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15.お前がいなくても
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『帰ってきたよ』
『今日はバイト?』
『塁に会いたい』
親友からの電話も、メッセージも見て見ぬ振りをして、気がつけば過ぎて行った毎日。
大学での授業が終わり、ふとスマホに目を落とすと、無視されているのにも関わらず健気に何度も送信されたメッセージの通知が目に入った。
本来ならば、出張から帰ってきた友人を労って、一杯飲みにでも行くか。お土産忘れんなよ。とでも提案したいところなのだが。
今の俺には、その勇気がなかった。
結局、自分は何がしたいのか、親友である圭人とどうなりたいのかが、いくら考えても明確な答えに行き着かなかったからだ。
こんな中途半端で、揺らぎ続ける心持ちで顔を合わせて、普段通り接する自信がない。
(……そもそも、普段通りって、なんだったっけ)
高校時代からの付き合いの親友と奇妙な関係になってからの印象が強すぎて、今までどんな顔して、どんな会話をして、どんな風に友達をやっていたかが、鮮明には思い出せないでいる。
圭人と離れるこの1週間で、自分の気持ちにも整理がつけられると思っていたのに。
逆にかき乱されてどうすんだ。
圭人からもらったメッセージに返信することなく、再度スマホをポケットにしまった直後だった。
今度は大きく振動をし始めた。
見ると、田中からの電話のようだ。
「もしもし」
『おう、るいっち。今日こそリベンジな』
「リベンジ?」
『合コンだよ!またやることになったの!バイトないだろ?来いって~」
「ああ、そういうこと」
その通り、今日はこの後の予定はない。
だが正直、今は誰かと楽しく会話を楽しめる自信はなかった。
『好きではいさせてよ』
『恋人は作らないでほしい』
『塁、浮気しないでね』
ああ、また。
なんで、今はもう隣にいないあいつの言葉ばかり思い出してしまうのだろう。
俺たちは、互いを縛り合う、そんな関係じゃなかったはずなのに。
「……っああ、もう……」
『ん?なんて?』
「いや……なんでもない。どこ行けばいい?」
『いえーい!そうこなくっちゃ』
脳内にしつこく居座る存在を振り払うようにして、俺は合コンとやらの会場にまっすぐ向かった。
「カンパーイ!」
週末で賑わう繁華街のおしゃれなバーで、こじんまりとした合コンが始まった。
勢いで参加することになったものの、こういう会には初参加の俺は内心緊張していた。
「ごめんね、一人さっきバイト終わったから、急いで向かってきてるからさ。まずは5人で楽しく飲もうよ」
俺を合コンに誘った張本人の田中は、慣れた様子でこの場を取り仕切っていた。
相手側の女子3名は、それぞれのタイプは違うが皆可愛らしい子だ。
「みんなそんなに可愛いのに本当に彼氏いないの?」
「う~ん、あんまり出会いが無くって」
「同じ大学の男とかは?」
「あんまりぱっとしないっていうかぁ。やっぱ大人な感じの男の人がいいなあ」
田中と比べて、俺は会話にどう切り込んでいいのかわからず、最近飲めるようになったばかりのお酒を、ペースを抑えてちびちびと飲んでいた。
「うぉーい、るい!せっかくこんな可愛い子たちと飲めるんだからお前も話しかけろって」
「っいて」
すでに少しアルコールが入っているからか、田中はいつもより少し高めのテンションで俺の背中をバシッ!と叩く。
話すって言っても、バイトの接客以外で女の人とまともに会話するのは久しぶりで、気の利いた質問がすぐには浮かばなかった。
「えっと……大人な感じって、具体的にはどんな人がいいの?」
「そうだな~。余裕があって、経済的にもしっかりしてて、優しくてぇ……あと、そこまで重要じゃないけどかっこよかったら嬉しいかなぁ」
おおよそ、同年代の大学生の俺たちには手の届かないような理想に、バレないように苦笑いを零した。
彼女たちはきっと、自分の若さや容姿の良さと言う武器の価値を知っている。
だからこそ自身の強みを最大に活かして、手に入れたい男性像は高みを目指すんだろう。理に適っている、とは思う。
「塁くんは、どんな人が好み?」
女の子の一人が、逆質問を投げかけて来た。
本当に俺のタイプに興味があるわけではなく、この場を円滑に繋ぐためのものだろうけれど。
「あー……そうだな。一緒にいて楽しい人、かな」
「塁君も具体的じゃないじゃん~」
「はは、そうだね。ごめん」
どんな人が好みか、なんて今まで深く考えたこともなかった。
今まで付き合った彼女だって、タイプは様々だったし。
ただ、隣にいるのが心地よくて、一緒にいると、気がつけば笑ってて、だから好きになった。
それだけだ。だけどそれだけでよかった。
顔や職業やスペックとか、まったく気にしないと言ったら嘘になるけど、少なくとも一番重要というわけではない。
「圭人が、近いのかな……」
気がつけば、ぽつり、自分でさえ気づかない心の声が唇から滑り落ちていた。
すかさず女の子が「何?けいと、って誰?」と突っ込む。
無意識に、自分で距離を置いているはずの人物の名前を口にしたことに、誰よりも自分自身が驚き、動揺した。
「っあ、いや……その、さっき言ってた大人な感じの人って、俺の友達にいるなぁ、と思って」
「えっ、本当?それってこの後遅れてくる人?」
「ごめん、そうじゃないんだけど……」
「なんだぁ、違うの」
合コン中に、なに他の男のプレゼンをしてるんだと言わんばかりの視線が隣から突き刺さる。
ぼーっと考え事をしていた俺が完全に悪い。
田中に「ごめん」と小声で謝罪をした。
「ちょっと、トイレ……」
この雰囲気をごまかすために、俺はそそくさと自席から立ち上がる。
その時、店の窓の外を歩く人影が目に入った。
何気なく視線を送ると、次の瞬間、全身の筋肉がこわばり、しばらく、呼吸を忘れていた。
「……!」
俺の目に映ったのが、女性と二人、談笑しながら一本奥のホテル街へと消えていく、圭人の姿だったからだ。
『今日はバイト?』
『塁に会いたい』
親友からの電話も、メッセージも見て見ぬ振りをして、気がつけば過ぎて行った毎日。
大学での授業が終わり、ふとスマホに目を落とすと、無視されているのにも関わらず健気に何度も送信されたメッセージの通知が目に入った。
本来ならば、出張から帰ってきた友人を労って、一杯飲みにでも行くか。お土産忘れんなよ。とでも提案したいところなのだが。
今の俺には、その勇気がなかった。
結局、自分は何がしたいのか、親友である圭人とどうなりたいのかが、いくら考えても明確な答えに行き着かなかったからだ。
こんな中途半端で、揺らぎ続ける心持ちで顔を合わせて、普段通り接する自信がない。
(……そもそも、普段通りって、なんだったっけ)
高校時代からの付き合いの親友と奇妙な関係になってからの印象が強すぎて、今までどんな顔して、どんな会話をして、どんな風に友達をやっていたかが、鮮明には思い出せないでいる。
圭人と離れるこの1週間で、自分の気持ちにも整理がつけられると思っていたのに。
逆にかき乱されてどうすんだ。
圭人からもらったメッセージに返信することなく、再度スマホをポケットにしまった直後だった。
今度は大きく振動をし始めた。
見ると、田中からの電話のようだ。
「もしもし」
『おう、るいっち。今日こそリベンジな』
「リベンジ?」
『合コンだよ!またやることになったの!バイトないだろ?来いって~」
「ああ、そういうこと」
その通り、今日はこの後の予定はない。
だが正直、今は誰かと楽しく会話を楽しめる自信はなかった。
『好きではいさせてよ』
『恋人は作らないでほしい』
『塁、浮気しないでね』
ああ、また。
なんで、今はもう隣にいないあいつの言葉ばかり思い出してしまうのだろう。
俺たちは、互いを縛り合う、そんな関係じゃなかったはずなのに。
「……っああ、もう……」
『ん?なんて?』
「いや……なんでもない。どこ行けばいい?」
『いえーい!そうこなくっちゃ』
脳内にしつこく居座る存在を振り払うようにして、俺は合コンとやらの会場にまっすぐ向かった。
「カンパーイ!」
週末で賑わう繁華街のおしゃれなバーで、こじんまりとした合コンが始まった。
勢いで参加することになったものの、こういう会には初参加の俺は内心緊張していた。
「ごめんね、一人さっきバイト終わったから、急いで向かってきてるからさ。まずは5人で楽しく飲もうよ」
俺を合コンに誘った張本人の田中は、慣れた様子でこの場を取り仕切っていた。
相手側の女子3名は、それぞれのタイプは違うが皆可愛らしい子だ。
「みんなそんなに可愛いのに本当に彼氏いないの?」
「う~ん、あんまり出会いが無くって」
「同じ大学の男とかは?」
「あんまりぱっとしないっていうかぁ。やっぱ大人な感じの男の人がいいなあ」
田中と比べて、俺は会話にどう切り込んでいいのかわからず、最近飲めるようになったばかりのお酒を、ペースを抑えてちびちびと飲んでいた。
「うぉーい、るい!せっかくこんな可愛い子たちと飲めるんだからお前も話しかけろって」
「っいて」
すでに少しアルコールが入っているからか、田中はいつもより少し高めのテンションで俺の背中をバシッ!と叩く。
話すって言っても、バイトの接客以外で女の人とまともに会話するのは久しぶりで、気の利いた質問がすぐには浮かばなかった。
「えっと……大人な感じって、具体的にはどんな人がいいの?」
「そうだな~。余裕があって、経済的にもしっかりしてて、優しくてぇ……あと、そこまで重要じゃないけどかっこよかったら嬉しいかなぁ」
おおよそ、同年代の大学生の俺たちには手の届かないような理想に、バレないように苦笑いを零した。
彼女たちはきっと、自分の若さや容姿の良さと言う武器の価値を知っている。
だからこそ自身の強みを最大に活かして、手に入れたい男性像は高みを目指すんだろう。理に適っている、とは思う。
「塁くんは、どんな人が好み?」
女の子の一人が、逆質問を投げかけて来た。
本当に俺のタイプに興味があるわけではなく、この場を円滑に繋ぐためのものだろうけれど。
「あー……そうだな。一緒にいて楽しい人、かな」
「塁君も具体的じゃないじゃん~」
「はは、そうだね。ごめん」
どんな人が好みか、なんて今まで深く考えたこともなかった。
今まで付き合った彼女だって、タイプは様々だったし。
ただ、隣にいるのが心地よくて、一緒にいると、気がつけば笑ってて、だから好きになった。
それだけだ。だけどそれだけでよかった。
顔や職業やスペックとか、まったく気にしないと言ったら嘘になるけど、少なくとも一番重要というわけではない。
「圭人が、近いのかな……」
気がつけば、ぽつり、自分でさえ気づかない心の声が唇から滑り落ちていた。
すかさず女の子が「何?けいと、って誰?」と突っ込む。
無意識に、自分で距離を置いているはずの人物の名前を口にしたことに、誰よりも自分自身が驚き、動揺した。
「っあ、いや……その、さっき言ってた大人な感じの人って、俺の友達にいるなぁ、と思って」
「えっ、本当?それってこの後遅れてくる人?」
「ごめん、そうじゃないんだけど……」
「なんだぁ、違うの」
合コン中に、なに他の男のプレゼンをしてるんだと言わんばかりの視線が隣から突き刺さる。
ぼーっと考え事をしていた俺が完全に悪い。
田中に「ごめん」と小声で謝罪をした。
「ちょっと、トイレ……」
この雰囲気をごまかすために、俺はそそくさと自席から立ち上がる。
その時、店の窓の外を歩く人影が目に入った。
何気なく視線を送ると、次の瞬間、全身の筋肉がこわばり、しばらく、呼吸を忘れていた。
「……!」
俺の目に映ったのが、女性と二人、談笑しながら一本奥のホテル街へと消えていく、圭人の姿だったからだ。
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