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武闘大会編

014話 やがてする後悔

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-オスロウ国 宿屋-

窓ガラスに当たる雨音で目が覚める、どうやら今日は雨が降っている様だ。

ゲームとは違い、街の中でも天候変化が有る様だ。
外のフィールドに限らず天候変化が有るのは何かイベントに変化をもたらすのだろうか?

ぼーっとしながらベッドから体を起こす。
昨日仕掛けた粘着罠に引っ掛かっているサクラと言うの名の覗き魔スケベが鼾をかいて寝ていた。

コイツ段々精神が図太くなってきているんじゃないだろうか・・・

ほのかにアルコールの様な匂いがしたので酔って帰って粘着罠に掛かった後、寝てしまったのだろう。

このままうつ伏せに寝返りを打ったら窒息しそうだから仰向けの状態に直して念入りに張り付けておいた。

外へ放り出そうかと思ったが事件になりそうなので止めておいた。
ここ最近サクラのイメージがただのスケベなオッサンになりつつ有る。
多分男なんてこんなものだろう。

呆れながら買い置きの保存食を少し食べ、透明の雨具を羽織り宿屋を出る。

これの見た目って街の人からどう見えるんだろう?
雨具に長靴を履いた黒猫とか想像すると可愛い。

問題有りそうなら【縮地】を使って逃げればいいし。

今回も街を散策しながら噂や情報収集を行う。
雨が降っているので通りには人の姿は少ない。

聞き耳を立てる程度なのでロクな情報を得る事は出来ない。

裏路地に入るとスラム街の様な雰囲気の場所に出た。

華やかな街並みとは打って変わって薄暗く細い道が続き、カタギでは無さそうな連中が道の端々で安物のナイフをチラつかせていたりと一般人では絶対に寄り付かない場所なのは容易に理解出来る。

犯罪者印どくろマークが付いている人間は居なさそうなので小物ばかりだ。
恐らくこの街の衛兵はレベルが高く、良く訓練が行き届いているのだろう。

大きな都市では裏社会を纏め上げているマフィアとか居るのだろうか?
ゲームではそんな設定聞いた事ないけど・・・

暗黒神や破壊神を崇拝する狂信者的な連中は作中にもミニイベントで沢山出てきた。

この国の偽国王も裏で関与していたと討伐後の後日談で語られていた。
ストーリー考察とかスタッフの対談での裏話的な物に興味が無かったのでその辺は詳しくないや。

『おやおや、随分変装上手なが居たもんだ。』

一瞬で血の気が引くのが分かった。モンスターの出現しない街中で【索敵】を使用していなかった。

周囲への注意は怠っていなかったが見事に背後を取られた。

街中で殺人が行える状況なのを忘れていた訳じゃない。
ただ【黒猫スーツ】を着ているプレイヤーだと見破られる事は想定外だ。

NPCには私は普通の黒猫に見えるはずだ。
私は振り向けず硬直して動けない。

なに?ナニ?何?
色々想定外過ぎる。

もしかしてプレイヤーなのか!?

『そんなに警戒せんでも良い、ワシはしがない占い師じゃ。』

私は猫背になりながら恐る恐る振り向くと、薄汚いローブに身を包んだ黒髪で小柄の老婆が居た。

フード付きのローブに身を包んでいるので顔の全体像は明確には見えない。
ただ年輪の様に刻まれた無数の皺が目立つ顔は、盲目なのか瞳は閉じられていた。

彼女の片手には老木を削って作られたであろう杖を持っていた。

気配無く接近して来ただけでも十分怖い。
あの杖も仕込み杖みたく刀が隠して有るんじゃないだろうか・・・

第一印象は、占い師を装った凄腕の暗殺者アサシンと言った雰囲気だった。

なんだか分からないが洞窟でレッドドラゴンと対峙した時と似た様な感覚の威圧感に似た何かを放っている。

絶対に只者ではない。

「・・・・・にゃあ。」

『猫の真似は下手じゃな。』

鳴き声を真似て一応しらばっくれてみるが全く通用していない。
これじゃ私が馬鹿みたいじゃないか。

怪しさ満点の老婆だ。
NPCには確実に猫に見えているはずだ。
今まで1度もバレた事は無い・・・

いや、良く考えよう。

もしかして変な全身タイツを着た小娘に見えていて気の毒に思った街の人々が気を使って見て見ぬ振りをしていたとか?

それって超黒歴史レベルなんですけど・・・。

私が猫の姿に見えて無いって事は、もしかしてプレイヤーなのか?どの道危険な事には変わり無い。

『今日は顔を拝みに来ただけじゃ。事故の事は気にするな、いずれその印も消えるじゃろ。』

事故?何の事だ?
消えるって。

印って、この犯罪者印どくろマークの事だろうか。
すべて見透かされている様な嫌な感じがする。

【占い師】と言う職業はこのゲームには存在し無い。

魔法職といえば下位職の【スペルユーザー】、【ウォーロック】、【ウィザード】。
魔法攻撃特化の上級職【ソーサラー】、【アークウィザード】。

補助系との複合上位職【アークビショップ】や【ルーンマスター】等も有る。
限られた条件でなれる最上位職【スペルマスター】と言うレア職業も存在する。

外見からはどれにも見えないが、不気味な強者感を感じる。

『この子がのう・・・気の毒な事じゃ。そう言えば、洞窟に龍がおったじゃろ。倒しておいた方が良いぞ。』

自称占い師の老婆は唐突に妙な事を言いだす。
昨日出会った洞窟のドラゴンの事だろうか?

「はぁ・・・あの~、一体何が有るんですか?」

『苦か楽か、それだけじゃ。』

主語が無いので意味が分からない。

占い師や予言者はどうとでも取れる様な曖昧な言い回しで「当てはまってる」と思わせる・・・えっと「バーナム効果」だっけ?

あの手口じゃないだろうか。
やはり怪しい老婆だ。

『シノブ、後ろを見てみ。』

老婆に言われるがままに後ろを振り向く。

そこには特に何も無く、シトシトと小雨が降る薄暗い細道が在るだけだった。

誰か居るのか?何かが有るのか?
上下左右を確認し、【索敵】も使用して周囲を探るが何も発見出来ない。

改めて老婆に振り返ると、まるで最初から何も居なかったかの様に忽然と姿を消えていた。

ええ!あれ!?

あまりにも唐突な事態に頭が追い付かない。

白昼夢?
いや、老婆は確かにそこに居て私の今までの行動を見抜き、そして洞窟に居るドラゴンを倒せと発言していた。

新手の霊現象だろうか?霊感とか無いはずなんだけどゲームで言う「バグ」の様な物だろうか。
いつの間にか雨が上がり雲の合間から朝日が射してきた。

只々不気味な気持ちになり、情報収集と言う名の雨散歩を早々に切り上げ宿屋に戻る事にした。
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