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異世界崩壊編 前編

176話 オリジナル「クトゥル」

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クリスタルタワーの階段下に見覚えの有るリムジンが止まっていた。

いつも思うのだが、リムジンの様に長い車は路地が多い場所だと嵌って動置けなくなるんじゃと思ってしまう。

あのリムジンは国営賭博場カジノキャデラックのVIP専用社用車だ。

私達が階段を降りて来るのを待っていたかの様にリムジンの運転席側のドアが開き国営賭博場カジノ支配人のガドラと2人の女性コンシェルジュが私達を丁寧に出迎えた。

「お久しぶりです、シノブ様。」

「ご無事で何よりです。」
「ご無事で何よりです。」

「ガドラさん!アナにレド!無事だったんだね、本当に良かった!他の皆は無事ですか?」

懐かしい顔ぶれを見て私は思わずアナとレドに抱き着く。

ガドラの話では国営賭博場カジノは他国からの冒険者や旅行客の一時的な避難所として開放していたらしく、都市解放軍の本部として人員を募っていた所だったらしい。

しかし何故このタイミングでクリスタルタワーの下で待っていたのだろうか?
私はガドラさんに対して聞いてみた。

「ええ、実は・・・」

ガドラは驚くべき事を話しだした。

昨日マザーブレインが全世界に対して宣戦布告と取れる世界放送ワールドチャットを行った時に、国営賭博場カジノ内のネットワークシステムが乗っ取られ外部と隔絶された状態になり原因を調べている時に「ある人物」が現れたそうだ。

以前スロットマシーンの新機種に搭載された【電子妖精ナビゲーター】が自らの事を「オリジナルのマザーブレイン」と名乗り、国営賭博場カジノのシステムを都市ネットワークから隔離したらしい。

そしてつい先程の話で、都市解放軍の編成指揮と避難所の環境整備を始めていた所で都市機能が停止した事を知り再度ネットワークシステムのポートを解放し各所に設置された監視カメラで私達の存在を確認し迎えに行くように指示を出したらしい。

「・・・何だと?マザーブレインが生きている?」

「どう言う事でござるか?マザーブレインは我々が完全に破壊したはずでござる。」

「ええ、本体ごと完全破壊しましたからね。」

「・・・だからオリジナルなのだろう。我々が知っているクトゥルだろう。」

暗黒神ハーデスハーちゃんが皆に簡単に説明した。恐らく本体がヨグトスに完全に支配される前のバックアップデータの様な存在なのだろうと話していた。

その話にガドラが同意し補足した。
AI妖精の「ノブス=ブルトゥス」の内部データが書き換わり、国王で有るマザーブレイン「クトゥル」の様な姿になり国営賭博場カジノ内の従業員にコンタクトをして現状の報告と、これから起こる自体の予測をモニターを通して説明したらしい。

マザーブレインの話では、以前大規模停電が有って都市全体のシステムが再起動した時点でマザーブレイン本体は外部から来た異質なデータに浸食。

何者かによって全ての防壁が自動的に開放され、いとも簡単に乗っ取られたと言う。

危機的状況の中、自らの体から情報をデータ化して国営賭博場カジノ内部のサーバーに保存し隔離する事でオリジナルデータを残したらしい。

「まずは、クトゥル様本人に会って頂けませんか?」

私達は促されるままにリムジンに乗り込み国営賭博場カジノキャデラックへと向かった。
街の路上を跋扈していた無数の機械兵達の機能は停止しており地面に横たわっている様だった。




-国営賭博場カジノキャデラック-

硬く閉ざされたキャデラックの扉をガドラが手動解放する。

全てが電子制御で行われていたこの国では電力供給が絶たれるだけでも、いっきに不便な生活を余儀なくされる様だ。
現代日本のオール電化住宅でも災害時には一気に不便になるのも同じなのだろう。

国営賭博場カジノ内には冒険者や旅行客とも見られる人々でごった返していた。
ガドラは乗っ取られたマザーブレインが私達に倒された事をその場に居た全員に報告をした。

「機械兵は全て機能を停止したのか?」

「・・・と言う事は外はもう安全なんだな。」
「出て見るか。」「・・・そうだな。」

冒険者達は挙って国営賭博場カジノの外に出て周囲を確認する。
制御を外れた機械兵は今の所動く気配は無い事を見て街へと繰り出して行った。

それを皮切りに一班人達も外へと出て行く。
クリススタルタワーからリムジンに乗り込み国営賭博場カジノ来る道中、機械兵に囲まれる事は無かった。

多分安全だとは思う。

その後私達は国営賭博場カジノ内の奥に有るシステム管理ルームに通され、特別に作られた音声認識付きの巨大モニターの有る部屋へ通された。

そこにはリアルに映像化されたマザーブレイン「クトゥル」が画面一杯に映し出されていた。
見た感じ何だか雰囲気が違う様な気がする。

『みなさん、お久しぶりですね~。私が誰だか分かりますか~?そうです!クトゥル~で~す。まさか皆さんがこの国を救って頂けるとは、少し驚きました~。』

「!?」

なんだか非常に緩い感じなんだけど、コレ偽者じゃ無いだろうか。

私達全員が訝しげな表情をしている事に気が付いたのか『本物ですよ~。』と緩く先手を打って来た。

巫女の生体状態のクトゥルは元々緩い性格で生体コンピューター兼封印装置として組み込まれた時点で機械制御され冷淡な状態になっていたそうだ。

彼女は暗黒神ザナファを私達が倒す前のデータらしく色々と話が噛み合い合わなくて擦り合わせに若干苦労した。

一応様々な経緯を説明し、クリスタルタワーに準備された猛毒ガスの撤去や都市復興に向けての話をした。

破壊神アザドゥや、真の破壊神として名乗りを挙げたヨグトスの話を説明した事で機械都市ギュノス国は冒険者に対して周囲のモンスターの討伐依頼やクリスタルタワー復興の為の準備。

そして死者の弔いや家族への補填と人間種ヒューマンの公務員的人々は仕事が山の様に増えた様だ。

私達が破壊した何千体とも言える機械兵は浸食されたマザーブレインを倒した事でチャラにして頂けた。

今は世界的に危機的状態なので流石に借金は勘弁して頂きたい。

オリジナルクトゥルの内部に各種情報データのみは残っていたのでシステム的な都市機能自体は本日中に復興が出来ると緩い口調で話していた。

破壊された建物は流石に時間が掛かるとの事だ。

その後、私達はグラズヘイムにより元同僚のキャストに会い話をした後に工業地区に有るジルナーク工房を訪れた。

しかしまだ1日しか経っていない為、完成には至って無かった。
改めて都市に平和が戻った事を伝え武器の制作をお願いした。

「ジルナークさん、この盾を修復は出来無いだろうか?」

「拙者の刀も見て欲しいでござる。」

一応壊れたサクラの武器とミカさんの盾を治せるか見て貰う。

ジルナークはゴーグルを外し粉々の盾と柄と金属片の刀を受け取り、まじまじと眺める。
しかしその表情は暗い。

「こいつぁ・・・無理だな。もはや素材でも無い。」

当然ながら世界最高の名工でも修繕は不可能の様だ。
仕方が無いとは言え、最後の望みが絶たれたのは2人にとって辛い様だった。




ジルナーク工房を出ると疲れがどっと噴き出してくる。
防壁が解除されて開けた空は相変わらず赤く染まり、昼なのか夜なのか良く分からない。

攻撃力の高い特殊技能スキル再充填時間リキャストタイムが溜まりきらないので本日はこの国で休息を取り、明日朝一で再度アルテナ方面のレッドドラゴン討伐へと向かう事にした。
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