


「じぃ、ワシは他に類が無い長槍を作ろうと思っておる。」

「類の無いとは具体的にどんな感じでしょうか?」

「通常より1間半長い槍だ。」

「しかし、それではかなり重く成りますし、持ち運びが大変になるのでは?」

「この槍の先端部分の刃を極力小さくする事で、その長さの竿竹と変わらん重さになるはずじゃ。」

「それでしたら、誰でも持ち運び出来そうですね。」

「じぃ、その武器はそれだけでは無いのだが分るか?」

「いえ、検討も付きません。」

「軍勢が移動する時に目立って強そうに見せる為でもある。」

「先日の鍛冶師といい今回の武器の改良といい、若様はどこでその様な事を知ったのですか?」

「じぃには言って無かったが、世間から「うつけ」と呼ばれて遊んでいた訳ではなく色々見聞きしていたのだ(嘘も方便だが)。」

「おお!そうでござったのですか、さすが殿!」

「それもそうだが、じぃの知り合いで口が固い奴は居ないか?」


信長は、前々から父(信秀)の事が気になっていた。


「居ますが、どうされたのですか?」

「うむ。親父殿の身体が心配でな。それで、京に有名な医者で曲直瀬道三(マナセドウサン)という御仁が居るらしいのを尾張の町で聞いてな。」

「大殿の身を案じるとは、じぃは益々若の事が好きになりましたぞ!その医師から薬を買ってくれば良いのですね?」

「そうじゃ、さすがじぃだ。飲み込みが早くて助かる。すぐに頼みたいのだが?」

「はっ!心得ました。私の息子で五郎右衛門と申す者がおりますので、すぐに京に向かわせます!」

「おお!そうか!その五郎右衛門には帰って来たら褒美をやると言っておいてくれ!」

「はは!息子も喜ぶと思いまする。」


(はて、五郎右衛門と何かあったような気がするのだが気のせいか)


【いや気のせいではない、実史かは定かでは無いのだが政秀が切腹した要因の1つに数えられてるエピソードで五郎右衛門が名馬を所有しているのが分かり、信長がそれを所望し断った為に五郎右衛門を罷免した経緯で「うつけ」の件でも何かとトラブルがあった平手政秀と更に関係が悪くなったと言われているらしい】


【この曲直瀬道三とは当時有名な医者で、足利学校という所で学問を習得し京で医院を開き医学塾も設立させた、実証的な医学の祖でも有名である。】


次に信長は長尾景虎(後の上杉謙信)と友好を築く為、専念する事となる。


【この上杉謙信(ウエスギケンシン)の事を大まかに説明すると、まだ長尾の姓の時に関東管領の上杉家の名跡を継いだ事により上杉姓になる。後は、毘沙門天を信仰したり、甲斐の武田家との戦『川中島の戦い』で5回戦ったとも7回戦ったとも言われる戦(イクサ)でも有名な戦国大名でもある。】



『西暦1550年某月』


京に薬購入を頼んだ平手の息子が帰って来ていた。


「殿!ワシの息子が見事薬を買って帰りましたぞ!」

「そうか、そうか。ではその者に直接会いたい!呼んでまいれ!」


政秀は息子を呼んだ。


「この度は私なんかに仕事を賜りありがうございまする。」

「で、あるか。」

「この通り京より薬を購入して参りました。ここに道三様の刻印を押されていますので確認お願い致しまする。」

「ほう、刻印とな。」


信長はじぃを見て
「じぃの息子は賢いな。ただ持って来るのではなく、こうやって証の刻印まで貰ってくるとは、誠に天晴れじゃ!」


じぃと五郎右衛門は深く頭を下げ
「はっ!息子共々あり難き幸せ!」

「で、あるか。おおそうじゃった、五郎右衛門よ!そなたに褒美を取らす!この馬をやろう!」

「え?!よろしいのですか?」

「よろしくもなにも、ワシは感謝しておるのだ。受け取ってくれるな?」

「ははー!こんな私にこんな良い馬をあり難き幸せ!大事に致しまする!」

「うむ。下がって休むがよい!」


じぃは涙を流し
「ワシの息子に、あんな良い馬をお与えに… じぃは嬉しゅうございます!」

「いい歳して泣くでない!じぃも喜んでくれて何よりじゃ。」

「はっ!より一層の忠義を誓いまする!」


その数日後、信長は竹千代と密談する。


「竹千代!わしと一緒に越後に向かうぞ!」

「えぇぇぇ!越後ですか?また遠い所に何を?」

「なに、長尾景虎と申す御仁に会いに向かう。」

「長尾ですか?」

「そうじゃ。だが親父殿から許可を貰う事が先じゃがな。」

「あの大殿様が許可をするとは到底思えないのですが?」

「それは、じぃの息子に仕入れて来て貰った、この薬を献上すれば大丈夫じゃ!」


信長は竹千代と別れ、信秀が居る名古屋城に向かう。


「親父殿!」

「今度はなんじゃ?!」

「はっ!親父殿、京で有名な医者から薬を貰って来ました!ぜひ飲んで下さい!」

「薬だと?ワシに薬などいらん!」

「そう言わずお願い致しまする!この三郎は親父殿のお身体が心配なのです!この薬は万病に利くとされている薬です。ここに曲直瀬道三様の認めた刻印も貰ってきており、変な物ではありません!」

「そちがワシを心配しての事か… うむ。分かった。あり難く受け取ろうではないか。しかし、三郎よ!まだ何かあるのであろう?」


信秀はニヤニヤして信長に聞いた。


「さすが親父殿、実は長尾家と言うより長尾景虎と仲良く成りたいと思っておりまする。」

「長尾とは、越後の長尾家か?」

「はい、親父殿。」

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「はっ!つきましては一筆書いて頂きたいのですが…」

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「はっ!あり難き幸せ!」

「後日、三郎の館の届けさせるとしよう。で、いつ出発するのじゃ?

「親父殿から書状を貰ったら竹千代と部下数名を連れて行く所存です。」

「そうか。しかし部下は吟味いたせよ。この前のようにならないようにな。」

「はっ!それはぬかりません。後、その薬は必ず毎日飲んで下さい。」

「分かっておるわ!三郎も道中、気を付けてな!お前は、この織田家の次期当主なのだからな!」

「親父殿!そんな大事な事を軽々しく…」


信秀は笑顔で
「まあ、心に留めておけ!よいな!下がってよい!」

「はっ!」


(我が織田家はまだ豪族に過ぎんが、いったい何を考えているのやら検討もつかん。だが、実に面白い!)


後日、信秀から書状を受け取り越後に向かう準備をする信長であったが、その真意は…
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 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

出撃!特殊戦略潜水艦隊

ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。 大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。 戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。 潜水空母   伊号第400型潜水艦〜4隻。 広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。 一度書いてみたかったIF戦記物。 この機会に挑戦してみます。

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