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武闘大会編

015話 ゲームマスター

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-オスロウ国 宿屋-

宿屋の部屋に戻ると罠を自力で解除しようとして失敗したのか、更に酷く粘着罠に引っ掛かって体中に粘着質なゲル状物質に包まれたサクラが簀巻きなった悲惨な状態で転がっていた。

「シノブ様、宜しかったら助けて頂けないでしょうか?」

様付けか!
ござる口調をする余裕すらないと見える。

少しは反省出来ただろうか?
サクラの姿を見てさっきまでの背筋が凍る不気味な体験が和らいだ様な気分。

「あだだだだ」とか反応が面白くて何枚か無理矢理剥がしてみたら、涙目になっていた。

少し面白かったが遊んでばかりもいられない。
取り敢えず粘着罠を特殊技能スキルで解除してあげた。

「うう、酷い目にあったでござる。」

「あのさ~、真面目に生きたら良いと思うよ?」

苦笑しながら話をしていた時、不意に私の顔を見てサクラの表情が曇った。
彼が急に真剣な表情になり私の顔に自身の顔を近付け言った。

「シノブ殿、何かあったでござるか?顔色が悪いでござる。」

そんな顔に出ていたのだろうか・・・

まぁ人生で初めて幽霊を見た様な気味の悪い体験をしたから自分でも戸惑っているのは確かだ。
先程遭遇した不気味な体験を会話内容は伏せて話した。

「イベントでも無さそうだし、不気味でござるな。プレイヤーかゲームマスターとか?」

「ゲームマスター?・・・運営スタッフとか、管理者って事?」

その発想は無かった。

定期メンテナンスとか、バグプログラムの修正に新イベントのアップロードにガチャの更新とか・・・

まさかこの世界はリアルタイムで何かが更新されているとか?いやそんな馬鹿な事が有る訳ない。

それじゃ、さっきの老婆は神様じゃないか。
この世界の管理者が干渉している・・・?

現実世界でも神様信仰は宗教の数だけ存在すると言っても過言では無い。

案外現実世界でもゲームマスターが居て、その干渉によって私達はこの世界に飛ばされた。

なーんて荒唐無稽な考えだが、今居るココが私達の現実である以上完全否定は出来ない。

いつもの事だが考えても無駄なのだ。
根拠が無いし確証も無い。まさに悪魔の証明。

結局色々な憶測や仮説はいくらでも出せるけど、結論なんか出る事は無い。

私達は微妙な気分になりながら晴れ間の覗いた街並みを改めて散策しに出かけた。




-アルテナ湖洞窟 地下-

翌日の早朝、懲りもせず罠に引っ掛かったサクラをシバきレッドドラゴンの居る洞窟へと赴く。
オスロウ国側の入口から洞窟に入り、再度ドラゴンと対峙していた。

レッドドラゴンは入って来た扉と逆方向を向いて静かに佇んでいる。

レッドドラゴンは此方を向かず『人の子よ何か用事でもあるのか?』と脳内音声で話しかけて来た。

戦意が無い事が分かっているのか?
しかし寝たまま対応とか、かなり横着なドラゴンだ。

「一つ聞きたい事が有るでござる。返答次第では拙者は其方を斬らねばならん。」

ああ、もうコイツは!
毎度毎度空気が読めない台詞を・・・対話させると話が拗れそうな言い方をしてくれて。

ふと、昨日会った老婆の台詞を思い出す。
「洞窟に龍がおったじゃろ。倒しておいた方が良いぞ。」
あの意味深な台詞、何故か凄く印象に残っている。

不意にレッドドラゴンが面倒臭そうな素振りで顔を此方に向ける。

片目だけ開き、黄金色の瞳で真直ぐ私の目を見てくる。
語りかけているサクラでは無く、何故か私の目を見ている。

人が話をしている時は話している人の目を見て話せと習わないかったのか。

いや、人じゃないドラゴンだから良いのか・・・いや良く無い!
礼儀は万物平等に有るべきだ。

「以前ここの長銃を持った赤髪の機械種アンドロイドと、緑髪の赤黒い服の女性の2人組が訪ねて来なかったでござるか?」

しばし沈黙の後、レッドドラゴンは私から眼を逸らさずに返答する。

何で私を睨むかな、こっちも何故だか目を逸らせないじゃないか。

しかも妙に威圧感が有るし、怖いんだよ。

『その様な者は訪れていない。この部屋に自から入る愚か者はそうそう居ない。』

そう言えば、昨日の情報収集でサクラが商人にオスロウ国とアルテナ国の行商はどうしているのか聞いていた。

何でも遠回りでは有るが約3日間掛かる山岳越えのルートが2つ存在するらしい。

アルテナ街とオスロウ国とハイメス国とギュノス国は巨大な山岳地帯によって地域を分断されており貿易や行商といった商いにはモンスターや山賊の襲来が有る為、冒険者の護衛が必須らしい。

船による海洋ルートも有るので、運輸業の経営する大手企業が1番儲けていると言う話だ。
設定上では、それを狙った海賊もいるとか何とか・・・。

「・・・・そうでござるか。分かったでござる。」

私達は愚か者だと遠回しにディスられている。

あのレッドドラゴンは大人しそうに見えて短気なのか?

でものんびり寝ている部屋に何度も土足で入って来て、喧嘩売ってくるようなヤツは私でもムカツクな。

・・・そう考えると凄く寛大だ。
ドラゴンさん本当にごめんなさい。

私はフロアを見渡し壁や床を確認する。
このフロアを見る限り大規模な戦闘の跡は見受けられない。

どうやらレッドドラゴンは嘘は言って無い様だ。
ゲームの凶暴なレイドボスのイメージが強いせいか疑っていた感は否めない。

「帰ろう、サクラ。」

「そうでござるな。何度も邪魔して申し訳なかったでござる。」

ドラゴンは「フンッ」と一つ鼻を鳴らし、猫の様に眠りに付く態勢に戻る。

私達はある意味安堵に似た感覚を覚え、オスロウ国へと帰還した。
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