上 下
99 / 252
伝説の武器編

099話 オスロウ騎士再び

しおりを挟む
-機械都市ギュノス国 グラズヘイム-

国営賭博場カジノ内の一画に存在するクラブバーグラズヘイム。

普段は静かな雰囲気のバーカウンターと男性・女性のキャストが接客を行うホストクラブやキャバクラと融合した様な大型の酒場となっている。

・・・・が早期開店と同時に押し寄せた多数のお客様により、定員100名弱程度の店内がほぼ満席となり多数の合席が発生すると言う異常事態が発生していた。

20名は座れるバーカンターが待合い席の様な場所となり、クラブ部分が私達の接客の場として戦場と化していた。

テーブル席のレイアウトを大幅に変更し約12名が座れるサークル席が6区画作られ、その区画を咲耶と暗黒神ハーデスハーちゃんがメインキャストとなり私とアルラト組とグラズヘイムの指名上位ナンバーキャストがヘルプに入る予定だ。

しかし思っていたよりも私とアルラト組の指名も多く何故かメインキャストになってしまった。

特別ゲストとは言え大人の雰囲気を楽しむこのお店のコンセプトを台無しにしているんじゃないだろうか。

なるべく多くのお客様に入って貰う為に、テーブル席に着いてから30分の時間制限を付ける。
咲耶と暗黒神ハーデスハーちゃん、おまけに私とアルラト組は必ず15分はテーブルに着くと言う2日間限定の特別仕様になっている。

入場時に咲耶指名・暗黒神ハーデスハーちゃん指名・私とアルラト指名、その他指名でテーブル席が振り分けられる。

「咲耶さん、そろそろ2番テーブルにお願いします!」

「わかりました。ごめんなさい、名残り惜しいけど行きますね。」

「「「「「ええ~!もう時間?」」」」」」

ウィンクをして咲耶が席を立つ時にテーブル席の女性客の声が店内に響く。
15分は意外に早い。

今日と明日はお酒を楽しむと言うより「英雄」を一目見よう的なノリで来ている客が大半だ。

私的な感覚だが「チャージ料」と「クソ高いお酒」や「ぼったくりソフトドリンク」と「高利益サービス料」を支払い、サインや握手と少し会話して終わり的な某アイドルグループの握手会並みの回転率の店内となっていた。

サインが公営競売場オークションに出品されまくってたら笑えるんだが。

先程咲耶が接客していた女性団体が「もう1回並んじゃお!」と言って国営賭博場カジノ側へ出て行った。

朝8時より開店し咲耶は1席目からお酒を飲んでいたので私と暗黒神ハーデスハーちゃんは遠目に驚いていた。

後何時間残っているか分かっているんだろうか?

「お久しぶりです、シノブさん。」

「シノブ様、今日も綺麗ですね。改めて正装の貴女を見て思いました、まるで宝石の原石に様です。」

15分が過ぎた4番テーブルに私が席に着くと、丁寧な言葉と歯の浮く様な台詞を言われ見知った顔が視界に入る。

オスロウ軍近衛師団長のクリス君と聖騎士団長のシグが12名の中に軍服で来店していた。
普段装備している鎧では無かったので気が付くのに少し時間が掛かった。

「わっ!お久しぶりです!2人共はるばる来られたんですか?」

オスロウ国とハイメス国の戦争以来出会う2人は変わり無く元気そうだった。

咲耶と暗黒神ハーデスハーちゃんの指名テーブルは女性ばかりだが、私達のテーブルは男性7名、女性5名という妙な場所になっていた。

着席と同時に私が知り合いの様に接した事でコイツは何者だ?的な視線を受けていたので、私が彼らの紹介をして全員の自己紹介もして貰ったら簡単に打ち解け合う事が出来た。

クリス君とシグは一応「視察」と言う名目も兼ねて2週間の休暇を貰いギュノス国へ来たらしい。

それって有給か?
現実世界で出張を休暇中に行う的なブラック企業みたいな気がするが深く考えるのは止そう。

そもそも国王不在な上、オスロウ城復興中に有給とか取れるのか?
久しぶりにクリス君に会えて嬉しいけど国営の方が気になる所だ。

シグはサクラ様は居ないのですか?とキョロキョロと探していた。
労働組合ギルドの仕事していると言ったら、後で探してみますと言っていた。

探し当てたシグに出会ったサクラの顔を想像して顔が緩む。
「何故、ヌシが此処に!?」と台詞まで想像出来てしまう。

何だかんだでクリス君とシグもイケメンな上、他国の騎士団長と言う事も有り一般客も興味が湧いた様でこのテーブルは大層話が盛り上がった。

オスロウ国とギュノス国の国交はどうなのだろうか?
ギュノス国は中立国的な感覚だけど戦争では兵士隊がどちらかに加担していた描写が有った。

問題無いのであれば、このままキャストとして働いて貰おうかな。

アルラトの正体は一応隠し「完全な人間形態」で腕も2本に固定させているのでどこから見ても美少年だ。

鋭い人ならボーイッシュ美少女と見抜けるだろう。

しかし、シグの「女性センサー」には引っ掛かって無い様子だった。
性別不明なので反応しないのか射程年齢外なのかは知ったこっちゃ無いけどね。

私も最初は緊張していたが知り合いが同じ席にいた安心感からか、あっと言う間に15分は過ぎクリス君とシグは挨拶をしながら店内を出て行った。

あの2人はしばらくギュノス国に滞在するそうなので、都市内で会う事が有るかも知れない。




昼を過ぎる頃に順番で休憩に入る。

案の定と言うか未来視的な特殊技能スキルの無い私でも予想出来ていたが、咲耶は完全に酔っ払い「です」「ます」口調を自然に出来ない程になっていた。

こういうのは解毒魔法でどうにか出来るのだろうか?いや出来ない(反語)。

大量の水を飲ませて休憩をする様に促す。

暗黒神ハーデスハーちゃんは自分の飲酒許容限界を把握しているらしく、自分の注文するお酒はアルコール分1パーセント以下にする様にバックで指示を出していた。

通常料金の3倍近い価格の極薄酒は美味しく無いが超高利益で酔わないと言う絶対勝利戦略で有る。

私とアルラトはソフトドリンクなので全然余裕で楽しくお話をしている。
支配人が言うには午前中の売上だけで約3週間分の売上平均以上に達したらしくハイテンションとなっていた。

午後からも客の足並みが途絶える事無く、むしろ夕方頃からピークタイムに向けて国営賭博場カジノ内の入店待ちの客が増えている様だった。

当然、ビジネスチャンスに目敏いオーナーAIは待ち時間を潰せる様にお客様の列に移動式スロット等も臨時配置される。

その為か国営賭博場カジノの売上も空前絶後とも言える金額を稼ぎ、異常な盛り上がりをしていた。

午後17時頃には咲耶も戦線復帰し、本来午後予約のお客様に謝罪し再度接客を行っていた。

朝方来店したお客様の中に夜も来店する客も多く、強者になると順番待ちの入店番号札を金銭で買い取り5回位来店していた人も居た。

24時に最後のお客様を見送りグラズヘイムを閉店する。

疲れ切ったスタッフやキャストも含め全員が床やソファ等に寝そべる。
巨大ハリケーンが通り過ぎたかの様な惨状が広がっているかの様だった。

24時間営業の国営賭博場カジノで私達の出待ちが居る可能性が有る事から、今日はグラズヘイムのバックルームを使用させて貰う事になっていた。

「皆さんお疲れ様でした!本日の売上は開店史上新記録の4億5800万ゴールドです!」

疲れてフラフラになりながらも支配人が本日の売上を発表すると同時にスタッフ全員か歓声が上がった。

普段の売上がどんな物か分からないけど、1日の売上高としてはどうやら快挙らしい。
私達も顔を見合わせ安堵する、全員フラフラだがアルラトはまだまだ元気な様子だった。

流石フロアボス、HPはプレイヤーの100倍以上有るのだから余裕なんだろう。

しかも明日・・・正確には今日の開店時間を朝6時にしようと提案していたが全スタッフに却下され、支配人明日は朝8時から清掃して10時に開店しましょうと言って片付けも途中だが従業員は帰宅となった。

「や~きょうはたいへんれしたねぇ」

「・・・・咲耶は飲みすぎ。」

咲耶はグラムヘイズで以前働いて居た事も有り指名数が断トツで多く、途中数時間退場していたにも関わらず高い売上高を獲得していた。

酔って退場して無ければメンバー内で最大の売上高だったのは間違い無い。

「値段が高いからと言って酒を飲んでいたからな、数時間休んでいたから売上は我の勝ちであろうな。フハハハハ!」

暗黒神ハーデスハーちゃんは自身の飲酒量を調整し、相手に高額のお酒を飲ませる方法を取っていくクレバーな戦略を取っていた。

決め台詞は「明日も当然来るんだよな?」と壁ドンしながら高圧的な物言いをして来店強要。
何故かそれが女性客に大受けし妙な順番待ちが出来ていた。

彼目当てに当日に3周しているグループが多く確実にリピーター獲得をしている様だった。

「パパ!僕も結構稼いだよ?褒めて!褒めて!」

アルラトは自分が飲むよりもマダムの様なお客様をターゲットに高い料理を頼んでもらったり、甘えるように高額なお酒を数本ボトルキープをさせたりとショタ好きを弄ぶ様な小悪魔的魅力をフルに発揮し個人成績上位は計算しなくても分かる。

普段は無邪気で無知なお子様な雰囲気なのに、自身の魅力を把握し客層を見極める所とか普段から人に合わせてキャラ造りしているんじゃないだろうかと疑ってしまう。

私は普通にソフトドリンクを飲みながら、お客さんと楽しく話をしていたが男性客からやたら名刺を頂き閉店する時には広辞苑くらいの厚さになっていた。

国営賭博場カジノでの評判を知っている客がここぞとばかりに話す機会を得る為に来ていたと支配人から聞いた。

もしかして私の本職を知って殺人とかテロの裏仕事を希望する連中の名刺なんじゃないだろうか・・・いっそリスト化してゴウト衛兵長に渡すか?

忙しい1日を終え、皆は仮眠室で寝息を立て始める。

アルラトと一緒にベットに潜り込み私もあっさりと眠りに落ちた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私、異世界で監禁されました!?

星宮歌
恋愛
ただただ、苦しかった。 暴力をふるわれ、いじめられる毎日。それでも過ぎていく日常。けれど、ある日、いじめっ子グループに突き飛ばされ、トラックに轢かれたことで全てが変わる。 『ここ、どこ?』 声にならない声、見たこともない豪奢な部屋。混乱する私にもたらされるのは、幸せか、不幸せか。 今、全ての歯車が動き出す。 片翼シリーズ第一弾の作品です。 続編は『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』ですので、そちらもどうぞ! 溺愛は結構後半です。 なろうでも公開してます。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

異世界でお金を使わないといけません。

りんご飴
ファンタジー
石川 舞華、22歳。  事故で人生を終えたマイカは、地球リスペクトな神様にスカウトされて、異世界で生きるように言われる。  異世界でのマイカの役割は、50年前の転生者が溜め込んだ埋蔵金を、ジャンジャン使うことだった。  高級品に一切興味はないのに、突然、有り余るお金を手にいれちゃったよ。  ありがた迷惑な『強運』で、何度も命の危険を乗り越えます。  右も左も分からない異世界で、家やら、訳あり奴隷やらをどんどん購入。  旅行に行ったり、貴族に接触しちゃったり、チートなアイテムを手に入れたりしながら、異世界の経済や流通に足を突っ込みます。  のんびりほのぼの、時々危険な異世界事情を、ブルジョア満載な生活で、何とか楽しく生きていきます。 お金は稼ぐより使いたい。人の金ならなおさらジャンジャン使いたい。そんな作者の願望が込められたお話です。 しばらくは 月、木 更新でいこうと思います。 小説家になろうさんにもお邪魔しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...