上 下
21 / 31

第20話 光の賢者

しおりを挟む
 わからんってどういうことだ?
 師匠の話を聞く限りでは、そうすることで大賢者の石を復活させることができるように感じる。

「わからないってどういうことだよ、師匠」

 俺に聞かれ、少し間を置いて師匠が答える。

「………それはまだ一度も7つに分かれてから全ての賢者の石が集まったことがないからじゃ。
 じゃから本当に集まったら大賢者の石に戻るのか、それとももう戻ることはないのか、真実がわからないのじゃ」

 一度も全ての石が集まったことがないと言う師匠の言葉に引っかかり、聞いてみる。

「全てのってことは何個かは集まったことがあったのか?」

「そうじゃな………。
 大賢者が7つの賢者の石を弟子達に託してしばらく経ったある時、悪き心を待ち、力に溺れた闇の賢者が全ての賢者の石を我が物にしようと考えた。
 その結果、風、土、雷の賢者の石が奪われたのじゃ」

 合計で4つの賢者の石が1人の手に渡ってしまったことがあるということか。

「それでどうなったんだ?」

 先ほどの話の通りなら例え賢者の石を奪っても、賢者の意志に認められなければ力は得られないはずだ。

「闇の賢者は闇の力によって、奪った賢者の石の力を取り込み、それはもう恐ろしい力を手にしたのじゃ」

「闇の力………」

「その力に対抗し得る力を持っていたのは、大賢者ヴィクトリアス・ノーランドと光の賢者だけじゃった」

「どうしてその2人だけが?」

「闇の賢者が扱う闇の力には、光の賢者の光の力が有効なんじゃ。逆もまた然りじゃがな」

 つまり光には闇が、闇には光が有効であり、互いが互いの弱点であるらしい。

「光の賢者については分かったけど、どうして大賢者も対抗できたんだよ。
 大賢者といえど、その頃はもう大賢者の石は持っていないんだろ?」

「それは………大賢者がジークと同じスキル『魔力回復魔法』を持っていたからじゃ」

「え………!?大賢者が俺と同じスキルを………?」

 なんと大賢者は、俺と同じく『魔力回復魔法』を持っていたらしい。
 そう言われてもなんだか実感が湧かない。
 
「儂がジークのスキルを聞いた時は耳を疑った。
 なにせ儂の師匠と同じスキルを持っていたんじゃからのう。今や、そのジークは儂の弟子じゃ。
 ………これは運命なのかもしれんのう」

「運命………」

 師匠に言われ、俺は考える。
 大賢者と同じ『魔力回復魔法』を持っていること。
 火の賢者である師匠の弟子になったこと。
 確かにこれらの事は偶然という言葉だけで片付けることはできないのかもしれない。

「………それでその後はどうなったんだ?」

「他の賢者の石を狙う闇の賢者に対して、大賢者、光の賢者、火の賢者、水の賢者の4人で立ち向かったのじゃ。
 その結果、大賢者と光の賢者の犠牲を出したが、どうにか闇の賢者を倒すことができたんじゃ」

「犠牲が出たのか………」

 それだけの戦力で挑んでも、大賢者と光の賢者の犠牲が出てしまったと聞き、驚く。
 力を取り込んだ闇の賢者とは、一体どれほどの力を持っていたのだろうか。

「風、土、雷の賢者の石を解放し、元の持ち主の元へ戻すことができた儂らは話し合った結果、光と闇の賢者石を封印することにしたのじゃ」

「どうしてその2つを?」

「正直言って光と闇の賢者の石の力だけ突出しておった。
 じゃからその力を再び悪用されないようにするための封印という決断じゃった」

「じゃあ今もその2つは封印しているのか?」

「その筈じゃ」

 それならやはりあの襲撃者達が何の目的で賢者の石を狙っているのかがわからない。
 力を求めているのだとしても、賢者の意志に選ばれなくちゃ意味がないだろうし。

「じゃあ、なおさら襲撃者達はどうして賢者の石を欲しがっているんだろうな。
 さっきの話の感じじゃ、大賢者の石のことも光と闇の賢者の石が封印されていることも知らないはずだろう?」

 全ての石を集めても大賢者の石になる保証もないし、そもそも光と闇の賢者の石は封印されているのだから、全ての石が集まるとは思えない。

「そうはそうなんじゃがな………」

 そう言って師匠は、なんだか煮え切らない返事をした。
 シルの意見も聞こうと思い、さっきから何かを考えているのかずっと黙っていた彼女に話しかける。

「シルはどう思う?」

「………」

 話しかけても今だに考え事に夢中になっているのか気付かない。

「シル?」

「………え?わ!ジ、ジークどうしたの?」

 顔を近づけてもう一度呼ぶと、急に俺の顔が目の前にあったからかシルが驚き、こちらに気付く。

「どうしたって、呼びかけても返事がないから」

「ご、ごめん!ちょっと考え事してた!」

「それは良いんだけど、何を考えてたんだ?」

 やはり何かについて考えていたらしいシルにその内容について聞くと、少し考えてから彼女は師匠に質問をする。

「それは………。ねぇ、おじいちゃん」

「ん?なんじゃ?」

「光の賢者の石を封印してるって事は、光の賢者様は今はいないんだよね?」

「そういうことになるのう」

 シルはなにやら意味深なことを師匠に確認する。
 話を聞いた限りでは、闇の賢者、光の賢者どちらも今は存在していないはずだ。

「………じゃあこれって何かわかる………?」

 そう言ってシルは、ポケットの中から透明感のある白みがかった石を出した。
 大きさは先ほど師匠が見せた火の賢者の石と同じくらいだった。

「それってまさか………!?」

「なっ!?なんじゃと!?何故シルヴィちゃんがそれを持っておる!?」

 俺も驚いたが、いつも余裕のある師匠が大きく目を見開き、声を荒げて驚いていた。
 こんな師匠は、ここに来てから初めて見る。

「………やっぱり。そうなんだね」

「あ、ああ………。そうじゃ。
 それはまぎれもなく光の賢者の意志【ティアナ】じゃ。
 じゃが、一体どこでそれを手に入れたんじゃ?」

「それは………」

 師匠にどうして光の賢者の石を持っているのかと聞かれたシルは、それを手にした時のことを話した。

 子供の頃、魔物に襲われた俺とシルを助けてくれたのがこの石だった事。
 謎の声に言われるがまま契約して瀕死になった俺の傷を癒し、命を救ってくれた事。

 確かにあの時何故俺は助かったのかと不思議に思っていたけど、そういうことだったのか………。

「なんと………。ではもう【ティアナ】の声まで聞いたという事か………」

「ちゃんと覚えてるわけじゃないけど、多分あの声はそうだったんだと思う」

「ということは正式にシルヴィちゃんは【ティアナ】に選ばれた光の賢者ということじゃ」

「私が光の賢者………」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★ 男性向けHOTランキングトップ10入り感謝! 王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。 だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。 周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。 そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。 しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。 そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。 しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。 あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。 自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

創造眼〜異世界転移で神の目を授かり無双する。勇者は神眼、魔王は魔眼だと?強くなる為に努力は必須のようだ〜

ファンタジー
【HOTランキング入り!】【ファンタジーランキング入り!】 【次世代ファンタジーカップ参加】応援よろしくお願いします。 異世界転移し創造神様から【創造眼】の力を授かる主人公あさひ! そして、あさひの精神世界には女神のような謎の美女ユヅキが現れる! 転移した先には絶世の美女ステラ! ステラとの共同生活が始まり、ステラに惹かれながらも、強くなる為に努力するあさひ! 勇者は神眼、魔王は魔眼を持っているだと? いずれあさひが無双するお話です。 二章後半からちょっとエッチな展開が増えます。 あさひはこれから少しずつ強くなっていきます!お楽しみください。 ざまぁはかなり後半になります。 小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しています。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...