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異世界崩壊編 後編

214話 黙祷

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真っ暗な空間に浮いている様な感覚がする。
天から射す暖かい光に包まれてとても気持ちが良い。

顔を犬に舐められている様な感じがする。
・・・かなり擽ったい。

余りにも擽ったくて目が覚める。
目の前には涙目のシャルが頻りに私の顔面を舐めていた。

「シノブゥ!シノブ!!」

「わっ!?何?何!?どうしたの?」

ミカさんが私を抱きかかえ、シャルが短い舌で私の顔を泣きながらペロペロと舐めていた。

周囲では皆が私の顔を覗き込む様に囲んで居た。

あー・・・思い出した。
私は古代神カノプスとの戦いの中でSPが切れて気を失ったんだ。

「カ、カノプスは!?」

思わず大声で叫んでしまう。
起きた直後に大声を出した私に皆は少し驚いたが、直ぐに笑顔になる。

「勝った。」「勝ちましたよ。」
「勝ったでござるよ。」「闇に滅した。」
「勝利しました。」「勝ったぞ。」
「勝ったよ!」

皆の話では、私は頭部破壊後に即気絶。
古代神カノプスは【破壊刀イレース】の能力により頭蓋の内側からテクスチャが崩れ、頭部が消滅すると同時に痙攣していた身体も動かなくなり約1時間掛けて全身が崩壊し消滅したそうだ。

ボスの消滅と共にボスの返り血や肉片も一緒に消えたと言っていた。
確かに全身血だらけになりながらボスの脳みそをミキシングしたんだった。

思い返すと吐き気がして来た。

私は2時間程度気絶していたらしく、咲耶達が交代しながら回復魔法を掛けてくれていた様だ。

怪我で気絶していた訳じゃ無いから、回復魔法は意味が無いんじゃないかと無粋な事を口にしそうになり思わず口を塞ぐ。

久しぶりに見た皆の心から笑顔。
ここ最近絶望的な状況が続き沈んでいた表情が今は少し柔らかくなっている。

しかしハイメス国を防衛する事は失敗した、戦況を見る限り生存者はデイアのみなんじゃないか?

・・・・そう言えばデイアの姿が見当たらない。

私がキョロキョロと周囲を見渡してると咲耶が気が付き「デイアはハイメス城跡に行きました。」と言い、その言葉で皆が街のあった方角に目をやる。

跡形も無く崩れた街並みと、遥か遠くに見える崩れた城跡が赤い空を背景に映る。

DOSどっちゃんが以前話していたがハイメス城は特殊な素材で出来ており魔法に対して耐性が高いと話していた。

その為か城は全体的に崩れているが唯一建物の形を保った状態で残っていた。

「防衛作戦としては失敗だ・・・・」

「ああ・・・・そうだな。」

DOSどっちゃんとミカさんが崩れた街の瓦礫を見ながら呟く。

ゲームでも高難易度レイドクエストだった。
この世界では死亡回数制限は無かったものの攻撃範囲や威力、ボスサイズに耐久力等も各段に上がり規格外の強さだった。

今でも勝てたのが信じられない位だ。
犠牲者数は多かったがこれ以上地上を破壊する巨大ボスは居ないはずだ。

残るはアビスダンジョン最下層に居るとされる破壊神ヨグトスだけだ。

「皆!聞いてくれ!」

ミカさんは皆に問いかけた。

「この戦いの最大の功労者で、この国ただ独りの生き残りのデイア姫を仲間に誘おうと思う。」

誰一人として彼女を「深紅の薔薇」の入団を否定する者は存在しないが、問題は彼女自身の心境を考えた時に私達に同行をしてくれるかどうかだ。

ミカさんは城の内部は破損が少ないので、本日1番城内で休息をさせて貰おうと言いデイアを説得してみると話した。

DOSどっちゃんと咲耶も説得に協力すると話し皆で半壊したハイメス城へと向かった。

幻想的な風景の街並みは完全に崩壊し、そこで暮らしていた人々の姿は無い。

古代神カノプスの聖属性魔法で肉体が内部から爆発し飛び散った血液以外は蒸発して無くなった様だ。

上位の魔法騎士マジックナイトの鎧は壊れていたがある程度原型を留めた状態で、至る所に転がっていた。

「全て弔ってあげたいが・・・」

転がっている破損した鎧を手に取りクリス君が呟く。

「時間が無い。ヨグトスは100日と言う期限を決めていた、何か時限式のギミックが有るかもな。」

それを暗黒神ハーデスハーちゃんが遮る。

日数を限定していたのは確かに気になる。

実際残りは約50日程度だろうか?
DOSどっちゃんが前に言っていたアビスダンジョン最下層までの予測到達日数を考えると結構ギリギリかも知れない。

明朝、転送装置で機械都市ギュノス国で約1ヶ月分の物資を補給した後、翌日にアビスダンジョンへ飛び最下層を目指す感じだろう。

幸い変声ジュースの在庫が無くなり、ギルド共有アイテムストレージに多数の空きが出来たので十分な食料や回復薬はストック出来るはずだ。

今後の事を考えながら歩いていると、ハイメス城が近付いて来た。
外観は多少崩れていたが城の形状をしっかりと保っている様だった。

城内は静まり返り、惨劇の跡の様に血痕が壁や床に残り窓ガラスや壺が割れている状況だった。

皆でデイアを探しながら城内を歩く。
私はSP切れで索敵を使って無かった事を思い出し使用する。

生命反応が1つ謁見の間に有り、そこを目指して歩いて行く。

私はパーティーの先頭に立ち歩く。
敵は居ないが天井が崩れないか警戒しつつ反応の有った部屋を目指す。

部屋の前で私は皆を手で遮り静止する。
謁見の間の扉は壊れ中を覗くと国王の椅子に縋り泣き崩れているデイアの姿が有った。

国王と王妃の椅子は血液が残っており、この椅子の上で王と王妃が最後を迎えた事を物語っていた。

私達は部屋に入る事無く部屋から少し距離を置いて座り込んだ。

彼女の泣き声が聞こえて来る事は無かったが静寂の中、私達は各々この戦いに参加して散った兵士や冒険者、そして守り切れなかった人々に対して黙祷をした。
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