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機械都市編

060話 不可視化能力

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クリスタルタワー内部は外で見る外見とは違い、合金と配管と機械で作られた比較的大きな通路のダンジョンとなっている。

破壊された機械兵の残骸を追う様に進んで行くと、何故か途中から残骸が見当たらなくなる。

「シノブちょっと待って下さい。何か変です。」

「うん、破壊跡が無くなったね。」

不思議な事に途中の路地からぱったりと機械兵の残骸が見当たらない。

もしかしてこの地点で死んだのか?

しかし遺体や血痕も無い。

「・・・ここで引き返して上層に向かったのではないでしょうか?」

「そうかも?塔だから普通登るもんね。」

そうゲームの設定では、このダンジョンは塔なのに最下層にボスが配置されている。
普通の考えだと塔を登った最上階に配置されているのが普通だ。

この塔に侵入した人物も下へ続く階段前引き返して、上層を目指す道を探しに引き返したんだろうか?

タワー状になっている事から上層を目指すのが普通と考えたのかな。

私達は考えた末に、そのまま下層に向けて進む事にした。

最下層に向かうにつれ機械兵の数は増し、いい加減うんざりし始めた頃にようやく地下9階層へ到達した。

地下9階層は巨大な1部屋のフロアになっていて、機械兵の残骸らしきスクラップ状の機械片が複数有るだけで不気味な事に部屋には人や機械兵の気配は無かった。

【索敵】にも一切反応は無い。

「おかしい、マザーブレイン前には大型のフロアボスが数体配置されているはずですが。それに、この残骸は・・・」

「サクラとDOSどっちゃんが倒した・・・とか?」

彼らの姿は見当たらなかった、一体何処に居るのだろうか。
【索敵】を張り巡らせ一応警戒を怠らない様にゆっくりと部屋の中央へ歩いて行く。

地下9階層の中央には最下層のマザーブレインの部屋へ繋がるエレベーターが有る。
部屋中央のサークルに足を踏み入れるがエレベーターは機動しない。

「起動しないね。フロアボス倒して無いし当然っちゃ当然なのだけど。」

「この部屋にはまだフロアボスが居る?」

私達は警戒度を上げて周囲を確認する。
下層に進むエレベーターが作動しないって事はフラグとなるフロアボスが存在する証拠なのだ。

2人で床のサークルを触りながら調べる。
その刹那「ジジッ」と言う音と共に私は左肩の痛覚が悲鳴を上げる。

激痛を受けた場所に目をやると、肩から血が噴き出る。

痛っっっっったぁぁぁぁぁい!?

思わず叫びそうになり口を塞ぐ。
脳が混乱しながらも危険信号を発し即座に体が迎撃モードへと移行する。

・・・・・これは攻撃だ!

「咲耶!何か居る!!」

「えっ!?あ、シノブ血が!!」

私はその場を飛びのき、再度【索敵】を使用する。
赤いマーカーが1つ。

居る!
この部屋に目に見えない何者かが居る!

敵だ、モンスターか?機械兵か?
マーカーの示す場所に目をやると、そこには機械も生物も存在しない。

視覚阻害的な特殊技能スキルか?
それとも幻術の魔法スペルなのか、今は判断が出来ない。

ズキリと左肩が痛む。
じわじわと血液が溢れる度に痛覚を刺激する。

何か弾丸が貫通した様な激しい痛みだ。
回避に特化した私がダメージを受けたんだ。

たった一撃で大ダメージを受けた私は動揺の余り頭が回らない。

冒険初日にサクラに額を刺された痛みなど比にはならない激痛で肩が熱い。
ヴァッサゴの極大攻撃魔法アルティメルスペルの1撃よりも重い。

呼吸が変だ過呼吸ってヤツかな、落ち着いて深呼吸を・・・
しかし、動きを止める事は出来ない。

止まったら狙われると本能が警笛を鳴らす。

「シノブ大丈夫ですか?!何処に居る!?【索敵】に反応は無いですか!?」

「有る!けど、見えない!」

咲耶が咄嗟に二重の物理障壁魔法を張る。
私達の後方から「ジジジッ」と音が鳴り咲耶の物理障壁を貫通し、咲耶の腹部に銃弾が当たり血を出し蹲る。

並みの攻撃力なら咲耶の張った物理障壁を貫通して致命傷を与えるなんて不可能だ。
敵は少なくともレベル80以上で腕力極振りの戦士職相当の攻撃力を有している。

そして攻撃射程は中距離から遠距離なのは間違いない。

「うぁ!?」

私は瞬時に咲耶へ攻撃したと思われる位置に向けて【クナイ】を投げる。
【クナイ】の進行方向の空間がユラリと揺らぎ、私の投げた【クナイ】が壁に突き刺さる。

透明化した何者かが回避したのが見えた。
見えざる敵は攻撃力のみならず回避能力も尋常じゃない。

その何者かは身を潜めたのか周囲の風景に溶け込む。

「不可視化だ。シノブ!あれは魔法じゃない!!特殊技能スキルだ!」

不可視化の魔法は存在しない。

精神に作用する状態異常魔法の中に視覚を奪う物は存在するが、自身の姿を消すのは特定の装備に付加された特殊技能スキルしか存在しない。

そして身近な人物にそれと同じ特殊技能スキルを付加された装備を持っている人物が居る。
「深紅の薔薇」のサブマスターのDOSどっちゃんだ。

彼の装備する迷彩柄のマント【エレイス】は自身の姿を透明化して周囲に溶け込む事が出来る。
まさか、私達を襲っているのはDOSどっちゃんなのか?

それともDOSどっちゃんから装備を奪ったのか?
私は回復薬を使用して肩の傷を回復し、目視出来無い敵から距離を取る。

DOSどっちゃん!!DOSどっちゃんなの!?」

私は見えざる敵に対して叫びに似た声を上げる。
当然の様に返答は無い、常に【索敵】を使用しているので大体の場所は把握している。

もし相手がDOSどっちゃんを倒し、装備を奪い取ったなら確実に強敵だ。
私達2人では勝てないかも知れない。

「咲耶大丈夫?私が【縮地】で移動しながら周囲に罠を配置して部屋の中央に追い込むから、【神ノ雷ディトニトル】を放って貰える?」

「分かりました!室内だと威力が半減しますが御容赦下さい。」

特殊技能スキル【煙玉】を使い視界を奪う。
そして【影分身】を使用し【縮地】で部屋の周囲回る様に【粘着罠】を設置して行く。

敵が移動する度に煙幕が揺らぎ何者かが移動しているのが目視出来る。

3体の分身体で罠を張り、本体の私は動く透明の敵に飛び道具を放ち咲耶への攻撃を牽制をする。

【粘着罠】の設置数には限界が有る、その数は最大20個。

種類に関しては移動阻害する【粘着罠】、肉体に状態異常を付加し依存ダメージを与える【毒罠】、行動不能になる【麻痺罠】、物理ダメージを与える【爆弾罠】の合計4種類だ。

普段宿で対サクラ様に使用しているのは【粘着罠】と【麻痺罠】だ、そして今使用しているのが【粘着罠】だ。

部屋の周囲を回りながら等間隔に罠を張る。

【索敵】と併用し使用回数を数えながら部屋の中央に向けて徐々に範囲を狭めて行く。
目標の赤いマーカーは少しずつ咲耶の居る部屋の中央へと吸い寄せられて行く。

「咲耶!お願い!」

「唸れ必殺!神ノ雷ディトニトル!!」

閉鎖された部屋の中央から部屋全体を包む様に広範囲に電撃が広がる。
痛たたた、広範囲の電撃攻撃で私も多少ダメージを食らう。

咲耶から2メートル程度離れた位置に電撃を喰らい蹲る影が有る。
その姿には見覚えがあった。

そうDOSどっちゃんだ。
機械種アンドロイドの弱点は電撃弱点だ。

相手の耐性にもよるが、高確率で麻痺を付与するする【神ノ雷ディトニトル】を喰らって動けない様だった。

【黒猫スーツ】を装備して電撃耐性を失っている咲耶本人もダメージを喰らい麻痺していた。
完全に忘れていた、彼は着替えて無かったんだ。

だから着替えた方が良いと言ったのに。

DOSどっちゃんは電撃のダメージを受けて不可視化状態が切れて動けない様子だ。

DOSどっちゃん本人!?何で?」

「・・・・・・」

「あ、あや、操ら、られているんじゃな、ないですか?」

DOSどっちゃんは麻痺しながらも、優先攻撃順位ヘイトの向いた咲耶に対して敵意有る視線を向けている。

ゲームにこんなイベントは無い。
この世界独自の設定なのか?

機械種アンドロイドDOSどっちゃんは何らかの理由で洗脳されていると言う事だろうか?

えーと、どうしよう・・・仲間を倒す訳にもいかない。
そもそも、本物なのか?それにサクラは何処へ行ったんだ?

「・・・・・侵入者を破壊する。」

悩んでいる内に不意に麻痺の解けたDOSどっちゃんが、以前聞いた男性特有の声でボソリと呟く。

あの声は間違いなくDOSどっちゃんの物だ。
本人で間違いない。

「シノブ!こいつは偽物です!見た目はDOSドスだが声がオッサンです!」

「いや!えーと・・・その合ってる!後で詳しく話すけどDOSどっちゃん本人で間違いない!」

「いや、でも。しかし声が!?」

麻痺の解けた咲耶が偽物と確信した瞬間に私に真向から否定され戸惑う。

彼の地声を知っているのは私だけだから咲耶が戸惑うのも無理はない。
ゲーム内でもボイスチャットは使用していなかったのだから。

DOSどっちゃんはネカマと言うより・・・そういうキャラなだけで・・・

まぁ兎に角、何とかしなきゃ!
彼は今ゲームには無かった状態異常「洗脳」に掛かっている。

装備品の特殊技能スキル【不可視化】が切れ、再充填時間リキャストタイムが発生したのかDOSどっちゃんが姿を消す事は無い。

主力武器のスナイパーライフル【シャランガーナ】から銃剣の様な長い刃先の付いた武器に持ち替え近接戦闘の構えを取っている。

彼は私の師匠的ポジションで銃器使いで有りながらデ●ルメイクライやベ●ネッタ並みのスタイリッシュ戦闘も得意としている強者だ。

彼の強さは咲耶も当然知っている。

私達は息を飲み武器を構えた彼と対峙する。
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