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雪原の国編

139話 雪原の国「ピトゥリア王国」

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砂漠を抜けるのに約半日、山岳地帯に開いた巨大な洞窟前でティオネムが停止する。

どうやらティオネムは洞窟内に入らない様に調教飼育されている様だ。

「大丈夫でござるか?シノブ殿。」

「・・・腰が逝ったかも知れない。」

「シノブが逝った・・・あいた!?」

DOSどっちゃんが咲耶の頭を叩く。

「咲耶下品な発言は控えろ。」

「パパ、今の言葉下品だったの?」

咲耶ヤツに限っては下品な言葉になるのだ。気にするな。」

私達はティオネムを解放すると、勢い良く砂漠に向けて走り去っていった。

山岳地帯を大きく削った直線状の洞窟は、どちらかと言うとトンネルに近い。
半径30メートルの高さのトンネルが約150キロメートルの長距離で造られている。

ゲームでは道中に2ヶ所位の休憩出来る広場が有ったと思う。
洞窟の入口にはピトゥリア国の兵士と数体の馬車と大勢の馬が待機していた。

今度は馬か・・・
動物系の乗り物は苦手だ。

あれは長時間乗る物では無い。

私達は荷物を馬車に運び込み終えると、馬に乗り洞窟に足を踏み入れる。

この洞窟は人口的に整備され街道の様になっている。
ひやりと涼しい風が遥か遠くの出口から内部か吹き抜ける。

内部に極少数入り込んだモンスターが出現する。
しかしダンジョンの様に迷路状になっておらず直線で出来ているので休憩を挟みながら進んで行く。

体感で70キロメートル程度進むと急激に気温が下がり始める。
中間地点を示す目印の看板が有り「←コダ国:ピトゥリア国→」と表示してる。

ここから残り半分って所か、まだまだ長いな。




「寒っ!ハーデス、火炎魔法を頭上に待機させてくれませんか?」

「断る。貴様は氷結耐性装備を持っておらんのか?」

「ゲームだと視界が悪いだけで寒くは無かったけど、実際肌で感じる温度は強烈だね。」

国境の長い洞窟を抜けると雪国であった。

有名な小説の一節を体現するかの様に真っ白に彩られた雪景色が幻想的な雰囲気を作り出していた。

ここからは本格的に氷結耐性の付いたマントとブーツに履き替え、新雪に覆われた山道を進んで行く。

軽く粉雪が舞う程度で天候は良好の様だ。

寒冷地でも青々とした森林が広がり、遥か前方に大きな街が見える。
約3日と半日を掛けて雪原の国ピトゥリアへと到着した。




-ピトゥリア国-

石造りの巨大な城塞都市を囲う防壁は所々が破壊され修繕の真っ最中の様だ。
アレクス王子を見た門番が焦った様子で別の兵士に伝令を頼み、王宮へ向かう馬車の準備を行っていた。

私達は入口で手続きを済ませ早々に入国をする。
街の入口付近は戦火に巻き込まれ倒壊した建物の瓦礫ばかりが広がってた。

「酷いですね、この辺りは戦場の中心地だったんですね。」

「高難易度クエストだからね。クエスト時間が短いから、この程度の被害で済んだと言った所でだね。ボスを出現させるには眷属を全て倒す必要が有るし。」

「シノブはこの国を襲ったモンスターを知っているのか?」

不意にセーニアが私とミカさんの会話に入って来る。

やばい私達プレイヤーの視点では普通の会話だけど、この世界が現実だと認識しているセーニアからしたら変な会話に聞こえただろう。

返答に困っている所に咲耶が現れて答える。

「シノブは未来を予知出来る予言者の特殊才能ギフトを持っているのですよ。「深紅の薔薇」が暗黒神ザナファを倒した話位は聞いた事は有るんじゃないですか?」

「そ、そうなのか!凄いなシノブは!」

「驚きました、その様な偉大なお力を持っていらっしゃるとは・・・」

セーニアとアレクス王子が興味深い顔で見つめて来る。

またコイツは・・・

予言者やら救世主やら全部私に押し付けてくれちゃって、後々細かな対応に困るんだよ。

私が微妙な表情をしているのに気付いたサクラが「プププ」と笑う。
諸悪の根源に対して少しだけ怒りが込み上げる。

私達が世間話をしていると馬車の準備が整ったらしくアレクス王子とセーニアを乗せ、私達は城へと歩き出す。

街の入口付近は人通りが少なかったが、中央通りを過ぎると徐々に活気の在る街並みが広がっていた。

道中、ピトゥリア国の労働組合ギルドに立ち寄りギルドカードの更新を行う。
そこで食事を軽く済ませ、改めてお城に向かい始める。

やがて粉雪も止み、厚い雲が流れ太陽が顔を見せ始める。

「晴れて来たね。」

「そうでござるな。おや、正面から馬車が来たでござるよ。」

正面の方から別の雪国仕様に改造された豪華な馬車が此方に向かって来て目の前で停車をする。

黒い鎧を着用した複数の戦士が跪き年配の戦士が正面で敬礼をする。
どうやらアレクス王子のお迎えの様だ。

市街の先には貴族街が在り庶民とは違い大きな庭付きの屋敷が何軒か見受けられる。
更に奥に進むとピトゥリア城が見えて来た。

鋭角に尖った屋根を幾つも持つ巨大な城だ。
上部には大きなツララが下がりその真下は城壁が造られ、その横を通路が避ける様にして造られていた。

あの巨大なツララが落下して刺さったらフルプレートの兵士ですら重さで死ぬ恐れが有る。
私達でも氷系の上位魔法ハイスペルを受けた位のダメージを負いそうだ。

雪国ならではの対策なのだろう。

「随分と大きいですね。」

「ゲームの時は意識した事は無かったが、こうしてリアルで見るとやはり違うな。」

城門が開き、私達は城内に招き入れられる。
中庭には大勢の兵士が両サイドに整列し王子の帰還を歓迎している様だった。

アレクス王子が先頭に立ち城内へ入る。
豪華な装飾がなされた城内は国の豊かさを象徴するかの様だった。

そして私達は謁見の間に通されて国王と話をする。
国王の名は【リグラス】、王妃は【モニカ】と言う名前らしい。

「父上、母上只今戻りました。御無事そうで安心しました。使者の話を聞いた時は肝を冷やしました。」

「此方も先触れからの報告を受けておる。よくぞ無事に戻って来た。そちらがセーニア姫と「深紅の薔薇」の方々でだな。此度は我が国の救援要請に応じてくれて感謝する。そして婚姻の話も上手く纏まった様だな。」

「初めまして、「深紅の薔薇」の代表を務めさせて頂いているミカエル=アルファと申します。以後お見知りおきをお願いします。」

私達は膝ま付きミカさんが代表として挨拶を済ませる。

「お久しぶりです。リグラス様にモニカ様。」

セーニアは婚姻の事には一切触れない。
私が彼女の立場でも言えないと思う。

ここはアレクス王子が男を見せる所だな。

国王は金髪の細身で年齢不相応に若く見える。
王妃も同じく金色で長い髪の美しい女性で穏やかな雰囲気を漂わせていた。

国王達は王子の帰還を喜び、婚約が決定し姫を連れて帰ったと勘違いして宴の用意を始めていると話した。

誤解を解く為に、アレクス王子は破談の説明を余儀なくされていた。

「父上、母上。ちょっとお話が・・・。」

流石のアレクス王子も大勢の兵士達を交えた場所では羞恥心が耐えれないらしい。
3人とセーニア姫は姿を消し、私達は応接室へと移動する事にした。

無事話が纏まる事を願うばかりだ。
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