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百鬼夜行編

149話 君の知らない物語

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拙者達は不慣れな潜伏移動をしながら女湯を目指す。
周囲を気にしてはいるが死角から第三者に見られていたら間違い無く不審者集団だ。

幸い拙者達が借りている部屋から女湯までは左程遠くない。
従業員にエンカウントする事無く順調に入口付近に到達する。

「見えないが居るでしょうね・・・」

「ああ、間違いなく居るでござる。」

L字状の廊下で咲耶殿が熟睡中のミカエル殿に幻惑魔法を掛け、睡眠状態を解除する。
そして廊下の角を出る様にそっと背中を押すと寝ぼけた様な感じでフラフラと女湯の方向に歩いて行き倒れる。

やばい!

倒れた衝撃で正気に戻ってしまったのではないかとドキドキしながら様子を伺う。

「・・・大丈夫なのか?」

その時、【不可視化】状態を解いたDOSドスが姿を現す。
やはりな、思った通り女湯の前で入口を守護していた。

DOSドス殿はミカエル殿の頬をペチペチと叩いている。

ヤツが介抱している間にそっと後ろに回り込み女湯に侵入しようと素早く迂回してDOSドスの後ろの通路へと回り込む。

「大丈夫かミカエル?どうした?」

「!?」

その時、ミカエル殿が目を覚まし騒ぎ始めた。
ミカエル殿は急にDOSドス殿に拳による物理攻撃を加えて吹き飛ばす。

意表を付かれたDOSドス殿は回避が遅れて、拳が顔面に直撃し此方の方向に飛んで来た。
拙者達は回避する為に咄嗟に真横に避ける。

緊急回避した所は男湯の脱衣所だった。

クソッ!

もう5歩で女湯だったのに。

鎧を脱ぎ軽装備のミカエル殿がトロンとした虚ろな目で格闘技の様な構えを取りDOSドス殿に襲い掛かる。

「貴様!何処から侵入した!」

「ま、まて!ミカエル!どうしたのだ?」

珍しくDOSドス殿の口調が焦っている事を知らせる。

表情は変わらないが普段から冷戦沈着な態度が崩れている。
当然か、突然仲間のリーダーが襲い掛かって来たら驚くだろうな。

「ヤツはどんな幻惑を見てるんだ?」

「分かりませんが、機械系モンスターに見えてんじゃないですか?」

DOSドス殿が焦りながらミカエル殿に問いかけるが返答は無い。

巧みな身体捌きでDOSドス殿はミカエル殿の攻撃を受け流す。
彼は体術でもミカエル殿に引けを取らない。

幻惑と混乱の中で相手の能力の見極めたのかミカエル殿は武器を装備し始める。
よりにもよって、あの武器はミカエル殿自慢の最強武器【ウリエガノン】だ。

「強いな・・・私の聖剣で破壊してやる!」

「幻惑魔法か?混乱に近いな。まさか・・・」

流石のDOSドス殿も【マグナム】と【アーミーナイフ】を装備する。
そして2人は熟練者同士の本気戦闘ガチバトルを始める。

何が凄いかは一目で分かる。
壁や備品等廊下に至るまで一切傷を付ける事無く交戦しているのだ。

剣撃を【アーミーナイフ】でいなし、サプレッサーの付いたマグナムを突き付けるが発砲すると旅館の壁が傷付く。
それを懸念して上手く攻撃が出来ない様だ。

・・・見入ってる場合では無いが隣の女湯に入る隙が全く無い。

「どうするでござるか?」

「仕方が無い、男湯経由で女湯に潜入しましょう。」

「我が脱衣所で見張っておいてやる、侵入経路を確保次第教えろ。」

拙者と咲耶殿が露天風呂に侵入すると、湯舟に使っていた先客の男性客がギョッとした表情で此方を見て来る。

当然っちゃ当然だ。
服を着た女2人が堂々と男湯に侵入して来たのだから。

拙者達は特に気にせず手分けして露天風呂の内部に侵入するが当然の如く女湯への直通入口は無かった。

「流石に直通路は無いでござるな・・・。」

不意に背後に気配を感じ振り向こうとすると両腕を抑えられ尻を触られる。
先程湯舟に浸かっていた4人の内の2人が全裸で拙者を壁に押さえつける様に拘束し腕を抑えている。
中々の筋力だ、恐らく戦士系の冒険者だな。

「おいおい、なかなかエロい体じゃねぇか。へっへっへ。」

「風呂では服を脱がなきゃいけねぇんだぜ。今拙者達が脱がせてやるよ。」

男共に片手ずつ抑えられて岩壁に押し付けられる。

もう片手で拙者の体を楽しむ様にま探って来る。
この程度の腕力なら振り解くのは容易だなと思いつつ様子を伺う。

エロ漫画とかに有るこういうシュチュエーションは悪くは無いが、被害者側だと物凄く不愉快だ。
自分が力弱い女だったら確実に恐怖して竦んでいただろう。

同性愛で従属願望とかドM属性の者なら歓喜するかも知れない。
生憎だが拙者はごく一般的な女性好きな男だ・・・いや、ネカマだ。

自分でネカマと言うのはプライド的に嫌だなと思いつつ盛りの付いた雄犬の様に興奮した男共に話し掛ける。

「主ら冒険者か?中々良い体をしてるではござらぬか。」

浅黒く日焼けした筋骨隆々の体にタオルを1枚腰に巻いている。
股間の部分の分身体が無様にも盛り上がっているのが視界に入る。

浴場で欲情・・・と親父ギャグを脳裏に浮かべながる。
それにしても拙者に対して欲情しているとは、とても不快だ。

目の前の男の分身体を斬り落としたい衝動に駆られるがグッと堪え我慢する。
あの隆起した状態で斬り落としたら分泌物を含んだ血液が噴水の様に吹き出しそうだ。

「だろ?たっぷり楽しませてやるぜ?」

「へっへっへ、好物すきものかよ!たまんねぇな!」

勘違い男が三下が放つ様な下卑た台詞を聞き背筋に悪寒が走る。

エロゲーとかエロ漫画のモブみたいな台詞を吐きやがって!
つーか何時までも男のゴツイ手で体を撫で回させるのは気分が悪い。

流石に苛ついてきた拙者は両腕に力を入れて徐々に壁から引きはがし掴まれている両腕を思いっきり振り払う。
瞬間2人の男の関節が外れ、ゴキッと言う音が鳴る。

「ぎゃぁ!」「いてぇぇ!」

振り払った方の腕が脱臼した様で蹲って肩を抑え込んで蹲って居る。
奥の方で咲耶殿も似た様な事になっていたらしく、残りの2人の男を桶を使ってボコボコにしていた。

咲耶殿でも素手で叩くと相手を殺してしまう可能性が有るからアイツなりの手加減なんだろう。
まぁ桶は原型を留めて無いし、相手は血だらけになっているが。

痴漢男共を足蹴にしている時に背後の方から強烈な殺気を感じ、拙者と咲耶は同時に振り向くと露天風呂の入口にミカエル殿とDOSドス殿が立っていた。

いつも通りの無表情だが殺気で分かる、彼は凄く怒っている。
多分ミカエル殿が正気に戻り経緯を聞いて察したんだろう。

「ちょっ、待つでござる。これには訳が・・・」

「ええ、私達は男共に襲われそうになっていただけですよ。」

誰でも分かる様な言い訳を聞いてくれる事は無く、2人は拙者と咲耶殿を捕まえる為にゆっくりと歩み寄って来る。

「言い訳無用。」

本気のDOSドス殿と正気に戻ったミカエル殿とで露天風呂は鬼ごっこ状態になり、DOSドス殿は容赦なく状態異常の弾丸で銃撃をして来る。

サプレッサーで発射音が抑えられてはいるが、着弾して岩をも破壊する威力だ。

正直直撃したら痛い程度では済まない事は容易に想像が出来る。
逆上したミカエル殿とDOSドス殿は桶や石垣、水道設備等を壊してしまう。

拙者達は彼等の様に達人級の動きは出来ない。
最終的に麻痺効果の有る弾丸を喰らい拙者達は簡単に動きを封じられ制圧される。

「ちょっと、あんたら!!何やってるんだ!!」

騒ぎを聞き付けた支配人と女将に説教を受け一晩掛けて破損した男湯の修繕をする事で許して貰う事となった。
先客の4人は咲耶殿が回復魔法で治癒していたが恐怖に引きつった顔で旅館をチェックアウトした様だ。

ミカエル殿が支配人と女将に頭を下げシノブ殿とアルラト殿は関与していないので、2人そのまま宿泊をさせて欲しいと話していた。
ハーデス殿は何時の間にか姿を晦まし事無きを得ていた。

何て要領の良いヤツだ、アイツもノリノリで着いて来た癖に逃げ足だけは達人級だ。

「お前らさぁ・・・他のお客様に迷惑を掛けるんじゃない。2人共社会人だろう?学生じゃないんだし社会のルールを守りなさい。」

DOSドス殿にド正論で叱られる。
社会人と言われ、改めて自分の年齢を思い出す。

確かに学生的なノリだったかも知れない。
冷静に考えると少し恥ずかしい、自分が思っているより世間の目は厳しい事を思い出す。

「面目次第もござりません。」

「申し訳ありませんでした。」

「私も手伝います。壊れた所は出来るだけ修繕して、無理な所はお金を支払って許して頂きましょう。」

そして拙者達4人は徹夜で男湯の修繕を行ったのであった。
初期レベルの開発製造系技能クラフトスキルを持っている拙者が桶などのアイテムを再製し壊れた岩風呂の部分は皆で修繕して行く。

結局、美味しい料理も極上のお酒もゆっくりとした温泉旅館も楽しむ事が出来ず夜は更けて行った。

・・・・ミッションランク「S」深淵を覗く作戦失敗。
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