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大陸横断編

040話 凹凸

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-ハイメス国 王宮-

大きな窓から見える空は夕暮れ時を迎え暗く染まり星々がささやかな輝きを放ち始めていた。

太陽が沈み夜闇が街を包む頃には、周囲を浮遊する紫色の光源がより目立ち幻想的な風景を作り出していた。

ハイメス王宮の応接室は非常にシンプルでオスロウ国の様な豪華な装飾は無い。
まるで断捨離を行ったミニマリストの部屋の様な印象を受ける。

魔法装置なのか天井自体が証明の役割をしていたり、その光を吸収したクリスタルの机が淡く輝いていたりと神秘的な部屋の装いで私は一人でワクワクしていた。

ゲームと同じデザインのはずだけど、リアルの視界で見るとまた違った感覚を受ける。

「デイア殿はどこに行ったのでござるか?」

「恐らく宝玉を確認しに行ったのだと思います。」

「・・・・・・・」

「ゲームでは、ハイメスの宝玉は何が原因で壊れたんだっけ?」

・・・誰も答えられないって事は覚えてないのかな?
それとも深く触れられて無い設定なのだろうか?

確かゲームではオスロウ国、ハイメス国共に何者かに破壊された程度の話しか無くてストーリー考察動画とかの題材にされていた様な気がする。

「そもそも宝玉の話自体、NPCが断片的に話すだけでしたからね。」

「案外設定上の名前だけの存在かも知れないでござるな。」

「ふ~ん。DOSどっちゃんは知らない?」

DOSどっちゃんは無言で首を横に振る。

物知りなDOSどっちゃんが知らないと言う事は恐らくゲームでは名前だけの存在で間違いないのだろう。

言わばイベントフラグ的な物で、ストーリーを進める事で必ず壊れるみたいな存在みたいな?
デイア姫が確認しに行ったのなら、この世界には実物が存在するのだろう。

ふと家族の事を思い出す。
今頃どうしているだろうか?

長らく異世界生活を続けているので、リアル世界の事が遠い過去の事の様に薄れていく感覚。

そんな事を考えていたら部屋の扉がノックされ一人の魔法騎士マジックナイトが敬礼をして入室してきた。

「失礼します。皆様、夕食の準備が出来ましたので別室までご案内いたします。」

私達は豪華な夕食の用意された別室に案内される。
魚と野菜を使用した料理が中心で肉料理は無見当たらなかった。

多品目に渡る細やかな造りの和食と洋食を合わせた様な料理が立ち並び、広いテーブルを彩る。
しかし精進料理的な薄味の料理が多く、オスロウ国で濃い味付けの料理を食べていた私には少し物足りないと感じてしまう。

決して美味しくない訳では無い。
一品一品が職人の技が伺える見た目だし種類も豊富だ。
単純に私の舌が馬鹿でお子様なんだろう。

夕食を食べ終えた頃に執事が現れて、それぞれに用意された客室に案内されていった。
結局デイア姫が姿を見せる事は無かった。

客室はそこそこ広く、ダブルサイズ位の大きなベッドと2人用の小さなテーブルが有る簡素な部屋だった。

部屋の中に有る扉を開けると、トイレとお風呂が備え付けられていた。
個室でまず行う事は罠の設置だ。
これはもはや日課に近い。

「よし!完成した!これで変態が入って来た瞬間罠が発動する。」

窓、通気口、扉、ベッド周辺にも念入りに【粘着罠】を仕掛けた。

サクラは常習犯だが咲耶もネカマだ。
気を抜くと何をしでかすか分かった物じゃない。

罠を作成する為に無駄なSP消費をしてしまった。
SP回復紅茶を飲んでからお風呂に入ろう!

ティーセットと備え付けの茶葉を使って紅茶を入れようとティーポットを手に持つと水分的な重みが手に伝わって来る。

瞬間的に握った柄の部分が突然輝きを放ち少し驚いた。
ティーポットの蓋を開けると湯気が上がりお湯が沸いた事に気が付く。
便利な魔法器具だな、旅のお供に欲しいかも。

茶葉をどう使うか迷い四苦八苦しながらなんとか紅茶を入れる。
うん、私ってお茶淹れるのが下手だ。

先程応接室で執事が入れてくれた紅茶と同じ物とは思えない味だ。
蒸らしたり時間を置いたりとか細かい手順が有るんだろうな。

オスロウ国は大衆浴場的な物は有ったが、宿には湯浴みセットのでかい桶の貸し出ししか無かった。

この城に大浴場が有ると説明を受けたが、サクラと咲耶が待ち構えているの可能性が有るので絶対に行かない。

小さいが個室のお風呂で安心してゆっくりと入ろう。

現代のお風呂に似た造りで、備え付けの蛇口を捻ると程良い暖かさのお湯が出て徐々に湯舟を満たす。

これも魔法だろうか?
仕組みが分からない。

しかも薔薇に似た香りが自然と浴室を満たしていく。
やはり何か混ぜ物が入っているお湯だ。

透き通った少し薄紅色のお湯が張り終え、私は鼻歌を歌いながら服を脱ぎ棄てゆっくり肩まで湯舟に浸かる。

ああ極楽だ・・・やはりお湯に浸かるのが至福。
リラックスできる、ああ・・・沁みる。

一般家庭よりも少し広く余裕が有る湯舟はとても快適で、顔が緩み自然と笑顔が零れる。

自分の体を撫でる様に薔薇の香のお湯を這わせる。
改めて自分の体は凹凸が少ないと感じる。

サクラや咲耶の中身が男性だと知った瞬間に思ったことが有る、2人のキャラメイクは凹凸が激しくグラビアモデルの様な体型をしている。

恐らくアレが男性の理想の体型なのだろう。
それに比べると自分の体は余りにも貧相に感じて少し惨めな気分になる。

私は惨めな気分を振り払う様に湯舟に頭まで浸かる。

「ぶくぶくぶくぶく・・・・」

小学生の時に学校のプールで友達と、どちらが長く潜って居られるか競った覚えが有る。
しかしお風呂は温度が高いせいも有り、長く潜っている事が出来なかった。

「ぶはっ!ぜぇぜぇ・・・はぁ~~!」

一分程度しか息を止めていられなかった、身体能力が上がったはずだけど肺活量低いな私。

隣の寝室の方で何やらドタバタ音が鳴り騒がしい女性の声が聞けてきた。

何だ何だ!?

「何だこれは!?シノブさん!居ないのですか!?」

どうやら何者かが私の仕掛けた罠に引っ掛かった様だ。
どうせサクラか咲耶だろう。

今気が付いたけど、名前に「サク」が付くヤツはろくなヤツが居ないんじゃないか?全く・・・

折角の寛ぎ気分が台無しになったと感じながら湯舟から出る。

フカフカなバスタオルで入念に体の水分を拭き取り、事前に準備されていたバスローブに袖を通す。

わぁ、凄く着心地が良い。

上質な繊維で造らている事がすぐに分かる。
この生地の下着や肌着とかデイア姫に頼んで分けて貰えないかな。

隣の寝室に慎重に入ると、【粘着罠】に不格好に掛かったデイア姫が怒りの表情を浮かべながら恨めしそうに私を睨んで来る。

サクラか咲耶かと思ったが違った様だ。

「デイア姫、何してんの?」

「それは・・・こちらの台詞です。我がに何をしてくれているのかしら?」

念入りに仕掛けた粘着罠が全身に張り付き床に這いつくばっている。
やれやれ系主人公の如く、特殊技能スキル解除を行い落ち着かせてお互いソファに座る。

魔法能力が高い癖に、この人油断し過ぎなんじゃないか?
もしかしてドジっ子属性の特殊才能ギフト持ちなんじゃないか?

まぁ確かに自分の家に罠が仕掛けて有るとは思わないだろう。

ごめんデイアさん、今酷い事を考えていた。

特殊技能スキルを使い粘着性物質を除去する。
透き通る様な美しい白い肌に銀色に輝くネグリジェの様な姿。

見るからに高価なカーディガンを纏い、そこから覗くすらっと伸びた長い足を優雅に組む姿は王族の気品を漂わせていた。

先程お風呂で考えていた事を思い出す。

デイア姫もグラマーと言う程では無いが、スレンダー美人と言った感じだ。出る所もきちんと出ていて腰回りは縊れてお尻から太腿のラインはパーフェクトと言わざるを得ない。

さっきの罠に掛かった無様な姿は超絶レアなシーンなんだろうな。

「すみませんね、私用心深くて・・・エヘヘ。」

「はぁ、まぁ良いです。少しお話が聞きたくて参りました。」

何だろう?
皆には聞かれたく無い話なのだろうか。

デイア姫は神妙な面持ちの中、静寂に満ちた部屋の中には時計の音だけが響いていた。
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