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砂漠の国編

132話 完璧なプリンセス(ネカマ)

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-コダ国 王宮-

朝早く起こされ、私は準備された鎧を見つめる。
目の前には近衛兵が着用する銀色のフルプレートメイルが準備されている。

私は職業特性で重い鎧を装備出来無い。

着れるとは思うけど・・・
一応、少しずつ装着してみる。

脚、腿・・・重い。
頭以外の全身を着ると直立不動のまま動けなくなってしまった。

なるほど。
ゲーム内で「装備出来無い」と言う状態はこんな感じになるのか。

筋力とかは有るはずなのにペナルティを加えられている様に動けなくなる。

要は着れたり装着は出来るけど、戦闘に参加出来る状態に無いって事か。
まぁ戦闘する訳でも無いし部屋の隅で置物になってれば良いか。

取り敢えず鎧を脱いで個人アイテムストレージに入れる。

早朝の早い時間にも関わらず、王子様が城へ到着したと報告が入る。
昨日到着予定だったそうだが少し遅れたそうだ。

王子一行には長旅の疲れを労わる為に大浴場と専用の部屋が用意され、お見合いは本日の夜に行われる事となった。

王子と王妃がピトゥリア国の王子の相手をして時間を稼ぐそうだ。

「しかし、セーニア姫が顔を出さないと不信に思われるんじゃないかな?」

「そこは準備中だと上手く誤魔化すだろう。本番までにミカエル達が間に合えば良いがな。」

私は暫く暗黒神ハーデスハーちゃんの部屋で待機する。
現在彼は専用メイド集団に囲まれ化粧や衣装合わせをされていた。

普段は魔王然とした黒衣を纏っているが、その下に隠されたスレンダーな身体はモデル並みの体型だ。

整った美しい容姿の彼は、多分どんな衣装でも似合うだろう。

ナチュラルメイクを施され目鼻立ちがすっきりとして更に美しさに磨きが掛かる。

顔面偏差値が高すぎるだろ。
少し悔しい。

メイド数人掛かりで着けたコルセットで補正され、ウエストラインが更に細く超絶スタイルになった状態だ。

薄いピンク色のフリルが多く着いたドレスに着替えさせられた暗黒神ハーデスハーちゃんは完全無欠のプリンセスへと変貌した。
「変貌した」は失礼かも知れないが見た目だけは本当に完璧な出来だ。

「あっはっはっは!暗黒神ハーデスハーちゃん凄い可愛いよ!」

私は気恥ずかしさに顔をしかめる超お姫様ファッションの暗黒神ハーデスハーちゃんを見て、我慢出来ずに笑いながら褒める。

確かに可愛いし似合っているのだけど・・・キャラじゃない。

本人もそれが分かっている照れた表情だから、それもまた私のツボを擽る。

「くっ!ゴルゴダで貼り付けにされた気分だ。こんな物、公開処刑だ。」

「ハーデス、言葉遣いを正せ!時間が無い、練習だ。」

【不可視化】状態のDOSどっちゃんがギリギリと肩を掴んでいるのが服の皺で分かる。

「ぐぬぬ。」

王妃様は実の娘の安否を気にしながらも、昨夜遅くまで暗黒神ハーデスハーちゃんの演技指導や口調のアドバイス等の手伝いに参加していた。

その中でお姫様の昔話を聞く機会が有り、優しそうな表情で語ってくれたらしい。

セーニアの家出は昨日が最初では無いらしい。

今までも幾度と未遂が有り大抵はその日の夜に連れ戻されていた様だ。
うん、報告書で読みました。

1番酷かったのがオスロウ武闘大会に参加すると言ってアークビショップとソーサラーの従者を連れて国外逃亡を企てた事が有ったそうだ。

DOSどっちゃんが某ゲームの第2章を体現した様なお姫様だなと苦笑していた。

「外交向けの言葉遣いは本当に必要なのか?我は・・・ワタクシは必要無いと思いますです。」

「・・・・ぷっ!あはははは!ちょっ、暗黒神ハーデスハーちゃん、お腹痛い!くっぷふふふ。」

「シノブ、大丈夫か?」

その後、再度練習を繰り返し行い暗黒神ハーデスハーちゃんは見た目も喋り方も、以前に比べれば各段に淑女らしく振舞える様になっていた。

作戦としてはボロが出ない様に暗黒神ハーデスハーちゃんが下手に喋らない方向に国王と王妃が会話を誘導する流れだ。

隣国の王子、名前はアレクス王子だったけ。
セーニア姫と違い箱入り息子らしくガツガツと会話をするタイプでは無いと言っていた。

照れた感じで俯き小声で対応すれば今日の所は誤魔化せるかも知れないと・・・
王子様の写し絵を見た感じは確かに大人しそうに描かれていたが、王妃が以前会ったのは約2年前。

彼が16歳の時だったそうだが成長しちゃってるんじゃないかな。

その後、国王と数人の近衛兵も部屋に訪れ、暗黒神ハーデスハーちゃんの姿と振舞いを見て感激していた。

恐らく・・・恐らくだが、短時間でセーニア本人より理想のお姫様な振舞いに近付いた事に対して感激したのだろう。

ネカマをしていたから女性的振舞いは余裕だろうと思っていたけど、翌々考えたら彼は女性の声をしていたけど元々厨二病口調でロールプレイしていたので女性っぽい振舞いを見た事が無い。
有る意味盲点だ。

「国王様、私は不可視化状態でハーデスの真後ろに待機して会話補佐をしますのでご安心ください。そちらのシノブも近衛兵に変装して有事に備えますので、その旨よろしくお願いします。」

「よ、よろしくお願いします。」

私も慌てて頭を下げる。

しまった!
この場合、兵士の啓礼をしないと駄目だった。

私は頭を上げて胸に利き手を添えて敬礼をする。
私の焦った姿を見た国王は少し笑い、その場が和むのを感じた。

「うむ、此方こそお願いする。娘も未だに見つからない様だしな。このままハーデスさんに頼む他あるまい。」

国王は一際大きな溜息を付き控えていた近衛兵を連れて退出して行った。

「向こうはミカエルが何とかするだろうが、妙な事件に巻き込まれて無ければ良いが。」

「私が昨日見かけた時は、何かから逃げている感じだったけど・・・」

そうだ。
あの感じは何かに追われていた様な・・・

「今のワタクシなら姫の気持ちが分かりますけどネ。ワタクシも逃げようカシラ。」

所々タドタドしい喋り方のプリンセスにまたしても笑いが込み上げる。

「ちょっ!ぷくくく。暗黒神ハーデスハーちゃん、少し黙って!」

普段と違う喋り方に矯正されて微妙にイントネーションが変な所が有る暗黒神ハーデスハーちゃんはマジで面白い。

本番でもこの調子なら、果たして私は笑いを堪える事が出来るだろうか?

夜まではまだ時間が有る、慣れよう!

その後、私が王子役になり時間までお見合いの模擬練習をしまくった。

暗黒神ハーデスハーちゃんはまるで疑似面接みたいで嫌だと言っていたが本番まで時間が限られている。

ここからDOSどっちゃんのスパルタ復習レッスンが開始された。
お姫様らしからぬ言動をした場合、DOSどっちゃんが容赦無く指示棒の様なアイテムでピシピシと叩いていた。

私は口に水を含み、笑わない自主練がしたかったんだけどな・・・。

そして本番向けて時間は刻々と過ぎて行った。
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