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19.果たせなかった約束を※

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少し遅れて、風呂から上がって部屋に向かうと、圭人がベットに座っているのが見えた。

「髪、濡れてんじゃん」

背後から近寄り、少し湿っているその髪に触れた。
ピクリ、と肩を揺らしてから、圭人は俺の手を優しく絡め取った。

「嫌だよ」
「は、何が」
「塁が、合コン行くの」
「ああ、さっきの話」

少しだけ落ち着きを取り戻したかのようにも見えるが、その掌は火傷してしまいそうなくらいに熱を持っていた。

「俺以外に流されるのも、嫌だ」
「ちょ……っ」

突如、ぐい、と腰を抱かれて圭人の膝の上に倒れこむ。
意図せず、お姫様抱っこのような態勢になり、目の前には綺麗に整った顔が悲痛な表情を浮かべていた。

「まだ、流されてると思ってんのかよ」

いつも気だるげで飄々としている圭人は、本当は繊細で弱いんだって、きっと出会った頃からわかってたはずなのに。

圭人の外見ばかり見て、利用して、勝手に期待して、理想と違うと離れていく。
そんな人間関係に振り回されていくたびに、せめて俺と一緒にいるときは笑って欲しいと願った。

「やっぱ、俺の隣にいるのはお前が良いよ、圭人」

圭人が俺に初めての友情をくれたから、俺も圭人にとって一番の親友で居続けようって、思っていた。だけど。

「恋人になったら、ずっとそばにいてくれんの」

今はどんな形であれ、圭人と、一緒にいたい。

「ずるい……」

圭人は、驚いた表情をしてから、今度は声を震わせながらすがるように俺の身体を抱きしめた。

「俺から、言わせてよ」
「圭人はこれまで散々言ってきたじゃねーか」
「……っ塁、好き」

ハァ、と熱い吐息を漏らしながら、少々乱暴に俺の身体をベットの上に放り投げる。
俺を上から見下ろす圭人の表情からは、余裕が感じられない。ただ、俺を貪り食べてしまいそうな強い視線がまっすぐに刺さる。

「俺だけの塁になって」

こんなにかっこよくて、ひっきりなしにモテるような圭人が、俺だけを見てる。
圭人が、俺だけの圭人になる。

ああ、なんだ、ちゃんと嬉しいじゃん。
自然に心の中で思いが形になって、コクン、と頷いた。

次の瞬間には、噛みつくようなキスをされていた。
性急に、荒々しく、舌が割り入って、ぐちゅ、ちゅく、と口内を掻き回す。

「……んッ……ん、ぅ」

圭人の頬にそっと触れた俺の掌もまた、痛いくらいに熱を帯びていた。

いつもよりも長い間、キスをしていたと思う。
呼吸を乱しながらも必死に鼻で息を吸って、舌を絡めた。耳の後ろから頭にかけてびりびりと痺れるようなこの感覚が、案外好きだ。

「っひ、あ……ッ」

ぷは、とようやく唇が離れて行ったかと思うと、胸に弱い電流が走ったかのような刺激が襲ってきて、バスローブの中に掌が侵入しているのに気づく。
敏感な胸の突起の周りをなぞるようにして、親指で器用に弄っていた。

「塁、気持ちいい?」
「っん……多分……」
「多分って、なに」
「仕方ない、だろ……っそんなとこ、お前以外に触られたことないんだ、から……」

くにくに、と片方の手では先端を愛撫しながら、もう片方は舌で掬うようにして舐めていく。
その度に、腰のあたりがなぜかひとりでにびくびくと動いた。

「じゃあ、塁の身体がこんなにエロいのは、俺しか知らないんだ」

扇情的な表情で、伏し目がちに呟く圭人の表情に、心臓の鼓動がどくどくと速さを増していく。
たらりと流れる汗の一粒さえも、その色気を演出する小道具に見える。お前の方が何倍もエロいだろ。

すっかり見入っていると、再度突起を両手でぎゅう、と強く摘まんだ。

「~~ッんン……!」
「これからも、誰にも見せないでよ、ね」

少し痛いのに、身体がのけぞるくらい反応する自分に困惑した。俺にも圭人の変態が移ったのだろうか。

「ずいぶん……っ手慣れてる、じゃん……っ」
「いやだなぁ。童貞だよ、俺は」

乱されてすっかり緩くなったバスローブの紐を、しゅる、と全て解かれ、俺は再び圭人の前に生まれたままの姿を晒した。

「パンツ履いてないじゃん、えっち」とまじまじと俺の全身に視線を這わせる圭人に、「びしょ濡れなんだから履けるわけないだろ」と返す。
圭人は獲物を狙うようにギラギラとその眼を光らせ「俺もだけどね」と自身の衣服も脱ぎ捨てた。

程よく筋肉がついて、引き締まった身体は、相変わらず綺麗だけど、その中心には大きくそそり立ち、どくどく脈を打つ雄々しいモノがあった。
こっちはキレイというよりも、ゴツいという感じ。

「塁の身体は綺麗だね」
「っん、ぁ……」

そっと、圭人に比べたら可愛らしくも見える俺のモノに掌が触れただけで、快感が電流のように全身を駆け抜けていく。

「会えない間、ずっと、塁にキスしたい、触れたい、抱きたいってそればっか考えてた」

すり、と圭人のモノが腿に擦り付けられる。
我慢できない、と獣のような瞳が訴えかけた。

「っ今日も、練習、すんの……?」
「うん、ダメ……?」

人間は、一度手に入れたと思ったら、変化することを嫌う生き物なのだとつくづく思う。
今だって、かなりビビってる。だけど、それでも、圭人となら先に進んでみたいってその想いの方が強くなってる。

それはきっと、シンプルに、こいつのことが大切だから。

「もう、練習じゃなくて、良い」

遅くなったけど、果たされることはないだろうと思っていた約束を、果たしたいと思った。

「もらってやるよ、圭人の童貞」

目を見開いて、呆気にとられたかと思うと、次の瞬間には乱暴に俺の身体を抱きしめていた。

「……っ本当に、いいの」
「約束しただろ」
「でも塁、あんなに嫌がってたのに」
「そりゃ、怖いけど」

圭人への想いの輪郭を微かに掴み始めたあたりだろうか。
圭人が俺に求めている行為の全容が気になって、好奇心で調べてしまったんだ。
だから、どんなことをするのかも、受け入れるために必要なことも、理解していた。それに、

「少しは準備した、から……多分、できると思う」
「~~ッ!」

俺の名を呼びながら、圭人は勢いに任せて唇を重ねた。

「塁……っ」
「っん、ん……ッ」

風呂で一人で解してみた時は、違和感しかなかった。
けど、ここを使えば圭人と繋がれるのなら、気持ち良くなくても、痛くても、いいのかもって思ってしまった。

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