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第二十三章
そして朝
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あふっ
「ああ、だから少しづつと」
一口でけほけほ咳き込むナディに騎士様が手を差し出す。いや、ちょっとしか飲んでいない。なのに何よ? このきつさ?
「‘火酒’ですよ」
「ひぃ?」
「普通の酒を火で濃くした酒です」
え~~ととナディはこめかみに指をあてる。知っている。読んだ事がある。
「お酒を火で焼いてその湯気を冷やして造るんですよね」
「さすがお見事。その通り」
騎士様がぱちぱちと拍手した。
「本当にナディ殿は博識です」
「いえいえ」
でも見るのは初めてであった。ベルガエでは一般的ではない。北方や南方では飲まれるらしいが、錬金術で扱うとかの怪しい情報もある。
「それはワインを焼いたものです。気付けや怪我の治療用に旅には持参しておりまして」
薬用と言う事である。へえとナディはもう一度瓶に口をつける。こくん。うん、口から喉まで焼ける感じ。
「美味しいですね」
「……さすがナディ殿」
騎士様の声が呆れている様に聞こえるのはナディの気のせいだろう。
「一気には飲めませんが、一口づつでしたらいけます」
「いや、ほんの気付けですから。食前の珍味ですから」
あまり大量に飲んで欲しくなさそうなカーリャは穏便に瓶を取り上げようとしたが、ナディは気に入って離さない。火がつく程の酒精で驚かすつもりだったらしい騎士様としては悪戯に逆襲された気分です。
「ま、まあ。食事にしましょう」
二人は夕食を再開した。鴨の炙り焼きと野菜と肉の煮込みはどちらも美味しかった。味付けは塩と脂くらいの素朴な味だったが、一日旅をした身体には心地好い。ナディはぱくぱく食べる。
「カーリャ様はお料理もお上手ですね」
「長年、鍛えられておりますから」
そんな賛辞よりナディの飲酒が気になる騎士様である。火酒の瓶をしっかり握って離さない。
「カーリャ様も如何ですか?」
「いや、わたしは強いのはちょっと」
酒そのものが苦手らしいのはナディも知っている。
「ええ~~。わたしだけじゃ寂しいですぅ」
知っていて騎士様に瓶を差し出す。もう酔ったのかも知れない。
「ナディ殿でどうぞお楽しみを――あ、いやあんまり飲み過ぎは如何かと」
「一緒に飲んでくれないと嫌ですぅ」
酔っていた。ついには騎士様の口に瓶を押し付ける。仕方なく騎士様は飲まされる羽目になってしまう。
「ごちそうさま」
手料理を平らげ二人ともお腹いっぱいになった。串焼きもなくなり、鍋も空である。やれやれと騎士様が後片付けをする。そこの泉の水で食器を洗うのだ。気になるのは火酒の瓶が半分くらい空になっている事だろう。
「カーリャ様。早く早くぅ」
全部騎士様にさせておいてナディはいい気分に酔っ払っていた。炉の炎を前にふわふわと半分夢見心地だ。ああ、お酒って素敵。
「まだですかあ」
それでも騎士様が戻ってくるまで飲むのを控えていたのは殊勝だったかも知れない。代わりに被害にあっていたのがラージャで食後は天幕にもぐり込もうとする処を触りたいナディが捕まえようとする妨害を受けていた。
「ご機嫌ですね」
食器を洗い終え、荷に戻したり何やりの作業を全て終えてから騎士様が戻ってきた。もう完全に日が暮れた夜に浮かぶ顔が赤みを帯びて見えるのも炉の炎を受けているからだけではあるまい。
「お待ちしてました。カーリャ様ぁ」
炉の前に胡座をかいた騎士様の隣にナディはすりよった。身体をほぼつける。その大胆さに騎士様は驚いた様に背筋を立てるが、もちろんナディは酔っている。
「お料理美味しゅうございました。ありがとうございました」
「いえいえ」
「お礼にお飲み下さいませ。さあさあ」
いや、それわたしの酒――とも言えずに騎士様は口に押し付けられた瓶に唇を開く。そこに注ぎ込む様にナディは瓶を傾けた。カーリャの目が忙しく白黒に反転する。
「わあい。カーリャ様が飲んだぁ」
「いや、これ、おぐ……」
まさに火の酒に喉から胃まで焼かれて騎士様が呻いた。吐き出さないだけ立派だ。
「せ、節度を持って……ナディ殿」
でもさすがにこのままはまずいと思ったのか、ナディを抑えようとした。腕を掴まれそうになってナディはきゃあきゃあと騒ぐ。喜ばせてどうするのだ。酔っ払いなんだから。
「あ、そう言えば花梨の蜜漬けはいかがですか?」
「ええ? それも欲しい。食べたい」
「はい。ですからナディ殿。その瓶を」
「お酒にきっと合う~~」
「……」
食べ物で誤魔化そうとしたがナディを喜ばせるだけになった。結局、大事に仕舞っていたはずの蜜漬けや干し肉で焚き火を前の酒宴になる。見上げれば星の綺麗な夜空だった。
「ああ、美味しい」
火酒とワインの水割りを交互に飲む。酒精で熱く灼けた喉から胃に冷えた薄めのワインがちょうどいい。
「さあ、カーリャ様も」
「いただいています。いただいています」
騎士様は角杯を握り、極力、ワインの水割りですまそうとするが、ナディは許さない。自分が火酒の瓶を二口飲んだ辺りで騎士様の口に瓶を押し込もうとする。楽しい。
「ああ、カーリャ様と旅に出て良かったですわあ」
「……それはどうも」
それでも酔っ払いに付き合ってあげる騎士様はとても優しい。
「そう言えばカーリャ様」
酔った挙げ句にナディが言い出した。
「聞いていませんでしたが、アルトバインへの御用はなんですの?」
なんだったけ。聞いたような気もするけど。ナディは自分が行ける事に気を取られてあまり気が回らなかったのだ。まあ、騎士様だからおそらくは。
「やっぱり騎馬試合の大会とか?」
「何時の時代のお話ですか」
騎士様が呆れる。ナディが言っているのは騎士同士による馬上での槍試合の事である。
一般的なのは互いに板金鎧を着込み、騎乗した騎士が決められた直線を駆け交差しざまに突き合い、叩き落とし合う。騎士譚や叙事詩、騎士物語では花形の競技だ。
「いや、今でもありますけど、ほとんど儀礼か戦闘狂の懐古的道楽ですよ」
騎士様の言う通りである。かって騎士が戦場の主役であった華やかな時代の代表的娯楽だった。武器や戦術が異なり、騎士の槍突撃が最強とも言えなくなった昨今の流行りではない。
「王都では毎年やっていますよ?」
ナディはきょとんと言う。王宮の広場で年に数回行われる大会を子供の頃からよく覗いていた。
「さすが王宮の貴族の方々は伝統と浪漫を大事になさりますね」
騎士様が苦笑している。珍しい事だが小馬鹿にしている様にも聞こえた。
「戦場ではああいう単独での槍突撃はまずありませんから私は練習もしていません」
そう言う騎士様の背はナディよりわずかに低いし、身体も逞しいとは言えない。そうそう男のふりをしている女性だったとナディも思い出す。顔も見えない重そうな板金鎧着たり、盾を持って槍を振り回すなどは確かに似合わないわ、とも。
「じゃあ何故アルトバインに?」
「道を見たかったんです」
あっさり騎士様は言った。
「王都からアルトバイン迄の街道の状況ですね。距離ももちろんですが、広さとか土木とか利用具合とか、今後の開発の有無とか可能性まで含めて」
ここまでずっと礼儀正しく喋っていたのに、急に饒舌になった。ひょっとして騎士様も酔ったのかも知れない。
「街道ですかあ?」
「ええ。つまり流通です。はっきり言えば我が領地は東のブレイブの近郊ですが、半分は丘陵地と森林でこれ以上、畑を広げにくいのです。代わりに羊を飼うには適していて、羊毛が増産出きるのですが、近くにそれを新たに売れる程の大きな街がなくて持て余しているのです。王都まで行けば市場もあるし、旅でも十日もかからないのですが、如何せん海道が悪く、馬車が使いにくい。馬の背に乗せるのは送る重量が半分以下になりますし。ですから王都の様な大きな都市やアルトバインの様に商業の盛んな都市との間に何とか輸送できる方法がないかと模索の為にあちこち旅をしているのでして」
「……」
驚いた。こんなに喋る人だったのか。それも子供のように夢中になって。ナディは酒精に染まった顔でああと口を開けてしまった。
「ですからナディ殿とのご同行は願ったりでして。さすがは王国に名高き『図書館の魔女』。その博識とそこから紡ぎだされる見解は驚愕の至りでした」
そのナディの渾名をここまで熱っぽく語ってくれる人は初めてではないかと思った。悪い気はしない。むしろ自分の知識にここまで敬意を払って喜んでくれる事にこの旅で何度目かの興奮を覚えたし、この人の為になれたのならそれもとても嬉しい。
「まさか古代アズリアからの知識からお教えいただけるとは。田舎者には勿体無いご高説。あれほど知識に高ぶった記憶はございません」
手放しの誉めようである。ナディはえへへとでれでれになる。嬉しい。こんなに認めてくれて嬉しい。最初は縁談とかでびっくりしたが、そうか知識を求めていたのか。ならばいい。結婚なんか真っ平だが、そう言う関係ならいい。アルトバインの彼女の様に親友になれそうだった。
「じゃあ、最初からわたしから学ぶのが目的で?」
そう言ったナディに悪意はない。そこは唯一世界に誇れる事だし、知識を披露する事もそれで思考する事も大好きだ。
「は……はあ、まあそうもなりますが」
騎士様の声が少し小さくなる。ナディの言った理由だけではないのかも知れない。
「嬉しいです。ずっとお友達でいて下さい。カーリャ様」
だが十分に酔っているナディは相手の顔色も思考も気づかなかった。出てきた台詞だって稀有な同性の友人に対してのものだった。
「はあ……」
ナディににこにこそう言われて騎士様は困っている。酔いが少し醒めたのかも知れない。この話題に困った様でもあった。
「な、ナディ殿はアルトバインへ何の御用で?」
だから話題を変えたのかも知れない。世間知らずのナディはそれになんの遠慮もなく答えてしまった。
「会いたい人がいるんです」
言ってからナディはきゃあと声をあげた。亡母と叔母以外の他人に言うのは初めてだ。その分、どきどきが止まらない。
「人……?」
騎士様は意表をつかれて口を小さく開けてしまった。
「ええ、同じ司書を目指している方です」
焚き火に照らされた騎士様の表情の意味にナディは気づいていない。
「一度だけ王立図書館でお会いして、そこで意気投合して。ずっと文通していました」
大変だったのだ。相手はその一度だけでアルトバインから出ては来れない。貴族の娘であるナディも勝手に旅をする自由はない。互いに文通だけは続けたが、ただの手紙でも託して送ってもらうには銀貨数枚はかかる。
こっそり相談した母がその代金を負担してくれたが、亡き後は困った。その後に嫁にきた叔母にひょんな事からばれて、何故か黙って協力してくれたからこそまだその友人とつながっていられたのだった。
「会う事はもうないと諦めておりましたが、カーリャ様によって夢がかないました」
本当なら言ってはならぬ事である。亡き母には、また叔母からもそうきつく言われている。貴族の娘としての体面だろう。だから亡き父にも、今の当主の叔父にも喋っていない。
「ありがとうございます。この御恩は決して忘れません」
だが騎士様には、この生真面目な姫騎士様にはいいと思ったのだ。この喜びを伝えていいと。心からの感謝を伝えてもいいと。
いくらナディでも、旅と酒精にここまで気持ちよく酔っていなければ、ここまで心も口も開放的にはならなかったのかも知れない。
「そう言う事でしたか……ナディ殿にそんな想い人が」
ああ、と漏れる様な声で騎士様の口が動いている。
「ではわたしはそもそもたいそう無礼で失礼な申し出をしたのですね」
「アルトバインへ連れてっていただけるとわかった時には本当に夢のようでした」
「ならばああおっしゃられたのも至極当然……」
「二度と会えないと思っていましたのに。全てカーリャ様のお陰です」
微妙に会話がずれている。二人とも気づいてはいない。
「ああ、本当にいい気持ち」
片方は夢と酒に酔っていた。もう片方は醒めて顔に陰が浮かんでいる。
「そう言う事であるのなら、不詳、カーリャ・リィフェルト。騎士の名誉にかけてもナディ殿を、そのアルトバインの想い人の所へ安全にお連れします」
だからその真面目な宣言も聞かされた方にはわかっていない。幸せな気分で笑っている。
月は出ていない。が、降るような満点の星空の下で二人だけの宴は続いたのだった。
「あ……」
翌朝、ナディは敷いた布の上で目覚めた。光が差し込んでいるのが見える。
「朝……」
朝だ。夜が明けてまだ幾ばくもたっていないだろう。身を起こす。天幕の中だ。昨日はここで寝たのか。覚えていない。
天幕の口の布を押し広げる。晩夏の早朝の涼しげな空気を頬に感じた。心地は良い。だが――
「あ、痛っ……」
頭痛を感じた。風邪? いや、違う。昨日のお酒だ。飲み過ぎたか。
「ああ……」
詳細は覚えていない。だが用意された革水筒と瓶は飲み干されている。誰がより多くかは言うまでもない。
「カーリャ……様?」
ナディは天幕の中と外を見てそう呟いた。いない。そこに揃えてあった乗馬靴を履いて外に出る。
「カーリャ様あ」
そのまま連れを探した。頭が痛むし、胸もちょっと不快なので大きな声は出ない。きょろきょろと周囲を見回す。昨日の焚き火は消されていた。すぐ近くに馬はつながれている。ナディは気づかなかったが、馬の側に二人の旅の荷物はすでに一通りまとめられていた。
「どちらかへ行かれたのかしら」
いないと不安になるものである。便利で優しい有難い連れとなれば尚更だ。しかしどこなのか見当もつかなかった。
「あぅ」
それに喉も渇いた。近くに飲み物は見当たらない。困った。やはり騎士様にお願いしないと。でもおられないし
「まあ」
とりあえず泉が近くにある。水も綺麗だった。お行儀は悪いけど、手でも掬って飲もう。いいよね。モルガンもいないんだし。
と言う訳でナディは池に歩いていった。すぐだ。こっちの岸は浅く、水も澄んでいた。生だけど喉を潤すくらいならいいだろう。そのまましゃがみ、両掌を水に入れる。
その時だった。
「あ……」
音がした。水音だ。緩い、何か水面で動いている様な音。
「カーリャ様?」
左手のちょうど日が登りかけている方向だ。ナディは飲むのを止め、そちらへ動く。あ、でも水鳥とかかも知れないとも思う。じゃあ驚かさない様にそっと。ゆっくり静かに。
「……」
音は続いている。その間に茂みがあり、ナディはそれにもぐり込む形になる。枝と繁った葉の間から覗き見た。
「カぁ……」
騎士様だった。泉の中にいた。背中を向けているが、その身体付きは間違いない。腿の辺りまで浸かっている。服は見えなかった。
「あ……」
早朝の日差しが水面に反射し、キラキラと輝いている。その中に騎士様の半裸があった。
「……」
いや、服は本当に着ていない。全裸だ。水浴びだろうか。動く。背中から横まで――ナディは声も出ない。
綺麗だった。王宮に飾られた彫刻や絵画を連想させる。その天使や妖精がそこにいるかの様だった。古代アズリア美術と比べれば華奢かも知れない。だが背中も腕も脚にもしなやかな筋肉がつき、肌は白磁よりも滑らかに清らかに見えた。
水の音が続く。
その一篇の芸術品は水を浴びている。手が煌めく水面を掬い、水が流れとなって身体を洗う。飛び散る水滴までもが日差しを反し、きらきらと宝石のようだった。
そして身体が動く。陸に戻ろうとするのだろうか。あの綺麗な顔と胸がナディの潜んでいる方を向いた。
「……」
胸が見えた。ここもしなやかな筋肉の線。ふくらみはない。ナディは思わず全てを見る。
「あ……」
男の人でした。
「ああ、だから少しづつと」
一口でけほけほ咳き込むナディに騎士様が手を差し出す。いや、ちょっとしか飲んでいない。なのに何よ? このきつさ?
「‘火酒’ですよ」
「ひぃ?」
「普通の酒を火で濃くした酒です」
え~~ととナディはこめかみに指をあてる。知っている。読んだ事がある。
「お酒を火で焼いてその湯気を冷やして造るんですよね」
「さすがお見事。その通り」
騎士様がぱちぱちと拍手した。
「本当にナディ殿は博識です」
「いえいえ」
でも見るのは初めてであった。ベルガエでは一般的ではない。北方や南方では飲まれるらしいが、錬金術で扱うとかの怪しい情報もある。
「それはワインを焼いたものです。気付けや怪我の治療用に旅には持参しておりまして」
薬用と言う事である。へえとナディはもう一度瓶に口をつける。こくん。うん、口から喉まで焼ける感じ。
「美味しいですね」
「……さすがナディ殿」
騎士様の声が呆れている様に聞こえるのはナディの気のせいだろう。
「一気には飲めませんが、一口づつでしたらいけます」
「いや、ほんの気付けですから。食前の珍味ですから」
あまり大量に飲んで欲しくなさそうなカーリャは穏便に瓶を取り上げようとしたが、ナディは気に入って離さない。火がつく程の酒精で驚かすつもりだったらしい騎士様としては悪戯に逆襲された気分です。
「ま、まあ。食事にしましょう」
二人は夕食を再開した。鴨の炙り焼きと野菜と肉の煮込みはどちらも美味しかった。味付けは塩と脂くらいの素朴な味だったが、一日旅をした身体には心地好い。ナディはぱくぱく食べる。
「カーリャ様はお料理もお上手ですね」
「長年、鍛えられておりますから」
そんな賛辞よりナディの飲酒が気になる騎士様である。火酒の瓶をしっかり握って離さない。
「カーリャ様も如何ですか?」
「いや、わたしは強いのはちょっと」
酒そのものが苦手らしいのはナディも知っている。
「ええ~~。わたしだけじゃ寂しいですぅ」
知っていて騎士様に瓶を差し出す。もう酔ったのかも知れない。
「ナディ殿でどうぞお楽しみを――あ、いやあんまり飲み過ぎは如何かと」
「一緒に飲んでくれないと嫌ですぅ」
酔っていた。ついには騎士様の口に瓶を押し付ける。仕方なく騎士様は飲まされる羽目になってしまう。
「ごちそうさま」
手料理を平らげ二人ともお腹いっぱいになった。串焼きもなくなり、鍋も空である。やれやれと騎士様が後片付けをする。そこの泉の水で食器を洗うのだ。気になるのは火酒の瓶が半分くらい空になっている事だろう。
「カーリャ様。早く早くぅ」
全部騎士様にさせておいてナディはいい気分に酔っ払っていた。炉の炎を前にふわふわと半分夢見心地だ。ああ、お酒って素敵。
「まだですかあ」
それでも騎士様が戻ってくるまで飲むのを控えていたのは殊勝だったかも知れない。代わりに被害にあっていたのがラージャで食後は天幕にもぐり込もうとする処を触りたいナディが捕まえようとする妨害を受けていた。
「ご機嫌ですね」
食器を洗い終え、荷に戻したり何やりの作業を全て終えてから騎士様が戻ってきた。もう完全に日が暮れた夜に浮かぶ顔が赤みを帯びて見えるのも炉の炎を受けているからだけではあるまい。
「お待ちしてました。カーリャ様ぁ」
炉の前に胡座をかいた騎士様の隣にナディはすりよった。身体をほぼつける。その大胆さに騎士様は驚いた様に背筋を立てるが、もちろんナディは酔っている。
「お料理美味しゅうございました。ありがとうございました」
「いえいえ」
「お礼にお飲み下さいませ。さあさあ」
いや、それわたしの酒――とも言えずに騎士様は口に押し付けられた瓶に唇を開く。そこに注ぎ込む様にナディは瓶を傾けた。カーリャの目が忙しく白黒に反転する。
「わあい。カーリャ様が飲んだぁ」
「いや、これ、おぐ……」
まさに火の酒に喉から胃まで焼かれて騎士様が呻いた。吐き出さないだけ立派だ。
「せ、節度を持って……ナディ殿」
でもさすがにこのままはまずいと思ったのか、ナディを抑えようとした。腕を掴まれそうになってナディはきゃあきゃあと騒ぐ。喜ばせてどうするのだ。酔っ払いなんだから。
「あ、そう言えば花梨の蜜漬けはいかがですか?」
「ええ? それも欲しい。食べたい」
「はい。ですからナディ殿。その瓶を」
「お酒にきっと合う~~」
「……」
食べ物で誤魔化そうとしたがナディを喜ばせるだけになった。結局、大事に仕舞っていたはずの蜜漬けや干し肉で焚き火を前の酒宴になる。見上げれば星の綺麗な夜空だった。
「ああ、美味しい」
火酒とワインの水割りを交互に飲む。酒精で熱く灼けた喉から胃に冷えた薄めのワインがちょうどいい。
「さあ、カーリャ様も」
「いただいています。いただいています」
騎士様は角杯を握り、極力、ワインの水割りですまそうとするが、ナディは許さない。自分が火酒の瓶を二口飲んだ辺りで騎士様の口に瓶を押し込もうとする。楽しい。
「ああ、カーリャ様と旅に出て良かったですわあ」
「……それはどうも」
それでも酔っ払いに付き合ってあげる騎士様はとても優しい。
「そう言えばカーリャ様」
酔った挙げ句にナディが言い出した。
「聞いていませんでしたが、アルトバインへの御用はなんですの?」
なんだったけ。聞いたような気もするけど。ナディは自分が行ける事に気を取られてあまり気が回らなかったのだ。まあ、騎士様だからおそらくは。
「やっぱり騎馬試合の大会とか?」
「何時の時代のお話ですか」
騎士様が呆れる。ナディが言っているのは騎士同士による馬上での槍試合の事である。
一般的なのは互いに板金鎧を着込み、騎乗した騎士が決められた直線を駆け交差しざまに突き合い、叩き落とし合う。騎士譚や叙事詩、騎士物語では花形の競技だ。
「いや、今でもありますけど、ほとんど儀礼か戦闘狂の懐古的道楽ですよ」
騎士様の言う通りである。かって騎士が戦場の主役であった華やかな時代の代表的娯楽だった。武器や戦術が異なり、騎士の槍突撃が最強とも言えなくなった昨今の流行りではない。
「王都では毎年やっていますよ?」
ナディはきょとんと言う。王宮の広場で年に数回行われる大会を子供の頃からよく覗いていた。
「さすが王宮の貴族の方々は伝統と浪漫を大事になさりますね」
騎士様が苦笑している。珍しい事だが小馬鹿にしている様にも聞こえた。
「戦場ではああいう単独での槍突撃はまずありませんから私は練習もしていません」
そう言う騎士様の背はナディよりわずかに低いし、身体も逞しいとは言えない。そうそう男のふりをしている女性だったとナディも思い出す。顔も見えない重そうな板金鎧着たり、盾を持って槍を振り回すなどは確かに似合わないわ、とも。
「じゃあ何故アルトバインに?」
「道を見たかったんです」
あっさり騎士様は言った。
「王都からアルトバイン迄の街道の状況ですね。距離ももちろんですが、広さとか土木とか利用具合とか、今後の開発の有無とか可能性まで含めて」
ここまでずっと礼儀正しく喋っていたのに、急に饒舌になった。ひょっとして騎士様も酔ったのかも知れない。
「街道ですかあ?」
「ええ。つまり流通です。はっきり言えば我が領地は東のブレイブの近郊ですが、半分は丘陵地と森林でこれ以上、畑を広げにくいのです。代わりに羊を飼うには適していて、羊毛が増産出きるのですが、近くにそれを新たに売れる程の大きな街がなくて持て余しているのです。王都まで行けば市場もあるし、旅でも十日もかからないのですが、如何せん海道が悪く、馬車が使いにくい。馬の背に乗せるのは送る重量が半分以下になりますし。ですから王都の様な大きな都市やアルトバインの様に商業の盛んな都市との間に何とか輸送できる方法がないかと模索の為にあちこち旅をしているのでして」
「……」
驚いた。こんなに喋る人だったのか。それも子供のように夢中になって。ナディは酒精に染まった顔でああと口を開けてしまった。
「ですからナディ殿とのご同行は願ったりでして。さすがは王国に名高き『図書館の魔女』。その博識とそこから紡ぎだされる見解は驚愕の至りでした」
そのナディの渾名をここまで熱っぽく語ってくれる人は初めてではないかと思った。悪い気はしない。むしろ自分の知識にここまで敬意を払って喜んでくれる事にこの旅で何度目かの興奮を覚えたし、この人の為になれたのならそれもとても嬉しい。
「まさか古代アズリアからの知識からお教えいただけるとは。田舎者には勿体無いご高説。あれほど知識に高ぶった記憶はございません」
手放しの誉めようである。ナディはえへへとでれでれになる。嬉しい。こんなに認めてくれて嬉しい。最初は縁談とかでびっくりしたが、そうか知識を求めていたのか。ならばいい。結婚なんか真っ平だが、そう言う関係ならいい。アルトバインの彼女の様に親友になれそうだった。
「じゃあ、最初からわたしから学ぶのが目的で?」
そう言ったナディに悪意はない。そこは唯一世界に誇れる事だし、知識を披露する事もそれで思考する事も大好きだ。
「は……はあ、まあそうもなりますが」
騎士様の声が少し小さくなる。ナディの言った理由だけではないのかも知れない。
「嬉しいです。ずっとお友達でいて下さい。カーリャ様」
だが十分に酔っているナディは相手の顔色も思考も気づかなかった。出てきた台詞だって稀有な同性の友人に対してのものだった。
「はあ……」
ナディににこにこそう言われて騎士様は困っている。酔いが少し醒めたのかも知れない。この話題に困った様でもあった。
「な、ナディ殿はアルトバインへ何の御用で?」
だから話題を変えたのかも知れない。世間知らずのナディはそれになんの遠慮もなく答えてしまった。
「会いたい人がいるんです」
言ってからナディはきゃあと声をあげた。亡母と叔母以外の他人に言うのは初めてだ。その分、どきどきが止まらない。
「人……?」
騎士様は意表をつかれて口を小さく開けてしまった。
「ええ、同じ司書を目指している方です」
焚き火に照らされた騎士様の表情の意味にナディは気づいていない。
「一度だけ王立図書館でお会いして、そこで意気投合して。ずっと文通していました」
大変だったのだ。相手はその一度だけでアルトバインから出ては来れない。貴族の娘であるナディも勝手に旅をする自由はない。互いに文通だけは続けたが、ただの手紙でも託して送ってもらうには銀貨数枚はかかる。
こっそり相談した母がその代金を負担してくれたが、亡き後は困った。その後に嫁にきた叔母にひょんな事からばれて、何故か黙って協力してくれたからこそまだその友人とつながっていられたのだった。
「会う事はもうないと諦めておりましたが、カーリャ様によって夢がかないました」
本当なら言ってはならぬ事である。亡き母には、また叔母からもそうきつく言われている。貴族の娘としての体面だろう。だから亡き父にも、今の当主の叔父にも喋っていない。
「ありがとうございます。この御恩は決して忘れません」
だが騎士様には、この生真面目な姫騎士様にはいいと思ったのだ。この喜びを伝えていいと。心からの感謝を伝えてもいいと。
いくらナディでも、旅と酒精にここまで気持ちよく酔っていなければ、ここまで心も口も開放的にはならなかったのかも知れない。
「そう言う事でしたか……ナディ殿にそんな想い人が」
ああ、と漏れる様な声で騎士様の口が動いている。
「ではわたしはそもそもたいそう無礼で失礼な申し出をしたのですね」
「アルトバインへ連れてっていただけるとわかった時には本当に夢のようでした」
「ならばああおっしゃられたのも至極当然……」
「二度と会えないと思っていましたのに。全てカーリャ様のお陰です」
微妙に会話がずれている。二人とも気づいてはいない。
「ああ、本当にいい気持ち」
片方は夢と酒に酔っていた。もう片方は醒めて顔に陰が浮かんでいる。
「そう言う事であるのなら、不詳、カーリャ・リィフェルト。騎士の名誉にかけてもナディ殿を、そのアルトバインの想い人の所へ安全にお連れします」
だからその真面目な宣言も聞かされた方にはわかっていない。幸せな気分で笑っている。
月は出ていない。が、降るような満点の星空の下で二人だけの宴は続いたのだった。
「あ……」
翌朝、ナディは敷いた布の上で目覚めた。光が差し込んでいるのが見える。
「朝……」
朝だ。夜が明けてまだ幾ばくもたっていないだろう。身を起こす。天幕の中だ。昨日はここで寝たのか。覚えていない。
天幕の口の布を押し広げる。晩夏の早朝の涼しげな空気を頬に感じた。心地は良い。だが――
「あ、痛っ……」
頭痛を感じた。風邪? いや、違う。昨日のお酒だ。飲み過ぎたか。
「ああ……」
詳細は覚えていない。だが用意された革水筒と瓶は飲み干されている。誰がより多くかは言うまでもない。
「カーリャ……様?」
ナディは天幕の中と外を見てそう呟いた。いない。そこに揃えてあった乗馬靴を履いて外に出る。
「カーリャ様あ」
そのまま連れを探した。頭が痛むし、胸もちょっと不快なので大きな声は出ない。きょろきょろと周囲を見回す。昨日の焚き火は消されていた。すぐ近くに馬はつながれている。ナディは気づかなかったが、馬の側に二人の旅の荷物はすでに一通りまとめられていた。
「どちらかへ行かれたのかしら」
いないと不安になるものである。便利で優しい有難い連れとなれば尚更だ。しかしどこなのか見当もつかなかった。
「あぅ」
それに喉も渇いた。近くに飲み物は見当たらない。困った。やはり騎士様にお願いしないと。でもおられないし
「まあ」
とりあえず泉が近くにある。水も綺麗だった。お行儀は悪いけど、手でも掬って飲もう。いいよね。モルガンもいないんだし。
と言う訳でナディは池に歩いていった。すぐだ。こっちの岸は浅く、水も澄んでいた。生だけど喉を潤すくらいならいいだろう。そのまましゃがみ、両掌を水に入れる。
その時だった。
「あ……」
音がした。水音だ。緩い、何か水面で動いている様な音。
「カーリャ様?」
左手のちょうど日が登りかけている方向だ。ナディは飲むのを止め、そちらへ動く。あ、でも水鳥とかかも知れないとも思う。じゃあ驚かさない様にそっと。ゆっくり静かに。
「……」
音は続いている。その間に茂みがあり、ナディはそれにもぐり込む形になる。枝と繁った葉の間から覗き見た。
「カぁ……」
騎士様だった。泉の中にいた。背中を向けているが、その身体付きは間違いない。腿の辺りまで浸かっている。服は見えなかった。
「あ……」
早朝の日差しが水面に反射し、キラキラと輝いている。その中に騎士様の半裸があった。
「……」
いや、服は本当に着ていない。全裸だ。水浴びだろうか。動く。背中から横まで――ナディは声も出ない。
綺麗だった。王宮に飾られた彫刻や絵画を連想させる。その天使や妖精がそこにいるかの様だった。古代アズリア美術と比べれば華奢かも知れない。だが背中も腕も脚にもしなやかな筋肉がつき、肌は白磁よりも滑らかに清らかに見えた。
水の音が続く。
その一篇の芸術品は水を浴びている。手が煌めく水面を掬い、水が流れとなって身体を洗う。飛び散る水滴までもが日差しを反し、きらきらと宝石のようだった。
そして身体が動く。陸に戻ろうとするのだろうか。あの綺麗な顔と胸がナディの潜んでいる方を向いた。
「……」
胸が見えた。ここもしなやかな筋肉の線。ふくらみはない。ナディは思わず全てを見る。
「あ……」
男の人でした。
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