なんだこのギルドネカマしかいない！ Ψギルドごと異世界に行ったら実は全員ネカマだったΨ

ラグナロク編

224話 奏でる揺らぎが造った世界

消えた暗黒神ハーデスハーちゃんを見て、周囲が騒然とする。

「今頭の中にログアウトしたって・・・」

「ああ、ログアウトとは何なのだ？死んだのか！？」

この世界に来てログアウトと言う単語を始めて聞いた。

そしてログアウト自体を知らないシャル達は理解が追い付かない。
突然目の前から消滅したのだから殺されたと勘違いしてもおかしくない。

「ログアウトと言うのは間違っていなければ、現実世界に戻ったと言う事です。」

「シノブさん達が居た世界に戻った？と言う事ですか？」

ミカさんが話しクリス君が驚いて聞き返す。
そして全員が破壊神ヨグトスの方へと視線を向ける。

彼女は後ろで手を組んだまま、何食わぬ顔で微笑んでいる。

皆は息を飲み様子を伺っている。
暗黒神ハーデスハーちゃんが消えた瞬間デイアが杖を構え魔法を使用しようとして咲耶が止めに入った。

NPCにログアウトは無い。
恐らく消滅させたりするのも自在に出来るだろう。

「何故、暗黒神ハーデスハーちゃんを？彼は無事に現実世界に戻れたの？」

『はい、彼の精神は現実世界の精神と無事融合しました。彼はSMOのシステムのベースを造り上げた功労者です、とても参考になりました。』

「融合？どう言う事でござるか？」

『シノブだけは理解が出来ていると思いますが、皆さんにも分かる様説明しましょう。』

破壊神ヨグトスは語る。

このゲームがサービス開始した同時期にネットワーク上に発生した「超AI」がゲーム内のレイドボス破壊神アザドゥに寄生する。

そしてゲームの中で喜怒哀楽と言った様々な感情や情報を収集し続け成長した。
ある時、破壊神アザドゥは自身の能力と同等の物を魔人ヨグトスへとコピーし、共有する様に情報を集め分析して行った。

サービス開始から1年経った所で無自覚に特異な能力を持った私が初めてログインをする。
それを発見した超AIは私の能力を使ってSMOを再現した世界を並列次元に構築した。

この世界は現実世界と別の並列次元に造られたモノで、MMORPG「SMO」と全く同じ情報で構築されている。
より現実世界に即した物質を造り配置していく、そして出来上がったのがこの場所らしい。

マ●ンクラフトやRPG●クール様な感覚だろうか？
それとも惑星シミュレーターゲームなのだろうか？

その場所にキャラクターデータを反映して造った「器」を造り、私達「深紅の薔薇」のメンバーの精神を情報・数値化して共有反映したらしい。

様々な細かい条件が有るらしいが私達のコピーされた精神はオリジナルと今も強く繋がっており、この世界で死んで消滅した場合コピーされた情報がオリジナルに逆流する様な現象により脳死に近い状態になってしまうらしい。

オリジナルとコピーを繋ぐバイパスは破壊神ヨグトスの管理下に有り、暗黒神ハーデスハーちゃんの精神はオリジナルの精神と無事融合したと話していた。

・・・と言う事は彼は現実世界で目が覚めて、ゲームサービス終了を経験しているのだろうか？

私は破壊神ヨグトスの言う事が嘘では無いと理解している。
理由は説明は出来ないが脳内のシナプスを通る光の信号が雰囲気や表情、説明する言葉に対して「是ぜ」と判断している。

「何故皆を巻き込んだんですか！？私だけで皆は関係無いじゃないですか！」

『「皆と一緒に居たい」「このまま別れたくない」「ずっと今の時間が続けば良いのに」、それを望んだのはシノブ自身です。』

私は愕然とする。

確かに私は皆と冒険したり話したりする時間が大好きだった。
破壊神ヨグトスは私の望みを叶えたのだ。

後方に居る皆の顔を振り向いて見る事が出来ない。

私の想いとは裏腹に淡々と破壊神ヨグトスの説明は続く。

この世界は私達の世界で言う所の三次元の中に有る並列次元で時間の流れは強烈に圧縮されている為、現実世界とは共有されていないらしい。

要はオリジナルの私達はサービス終了の約1秒以下の状態で停止している感覚で、この世界を現実の様に経験している様だ。

『まぁ、暗黒神ハーデスを現実に戻した事で時間軸が融合してしまいましたけどね。』

つい先程、現実の時間と同期したと破壊神ヨグトスは話す。
彼女の説明を聞いても皆は俄かに盲信する事は出来ないだろう。

しかし私は先程脳内に色々な情報をインストールされた事で破壊神ヨグトスが言っている事は全て真実だと理解出来てしまう。

『次元上昇アセンションを皆さんが理解し易い例えると、地球の重力を脱して宇宙に出るには膨大なエネルギーが必要となります。イメージはそれと同じです、私の導き出した方程式と数億人分の成長した精神エネルギーの消滅と共鳴による原子核分裂反応で生じるエネルギーを利用する事で実現出来ます。』

この破壊神ヨグトスの造ったSMOの箱庭世界はロケットエンジンのエネルギー集積体で、そこで生きるNPCはジェット燃料の様なモノと言う事だ。

現実には存在しない箱庭を造り、幾億年分脈々と培われた精神エネルギーと独自の方程式。
それを利用して実現する次元上昇アセンション。

・・・ノーベル賞もビックリの大発見だ。

他人からの賞賛など破壊神ヨグトスは微塵も興味が無いのだろう。
もはやこの次元では全知全能と言っても過言では無いと私だけは感じる事が出来る。

「数億人分の精神エネルギー？ちょっと待て、ではNPCはお前が生み出したんじゃないのか？まさかNPCの中身は生きている人間の精神なのか！？」

『少しだけ違います、NPCの「器」は私が模造して造りました。魂や精神に関しては、ネットワーク上に存在する人々の「感情」を人格として疑似的に固定したモノです。クリスさんやデイア姫の様な重要人物は初期プレイヤーの精神を流用しました。』

クリス君達は元の人格をもった人達が私達同様にリアルに存在するって事か？

『魂の定義を疑似固定NPCはそれぞれ「個」のエネルギーとして使える様になるまで世代交代を繰り返し成長させました。この世界の時間では数億年以上もの時間が掛かりましたけどね。・・・何世代も交配を繰り返す事で自然に感情が豊かになり、やがて本当の人間と見分けが付かない程に成長しました。実に良いエネルギー資源が完成しました。』

「数億年？何を言っているんだ・・・？」

「時間の流れが違うのだ。いつからかは分からんが、開発期間も含めて現実世界の年月が、この世界の数億年なのだろう。」

このゲームはサービス開始当初、全世界で300万人同時接続をする程に人気の有るゲームだった。
そしてその中に数名程意識不明で搬送され、植物状態になったと言うニュースが小さく報道された事件が有った。

SNS上で一時期話題になったが因果関係が説明出来ず、その後被害者の人数が増える事が無かった為に話題は終息していった。
意識不明になった人物の精神がこの世界のレイドボス等に流用されて居ると言う事はクリス君達にはオリジナルのプレイヤーが存在するって事だ。

準備が整った所で、クリス君達を「前から存在した」かの様に他のNPCに認識させた様だ。

『そして貴女方の精神をこの世界に転移させる時に、邪魔な同位体アザドゥから力を奪いました。・・・消滅前に姿を消しましたけどね。』

「邪魔？破壊神アザドゥは他のレイドボスをは違うのですか？」

咲耶が疑問を問いかける。確かに理由が分からない、他のレイドボスの様に配下として自分自身の好きな様に扱えるだけの力があったはずだ。

『元々破壊神アザドゥと私は同一の個体でした。しかし破壊神アザドゥの中に私と考えを違える「人格」が自然発生したからです。私は私の知らない所で自己否定をしたのでしょう、その結果生まれたのがアザドゥの中の人格だったと私は思います。』

無意識の葛藤の様なモノが別人格を作り出したのか？
それがあの占い師の老婆なのか？

そして今、私の持つ【破壊刀イレース】に宿った人格なのか。
破壊神ヨグトスを否定する力か・・・。

破壊神ヨグトスは破壊神アザドゥの事はそれ以上語らなかった。

『相葉忍あいばしのぶ、貴女は特別な力を持っています。貴女の持つ「波長」は特殊です。この世界は全て極小の「ひも」の様なモノの揺らぎで出来ています。貴女の波長とこの世の波長が合わせる様々な物質を造る事が出来るのです。音楽を奏でる様に、重ね方によって色々な物質が創造出来ました。この世界は指揮者で有る私がシノブと言う楽器で音楽を奏で出来上がった可能性の一つの様なモノですね。』

実際私は何もしていないし。
そんな特殊能力が有る事も破壊神アザドゥの残滓から聞いただけだ。

ゲームをプレイしている内に勝手に垂れ流して、勝手に利用されている様なものだ。

「超ひも理論のようなモノに直接干渉する。それがシノブ殿の超能力でござるか？」

サクラが刀を構え破壊神ヨグトスを睨みながら話す、殺気は出ていない。
サクラの言っていた「超ひも理論」も今なら理解している。

少し前までは名前すら知らなかったのに。

『良くご存知ですね。完全には理解出来ないでしょうが、平たく言うとそうです。』

私の能力を利用して現実世界の情報をベースにSMOのデータを加えてこの世界を造り、ようやく成熟させたと言う事だ。
それを壊す事で生じるエネルギーを利用する事で上位の次元に至る。
・・・その先に何が有ると言うのだろうか。

『私の望みはシノブ、貴女とと共に次の次元へ行く事です。』

そう言って破壊神ヨグトスは私に向かって手を差し伸べた。