11 / 21
11.親友の本音
しおりを挟む「塁、ただいま」
バイトと大学を終えた後、俺はまっすぐ圭人の家へ向かった。
正直授業の内容なんて一ミリも覚えていない。
だが、俺は失意と混乱の中でもある1つの明確な目的を掲げてこの場所にやってきていた。
たった1人で、リビングで嘘つきの帰りを待ち続けた。
「塁さんどうしたの、上着も脱がないで」
右手に、鍵を握りしめて。
「これ、返す」
スーツのジャケットを脱いでいる圭人に、その手を差し出した。
手のひらにはもちろん、圭人から渡された合鍵。
思えばこれが、俺たちの関係が大きく変化してしまう発端だったのかもしれない。
「は……なんで?寮まだ直ってないっしょ」
「バイト先の友達に、泊めてもらう」
「……嫌だ」
圭人は無表情のまま、俺の腕を掴む。
冷たく、鋭い視線をびりびりと感じる。怒っているのだと、すぐに理解した。
「どーせ、その友達にも流されるんだろ」
「やめろ、離せ……っ」
そのまま身体ごと壁に押し付けられ、両手首を掴まれた。
反動で、手にしていた合鍵が虚しく床を転がっていく。
「行かせないから、絶対に」
「っいやだ、やめ……っんン……!」
俺の言葉を、圭人は乱暴なキスで塞いだ。
なんでだよ、どうしてそんなに俺に構うんだよ。
お前、俺を騙してたくせに。俺にこんなことしなくたって、本当はもうとっくに童貞なんかなじゃなかったくせに。
どうしようもなくムカついて、頭の中かき乱されてんのは、こっちなんだよ。
必死に顔を逸らして、全力で体を押し返しても、関係なく咥内をぐちゃぐちゃに犯される。
「ンん……ッん、ん~~ッ!」
痛くて、悔しくて、この行き場のない感情に、たまらなく胸が締め付けられる。
そうして、抑えていた本音が、口から溢れ出た。
「っさ、わんな……」
「……!」
「嘘、つき……っ!」
一瞬、力の緩んだ圭人の体を突き飛ばす。
その表情は少し硬く、驚いたように目を開いていた。
「やっぱ童貞なんて嘘じゃねーか」
キスしたり、触ったり、冗談にしては度が過ぎているのに。
拒めない自分にも、何を考えているかわからない圭人の心の内にも触れないように、俺は必死で見て見ぬふりをしていたのかもしれない。
「俺のこと揶揄って、困らせて、楽しいのかよ……」
言葉を吐き出しながら、目頭が熱くなり視界が歪んでいく自分に気がつき、ひどく困惑した。
「お前だけは、俺と純粋に友達でいてくれると思ってたのに」
なんで、こんなに苦しいんだよ。心臓がじくじく痛むんだよ。
頭ん中、ごちゃごちゃだ。
別にいいだろ、男友達に彼女がいようが、経験済みだろうが。
圭人は1つ息を吐くと、いつになく真剣な表情でまっすぐに俺を見る。
「嘘じゃないよ」
「っ良い加減にしろよ!お前の同僚が店で話してんの、はっきり聞いたんだからな」
「だって、好きな子とは、まだしてないから」
「はぁ?何わけわかんねーこと……!そんな話、今関係ないだろ」
「あるよ」
俺に拒絶されて生まれた距離を、一歩、近づいて埋める圭人。
「こっち来んな」と言葉で壁を作っても、圭人は気にも留めない。
「なんで、気づかないかな。塁はさ、昔からずーっと鈍いよね」
再び、肩を掴まれた。今度は乱暴ではなく、包むように優しく。
「ごめん、俺、塁のこと友達だと思ってない」
「っな……」
大事な存在から、その関係性を否定するような言葉を言い放たれ、まるで心臓を一突きされたような感覚に陥る。
痛くて、全身から汗がどっと溢れ出て、息が、できない。
そしてまた、困ったような、嘆くような悲痛な表情をして見せた。
「だって、好きだから」
まただ。この顔。
「ずっと前から、好きだよ。塁のこと」
ああ、思い出した。
いつも無表情か、控えめに優しく笑う圭人しか見てこなかった。
そんな親友が時折見せるこの悩ましげな表情を初めて目にしたのは、あのときだと。
『圭人、これ間違って入ってた』
「好き」と一言だけ書かれた手紙を、鈍くて、何もわかっていない俺が突き返したあのとき。
圭人の気持ち気づこうともしないで、苦しめてたのは、自分だった?
「塁、なんで泣いてるの」
「……っ」
「俺と同じ気持ちだから、じゃないの?」
圭人が指で雫を拭い、初めて自分が涙を流したのだと気がついた。
悲しい、苦しい、申し訳ない、いろんな感情が頭の中で交差して、うまく言葉にできない。
「ねぇ、なんも言わないなら俺、勘違いしちゃうけど」
だけどその中に、嬉しいと言う感情が混ざり合っていることに、俺は気がついてしまった。
圭人とは、これから先もずっと友達でいると思ってた。
そうありたいと願っていた。
だからこんな言葉、こんな感情も、聞きたくなかったはずなのに、それなのに。
「友達じゃなくて、恋人になってよ、塁」
切実な願いとともに寄せられた唇を、拒むことが出来なかった。
25
お気に入りに追加
961
あなたにおすすめの小説
王子様の愛が重たくて頭が痛い。
しろみ
BL
「家族が穏やかに暮らせて、平穏な日常が送れるのなら何でもいい」
前世の記憶が断片的に残ってる遼には“王子様”のような幼馴染がいる。花のような美少年である幼馴染は遼にとって悩みの種だった。幼馴染にべったりされ過ぎて恋人ができても長続きしないのだ。次こそは!と意気込んだ日のことだったーー
距離感がバグってる男の子たちのお話。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
酔った俺は、美味しく頂かれてました
雪紫
BL
片思いの相手に、酔ったフリして色々聞き出す筈が、何故かキスされて……?
両片思い(?)の男子大学生達の夜。
2話完結の短編です。
長いので2話にわけました。
他サイトにも掲載しています。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果
はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる