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機械都市編

068話 脱出ゲーム「密室の3人」

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「次あっち行こうよシノブさん!」

「わわ、危ないよ。」

「早く早く!」

私は燥ぐリオとリナに引かれながら施設内を引き回されていた。

「良いでござるな。」

「良いですね。」

男2人はナンパしてくる男を振り払いながら、リオとリナの水着を黄昏た表情で堪能している様子だった。

温水プールで一頻り泳ぎ、温泉を堪能し軽く休憩ブースで水分補給を行った後サウナブースへと向かった。

サウナからの水風呂の往復は気分的に「整う」らしいが心臓に負担が半端無いと聞いた事が有る。

サウナ好きのサクラは週に何度かはスポーツジムに通って整えているらしい。

サウナルームは内部が丸太で出来たロッジの様な内装で室内には座る所以外は何も無い。
サウナストーン等も無く、壁の小さな隙間から蒸気が少しずつ出て室内温度を機械管理しているのだろう。

内装に使われている木材なのか分からないが檜の様な木の匂いが薄っすらしていて落ち着く空間となっている。

しかし、戦いの火種と言う物は何処でだって燃え上がるのだ。

きっかけは些細な事だった。
忍耐力は誰が上かと言う何気無い会話から私達の戦争は始まった。

「サクラ、そろそろ限界なんじゃない?我慢は体に良くないよ。」

そう、忍者とは耐え忍ぶ者だ。
この勝負には負ける訳にはいかない!

「武士にとってこの程度の暑さは我慢と言う言葉すら温いでござるよ。咲耶は顔色が良く無い様でござるが?」

「気のせいですよ。視力が落ちたんじゃないですか?2人共、目が虚ろですけど大丈夫ですか?」

「ごめん、私とリオは出るね。もう限界。」

私達はサウナブースで無意味な意地の張り合いを行っていた。
かれこれ30分は湿度の高いサウナの中で不毛な譲り合いをしている。

リオとリナは早々にリタイアしていたが私も変な意地を張らないで出ておけば良かったと後に後悔をする。

更に10分程我慢していた所で急にフロアの電源が落ち周囲が暗闇に包まれた。
急な暗闇に思いっきり焦る、サウナブースには私達3人しかいない。

「え!?何!何!?電気が!」

「どうしたでござろうか?」

「こういう施設は、予備発電の電源が有って、すぐ復旧すると思います。」





暫く予備電源の切り替えを待っていたが、一行に復旧する目途が立たない様子だ。
ただでさえ我慢比べの限界に達し様としていた所にこの仕打ちだ。

私は手探りで出入口探し、それっぽいドアを見つける。
サウナルームのドアは電動による自動開閉の為、開くことが出来ない。

大抵非常用の開閉レバー等有りそうな物だが・・・。

扉には強化ガラスの窓が有り、外の様子が見えるが外の電源も落ちているらしくフロア自体が真っ暗だ。

非常用連絡ボタン電源自体が落ちているからか、押しても反応無く機能していない。

困って途方に暮れているとサウナ内部の気温が徐々に上昇している様な感覚が有る。

「ね、ねぇ・・・何かさ湿度と言うかさ・・・・温度上がってる気がするんだけど、気のせいかな?」

「ふむ、拙者も同じ事を考えていたでござる。」

「もしかしたら、温度や湿度を管理している所が機能停止しているのかも?」

室内の管理もAIによる自動調整で管理されている可能性が高い。
電源が落ちたせいで調整機能が作動しないまま温度を上げ続けているのかも知れない。

じょ、冗談じゃ無い!
このまま焼売や肉まんの様に蒸されるなんて最悪だ。

私はドアを両手で叩きながら助けを求める。

「誰か!誰か居ませんか!?」

扉はビクともしない。
私の持っている開錠特殊技能レゾナンススキルで開錠も試みたが通常の鍵による施錠では無い為微動だにしない。

今は武器もアイテムストレージのポシェットも所持していないし、いくら最高レベルでも表面の木で造られた壁は壊せるがその下に有る機械化された合金の壁は傷一つ付ける事が出来ないだろう。

私達の持ち物と言えば、私とサクラは水着とハンドタオル。
咲耶は水着とサングラスのみだ。
対人相手ならタオルでも攻撃可能だが合金の強度には届かないだろう。

「参ったでござるな。拙者の腕力でも、この壁は壊せないでござる。せめて刀が有れば・・・」

「明りが無いのも厄介ですね、シノブの【不知火しらぬい】も素手では発動出来ませんし。何か特殊技能スキルで活用出来そうなのは無いですか?」

火遁系の特殊技能スキルは武器が必要だし、水遁も湿気ではどうにも・・・金遁、無いし。
木遁は空蝉や罠系だけ、土遁は機械合金の壁では意味が無い。

私の特殊技能スキルでは役に立てそうに無い。




何分たっただろうか湿度の高い暗闇の中で意識が朦朧としてきている。

普段から考えが纏まらないが状況的にヤバイ位しか考えられない程、体力的にも精神的にも限界が近い。

「2人共、いちかばちか・・・・1つ試したい事が有るでござる。」

「ハァハァ、何ですか?何か秘策でも思い付いたのですか?」

暗闇で表情等は分からないがサクラが何か思い付いた様で、弱った声で提案をしてきた。

「2人共、水着を脱いで拙者に渡してくれないでござるか?」

「はぁ!?こんな時に何言ってるんですか?」

「出来るかどうか分からんでござるが・・・・水着で刀の代用を作ってみるでござる。」

サクラは開発製造系技能クラフトスキル【武器生成レベル1】を所持しているらしく、ハンドタオル2枚と3人分の水着と咲耶のサングラスを使い小太刀程度の武器を作成して刀系の特殊技能スキルを使用してみると言うのだ。

理屈は分からなくも無い。
以前濡れタオルで戦った経験が有るから使えば対人戦にはそれなりの威力が有る。

いくら暗闇とはいえネカマ男性2人の前で裸になるのは、少し抵抗が有る。

しかし、このままココに居たら間違い無く脱水症状で死ぬ。

「分かった・・・サクラどこに居るの?取り得ず扉の前に居てくれない?」

「ちょっと!胸触らないでください!」

「ごめんでござる、手探りだから分かりにくいでござる。」

私と咲耶は水着のを脱いでサクラにそっと手渡す。

暗闇で目が効く特殊技能スキルとか持って無いよね・・・素っ裸な状態だと不安になる。
取り敢えず部屋の隅で小さくなっておこう。

サングラスを芯に水着をグルグルと巻き付ける様に縛り小太刀サイズの武器を造るらしい。

サクラが開発製造系技能クラフトスキル【武器生成レベル1】を発動すると一瞬だけサクラの手元が光り作成が完了した様だった。

「・・・一応出来上がったでござる。武器として判定が有るかどうかは微妙でござるが。」

「ハァハァ・・・咲耶、もう1度身体強化の能力向上魔法バフを頼むでござる。」

「人使いが荒いですね。私の気力も限界に近いんで、これが最後ですよ!」

「サクラ待って!リナとリオが扉の前に居ないか確認してね。」

「分かったでござる。・・・人の気配は無い、大丈夫そうでござる。」

暗闇で見えないが、サクラが呼吸を整える声が聞こえる。

「ハァ・・・・いざ、 剣技!【朧三日月おぼろみかづききわみ】!」

サクラの片手剣最強の特殊技能スキル朧三日月おぼろみかづききわみ】を発動し轟音と共に扉が窪み外への出入り出来そうな隙間が出来た様だ。

扉破壊と同時にレンタル品の水着で出来た小刀は耐久値が無くなったらしく粉々になり消滅した。

歪んだ扉を押しのけて私達はプールサイドへ出る。
周囲は暗闇のまま大勢居た人の気配は無く不気味な静寂に包まれていた。

「ハァハァ、涼しい!空気が美味しい!」

「むしろ寒く感じますね。良くやりましたサクラ!」

「うまくいったでござる・・・ハァ、少し休憩するでござる。」

私達は暗闇のプールサイドで素っ裸のまま、南国の風に吹かれて呼吸を整える。

一体何が起きているのだろうか、他の観客はどこかに避難したのだろうか?
完全密閉されたサウナルームの中からは外の暗闇で何が起きたのか、全く見えなかった。

まるでホラー映画やゲームのワンシーンみたいで不気味だ。
リオとリナは無事だろうか?

新鮮な空気を吸ったせいか脳が正常に作動し始めた事で私は思い出す。

「よく考えたら・・・さ、私の特殊技能スキル【爆弾罠】を使えば良かったんだ。」

「・・・そうですね。」

「・・・いやぁ~そうでござるな。」

うん?何だかこの2人の反応が薄い様な気がする。
まさかと思うけど、分かってて敢えて教えなかったって事は無いよね。

暗闇で裸を凝視されているんじゃないかと不安になる。
電源の落ちた屋内は完全な闇、それだけが唯一の救いだ。

急に電源が復旧しても良い様に【煙幕玉】を右手に忍ばせる。

全裸対策は万全だ、もういっそ【粘着罠】で主要部分を隠す様に水着を造ろうかな。

止めよう。
急遽戦闘になったら不利でしかない。

一息付いた私達はロッカールームを目指して暗闇の中を散策しに行った。
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