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ラグナロク編

233話 Real World

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-千葉県 某ゲーム制作会社支部-

気が付くと目の前には「Sorcerer Master Online」の文字が目に入る。

これはSMOの起動画面だ、どうも意識がはっきりしない。
3日間徹夜した時の感じに似ている。

僕は・・・どうしていたんだっけ?
ゲームをしながら寝落ちをしていたのだろうか。

「press the enter key」の文字が目に入り、思わずキーボードのエンターキーを押す。

ログインIDとパスワード入力画面に移動し、あらかじめ記憶されているIDとパスワードが表示される。
そのままエンターキーを押しログインしようとしたが「サーバーメンテナンスの為、ログイン出来ません。」と表示される。

その文字を見た瞬間に脳裏に様々な情報が流れ込んで来る感覚して、ぼんやりとした意識が晴れて覚醒する。

「思い出した。僕は・・・」

今日は日曜日、SMOゲームサービス最終日。
有給休暇を取得して会社の自分のデスクでSMOにログインし所属ギルド「深紅の薔薇」のメンバーで、このゲームのストーリーモードをしながら思い出話に花を咲かせていたんだ。

ストーリーモードの最終局面、暗黒神ザナファを倒した瞬間に眩しい光に包まれて気が付いたら高山の森の中に居たんだ。

信じれない事にゲーム内で自分の使用していたプレイヤーキャラの暗黒神ハーデスの姿になっていた。
正直驚いて何が起こっているのか理解出来なかった。

森を彷徨う事約2日間。

自分でプログラムした覚えの有るモンスターに度々遭遇する。
魔法を使うと言うのを何故か概念的に理解をしていて、魔力マナを練り放出する事が意外に簡単に出来た。

色々と魔法スペルを試してみたが、キャラクターが覚えていた物は全て思い通りに発動する事が出来た。
しかし、森の中で炎系の極大攻撃魔法アルティメルスペルを使用したら大規模森林火災を起こしてしまった。

すぐに氷系の極大攻撃魔法アルティメルスペルで相殺したがSPが切れてそのまま意識を失った。




気が付いた時には機械都市ギュノス国の近くに在る集落で、その名前も無い村の端に住む【狩人】を生業とする老夫婦の家のベッドの上だった。

老夫婦に話を聞き確信する。
夢では無くここは間違いなくSMOの世界だ。

丁度ギュノス国が鎖国したと話しが出たので、ストーリーモードの進行途中だと気付いた。
僕はマザーブレインを破壊する為に機械都市ギュノス国へと向かい、そしてクリスタルタワーでシノブ達と出会った。

その後皆で旅を続け、暗黒神ザナファを倒し更に他国を巡りながら各所のレイドボスを倒して行った。
そして、この状況を創り出した破壊神ヨグトスと判明し、全世界を巻き込んだ大戦が勃発し4大魔人を倒しアビスダンジョン最下層100階で破壊神ヨグトスと対峙した所で強制ログアウトをされたんだ。

・・・そうか!
ログイン出来無かったのは、このゲームが既にサービス終了したからだ。

皆はどうなるんだ?
きちんとログアウト出来たのか?

もしまだだったら・・・どうなる!?

現在の制作スタッフはまだ開発フロアに残っているはずだ。
信じて貰えないかも知れないが今起こった事を確かめるには彼らの協力が必要だ。

僕はフルフェイスディスプレイを外し、1階上のSMO開発フロアへと走った。
運動不足のせいか息が切れる。
前居た世界では多少走った位で息が切れる事は無かった。
プレイヤーキャラクターのステータスが反映された身体能力の恩恵をまざまざと感じる。

開発スタッフがコーヒーで乾杯をしている所へ飛び込むと、見知ったスタッフが多数残っており初期開発メンバーの僕を歓迎して迎えてくれた。

どうやらこれから大きめの居酒屋を貸し切って打ち上げをする予定らしい。
そういえば数日前に打ち上げの誘いの連絡が届いていたのを思い出す。
元々参加する気は無かったので誘われた事をすっかり忘れていた。

だが今はそれどころでは無い。
皆はまだに閉じ込められている可能性が有る。

「み、みなさん!少しだけ聞いていただけますか!!」

僕は焦りながらも順序立てて残っていたスタッフに事情を説明する。
見知った同僚は「お前ってそんな冗談を言うヤツだっけ?」とか「おいおい、また1週間寝て無いとかで幻覚を見たのか?」と周囲に笑いが起きる。

クソっ!
話が通じない!

無事サービス終了した事で、スタッフ全員が多少テンションが上がっている様だ。
・・・分かってはいたが、やはり信じては貰え無い。

パソコンに向かってばかりで人間関係を疎かにしていた事を今更になって後悔する。
技術的な事での信用は有るが、僕の真剣さを無条件で信用してくれる様な信頼関係を構築出来て無い証明を垣間見た。

そして余り会話して無い事で、語彙力が低下し相手を上手に説得出来無い自分自身に落胆する。
自分の不甲斐無さに落ち込んでいた時に現場のスタッフの1人が声を上げる。

「先輩!なんか変です!SMOサーバー内に膨大な情報量のデーターが!」

その場に居た主力スタッフ達が、叫んだスタッフのデスクに集まりモニターを覗き込む。
僕も彼の管理画面を食い入るように見つめる。
その情報はSMOに使用している以外の複数のサーバー浸食しながらパソコンを経由し、会社内に在る最大のホストコンピューターに侵入しようとしている様な動きをしていた。

間違いない。
破壊神となったヨグトスの仕業だ!

事の重大さに気が付いたスタッフはそれぞれ自分の席に戻り、何やら作業をし始める。
現在SMOのプロデューサーを務める僕の先輩が「鶴ケ谷つるがや!詳しく教えてくれ!何が起きているんだ!?」と叫ぶ。

先輩のデスクの隣のデスクに座り、より詳しく事情を説明する。
半信半疑の様子だったが現在この会社で起きている異常事態に対処する必要が有る。

「信じれんが、この事態を引き起こしているのはSMOのストーリーモードを管理していたサーバーが原因なのは間違いない。鶴ケ谷つるがや、今は部署が違うかも知れないが手伝ってくれないか!?」

「もちろんです!その情報の中に友人が居るんでね。ヘルメットを借ります。」

僕がデバック用に用意されたフルフェイスヘルメットを被ると同時に先輩がフロアに残っていたスタッフに様々な指示を出す。

「お前はモニタリングしながら状況を確認しろ!全員持ち場に戻れ!田中ぁ!お前は本部に連絡だ!急げ!中西、コンビニで適当に食料と飲物買って来い!領収書忘れんなよ!」

「はい!」「分かりました!」
「おいおい!残業かよ!」
「やばいぞ、急げ。」

内線で会社内に応援を要請する人、会社運営に支障を来さない為にサーバーダウンをする事を取引先に連絡する人、情報のバックアップをする人、SNS上で現在問題が起きていないか確認する人、最寄りのコンビニに買い出しをしに行く人。

皆が一斉に行動を始める。
僕は先輩の隣のパソコンを使いSMOシステムをセーフモードで起動しデバッグモードでログインする。

一般回線からのアクセスは遮断された状態のSMOはプレイヤーの一切存在しない世界が広がっている。
モニター越しの世界は、さっきまで居た世界とはまるで別物だった。

なんと言うか「リアル」とは違う電子世界だ。
それが当たり前なはずだけど、あの世界を経験してきた僕には違和感しか無い。
まるで脳がそれを否定している様な感じだ。

デバッグモードのキャラクターの姿は存在しない状態で内部情報をモニタリングする。
内部情報の処理は、このフロアにいる全員が手分けをして分析と処理を同時並行して行う。

サービス終了から30分が経過した頃、会社のシステム全体に支障を来たす情報量の発信源の座標をスタッフ達が特定し、内部情報をモニタリングに成功する。
すぐさまその座標に僕の視点を飛ばして貰う。

「なんだかれは!?」
「おい!鶴ケ谷つるがや!お前の言ってたのはこれか?」

そう、この宇宙空間の様な場所は先程まで僕の居た謎のフロアだ。
自分達のパソコンで同じ画面を見ていたスタッフも驚きの声を上げる。

そこには5人のプレイヤーキャラクターらしき人物と人型をした文字列の塊の様な物体が存在していた。
皆と・・・この形容しがたい姿は破壊神ヨグトスだ!

ログアウトした瞬間の光景と同じだ。
しかし現実世界から見る破壊神ヨグトスは完全に文字と数字数字の羅列にしか見えない形状だった。

「禍々しい偽りの神め・・・」

横にいる先輩に5人のキャタクター情報の書き換えと数字羅列で表示されているモンスターの弱体化をお願いする。

すぐに先輩がスタッフに指示を飛ばす。
僕はフルフェイスマスク越しに内部と交信出来無いかプログラムを弄りながら試行錯誤を繰り返す。

急場凌ぎで作成されたキャラクター能力を書き換えるプログラムを直接入力した瞬間に、スタッフの1人が大声を上げる。

「うわぁあ!な、なんは変だ!おれのパソコンが!!」

何やらスタッフのパソコンにウィルスの様なプログラムが侵入し情報を書き換え始めているらしい。


スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ スグニケセ・・・


同僚もモニターを確認する事は出来ないが、会話内容から事態を察する。
あの世界から現実世界に干渉をはじめているのか!?
僕達が破壊神ヨグトスに干渉しようとしている様に・・・

すぐにヨグトスの妨害だと気付くが、それに構ってはいられない。
偶然ワールドチャット機能が宇宙空間フロアに繋がり、急いで皆に現状説明をする。

『ふん。ようやく見つけたぞ・・・』

僕は敢えてゲームキャラクターの口調を再現する。
数十名が状況を確認する中、あの厨二病口調で叫ぶ。

普段の僕なら赤面してしまうだろう。
しかし、今は誰も気に留める余裕は無いだろう。

デバッグモードは様々なログが文字として超高速で流れるので全てを追う事が出来ない。
彼らが1歩動いて1文字話すだけでも、10行位の内部情報文字列のログが流れるのだ。

彼らが何か言っている様だが、取り敢えずこちらの話を口頭で一気に話し切る。
言い終わった瞬間に直通回線が閉じられた様に、自分の使っていたパソコンがシャットダウンする。

「くそっ!?落とされた!」

このままで終わらす訳にはいかない。
僕はパソコンを再起動させてシステムを回復させる事から始めるのだった。
周囲いの状況を確認すると、どうやら此方への攻撃干渉は大規模だが早くはない事に気付く。
恐らく何らかの制限に阻まれているんだ。

急がないと・・・
下手したら次元上昇アセンションと同時に皆が死に、この会社の情報やら機器が全部オシャカになる恐れが有る。

話を聞いた他部署からも数十名の応援者が駆けつける。

・・・そして会社全体を巻き込んだ未曽有の事態へと発展したのだった。
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