平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす

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【書籍化記念】番外編

愛しい繋がり③

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 ――孫ができたら、嬉しい?

 母にそんなメッセージを送ると、一分もしないうちに返信が返ってきた。

『私とお父さん、おじいちゃんとおばあちゃんになるのね』

 そんな簡単な文面からも、母の明るく鬱屈さを寄せ付けない声が聞こえてくるようだった。
 そうか。大切な両親が、おばあちゃんとおじいちゃんになるのか。
 そう思うと、心臓がじわりと広がるような不思議な感覚に包まれる。
『子供を迎えるつもりなの?』と再度母からメッセージが届く。

 ――きっと楽しいとも思うけど、もちろん俺には想像もできない大変なことはたくさんあると思う。半人前の俺が、親になれるのかな。

 不安な気持ちを包み隠さずに送る。すると、今度はメッセージではなく電話がかかってきた。

「も、もしもし。どうしたの」
『翔、出張お疲れ様。今日帰ってくるんでしょ』
「うん、これから少し二人と観光してから、飛行機で帰るよ」
『そう。気をつけて帰ってらっしゃいね』
「ありがとう……で、それを言うために電話くれたの?」
『うーん……なんか、翔が思いつめた顔してるのなんとなく想像がついて、かけちゃった』
 からりと笑う母の言葉に自然と頬が緩む。母にはなんでもお見通しだ。
『子供の頃、翔は、私とお父さんが完璧な人間に見えた?』
「えっ?」
『そんなわけないわよね。父さんしょっちゅう仕入れの数間違ったり、よく寝坊もしてたもの。私だって、過去に固執して、神楽に来るまで翔に大変な思いをさせてた』

 自分の一番身近にいた大人である二人は、確かに、おっちょこちょいだったし、子供のお手本になるような品行方正な行いばかりをしていたかと問われると、即答はできない。

『親だって人間よ。完璧な人間なんていない。親が子供を育てているようで、子供に救われることも教えられることだっていっぱいあるのよ』

 母の諭すような声が、胸の中で絡まった感情をゆっくりと解いていくようだった。

『でも、焦ることじゃないわ。あななたちみんなまだまだ若いんだから。やりたいことだって、いっぱいあるでしょう。二人とよーく話し合って、決めたらいいじゃない。これからもずっと一緒に生きるんだし』
「母さん……うん、そうだね。ありがとう」

 感謝を告げると、じゃあ、楽しんでね。と母は通話を切った。

「翔、お待たせ、行こうか」

 少しして、蓮と蘭が隣室からやってくる。

「悪いな、急な打ち合わせで待たせて」
「ううん。大丈夫」

 腰掛けていたベットから立ち上がって、二人のそばへ歩み寄った。

「さっき、誰かと電話してた?」
「うん。母さんと」
「ああ、お義母さんにお土産、選ばないとね」

 そうだね、と頷きながら、母がくれた言葉を頭の中でゆっくりと反芻した。
 家族を知らない少年に告げた言葉に嘘はない。ありのままの自分で、家族になればいいと信じている。
 だが、つい最近まで、愛を注がれ、守られ、育てられてきた自分でも、家族や親がどんなものか、その複雑性から言葉で具体的に表現するのは少し難しいと感じる。
 確かなことは、その家族と親のおかげで、一生手放したくないと思う幸せを見つけたということだ。
 ポケットにスマートフォンを仕舞いながら、二人とともにホテルの部屋の扉へ向かった。

「翔」

 突然蘭に名前を呼ばれ立ち止まると、柔らかく温かい体温に全身が包まれた。強く身体を抱きしめられ、熱を持った唇が覆いかぶさってきた。
 驚いて一瞬肩をびくりと震わせるも、大好きな温もりを自分からも捕まえに背中に腕を伸ばした。やがて唇が離れて、満足そうに目を細める蘭の表情が視界に入る。

「びっくりした」
「外、出たらできないからな」

 昨日だって散々、触れ合って、ひとつになったのに。

「じゃあもう少しだけ、休んでからいこっか?」

 おどけたように蓮が笑って、俺の頬に口付けた。同時に、彼の長い指が腹部を滑らかにたどって、むずっとする感覚に身体を震わせた。大好きな二人に迫られると簡単に落ちてしまう自分の習性をよく知っているからこそ、慌てて肩を押しやった。

「も、もう時間、なくなっちゃうから、行こう」
「昨日のだけじゃ三週間分、足りなかったんだけどなぁ」

 わざとらしく口を尖らせる蓮に便乗するように、蘭までもがたしかに、と意地悪く笑う。

「家に帰ったら、たくさん時間あるから、ほら」

 わずかに熱を持った顔を逸らすように、ドアへと早足で向かう。するとすぐさま後ろから「冗談だよ、ごめんね」と笑う柔らかな声が聞こえ、二人が俺の掌を捕まえる。
 家族という大切で複雑な繋がりを紡ぐことに向き合うのは少し怖いけれど。それでも、幸せを繋げていきたいと言ってくれた愛する二人の言葉と思いに、少しずつでも向き合っていきたい。そう思いながら、蓮と蘭、二人の手を強く握った。

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