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武闘大会編

019話 自爆系娘

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-オスロウの都 コロシアム-

「第3回戦は労働組合ギルド代表フォト対、王国聖騎士団長シグの対戦です!」

召喚士サモナーとは魔獣や幻獣を使役し自らのSPを餌に召喚し戦う職業で、ゲームで使用プレイヤー人口は少なかった。

召喚獣がほぼフルオートで戦う為、戦闘に爽快感が無く不人気だった。
「フォト」と呼ばれた小柄で外ハネ黒髪の少女は白い厚手のマントに水色ローブを身に着けている。
どちらも魔法耐性に特化している装備の様だ。
労働組合ギルドでは見かけた事は無かったが、推薦を受ける位の実力が有るのだろう。

召喚士サモナーとは珍しいでござるな。」

「そうだね殆ど見た事ないマイナー職業だね。」

対するパラディンのシグは王国聖騎士団。

大層な部隊の隊長だけ有って金髪長身の西洋風イケメンで白銀の鎧、白銀の盾、白銀の片手剣と装備のコーディネイトも決まっていた。

でも、あの手の顔は軽薄で腹黒と言う印象が強いのは私の偏見だろうか?
こちらはサクラと対照的に女性客からの黄色い声援を独り占めしていた。

「なんかムカツクでござる。さっきすれ違った時にウィンクされて鳥肌が立ったでござる。」

いやいや、お前が言うな。

常時発動型特殊技能パッシブスキル【ネカマ】で男性客を虜にしているじゃないか!とツッコミを入れるか迷ったが黙っていた。

彼の中身が男性だと知った上で女性らしさを前面に出してるのを見ると鳥肌が立つんですが。
友人で無ければ絶対に許容出来なかっただろう。

むしろシグは国家公務員的ポジションで正統派イケメン色男なのでモテる分には何の問題も無い。

「今度はどちらが勝つと思う?」

「うーん、召喚士サモナーがどういう戦い方をするか・・・正攻法で行けばパラディンでござるかな。でも、フォトちゃんが可愛いから個人的には勝って欲しいでござる。」

勝ち上がった方が対戦相手の一角になる事を理解しての発言なのだろうか?
可愛いから戦えないとかにならなければ良いけどね。

「間もなく第3回戦、労働組合ギルド代表フォトとオスロウ王国聖騎士団長シグの対戦を開催いたします!」

会場にナレーターの放送と同時にシグを応援する女性の歓声が響く。

先程のサクラの戦いとは打って変わって女性の声援が多い。
フォトは初出場らしく、彼女の声援はかなり少ない様子だ。

試合開始の合図と共にフォトが短縮詠唱をして3体の幻獣を召喚する。

召喚士サモナーの召喚術は最大6体の魔獣と幻獣を召喚出来る、3体と言う事はレベル50程度と言った所だろう。

余裕なのか騎士道を重んじる性格なのか、シグは速攻を仕掛ける事は無く召喚終了を待っていた。

召喚前に斬りかかったら会場の男性からブーイングの嵐だっただろう。
流石にモテる男は違うなぁ・・・ってサクラも似たような事してたな。

「流石はシグ様!正々堂々と騎士道を重んじる姿は、この国を守護する男の中の男です!」

明らかに女性実況アナウンサーが露骨にシグ贔屓している。
しかし応援している女性陣に圧倒されてか男性陣のブーイングの声は少ない。

熱狂している女性客の邪魔をしたら刺殺されるかも知れない程の大きな声援だからなぁ・・・。

現状を見て、対戦相手のフォトに多少同情する。

召喚された幻獣は「白い大型犬」と「白い子猫」と「白い小型の鯨」がフォトの付近に姿を現す。

犬、猫、鯨って・・・何あれカワイイ!
強い弱い以前に超カワイイ!欲しい!
まるで縫いぐるみの様な見た目だが、あれは生物だ。

フォトの合図で大型犬と子猫がシグに同時に襲い掛かる。

大型犬は体長2メートルはある巨体の割にスピードが速くパワーも有りそうだ。
シグは大型犬の攻撃を巧に回避し、盾で子猫の攻撃を防いでいた。

子猫は自らの身体を擦り付け、手足にじゃれ付いている様にしか見えない。

超カワイイ!
しかし翌々見ると猫の体がオレンジ色魔力を纏って輝いている。

もしかしたらシグに何らかの能力弱体魔法デバフを掛けているのかも知れない。
一方的な試合になるかと思ったが、今の所シグの方が苦戦している様に見える。

大型犬がジグの利き手に嚙みついた瞬間、シグが腕を噛まれたままの剣を高らかに掲げると体が発光し光の柱が上空まで登り光の矢となって舞台全体に降り注いだ。

あれはプレイヤーの中でも人気の高かった【セイクルレイン】。

プレイヤーの防御数値が高い程放たれる矢の本数が増え、中距離から聖属性の連続多段攻撃でダメージを与える見た目が派手な特殊技能スキルでパーティー戦では足止めに良く使用される。

フォトは装備しているマントで自身の体と白鯨を守り耐えたが、白子猫はダメージ超過により消滅した。

大型犬も多大なダメージを負い瀕死の所を片手剣による3連撃で消滅した。
流石は聖騎士隊を束ねるパラディンだ、能力弱体魔法デバフを喰らって尚高い攻撃力が伺える。

勝負が付いたと思った瞬間、何を思ったかフォトが白鯨を小脇に抱えシグに向かって走り出した。

先程まで片手で持てる位の小型サイズだった白鯨はまるで風船を膨らましている様に徐々に大きく膨れ上がり、赤く変色していった。

「サクラ、何あれ?どんどん膨らんでいるんだけど。」

「多分爆弾でござる、フレンドのサモナーが以前使っていたのを見た事有るでござる。実装当時は特殊技能スキルの組み合わせ次第でゲーム内最強の1撃必殺技だったらしいが、余りに強すぎて下方修正された幻獣でござる。」

シグも気が付いた様で魔法障壁の上位魔法ハイスペルを詠唱したが間に合わない。

フォトがシグの間合い入る直前に極限まで膨れて赤く変色した赤鯨は眩い光を放ち大爆発を起こした。

あれでは自身にも被弾ダメージが入るはずだ。
より命中率を上げる為に至近距離で放ったんだろう。

フォトの装備は元より自分の幻獣によるダメージを最小限にする為に防御極振りカスタマイズされていたのか、大胆な娘だな。

戦闘においての「自爆系女子」と言う新しいジャンルの確立を見た様な気がした。
・・・これは歴史が動いたな。

あれでは職業的に物理・魔法防御力に恵まれたパラディンとは言え、大ダメージを受けるはずだ。

実況アナウンサーがシグを心配する様な実況を行う。
ここまで露骨だと逆に笑える。

爆発による煙が晴れ、舞台が露わになる。
舞台の爆心地には大きな窪みが出来ており、両脇にサイ●イマンの自爆を喰らったヤム●チャの様に身を屈めた2人が倒れていた。

相打ちかと思われたがシグが自身に回復魔法を使用しながら立ち上がった。

上級職のパラディンは回復魔法も得意とする、一方フォトは【セイクルレイ】のダメージを読み誤ったのかもしくはSP切れか立ち上がる事が出来ずに居る様だ。

一応生きているのか?
主審と副審がフォトの状態を確認し手を振る、そしてフォトが再起不能と判断される。

「第3回戦の勝者!シグ!」

今までで1番大きな歓声が会場を包み、第3試合はシグの勝利で幕を閉じた。
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