上 下
193 / 252
異世界崩壊編 前編

193話 蜃気楼の街(再)

しおりを挟む
国王と王妃は城内の地下に用意された避難部屋におり近衛兵の厳重な警備の元、半ば監禁されている状態だった。

セーニアはその部屋の中で更に檻の様な物に隔離されていて「外で何が起こっている!敵襲か!」とドレスを巻くし上げて凄んでいた。

ミカさんが代表して現状報告を行う。
一時的に事態が収拾した事を話し今から蜃気楼の街に居ると言う魔人ハスタ討伐に向かうと話した。

そして、明日モンスターの大群が襲来する事を伝える。
現在多数の冒険者達が逃げ出した状態で戦うのは危険なので、残った国民を率いて都市を放棄する様に説得した。

しかし国王は国を放棄して逃げる事は出来ないと言い、戦う姿勢を崩さない模様だった。
しかも国王は「深紅の薔薇」に助勢を要請して来た。

普段なら誰も拒否等しない、喜んで都市防衛に参加しただろう。

しかし魔人ハスタの力を目の当たりにした上に、それを止めようとしているアルラトが脳裏に浮かび即答出来ない。

ミカさんやDOSどっちゃんも多分考えている事は同じだろう。
今日中に魔人ハスタを倒せば都市防衛に参加出来るかも知れない。

「拙者達は大竜巻の付近に居たでござるが、街の家をいとも簡単に破壊する程の威力だったでござる。多数のモンスターに加えあの竜巻で攻撃されたら防衛陣形など役立たないでござる。」

「皆も街を見て見れ分かるよ。防衛戦なんて無理だよ。」

街で買出しに出ていたサクラとシャルは魔人ハスタの使ったゲームデータには存在しない風属性魔法を直に体験した様だ。

複数の竜巻が街を破壊し逃げ惑う人々を巻き上げて切り刻み肉片の雨が降る。
その威力の凄さをまざまざと語って都市防衛戦には反対した。

散々悩んだ挙句、ミカさんが国王に向けて宣言する。
本日中に魔人ハスタを討伐し防衛戦が始まる前に戻ると約束し国王と硬く握手をする。

私達はその足でティオネム屋へと向かう。サクラ達の話通り街は複数の竜巻により部分的に壊滅状態だった。
ティオネム屋の店主は先の騒動で逃げ出したのか、繋がれたティオネムを残し従業員の姿は無かった。

酷い話だが、状況が状況なだけに責める事は出来ない。
仕方が無いので必要金額を隠す様に置きティオネムを無断拝借する。

そして最高速で以前蜃気楼の街が発生していたポイントに向かう。
その時私達の脳内にシステムコール的な物が鳴り響く。

『魔人アルラトがギルド「深紅の薔薇」を脱退しました』

システム上ギルドへの入隊はギルドマスターの許可が必要だが、脱退は個人でも出来る。
どうやったかは分からないけど彼女は「深紅の薔薇」を自分の意思で脱退したのだ。

私達は手綱を強く握り無言で砂漠をひた走る。
ミカさんの予想が現実になる前にアルラトを救出しないと。




-コダの砂漠 蜃気楼の街-

「本当に出現していますね。」

遠巻きに見える揺らめいた街を見て咲耶が驚く。
以前は大雨が降った後に出現すると言うフラグが有ったはずだがミカさんが聞いたアルラトの発言通り、砂漠の真ん中に揺らめく蜃気楼の街が出現していた。

クリス君とシャルは初めて見た光景に何度も目を擦り、幻覚じゃないかと疑っていた。

私達は慎重に蜃気楼の街に侵入する。

そう言えば前は私だけ港一緒に入れなかったのを思い出す。
まだ何か重要の事を忘れている様な気がしたが、私は【索敵】を使用し敵勢反応の多さに考えていた事を忘れる。

街中に無数の反応が重なり合い隊列を組んでいる様に分布している。

街の中央に多数の赤いマーカーが重なり合い中央に巨大な反応が2つ。
その周囲のマーカーが中央に吸い込まれる様に消えていく。

恐らく魔人ハスタと「深紅の薔薇」を脱退した事でシステム上我々と敵対勢力として認識されたアルラトが交戦し、それに巻き込まれたモンスターが死んでいっているのだろう。

「反応多数、極力敵と遭遇しないルートを模索するから付いて来て!」

「了解した。」「了解。」「了解しました。」
「任せる。」「了解でござる。」「はい!」
「お願いします。」

先程は気が付かなかったが、蜃気楼の街の内部は以前来た時よりも雰囲気が違う。

街の家や建物のテクスチャが崩れ見た事の無いオブジェクトが多数転がっていた。
中には手で触れようとするとスッと消えて、暫くするとまた現れるオブジェクトも有りクリス君とシャルは常に不思議そうな表情だった。

これはまるでアニマ国の古代遺跡の地下に有った廃墟みたいだ。
当然暗黒神ハーデスハーちゃんは興味深そうに観察をしていた。

なるべく最短ルートで目的地まで向かいたいが100匹位のモンスターの集団が至る所に配置されている。
強化されたモンスターの群れと戦っている暇なんて無い。

私の脳内では【索敵】の特殊技能スキルで魔人ハスタとアルラトと周囲のモンスターの戦況が何となくだが見えている。

多勢に無勢だ。
いくらアルラトが集団戦に特化した戦い方が出来るとは言え大勢のモンスターを相手にしながら魔人ハスタの特殊シールドを破壊出来るとは思えない。

私は囮役を何度かこなし、敵勢力を誘導する。
その隙に皆が最短ルートで最小限の戦闘を終わらせ前へ前へと進んで行く。

もうすぐ目標地点だ。




蜃気楼の街の丁度中間地点に当たる場所に到着する。
周囲には細切れになったモンスターの肉片と夥しい死骸の山が我々を阻む様に散らばっていた。

死骸を乗り越え戦闘の中心となっている目標地点に到着した。
私達がそこで目にしたのは、6本の腕を捥がれ魔人ハスタに片腕で吊るされているアルラトの無残な姿だった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

偽物聖女は本当の聖女よりチートだった件

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:145

愛され転生エルフの救済日記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,754pt お気に入り:82

【R18】「いのちだいじに」隠遁生活ー私は家に帰りたいー

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:1,757

吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

SF / 連載中 24h.ポイント:1,414pt お気に入り:120

転生幼女は幸せを得る。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:319pt お気に入り:230

処理中です...