上 下
15 / 22

14.お祭り

しおりを挟む
今日はクロスロードの町の様子がいつもよりにぎやかである。
どうやらお祭りが開催されているらしい。

「何か珍しい物でもあるのかな?せっかくお金が入った事だし、少し見に行ってみるか?」

先日、グリフォンを討伐した俺達は、報奨金として20万デルタを手にしていた。

あの時、キュウがグリフォンを跡形も残らないように消してしまったので、最初ギルドに依頼達成の報告をしに行った時は一悶着あり、「本当にグリフォンを討伐したのか?」と、ものすごい疑いの目を向けられてしまったのだが、俺が箒(ほうき)にでもしようとグリフォンのちぎった片翼を持って帰ってきていたので、それを証拠として差し出してみたところ、無事に討伐が認められたのである。

で、報奨金を貰い、懐がほくほくとなったので、お祭りに行ってみるかと提案してみたのだが、

「そうねー。でも、あたしはあんまりお祭りとかに興味はないわね。けど、トオルがどうしてもって言うならついて行ってあげなくはないけど・・・」

とリリスがこっちを向いて答えてきた。

「へぇ、そっか。じゃあ俺だけでも見てこようかな」

「えっ、ちょっと!?ラナは?ラナはどうなの?もちろんお祭りに行きたいわよね?」

「粉もん・・・食べ、たい」

「ラナにそこまでお願いされると仕方ないわね!あたしも付き合ってあげるわ!」

まるでコントのように、言葉とは裏腹にすでに外出の準備をうきうきで済ませていたリリスが先頭に立って、俺達は宿舎を出ていった。

町の通りには、すでに出店が並んでいた。食べ物や飲み物が売られていたり、簡単なゲームができる所があったり、このお祭りの雰囲気がどことなく懐かしいなんて思って歩いていると、ひときわ賑わっている所があったので、俺達はそこに寄ってみることにした。

「お集まりいただきありがとうございます!さぁさぁ、これから試し切りの時間だよ!」

そう言って店主は、大きめの丸い石を地面に置いた。そして、腰に下げた刀を抜きその刀の刃を置いた石の頂点にあてがうと、そのまま下に、すとんとおろした。丸い石はパカッと半分になった。

「「「おぉぉ!すごい切れ味だ!」」」

「まだまだ驚くのは早い!すごいのはここからだよ!」

その半分に割れた石を左右の手に持って、断面をくっつける。
ぴたっと元の丸い形にすると、最前列の見物人にそれを渡して確かめてもらっている。渡された者は、さっき斬れたように石を半分に離そうとするがどうやら離れないようだ。

「えっなんだこれ!?まるで最初から切られていなかったみたいじゃないか・・・」

「「「おぉぉ!!すげぇーーー!!」」」

まわりから歓声がわきおこった。

「今日の目玉はこの刀!!この現品限りの販売だよ!今を逃すと買えないよ!」

「おい、リリス、ラナ。あれ、すごくないか?」

「すごいわ!」

「すっ・・・ごい」

刀の値段は10万デルタ。
貰った報奨金が20万デルタ。
今月の生活費を差し引いても手の届く範囲ではある。

「おっ、兄ちゃん達。よく来てくれたね!あれっ?兄ちゃんよくみると男前だねぇ!それに美少女を2人も連れ歩いて、このこの、にくいお方だねぇ。だけど兄ちゃんなら他の女性も絶対ほっとかないね!どうだい?今買わないと後悔しちゃうよ?」

俺はあまり褒められ慣れていなかった。

「よし、買・・・」

「トオル!何乗せられてるのよ!本当にあんたってちょろい男ね!それに、もし買うにしても値段交渉とかしなさいよ!」

耳元でリリスが怒った小声で注意してきた。

「おぉっと、お姉ちゃん達はその知的な顔立ち、上品な立ち振る舞い。もしかして王宮貴族のお嬢様姉妹かい?お忍びでやってくるなんて、おじさんまいったなこりゃ!」

「あら、やっぱりそう見えるのかしら?・・・買ったわ!!」

「・・・買う・・・しか・・・!」

「よし!これも運命だ!この刀を売るのは兄ちゃん達に決めた!」

俺達は10万デルタを支払ってその刀を受け取った。

「な!やっぱり見に来て良かっただろ!?」

「えぇ!良い買い物をしたわ!」

「良き・・・良き!」

買い物した後は、いつでも満足感が高いものである。だが、しばらくすると冷静になってきた。あれ?ちょっと待て。切れ味は確かにすごいかもしれないが、切って元に戻る刀に一体何の意味があるんだ?

観衆の熱気に思考回路を焼かれていた俺達は有り金の半分を使って、この刀をゲットしていた。モンスターを斬って戻して斬って戻して、レアモンスターの無限討伐でも可能なら使い途はあるのだろうが。

「そういやラナって刀は使えるのか?」

「クナイ・・・だけ」

「そうか。前にクナイの奥義を出してたもんな・・・あれ自分で練習したの?」

「師匠に・・・習った!」

「へぇ」

さすがに、「あれで師匠に習ったのかよ!ww」と言える程、まだラナとの心の距離は近づいてはいなかった。

そして通行人とすれ違い様に会話が聞こえてきた。

「あっちでまた、金持ちのノワールが悪趣味で無理難題を出してるみたいだぜ?成功したやつに褒美をやるとか言ってるみたいだけど。もう毎度の事だが、一応見に行ってみるか?」

「あぁ。でも今回は一体何だろうな?あいつ無茶ばかり言いやがるからな。どうせ俺達庶民を見下して楽しんでんだろうよ」

ノワールという者は、噂で聞いたことがある。この町にも裏で悪い事をやって私腹を肥やした金持ちがいると。その裏金で買った屋敷は手足の指の数以上だとか。

その者が向こうで何かやっているのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~

夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。 「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。 だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。 時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。 そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。 全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。 *小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

ジミー凌我
ファンタジー
 日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。  仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。  そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。  そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。  忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。  生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。  ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。 この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。 冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。 なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...