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16.このままどこへ行くのだろう

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もう一人のバイト仲間である八木が合流してから、お酒も入っていたことからそれなりに場は盛り上がり、いつの間にか席の時間が終わりに近づいていた。

「塁、飲みすぎた?大丈夫?」
「あ、いや……全然飲んでないから大丈夫」
「なんか元気ないけど、疲れてんの?」

遅れて来た同僚の八木は心配そうに俺を見やるが、俺は平気だ。

圭人の姿を目撃したのは約2時間前。
その瞬間は動揺して固まってしまったが、その後はいつも通りに振舞っていたつもり。

だって、よく考えれば圭人が元カノとヨリを戻してたからって、別に俺が驚く必要も道理もないわけで。

「じゃあ、二次会行く人ー!」
「えぇ~田中君が奢ってくれるならいいけどぉ」
「おー、言ったな!じゃあ絶対連れてくぞ」

程よくアルコールの回った様子の田中と女性陣はきゃっきゃと盛り上がっている。
だが、田中には悪いけれど、俺は二次会まで笑顔で振る舞える自信がなかった。

上着を羽織って帰り支度をしている時、突如八木が思い出したように言葉を発した。

「あっ、そういやさ、ここ来る途中にイケメンに声かけられたわ」
「え、なんで。ナンパされたってこと?」
「違うって。ほら、あの、うちの店にも何回か来た……そう、塁の友達だよ」
「え……もしかして、圭人のこと言ってる?」

今頃お楽しみ中であろうその男の名前を出すと、八木は「そうそう」と大きく頷いた。

「俺レジしてる時一回話しかけられたことあったから覚えてたけど……あっちは制服でもない俺にすぐ気付いたからすげーよな」
「それで、なんて?」
「塁って今日バイト出勤してるの?って聞かれたから、」
「から?」
「これから一緒に合コンだって……この店も教えちゃったけど、あれ、なんかまずかった?」

表情が硬い俺を見て、八木は少し焦ったように言う。
すかさず「いや全然、大丈夫」と返すも、俺の頭の中は圭人のことでいっぱいになっていた。

美人とホテル街に行く途中で、何油売ってんだよ。
男友達の所在なんて、聞いてる場合じゃないだろ、と。

そう思うのに、なんで、あいつの心の中に少しでも俺がいることに安心してしまうんだろう。
自分から避けて、逃げておいて。
だからあいつは俺なんかやめて、愛想つかして、やっぱり女の子がいいって気がついたんだろ。

今更圭人のことで悩んでも、なんにもならないのに。全部無駄なのに。

「そろそろ席時間だからとりあえず外でんぞー」

黙って思考を巡らせていると、田中が俺たちを呼んだ。
すでに店外へと向かっていた女性たちの後を追うように、俺も続く。

「ごちそうさまでした」と店員さんに頭を下げていると、女性たちが少しばかり興奮していることに気がついた。
みな一様に、一点に熱い視線を送っている。

何事かと、彼女たちの視線の先に焦点を合わせた。

「な、……」

彼女たちが釘付けになっていた正体は、散々俺の心を掻き乱してくれた人物だった。
会いたくないのに、会うのが怖かったはずなのに、心の奥底ではずっと、この男が隣にいない所為で物足りなさを感じていた。

その男が、俺の目の前に立っていた。

「ただいま」

目を細め、俺だけに笑いかける。

「圭人、なんで……」
「ここに浮気者がいるって、教えてもらったからさ」
「そ、そうじゃなくて、お前さっきまであの人と……」

ホテルに行ったんじゃないのかよ、と女性がいる前で口を滑らせてしまいそうになった。
俺が口籠った一瞬の間を逃さず、合コンの女子たちが会話に割って入る。

「ねね、塁くん、もしかしてこの人がさっき言ってた人?」
「えっ?ああ、うん……」
「えー!言ってた通りかっこいいね。なんだぁ、やっぱり遅れて来るんじゃん」
「あ、いや圭人は……」

もはや俺の話など耳に入っていない様子の女子たちは、あっという間に圭人の周りを囲ってしまった。

「圭人くんも二次会行くよね?田中君の奢りだって~」
「私、カラオケ行きたぁい。圭人君かっこいいから歌も上手そうだよね」
「スーツ似合ってるぅ!年齢変わんないのにもう自立してるって尊敬するなぁ」
「ねぇねぇ、圭人君はどんな女の子が好きなの?」

アルコールもの助けもあってか、彼女たちの積極的な圭人へのアプローチ合戦が始まった。
もはや既存メンバーの男子たちなど、眼中にも無さそうだ。

女子たちの変わり様に驚く八木といじける田中に、いたたまれなくて「ごめん」と頭を下げた、その時。

「俺はね」

答える圭人に、うんうん、と食い入るように女性陣は待ち構える。
だがしかし、親友の自分ですら初めて耳にする圭人の好きなタイプ、とやらは予想外のものだった。

「俺の顔が醜くなっても、利用価値が無くなったとしても、変わらず隣にいてくれる人が良いな」

質問を投げかけた彼女達にではなく、俺をまっすぐに見つめて、圭人は答えた。
予期しない回答が返って来たからか、女性たちはきょとん、としてよく喋るその口を閉じてしまった。

「あ、ごめん。塁のこと迎えに来ただけだから、もう行くね」

圭人は、田中と八木にだけ聞こえるように耳元で、「今度は俺の知り合いの子たち呼ぶから、ごめんね」と囁く。
その一言で、不機嫌だった田中は見るからにゴキゲンになり、女子達は最後までぽかんとしていた。

散々圭人から距離を置いていた俺はというと、皆に挨拶を済ませた後、拒否することも逃げることもなく、ただ黙ってその隣を歩いた。

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