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百鬼夜行編

147話 僕の知らない物語

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-ホウシェン国 宿屋-

古い日本家屋風の旅館で宿泊手続きを行い、大型の部屋を2部屋借りる。

2階建てで中庭が有り、大きめの池には錦鯉が複数泳ぎ大きな庭石と松が日本情緒溢れる風景を作り出していた。

そして何より嬉しいのが和室で畳張りの部屋だ。
初めて見る部屋の造りにアルラトが不思議そうに色々と触っている。

「わぁ!なんか変わった造りの部屋だね。」

「畳だ!懐かしい!」

「そうだな。この体だと感覚的に感じないが、懐かしさだけは感じる。」

DOSどっちゃん機械種アンドロイドの体なので畳の触り心地や匂いを感じる事が出来ないらしい。

「イグサ」・・・だっけ?新しく出来上がったばかりの様な香りがする。
この畳に寝そべった感触は久々だ、凄く落ち着く。

思わず寝そべり転がる。
アルラトも真似をして2人してゴロゴロと転がる。

私達の部屋はDOSどっちゃんと私とアルラトの3人部屋で、残りの男共は隣の部屋となる。
サクラと咲耶がDOSどっちゃんだけ女部屋でズルイと喚いていたが、私の護衛希望と言う事で彼らの意見は却下した。

この大陸の気候は夏に近い。
遠くから蝉の鳴き声が響き、何だか小学生の頃の夏休みを思い出す。
私は年甲斐も無くテンションが上がっているのが分かる。

「アルラト!露天風呂に行こう!」

「おー!」

露天風呂はそこそこ広く快適だ。
なんと言っても入浴客が1人もおらず貸し切り状態なのが最高だ。

女湯の入口でDOSどっちゃんが警備してくれているので安心して入浴が出来る。
取り敢えず軽く自分の髪を洗い流し終えてアルラトの髪もついでに洗う。

彼女の頭をワシワシと洗っていると女湯の入口の方で何やら騒がしい声が聞こえ揉めている様な音がしていたが、直ぐに静かになった。
恐らくサクラ辺りが侵入しようとしてDOSどっちゃんに物理的に止められたのだろう。

「なんか外が騒がしかったね。」

「出歯亀って言うモンスターが出たんだよ。DOSどっちゃんが倒したと思うけどね。」

「おおー!流石ディー!」

昔友人が覗き魔の事を出歯亀と言っていて意味を調べて驚いた事が有る。
まさか実在の人物の渾名だったとは思わなかった。
悪行で後世に名が残るにしても1番最悪な残り方だと思った。

「はぁ~極楽だぁ・・・」

肩までゆっくり湯舟に浸かり空を眺める。
広く澄んだ夜空には無数の星が輝き幻想的な風景を作り出している。

あの星は現実世界と同じ配置に造られているのだろうか?
夏の大三角形や北斗七星と言った有名な星の配列が再現されている。

私のパソコンではラグが多くグラフィックが荒かった覚えしか無いけど、この世界の夜空は本物顔負けの様な星空だ。
あの星1つ1つが本当に存在してるんじゃないかと思ってしまう。

「あの星がデネブで~その上のがベガ、デネブの横がアルタイルって言うんだよ。でもって少し離れている所に光る七連星が北斗七星だよ。」

「へぇ~!あのハテナマークみたいなヤツだね!でも8個見えるけど。」

このは死兆星でも見えているのだろうか。
きっと視力が良すぎて私では視覚出来ない星まで見えているんだろう。
うん、きっとそうだ。

「所でさ、星って何なの?魔法か何か?」

「星はね、世界そのものだよ。あの無数に在る星の中には、ココと似た様な世界が在るんだよ。ず~と遠くにあって、決して届かないんだけどね。」

あんなに鮮明に見えるのに届かない距離。
ずっと昔に発せられた光が幾光年と言う距離を隔てて今見えてるだけで、今見えている星は既に存在して無いかも知れない。

現実世界とゲーム世界の関係に似てるのかも、目の前に在るけど行く事は決して出来ない。
・・・って私達は来ちゃってるんだっけか。

「ふ~ん、何だか凄いね!いつか行ってみたいな。」

「そうだね~、いけたらいいね~。」

ゴトン!ガシャン!
ゴンゴン!ガラガラガラ!

アルラトと星を眺めて話をしていると、高い垣根を隔てた男湯の方でお風呂の桶等の物が硬い物と接触した様な音や何かを破壊している様な騒がしい音が聞こえる。
江戸っ子気質のおじさん連中が酔っぱらって暴れているんだろうか。

それにしてもマナーの悪い客は何処にでも居るんだな。
男湯の方がドタバタと騒がしい音が続いている。
折角夏の風流な夜空を楽しんでいるのに他人の迷惑も考えず無粋な連中も居たもんだ。

何か争っているのだろうか?
止めた方が良いのだろうかとも考えたが、男湯に侵入する勇気なんて無い。
残念だが男湯の騒ぎは従業員の人にでも対応して貰おう。

「温まったし、そろそろ上がろうか。何か隣も五月蠅いし。」

「はーい!」

余りにも五月蠅いので早々に露天風呂を後にする。
私達は浴衣に着替えDOSどっちゃんと合流しようとしたが彼の姿が見えない。
【不可視化】状態なのかと思い名前を呼んだが反応は無く廊下は静まり返っていた。

近くを通りかかった従業員に聞いて見たが、見かけて無いと返答が返って来る。
男湯の騒ぎの事を伝え、私達はDOSどっちゃん捜索に歩き出す。

「シノ、ディー居ないね?」

「うん、何か有ったのかな?」

DOSどっちゃんの姿を探してみるが近くには気配を感じない、何処に行ったんだろうか?
取り敢えずアルラトと旅館内を探してみる。

他の男連中の姿は見当たらない。
両館の従業員に聞いてみるが誰も見ていないと言う。
旅館内をぐるっと1周したが、皆を見つける事は出来なかった。

もしかして街の娼館・・・?

えーと、何だっけ?そう!「遊郭」とかに行ったんじゃ無いだろうか。
サクラ達ならいざ知らず、DOSどっちゃんが行くとは思えないけど。

浴衣でウロウロしていたら湯冷めしそうだ。
雰囲気を重要視して浴衣を着ているが耐性皆無な装備を不便に感じてしまう。

取り敢えずミカさん達の部屋も再度訪ねてみるが皆の姿は見当たらない。

「皆居ないね、出かけちゃったのかな?」

「う~ん、どうだろうねぇ。」

遊郭とか言って説明を求められても困るので敢えて惚ける。
仕方が無いので自分達の部屋で待つことにする。

アルラトと部屋に戻って寛いでいると、部屋に仲居さんがやって来て夕食の配膳を始める。
DOSどっちゃんは元々食べないのでアルラトと2人で食べ始める。

天ぷらにお刺身、牛肉の小鍋に酢の物、茶碗蒸しにお吸い物・・・
少量多品目の美味しい料理の数々に舌包みを打つ。

うーん美味しい。
料理の造形もさる事ながら味も一品、久々の和食は良い。

2人で食事を終え、仲居さんが食器を片付け3人分の布団を用意してくれた。
布団の上で寝転がりながらアルラトと話をしていたが、夕食の消化が始まったのか眠くなり始めた。

「結局・・・皆は何処に行ったんだろう、もしかして事件なのかな。」

「僕、眠くなってきちゃったよ~」

「そうだね寝ようか。護身用の罠を仕掛けるからアルラトも引っ掛からない様に気を付けてね。」

「はーい。あふっ」

まぁミカさんとDOSどっちゃんが居れば何が起きても大丈夫だろう。

私は入口と窓際に念入りに【粘着罠】を仕掛けて私達は布団に入り寝る事にした。
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