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大陸横断編
048話 星空のカミングアウト
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夕食と言うには随分長い、かれこれ3時間はテーブルを占領している。
お酒が入ったサクラと咲耶の2名が下らない話しで盛り上がっているのだ。
DOSは基本喋らないが、たまに小さな黒板を取り出してツッコミを書いて時には「黒板の角」で咲耶を殴ったりする。
普段強気な咲耶もDOSには頭が上がらないと見える。
機械種の体ってどんな感じなんだろう?
私のゲームキャラクターは現実世界と同じ人間種なので、全くもって持って違和感と言う物は感じない。
咲耶は妖精種と言う種族だが、耳が少し長い位で見た目は人間種と大差が無い。
しかし機械種は明らかに違う。
食事や睡眠に排泄と言った生物として極当たり前の行動が不要なのだ。
それって、どんな感覚なのだろうか?とても想像が出来ない。
DOSのフェイスフォルムには口が存在しない。
だから会話と言う物が出来ないんだと思う。
ゲームではキーボード入力によるチャットを行っていたから気にしなかったけど、他の機械種プレイヤーは普通にボイスチャットをしていたので種族特性としてボスチャットが出来ない訳じゃ無いらしい。
翌々考えるとフルフェイス型ディスプレイでキーボード入力って事はブラインドタッチをしているか、オフラインで音声入力をしているかだと思う。
この世界に来てからも私は彼女が喋っている所を見た事無い。
先天性の病気等で喋れないとかも有るか?
プライベートな事に踏み入る様で、友達と言えど聞くのは気が引ける。
私がDOSの顔を見て考え事をしていたら不意に目が合った、彼女も無表情で私を見つめてくる。
時々視線を感じて振り返ると彼女と目を合わせる事は多かった。
本当に何気無く私は頭の中の疑問を彼女に対して聞いてしまった。
「DOSってさ・・・・喋れるの?」
「・・・・・」
自分で言ってハッとする、超ド直球で聞いてしまった。
思った事が口にぽろっと出てしまった感じで。
完全に無神経な女だと思われただろう。
もし病気か何かで喋れないとしたら私は彼女を傷付けてしまったかも知れない。
彼女は黒板を取り出し何やら書き始めた。
控えめにそっと見せて来る。
その黒板には「散歩しましょう」と書いてあった。
私は了承し、盛り上がっているサクラと咲耶を放置して夜の村を散策した。
特に何か有る村ではない、少し開けた芝生の原っぱに座り2人で夜空を眺める。
「その・・・さっきは変な事聞いてごめんなさい。」
私は胡坐をかいた様な姿勢で頭を下げる。
仲は良いけど実際は凄く年上のお姉さんだ。
小娘がリアルに無断で立ち入るのは失礼なんじゃないかと反省する。
「・・・・・」
DOSは夜空を眺めたまま、特に何も反応してはくれない。
やっぱり怒っているのだろうか?
夜空には宝石を散りばめた様な星々が永遠とも呼べる輝きを放っている。
満天の星空の下、虫の声一つしない静寂の中で沈黙の時間が続く。
彼女は私の正面に座り直しこう言った・・・・そう、彼女は不意に喋ったのだ。
「黙ってようと思った。君に嫌われたくは無かったから。」
始めて聞いた彼女の声は・・・いや「彼」の声は男性の声だった。
サクラや咲耶の声は少し高く若さを感じさせる声だったが、DOSの声は多少年齢を重ねた落ち着きの有る男性の声だった。
「え!?え、えーとDOSも男の人?マジで?」
私は驚きの余り、裏返った素っ頓狂な声尾を上げる。
「そうだ、今まで嘘を付いていたんだ。ただ、君に聞かれたら答えるつもりだった。」
沈痛な面持ちを感じさせる声色で彼が答える。
本当は言いたくなかったと声のトーンが語っている様だった。
「それは、どうして?」
「シノブを見てると娘を思い出すんだ。3年前亡くなったんだけどね。」
その言葉を皮切りに、彼は自身のリアルの事を話し出した。
彼の話ではリアルで花屋を経営しているのは本当で、奥さんと娘と3人で暮らしていた。
3年前交通事故で奥さんと中学校一年生の娘を同時に亡くした。
失意の中、たまたま彼が出会ったのがこのゲームだった。
奥さんと娘の事故保険が降り失意の中花屋は休業。
今は働く事無く引き籠ってSMO中心の生活をしていたそうだ。
彼のキャラクターは亡くなった奥さんに似せた人間種で作成したが、何かが違うと思ったらしい。
ベースはそのままで機械種に変更したそうだ。
名前のDOSは「大輔」の「D」、「音寧」の「O」、「志乃」の「S」の頭文字を取って付けたそうだ。
単独プレイをしている時にミカエル=アルファに出会って、彼女ともう1人、引退したプレイヤー3人でギルド「深紅の薔薇」を設立したそうだ。
その一年後、私が入隊した時驚いたらしい。
何と私は声・仕草・キャラの外見までもが生前の娘にそっくりだったと。
それって私が女子中学生に見えたって事か・・・少し複雑。
思い返せば初心者の頃から色々と教えてくれてお世話になった。
私が今ここまで強くなれたのはDOSのお陰だ。
「引いたよな。はっきり言って変なオッサンだもんな。」
DOSは何かを諦めた様な投げ遣りな感じの口調で呟く。
私はどう返事を返して良いか一瞬迷う、しかし彼は言わなくても良い事実を私に話してくれたのだ。
それに対して私は答える義務が有る様な感覚を覚えた。
「どう言って良いか分からないけどさ、その・・・少し驚いたけどDOSの事が知れて良かったと思う。もし皆に言わない方が良いなら言わないよ。」
「どっさんって・・・出来れば今まで通り呼んで欲しい。サービス終了と共にゲームは止めてキチンと花屋を再開するつもりだった。シノブと会えて僕の心は凄く癒されたんだ。現実逃避って思うかも知れないけどね。」
「そんな風には思わないよ。私もDOSと会えて楽しかったし。これからも一緒に旅を続けて行きたい。」
「・・・ありがとう。シノブ。」
私はDOSと約束した、このゲームをクリアして皆で現実に戻る事。
それまで声の事は2人だけの秘密で、今まで通り旅を続ける事。
彼は知られても良いと言ってたけど私が勝手に決めた。
DOS)にはこのギルドの柱として私達を支える存在で居て欲しいからと伝えた。
「分かった、シノブを守って絶対現実に戻すから。」
「うん、私も頑張るよ。」
お互い指切りをしてから宿まで歩く。
少し驚いたけど、流石に3人目になると衝撃度は低い。
元々彼は喋らないキャラクターのロールプレイだから、多分今後も気にならない・・・と思う。
お酒が入ったサクラと咲耶の2名が下らない話しで盛り上がっているのだ。
DOSは基本喋らないが、たまに小さな黒板を取り出してツッコミを書いて時には「黒板の角」で咲耶を殴ったりする。
普段強気な咲耶もDOSには頭が上がらないと見える。
機械種の体ってどんな感じなんだろう?
私のゲームキャラクターは現実世界と同じ人間種なので、全くもって持って違和感と言う物は感じない。
咲耶は妖精種と言う種族だが、耳が少し長い位で見た目は人間種と大差が無い。
しかし機械種は明らかに違う。
食事や睡眠に排泄と言った生物として極当たり前の行動が不要なのだ。
それって、どんな感覚なのだろうか?とても想像が出来ない。
DOSのフェイスフォルムには口が存在しない。
だから会話と言う物が出来ないんだと思う。
ゲームではキーボード入力によるチャットを行っていたから気にしなかったけど、他の機械種プレイヤーは普通にボイスチャットをしていたので種族特性としてボスチャットが出来ない訳じゃ無いらしい。
翌々考えるとフルフェイス型ディスプレイでキーボード入力って事はブラインドタッチをしているか、オフラインで音声入力をしているかだと思う。
この世界に来てからも私は彼女が喋っている所を見た事無い。
先天性の病気等で喋れないとかも有るか?
プライベートな事に踏み入る様で、友達と言えど聞くのは気が引ける。
私がDOSの顔を見て考え事をしていたら不意に目が合った、彼女も無表情で私を見つめてくる。
時々視線を感じて振り返ると彼女と目を合わせる事は多かった。
本当に何気無く私は頭の中の疑問を彼女に対して聞いてしまった。
「DOSってさ・・・・喋れるの?」
「・・・・・」
自分で言ってハッとする、超ド直球で聞いてしまった。
思った事が口にぽろっと出てしまった感じで。
完全に無神経な女だと思われただろう。
もし病気か何かで喋れないとしたら私は彼女を傷付けてしまったかも知れない。
彼女は黒板を取り出し何やら書き始めた。
控えめにそっと見せて来る。
その黒板には「散歩しましょう」と書いてあった。
私は了承し、盛り上がっているサクラと咲耶を放置して夜の村を散策した。
特に何か有る村ではない、少し開けた芝生の原っぱに座り2人で夜空を眺める。
「その・・・さっきは変な事聞いてごめんなさい。」
私は胡坐をかいた様な姿勢で頭を下げる。
仲は良いけど実際は凄く年上のお姉さんだ。
小娘がリアルに無断で立ち入るのは失礼なんじゃないかと反省する。
「・・・・・」
DOSは夜空を眺めたまま、特に何も反応してはくれない。
やっぱり怒っているのだろうか?
夜空には宝石を散りばめた様な星々が永遠とも呼べる輝きを放っている。
満天の星空の下、虫の声一つしない静寂の中で沈黙の時間が続く。
彼女は私の正面に座り直しこう言った・・・・そう、彼女は不意に喋ったのだ。
「黙ってようと思った。君に嫌われたくは無かったから。」
始めて聞いた彼女の声は・・・いや「彼」の声は男性の声だった。
サクラや咲耶の声は少し高く若さを感じさせる声だったが、DOSの声は多少年齢を重ねた落ち着きの有る男性の声だった。
「え!?え、えーとDOSも男の人?マジで?」
私は驚きの余り、裏返った素っ頓狂な声尾を上げる。
「そうだ、今まで嘘を付いていたんだ。ただ、君に聞かれたら答えるつもりだった。」
沈痛な面持ちを感じさせる声色で彼が答える。
本当は言いたくなかったと声のトーンが語っている様だった。
「それは、どうして?」
「シノブを見てると娘を思い出すんだ。3年前亡くなったんだけどね。」
その言葉を皮切りに、彼は自身のリアルの事を話し出した。
彼の話ではリアルで花屋を経営しているのは本当で、奥さんと娘と3人で暮らしていた。
3年前交通事故で奥さんと中学校一年生の娘を同時に亡くした。
失意の中、たまたま彼が出会ったのがこのゲームだった。
奥さんと娘の事故保険が降り失意の中花屋は休業。
今は働く事無く引き籠ってSMO中心の生活をしていたそうだ。
彼のキャラクターは亡くなった奥さんに似せた人間種で作成したが、何かが違うと思ったらしい。
ベースはそのままで機械種に変更したそうだ。
名前のDOSは「大輔」の「D」、「音寧」の「O」、「志乃」の「S」の頭文字を取って付けたそうだ。
単独プレイをしている時にミカエル=アルファに出会って、彼女ともう1人、引退したプレイヤー3人でギルド「深紅の薔薇」を設立したそうだ。
その一年後、私が入隊した時驚いたらしい。
何と私は声・仕草・キャラの外見までもが生前の娘にそっくりだったと。
それって私が女子中学生に見えたって事か・・・少し複雑。
思い返せば初心者の頃から色々と教えてくれてお世話になった。
私が今ここまで強くなれたのはDOSのお陰だ。
「引いたよな。はっきり言って変なオッサンだもんな。」
DOSは何かを諦めた様な投げ遣りな感じの口調で呟く。
私はどう返事を返して良いか一瞬迷う、しかし彼は言わなくても良い事実を私に話してくれたのだ。
それに対して私は答える義務が有る様な感覚を覚えた。
「どう言って良いか分からないけどさ、その・・・少し驚いたけどDOSの事が知れて良かったと思う。もし皆に言わない方が良いなら言わないよ。」
「どっさんって・・・出来れば今まで通り呼んで欲しい。サービス終了と共にゲームは止めてキチンと花屋を再開するつもりだった。シノブと会えて僕の心は凄く癒されたんだ。現実逃避って思うかも知れないけどね。」
「そんな風には思わないよ。私もDOSと会えて楽しかったし。これからも一緒に旅を続けて行きたい。」
「・・・ありがとう。シノブ。」
私はDOSと約束した、このゲームをクリアして皆で現実に戻る事。
それまで声の事は2人だけの秘密で、今まで通り旅を続ける事。
彼は知られても良いと言ってたけど私が勝手に決めた。
DOS)にはこのギルドの柱として私達を支える存在で居て欲しいからと伝えた。
「分かった、シノブを守って絶対現実に戻すから。」
「うん、私も頑張るよ。」
お互い指切りをしてから宿まで歩く。
少し驚いたけど、流石に3人目になると衝撃度は低い。
元々彼は喋らないキャラクターのロールプレイだから、多分今後も気にならない・・・と思う。
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